Re:OOO -いつかの明日を求めて- 作:オタクヤミー
夢見町って実際どんな感じの立地なんですかね……俺は今、フィーリングで登場人物に夢見町を歩かせている……。
「クソッ!」
ガン、と何か固いものを蹴り上げる音が廃ビルの中に響き渡る。次いで、その音の主の苛立ちを示すかのように荒く歩き回る音が。
音の主──昆虫を彷彿とさせる姿の緑の怪物・グリードは、それでも尚治まらない怒りとやるせなさのままに、再び足を上げ──。
「やめなよウヴァ、みっともない。ただでさえ姿を見られたせいで騒がれてるんだから、これ以上手間を増やさないでくれる?」
背後から聞こえてきた、揶揄うような、あるいは嘲るような声に、舌打ちを一つして足を下ろした。
足元に視線を下ろせば、本来ならば外骨格に覆われているはずのそこは、むき出しの貧相な有様を晒している。ウヴァを構成しているコアメダルが足りていないが故だ。
そしてそれは他のグリードも同じ。その場にいるグリード達の全てが、胸部が、脚部が、あるいは腕部がむき出しの不完全な姿をしていた。
原因は既に分かっている。
先程声をかけてきた猫類系のグリード・カザリは、目覚めた時に
それに、800年前の封印されたあの瞬間のことを考えれば、
……そうだ。分かっている。そんなことは、ウヴァだって分かっているのだ。
だが、理屈と感情は違う。
「■■…………」
絞り出すような声で
■■。■■。
なんで俺達を裏切った。なんでオーズなんかに従った。そんなことをすれば俺達グリードに未来はないと、お前なら分かっていたはずだろう。
『このまま行けば、遅かれ早かれ俺達は用済みになって終わりだろうしね』
そう呟いて首をすくめてみせた■■のことを思い出す。
グリードの癖にどこか達観した奴だった。いつだって全てを諦めたような眼をして、それでいて何もかもを諦めまいとして。俺達他のグリードとは違う、あまりにも歪で、あまりにも──それを知ってしまったから、俺は──。
「……ああ、それとも、そんなにあの友情ごっこを踏みにじられたのが応えたの?」
「────黙れ!」
思い出の世界に土足で踏み込んできたカザリを雷撃を飛ばすことで牽制する。そのまま感情に任せて追撃しようとし──。
『ウヴァはすぐに熱くなりすぎなんだって。だから王にすぐ足元を掬われるんだよ』
頭をよぎった言葉に、反射的に振り上げようとした腕を止める。
今となっては敵である奴の言葉であろうと無視できないのは、それが紛れもない事実であることだけではなく、その記憶がウヴァにとっての■■■ものの一部であるからか。グリードらしくもない感傷であることは分かっている、だがそうと分かっていても捨て去ることができなかったのだからしょうがない。
「……ウヴァがその様子なら、次は私が動いた方がいいかしら。セルメダルは勿体ないけれど、このままってわけにもいかないし」
「メズールが行くなら、俺も!」
「だってよ、ウヴァ」
「…………俺がやる。お前らの手なんて必要ねぇ」
わざとらしいとすら思えるその会話を切って捨て、昂った気を静めるために人間でいう深呼吸に似た動作を行い、冷静な思考を取り戻す。
復活して早々に生み出したヤミーは帰ってこなかった。それはつまり、■■はコアメダルを返すつもりはないということだ。
実力行使をするにしても、相手との相性を考えるとこの状態で会敵するのはまずい。オーズと共にあったとはいえ、完全体となった自分達グリード全てを倒してみせたのは伊達ではないのだ。ウヴァは良くも悪くも生存本能が強い、勝率が低い可能性のある賭けをする気は起きなかった。
そして、だからといって説得が通じるような相手ではないことは、ウヴァが一番良く知っていた。■■の強情さは、恐らくはグリードの中でも一番である。甘言を囁いてみせたところで、あるいは何らかの方法で脅しめいたことをしたところで、返ってくるのが強烈な一撃であることは想像に難くない。
■■が何を思っていようと、何を考えていようと、まずはコアメダルを取り戻さなければ。
そのためにはセルメダルが必要だ。カマキリヤミーは倒されてしまっただろうが、もう何体かヤミーを作ればそのどれかはそれなりにメダルを貯め込むだろう。まずはセルメダルでこの不完全な体を補い、コアメダルを奪い返すことを優先して戦いを仕掛け、メダルを奪った時点で即時撤退する──作戦としてはこれが一番無難なところか。
……そして、完全体に戻った暁には。
その時、ウヴァは■■のことをどうしたいのだろう。裏切った落とし前を付けさせたいのか。あるいは、■■の馬鹿馬鹿しい考えを捨てさせて、共にグリードとして世界を飲み込みたいのか。
そう考えた時に思い出したのは、何故だろうか、グリードとしての姿の■■ではなく、人間に擬態した■■のえくぼが浮かんだ顔だった。
「…………まずい」
ポケットに入れていたスマートフォンから断続的に伝わってくる振動に、アンクは思わずそう呟いた。
大体は外にいることもあって常にマナーモードにしてあるスマートフォンのバイブレーションは、何度も何度も繰り返されて止まることはない。つまり、通知の正体は電話というわけだ。
アンクに電話をしてくる者は少ない──何せ交友関係が著しく狭いので。しかもこのタイミングで電話をしてくるとなれば、自ずと発信元は限られてくる。
うんざりした表情を隠しもせずにスマートフォンを取り出したアンクは、案の定画面に表示されていた『比奈』の二文字に眉間の皺を深くする。
あれこれと異常事態が発生したせいですっかり頭から抜け落ちていたが、元々アンクが日本に帰ってきたのは比奈に会うためだ。それをすっかりスルーして到着予定時刻を過ぎても連絡がないとなれば、連絡の一つや二つは当然と言えた。まあ、それをアンクが面倒臭いと思ってしまうのはまた別の話であるが。
しかし、そう考えた所で一つの憂いを思い出す。
(…………いや、違う可能性もあるか)
そう、他でもない、恐らく病院に搬送されたであろう信吾のことだ。
見たところ致命傷は無かったし、それに類する負傷があったのならばエイジの側から言及しているだろう。それが無かった時点で命の心配はしていない。
だが、それはあくまで戦場に立つ者の理論だ。死んでいない、後遺症も残らないからといって心配する必要が無いのかと言えば答えは否。それくらいはかつてグリードであったアンクでも分かる。というよりは、年月をかけて分かるようになったと言うべきか。
それに、アンクとて、泉家に引き取られてからの人間にとっては長い年月、人間としての大半の生を共に過ごしたこの世界の信吾に対して情がある。早めに事情を把握できるのであればそれに越したことはなかった。
急に動きを止めたアンクの様子を伺うエイジにはジェスチャーで静かにするよう示し──そうだ、エイジを連れて帰るのであれば信吾への言い訳も考えなければならない──通話ボタンをタップする。
嫌な予感がしてスマートフォンを耳から少し離した場所で持てば、やはりと言うべきか、明らかに耳元で聞くべきではない大音量の声が溢れ出した。
『アンク⁉︎ 良かった、やっと出た! 今どこにいるの、まさかアンクも何かあったんじゃ……!』
「いいから声小さくしろ、鼓膜破れるだろうが!」
『あっ、ごめん……じゃなくて!』
「俺は少し厄介ごとに巻き込まれただけだ、気にするな」
厄介ごと、と口にした瞬間にエイジが目を伏せたのが見えたが、こればかりは事実なのでフォローを入れるつもりはない。アンクとしては感謝することもあるが、それとこれとは別問題である。何なら罪悪感を抱いて従順になってくれるのであれば尚良し。
アンクも、と口にしたということは、既に比奈は信吾に何かあったことを把握しているのだろう。後は信吾が意識を取り戻しているかどうか。
「それより、俺“も”ってのはどういう意味だ」
『それが、お兄ちゃんが病院に運ばれたらしくて……怪我はそこまで酷くないけど、誰かに襲われたとしか思えないって電話で言われたの』
「今の様子は」
『まだ意識は戻ってないと思う。病院から連絡が来て、今向かってるところだから詳しいことはまだ分からなくて……』
「……そうか」
本来辿るはずだった出来事に比べればマシなどと、比奈の落ち込んだ声を聞いては言えやしない。ヤミーを倒したからひとまず心配はないと説明するなんて以ての外だ。そしてアンクに比奈を慰めるなどという芸当ができるはずもなく、ただそれだけを返して黙り込む。
五体満足な状態でこれだ、かつての“比奈”はどれほどのショックを受けていたのか。かつてのアンクにとっては必要なことだった以上謝罪するつもりも後悔もないが、人間的な感性を身に付けた今になってそれを突きつけられるのは中々に応えるものがあるのも事実だった。
『アンクはどうする? 病院に来るなら、色々持ってきてほしいものとか出てくるかもしれないけど……』
「俺は……」
行くべきだと、人間として積み重ねた21年間を踏まえてそう思う。しかしそのためには、どうしてもエイジの存在がネックになる。
いくら事情が事情とはいえ、見ず知らずの人間(ですらないのだが)を病室に連れていくのもおかしな話。信吾への言い訳もまだ考えられていない。何より、一般常識というものに欠けているであろうエイジを人間が多くいる空間に連れていくのは避けたいところだ。
とはいえ、エイジを何とかした上で病院に行くなんて、そんなことが出来る方法は──。
「…………その手があったか」
『え?』
いや、ある。一つだけだが。
というよりも、思い付いてしまえばそれが最善な気すらしてきた。考えてみれば単純な答えに、アンクは脱力すらしそうになってしまう。
「とりあえず病室は後で向かうから部屋だけ教えろ。先にクスクシエに向かう」
『クスクシエに?』
「知世子に預けたいもんがある。それだけ終わらせたらそっちに行くから待ってろ」
『わ、わかった。じゃあ……そろそろ病院に着くし、後はメールで連絡するね』
「ああ」
通話を切り、スマートフォンを仕舞う。
ご丁寧に未だ口を閉じたままのエイジの手を引いて、向かう先はただ一つ。
「行くぞ」
「……いや、どこに?」
「決まってるだろ────お前を匿う場所だ」
ま、つまりは安心安定のクスクシエである。
今日は定休日、もとい次のフェアのための改装中のため、中に客がいる心配はない。アンクがそういう日を選んで帰ってきたとも言う。大勢の客がいる中で感動の再会的なサムシングをするのも、帰った日以外が定休日でその日一日中比奈と知世子に振り回されるのも御免だったので。
確か比奈は改装を手伝っていたはずだし、今日アンクが訪れるのも予定にあったこと。知世子の側もアンクが来るとわかっている以上、事前に連絡を取るまでもない。比奈が病院に向かったことを考えるとその点で疑問に思われたりはするかもしれないが、それに関しては理由をきちんと用意してある、というか連れて来ている。
というわけで、ノックの必要はないと判断した。そもそもそこまで礼儀正しい人間でもないアンクらしい振る舞いである。
何なら現代の一般常識に疎いはずのエイジの方がそのあまりのためらわなさに困惑する中、アンクは勢いよくクスクシエのドアを開け放った。
「知世子ォ!」
「アンクちゃん! ひさしぶりね、元気だった?」
わざわざ顔を出す羽目になった憤りを込めたアンクの咆哮にも似た声に反応して店の奥から顔を出した女性──白石知世子は、相手の形相など意にも介さず、ニコニコと満面の笑みで来客を歓迎する。
そうなれば反応に困るのはアンクの方だ。完全に出鼻を挫かれた形になってしまった以上、その感情を維持し続けるのは難しい。ただでさえ“前”のこともあって頭が上がらないのだ、一度ペースを握られてしまえば後はもう押されるのみである。
両肩を掴まれ、全身を眺められ、しかし振り払おうにもアンクのなけなしの良心がそれを咎めるため叶わない。
藁にも縋る思いで連れてきたエイジを見ても、だんだんと死んだような目になっていくアンクとテンションの高い知世子を前に困惑して二人を見比べるばかり。下手に知世子をグリードの力でもって引きはがすよりはマシな対応だと言えなくもないが、少なくとも今のアンクが求める反応ではないのもまた事実である。
「うんうん、ちゃーんと元気そうね。比奈ちゃんからも色々聞いてたけど、やっぱり自分の目で見れると安心するわ」
「わかった、わかったから放せ!」
何とかもがいて知世子の腕から脱出したところで、返ってくるのは相変わらず屈託のない笑みばかり。アンクの対応に気分を害した様子を見せやしないどころか、元気なのはいいことだとばかりに喜ぶ始末。
……これだから知世子と会うのは嫌だったんだ、とアンクは心の中で嘆息した。何せこの女ときたら、アンクの予想の範疇に全く収まってくれやしない。想定の上を行くタイプとは相性が悪いアンクにとってはある意味で一番の天敵と言っても過言ではなかった。
「俺のことはいいだろ、今回はお前に少し頼みたいことがあって来たんだよ。ほら」
「うおっとと!?」
これ以上ペースをを乱される前にと、盾にするかのようにエイジを知世子めがけて押し出す。不意を突かれてバランスを崩したエイジはそのまま知世子の目の前に立つ形になり、そのまま全く知らぬ中の二人が見つめ合うこと数秒。
「…………まあ、まあ、まあまあまあ!」
奇妙な、それでいて短い沈黙を破ったのは、知世子の歓喜に満ち溢れた声だった。
「アンクちゃん……こんなに気の置けないお友達ができたのね……!」
「はあ!?」
「きっと比奈ちゃんも喜ぶわ! ね、お名前は? 私は白石知世子、よろしくね! アンクちゃん、ちょっと素直じゃないけど良い子でしょ? そうだ、良かったらアンクちゃんと会った時のこととか教えてくれない?」
妙な誤解をした知世子は、アンクが困惑するのを気にも留めずにエイジの手を取る。そしてマシンガントークもかくやとばかりに出るわ出るわ質問の嵐。しかもアンクのことを一体何だと思っているのかと言いたくなるようなものまで混ざっていやしないだろうか。
ようやく話を出来るかと思ったらこの仕打ちとなると、流石のアンクも青筋を浮かべるしかない。エイジが困っている以上はしょうがないという内心の言い訳と共にずんずんと近付き、思い切り二人を引きはがした。
「いいから落ち着け! エイジ、お前も少しは抵抗するなりしろ!」
「いや、まあ、別に嫌なことされたわけじゃないし」
「誰がお前の心配なんてするか! 知世子が調子に乗るから言ってるんだよ!」
相変わらずのボケっとした反応に軽くエイジの頭をはたき、アンクは軽く咳払いする。とにかく時間が惜しいのだ、さっさと本題に入らなければ。
「知世子、確かここ、部屋がいくつか空いてたよな」
「たしかに屋根裏部屋ならあるわよ。でも、それがどうかしたの?」
「コイツ……エイジはちょっと訳ありなんだ。俺は今から病院に見舞いに行かなきゃならないからな、しばらくコイツを預かっておいてほしい」
「え?」
「へ!?」
知世子が、そして本人にもクスクシエに預けることを言っていなかったからかエイジ自身も驚いたような表情を浮かべる中、自分でも驚くほどにぺらぺらとそれらしいことを語っていく。エイジが記憶喪失であること。何者かに追われているらしいからあまり人が多い場所に連れていくのが望ましくないこと。勿論、グリードだのオーズだのについては伏せて。
アンクの、そしてエイジの様子から嘘や冗談の類ではないと判断したのだろう。知世子は先程までの活発な空気をしまい、真剣な目でアンクとエイジを見つめ返した。
「……そう、それは大変だったわね」
「信吾の……比奈の兄の見舞いが終わったら迎えに来る。ただ、もし入院するとなったら準備もいるからな、最悪泊まりの可能性もある」
「そういうことなら気にしないで大丈夫よ。エイジくんも、どーんと頼ってくれて大丈夫だからね!」
「あ、はい。それじゃあ、よろしくお願いします……?」
何故かエイジの返答が疑問形ではあったが、これで今日一日はどうにかなる目途がついた、のだろうか。ようやく肩の荷が一つ降りた気がして、アンクは深く息を吐く。
これで時間稼ぎはどうにかなるだろう。後は信吾への言い訳を考えるのと、自宅の空いている部屋を片付けるのと──の前に。
「エイジ」
「うん?」
知世子が意気揚々と二階へ上がっていくのを見つつ、エイジにだけ聞こえるくらいの声量でひっそり話しかける。
「いいか、グリードだのオーズだの、そういうことは絶対に口にするなよ。お前はあくまで記憶喪失の人間ってことにして大人しくしてろ」
「…………」
「エイジ?」
別にそんなに気にするほどのことでもないだろうに、エイジは眉間に皺を寄せて黙り込む。
まさかとは思うが、嘘をつきたくないだのそんな風なことを考えていたりするのだろうか。だが、だとしてもこれから先人間の中で生活していく以上は我慢してもらうしかない。
「もう一度言うぞ。絶対に、何があっても、お前の正体や俺がオーズとして戦ったことを俺の許可なしに誰にも言うな。でなきゃオーズとして戦うこともできなくなると思え」
「……ああ、わかった。とりあえず、人間のフリをすればいいんだよな」
知世子が既にいないことを確認し、もう一度、今度ははっきりとした声でそう告げる。オーズとして戦えないとまで言い切った事もあってか、エイジは今度こそ頷いた。
今ここでやるべきことは全て終わった。知世子に挨拶をしてから出るべきかとも考えたが、信吾の件もある、急いでいるのはあちらも把握しているから気にしないでくれると判断する。
クスクシエを出る時にふと振り返れば、エイジは言いつけ通り大人しくしたまま、アンクが出ていくのを見送るように立っていた。
クスクシエを出ると同時にスマートフォンを取り出し、比奈からの連絡が入っていないかを確認すれば、一件のメールの通知が目に入る。
タップしてメールを開くと、病室の番号だけでなく、持ち物についてもいくつか記されていた。どうやら入院することになったらしい。
【お兄ちゃんの意識が戻りました。検査があるから今日は入院になるそうです。必要なものを下に書くので持ってきてね】
……意識が戻った、と書かれたメール特有の少し固い文面にアンクは胸を撫で下ろす。問題ないことを理解したつもりではあったが、どうやら自分で思っていた以上に不安があったらしい。
本当に、随分と甘ったれた感性を身に付けたものだ。エイジと会ってからそんなに時間が経っていないはずなのに、そればかりを突き付けられる。勿論、それが嫌だったりなんてことは決してない。
「……新しく買う必要があるモンはないか」
何故だか気恥ずかしい気分になったのを独り言を呟くことで誤魔化す。そして久々の自宅に向けて足を進め、いくらか歩き。
────破壊音。次いで大勢の人間の悲鳴。
非日常的なその物音に反射的に顔を上げれば、家とは別方面から多くの人が走って逃げてくるのが見えた。
一様に恐怖に引き攣った表情を浮かべた人々を反射的に避ければ、彼らはアンクのことなど目に入らないとばかりに前を通り過ぎていく。彼らの背後を見ても何の影もない、つまり追いかけられたりしているわけではないようだが──。
(…………ちょっと待て)
思いついた……思い出した
そうだ、思い出した。かつての世界、アンクがグリードだった時、今頃は何をしていた?
カマキリヤミーを倒した後に信吾の身体を乗っ取り、アイスを食べながら映司にオーズやヤミーについて説明し、その後は。……その、後は?
人々が逃げてきた方向、その先にある銀行へと走り出す。
果たしてアンクの予想通り、そこには自分を生み出した人間の欲望のままに金を呑み込み、今まさに白ヤミーから進化を遂げたオトシブミヤミーがいた。
・鷹野アンク
いくらあの一年間が濃密だったからといって、起きた出来事全てを憶えているわけではない。何ならスタートからして色々と変わっているので当然と言えば当然。
・エイジ
Q.どうしてグリードやオーズについて隠せってひそひそ話された時に微妙な反応だったんですか?
A.グリードの聴覚じゃひそひそ話とかされても……。
・■■
コイツまたクソデカ感情持ち自称友人を生み出してる……こわ……。