Re:OOO -いつかの明日を求めて- 作:オタクヤミー
9話かけてようやくここまでってことは、完結するまでに原作話数×3話書かないといけない……ってコト……⁉︎(戦慄)
鴻上ファウンデーション最上階、会長室。
そこの主である男は今、目の前のモニターに釘付けになっていた。
「────素晴らしい!」
男──鴻上光生はそう喝采し、大きく腕を広げる。
「見たまえ里中くん、あの紫のメダルのグリードの顔を! 記憶を失い、己の使命を
その言葉に促されるがまま、秘書の里中がモニターに目を向ければ、そこに映るのはヤミーの元へと走るアンクとエイジの姿。その映像は一定時間ごとに別の視点へと切り替わり、多くのカメラが彼らを捉えていることを伺わせる。
アンクの予想は当たっていた。彼らはアンクがオーズに変身して以降、クスクシエ等の私有地の屋内にいる時を除いて常に鴻上の監視下に置かれていたのである。
「オーズの彼も実に良い。取り立てて強い欲望を持つ様子は今のところないが、だからこそオーズの力に振り回されることはない。あるいは、彼のような人間こそがオーズに相応しいのかもしれないね」
そう呟いた鴻上は、おもむろに鷹野アンクについての調査資料を手に取って眺める。
至って平凡な経歴が並んでいるように見えるそれは、だからこそ鷹野アンクという男の異常性を表している。人間としてどこか欠けていると評せる程度には欲望を持たず、そうなるに足る出来事に襲われてもいない。しかし、本当に何も語る所のない人間がオーズに相応しくあれるはずはないと、鴻上には奇妙な確信があった。
「彼らの利害は運命とすら言える程に一致している。片や、戦うための強大な力! 片や、グリードの完全復活の阻止! この素晴らしい欲望が生み出した協力関係こそが、いずれ我々に無限の力を、セルメダルをもたらす‼︎」
演説めいたその言葉を聞いた里中は、手にしていたセルメダルに視線を落とす。このセルメダルもまた、オーズによってもたらされた物だ。カマキリヤミーとオトシブミヤミー、あの二体のヤミーが落としたセルメダルを回収していたのは勿論彼らだった。
鴻上の言葉の正しさを証明しているかのようなそれらを前に、しかし里中は抱えていた疑問を口にする。
「ですが、今後あのグリードがセルメダルをそのままにするとは限らないんじゃないですか?」
具体的に言えば、そう、放置したり取り込むのではなく
言外にそう言ったことを察したのだろう、鴻上は里中の方へと体を向ける。しかし、その顔に里中の発言について憂う色は一切ない。
「勿論その可能性は高いだろうね。今後……
ニィ、と鴻上は不敵な笑みを浮かべる。
「果たしてそれを、他でもないあのグリードの自滅にも繋がることを、オーズが受け入れるかな⁉︎」
そう叫ぶと同時に興奮のままに資料を宙へと放り投げた鴻上は、椅子に腰掛けてモニターへと向き合う。
モニターに映るアンクは、息を切らして走りつつ、決してエイジから目を離すことはない。グリードという未知の生命体を監視するのとは全く異なる感情を宿すその目こそが、鴻上の言葉への答えとなる。
「あのほんの少しの時間だけで、オーズは紫のメダルのグリードに情を抱いた。そして、これから共に過ごすことで更に強く、深くなる。それが枷になってくれるとも」
そう、あのグリードはそういうモノだ。800年前から変わらない性質。それこそが、グリード達が封印され、今この時代に蘇るに至った原因だと言っても過言ではないのだから。
鴻上の言葉に納得したのか、あるいは端から興味などほとんど無かったのか、里中は特に相槌を打ったりすることもなくモニターに目を戻す。
いつの間にか場面は移り変わり、そこには一人の太った男──男に寄生したヤミーと対峙する二人の姿が映し出されている。このままであれば苦戦は必至であろう状況に、鴻上は好都合だとばかりに笑みを深めた。
「彼らの見極めは終わった。──さあ、次の段階に進むとしようじゃあないか」
先を行くエイジを追いかけて、息を切らしながら走る。ライドベンダーが無く、昨日のあの無茶な移動方法を封印した今、これしか移動手段がないのが悲しいところだ。エイジにやめろと言ったのがアンクである以上、鴻上ファウンデーション以外に文句を言うつもりはないが。
鴻上ファウンデーションはさっさと仕事しろ。具体的に言うと配達屋くらいは寄越せ。この配達屋というのがそのままの意味ではなく特定の人物を指しているのは言うまでもない。
いや、鴻上ファウンデーションについて考えるのは後だ。今はとにかくヤミーとそれを生み出したグリードに集中しなければ。
「いた、あそこ! でもあれは……寄生型⁉︎」
立ち止まったエイジのその言葉に、その視線の先を追いかける。そこには、あらかた食い尽くしたのか弁当配達のトラックから離れ、次の標的の元へと移動せんとする、ゆらゆらと覚束無い足取りでありながら目だけは欲望に輝いている横幅の広い男がいた。
おぼろげな記憶の中で見覚えがあるような気がするその顔は、やはりカザリのヤミーの宿主で間違いないらしい。今のところカザリの姿は見当たらないが、周囲にはいると考えておくべきだろう。そして、ヤミーが表に出てくる様子はないにも関わらずエイジがその正体を見抜いたあたり、やはりヤミーについての知識はある程度残っているようだが……。
「寄生型? 何か知ってるのか」
「……何となくだけど。ああやって人間の中に入り込んで、宿主の欲望を暴走させて本人に叶えさせることで体内にメダルを貯め込むタイプのヤミーもいる、んだったかな」
「なるほどな。それで?」
「え?」
「あのまま倒す訳にもいかないだろ。どうすればいいんだ」
アンクがそう問いかければ、途端にエイジはおろおろと視線を彷徨わせる。その様子を見れば、打開策を持たないことは一目瞭然だった。
寄生型のヤミーの厄介な点は、ある程度成長するまでは宿主から出て来ず、また表に現れることはそれ即ち宿主を中に取り込んでしまうことを意味する所にある。成長する前であろうと後であろうと、攻撃すれば即座に宿主にもダメージが入る。つまり、何も考えずにヤミーを倒してしまえば宿主はまず助からないというわけだ。
かつてのアンクであれば宿主の身など知った事ではないと言えたが、人間として21年間生きた上でそれを言えるほどの非情さは生憎持ち合わせていない。予想はしていたとはいえ厄介なことになったと、アンクは小さく毒づくとベルトを構えた。
「おいエイジ、メダル寄越せ」
「で、でもあの人は」
「ならあのまま見逃すつもりか? あのヤミーをどう倒すにしても、まずは動きを止めるのが先だ」
「……わかった!」
エイジがタトバのメダルを渡してくると同時に、持っていた買い物袋を交換とばかりにエイジに押し付ける。
エイジがそれを慌てて受け取るような声を背後に聞きながらメダルをセットし、オースキャナーを滑らせれば、三度目ということもあってすっかり慣れた感覚が身体を覆っていった。
タカ! トラ! バッタ!
タ・ト・バ! タトバ、タ・ト・バ!
「待ちやがれ!」
「ゥオ……? オオァァ!」
バッタレッグの跳躍力を駆使して男の進行方向へと回り込む。男──に寄生したヤミーは、鈍重な動きで首を傾げ、突然目の前に現れたオーズを見つめる。そしてオーズが己の、宿主の欲望を満たすには邪魔な存在であることを察した瞬間、それまでの動きからは考えられない俊敏さでオーズへと飛び掛かった。
不意打ちにも等しいその動きをなんとか回避し、背後から羽交い締めにすることで動きを封じ込める。しかし、ヤミーに寄生されているだけあってその力は人間のそれとはかけ離れており、オーズの力を持ってしても暴れる男を抑え続けるのは難しいとアンクが悟るのは早かった。
「このっ……さっさと出てきやがれ腰抜け野郎!」
中身はともかく外面は生身の人間でしかない以上は迂闊に攻撃できない。男を抑え込みつつ揺さぶってはみるものの、その程度でヤミーに影響を与えられるわけもなく。
この男の欲望は食欲だ。手元に何かしらの食べ物さえあれば、拘束した上でそれで気を引くなりして分離を促すこともできたのだが、タイミングの悪いことに既にトラックの中は空でありそれは叶わない。
「オオォォオ!」
「うおっ⁉︎」
「アンク!」
そして、一瞬の隙をついて男がアンクを振り払い、アンクはそのままの勢いで地面を転がっていく。荷物を放り出したエイジが何とかアンクを受け止めたものの、その間にも男は更なる欲望を満たそうと歩いていってしまう。
いっそこのまま行かせてヤミーが姿を現したタイミングでもう一度戦うべきか。そう考え、しかしいつ宿主が限界を迎えるかも分からない以上はその案を採用するわけにもいかず、アンクは歯軋りをしつつ立ち上がる。そして背中を向けている男を再び拘束するために駆け出そうとして、その腕が引かれたことで反射的に足を止めた。
「おい何すんだ、あのまま行かせるつもりか⁉︎」
「そんなわけないだろ! もしかしたらどうにかできるかもしれないんだ、そのためにはアンクに協力してもらわないといけないんだよ!」
「はあ? おま、そういうことはさっき言え馬鹿!」
「今思い付いたんだからしょうがないだろ!」
敵が逃げそうなことも忘れて口論に発展しそうになり、アンクは更に文句を言おうとした口をなんとか閉じる。言いたいことはまだまだあるが、ヤミーが逃げる前にそのどうにかできる方法とやらを実行しなければならない。
「それで、その方法っていうのは何だ」
ヤミーの動きはまた鈍くなっている、話をする時間くらいはあるだろう。そう判断したアンクが促せば、エイジはグリードのそれへと戻した左腕をヤミーに向ける。
まさかそのまま攻撃するつもりではあるまいかとぎょっとしたアンクの不安は幸いにして当たらず、エイジは自分の腕を見つめたまま口を開いた。
「アンクには、もう一度あの人の動きを止めてほしい。隙さえできれば俺が何とかできるはずなんだ」
「はず、だぁ?」
「ヤミーはセルメダルで出来てるって言っただろ? 逆を言えば、セルメダルを全部砕かれればそのヤミーは存在できなくなるんだ。あの人の中に寄生しているヤミーのセルメダルさえ砕ければ……」
「わざわざ引っ張り出す必要もないってわけか」
なるほど確かに、理論としては筋が通っているように思える。
エイジが紫のメダルのグリードであるならば、十中八九メダルを砕く能力を持ち合わせているはずだ。これで全てのセルメダルを砕くことができたらそれで良し。仮にセルメダルが残ってしまったとしても、宿主の中にいたところで安全が保障されないとなれば迎撃のためにヤミーが表に出る可能性は高い。試してみる価値は十分にある。
──ただし、この作戦に一つ大きな穴があるとすれば、それは第三者の介入を想定していないという点にあった。
「ぐっ……!?」
「なっ!?」
男の背後から奇襲をかけようと駆け出したオーズの体を、突如として突風が襲う。
数秒ほど経ってようやく局所的な嵐が晴れた時には、もうヤミーの宿主である男の姿はそこにない。そして、その代わりだと言わんばかりに、トラを彷彿とさせる姿の異形──グリードの一人であるカザリがいつの間にかアンクとエイジの目の前に立ち塞がっていた。
「悪いけど、これ以上ヤミーを倒されるわけにはいかないんだよね」
そう言って笑うような素振りを見せたカザリの動きに隙はない。彼を無視してヤミーを追いかけることが不可能なのは、その姿を見ただけで十分すぎるほどに理解できる。
コアメダルが揃っていないにも関わらず、圧倒的なまでの威圧感。かつてのアンクでは分からなかったそれ、人間という脆弱な生命体であるが故のそのプレッシャーを感じ、マスクの下で唇を噛みしめる。かつて映司が口にした“力の質が違う”という言葉の意味を、アンクはようやくその身で理解した。
じり、と僅かに後ずさり、カザリから距離を取る。気圧されたのか、あるいは無意識下で態勢を立て直そうとしたのか、それはアンク自身にもわからない。
「お前は──」
その一方で、アンクの中の冷静な部分があくまで自分とカザリが初対面であると振る舞うためのセリフを吐き出す。そんなアンクの異様さに気付いたのか、あるいはグリードを前にして危険を感じたのか、エイジがアンクを庇うようにその前に体を滑り込ませるのと、カザリが笑いを含んだような声でアンクに語り掛けるのは同時だった。
「なんだ、オーズに変身してるからてっきり話は聞いてると思ってたんだけど。もしかして君、良いように利用されてるだけ?」
「なに?」
嘲笑混じりのその言葉に、アンクは思わず眉を顰める。まるでエイジがアンクのことを騙しているかのようなその口ぶりは、さながら疑心と言う名の毒を埋め込むための一手か。
カザリの狡猾さをよくよく知っているアンクは、それがあわよくばアンクとエイジを仲間割れさせようという意図の元に発された言葉だと即座に察することができたが、これがエイジではなく全く見知らぬ姿のグリードなら、エイジの記憶喪失という事情を知らなければ、アンクにかつての記憶が無ければどうなっていたか。相変わらずの性格の悪さに、アンクは小さく舌打ちをこぼした。
だが、その言葉の中に収穫があったのも事実だ。少なくとも、カザリはエイジが記憶喪失であることを今のところは把握していない。上手く誘導すれば、エイジが記憶を失い弱体化していることを伏せたまま情報を引き出せる可能性だってある。
そんなアンクの様子に気付いた様子もなく──察しろという方が無理な話ではあるのだが──カザリは馬鹿にしたような態度を崩さず、更に畳みかけてくる。
「そういうことなら自己紹介してあげるよ、今代のオーズ。はじめまして、僕はカザリ。そこで君を庇うみたいなフリして利用してる奴と同じグリードさ」
「グリード……ヤミーの親玉か」
あくまでグリードという単語についてだけ言葉を返し、未だに自分を庇うように立ち続けるエイジの様子を伺う。カザリのことを知っているのか、あるいは記憶の琴線に触れることは無かったのか、見ただけでは分かりそうもない。しかし、それより何より、カザリの悪意ある言葉への反論の一つもないというのがどうにも気がかりだった。
顔を見るためにその背後から抜け出して横に並び──エイジの顔に何の表情も浮かんでいないのを見て息を飲む。紫のコアメダルの持ち主に相応しい、凍てついた、無そのものとしか言いようのない顔。その中で両の瞳だけが鋭い光を放っているのが、尚更恐ろしさを感じさせて。
「ッ、エイジ、お前……」
声をかけようとして、何と言ったらいいもの分からずに言葉が喉の奥で消えていく。しかし、そんなアンクの声でも何かしらの切欠にはなったのか、次の瞬間にはエイジの顔に困惑、そして敵意のようなモノが浮かんでいた。
カザリはエイジのそんな異変を知ってか知らずか、いささか芝居がかった動きで両腕を広げ、おどけたような仕草を取って段々と距離を詰めてくる。
「エイジ? もしかしてそれ、君のこと? 随分おかしな名前を名乗ってるんだね」
「……別に、おかしくなんてないだろ」
「おかしいに決まってるじゃないか、せっかく協力してくれてるオーズにわざわざ違う名前を教えるなんて。ねえ────」
「
告げられた耳慣れないその名に目を見開く。そしてそれはエイジも同じだった。
「お、れは…………」
続く言葉は何だったのか、それはアンクには分からなかった。もしかしたらそれはエイジ自身も同じだったのかもしれない。ただそれだけを呟いた彼は、そのまま唇を引き結ぶ。
ギルなんてグリードをアンクは知らない。その名前が真実のものなのか、それを知る術もない。しかし、このままカザリに好き勝手に話させれば話させるほどエイジに良くない影響が及ぶことは確かだ。となれば、今アンクがするべきことは決まっていた。
先程のエイジがしたように、今度はアンクがエイジを背後に庇う。訝しげに首を傾げてみせたカザリを睨みつけ、その策謀が無駄であると示すために鼻で笑って見せる。
「はっ! ギルだか何だか知らないが、こいつについてお前にとやかく言われる筋合いはないな」
「へえ、随分と入れ込んでるんだね。そんなにギルに優しくしてもらえたの?」
「優しく? こいつが? むしろ世話が焼ける一方だ。知り合いだか何だか知らないが、こいつを語るには付き合いが浅すぎるんじゃないのか?」
ちょっと、という背後から聞こえてきたいかにも反射的に漏れましたと言わんばかりの不満げな声は無視をする。そのままカザリから視線を逸らさずにいれば、カザリは興醒めだと言わんばかりに溜息を吐いた。
「まあ、そう思いたいならそう思えばいいんじゃない? 君が後悔することになったところで僕はどうでもいいし」
そこで言葉を切ったカザリは、今度はアンクではなく背後のエイジへと目を向ける。
まだ何か企んでいるのかとアンクが思考を巡らせるのと、カザリが再び口を開くのはほぼ同時だった。
「そんなことよりさ。ねえギル、なんでまたオーズなんかと組んだの?」
「なんでって……そんなの、お前達グリードを完全復活させないために決まってるだろ」
グリードの完全復活の阻止は、ほとんどの記憶を失ったエイジの中であってもはっきりと残っていた目的意識だ。当たり前のことを聞くなとでも言いたげなエイジのその言葉を、しかしカザリは肩をすくめて流してみせる。
そして。
「君はオーズに裏切られたのに?」
──その言葉に、エイジの体が固まる。
「俺が、オーズに……?」
喘ぐように口にしたその言葉が信じられなかった。エイジはカザリの言葉を繰り返し、しかし受け入れられず、さりとて違うと言えるだけの何かも持たず、ただ俯くことしかできない。
「まさか、この期に及んで裏切られてないなんて言うつもり? それなら、どうして僕達だけじゃなくて君まで封印されてたわけ?」
そうだ、どうして自分は封印されていたのだろう。
封印されていたことは覚えている。なら、その封印はどうして、どうやって施された物だ? 先代のオーズはどうやって自分を封印した?
一度考え出してしまえば、もうその疑問を無視することはできなかった。エイジの思考が、何故、どうして、そんな言葉ばかりで埋まっていく。アンクが咄嗟にエイジの腕を掴んで己が付けたその名を呼ぶも、それにすら気付くことはない。
そして、カザリはそんなエイジに追い打ちをかけるように囁きかける。
「所詮オーズは僕達グリードの敵だ。そのオーズが君を裏切らない保証なんてない。だったらいっそ、その前に切り捨てた方が良いと思うけどね」
「──ふざけんな!」
アンクが聞いていられたのはそこまでだった。その不愉快な事しか口走らないグリードを黙らせるべくトラクローを振りかざし、しかしその爪はあっさりとカザリの左腕で受け止められてしまう。
カザリの視線がエイジからオーズへ、そしてオーズドライバーの中心、填められたトラメダルへと移っていく。それに気付いたアンクが大きく飛び退ると同時に、一瞬前までアンクが立っていた場所にカザリの腕が振り下ろされた。
「あーあ、流石にそう簡単には行かないか。一応聞いておくけど、僕のコアメダルを返すつもりは?」
「そう言われて素直に渡すと思うか?」
「さあ? 案外ギルは渡してくれるかもね」
警戒は解かぬままにアンクがエイジへと視線を向ければ、カザリとアンクの会話など全く耳に入っていないのか、先程までと全く変わらぬ姿勢で瞳を泳がせるエイジの姿が見えた。記憶が無いと分かった時とよく似ているその状況が、いかにエイジの動揺が大きいかを示している。
もっと警戒すべきだったと、今更ながらにアンクは自分の浅はかさを呪う。エイジへ揺さぶりをかけることなどいくらでも想定出来たはずなのにこのザマだ。次はこうならないように後でエイジとしっかり話し合わなければなるまい。
……そう、
それは別に、エイジが映司とよく似ているだとか、そういった希望的観測から来る話ではない。エイジと出会ってからのこの短い時間でも嫌というほどに見せられたお人好しぶりこそがアンクにその確信を持たせているのだ。
かつて一人の人間に裏切られたからとあっさり人間全体を切り捨てるような者が、初対面の信吾を庇うようにヤミーと対峙するものか。ひったくり犯を捕まえるなんて行動が咄嗟に出来るものか。ましてや、己の欲望のせいでヤミーに寄生された人間の身を案じるなんて。少なくとも、アンクがエイジをそれなりに信用に値すると判断するには十分だった。
そんな自分の考えをを示すように、アンクはエイジを再び背後に庇ってみせた。そんなアンクを見て何を感じたのか、カザリは人間態であれば顔を顰めていたであろうと言えるくらいには不愉快そうな空気を発する。
しかし、そんな風に自分の感情を発露させるのはプライドの高い彼にとっては中々に許し難いことなのだろう。人間で言う深呼吸にも似た肩の上下運動を行ったカザリは、すぐに先程までの余裕そうな雰囲気を取り繕ってみせた。
「まあ、ギルだってすぐには答えは出せないだろうしね。少しなら待っててあげるよ……そうだね、あのヤミーが成長し切るくらいまでは」
ちらりとカザリがヤミーが去った方向を見る。これだけの時間が経ってしまえば、もう追いつくことはできないだろう。
寄生型のヤミーが成長し切るとは、つまり宿主が死を迎えるということだ。人質を取られたも同然のその言葉にエイジはようやく己を取り戻し、はっと顔を上げるとカザリのことを睨め付けた。
「それじゃ、また後で。賢い選択ができるといいね」
そう言うや否やカザリは大きく跳躍し、見る間にその姿が遠ざかっていく。
後に残されたのは、彼が語った過去のオーズについての謎、そして名前すらも不確かになった一人のグリードだった。
・鷹野アンク
うるせー! 知らねー! こいつはエイジだ‼︎(暴論)
先代オーズの裏切りについては「だろうな」という認識。むしろあの男が裏切らないわけがないという負の信頼すらある。
・エイジなんだかギルなんだかよくわからないグリード
指摘されたりそれについて考える切欠を与えられれば「そういえば◯◯だった気がする」となることもある。内容による。
記憶がないので過去について何か言われると揺らぎやすい。
・某配達屋()
とはいえ、現時点のプライド無駄に高過ぎ状態で寄越されても……というアレ。