現実は時に性別さえも覆すようだ   作:忘れ者

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今回は長くなりそうだったので前後編に分けています。
後編の投稿はちょっと遅れます。
ちなみに今回もオリジナルの設定がちょくちょくと……。


新学期に向けて・前

二月といえば、世の人々はバレンタインデーを想定すると思う。

 

女子からしてみれば好きな人にチョコを渡して告白をする機会でもあるし、友チョコとして友人に配る機会でもある。

対して男性諸君からしてみれば、一部の人間を除いて企業の陰謀論を疑ってしまう一日となる。

 

とはいえ、今日はそのバレンタインデーを一週間前に控えたある日のこと。

 

俺こと新川和史は、とある用事でみはりちゃんの所属している大学へとお邪魔していた。

その原因となったのは、つい先日吾妻さんより「大学に来てくれ」とお呼び出しがかかったからだった。

 

 

 

   ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

 

 

 

みはりちゃんの通う大学に訪れる前日のことである。

俺は家で料理を行っていると、突如俺のスマホから着信音が鳴り始めた。

 

スマホに表示された名前は吾妻さん、みはりちゃんの大学に在籍するまだ歳若そうな先生。

俺は前々からその吾妻さんに真尋の現状に関することでみはりちゃんとは別にレポートを提出していた。

というのも真尋の状態に関してみはりちゃん以外の人からの観察記録もあった方がいいのではないかという意見を吾妻さんから聞いたからだ。

 

そして今回提出したレポートでは、先日の真尋が風邪をひいた際にナニが復活したということを書いていたのである。

おそらくそのことに関する電話なのかなと思いながら、俺はスマホの画面を操作して電話に出ることにした。

 

「もしもし、吾妻さんですか? どうされました?」

 

『おお! 新川君! すぐ出てくれるとはありがたいねぇ!』

 

「は、はぁ……?」

 

吾妻さんのいやに高いテンションでの最初の一言、俺はそれに対して少しばかり嫌な予感を覚えた。

 

「あの……、いやにテンション高いですけど、なにかあったんですか?」

 

『なーに、既に三徹目ってだけさ! それより、明日うちの研究室に来てくれないかい?!』

 

「それは構いませんが……。」

 

『ありがとう! それじゃあ明日はよろしく!』

 

そう言って吾妻さんは通話を切る。

あまりにも急に決まった予定のために俺自身は少し驚いたものの、先程感じた嫌な予感はきっと勘違いだったのだろうと思い直すことにした。

 

いくらテンションが高いとは言っても、俺に実験の手伝いなんて真尋のこと以外ではさせないだろう。

それにさすがに三徹目ということは(吾妻さんの体力の限界は知らないけれど)、そろそろ限界を迎えて寝ると思うんだ。

そうなるとさすがに今のテンションも続くわけがないだろうし、きっと明日には今の訳わからないテンションも収まっているだろう。

 

そんな考えもあってか、俺は先程の予感から一転、翌日のことに対して楽観視し始めたのだった。

 

 

―――というのがことの経緯。

そして今はその大学に入って、吾妻さんの研究室がある大学棟の前に来ていた。

 

一応吾妻さんからの呼び出しがあるとは言え部外者、そういうこともあってか最初は棟の受付でいつも守衛さんに挨拶してから棟の内部に入っているんだけれど、今日はそこに日頃では見かけない女の子がいた。

いや、他大学なんだから見かけない人がいっぱいいるのは当たり前なんだけれども。

 

俺がその女の子に目を奪われたのは、その子がこの場とは少しミスマッチな感じを覚えたからだ。

 

身長はだいたい今の女の子状態の真尋と同じくらい。

化粧っ気もなく、服装も着飾っていないうえに、顔も大学生にしてはかなり幼く感じてしまう。

もちろん大学生の中にも身長が低くて幼く見えてしまう女性ってのはいるとは思うんだけれども、この女の子に限ってはわざわざ守衛さんに挨拶してから棟内へと入っていることから、俺と同様他大学生の生徒か、あるいは大学生でさえもないかという判断が出来てしまう。

 

いったいこの子は何者だ?

 

気にはなるけれどさすがに初対面の女の子。

俺がいきなり声をかけても警戒させてしまうだけだし、ここは放っておこうと思って棟内に設置されているエレベーターへと進む。

 

吾妻さんの研究室は4階だ。

階段で上がってもいいんだけれど、さすがに面倒だしエレベーターがあるのなら積極的に使いたいと思ってエレベーターを待っていると、先程見かけた女の子もエレベーターに乗るのか、こちらに駆け足で向かってきているのが見えた。

 

そして開くエレベーターの扉。

俺はその子と一緒にエレベーターに入って4階を押した後に、その子に対して「何階ですか?」と尋ねると、「4階なのです。ありがとうございます。」と会釈をしてくれた。

 

そのまま扉の閉まるエレベーター、室内の俺はどこか居心地の悪さを覚えながら、早く4階についてくれないかなとそわそわする。

 

それから数秒後、ピコンという音と共に開く扉。

すると女の子は「失礼するのです。」と俺に再度会釈をしながらエレベーターを降りて行き、先を歩いていく。

俺も同様エレベーターを降りてから吾妻さんの研究室へと向かって歩いていると、その前にはエレベーターに一緒に乗った子が先に資料室へと入っていく姿が遠目から見えた。

 

あの子は俺とは違って研究室に呼ばれたわけではないのかな?

 

そんなことを考えながら俺は研究室へと入っていった。

 

 

 

吾妻さんの机はさすがは先生といったところか、研究室の奥の方にある。

言わば学生を見渡すことの出来る位置、といったら分かり易いだろうか。

 

俺が室内へと入った時、吾妻さんは自身のその座席に座りながらパソコンと睨めっこをしている最中だった。

 

「失礼します。」

 

室内に入ったこともあって、俺は周囲のゼミ生に挨拶をしながら吾妻さんのもとへと向かっていると、「ちょーっとストップ!」とそのゼミ生のうちの一人、立見に止められる。

 

立見ありか。

聞けばみはりちゃんと同期のゼミ生で、ゆるふわなウェーブがかかった髪が特徴的な人だ。

彼女はみはりちゃんのことを大変可愛がっていて、その縁もあってか俺ともみはりちゃんに関することで連絡を取り合っている。

 

大学でのみはりちゃんの姿を映した写真を送ってくれたり、或いは俺や真尋と一緒に遊んでいるみはりちゃんの姿の写真を送ったりと、俺は立見とかなり仲良くしているのだ。

そしてそれはみはりちゃんのもう一人の同期、犬井つばさとも同様のことを行っている。

 

……正月のみはりちゃんの着物姿の写真を二人に見せることを止められているのが彼女たちには申し訳ないなぁ。

 

「立見、どうした?」

 

「先生、今かなり切羽詰まっているみたいでねぇ。悪いんだけど少し待ってもらってもいいかしら?」

 

「一応昨日吾妻さんから連絡もらっていたんだけれども……。そういうことなら少し待たせてもらおうかな。」

 

それじゃあ俺はとなりの資料室で大人しくしているから、吾妻さんが落ち着いたら悪いんだけれど俺を呼んでくれないか?

そう立見に言ってから部屋を出ようとしたところ、立見からまぁまぁまぁと手を掴まれる。

 

「おい、忙しくないのかよゼミ生。」

 

「今は落ち着いたから大丈夫! それよりも先生が落ち着くまでそっちの席で話さない?」

 

なんて誘われるもんだから、俺もさすがに手持無沙汰のまま資料室で待っているのもつまらないかもしれないなと思い、立見に勧められるがままに席に着いた。

 

「そういえば今日、犬井やみはりちゃんは?」

 

「つばさなら今は講義受けているんじゃないかな? みはりちゃんも多分そうだと思う。みはりちゃんはサークル活動もしていないしね。」

 

そう言いながら右人差し指を右頬に当てる立見。

なるほど、美人がこんな仕草をすると絵になるな。

 

「そういえばこの前のお土産ありがとうね!」

 

「気にしなくていいよ。こっちも真尋のことでお世話になっているんだしな。」

 

先日、といっても既に一か月は経っているが。

俺は地元からこちらに戻ってくる際に、この研究室宛のお土産も買っておいた。

そして時機を見てからお土産だけ持ってきていたのだけれど、それが吾妻さんをはじめとしたこの研究室の人たちにかなり受けたらしい。

 

前まではどうして外部の人間が、なんて顔をしていたゼミ生も、今では快く迎え入れてくれるようになっている。

 

「でもごめんね。先生、論文の提出がちょっと迫ってきているみたいで忙しいみたいなの。」

 

「いいさ、俺なんて文系だからそこまで忙しくないし。ところでこの研究室に来るまでに、これくらいの女の子が守衛さんに許可とってから資料室に入っていく姿を見たんだ。その子も俺と同じように吾妻さんや他の教授とかから呼ばれていたりしているのか?」

 

そう言って俺は先程見た女の子のだいたいの身長を右手で示す。

立っている時の俺のあごくらいに頭のてっぺんが来るくらいの身長だろうか。

その高さを示すと、立見は右手を自身のあごに当てて少し考えてから声を出した。

 

「もしかしてその子って、中学生くらいの子かな?」

 

「あー……、たぶんそうなんじゃないかな?」

 

「それで『なのです』って言ったりしていた?」

 

「ああ、言ってた言ってた。……知り合い?」

 

そうねぇ……と一言呟いてから一拍おく立見。

俺は立見の次の一言を今か今かと待ちわびていると、ついに立見が口を開く。

 

「あの子はあ「やぁやぁお待たせ! 新川君、来ていたのなら私に一言かけてくれてもいいじゃない。あとありかちゃんも新川君の対応をしてくれてありがとうねぇ。……私、もしかして二人の会話を遮ったかなぁ?」」

 

そう言って会話に割り込んできた吾妻さん、彼女の瞳の下にはかなり色濃い隈が残っているのが見えた。

身体壊しそうだな、この人。

 

「大丈夫ですよ先生。ほら、あの子のことをこれから紹介しようとしていたんです。それより先生、今日はさすがに早く帰って寝られた方がいいのでは?」

 

立見が吾妻さんにそう言うと、さすがに吾妻さんもそろそろマズいと思っていたのか、今回ばかりは新川君と話したら素直に帰るよと立見に対して発言した。

 

「なにはともあれだ。新川君、奥で話をしようじゃないか。……さっきありかちゃんに聞いていたことの答えも用意できるよ。」

 

そう吾妻さんに言われてから、俺は部屋の奥へと勧められる。

俺はその言葉を断り切れず、立見に対してありがとうと伝えてから別れて吾妻さんの後を追ってから研究室の奥へと向かった。

 

 

 

 

 

研究室の奥、吾妻さんの机の前には椅子が二つ置かれていて、そこに座るように吾妻さんに勧められる。

そして俺が座るのを確認してから吾妻さんも俺の対面にある椅子へと座った。

 

「それで話とは?」

 

俺は先んじて吾妻さんに問いかける。

世間話をしてもいいんだけれども、さすがに今の状態の吾妻さんには家に帰って早く寝て欲しいという気持ちの方が勝るからだ。

 

「いきなり本題かい?」

 

まぁいいけどね、そう言ってから吾妻さんは言葉を続ける。

 

「実はみはりちゃんのお兄さんの件とは別件で協力して欲しいことがあるんだよ。」

 

「協力……ですか? 」

 

俺が吾妻さんの発言に対して疑問を呈すると、吾妻さんはにやりと笑みを浮かべてから自分の考えを語り始めた。

 

「そう、協力。実はね、私が面倒みているちびっ子をとある中学校に転校させようと考えていてね。」

 

「は、はぁ……? そうですか……?」

 

話の見えてこない吾妻さんの会話に俺はまだ疑問の声を挙げる。

中学校の話がなんで俺に関係してくるんだ?

 

「ははは、自分にどう関係してくるんだって顔だね。ここからが関係してくる話だから最後まで大人しく聞いていてくれよ。」

 

吾妻さんは俺の顔を見ながらそのように答える。

そんなに分かり易い顔をしているだろうか。

 

「その子の行く学校がみはりちゃんのお兄さんの通う学校って訳なんだよ。」

 

「あ、そうなんですか。ということは……、もしかして俺がその子と真尋を学校が始まる前に会わせて欲しいってことですかね?」

 

俺が吾妻さんにそう伝えると、吾妻さんはハハハッと軽く笑ってから首を横に振る。

 

「出来たらそれもしてもらえると嬉しいんだけどね、今回はそうではないんだよ。君はこれまで何度かこの研究室に来ているが、その際に中学生くらいの女の子を見ていないかい?」

 

「そういえば今日ここに来るまでに見ましたね……。たしか資料室に入っていったような。」

 

「なるほど、なゆちゃんは今資料室に来てくれていたんだねぇ。」

 

そう言ってから吾妻さんは自身の右手をあごに添えた。

 

というかあの子は吾妻さんのところの女の子だったのか。

……娘さん? それとも妹さん? どっちだ?

 

「あの、その子って吾妻さんの……。」

 

「ああ、妹だよ妹。ちょっと歳の差があり過ぎるけどね。私の可愛い妹さ。」

 

「そうなんですね。それで、そのなゆちゃんって子についてわざわざ俺に話す理由は?」

 

まだ話の見えていない俺は吾妻さんに対して問いかける。

すると吾妻さんは少し間をおいてから小さな声で俺に対して話してきた。

 

「実はなゆちゃんにもみはりちゃんのお兄さん、真尋君を観察するって名目で転校してもらう予定なんだ。」

 

「え!? それって大丈夫なんですか!? そのなゆちゃんって子の交友関係とか!」

 

吾妻さんの発言についついビックリした俺は大きな声をあげてしまうも、吾妻さんがまぁまぁ落ち着けと言わんばかりのジェスチャーをしており、それを見た俺は声のトーンを落として吾妻さんを少し咎めるように声を発する。

 

「真尋のことは俺も心配していますけれど、それで吾妻さんの妹さんに迷惑かけるのは違うと思いますよ。」

 

「こらこら、早とちりしない。そもそもなゆちゃんはコミュニケーションに難ありでね、同世代のお友達がいないんだよ。大人の人なら大丈夫とは本人の言だけれど、お姉さんとしてはちょっと心配でねぇ。だから真尋君と交流を重ねることで、なゆちゃんにも友達が出来ないかなって思っているんだよ。ほら、真尋君、今は可愛らしいけれど一応大人じゃないか。」

 

ああ、この人も一人の姉として、妹のことを真剣に考えているんだなぁ。

なんて吾妻さんに対してちょっと失礼なことを考えながら、俺はそこで初めて今日呼ばれたことについて得心がいった。

 

「ということは、今日俺を呼んで下さったのは、真尋に会わせる前にその子と俺とで一度面識を持っておいた方がいいと、そう考えられたからですかね?」

 

「まぁ、なにも真尋君に関することだけじゃないけれどねぇ。なゆちゃんが真尋君と仲が良くなってくれたら、必然的に君とも出会う機会が増えるだろう? だったらあらかじめ面識を持つ機会を用意した方がいいかと思ってねぇ。」

 

正直俺は驚いていた。

そんなに吾妻さんに信頼されていると思っていなかったからだ。

とはいえ、そういうことならばその信頼に応えないという選択肢はないな。

 

「わかりました! そういうことなら喜んで! ……ところでみはりちゃんには先にこのことは話されているんですか?」

 

「ん? いや、話していないよぉ。サプライズサプライズ。」

 

そう言った吾妻さんは右手の人差し指を自身の唇の前に持ってきて、シーっと俺がみはりちゃんに対してなゆちゃんって子のことを喋らないようにジェスチャーを行う。

短い付き合いではあるけれど、この人はわりとサプライズとかそういったおちゃめな側面があるので、今回もきっとそういうことなんだろうなぁ。

 

俺がそんなことを考えながら得心していると、吾妻さんは「それじゃあなゆちゃんを連れてくるよ」と言って部屋を出て行った。




遅れましたがあさひちゃん、誕生日おめでとう!

ちなみに本編中で出てきた、新川、立見、犬井ラインでのやり取りに関して、みはりは知ってて放置している感じですね。

後編も極力早めに投稿できるように頑張りますので、ご感想等いただけると幸いです。

小説の書き方をちょっと変えてみました。皆様にとって見やすいのか知りたいので、是非ともご協力ください。

  • 最新話の方が見やすい
  • 前までの方が見やすい
  • こここうした方がいいぞ(感想文へ)
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