Re:OOO -いつかの明日を求めて- 作:オタクヤミー
今更ながら覚悟を決めて復活のコアメダルの視聴という戦いに挑んだ哀れな視聴者です。
きっと多くの人が求めていたであろういつかの明日が……欲しかったんです……ユルシテ……。
────走る。走る。走る。
追手は。このままでは自分の体を保つのだって。まずは距離を稼ぐことが最優先。これだけは絶対に。
いくつもの考えが浮かんでは消えていく。否、その思考に意識を割くだけの余裕がないことを思い出しては消すと言った方が正しいか。
息が荒い。肺が苦しい。休みなく走り続けた代償が
本来ならこんなに脆弱な肉体ではなかったはずなのに、ただそういう風に身を模しただけでもここまで身体機能に影響が出るのか。それとも、自分が不完全だからこそ、こうして機能が低下しているのか。まるで■■のような不便な体に舌打ちをしたくなり、けれどそうしなければすぐに追手に見つかってしまうこともわかっているからただ走る。
────どこへ。
わからない。何も。何もかも。
わからないけれど──
左手を強く握り込めば、その力の分だけきつく食い込む感触。
そこにあることを確かめるように開いた掌には────一枚の、タカのような模様の真っ赤なメダルがあった。
鷹野アンク、という男がいる。
年齢21歳。職業、フリーター……もとい旅人。
惰性で入学したそこそこ高い偏差値の大学をやめたかと思えばぶらりと旅に出て、時折日本に帰ってくる。そしてまたしばらくしたら今度は別の地へと旅立つ。
当てがあるわけではない。したいことがあるわけでもない。旅をすると言っても見知らぬ、あるいは見知った土地を歩いて回るだけの、最早観光とすら言えないただの作業だ。結局のところ、この旅に出るという行為も惰性でしかないのだろう。
必要なのは、旅をするのに必要な資金と、スマートフォンと、その日食べるアイスのみ。
いささか我欲というものが欠けていると言ってもいいかもしれない彼には──何を隠そう、いわゆる前世の記憶があった。
かつてのアンクは人間ではなく、グリードと呼ばれる欲望の塊……コアメダルとセルメダルで構成された擬似生命体だった。
そんな、誰かが聞けば荒唐無稽としか言わないであろうかつての生を、アンクは確かに覚えている。
とある王に仕え、裏切られ、約800年の封印の後に右腕だけとなった状態で復活したこと。復活の場に居合わせた火野映司という男に王の力・オーズドライバーを与えたこと。
映司との取引。ヤミーや他のグリードとの闘い。比奈、後藤、知世子、鴻上、里中、伊達、多くの人間との出会い。もう一人のアンクというグリードとの遭遇。映司の紫のメダルによる暴走。もう一人の自分の消滅、割れて二度と戻らなくなった自分のコアメダル。
完全体となるために映司の元を去り、紫のコアメダルを身に宿したことでグリードになりかけた映司と戦ったこともあった。結局映司と比奈の隣に戻り、世界の破滅を目論んだ真木を倒して。……限界が来た自分の意思が宿るコアメダルが、真っ二つに割れた時の感覚も、鮮明に。
そうしてアンクは一度死んだ。一つの命として生ききって。
そこで終われていたら、きっと満たされていた。幸福だった。
だが現実は違う。
その10年後のことを思い出すだけで、今でも腸が煮えくり返りそうになる。
急に復活したかと思えば、世界は王……先代のオーズによって滅びようとしていた。そして自分を復活させたはずの映司はまるで等価交換だと言わんばかりに死の淵に立たされ、その肉体はゴーダという人造グリードによって支配されている始末。
かつての自分が依代としていた信吾の肉体を人質として扱っていたように、ゴーダは映司の肉体を人質としていた。まるで自分と映司の記憶を上辺だけなぞるようなゴーダの言動に虫唾が走って、それでも先代オーズを倒すためには、映司を生き長らえさせるには奴を利用するしかなくて。
そして──ああ、ああ! どうしてあの時の絶望を忘れることができるだろうか!
先代オーズを倒した後、彼が残したメダルを取り込み、暴走を始めたゴーダ。そんな彼を止めようとした映司の肉体が弾き出され、助けるために咄嗟に憑りつき──その瞬間に、悟った。悟ってしまった。
信吾の時とは違う。自分が憑いたところで、不可逆なものはどうしようもない。……現状維持をすることはできても、映司が映司として、一人の人間として再び生きることは不可能なのだと。
それでも、まだ希望はあった。
最期の戦いだと映司は言い、アンクもそれに応えた。だが、心のどこかではこう考えてもいたのだ──このまま自分が映司の体に宿り続ければ、あるいは。
ゴーダとアンク、条件は変わらないはずだ。かつてと違って信吾は健康体そのもの、アンクが離れたところで問題は無い。それなら、このまま映司の体に居続ければ、形はどうあれ共に生きることはできるはずだった。
それなのに、映司はそれすらも拒絶した。
どんな意図だったのかはわからない。わかりたくもない。
あの馬鹿はたった一人で満足して、置いて行かれる側のことなんて気にもしないで、アンクのことを突き飛ばしたのだ。会えて良かったと、手が届いたなどとほざいて。お前の欲望はそんなことで満足するものじゃなかっただろう、もっと多くを救うんじゃなかったのか、そう言いたくても言えなくて、この口から出るのは映司との別れを受け入れるかのような言葉ばかり。
そして力を失った体が重くなる感覚、地に落ちる手──。
あの時からずっと、アンクの心は乾いたままだ。
それが、鷹野アンクという人間が覚えている、グリードの“アンク”の記憶。
切欠はわからない。映司が死んでからどれほどの時が経ったのか。気が付けば、アンクはグリードではなく、一人の人間として、封印が解かれた時よりもいささか時が遡った時代に生まれ落ちていた。
“鷹野アンク”は、何の因果か、かつてグリードであった頃に縁があった泉信吾・比奈兄妹と従兄弟にあたる存在だった。勿論前世(と言うべきなのかはわからないが)においてそんな存在がいた記憶はない。自分が知らないだけの可能性も一瞬考えたが、それなら比奈あたりが言及していたはずだ。恐らく、というよりはほぼ確実にであるが、アンクが生まれ変わったことで新たに生み出された存在なのだろう。
泉兄妹の従兄弟なだけあって、顔立ちはかつて信吾に憑依していた頃と変わらない。人間としての五感を持ち、成長し、グリードとしての能力の一つも使えない脆い体であるというかつてとの違いはあるが、それは人間である以上当たり前のことだ。
……かつてのアンクならば、この与えられた命に、満足とまではいかずともそこそこの欲望を満たされていたのかもしれない。
もう人間にわざわざ憑依する必要もない、自分一人の、誰にも奪うことはできない体。鮮やかな視界、些細な気温の変化すら感じることのできる感覚、はっきりと聞こえる人の声、そして冷たくて甘いアイスの味。何もかも、かつての自分が心揺さぶられたそのままだった。
だが足りない。自分が欲しかったのはこんなものだったのかと思ってしまうくらい、いっそ笑えてしまうくらいに足りないのだ。
だって、ここにはあの馬鹿が、映司がいない。今日の分のアイスを手渡されることはなく、細かい行動一つ一つに口出しをされることもない。かつては口煩いと、鬱陶しいとすら思っていたそれがないだけで、グリードに戻ってしまったかのように感覚が鈍くなる。
そして、その足りないものが満たされる日は二度と来ないことも知っているから、アンクの心はいつだってどこか空虚だった。
そんな異様な子供だったせいか、鷹野アンクはあまり恵まれた生まれ育ちではなかったと言える。
物心ついた頃から妙に虚ろで、興味を示すこともごく僅か。おまけに、生まれは間違いなく日本人ではあるものの、その髪は見事なまでの金髪である。
両親のどちらにも似なかったその外見のせいか、あるいはアンク自身の扱いづらい性格によるものか、彼の両親は常に彼のことを疎んでいた。それこそ、彼の存在が発端となって離婚話が持ち上がり、親権の押し付け合いとなり、最終的に親権を持った母親が夜逃げをするくらいには。
不幸中の幸いだったのは、逃げることを優先した結果か財産はそのままだったのと、他でもない泉家が幼いアンクを引き取ってくれたことだ。お陰でアンクは両親というものがいなくなって以降も食べ物や住む場所に困ることはなかったし、アイスだって好きなだけ食べられた。むしろ気を許していないどころか気に食わない相手と一つ屋根の下にいる必要性がなくなったことで環境が良くなったとすら言える。
信吾や比奈にアンクと過ごした、あるいはアンクと共にあった日々の記憶は無かったが、アンクが過去に遡ったのであれば当然のことだ。自分が一方的に知っているだけという関係に最初は気まずい思いもしたが、それも四六時中一緒にいる内に慣れていった。もっとも、比奈と話す度に覚える、何かが欠けているような感覚だけはどうしようもなかったが。
そこからのアンクの人生は、ひたすらに惰性だった。
何せ、やりたいことというものがない。かつては命が欲しいと望み、そしてそれは叶った……あまりにも大きな代償と共に。今日の分のアイスもいくらでも手に入る。だが、あの日新鮮に映った何もかもも、それが当たり前になってしまえば感動も薄れていく。それとも、欠けているものが大きいからこそそう感じるのか。
気が付けば、アンクはただ流されるままに生きるだけの存在と言っても過言ではなくなっていた。それこそ、かつての映司のように、あるいはそれよりも何もないかのように。
勉強だのなんだのと人間には煩わしいことが多かったが、それを怠れば面倒なことになり、後々自分が自由に動けなくなることはわかっていたから、必要のある分はこなしてやった。だがそれだけだ。比奈のように夢があるわけでもないアンクに、わざわざ何かを極めようなんて気が起きるはずもない。
そんな自分のことを、信吾や比奈は随分と気にしていたように思う。習い事、部活動、アルバイト、とにかく何か熱中するものをと思ったのか、色々と経験させられた。まあ、結局はどれもアンクの性に合わず、時間だけが浪費される結果に終わったわけだが。
そうやって年月を積み重ねて、大学に入って少ししたところで、アンクはふと気づいた。
……このまま惰性で生き続けて、果たしてそれは本当に生きているといえるのだろうか、と。
かつて、鴻上は生きるとは欲望を持つことだと言った。それはグリードであったアンクからしても正論だと思う。メダルの塊であるはずのグリードには命というものが存在しなかったはずなのに、あの瞬間、生きるということに、命というものに焦がれていたアンクは確かに“生きて”いたから。
ならば、今のアンクは? 映司の命と引き換えに得たと言っても過言ではないこの命を、果たしてアンクは本当の意味で生きていると言えるのだろうか。あの日支払われた代償に見合うだけの何かを、本当に自分は得ているのだろうか。
全部あの馬鹿が勝手にやったことだ。それに対して自分がどうこう思う義理なんてない。
頭ではそう考え、自分でその考えに納得しつつも、心のどこかにしこりが残るのもまた事実。何より、かつてのアンク自身の“命”への憧れが、その想いに見て見ぬフリをすることを許さなかった。
そうしてアンクは旅に出た。
元々大学に未練なんてものは無かったし、資金については親が残した資産が残っている。信吾と比奈は心配げだったが、他でもないアンク自身がやりたいと言ったこともあり、最終的には背中を押した。
映司の言葉をなぞるわけではなかったが、そこそこの金とアイス、後は暇を潰すためのスマートフォンさえあれば、旅というのはそこまで苦行というわけではなかった。映司のように紛争地帯に向かったりはしない。そんなことをするのはあの馬鹿くらい、アンクがわざわざそんなことをする理由はない。とりあえず、あいつが見たものの一部でも見て、世界中のアイスを食べよう、くらいの感覚だ。得るものがあるかと言われれば微妙だが、少なくとも学校に通っているよりはマシといったところか。
旅をしていれば、嫌でも映司のことを思い出した。
アンクのコアメダルが割れた後、映司は鴻上ファウンデーションの仕事も兼ねて世界中を飛び回っていたという。ここも訪れたのかもしれない、そんな考えが常に頭をよぎった。そしてその度に、叶うはずのない欲望が顔を出そうとする。
今のアンクがたった一つ、強く望むことがあるとすれば、それは映司と再び出会うこと。だが、もうそれは叶わない。
比奈がかつてのアンクを知らないのと同じだ。仮に映司とこの世界で出会ったとしても、それはアンクが知っている映司ではない。所詮、同じ顔、同じ声、同じ姿、同じような言動をするだけの別人でしかないのだ。そもそも、グリードでも何でもないただの人間である鷹野アンクが火野映司と出会ったところで、あの頃と同じ関係性を築けるはずもない。
それに。
──そもそもこの世界には、恐らく火野映司という人間が存在しない。
実のところ、アンクは映司の過去について詳しいわけではない。比奈や後藤、伊達といった面々は詳しい事情を知っていたらしいが、生憎とその話にアンクが立ち会ったことは無かった。あくまで聞こえてきた話と映司自身の発言を照らし合わせ、予想をしただけに過ぎない。
だが、その範囲でわかったことだけでも調べられることはある。政治家の息子、紛争に巻き込まれて生還した、それだけでも調べるには事欠かない。おおよその時期がわかっているのもある、それに何より当時散々騒がれたらしいから、少し検索でもすれば、あるいはテレビを見るだけでもわかるだろうと、そう思っていた。
だが何もなかった。
そもそも紛争が起きている地に赴いた日本人など、せいぜいがカメラマンくらいしかいやしなかった。火野という政治家こそ存在したが、映司の名前はちらりとも出てこない。起きていない事件がニュースになるはずもない。
まるでアンクが人間として生を受けた代わりとでも言わんばかりに、火野映司という人間の存在は抹消されていた。
それに気付いた時の絶望感は、今でも言い表すことはできない。最後に残った希望すらも奪われたアンクの気持ちがわかる人間がこの世界に一人もいやしないのもそれに拍車をかけた。
人間であるはずなのに、グリードであった頃のように世界がモノクロに見えて。今していることも全て無駄だったような気がして。期待なんてしていなかったはずだったのに、自分が甘い考えを捨てきれていなかったのだと突きつけられて。
それでも旅をやめられなかったのは、最早意地か何かだったのだろう。
ここで投げ出してしまえば、かつての自分との、映司との、比奈との、何もかもとの繋がりが断ち切られてしまうような気がして。
誰が知らずとも、憶えていなくても、自分だけはあの日々を憶えている。ここにいる自分が、あの日々の証明となる。
それだけが全てだった。欲望とも言えないような残り滓に、アンクはしがみつき続けることを選んだのだ。
──そして、そんな暮らしを続けて、二年ほどが経ち。
アンクは今、久々に日本の土を踏んでいた。
きっかけはなんてことはない、比奈との連絡だ。どうやら比奈はクスクシエでのバイトを始めたらしく、バイト先についての話が電話の最中に上がった、ただそれだけ。
『そういえばアンクって、知世子さんと知り合いなんでしょ? 最初に話を聞いた時、びっくりしちゃった』
「旅先で会っただけだ。日本人がいたのが珍しかったんだろ」
『でも、アンクにしては結構話したりしたんじゃない? そうじゃなければ、知世子さんがあんなにアンクのこと話してくれるなんてなかっただろうし、それに写真まで撮ってたし。ちょっと安心しちゃった。アンク、あんまり旅してる間のことって話さないから』
「……チッ」
『またそんな態度取って! もう、私もお兄ちゃんも心配してるんだからね!』
他の人間同様、知世子もこの世界でも変わらなかった。変わらなかったから、アンクも他の人間と接するのとは異なり、そこそこは話に付き合った。
それが彼女の中の何かに触れたのだろう。やたら世話は焼かれるわ、流されて連絡先を交換するわ。“かつて”の知世子のことを思い出してしまって強く出れなかったのも悪かった。気が付けば、今度帰国したら知世子の店に顔を出すという話になってしまっていたのだ。
当然──と言うのもおかしな話なのだが──アンクとしてはバックレる気満々だった。だが、比奈がそこでバイトを始めたとなれば話は別だ。
あの二人が結託するとアンクの手に負えなくなる。というか、どう足掻いても比奈が無理矢理にでも連れていくだろう。そんな屈辱的な目に遭うくらいなら、どうせそろそろ日本に戻ろうと思っていた頃だ、自分から顔を出した方がまだマシである。面倒ごとはさっさと済ませるに限るというのは嫌というほど知っていた。
「知世子の奴、余計なこと言いやがって……」
ぶつくさと愚痴を呟きながら、旅をしているにしては少ない荷物を持って歩みを進める。
気が進まないせいか足の動きも遅くなる、が、顔を出そうとしているだけ良いと思え。自分で言うのもなんだが、随分と丸くなったものだ。
そして角を曲がったところで。
「えっ、ちょっ……うわっ!?」
「あ? ……ぶっ!!」
成人男性大の何かと、というか、走ってきた成人男性そのものと思いっきり衝突した。
繰り返すが、今世のアンクはただの人間である。別に何かしらの体術を習っているわけでもない、というか、運動神経はあっても鍛えていないので体力や技術は低い方と言ってもいいだろう。
そんな人間が走ってきた人間と衝突すればどうなるかなど、見るまでもない。
吹き飛ばされた。ついでに背中をしたたかに打ち付けた。げほっ、と衝撃から咳が飛び出る。
「ご、ごめん! 大丈夫!?」
ぶつかってきた張本人が助け起こしてきたが、とどめとばかりにその手つきが強すぎる。勢いよく腕を引っ張られ、無理矢理立ち上がらされたせいでまたバランスを崩して転びそうになってしまった。
一体何が悲しくてこんな踏んだり蹴ったりな目に遭わなければならないのか。とりあえず下手人の面を拝んで一発お返しをするなりしなければ気が済まない。
「これがごめんの一言で済むか! ちゃんと前見て歩、け…………」
けれど。
その気持ちは、自分とぶつかったであろう男の顔を見た瞬間に掻き消えた。
日本人らしい、すこし幼さを残した顔立ち。四方八方に跳ねた黒髪。
それは、かつてのアンクが見飽きるくらいに見て、そして永遠に失った────。
「え────」
口に出そうとした名前が、けれど音にはならずに消えてゆく。
そんな馬鹿な。有り得ない。有り得るはずがない。だって、確かにあいつはどこにもいないのだと、この世界の何もかもが証明していたはずなのに。
今アンクの目の前に立っているのは、紛れもなく、火野映司だった。
声が出ない。目が離せない。
一体何が起きている。どうして、映司が目の前にいる?
「え、え……ほんとに大丈夫? もしかして、ぶつけた所が悪かったとか……」
何かを言わなければならない、そう思った。けれどこんな時に限って、はく、と口を開閉しても声の一つも出やしない。
映司。映司。握られた腕から確かな体温が伝わる。……生きている、間違いなく! 映司が生きている!!
色褪せていたはずの視界に、鮮やかな色が戻ってゆく。
理屈では自分の知る映司とは別人だと理解しているはずなのに心が震える。相手からすればきっと理解不能な行動をしているとわかっていても、目の前の顔を凝視することをやめられない。まるで自分の中の時が止まってしまったかのように、映司から目を離すことができない。
しかし、そんな永遠にも思えた一瞬は、他でもない映司の手によって終わりを告げた。
「……って、こんなことしてる場合じゃなかったんだ!」
自分を支えていた映司の手が離れる。自分のことを知らないであろう映司であれば当然の行動に、思わずその手を掴もうとしてしまうのを必死に抑える。
何かを焦っているのか──いや違う、これは、警戒している? 周囲を鋭い目で見回した映司は、左手を強く握り込むと、再び駆け出していく。
「さっきは本当にごめん! それと、えーっと……気をつけて!」
一瞬だけ振り返ってそんなことを言い残した映司の姿は、瞬く間に遠ざかり、自分の視界から消えてしまう。
今のアンクには、それを追いかけることなんてできはしない。けれど、もしかしたらそんなものは些細なことなのかもしれなかった。
少なくとも、この世界にも映司は存在している。
アンクの知る彼ではなかったとしても。アンクのことを知らなかったとしても。少なくとも、ここに生きているというのなら、今はそれだけでも十分だ。お互いに生きてさえいれば、いつかまた出会うこともあるだろう。
(それにしても、気をつけて、なぁ。……ぶつかってきた奴が言うセリフか?)
……安心したら、先程の苛立ちも戻ってきた気がする。やっぱり次に会ったら一発くらいは殴ってもいいかもしれない。
溜息を一つ。とはいえ、今はそんなことを考えてもどうしようもない。余計な時間を食ってしまったことだ、そろそろクスクシエに向かわなければ比奈がうるさくなるだろうし、ここに長居する理由もない。
そうして一歩を踏み出した瞬間。
「…………あん?」
ふと、背後を何かが勢いよく横切る気配がした。
反射的に振り返っても、そこには何もない。気のせいだったのだろうか。
だが、それにしては妙に……そう、嫌な予感がする。果たして偶然なのか、通り過ぎたかもしれない何かが向かったのは、映司が去っていった方向だ。
どうするべきか、アンクが迷ったのは一瞬だった。
・鷹野アンク
グリードだった頃の記憶があるだけのただの人間。
復活のコアメダルのあの結末に納得がいっていないし後悔が募る日々。本編-復活のコアメダルを経ているので結構丸くなっている。なお、オールライダー、将軍と21のコアメダル、MOVIE大戦や平ジェネ等、復活のコアメダル以外の劇場版は通過していない。あくまで仮面ライダーがオーズとバースのみ存在する世界の出身。
彼が旅先で知世子と出会ったことが影響して比奈がクスクシエでバイトを始める時期が早まったが、そんなことは知る由もない。
復活のコアメダル、役者さんの演技は凄かったしタジャドルエタニティとかは良かったんですが……あの……。
ボロクソにこき下ろすつもりはないし、結末に文句を言うつもりはありません。
ただ、あの内容をやるなら圧倒的に尺が足りなかった。もっと古代王やゴーダについて掘り下げてほしかったというか。せっかくオリキャスが揃っていたのにグリード辺り雑な扱いが多いし。あと映司の自己犠牲精神についてよりによって後藤さんにまるでそれを肯定・受け入れるかのような口振りで言及させるな折角のバースXを噛ませにするな(厄介オタク)。
映司の最後については賛否両論ありつつもまあ火野映司だしな……一人勝ちしよったなコイツ……とはなりつつ、だからその結末にするならちゃんと掘り下げてくれと。掘り下げた上であの結末なら普通に受け入れました。私は4号が好きなオタクです。
でもそれはそれとして復活のコアメダルという作品を否定するのもオタクとしてアレだったのでこうなりました。あれを踏まえて……映司とアンクの両方が生きている世界を……。