Re:OOO -いつかの明日を求めて- 作:オタクヤミー
>>>タイトルが盛大なネタバレ<<<
戦闘後には後始末をしなければならない、という暗黙の了解がある。
以前のアンクはそんなものに興味は無くて映司に丸投げしていたし、鴻上ファウンデーションと接触してからはそちらが担当していたはずだ。つまり、何をどうして元通りとするのかがわからない。
しかし、今のアンクはそう言っているわけにもいかない。
戦闘の余波で破壊されたベンチ、抉れた地面。カマキリヤミーに何をされたのか、気絶して転がったままの信吾と見知らぬ刑事。疲弊した自分の体。ちなみにオーズドライバーはと思えば、先程“映司”が自分を受け止めた際にするりと回収されてしまっていた。
信吾達に関してはとりあえず警察と救急車を呼ぶにしても、この状況の説明が非常に面倒だ。ヤミーのことを馬鹿正直に説明しても一般人はまず信じないだろうし、かといって二人を放置して逃げるというのも信吾がいる時点で……。
「……救急車だけ呼んでここから離れるか」
「救急車……ああ、あの白と赤の? ここに来る途中で何度か見かけたけど」
「間違っても呼びに行こうとか考えるなよ? お前は、ここから、動くな」
「えぇ…………」
…………まあ、ヤミーは倒したことだし、もう危険はないだろう。
“映司”が余計なことをしないかどうかだけ見張りつつ、はあ、とこれ見よがしに溜息を吐きながらスマートフォンを取り出す。初めて見るであろう機械に訝しげな目を向ける“映司”のことはとりあえず無視。
幸い、アンクが駆け付けたのは信吾達が気絶した後だ。目を覚ました二人がアンクについて言及する可能性は無い。仮に何か言われたとしても、「駆け付けた頃には全て終わっていた」としらばっくれればいい。疲労については適当に誤魔化せばいいだろう。
が、問題は“映司”だ。わざわざ信吾達を庇っていたということは、姿を見られるか会話をしたかくらいはあったはず。つまり、“映司”に対しては根掘り葉掘り事情聴取をする可能性が高い。
それは困る。非常に困る。
何せ、封印から目覚めたばかりのグリードというのがどれほど現代社会に疎いのかをアンクは身をもって知っているので。救急車という名詞を見た目でしか認識していないと思しき様子からもそれは明らかだ。むしろ知っているだけでも僥倖と言える。
信吾達への対応を見る限り、少なくとも今は人間と敵対するつもりはないだろうが……グリード、それもアンクが知らないモノともなると、そういった状況下でどんな行動を取るかなんて予測できたものではない。
さっきの一連の行動からして、自分の知る映司とそこまでかけ離れているというわけではないだろうが、あくまでこれは希望的観測に過ぎない。ゴーダという前例もある、この“映司”が打算なしにそういう行動を取ったと判断するのはマズいだろう。
それに、事情聴取に対して寝ぼけた回答をしたりして“映司”が拘留されるようなことがあればオーズに変身できなくなる。そうでなくとも身元不明であろう“映司”と再び合流することの難しさを考えると目眩がしそうなくらいだ。つまりどう転んでもアンクにとって大問題でしかない。
「ああ……ああ、成人男性二人、見たところ怪我して気絶してるだけ……知るか、来た時にはもうこうだったんだよ」
面倒な通話をさっさと終わらせてスマートフォンをしまい、“映司”の腕を掴む。そう時間をおかずに救急車が来るだろう、今はとにかく“映司”を連れて逃げるのが最優先だ。
「おい、とりあえず一旦ここから離れるぞ。あとその腕何とかしろ、目立つだろうが」
「その人達は?」
「他の人間を呼んだ、そいつらが手当なり何なりするから心配するな。……ついでに俺が歩くの手伝え。さっきからまともに足に力が入らないんだよ」
「暴君……? もしかして、選ぶ人間間違えたかな……」
「お前、さっきあれだけ人に指図しておいて何言ってんだ?」
説明ついでに次の指示を出せば、納得したのか何なのか、“映司”はあっさりと信吾達から視線を外して左腕をグリードのものから人間のそれへと変化させる。
……納得したのなら、それでいい。だが、その後の軽口といい、どうにも淡白な反応という印象が拭えないのは、アンクの知る映司ならもう少し気にするだろうという先入観故か。現代日本の仕組みについて知っているのなら兎も角、そうでないならあっさりと人が来ると信じるのも……いや、お人好しなら信じるのだろうか? アンクには全く分からない思考なので判別のしようがない。
そして、トドメとばかりに足元でチャリチャリと音を鳴らす、未だ散らばったままのセルメダル──そう、一番の問題はこれだ。
恐らく、あの腕の件からしてこの“映司”はほぼ間違いなくグリードだ。それなのに、“映司”は飛び散ったセルメダルにほとんど興味を示しやしない。
グリードにとってのセルメダルというのは、肉体のほとんどを構成する、コアメダルの次に重要なもの。まして復活した直後の彼らにはそこまでの数のセルメダルは無かったと記憶している、つまり今は何を措いても手に入れなければならないものの一つのはず。
というか、そもそも、セルメダルに足りるも何も無いのだ。何故ならグリードが満たされることなんて普通は有り得ないのだから。どれだけセルメダルとコアメダルを持っていようとも、メダルを求めるその本能が枯れることはない、永遠に乾きを抱き続ける存在、それがグリードだ。
だが、“映司”はそのセルメダルにちらりも視線を向けはしない。そんなこと、グリードならばまず有り得ない。
考えられるのは、紫のメダルのグリードであるが故にそうである可能性。アンクが知る紫のメダルのグリードは、映司と真木が変貌した存在でしかない。人間からグリードになったが故に彼らはセルメダルをさして必要としなかったのだと思っていたが……そもそも紫のメダルのグリードという存在自体が最低限しかセルメダルを必要としないという可能性もなくはない。
紫のメダルの欲望は無。であるからこそ完全になるという欲がないのだと言われれば、確かに道理は通っている。
そこまで考えて、アンクは“映司”を不審がらせない程度にゆるく首を振る。
(……いや、そもそもの前提がおかしいのか)
そう。そもそも、何故紫のメダルのグリードが存在するのか。
本来──アンクの知る限りの過去では、そもそも紫のメダルのグリードが生まれたことなどなかった。生まれていないものが更に封印されるなんて、そんなおかしなことがあるものか。
800年前の王がわざわざ無の欲望を持つグリードを生み出すかと言えば……可能性はある。というより、実際にアンクの知る過去においても、最初は不要としていたにも関わらず錬金術師達の欲望の末に生まれ落ちる予定だったそのグリードを楽しみにしている素振りがあった。もっとも、そうなる前にアンク達グリードが反逆したことでついぞ誕生することは無かったのだが。
現時点でアンクが思いつく可能性は四つ。
一つ目、王以外の何者かが紫のメダルの封印を解いたことで、意図せず生まれたグリードである可能性。
二つ目、この“映司”がグリード化が進んでいる人間というだけの可能性。
三つ目、800年前の王が他のグリードの邪魔を受けず、全てのメダルのグリードを生み出した可能性。
そして四つ目に、そもそもこの世界の紫のメダルの欲望が「無」ではない可能性。
いささか突飛な発想のものもあるが、ここまで状況がおかしいのであればそういった考えを持たざるを得ない。何せ、“映司”と“アンク”の立場が入れ替わっているのだ。それが同じグリード同士の間で起きていないなどとどうして言えよう。
もしかすると、もうアンクの過去の記憶など大した信憑性はないのかもしれない。あくまで可能性の一つというだけに留め、先入観を捨てた方が良いと判断する。既に知っていることに関しても確認がてら聞くべきだろう。
何にせよ、全てこの“映司”を問い詰めて情報を引き出せばいいだけの話。色々と考えるのはその後だ。
“映司”の腕を引き、杖のように体重を預けながら歩き出す。いささか無理な姿勢をしているから“映司”の方の負担がそこそこ激しそうだが、そんなのはアンクの知ったことではない。
アンクの疲弊を示すように、ゆっくり、ゆっくりと二人の姿が離れてゆく。
……そしてそれを待っていたかのように、大量のタカカンドロイドがその場に降り立ち、セルメダルを一枚残らず咥えて去っていった。
そして場所を変えた二人は──怪人の胸倉を仮面ライダーが掴むという、ある程度の事情を知る者が見たら目を疑うような状況にあった。
「それで? 一体あいつらは何だ? さっきのオーズとかいうのは? それとお前の腕、さっきまではあの化け物と似たようなモンだったな、お前は何なんだ?」
「ちょ、ちょっと待って、そんな一気に聞かれても答えられないって」
どうどう、とばかりに腕を動かす“映司”には緊張感の欠片もない。その能天気極まりない馬鹿面に自分の知る映司の面影を見出してしまい、アンクは思わず舌打ちをする。
別人だと言い聞かせても、どうしても扱いに悩んでしまう。ゴーダのように全くの別人だと割り切れればそういう態度を取れるのに、妙に映司らしいせいでそれすらも叶わない。
結局、アンクは“映司”に従うかのように胸元を掴んでいた手を離し、行き場のない感情を持て余したまま少し距離を取ってどっかりと座り込むしかなかった。
「いっぺんに答えられないなら一つずつだ。俺を巻き込んだんだ、説明する義務があるだろうが」
「……それは」
途端口をつぐむ“映司”の様子に、アンクは思わず眉をひそめる。
先程聞いた内容の中で答えづらいことがあったとは思えない。少なくとも、かつてのアンクならすらすらと答えられただろう。出会ったばかりの人間をオーズに変身させた以上、そのくらいはしなければ相手を利用することもままならないなんていうのは馬鹿でもわかることのはずだ。
それとも、この男の正体にまつわる“何か”が、先程の質問の中にあったのか。だとすれば、尚更答えてもらわねばなるまい。
視線を鋭くし、“映司”へと圧をかける。こんなことでグリードである彼が動揺するとは思わないが、こちらの意思表示としてはこれ以上ないくらいの効果を示すはずだ。
……まあ、こうして今の内に少しでも主導権を握っておけば、今後の扱いが楽になるに違いない、という打算もあるが。わざわざオーズに変身させたのだ、アンクが戦わなければ困るのは“映司”だろう。“映司”は知る由もないことではあるが、ちょっとしたかつての分の意趣返しである。
案の定、アンクの顔を見た“映司”はあー、だのうー、だの声を上げて頭を抱えた後、恐る恐るといった様子で口を開いた。
「えーっと……まず、さっきのはヤミー。人間の欲望から生み出された存在で、その欲望を叶えるために行動を起こすんだ。ほら、さっきのヤミーを倒した時、大量のメダルが落ちただろ? あれはセルメダルって言うんだけど、それを人間に投入するとヤミーが生まれるんだよ」
「お前が襲われてたのがその人間の欲望なのか?」
「ああいや、それはまた別。ヤミーを創り出した奴……グリードっていうのが別に存在するんだけど、ヤミーは基本グリードの
「多分だぁ?」
「俺がその場を見たわけじゃないから」
いや、コアメダル奪った時点で追われるのは当然だろうが、多分も何もあるか。アンクは思わず内心でそうツッコミを入れた。
タトバに変身できる時点で、“アンク”は兎も角ウヴァとカザリから一枚は盗んできていることが確定している、それで追われない方がおかしいだろう。コイツ、もしかしなくても映司よりもボケボケしているのでは? それで本当にグリードとしてやっていけているのか?
「で、次はオーズだっけ……の前にグリードについて説明した方がいいよな」
「ああ」
「グリードはざっくり言うとヤミーの親分みたいな存在、かな? ヤミーはセルメダルで出来てる、いわばセルメダルの塊だけど、グリードはセルメダルだけじゃなくてコアメダルっていうものを核として存在してる。コアメダルはこれ、さっき変身するのに使ったやつ」
す、と“映司”が再びグリードのそれに変化させた左腕の指にトラメダルとバッタメダル……そして先程は使わなかったタコメダルとゴリラメダルを挟んで見せてくる。おいコイツさらっと全員からコアメダル奪ってきてないか。
ではなく。その手には、先程使ったはずのタカメダル、そして恐らく“映司”のものであろう紫のメダルはない。あの左腕の形状からして、まさか他のメダルが“映司”のメダルという話もないとは思うが、タカメダルすらも見せないのは何の意図があってのものなのか。
「コアメダルは、グリードにとっての……何だろう、意思の源、って言えばいいのかな。人間でいう脳や心臓にあたる部分って思えば分かりやすいと思う。グリードにとって一番重要な物でもある」
「だからお前が追われてたのか」
「コアメダルが全部揃ったグリードは、その強大な力で世界を喰らおうとする。俺はそれを防ぐためにコアメダルを奪ってきたんだ。1枚でも欠けていれば完全な復活はできないから」
“映司”はそこで言葉を切り、バッタメダル以外のメダルを懐にしまう。
「って言っても、だからってコアメダルだけあれば良いってわけじゃない。人間だって脳だけとか心臓だけとかじゃ活動できないだろ? 人間でいう肉体にあたる部分を構成するのにはセルメダルが必要なんだ」
相も変わらず紫のコアメダルやタカメダルに言及することはなく、無意識のものか、あるいは意図的なものか、コアメダルの話題から離れるように次の説明へと話を進める“映司”。
そして今度は左腕から一枚のセルメダルを出すと、バッタメダルと並べるようにその異形の手のひらに乗せ、アンクに向けて差し出した。
「改めて、こっちがセルメダル。見た目が違うのは何となくでもわかるだろ? セルメダルは、ヤミーが人間の欲望を叶えれば叶えるほど生み出される。そしていずれ大量のセルメダルを貯め込んだヤミーは自壊して、グリードにセルメダルを届ける……そうやってグリードは自分の存在を維持するんだ」
「なるほどな、ただの手駒じゃなかったのか」
既に知っている知識ではあるが、不審に思われないように相槌を打つ。どうやら、少なくともコアメダルやセルメダルについてはアンクの知る知識と相違ないらしい。後はグリードの仕組みについても同様か。
ならばそこから各グリードについての情報──特に“アンク”について──も探っていきたいところだが……流石に最初からそれを突っ込んで聞けば怪しまれかねない。下手に不審がらせて“映司”が口を噤んでは困る、それとなく聞けそうなタイミングを計る必要がありそうだ。
とはいえ、ただ機を待つというのもアンクの性に合わない。ここらで会話の主導権を握っておけば後々誘導もしやすくなるだろう。
となれば、まずは先手を打って、こちらから話題を切り出すべきか。
「とりあえず、メダルについてはわかった。次はあのオーズとやらだ」
「ああ、うん。オーズは……元々は、俺達が封印される前、の…………」
──そこまで言った瞬間、“映司”の動きが止まる。
何か言葉を紡ごうとしたかのように口を開閉した後、動揺を示すかのように視線を右往左往させる。心なしか顔も青ざめているように見える、というよりも、明らかに尋常な様子ではない。
「封印……そう、だよな、俺達は封印されてて……でも……何で俺…………お、れ…………?」
「あ? ……おい、どうした、おい!?」
それどころか、段々と体が痙攣するかのように震え始める。何があったのかはさっぱりわからないが、少なくとも放置していい状況ではない。
アンクがそう判断して肩を掴んで揺さぶれば、意識をこちらに向けたこともあってか、段々とその動きは落ち着いていく。顔色は未だ悪いままだが、焦点がこちらに合う程度にはなった。
「…………ご、ごめん」
「別に。いきなりお前におかしくなられたらこっちが困るってだけだ」
「いや、そうじゃなくて……」
一拍。言っていいものかとばかりに再び視線を泳がせた“映司”は、しかし次の瞬間には意を決したようにアンクを見つめ、口を開いた。
「わからないんだ」
「────は?」
「オーズのこと。コアメダルの力で変身するってことは分かるんだけど…………それ以外、ほとんど何も思い出せない」
「………………記憶喪失、ってことか」
声を絞り出すようにそう尋ねる。一体、その質問を捻り出すまでにどれほどの時間が空いたのか、アンクにもわからない。
自分でもどうしてこれほど動揺したのかがわからないほどの衝撃を受けたアンクにできるのは、とりあえず思い浮かんだ言葉をそのまま口に出すことだけだった。
「そう、なるのかな。自分が封印されてたってことは分かるし、グリードとかヤミーについても分かるんだけど……どうして知ってるのかとか、封印されてた理由とか、そういうのが……全然」
「…………」
その状態は、何となくアンクにも理解できる。
恐らくだが、今の“映司”はかつてのアンクの偽物──あの抜け殻の体に宿った意思と似たような状況にあるのだろう。もっとも、あの偽物の境遇など取り込まれていた頃の朧げな感覚でしか把握していないから、多少の違いはあるかもしれないが。
となれば、つまり目の前の“映司”は──。
(────いや、まだ決めつけるには早い)
偽物だと、そう断じるのは容易い。だが、そうするには映司らしい面が多すぎる、少なくともアンクはそう思う。あるいはそう思いたいだけなのか。
どちらにせよ、今の段階でそう判断するのは視野を狭めるだけだ。あくまで可能性として脳裏に留めておくくらいでいいだろう、そう結論を出して一旦思考の外に追いやった。
記憶が無いと言うのなら、それすらも利用するまで。“映司”が何者であるにせよ、今はアンクの傍にいてもらわなければならないのだから。
むしろ、記憶が無いことで上手く言いくるめてこちらの意見を通しやすくなる可能性すらある、これを利用しない手はない。そう自分に言い聞かせ、思考を切り替える。
まずは可能な限りの情報を引き出さなければ。本人が忘れていると思っていても、他者に聞かれることで思い出す何かがあるかもしれない。
「なら、覚えてるだけのことを言え」
「そうは言っても、本当にほとんど覚えてないんだって。あと覚えてるのは、俺もグリードだってことくらいで……ほら、この左腕、グリードとしての姿の一部だから」
「へぇ……」
「まあ、今の俺にはセルメダルが全然無いから、ほとんど力は出せないんだけどな。正直、さっきのヤミーの攻撃を受けるのも一苦労だったし……」
その口ぶりから察するに、あくまでグリードとしての姿を取ること自体は可能なのだろうか。人間の姿こそ取っているが、かつてのアンクのように人間の体を乗っ取っているというよりは、他のグリード達がしていたように擬態しているだけに見える。少なくとも、右腕だけで復活したかつてのアンクよりはマシな状況にあるらしい。
とはいえ、セルメダルが少ないのであれば戦闘での助太刀は望めないだろう。下手に戦わせてセルメダルが少なくなって形を保てなくなった、なんてことになったら笑い話にもならない。
……いや、その前に。
「だったら何でさっきのメダルを集めなかったんだ」
そう。セルメダルが足りていないと自覚しているのなら、あの時に回収すれば良かっただけのこと。
グリードの体を構成するにはお世辞にも足りていない量ではあったが、それでも無いよりはマシなはず。これはもう完全体云々以前の話のはずなのだが……。
「それはダメだ」
「ハァ?」
しかし、それは他でもない“映司”によって否定される。
「どういうことだ。セルメダルがあればお前は戦えるんだろ」
「それはそうなんだけど、俺はあんまりメダルを持っちゃいけないんだ。何でかって言われると説明できないんだけど……そうするとまずいことになりかねない気がする」
「……それも記憶が関係してるってことか。クソ、厄介だな」
あまりにも不可解なその言葉に思わず頭を抱えたくなる。
集める必要がない、ではなく、集めてはいけない?
いくら紫のメダルのグリードだからといって、セルメダルを「集めたくない」などと思うものか。もしそうなら、映司も真木もセルメダルへの拒否反応を示していたはずだ。しかしそんな様子は無かった、となれば間違いなく本能以外の何かが原因ということになるわけで……。
正直に言おう。お手上げである。
駄目だ。あまりにもグリードとしての常識からかけ離れている。こんなモノ手に負えるか。
アンクは思考の全てを投げ出したい気持ちに駆られ、天を仰いだ。取り戻した色、空の青さが目に染みる。……いやそうではなく。
「────よし」
状況を整理する。
目の前の“映司”はグリード。アンクがオーズ。そして“映司”は記憶喪失、かつ紫のメダルという最低でも二つの地雷持ち。
もうこうなったら、これから取るべき選択肢は一つのみと言ってもいい。
つまり。
「お前、行く当ては?」
「へ? ……無いけど。そもそもグリードだから、別にそんなもの必要ないし」
「なら丁度いい。お前、俺の監視下にいろ」
「…………は?」
何言ってんだコイツと言わんばかりの視線がアンクに突き刺さるが、素知らぬフリをして立ち上がる。
「外にいたらそのグリードだのヤミーだのっていう連中に見つかる可能性も高くなるだろ。匿ってやるって言ってるんだ」
「匿うって……アンクが?」
「ついでにあのオーズとやらの力も寄越せ。お前の口ぶりだと、これからもヤミーとやらが出て来る可能性があるんだろ。身を守る手段の一つくらいは無いと困る。それに」
何か言おうとした“映司”を遮るようにその顔を鷲掴んで一言。
「今のお前は戦えないのに、オーズになれる俺から離れられるのか?」
……もう脅迫以外の何物でもない。ないのだが、紛れもない正論である。
アンクがオーズに変身したことで、他の人間をオーズにすることはできなくなった。
そんな状況でアンクから離れたら、“映司”は自分の力のみで他のグリードやヤミーの襲撃を切り抜けなければならなくなる。あのカマキリヤミー一体を相手にするのすら難しかったのだ、そんなことになれば一体どれだけ持ちこたえられるか。
“映司”もそれは分かっているのだろう、苦虫を嚙み潰したような顔で突きつけられた指を睨みつける。
ここまで来ればあともう一息だ。最後の後押しとばかりに餌をぶら下げてやる。
「俺に協力するんなら、お前の記憶を取り戻す手伝いをしてやってもいい。お前だって、何も分からずに狙われるのは避けたいんじゃないのか?」
その言葉に“映司”は左手を握り、そして。
「──わかった。お前に協力してやる」
アンクの手をぐっと掴んで振り払い、険しい表情でそう告げる。
予想通りのその反応に、アンクはにやりと口角を吊り上げた。
「交渉成立、だな。安心しろ、お前が働いた分は返してやる。……あー」
そこまで言ったところで、アンクはふと大切なことを思い出す。
「お前、名前は?」
あくまで心の中で“映司”と呼んでいただけで、目の前のグリードがそう名乗ったわけではない。
グリードである以上、恐らくは他の名前だろう。映司なんて日本人らしい名前のグリードがいるはずもないだろうし。
名も知らぬグリードはアンクの問いを受けてじっと黙り込み、ぐるりと目線を一周させる。
その反応にもしやと思ったアンクの考えは、すぐに肯定で返された。
「…………わからない」
予想通りと言えば予想通りの答えに、アンクはそうか、とだけ返す。
名前がわからないというのなら、ひとまず呼ぶための名前を付けなければ。いつまでも「お前」なんて呼び続けるわけにもいくまい。
このグリードに相応しい名前なんて、そんなもの。……そんなものは。
「──────エイジ」
「え?」
「お前の名前だ。思い出すまではそう名乗れ」
馬鹿馬鹿しい感傷だ。名無しのグリードに付けてやるにはあまりにも勿体ない名前。
きっといつかこいつが己の記憶を取り戻した暁には、この淡い期待に似た感情も粉々に打ち砕かれるだろう。それはアンクとて分かっている。
分かっているけれど──それでもどうしようもない想いが、欲望が、アンクを突き動かしてしまった。
これは、ただそれだけの話だ。
・鷹野アンク
メンタルハボドボドダ!
ゴーダのようなパターンなら割り切れるが、なまじ別世界の本人疑惑が強いだけに映司とエイジを別人だと思えない。
・エイジ
記憶喪失。
意味記憶や手続き記憶はあってもエピソード記憶はない状態が近い。グリードなら本能的に知っていることであればわかるが、それ以外は「理由はわからないがこうしなければならない」という思考になる。
アンクには脅されているも同然なので好感度が低い(というか低くなった)。
初対面の男のツンデレなんぞわからない。
・タカカンドロイド
本編と異なり、わざわざ二人が去るのを待って回収を行った。