『助けてってどういうことだよ!!』
俺は真尋から届いたロインの内容を見て、すぐに返信をする。
さすがに助けてって言葉は冗談じゃ済まされない
誰かが温泉で滑って頭でも打ったのだろうか?
それとも見知らぬ男がみはりちゃんやかえでちゃんをナンパしに来たのか?
前者だとしたら先に救急車に電話してから俺にロインを送ってくるだろうし、それなら後者の方が可能性が高いのか?
いや、とにもかくにも真尋からの続報を聞かなければ。
そう思って俺は真尋からの返答を待っていたら、真尋からとんでもない爆弾を伝えられた。
『戦友が戻って来た……。どうしよう……。』
は? 戦友……?
あ! 股からぶら下がってるやつのことか?!
『え? 戦友って……あれ?』
『うん、あれ』
……なんというか、最悪なタイミングで帰って来たな。
どうすれば俺は真尋の助けになるんだ?
ひとまず現状を確認しないと助けるにも助けられないよな。
『みはりちゃんには話したのか? それとかえでちゃんたちに見られた?』
『みはりにはさっき風呂場で伝えて今一緒に部屋に戻っている。幸いかえでちゃんたちには見られていない。』
『それなら不幸中の幸いか。だが戦友が帰って来たってことは、身体も男に戻ってきているってことだよな? 大丈夫なのか?』
『や、やっぱりマズいよな!? かえでちゃんたちもいるっていうのに。』
戦友が帰ってくるってのが男に戻る前段階だと仮定したとして、どれくらいの日時が経てば完全に以前の男の姿の真尋に戻るのかは分からない。
しかし今日寝て起きたら以前の姿に戻ってましたとなるとさすがにマズい。
こうなると俺の部屋に避難させる(その場合俺は車中泊か?)ことが一番だろうが、どっちにしろ明日帰る際にかえでちゃんたちに見られてしまってバレる可能性が極めて高い。
これは……詰んだか……?
『状況が本格的にマズいな……。もしどうしようもなくなったら俺の部屋に来いよ。翌日次第だが、万一男に戻っているのなら一緒にかえでちゃんたちに謝りに行こう。それしか今のところは考えつかない。』
『分かった……。ありがとう、とりあえずみはりに診てもらって結果を伝えるよ。』
まさかこんなことが起こるなんて……。
前々から真尋にはやっぱり男に戻って欲しい、なんて気持ちがあったけれども、このタイミングで男に戻るのはさすがに厳しいな……。
かえでちゃんたちだってショックを受けるだろうし、なにより真尋本人もショックを受けそうだ。
なんとかしてやりたいが俺にはなんとかできるわけでもないし、結局みはりちゃん頼りという現状に歯がゆさを覚える。
せいぜいが真尋が男に戻った時に、一緒にかえでちゃんたちに頭を下げることくらいか。
そんなことを考えながら真尋からのメッセージを待つ。
あいつのことだからみはりちゃんに診てもらったら結果を報告してくれるだろう。
さすがにちょっとやそっとで診断結果が出るとも思えない。
だったらロインが返ってくるまでひとっぷろ浴びるか、という気持ちにもなれない。
悶々とした感情だけを抱えて部屋で時にはスマホを触り、時には本を読みながら時間を潰していると、再度スマホからロインの通知音が発せられた。
相手はもちろん真尋からだ。
『なんとかなったぞ!』
『なに!? それは朗報だな! いったいどうやったんだ?』
『まぁ落ち着けって。結論から言うと、もうしばらく女の子を続けることになった。』
俺はその言葉を見た時、かえでちゃんたちに真尋の本当の姿がバレなくて良かったという気持ちと、真尋の姿がまだしばらく続くことへの落胆が入り交じったような複雑なものが腹の底からこみ上げてきたのが分かった。
『どうして女の子を続けられるなんてことが……、もしかしてみはりちゃんが薬を持ってきていたのか?』
『そうそう、時期的に怪しかったから用意していたんだって。まぁ、別に女の子になりたいわけじゃないけどな! 今はこの窮地を抜けないといけないし。』
『それは確かに、その通りだな……。かえでちゃんたちにバレなくて済むのならひとまずよかったよ。』
『本当だよ。騒がせてしまって悪かったな~。』
俺は真尋からの返信に対して適当なスタンプを返した後、先程真尋からの返信を待つ際に用意していたタオルや下着等を持って温泉へと向かった。
真尋からの連絡で思いの外動揺している自分の心を落ち着けるために。
―――――大きな浴槽というのはやはり素晴らしい。
一人暮らしをしている俺の部屋の浴槽は凄く小さいこともありシャワーで済ませることが多かったので、温泉のような大きな浴槽を使えるという喜びはひとしおだった。
これでモヤモヤがなかったらもっと良かったのに……。
そう思いつつ温泉からあがった俺は、湯上り処に座ってボーッと考えごとをしていた。
思えば真尋が女の子のままならば、あいつは今後中学校へと再び通うことになるんだな~。
今でこそ引きこもっていた影響か人が多いところを苦手にしているけれど、俺が引っ越す前までは真尋は普通に人前を苦手にしていなかったことを俺は知っている。
だから仮に真尋が中学に通い始めても、なんだかんだ言いつつも新しい友人が出来るだろう。
その点に関してはなにも心配していない。
とはいえそうなると遊ぶ機会も減るよな~。
割り切るしかないか。
そんなことをうつらうつらと考えていると、俺の背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
俺はその声に反応して誰だと思って背後を振り返ると、そこには浴衣を来た真尋が立っていた。
「あれ!? 真尋!?」
「まったく、さっきから名前を呼んでいるのに気付かないなんてな!」
真尋はそう言って腰に手を当てて口を尖らせながらこちらを咎めるようにそう言った。
確かに気付かなかった俺が百パー悪いのだけれども、今日はもう会うことはないと思っていただけに奇襲を食らったような気分だった。
だからついついいつもの調子で真尋と言ってしまった。
周囲にみはりちゃんやかえでちゃん、もみじちゃんの姿が見えないのが唯一の救いか。
当の真尋は俺が座っている座敷の向かいに座って来た。
そんな真尋に対して俺は答える。
「さっき風呂を出たと聞いていたからこんな所に来ると思っていなかったんだよ。みはりちゃんたちは? まさか一人でここに来たってわけじゃないだろ?」
「俺をなんだと思っているんだ! ここには一人で来たの! ……えっと、実はまだ戦友がいてさ。部屋にずっといると、色々とこみ上げてくるから風呂場に忘れ物したってことにして散歩してたんだよ。」
俺はその言葉を聞いて噴出した。
女の子になる薬を再度飲んだとロインで聞いていたから、まだ戦友が残っているなんて思っていなかったからだ。
「薬は飲んだんだろ?」
「寝てる間に効果が出てくるんだってさ。」
「ああ、つまりまだ効果が出ていないから残っているわけね……。」
女性の身体で男性の性器とか、それなんてエロゲ案件である。
実際にそんな身体に俺がなってしまったら苦労するのが目に見えているし、そもそも性別代わるだけでも間違いなく苦労するだろう。
いくら妹のみはりちゃんがサポートしてくれるからって、特に堪えた様子がないのは本当に凄いと思う。
「なぁ、真尋。やっぱりその姿って大変じゃないのか?」
「え? うーん、最初の頃はキツイかったけど今じゃ慣れたかな~。急にそんなことを聞いてきてどうしたんだ?」
「いや、ただ大変そうだなって思っただけだよ。」
俺の返答に対してふーんと答える真尋。
まぁ実際、急にこんなことを聞かれても返答に困るだけだよな。
俺がそのように考えていると、真尋から思っても見ない言葉が飛び出してきた。
「前々から様子がおかしいと思っていたけど、まだ続いているんだな。」
真尋のその言葉を聞いた瞬間、自分の心が跳ねたの分かった。
そして咄嗟に真尋に対して尋ねる。
「は? 様子がおかしいって何のことだよ。」
「様子おかしかっただろ、この前みはりと一緒に家に来た時から。」
その言葉により一層俺は驚いた。
以前みはりちゃんと一緒に緒山家を訪問した時ということは、大学で吾妻さんやみはりちゃんと話をした日のことだろう。
事実あの時に、俺は真尋の姿に対して含むことがあったことを自覚した。
とはいえ当の本人には知られたくないという気持ちもあったから、緒山家に着いて真尋と話をしている時なんかは極力感情を表に出さないようにしていたのだが、それが裏目に出てしまったのだろうか。
なんにせよ、真尋は真尋なりに俺のことをよく見ているということなのかもしれない。
「まぁ、そうだな。実際思うところがあったのは確かだよ。」
「ふーん。それは俺に対しても言えないことか?」
「え?」
「困っているんなら手を貸せないかってことだよ。ほら、俺がひきこもっていた時に助けてくれただろ。今度は俺の番。」
真尋はそうぶっきらぼうに答えると、そっぽを向いた。
対する俺は真尋のその言葉を聞いた瞬間に、突如として胸にこみ上げてくるものを感じた。
俺はついその嬉しさやら恥ずかしさやらで真尋の頭を撫でてしまうと、真尋からは「やめろよ~」と言われつつ手を払われたけれども。
さすがに今の俺の感情を真尋にストレートに伝えるのは恥ずかしいから、誤魔化しながら真尋の厚意に甘えてみようかと思って口を開く。
「そうだな、それじゃあ聞いてくれるか。極力手短に話すつもりだけれども。」
「あ~、そうだな。短めに頼むぞ。」
「ありがとう、友達から相談を受けてて困っているんだよ。その友達、男なんだけど、こいつには昔から仲のいい幼馴染がいたんだってさ。それこそ何するにも常に一緒ってくらいの。でもその友達は子供の頃に親の都合で遠くに引っ越ししてしまったんだと。それで大学生になって久しぶりにその幼馴染に会いに行ったら、実はその友達の幼馴染は女の子だったことが判明したみたいでな。友達は再会した時は気にしないようにしていたみたいなんだけど、時が経つにつれてやっぱり意識してしまって昔みたいに接することが出来ないんだってさ。それが申し訳ないんだけど、なにか解決方法がないかって相談されているわけ。」
もちろんこれは作り話だ。
俺の思ってることをそのまんま伝えるのは恥ずかしいから、ちょっと俺の気持ちを反映させた即興で作って程度の話だけれども。
そんな相談に対して真尋は真剣な顔をして考え始めた。
作り話なせいか、なんとなく罪悪感湧くな……。
ある程度考えがまとまったのか、真尋は俺の方を見て真剣な顔をして口を開いた。
「それなんてエロゲ?」
……いや、気持ちは分かるけれども。
「おーい、こっちは一応真面目に相談しているんだぜ。」
「冗談冗談。うーん、そうだな~……。やっぱりそういうのって本人たちの思ってることを伝えるしかないんじゃないか?」
「やっぱりそれしかないか……。」
「そうだな~、あとは案外女の子の方は気付いているんじゃないのか?」
その瞬間、俺の心臓は跳ねた。
「どういうことだ?」
「対応が変わったら相手は気付くってことだよ。例えばカズだってそうだろ? 俺が女の子になってから、昔のようにゲーム中に相手の妨害とかお前しなくなったじゃん。」
「あー……、確かに昔のようにはしなくなったな。真尋は相も変わらず妨害してくるけども。」
「隙を見せる方が悪い! まぁ、カズのことだから俺に遠慮しているんだとは思っていたけどな。」
こいつ、本当に俺のことよく見ているな。
確かに俺は真尋が女の子になってからは、前のように相手の妨害をしながらゲームをすることをしなくなった。
まぁ妨害と言っても、相手のコントローラーを持っている手を揺するとかだけども。
最初にやり始めたのは、俺と真尋、どっちだったかなぁ?
「あとカズは変に俺に対して気を遣うようになったよな。」
「そうか?」
「そうだよ。前まで以上に色々と気にかけてくれているだろ。今回の旅行だって、前までだったら運転なんてたぶんしてくれなかったと思うし。」
……確かに今回は運転役を引き受けたけれども、いつもだったらそんな役を引き受けていないかもしれない。
いくら真尋に新しい友人が出来たり、自主的に外出しようとしたとしても、前までだったらよくやったと言うだけでそれのサポートまでしなかったような気がするし。
ということは本当に俺って真尋に対して前まで以上に甘くなったのか?
「言われてみたら確かにそうかもしれないな。俺は全然そんな気はしていなかったけど。」
「だろ? だからその友達も女の子に気付かれていると思うんだよな~。」
「なるほど、スゲー勉強になった。その友達にもしっかりと伝えておくよ。」
「そうしてくれ。お友達くん?」
そういって真尋は俺に対して挑発的な笑みを浮かべる。
真尋、実はこの相談が俺のことについてだって気付いていたのか?!
最期の言葉なんてまさに俺に向けて言われているような気がして、ドキリと心臓が跳ねた。
これは……、俺の抱えていることをしっかりと伝えた方がいいのかもしれないな。
「いつから……、気付いていたんだ?」
「んー? まぁ、正直言えば相談を聞く前からかな。相談事にしたって、今まで聞いたことのない話だしな。お前ならそんな面白い話があったらとっくに教えてくれていただろ?」
……俺は今日、何度真尋の答えに驚けばいいのだろうか。
真尋の洞察力には本当に恐れ入る。
俺はため息をついて真尋に答えた。
「参った参った、本当に人のことをよく見てるんだな。確かに俺はお前に対して距離を感じてしまっていているんだよな。なんというか、前まで以上に真尋は華奢になっているだろ? それもあって前のようなじゃれあいがなくなって、つまらなくなったというか寂しくなったというか……。自分で言ってて情けないとは思うんだけどな。」
「確かに前みたいなじゃれあいは減ったな~。ていうか、今やられたら俺は体格差でやられてしまうわ!」
「ははっ! まぁ、つまりそういうことだよ。お前が女の子になって理解はしているんだが、前までやっていたこととかを急にしなくなって寂しく感じたわけだよ。」
「なるほど、なんていうか新鮮だな、カズが寂しく感じるってのも。」
「うるさいよ。」
「ははは! まぁ、確かに昔みたいなじゃれあいは出来なくなったな。俺が男に戻るその日まで我慢しててくれ。」
「へいへい。」
さっき再度女の子になる薬を飲んだ奴が何を言っているんだか。
とはいえこうやって真尋に自分の気持ちを素直に伝えると、何故か心の重荷が取れたような気がした。
結構俺って単純な人間なんだな。
「ありがとう真尋。幾分か気が楽になった気がするよ。」
「それはよかった。さて、そろそろ俺は部屋に戻るな。結構長いこと話をしてしまったから、みはりが探しに来るかもだし。」
「わかったよ、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
そう言って俺は真尋と別れて自室へと戻るために湯上り処を後にする。
心に溜まっていた淀んだ気持ちが幾分かマシになったお陰で、今日はよく眠れそうだ。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
翌日、俺たちは泊まっていた旅館を後にして車に乗って帰宅の路についていた。
朝再会した真尋ともみじちゃんは髪にパーマがかかっていたのはさすがにビックリしたけれども。
誰にやってもらったのかな? かえでちゃんかな?
昨日真尋と会話した時にはパーマなんてあてていなかったから、たぶん今朝かけてもらったのだろう。
そうなるとやっぱりかえでちゃんがやったんだろうね。
おしゃれな娘だから、きっとそういった道具も持ってきていたんだろう。
そんな彼女たちをしっかりと家へと送り届けるため、休憩を挟みながら俺はゆったりとレンタカーを走らせる。
―――思えば昨日真尋と話をする機会を偶然にも得ることが出来て本当によかった。
俺の中にあった全ての悩みが氷解したわけではないけれども、それでも自分の気持ちに一区切りをつけられたのだから。
さすがに真尋との昔のようなじゃれあいはやっぱり出来ないけれど、今後も変わらず真尋が男に戻るまで、そしてニートから脱却するまで、みはりちゃんの願いが叶うまでは今と変わらず真尋やみはりちゃんと遊んでいこうと思う。
そうこう考えている内に、緒山家が車窓から見え始めた。
一応この後、かえでちゃんに案内してもらってから穂月家へとかえでちゃんたちを送り届ける予定だけれど、ここで先に緒山兄妹をおろす必要がある。
だから後部座席でスースーと寝息を立てて寝ている四人に対して声を掛ける。
「みんな、緒山家に着いたよ。そろそろ起きな~。」
書けば書くほど迷走していって、書いては消し、書いては消しを繰り返した結果遅くなってすみませんでした!
ちょっとしばらく方向性を見失っていたんで、この話以降はちょっとずつ修正してきます。