「いや~~~辛いわ~~~。家の中で遊ぶの辛いわ~~~。」
そう言ってリビングのソファの上でゴロゴロと転がりながらゲームをし続けるおにいちゃん。
最近では外出する機会も増えてきたけれども、まだまだ世間一般的には穀潰しと言われるような日々を過ごしていた。
まぁ、以前ゲームセンターで補導員に捕まりそうになったって話もカズ君から聞いているから、平日の昼間に無理に外で遊べとは言えないけれど。
おにいちゃんやかえで、もみじちゃん、そしてカズ君たちと行った旅行の日から既に数日経過していた。
あれからおにいちゃんはほぼ毎日外出することもなくゲームをしたりマンガを読んでばかりいる。
カズ君と遊んだらとおにいちゃんに言ってみたところ、カズ君には既に遊びの誘いを断られたとおにいちゃんは言っていた。
珍しいこともあるものだ。
とはいえ先日の旅行、もともとカズ君がバイトの日程を変えてまで参加してくれたこともあって、今はそれの穴埋めに奔走しているんだろうと思うけれど、こういう時カズ君いないのは不便ね。
それはそうと、やはりこのままおにいちゃんを家にずっと居座らせておくのはマズい。
ニートの道からやっと戻って来れそうな兆しを見せたのに、ここで手をこまねいていては再度その道へと戻っていってしまう可能性が高い。
となると、やはり先日から計画していたおにいちゃんを中学校へと通わせる計画を本格的に始動させるべきだろう。
問題はいつからにするか、だけど……。
カズ君と相談してから決めようかしら……。
そんな風に考えていた時、不意にインターホンのチャイム音が鳴った。
はて、誰だろう?
カズ君は来れないって言っていたみたいだし、おにいちゃんが通販でも使ってまたマンガかゲームでも買ったのかしら?
そう思いながら私は玄関を開けて来客を確認した。
そこにいたのは私やかえでも通っていた中学の制服をまとったもみじちゃんだった。
私はもみじちゃんに声を掛ける。
「あ、いらっしゃい! 学校帰り?」
「はい! まひろちゃんいますか?」
「まひろちゃん? うん、いるよ!」
そうやって話しているとおにいちゃんにも聞こえたのだろうか?
「なんか用?」と言いながらおにいちゃんがリビングから歩いてきた。
そのおにいちゃんの姿を捉えたもみじちゃんは嬉しそうにおにいちゃんに挨拶をしていると、そのもみじちゃんの後ろ、玄関の扉に隠れていた二人の女の子が嬉々としておにいちゃんを見ていた。
その視線に気づいたのか、おにいちゃんは私を盾にして「だれ!?」と大仰なリアクションをとっていたけれど。
おにいちゃん……。
もみじちゃんはその女の子たちとパフェを一緒に食べに行くらしいけれど、わざわざおにいちゃんも誘いに来たみたい。
これは家の中でずーっとゲームばっかりしているおにいちゃんには正に渡りに船ね。
「この後用事が……」なんておにいちゃんは言っているけれど、そんなありもしない用事なんかでせっかくの機会を潰してたまるものですか。
「よかったね~、まひろちゃん! ちょうどヒマしていたじゃない。」
そう言ってから私はおにいちゃんに対してパフェ代を渡してもみじちゃんたちにおにいちゃんを差し出す。
よしよし、これでおにいちゃんを外出させることに成功したわね。
次はちとせ先輩に連絡しておにいちゃんを学校へ行かすための準備をしないと。
確かもみじちゃんは中学一年生よね……。
ということはあの女の子たちも中学一年生かな?
だったらおにいちゃんは中学一年生として編入させた方がいいかもしれないわね。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
「はぁ~、昼飯を食べ損なったせいで腹減ったなぁ……。ハンバーガーでも軽く食べて小腹を満たすとするか……。」
先日の温泉旅行の後、俺は日頃よりも慌ただしい生活を送っていた。
というのも、俺が通っているゼミの教授から膨大な量の課題を出されているからだ。
そして今日も今日とて大学の図書館で資料を集めてレポートを書いていた。
幸い先日の温泉旅行で予定を代わってもらった友達からは、今のところこの日に入ってくれという連絡がきていない。
そのお陰か、まだ余裕を持ちながら課題に取り組めているけれど、これでバイトも忙しくなってくるといよいよ俺に余裕がなくなってくるだろうな……。
そんなこともあって今日はお昼を食べずにずっと大学図書館に籠っていた。
講義?
どうしても優先してしまうことって……、あるよね……。
いや、本当は良くはないんだけれども。
そしてある程度調べものが出来た俺は、大学を後にして近場のハンバーガーショップへと足を運んだ。
「いらっしゃいませ~。」
ハンバーガーショップへと入ると、店員さんの元気な声が響き渡る。
あれ? というかこの声ってどこかで聞き覚えが……。
そう思って俺は店員さんの顔を確認すると、そこにいたのはなんと先日一緒に温泉へと行ったかえでちゃんがカウンターに立っていた。
「あれ? かえでちゃん?」
「あ、新川さんじゃん! 先日はありがとうございました☆」
「いやいや、こちらこそ先日はありがとう。宿の予約してもらったりとか。」
「送迎してもらうんですから、それくらいは私たちの方でやっておかないとって思っただけですよ!」
ああ、やっぱりかえでちゃんはいい娘だな~。シミジミ
と、いかんいかん!
あまりカウンターで話をしているとかえでちゃんや他のお客さんに迷惑か。
さっさと注文しないとな。
「はは、そう言ってもらえたら助かるよ! あまり話をしていても仕事の邪魔だね。注文いいかな?」
「ああ、はい! どうぞ!」
「それじゃあ……」
――――ハンバーガーって偶に無性に食べたくなるんだよな~。
あの後、俺はかえでちゃんからハンバーガーとかポテトとかを受け取って空いていた席に座ってそれを食べていた。
今日はこの後バイトがあるから、しっかりと食べて頑張らないとな~とかぼんやりと考えていた時、俺のスマホに着信があった。
誰からだろうと画面を確認すると、そこにはみはりちゃんの名前が表示されている。
う~ん……、いったいなんの電話だろうか?
とりあえずさっさと電話に出ようと思ってスマホを耳に当てる。
「もしもし、みはりちゃん。いったいどうしたの?」
『カズ君! おにいちゃんを中学に通わせることになったよ!』
俺はそのみはりちゃんの言葉に思わず咽そうになった。
前々から聞いていたけど、いざその時になるとやっぱりビックリする。
「ゴホゴホ、いつから?」
『そうね、明日からかな。』
「そりゃまた急だね。」
『だっておにいちゃん、いっつも家でゴロゴロしているんだもん。このままじゃどこまでいっても穀潰しよ。それに今日はもみじちゃんやそのお友達と遊びに行ってるの。だから同じ学校の同じ学年に通わせることが出来たら、友達もいるから寂しくないだろうし少しはおにいちゃんの生活も矯正できるでしょ?』
「……でもクラス違うかもしれないよ、そのお友達と。」
『そこはまぁ、まかせて。』
だ~めだこれ、俺ではやっぱり説得できないや。
真尋、頑張って中学生活を送れよ……。
俺はお前がどこに行こうとも友達だからな……。
『ちなみにまだおにいちゃんにはその話をしていないよ。帰ってきてから話をするつもり。』
「本人はまだ知らないのか。」
『そうそう。それで明日おにいちゃんが学校から帰ってきてからお祝いのパーティをしないかしら?』
「明日? 確か予定はなかったかな。しかし中学に行くだけでパーティか……。」
確かにこれまで2年間、家からほとんど出ることがなかった真尋が再度中学校に通うようになるなんてことはお祝いをしてもいいことなのかもしれないけれど。
みはりちゃんは本当にブラコンだな。
とはいえ、さすがにこんなことでパーティを開かれたら真尋本人は失笑するだろうけども。
「まぁ、それなら俺もそのパーティに参加させてもらおうかな。ケーキの方は用意させてもらうよ。」
『ありがとう、カズ君。よろしくね!』
そう言ってみはりちゃんは電話を切った。
いやーしかし、大変なことになってしまったな。
前からそういう話が挙がっていたとはいえ、本当に真尋が再度中学校に通うことになるとは。
俺は心構えが出来ていたから驚く程度で済んだけど、俺が真尋の立場だったとしたら思考停止しているか気落ちしているだろうな~。
なんでもう一回中学校に通わなければいかないんだ! てな具合に。
明日もし真尋が気を落としていたら慰めてやるか……。
――――翌日になって、俺は駅前の洋菓子屋で買ったケーキを手に緒山家へと向かっていた。
みはりちゃんにはあの後連絡が来て、パーティを18時から行うと聞いている。
今の時刻は17時半を少し過ぎた頃合い、このまま緒山家へと向かっていたらちょうど良い時間になるだろう。
さてもさても真尋の反応だけが気掛かりだけど……。
あいつは面倒見がいいから、案外すぐに中学生活に馴染んで楽しんでいるかもな。
勉強は……、さすがに2年間ろくにやっていなかったら忘れていそうだけれども。
なんにせよ、あの温泉旅行での会話で俺は暫く真尋のことを見守ろうと思ったんだ。
となれば、真尋から手を貸してくれと言って来るまではなにかをするべきではないだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に緒山家に着いた。
案外早くついてしまったことにちょっと驚いたけれども、この際だからお邪魔させてもらおうかと思って緒山家のチャイムを鳴らす。
すると少ししてから「はーい」という声と共にみはりちゃんが玄関を開けて顔を出してきた。
「みはりちゃん、先日の旅行ぶり。ケーキ買って来たよ。」
俺はそう言って手に持っていたケーキを入れた洋菓子店の紙の箱をみはりちゃんに見せる。
だがみはりちゃんから返って来た反応は俺が思っていたものとは違っていた。
「あ、カズ君いらっしゃい。えっと、おにいちゃんちょっと今落ち込んでいて、もしかしたらパーティって感じじゃないかも……。」
「……まさか学校行って上手くいかなかったから落ち込んでいるとか?」
「あ、いや、そういうことではないんだけれど……。」
うぅん? そういうことではないって言うんなら、どういうことなんだろうか?
「ま、まぁ、とりあえず上がって。」
俺はみはりちゃんに促されるまま緒山家にお邪魔する。
真尋は……リビングにはいないのか。
「みはりちゃん、真尋は自室?」
「え? うん。ちょっと寝込んでいるというか……。」
「寝込むほどの落ち込みようなのか!?」
そんなレベルで落ち込むってことは相当のことがあったのだろうか。
これは励ましてやらないといけないな……。
「ちょっと真尋を励ましてくるよ。」
俺はケーキの入った箱をリビングの机の上に置いてから、みはりちゃんにそう言って二階にある真尋の部屋へと向かう。
後ろからみはりちゃんが「ちょ、ちょっと待って」と言っているけれど、さすがに寝込んでいるほどのショックを受けている友人を放っておくわけにはいかないだろう。
悪いとは思いつつも、俺はみはりちゃんの静止の声を無視してから真尋の部屋へと向かい、ドアをノックしてから真尋の部屋へと入った。
部屋に入ってすぐ俺の目に入って来たのは、布団の中に籠ってさめざめと泣いている真尋の姿だった。
思ったよりもめちゃくちゃ凹んでいるじゃないか!?
マジで真尋の身に何があったんだ!?
気になった俺は真尋にそっと近づいて、俺自身の感情を荒げさせないように静かに語りかける。
「どうした真尋? なにか学校で嫌なことでもあったのか?」
俺の声掛けによって俺が来ているのに初めて気づいたのか、真尋は布団から飛び起きた。
……さっきまではさめざめと泣いていたのに、俺に気付いた途端涙が引っ込んでやがる。
こいつのこのパターンは、強がりの場合か、結構くだらないことの場合が多い。
どっちだ?
「うぇぇえ!? カズ、なんで部屋にいるんだ!?」
「今日みはりちゃんからパーティに誘われてな、お前の中学編入祝いだとよ。家に着いたらみはりちゃんから真尋が落ち込んでいるって言われたから驚いて部屋まで来たんだが……。お前、なにやらかした?」
「え!? い、いや〜〜〜、なにもなかった! うん、なにもなかったぞ!」
本当か? と俺は真尋の方を訝し気に見るが、真尋は頑なになにもなかったと言い続ける。
こうなると暫くは何を言ってもムダだな。
「まぁ、涙が引っ込んだのならなによりだ。ほら、真尋立てよ。下でパーティ始めようぜ。」
「パーティって……。たかだか中学校に通う程度で……。」
「俺もその意見には賛同するが、みはりちゃんが思いの外張り切っていたからいいじゃないか。たぶんいつも以上に料理に力入っているんじゃないか?」
みはりちゃんの料理は本当に美味いからな、いただける機会があるのなら図々しいと思われようが是非ともいただきたい。
もちろんお礼はするけどね。
「お前は何か用意したのかよ?」
「ああ、駅前の洋菓子屋でケーキ買って来たぞ。後で食べればいいんじゃないか?」
「おお~~~、相変わらず太っ腹だな!」
俺と真尋はそんな風に会話を続けながら階段を下りてリビングへと向かう。
そこにはハラハラとした顔でこちらの様子を伺っていたみはりちゃんがいた。
そんなみはりちゃんに対して俺は声を掛ける。
「みはりちゃん、真尋連れてきたよ。」
俺が掛けた声に安心したのか、みはりちゃんはほっと一息ついた後、真尋の様子を見ながら俺たちに声を掛けてきた。
「良かった~。それじゃあパーティを始めましょ! それにしてもおにいちゃん、あんなに泣いていたのにカズ君来るとすぐ涙も引っ込むのね。」
「いや、別にカズが来たから涙引っ込んだわけじゃ……。」
「そんなこと言って~。さっきまでずっと泣いていたんじゃないの?」
みはりちゃんは揶揄うかのように真尋に対して言うと、真尋は真尋で口を尖らせてみはりちゃんに答える。
まったく、本当に仲の良い兄妹? だな。
「まぁいいじゃないか、みはりちゃん。ほら、真尋も。パーティ始めようぜ。」
いくら仲の良い相手であっても、おもらししたなんてことは言わない、っていうか言えないですよね~。
個人的にはあわあわしている真尋ちゃんを書きたいのですが、展開がそうさせてくれない……。
ちなみにアニメ10話の一番好きなシーンは、みよちゃんの「わかるぅ~?」ですね。