Re:OOO -いつかの明日を求めて-   作:オタクヤミー

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 ここからみんな大好きウヴァさんのターン!(なお期間)
 


第11話 窮地とタコスミと配達屋

 

 ──カザリが仕掛けると聞いた時、この機を逃すわけにはいかないと思った。

 

 ウヴァというグリードは基本的に慎重な性分だ。気が急いた結果隙を突かれることもままあるが、少なくともその局面にいたるまでの仕込みで手を抜くことはない。彼が知る由は無い“かつて”において、屑ヤミーを生み出して地道にセルメダルを貯めこんだり、メズールとガメルを復活させるにあたって敢えてコアメダルを数枚抜き取っておいたあたりにもそれが垣間見える。

 そんなウヴァだからこそ、自分が今ここで動くのは性急が過ぎるというのはよくよく理解していた。

 

 そもそもの話、ギルとウヴァ達が戦うとなればどうしたってウヴァ達は後手に回らざるを得ないのだ。ギルとウヴァ達とではそもそもの勝利条件が違いすぎるのだから。

 自分達の目的は完全復活だ。完全体になるために必要な九枚のコアメダルの内、一枚でも欠けていてはならない。……ギルが一枚でも自分達のコアメダルを砕いてしまえば、それこそ持ち去ったメダルを砕かれた瞬間に、己の望みは永遠に叶わなくなる。

 ギルがコアメダルをただ持ち去っているだけという状況がどれほど綱渡りの状態なのかは言うまでもない。わざわざウヴァ自ら出て行ってこの危うい均衡を崩すようなことをするくらいなら、今は力を溜めることに専念した方が良いに決まっている。そんなことはウヴァだって、あるいは復活したグリードの中ではウヴァが一番良く分かっているのだ。

 

 けれど。

 ……それでも。

 

 ギルと話をしたい。いいや、話さなければ。

 完全体になった己を知らない、自分達がかつては手にしていたはずの美しい世界に触れたこともない、与えられた役割からついぞ抜け出すことのできなかったあのグリードに言ってやらなければならない。お前が従うべきとされていた王はもういないと、お前は自由なんだと、己のための欲望を抱いていいのだと。800年前はついぞ教えられなかったことを、今度こそ。

 

 

 だが、たったそれだけのことが如何に難しいか。

 ギルが大人しく会話に応じるかどうかもわからず、仮に応じたとしてもウヴァの言葉を素直に受け入れるかどうか。ましてやウヴァは既にヤミーを追手として放っている、つまりは敵対行動をしている身。姿を見せた瞬間に全力で潰しにかかる可能性だってある。やはり、何度考えてもここでウヴァが動くのは悪手なように思えた。

 

 しかし、ここでカザリだけを行かせてしまって良いとは思えないのもまた事実。

 ウヴァはギルとカザリの間に何があったのかは……あるいは何もなかったからこそ本能的な対応をしているのかは知らないが、少なくともカザリの側が良い感情を抱いていないのは見れば分かる──そも、カザリがそんな感情を抱く相手がいるとも思えないが。そんなカザリだけを行かせて、まさかそんな事はないとは思うが、万が一、億が一、ギルが負けるようなことがあったとしたら。

 完全復活とギルの存在を天秤にかければ傾くのは当然ながら完全復活だが、別にどちらかを選ばなければいけないわけではないのだ、ここでギルを切り捨てる必要なんてものはない。それに、下手に時間が経って溝が深くなる前に話した方がまだ聞き入れられる可能性があるという考え方だって出来る。

 

 なら、ウヴァの答えは決まりだ。

 

「待て、俺に考えがある」

「なに、また懲りずにヤミーを作るつもり?」

 

 カザリの煽りに乗りそうになるのを堪え、今思い付いたばかりの策を伝える。

 

 簡単なことだ。カザリだけを行かせるのではなく、監視を兼ねてウヴァもギルの元へ向かえばいい。手を貸して恩を売ったところで返すようなグリードではないが、ウヴァの側もカザリを利用している以上はとやかく言うつもりはない。

 カザリがどう動くつもりかは知らないが、あちらもヤミーを生み出すのは同じだろう。ならば同時に出現させることでギルに少しでも多くセルメダルを消費させ、こちらの勝率を上げておく。表立って動くのをカザリに任せればどうしたってそちらの対処に思考を割かざるを得ない、そこに付け入ればウヴァにも勝機はある。

 とりあえず一発殴って、後は拘束するなりして話が出来る状況を作る。話をせざるを得ないと判断すればギルとて無下にはしないはずだ。それでも説得できなかった場合のことは後で考えればいい、どうせその時にはウヴァが有利に立っているのだから。

 

 無論、自分の姿を見咎めた人間に騒がれたりしてギルに見つけられた時点でこの計画は失敗する。しかし、そうならないための方法は他でもないギルから教えられていた。

 もっとも、いつ何の理由で裏切るかも分からないカザリに手の内を明かすつもりはない。それらを伏せて説明をすれば、カザリは特に反論もなく頷いてみせる。

 

「……まあ、ギルを相手にするなら戦力はいくらあってもいいしね。いいよ、君と組んであげる」

「勘違いするな、手を貸してやるのは俺だ」

 

 ウヴァの目的などお見通しなのだろう、嗤うカザリを睨み──といっても、グリードの目にそんな機能は存在せず、あくまでウヴァの気持ちの上での話なのだが──その場を去る。

 そして物陰に隠れ、周囲に何の気配もないことを確認して体をセルメダルで覆い、次の瞬間には一人の人間の男がそこに立っていた。

 

 オールバックにした豊かな毛髪、王の国ではありふれていた肌の色、彫りの深い顔立ち、そして中世を思わせる服装。封印されていたせいか酷く懐かしく違和感に襲われるその姿に、ウヴァは軽く首を回して感覚を馴染ませる。

 全くもって度し難い。こんな脆弱さをアピールしているとしか思えない姿に好んでなっていたギルの気が知れないと、何度も擬態した今でも思う。しかし、今の状況においてはこれ以上ない程に好都合であるからには使わないわけにはいかなかった。

 

 そのままギルの所在を探るために物陰から出ようとしたウヴァは、しかしその視界に入った人間達の姿に足を止める。

 行き交う人々、そして窓ガラスに映る己の姿を何度か見比べては違和感を抱く。そしてそれを何度か繰り返したところで、ようやくその違和感が服装にあることに気付いた。

 

 通りを歩いている人間の格好が、ウヴァの知る人間のそれとは随分と異なっている。少なくとも、今ウヴァがしているような服装をしている者は一人もいない。

 ウヴァには人間の服装に関する知識など無いが、服装が違えば纏っている人間にも何かしらの違いがあるのは知っている。王には王に相応しい装いがあり、錬金術師であればそれらしい服装、そして市井の人間は簡素なものを。そして、自分達とまるで異なる服装をしている相手には普通とは違う反応を示すことが多い人間の生態を鑑みれば、今のウヴァの格好のままで人間に紛れるのは難しいだろうと判断した。

 

 何人かの服装を確認し、その中から適当なものを選んでそれに擬態する。ウヴァにとっては全く馴染みのない格好にはなったが、これで人間に騒がれるということはないだろう、そう判断して通りに出る。

 あくまで自然な素振りで人波に紛れれば、時折視線を感じはするものの、声をかけられたりすることはない。今頃人間に見られて大なり小なり騒ぎになっているであろうカザリを想像して鼻で笑いつつ、セルメダルを一枚取り出して手の中で弄ぶ。まずはヤミーの親にする人間を探さなければ。

 

 そこからは至って順調だった。

 ヤミーの親に丁度良い人間は思ったよりもあっさり見つかり、生み出されたヤミーも順調にセルメダルを貯め込んでいく。その過程で一度グリードの姿に戻りはしたが、それもほんの僅かな時間のこと、その後すぐに人間に擬態し直したことでギルに見つかるようなことは無かった。

 ウヴァが生み出すよりも先に気配がしたヤミーはカザリのものだろう、そちらが倒された様子もない。これなら万全の態勢でギルを迎え撃つことができるとひとまず身を隠し、そして。

 

 ──ギルは、よりによってオーズと共に現れた。

 

 

 今代のオーズは、王とはまるで違う人間だった。

 まず、欲望の匂いが妙に薄い。皆無とまでは言わないが、まともにヤミーを生み出せるとは思えない程度にはうっすらとしたものだ。

 それにその体は貧相そのもの、戦いに適しているとはとても思えない。事実、オーズに変身した男はヤミー一体にすら手間取る始末。これであの王と同じ力を使っているというのだからお笑い草だ。

 

 否、そんな事はウヴァにとってはどうでもいい。重要なのは、ギルとオーズが共にあるということ……未だにギルがオーズに従っていることだ。

 あのオーズが何者かは知らないが、ギルを従わせているという時点でウヴァにとっては排除すべき存在でしかない。だが、ここでオーズに手を上げればギルがどう出るかは分かりきっている。ウヴァは物陰に潜んだまま、噛み砕きそうなほどきつく歯を食いしばった。

 

 しかし、言い換えればこれはチャンスでもある。

 戦い慣れていないオーズ一人にどうこう出来るほどグリードという存在は脆いものではない。ギルだって、オーズを害される“かもしれない”という状況なら迂闊に動くことはできないはずだ。いわば便利な人質が手に入ったようなもの、これを利用しない手はない。

 とはいえ、ギルが自由に動ける状況で人質を取ったところで想定外の動きをされないとも限らない。まずはギルの動きを止めるのが先であることに変わりはないと、オーズとキリギリスヤミーの戦いに介入せんと左腕を構えたギルの傍にひっそりと近寄り、その背後に立ったところで瞬時に擬態を解く。そしてギルがウヴァの気配に気付いて振り返ろうとしたその瞬間を狙ってその後頭部に一撃を叩き込み。

 

 ……あっさりと意識を飛ばしてその体を傾けたギルの姿に、下手人であるウヴァ自身が動揺する羽目になった。

 

「…………は!?」

 

 咄嗟に出したその声がオーズに届くことは無かったのが不幸中の幸いか。

 慌てて受け止めたギルの体は、意識を失っている者特有の重さを主張する。間違ってもやられたフリをしている訳ではなく、それがますますウヴァの動揺を強くしてしまう。

 

 繰り返して言うが、グリードという存在はそう脆いものではない。擬態しているとしても強度はグリードのもの、コアメダルもセルメダルも失っていないのに頭を殴られた程度でどうこうなるはずがないのだ。

 だが、現実としてギルは何の抵抗もなく倒れ、ぐったりとウヴァの腕に体を預けている。一体何があればこうなるのか、そう困惑したウヴァはギルの体に何らかの異変がないかと目を凝らし、そしてすぐに事態を察した。

 

(……俺のヤミーを倒したにしてはセルメダルが少なすぎる)

 

 明らかに少ない、まともにグリード態すら取れないであろうセルメダルの量。これならば、確かにウヴァの一撃に耐えられずとも無理はない。

 

 しかし、理由が分かったとしてもそうなるまでの経緯が分からない。ギルが、あるいはあのオーズがウヴァが造った二体のヤミーを倒したのは間違いないはず、それならばその二体から生じるだけのセルメダルは手に入れていないとおかしいのだ。

 ……そこでウヴァは、ふと800年前のオーズのことを思い出す。彼は七割のセルメダルを献上するようにグリード達に命じていた。それと同じことをあのオーズもギルに命じているとしたら、それが当然だと思っているギルが言われるがままにセルメダルをまともに取り込まずにいたとしたら。

 反吐が出る。やはりオーズというのはろくでもないモノだと再確認し、ウヴァは腕の中のギルを支えて立ち上がらせた。

 

 目の前では、今まさにオーズがキリギリスヤミーに止めを刺さんとするところだった。

 カザリはどこにいるのかと周囲を見回せば、オーズに不意を打てるであろう場所に隠れているのが見える。ならばオーズはカザリがどうにかするだろうと判断し、オーズの反撃に備えてギルの喉元に鉤爪を突きつける。

 オーズがギルを見捨てる可能性もあるが、それならそれでギルを説得する材料が増えるだけのこと。そもそも、例えギルを見捨てたところでグリード二人を相手に逃げおおせると思う方が間違っている。こうなった時点でどう足掻いてもウヴァの勝ちは揺るがない。

 

 爆炎と共にヤミーが貯め込んだセルメダルが飛散する。着地したオーズがギルのことに気付きもせずにいたところをカザリの攻撃が襲い、倒れたオーズがウヴァとギルに気付いたと同時にギルの喉元に鉤爪を食い込ませれば、流石にその程度の良識はあったらしいオーズは驚愕したように顔を跳ね上げ──。

 

「エイジ!!」

 

 叫ばれたその名前に、知らずウヴァはギルを拘束する腕を強くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ!!」

 

 ウヴァの腕の中のエイジはぴくりとも動かず、アンクの呼び掛けに応えはない。

 最悪に最悪を重ねたかのような事態に、アンクはマスクの下で痛いほどに歯ぎしりをした。

 

 迂闊だった、その一言に尽きる。あのヤミーが昆虫系だった時点でウヴァの存在を警戒すべきだったのだ。

 ウヴァというグリードは、いざという時の情けない面こそ目立つものの、決してその能力や頭の回転が他のグリードに劣っているわけではない。咄嗟の感情に左右さえされなければ策謀の出来も良く、何より「いかにして生き残るか」という一点に関してはどのグリードよりも優れているも言ってもよかった。

 そう──だから、紫のコアメダルのグリードを、現状においては唯一コアメダルを破壊することができるエイジを相手取るのなら、ウヴァの持つ能力が最大限発揮されたっておかしくはないのだ。

 

 はっきり言って、今のアンクにカザリとウヴァを相手取ることは不可能だ。ましてやエイジが人質に取られているとなれば尚更。彼らにコアメダルを砕くことは出来ずとも、セルメダルが無くなるか意思の元となるコアメダルを奪われてしまえば、その時点でエイジは己という個体を保てなくなってしまうのだから。

 この場を切り抜けられる可能性があるとすれば、それは第三者の乱入か、あるいはカザリとウヴァの仲間割れのみ。しかし後者についてはアンクの目の前でその可能性を否定されてしまう。

 

「フン、そいつが今代のオーズか。大したことは無さそうだな」

「その大したこと無いオーズに君のヤミーがもう三体も倒されてるんだけどね、ウヴァ」

「……最後の一体はお前のせいだがな」

 

 カザリの煽りに怒りからか体を震わせたウヴァだったが、状況が状況であったために反論するに留め、改めてアンクに見せつけるようにエイジの喉元の鉤爪を構え直す。

 

「さあ、コアメダルを渡せ。俺も好き好んでこんなことをしてるわけじゃないんだ、早くしろ」

「どの口が……!」

 

 吐き捨て、しかし突破口が見当たらない以上はその言葉も強がり以外になりはしない。

 カザリをどうにかしようにも、今アンクが少しでも動きを見せれば、恐らく即座にウヴァがギルの喉元に鉤爪を突き立てる。グリードであるからにはその程度で死ぬことはないが、ただでさえギリギリの量を保っているセルメダルが失われたら肉体の維持は不可能になるだろう。そうなればただでさえ薄い勝ちの目が完全に潰えてしまう。

 

 残る手立ては第三者の乱入のみ。何者か──鴻上の手の者がこの場に現れれば、逆転のチャンスはある。

 鴻上のことだ、今この瞬間もアンク達のことを見張っているはず。彼らとしてもここでオーズがやられるのは望ましくない、何かしらの手段で手助けをする可能性は十分にある。

 

 しかし、それを踏まえたとしてもエイジが敵の手に落ちているのがネックになってしまう。

 どうにかしてエイジの目を覚まさせなければ、手助けがあったとしても水の泡だ。だが、肝心のその手段が全く思い浮かばない。そもそも何があって気を失うような事態になったのかすらアンクは把握していないのだ、それで原因を解決するなど無理がある。

 

 となれば、今のアンクに出来ることは一つのみ。

 

「──わかった。コアメダルを渡せばそいつを放すんだな?」

 

 そう言い、オーズドライバーに手を添える。とはいえ添えるだけだ、コアメダルを外しはしない。

 

 当然だが、まさか本気でコアメダルを渡すなんてことはあり得ない。あくまでアンクの目的は時間稼ぎだ。

 このまま隙を窺っていても、それを悟った二人に袋叩きにされるのは目に見えている。こうなった以上、一度は従ったと思わせない限りは隙を作ることすらできないと判断しただけのこと。その隙さえ出来たなら、目を覚ましたエイジがどうにかするなり、鴻上の手助けが入るなり、あるいはアンクの方でエイジを奪還するなり出来る可能性はある。……極めて低いものではあるが。

 今のアンクに出来るのは、少しでも会話を引き伸ばすことだけ。だが、長い時間を稼ぐのは難しい。分が悪いにも程がある賭けに、アンクはいっそ笑い出したい気持ちにすらなっていた。

 

「随分素直だね。そんなにギルのことが気になる?」

「そいつみたいに平然と無茶するような馬鹿を放っておくのは寝覚めが悪くてな」

「だからコアメダルも渡せるってこと? よく分からないなぁ、人間って。ああ、でも、ウヴァなら分かるのかな?」

「…………知るか」

 

 カザリは相変わらず隙を見せない。恐らくアンクの言葉を頭から信じるつもりは無いのだろう、警戒心の強いカザリらしいことだ。

 その一方で、ウヴァの側には僅かに動きがあった。アンクの言葉を聞いたウヴァが、何を思ったのか、ほんの僅かにエイジを拘束する腕を緩める。──やるなら今しかない。

 

 カザリの視線はウヴァに向いている。アンクのことを意識していないわけではない、少しでも動きを見せればすぐに重い一撃が飛んでくるだろう。しかし瞬間的な動きに確実に反応できるとは限らない、そう判断する。

 勝負は一瞬。一瞬でカザリの射程から抜け出し、ウヴァに一撃を食らわせてエイジを取り戻す。今のアンクはタトバコンボ、バッタレッグの能力を十全に発揮出来れば理論上は可能なはずだ。

 

 カザリにバレないように、慎重に、慎重に軸足に力を込める。カザリを出し抜けるであろうルートを探り、気付かれないように身体の向きを僅かに変えて。

 

「まあいい。大人しく渡すなら話ははや────」

 

 ──三人の動きが、同時に固まった。

 

 腕が。……左腕が、エイジのグリードとしてのそれが、ウヴァの胸元に突き立てられている。

 その胴体を突き破ることはなく、吸い込まれるように腕の先が消えているように見えるのは、腕をただ突き立てているのではなく体内のメダルに干渉しようとしているからか。ほんの僅かに緩んだだけの拘束をものともせず、人体の可動域、その限界まで腕を歪めたエイジは、その瞳を閉じたままにグリードの急所を抉っていた。

 

「が、ァ…………」

「ギル、お前!」

 

 エイジの腕に力が込められる度、心臓を掴まれているも同然のウヴァが苦悶の声を上げる。尋常でないその様子に、カザリはそれどころではないと悟ったのだろう、アンクのことなど捨て置いてエイジに襲い掛からんとする。

 しかし、それは彼らの目の前に小さなタコを模したいくつもの機械が姿を現したことで叶わないままに終わった。

 

「な……い゛っ!?」

「め、目がぁ!」

 

 タコ型の機械・タコカンドロイドの口を模した部分から黒い粒子──オプティックジャマーが射出され、カザリ、そしてついでとばかりにウヴァの視界を奪う。

 オプティックジャマーの本来の用途はセンサーの無効化にあるが、この場において重要なのは相手の視界を一時的にでも封じられることだ。ただでさえ五感が鈍いグリードから更に感覚を取り上げてしまえば出来ることはそう多くない。黒く塗りつぶされた視界ではまともに戦うことも出来ないだろう。

 

「エイジィ!」

 

 今がチャンスだとあらん限りの声で叫んだアンクの声は、今度こそエイジに届いた。

 

 勢い良く開かれたエイジの瞳がカザリを、そして倒れ込んだアンクを映すと同時に、エイジの腕がずるりとウヴァの胸元から引き抜かれる。その手の中には二枚のコアメダルがしっかりと握られ、力を奪われたウヴァはその場で苦しみながらむき出しの胸部を顕わにした。

 次に動いたのはアンクだ。ご丁寧に自分に背を向けたカザリの背を狙い、バッタレッグの瞬発力を生かして瞬時にトラクローを突き立てる。狙いを定める余裕こそなかったが、今は相手を撤退に追い込めさえすればいい、その考えのままに突き立てたトラクローでカザリの内部をかき回す。

 

「なっ!?」

「がら空きなんだよ! ……はあっ!」

 

 いくらか手首を捻ったところで力任せに引っ張り出せば、数枚のセルメダル、そして黄色のコアメダル──チーターメダルが一枚トラクローの爪に挟まれた状態で飛び出してくる。予想外の収穫にアンクは笑みを浮かべ、そのまま大きく跳躍してカザリから距離を取った。

 

「よくも僕のコアを……!」

 

 恨めしげな声を上げるカザリに先程までの覇気はない。ウヴァと違って目に見えて異変が起きることこそ無かったが、ただでさえコアメダルが少ないであろう身だ、一枚の比率がどれほど大きいことか。見た目以上に消耗していることは想像に難くない。

 それは本人が一番良く分かっているのだろう、カザリはアンクの手元にあるコアメダルを恨めしげに見つめつつも襲い掛かってくることはない。そうしている間にも完全に復帰したエイジがアンクの横で肩を並べるように左腕を構え、今やカザリ達が追い詰められる側であることを示してみせた。

 

「形勢逆転、だな」

「みたいだね。今日はここまでにしておいてあげるよ。……次はこうはいかないから」

 

 捨て台詞を吐いてカザリがその身を翻す。ウヴァはというと、流石の逃げ足の速さというべきか、いつの間にかその姿は見当たらなくなっていた。

 エイジが追おうとするのを腕で制し、アンクはようやく危機が去ったことを実感して変身を解除するとその場にへたり込む。……相手が撤退を選んでくれて助かった。正直に言ってしまうと、アンクの体力はもう限界に近かったのだ。

 

「はぁ、はぁ……おいエイジ、もうあいつらはいないんだろうな?」

「多分だけどね」

 

 気配を探るようにしばし周囲に向けて左腕を翳したエイジは、やがて安堵したように息を吐いてその腕を擬態させる。

 そして手元に残った二枚の緑のコアメダル……クワガタメダルとカマキリメダル、そしてさりげない動きでアンクの手から取り上げたチーターメダルを仕舞い込むと、アンクに向かって勢いよく手を合わせて頭を下げた。

 

「それよりアンク、ごめん! まさかこんなことになるなんて思わなくて」

「本当にな! ……そもそも、俺が見てない間に何があった?」

「それがよく分からないんだよな。多分後ろから攻撃されたんだとは思うけど……」

 

 首を傾げ、後頭部をさすりながらそう言ったエイジは、どうやら本当に事態を把握していないらしい。熱さや冷たさが分からないということは、痛覚も無いか、あったとしても相当鈍いだろうから無理はないが。

 

「……まあ、何もないならいいけどな。次はこんなことにならないようにしろ」

「ああ、分かってる」

「本当に分かってるんだろうな? また物好きなやつの手助けがあるとは限らないんだ、次は無いと思っとけ」

「手助け?」

 

 エイジの問いかけには答えず、アンクは重い腰を持ち上げながらタコカンドロイドが飛んできた方向を見て目を細める。あんなタイミングで助力があったのだ、間違いなくすぐ近くにいるに決まっている。アンクの言葉はその存在に気付いていることのアピールだ。

 これまでにかなりのセルメダルを渡してやったのだ、さっさとメダジャリバーなりカンドロイドなりを渡してくれなければ割に合わないというもの。今までは相手の出方を伺っていたが、グリード二体との同時戦闘なんてことをする羽目になった以上はそんな悠長なことは言っていられない。

 

 もう見逃すつもりはないとばかりに視線を逸らさずにいれば、観念したのか、あるいは最初から接触するつもりはあったのか、アンクとエイジからは死角にあたる場所から一台のバイクと共に一人の男が姿を現す。

 黒いボディに黄色のラインが走った、アンクにとっては見慣れたバイク。それに跨り、目の前で黒いフルフェイスヘルメットを外した男にも、当然ながら覚えがあった。

 

 ──後藤慎太郎、後に二代目バースとなる男。

 今はまだ鴻上の指示の元に燻り続けているであろう彼は、エイジを、そしてアンクを苦々しい顔で見つめる。しかし数秒後にはそんなことは無かったかのように表情を取り繕い、バイクを降りてアンク達と向かい合った。

 




 
 冒頭のウヴァさんの語りだけで半分くらい消費してるの本当に笑うしかない。第二の北村か何か? 怪文書が生まれなかっただけマシ……?
 本当はもう少し内面の開示は引っ張ろうかとも思ったものの、あまり開示が遅くなるとただただ出自不明のクソデカ感情をお出しするグリードになって気持ち悪さがやばい域になりそうだったのでこうなっただけなんです許して。

 ……北村と言えば、よくよく考えたらこの世界線で一番被害に遭っているのはアンクではなく彼な気がしなくもない。彼、火野映司との出会いなくして引きこもりを脱却できるんだろうか。


・鷹野アンク

 冤罪でウヴァに恨まれる羽目になった。100%冤罪なので知ったらバチギレるし紛らわしいことをしたエイジは殴られます。残当。


・エイジ

 身 か ら 出 た 錆


・ウヴァ

 せっかくエイジを拘束できたのに動揺するやら時間が無いやらでゴリラメダルとタコメダルを奪う絶好のチャンスを逃した。まあ持っていることに気付いたとして、カザリなら兎も角ウヴァが自分のもの以外のコアメダルを積極的に探すかと言われると微妙なところもある。
 おいたわしやウヴァさん。まあでもこれでこそウヴァさんみたいな所はある……ない?

 今回の人間態は勿論原作のものとは違う。明らかに外国人の見た目だったがその程度なら騒がれることはなかった。


・カザリ

 展開が展開だったので人間に見られている云々が言及されず、そもそも前回痛い目を見たアンクがわざわざ情報源を開示するわけもないので今回一番割を食った。
 ウヴァとは異なりギルと険悪寄りだったようだが……?(そもそもカザリと仲の良いやつはいないとか言ってはいけない)


・後藤

 映司みたいなタイプの人間がオーズになるのも嫌だったのに、ぱっと見世のため人のためには戦わない自分優先タイプのアンクがオーズになったりしたら……ねぇ? というわけでこういう反応。
 
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