うーん、彼女らの登場はいつになるんですかね~。
「カズ君、こっちこっち。この部屋が私の所属している研究室!」
「へ、へぇ~。それにしてもみはりちゃん、俺みたいな外部の人間がここまで入ってきてよかったの?」
「今更何を言ってるの。さっきも話したけど先輩がなんとかしてくれるらしいから大丈夫。」
みはりちゃんは俺に対してそう言ってから件の研究室へと入室を促した。
ここはみはりちゃんが通う大学のゼミ棟。
みはりちゃんの先輩が警備員さんたちに話をつけておいてくれるということで、他大学の人間である俺がみはりちゃんの通う研究室前まで来ているといった次第だ。
ちなみに俺はみはりちゃんと同じ大学には通っていない。
飛び級して大学に入れる人間と同程度の知能は俺にはないから仕方ないっちゃ仕方ない。
何故こんなところに俺みたいな人間がいるのか。
それは本当に偶々この大学に訪れていたことが事の発端となったのである。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
大学のサークル活動というとどういったものを想像するだろうか?
例えば男女混合の旅行だとか、合コンだとかが挙げられるかもしれない。
え? 男女関係に偏り過ぎているって?
……そんなことをしてみたかったな~っていう願望あり気なんです。
それはともかくとして、俺も例に漏れず所属しているサークルのために活動をしている。
どんな活動かって?
俺が所属しているサークルでは年に何度か、他大学との交流会に人を出すという決まりがある。
またの名を雑用と俺のサークル仲間は呼ぶが、今回の該当者が俺こと新川和史だったという次第である。
真面目に活動しているだろう?
ただの交流会だったらいいのだが、これが時にはイベントの企画やらを立案しないといけない場になるから油断できない。
要は複数大学合同でのイベントの実行委員になる可能性があるのだ。
しかも実行委員になったら次回以降の交流会も強制出席になるし……。
とにもかくにも面倒くさいのである。
そして今日、日頃通いなれた大学とは別の大学へと足を運び、12時から始まったその交流会に参加していた。
ちなみにその大学とはみはりちゃんが通っている大学である。しかもキャンパスも一緒。
まぁ、参加していたといっても、広い会議室の部屋の片隅で縮こまっていただけなんだけど。
気分はまさに道端の石である。
ちなみに俺が参加させられた原因が、本日の昼以降の講義がないからである。解せぬ。
とはいえ時刻も既に14時を過ぎている。
過去の経験からするに、だいたいこの交流会はスムーズに終わる時は2時間程度でお開きとなる。
だからあとはこのままスムーズに終わってくれ!
そんなふうに思っていた時のことだ、俺のスマホから着信音が鳴ったのは。
ヤバい、マナーモードにし忘れていた!
俺はそう思いつつ、焦って周囲を見渡す。
すると会を仕切っていた司会の方がクスリと笑って、キリもいいのでここで会を終わろうかと切り出してくれた。後で謝っておこう。
俺はその言葉を聞くやいなや、すぐに会議室を出て通話先の相手を確認した。
相手は……みはりちゃんか。
それを確認して俺は着信に出ることにした。
「もしもし、みはりちゃん。どうしたの?」
『カズ君! おにいちゃんの設定を決めない!?』
はい?
どういうことかと確認すると、真尋と今後行動を共にする場合に備えて設定を作成、共有しておきたいらしい。
先日みはりちゃんは友人宅でハロウィンパーティを行ったそうだが、その際に真尋の話が出てきたそうだ。
その際はなんとか誤魔化しきれたみたいだが、今後も似たようなことがあるかもしれないとみはりちゃんは危惧し、あらかじめ設定を練っておきたいらしい。
「まぁ、たしかに以前真尋から頼まれた温泉までの運転でも、俺も会話に混ざる場合があるかもしれないから設定共有しておいた方がいいか……。いつも通り、家に行けばいい?」
『そうね……。私は今大学にいるんだけれど、カズ君はどこなら合流しやすい?』
おお、渋々とはいえサークルの交流会に参加していたのがこんなことにつながるとは……!
人生万事塞翁が馬とはこのことかもしれない。
「それならちょうどいいや、今みはりちゃんが通っている大学に来ているんだよね。大学の正門前くらいで合流する?」
『え?! なんでそんなところにいるの?!』
「たまたまサークルの交流会で脚を運んでいたんだよ。いや~、偶然ってあるんだね~。」
『偶然にしては出来過ぎじゃ……。え? 先輩、なんですか?』
通話の途中でみはりちゃんは誰かに呼ばれたのか、そのままみはりちゃんの傍にいるであろう誰かと会話をし始めた。
う~ん、こうなってくるとちょっと手持ち無沙汰になってくるな。
会話が長引きそうなら交流会で司会をされていた方に謝ってこようかなと思っていると、みはりちゃんが向こうでの会話を終えたのか、こちらに再度話しかけてきた。
『カズ君ごめん! 今から地図を送るから、それを頼りに2号館まで来てくれないかな?』
「え!? 2号館って……。俺みたいな学外の人間が入れるの?」
『そこは大丈夫、先輩がなんとかするから!』
なんとかなるのか……!?
まぁ、とりあえずは行ってみよう。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
そして2号館へと着いてみはりちゃんと合流すると、あれよあれよと何も言えないうちに研究室前まで俺は連行されてきた次第である。
ちなみにこの2号館をこの大学の学生は通称ゼミ棟と言っているらしい。
閑話休題、みはりちゃんがドア開けて研究室へと入っていったため、さすがにこんなところで放置されても俺としても困るので、みはりちゃんに着いて研究室へと入っていくことにした。
するとそこには白衣を着た女性がいて、研究室へと入って来た俺を珍しいものでも見るように眺めていた。
ていうかこの部屋、白衣着てないの俺だけか!?
「先輩、カズ君連れて来ました!」
みはりちゃんがそう言って眼鏡をかけた女性へと声を掛ける。
ということは、この女性が警備員に根回ししてくれた人ってことか。
「みはりちゃんお疲れ様〜。へぇ、君がみはりちゃんの協力者の新川君かい。私はみはりちゃんの指導教員をしている吾妻ちとせだ。よろしく頼むよ。」
「えっと……。はじめまして、新川和史です。いつもみはりちゃんがお世話になっています。どうぞよろしくです。」
吾妻ちとせと名乗った女性は眼鏡をかけていて、見るからに歳若そうだった。
おそらく20だと思う。
それでみはりちゃんの指導教員をされているとは、この人もきっと才女なのだろうと理解できた。
それにしてもどうして俺は研究室にわざわざ呼ばれたんだろうか?
理由を考えても思い当たることなんてないし、さっさと要件を尋ねてみようか。
「すみません、どうして俺はこちらに招かれたんですか?」
俺がその言葉を吾妻さんに投げかけると、吾妻さんは何とも言えないような顔をされ、返答に困った様にしていた。
ん~……、この反応的にそこまで用事があったわけではない?
だったら尚の事、なんで俺はこの場に呼ばれたのだろうか?
そうやって思い悩んでいると、吾妻さんが俺の心中を読んでか理由について話をしてくれた。
「いや~、ごめんね。この研究室でみはりちゃんがよく君とみはりちゃんのお兄さんの話をしているんだよ。それで私は君に興味が湧いたから連れきてもらったってわけ。」
えぇ……、俺そんなことのために呼ばれたの?
みはりちゃんは可愛いから、彼女に近づいてくる男がいるのなら心配になるっていう意見ならよく分かるんだけれども……。
まさかただ単に興味があるから呼ばれるとは思っていなかったな。
そして吾妻さんの言葉を聞き、「ちょっとー!」と声を荒げてあたふたするみはりちゃん。
大方みはりちゃん自身が会話の中でよく俺や真尋のことを頻繁に話題に挙げているということを内緒にしておきたかったのだろう。
彼女は傍から見ていたら分かり易いほどお兄ちゃん大好きっ娘だが、本人はそれを隠しきれていると思っている節がある。
しかも真尋もそれに気づいていないから、みはりちゃんは尚の事上手く隠してきれているのだと考えているわけである。
そんなことないのにね。
まぁ、治験対象でもある真尋のことを頻繁に話すってのはよく分かる。
レポートとか報告書に詳細を記述したうえで追加で色々なことを話すのとかは普通にありそうだし。
俺のことはたぶん……、真尋とよく遊ぶからついでに名前が挙がるんだろうか。
緒山家に行く途中で聞いてみようか。
「悪いね新川君。そんな程度の用で呼び出してしまって。とはいえ今後もみはりちゃんに協力してくれるって私は聞いているからね、一度君と会っておきたかったんだ。」
「は、はぁ……? そうですか。」
俺は吾妻さんの言葉に対して困惑気味ながらも返答した。
それから吾妻さんは言葉を続ける。
「せっかく来てくれたんだ。みはりちゃんに話そうと思っていたみはりちゃんのお兄さんに関する話、君も聞いていきなよ。」
「話……ですか?」
俺は吾妻さんの言葉にそう返す。
話ってなんだろうか? 薬関係のことか?
とはいえ俺みたいな部外者の人間にそんなことを話すなんてことはないだろう。機密情報の集まりみたいなものだし。
となると薬以外のことになるだろうが……、さっぱり思いつかないな。
いったい何のことだろうかと頭を悩ませていると、吾妻さんは軽く笑みを溢した後に話を続けてくれた。
「みはりちゃんに前から頼まれていたんだけどね、みはりちゃんのお兄さんを中学校に通わせるにはどうすればって言われていてね。それの方法を探していたんだ。結論から先に伝えると、中学校に通わせるのはなんとかなりそうだよ。」
「えっと……? はい?」
「おっと、新川君はみはりちゃんからその話を聞いていなかったのかな?」
俺は吾妻さんのその言葉に今日一で困惑した。
真尋を中学校に通わせるだと……? いったいどういうことだ?
「本当ですか先輩! ありがとうございます!!」
そんな俺の心中とは裏腹に、みはりちゃんはその話に食いついた。
質問したのはみはりちゃんだから分からなくもないけど……。
いや、やっぱりよく分かんねーわ。なんで真尋を中学にもう一回通わせるんだ?
「みはりちゃん、どういうことだ? なんで真尋をもう一回中学に?」
俺はみはりちゃんに質問を投げかけた。
それこそ薬がいつ抜けるかも分からないのに学校に行かせても大丈夫なのかっていう不安があったり、真尋を中学に通わせることに自分でも分からないくらいに拒否感があるからだ。
どうして胸中にそんな思いが湧いてきたのかは分からない。
しかしそんなモヤモヤとした複雑な感情が自分を支配し始めている。
そんな俺の問いに対して、みはりちゃんはすぐさま答えてくれた。
「先日の補導騒ぎの後からおにいちゃん、一層外出しなくなったの。口を開けば『補導されるかも』って言うし……。このまま家にずっといても穀潰しのままだし、薬が抜けるまでの間中学校に通ってもらおうかと思っているの。」
ご、穀潰して……。
みはりちゃんは俺が思っていた以上になかなかに凄いことを考えていたみたいだ。
確かにまひろは性別が変わったとはいえ、現状は男だった頃の生活と比べると多少はマシになったかもしれないが、それでも自宅警備員なことには変わりがない。
そんな自宅警備員の兄を変えるための苦肉の策なんだろうか。
だが、俺にとっては同時に気になることもある。
「確かに真尋を現状のまま家に居させるよりも、社会に出した方が社交性とか身に付くかもしれないな……。けどよ、学校で薬の効果が切れてしまったらどうするんだ?」
「まぁ、そういう疑問があるのも当然よね。実際その都度おにいちゃんに薬を渡して処方するしか解決方法がないのが実情よ。特に今開発中の薬なんて下手に持ち運ばれても困るしね。とはいえ、近々薬の効果が切れるとは思うし、そこでおにいちゃんが男に戻ることを選択すれば中学に通うことはなくなるんだけどね。」
一応おにいちゃんが女の子のままだった場合に実行しようかなって考えているの、とみはりちゃんが言葉を続ける。
なるほどなと俺はみはりちゃんのその回答にひとまずの納得をした。
まぁ、現状だとそんな対応策しかないよなと思いつつ、いよいよ真尋の現状の姿に別れを告げる日が近づいていることを知り、なんとなくだがしみじみとした気持ちが湧いてきた。
わずか2,3か月程度の短い期間だったけど、これまでの真尋がこもっていた日常とは比べ物にならないほど日々が充実していたのか、それ以上に長い月日が経っているように感じた。
とはいえだ、これでやっと男の真尋が帰ってくる。
そのように考えていると吾妻さんが声を掛けてきた。
「みはりちゃんと君でお兄さんの設定を考えようって電話で話をしていただろう? 私はその時みはりちゃんの近くにいたからその話を聞いていてね。それもあって、どうせなら中学生になった場合も踏まえて設定を考えておいた方がいいかと思って呼ばせてもらったという気持ちもあるんだよ。」
「なるほど、お気遣いありがとうございます。」
吾妻さんも色々と考えて俺をこの研究室まで呼んでくれたんだな。大変ありがたい限りだ。
個人的にはその中学生の設定は活かされずに済めばいいなと思ったりもするけれど。
「そうそう、私はこの後人を待たせていてね。そろそろお暇させてもらうよ。」
気付けばそこそこ時間も経っていたみたいで、吾妻さんも人を待たせているからと帰る準備をし始めた。
「みはりちゃん、俺たちもそろそろ行こうか。」
「そうね。先輩、今日はありがとうございました! お先に失礼します。」
「はいはい、気を付けて帰ってね。」
ありがとうございます、と俺とみはりちゃんは吾妻さんに対してお礼を言ってから研究室を後にした。
吾妻さんの話は俺にとってかなり驚きになったが、みはりちゃんがどんな人と研究しているのかが分かってかなり有意義な時間になったな。
この後はスーパーに寄ってから緒山家で真尋を交えて早速設定を練るか。
しかしまだ確定ではないだろうけども、真尋が女の子のままだったら中学校に再び通うことになるのか。
なんでだろうか、俺はその事実に一抹の寂しさを覚える。
それはきっと、その真尋の中学生活に俺がいないことが理由なのかもしれない。
ああ、俺って面倒くさいやつだな……。
そんなことを思っていると、みはりちゃんが俺に対して質問を投げかけてきた。
「ねぇ、カズ君はおにいちゃんが中学に通うの反対?」
すでにお分かりかと思いますが、本作において一番面倒くさい人間は和史です。
こいつ未だ納得してないでやがんの。
ちなみにちとせお姉さんが待たせていた人というのはなゆたんです。
あと次話の投稿は諸事情あって遅れます。