あの救出の後、深山町の方を離れ街の方に来ていた。流石にこの寒い中外で話すと言うのも酷なので適当なカフェを見つけてその中で話をすることにした。移動用の車を使用した、やはり文明の利器はいいものだ。数キロ離れた都にたった数十分で行けるなんて…便利になった物だ。
そして当の本人であるオルガマリーは周りをキョロキョロしている、まあ時計塔の人間だしこういった明るい店に来るのは初めてなのかもしれない。武内とかも嫌に渋い店ばっかだったしなぁ。
「こういった場所には初めてか?」
「えぇ、コーヒー店なのにここまで開放的な場所とは思わなかったわ。私の所はこう…落ち着いた雰囲気だった。」
「あぁ、武内も似たような事言ってたな。」
実際に行った事がないから何とも言えないが武内から聞いた話と同じだ。落ち着いた雰囲気を出した木造建築などが多いらしい。コーヒー店が多いのに何故か紅茶の方が人気だと勘違いされやすいようだがイギリス人的にはどちらも好きのようだ。
日本のカフェも同じような建築をしている、スタバとかがそうだ。コーヒー店ではよく本を読んだりしながらコーヒーを飲む人が多いのはその落ち着いた雰囲気が好きなんだろう。和也はいつも持ち帰りの上本を読む事があまりない。そのためよく周りから勿体ないと言われる。家で飲んだ方がいいのに…まあいいや、それより本題に入ろう。
「んでオルガマリーはどうしてこんな所に?」
魔術師の行動何て遠坂か武内ぐらいしか把握していない、和也の方は情報入手がスマホでのネットの提示版か住人から話を聞くなどぐらいしかできない。一応時計塔に雇われているためその仕事に関する情報は共有されるがそれ以外はされない。そのため少し周辺状況には疎い所がある。とはいえあんな夜中に何も無い深山町にいたのが疑問だ。あそこにいる魔術師は武内の協力者と和也ぐらいしかいない筈だ。
「少し気になる事を調べに来たの。ここ冬木市は聖杯戦争の跡地だと言われています。それについて私は調査をしに来ました。」
「ああそういやそんな事あったな。」
確か数年前に起こった魔術儀式、過去に存在した英雄を召喚し英霊として扱いそれを七騎、そして召喚者である七人が殺し合う聖杯戦争。勝ち残った一組が聖杯で望みを叶えることができる。随分前にここ冬木市で起こったらしいが、かなりの被害規模で一般人もかなり死んだらしい。話によればセイバーの組が勝ったらしいがそれ以外の詳しいことは遠坂も話してはくれなかった。和也はそもそも興味がなかったから深くは聞かなかったが武内も知らないようだ。
「まあ気を付けな、最近ここ物騒だから。」
「物騒と言うのは…さっきの死徒?」
「そうだ。死徒の方もそうだがここら辺じゃ奇怪めいた殺人事件もある。まだそれに関係しているのかはまだわからないけど、夜中に出ることはやめときな。」
「…魔術師も関係している可能性があるから…かしら。」
「そう言うこと、ここに滞在するのはいいけど長いはしないようにな。」
あの粘性の死徒、自然発生したものなのかそれとも魔術師の実験によって生まれた物なのかよくわからないがあそこにいたのは少し不自然過ぎる。恐らく武内の協力者がさんざん探し回っただろう、その証拠に周りからも異常のような物は無かった。にも関わらず何故か隠れもせず堂々と出てきた。まだ確定した訳じゃないが取り敢えず背後に何かいると思って動いた方がいいだろう。あの死徒が何なのかわからない以上慎重に行動はするが今は武内たちの報告を待った方がいいだろう。
「…何か気になることでも?」
「ん?ああいや、何もない気にしないでくれ。」
(おっといけね、また癖が…)
いかんいかんまた出た、いつもの癖でプライベートなのに仕事の話ばっかりになってしまった。いや実際まだ仕事中なのだが一応使い魔を放って監視しているので大丈夫のはずだ。それにあのまま置いておくのも少し気が引ける。こんな寒い中一人と言うのも可哀想だ。
現状聖杯戦争の詳細を知っているのは遠坂のみ、間桐とアインツベルンは既にいない。そのため遠坂に会うのは恐らく確定だろう。それ以外に詳しい人間なんて…いるのか?あまり詳しい話を知らないから候補が上がらない。セイバーのマスターがわかればいいのだが…一応釘は刺しておくか。
「まあそういう訳だからあまり出歩くなよ。変な事もしないように。」
そう伝票を取り席を立つ、それを見たオルガマリーは何故か慌ててそれを止める。
「待ってここは私が払うわ、助けられたのに何もしないのは…」
「こんぐらい大したことないって…」
「例え大したことなくても恩を返さないのは少し気が引けるの。」
「…わかったよ。」
伝票を渡す、いやまあどっちが払うか何て別に気にしなくてもいいんだけど…気にしない方がいいか。会計を済ませ外に出る、そしてそのまま解散となった。彼女のホテルまで送ってもよかったのだがあまり仕事場を離れる訳にもいかないので急いで戻ることにした。
現時刻 1月11日 午前 00:30
「明日跨いだってのに何も見つからねぇ…」
そう不満を溢す、町方面には既に警察と武内の部下が後処理を行っている。和也は周辺警戒をしていた、一度騒ぎを起こしてまた事件を起こす。邪魔者を消すには功率がいい二次災害と言うものだ。神経を尖らせ異常がないか五感で確認する。俺は他の人と違って五感が鋭い、多少遠くともある程度識別できる、鼻も微かな異臭も嗅ぎ分け耳もいま後ろで話している魔術師たちの会話も聞き取れている。そして勘で違和感のない事を確認すると報告のため一度家の屋根から降りた。
「特に目新しいことは起こってねぇぜ。」
「だろうな、にしても変な液体だ。」
そう濃緑色のジャケットを羽織った中年男性、黒田 将暉は死徒の死骸と思われる物を見せる、よく見てみるとその液体の中になにか混ざっている。液体の中にゴミのような物が浮かんでおり少し不気味だ。それを持っている魔術師の方も随分と奇妙な目で見ながら瓶を振っている。
「これと似たような物、何処かで見たことあるか?」
「いや、スライム事態は多少見た事はあるがこんな死骸を見るのは初めてだ。」
「とっ言うと?」
「スライムと言っても”生物”には変わりない、基本的には微生物の集合体だからな。」
細菌レベルの微生物が大量に細胞分裂を行いそして自身の体を守るために粘性の液体を出し保護する。一人一人が出す量が少ないためそれを数で補う。それを外側で見てみるとまるでスライムのように見える事からそう呼ばれている。基本的には人が作りだす事が多く自然発生することは少ない、そのため和也たちはこの犯行を魔術師によるものだと推測している。
「だがこれは”死徒”だ、死徒のスライムなど聞いた事がない。」
「んじゃ何だよ、一応こいつ呪いの類だろ。」
あの時の感じは確かに死徒と同じ負と呪いだった。見るだけで不安感を感じた。体から出る腐臭は間違いなく死徒の特徴だ。だが魔術師である彼は違うと言っている。
「スライムのような微生物が呪いの耐性を持っている訳がない。一つ一つが弱いから共生して守っていたのだ。」
そもそも耐性などが存在しない、そのため日光でも焼けどを負うし簡単な魔術なら直ぐに死ぬ。そのひ弱な体を守っているため粘性の液体を出す、この液体は苦手な日光を遮断するためと攻撃と防御の面を得るために生成する。そのため炎と物理耐性があるが通電性があるため電気に弱い、そしてその液体は魔術礼装の媒体やホルマリン漬けのような物の保護に適していたため戦闘と言うよりは希少生物として扱われる事が多い。
そしてスライムは臆病と言うこと、基本的に戦闘など行う訳がないしそもそもこんな市街地に出てくるような生き物じゃない。洞窟の中や湿地地帯のような日の出を遮る場所を好みそこに住み着く、肉食ではあるが好んで襲う習性はない、そのため魔術師たちはその違いについて疑問を持っていた。
「一応動物科の魔術師に頼んではサンプルを調べている、明日にはわかるだろう。」
「そうか、この後は?」
「一応聖堂教会の方でも協力を仰いでいる、確認のためお前の方から聞いてきてくれ。」
「俺が?」
「私は現場の処理がある、ここの聖堂教会の奴とは知り合いなんだろう?あまり私は会いたくはない。」
「はっきり言うね…まあ嫌いじゃないけど、そう言うのは。」
協定結んでてこれか…相変わらず仲が悪い、共通の敵である死徒のために協力している癖にこの有り様。まあ下手したら殺し合いになる筈だし別にいいんだけど…魔術師同士でも不仲だし仲介役は大変だな…俺のことか。
「事故処理は聖堂教会が請け負ってるんだろ?あいつら来てないのか?」
「あいつらは別の場所で仕事をしている。一応情報交換をしなきゃならんからお願いしてもいいか?」
「…わかったよ、聞いてきてやる。」
「頼む。事後処理のために事件現場に何人かいるが代行者が教会にいる筈だ、明日までには聞いておいてはくれ。」
「黒田さ~ん、ちょっと…」
「今行く、一応周辺警戒はここまででいい。明日も頼む。」
そう言うと離れて行った、和也の方も協会に向かうためその場を離れる。教会は新都方面にある山にあるので今から向かうのは少し遠いが、まあ車で飛ばせばすぐだろ。車に乗りエンジンをかけ教会を目指す、住宅街から一変視界が開け海が見えた。夜と言う事もあり街の光に照らされた暗海が続いていた、その光景を横目に見ながら新都と住宅街を繋ぐ橋を渡り新都に入る、住宅街とは違いネオンの光が激しい街だが街と言うのは市を動かすための場所とも言えるので仕方ないとも言える。
深夜だが人盛りはあった、とは言えほぼ全員が社会人で若い学生などはいなかった。まあこの時間帯なら明日のために早めに寝るかいるとしても夜遊びで少人数ぐらいしかいないだろう。開いている店もほぼない、ネオンの光はあるがビルもアパートも営業時間外、深夜などあまり行く意味もないだろう。街の道路を車で走りながら山奥を目指していく。ネオンの光が薄くなり自分の好きな月光が入ってきた。あはり自分はこっちのほうが好きだ。そう思いながら走っていると目的の場所についた。
言峰教会、前にいた言峰と言う人物が管理していたらしいが前の聖杯戦争によって死亡したらしい。そのため別の人がここに配置された。もちろん聖堂教会の人間でしかも代行者、異端狩りの達人が教会を管理すると言うなんとも似つかわしくない場所になっている。とは言え聖堂教会も魔術協会もほぼ人を超越した存在のようなものなので今更だが…
「さて…着いたな。」
固く閉ざされた鉄の門、その先には例の協会が建っている。車を降りその門の前に近づき押すと何の抵抗も無く開けられた。風化して凸凹になった石積みの通路を歩いて行き協会に向かって行く。
「よおレイナ~いるか~?」
そう教会の限界を雑に開ける、並べられた長椅子の先には聖書台と思わしき物があり横の窓から夜光が差し薄暗い場所になっていた。
「そんなに大きな声を上げずとも聞こえてますよ。」
そう奥の部屋から女性が出てきた、肩に届きそうな水色の髪、瞳の色も綺麗な青い瞳だ。シスターの服を着て部屋の中央を歩きながら和也の方に近づいて行く。レイナ・アルブース、この教会を管理している人物だ。
「今日は大変だったようですね、今回はその報告で?」
「そうだよ、とは言っても紙に書いてある事言うだけだけど。」
「言った事は口に出さない方がいいですよ。」
呆れている、細められた視線が和也に向けられる。仕方ないだろ、だって本当のことだし…というかこちらの事情についてあまり突っ込まないで欲しい。
「いいじゃねえか、ほんじゃ言うぞ…」
聖堂教会、本来なら魔術師とは相容れない存在なのだが死徒と言う共通の敵を倒すため同盟を結んでいるが裏面では殺し合っている。だが仲が良い所もある、ほぼ小数だが組織としてではなく友人と言う立場で会っている人たちもいる。和也と今目の前にいるレイナは後者だ、とは言え知り合ってまだ間もないのだが、和也は立場などあまり気にしない人なのでフランクに対応していたら腐れ縁のような関係になっていた。和也は武内とは少し長いためよく仲介役にされることがある。そのため仕事上の関係だが仲もそこまで悪くなかった。
「…了解しました。報告を済ませたら私も捜査に参加します。私の部下にも伝え情報共有を行わせます。報告に関しては後程魔術協会の方に行い共有を。まだ私の部下が帰ってきておりませんので教えることができませんので…」
「別にいいよ、結果的に俺を呼び出されなくていいし。」
「ですが魔術師の方で私たちに伝えたい場合はあなたが選ばれるでしょう。そう言った場合は私の方に直接来てください。」
「別に香織さんでいいんじゃないか?」
「もし彼女が何らかの襲撃を受け死亡した場合私に情報が届かない場合があります。それを避けるために私の所に来てくれればありがたいです。」
まあ情報はなるべく偉い人が持っていた方が良いというのは確かだ、彼女は実力はあるしそれに最終的に聖堂教会としての動きを決めるのは彼女なので直接報告した方がいい。それに今はまだ不安定要素がある、現状の戦力では余程のことが無い限り全員死なない筈だしそこまで保険はかけなくてもいいと思うが…まあ心配性なのかもしれない。
「わかった、何かわかったらあんたに直接伝える。スマホの連絡先交換してたよな。それでいいか?」
「いいえ、もし魔術師が関わっていた場合逆探知されるかもしれません。報告は直に会ってから…」
「…今どきの魔術師がそんな器用なことする訳ないと思うんだが…」
「ですが無いとは言えないでしょう?」
「いや無いと思うぞ、あいつらプライド高いし…武内だってそんなことできないだろう。」
と言うか古風にこだわりを詰めすぎている魔術師がそんな現代臭いことするわけがない。遠坂だってポンコツ通り越して役立たずだし…武内はリモコンのこと杖と勘違いするし…まああながち間違いではないけど
「うるさいですね、いいですから報告は直にお願いします。」
「スマホでいいじゃん。」
「駄目です。」
却下された、解せぬ。別に速さで言えばスマホの方が断然早い、なのに魔術師や聖堂教会の人間は頑なにデジタルを使用者がいない。いやまあアナログを使い続けたからこそ人から逸脱した存在になったのは認めるのだがデジタルに慣れた身としてはこっちに合わせてほしいのだが…届かぬ思いだった。と言うか正直面倒臭いからスマホにしてくれ…
「それが嫌でしたらあなたの調査に私が同行しましょうか?」
「…フェ?」
「そうした方が報告も早いですしこちらの方が効率的ですよ。」
「むむむ…」
そうレイナの提案だがそこまで悪いことじゃない、協力体制が敷かれている以上情報共有は早い方が良い。行動を共にしていた方が何かと都合がいいが…もし魔術師とあった場合、突如始まった腹の探り合いはこちらとしては気分が悪い。だが俺の場合そんな事は起こらない、本来魔術使いなんて聖堂教会から見てみれば嫌われる対象なのだが何故かレイナはこちらをそんな風に扱わない。彼女は効率を優先するためほういった事は気にしないのかもしれない。こちらとしては気が楽だ。案外悪くない提案の返答をしようとした途端何かが爆発した音が遠方から聞こえてきた。
「…なんだ?」
その音を聞き急いで外に出る、すると新都方面にあるビルマンションの一つから火が上がっていた。中央の場所すべてから火の手が上がりそれが上に上がっていく。ここからマンションから距離はあるがそれでも見てもわかるほど被害が大きいことがわかる。
「あそこって確か…」
『そういや何処のホテルに泊まるんだ?』
『アリーシャマンションよ。そこにいるわ。』
そうオルガマリーと別れる際に聞いた事を思い出していた、何かしら伝える事があるかもしれないと泊っていたマンション先を一応聞いていたのだ。だが何故火の手が?
「…火の手にしては広がり過ぎですね…あんな場所にそこまで燃える物や爆発物何てないでしょうに…」
人が住む場所と言うのは基本的に爆発物はない、ガス管などは存在するがそれでも中をすべて吹っ飛ばすほどの威力は条件次第ではないことはないがマンションのような所でそれが起こったとしても一室が潰れるだけであんなフロアごと全部燃える何て基本的に有り得ない。て言うか静観している場合じゃない!
「あ、あなた何処に行く気ですか!?」
「何処ってビルに向かうんだよ!あそこには知り合いがいるんだ!」
「待ちなさい!」
その言葉を無視し車には乗らずそのまま強化を付与してビルに向かう、こんな状況だ。恐らく交通規制が出てあまり近づけないだろう。ここからそこまで遠くはない、ならそんなに時間は掛からない筈だ。
「ゴホッ、何でこんな時に火事なんて…」
そう口にハンカチを当て火の海となった場所を歩いて行く、壁に手を当てそれを頼りにしながら移動する。視界は真っ赤に染まった視界にはただ熱気から伝わる熱さが体に当たる。それを嫌がりながらも何処に行けばいいのかわからない。だから取り敢えず火のない場所に移動していくしかない。
「出口は何処に…」
不安の声を漏らし熱気に目が焼かれそうになりながらも進んで行く、視界に写るのはどれも炎ばかりで安全な場所どころか開けた場所さえ見つからない。燃えているため酸素が薄い、呼吸が辛くなってきた。仕方がない、本来ならばあまり許されない事だが…魔術を行使するしかない。
「はぁっはぁっ…炎の周りから、空気を抜くぐらいなら。」
炎は別に空気がなくともガスに引火させたり色んな方法での発火方法があるがこのような火事の場合周りの酸素が炎を燃やし続けている、そのため周りの酸素が薄くなれば炎は鎮火する。昔の日本の消化団は巨大なうちわで火の粉を払っていたため火事が拡大していたが周りの家を破壊するなどして強行手段をとっていた。今では水をかけると言う手段になっているがその他にも土をかけることで消化すると言う方法はある(だがこの方法は火事が起こった場合はオススメされない。鎮火された後に高温状態の土が残る状態になるため危険なため)。水をかけた場合も水をかけた事によって酸素が無くなるためによる鎮火だ。水は無くてもそれと同じ方法で消せば…
「あっつ!この際そんな事言ってられないわね。」
炎の周りの空気を無くしながら進む、下手に物を破壊する訳にはいかない。崩落の可能性がある場所でそんな事したら崩れかねない。と言うよりそんな事に魔術を使用したくない。にしてもどうしてこんな火事なんか…ましてや爆発が起こった原因がわからない。部屋で明日の予定を立てていたら急に爆発が起こった。異変に気付き脱出しようとした時もう一度爆発が起こった。その事に慌てて人が避難し始めていたのだが自分だけ逃げ遅れてしまった。
「ここを右に曲がれば非常階段…」
そして突き当りを右に曲がると非常階段の扉が見えた、そこに向かって移動する。そしてその扉を開けようとドアノブに手を掛ける。すると手が焼けるような痛みが走り思わず手を離してしまう。
「っ!?」
手を確認して火傷していないのか見る、何処にもそのような痕はなかった。このような火事が起こった場合火のせいで真っ先に鉄が熱せられて高温状態になってしまう。そのため下手をしたら火傷をすることがあるのだが非常階段にまで火がきていなかったので軽症で済んだ。額に垂れる汗をハンカチで拭きそのまま熱を遮断するためにハンカチをドアノブに被せそのまま回した。
「このまま下に…」
火の手が上がった場合まずやるべきは自分の安全確保が優先することだ、そのため彼女のように下に避難すると言うのは間違いではない。もし火元がここではなく下層だった場合は仕方なく上に避難する必要があるかもしれないが基本的には地面を目指すのが良い、だから彼女の行動は普通だったら何も間違いではなかった。
「え?」
扉を開けた先にまず視界に入ったものを見て思わず間抜けな声をだした。
それは蟲だった。クワガタのように二つの顎が見えた、だがクワガタと言うには少し異質過ぎた。脚が8本、口の部分から針のような物が飛び出していた。背中には棘のような物も生えている、色もバラバラでその不気味な見た目から普通の生き物ではない。まるで何かを合成させたような、そんな見た目だ。大きな眼がこちらを向く、何の感情も無い無機質な複眼がこちらを見つめていた。その数秒の膠着状態が続いた。時間にして一秒にも満たないだろう、だがその時間がまるで一分にも感じた。
本来このような状態になったら魔術師であれば戦闘体勢に入るだろう、違和感が残る火事、そして場違いなこの異質な虫を見れば魔術師は攻撃と受け取り反撃に出るのが普通だ。だが彼女はそれができなかった、そこまで思考がない訳ではない、だがそこに至るまでがあまりにも遅すぎた。だからこそ彼女は相手に先手を許してしまった。
蟲がこちらに向けて加速する。そこでようやっと彼女は動いた、自身に危険が迫ってきた事による反射なのか彼女は避けると彼女がいた場所にそのクワガタが突き刺さる。すぐさま距離を取ると後方の壁にひびが入りすぐさまそのクワガタが出てきた。彼女はすぐさま指をクワガタの方に向けガンドを放つ、だがクワガタはそれは難無く回避し再び彼女の方に向けて突進する。蟲の飛行能力は高いがカブトムシやクワガタのような蟲は他と比べると見送りしてしまう。トンボやハチのような蟲の方が早いし飛行距離に関しては蜘蛛の方が圧倒的に長い、とは言えそれでも人が目で追うには少し早い。だがこのクワガタはその比ではなかった、彼女の初発のガンドを撃つと同時に突進しそして次弾を撃つ前には回避してほぼ目の前にいた。そのため彼女はその速度に驚き脚がもつれてしまった。だが奇跡的にその攻撃も回避できた。
そして彼女はそのまま階段を降りる、ここでは狭い上に扉を越えた直ぐ先にでは火事になっているのでここで続けるのは不利だ。そのため下にいきここより落ち着ける場所が欲しかった。そしてクワガタは彼女を追跡し始め攻撃を続ける、そのたびに彼女の体に傷が付くがそんな事気にしてられず逃げるように下の階のフロアに逃げ込んだ。視界には火の手が上がっていない綺麗な廊下が続いておりやはり上の階が火事の元だったようだ、だがそんな事に安堵してられず後方を確認すると鉄の扉を貫きこちらに向けて顎で威嚇する蟲がいた。
「ひっ」
思わず怯えた声が漏れその蟲から距離を取りながらガンドを放つがまるでトンボの如くひらりと回避されその蟲が肩に突き刺さった。
「いっ!」
悲痛の声があがり顔が歪む、蟲はそのまま肩を突き破り外に出る。オルガマリーはそれに引かれるように後方に倒れる。倒れたことによる痛みより方の激痛が体を支配ししばらくその場で蹲る。
「うぅ、痛い。」
弱気な声を抑えるように肩の傷口を塞ぐ、ぬちゃりと何か暖かい物が手に付着し思わずその手を見る。その手には自分の地が付着しておりそれを見て思わず血の気が引いてしまう。震えが増しその手を凝視する、そして自分の頬に何かが落ちてきた、ゆっくりと手からその落ちてきた方に視線を向けると自慢の顎で音を鳴らしながらこちらを見下ろす蟲がいた。
「あっ…あぁ。」
彼女は既に恐怖に支配されていた、そのため抵抗する気が無くただその光景を見ていただけだった。そして蟲はそのまま彼女の方に向け突進する。ただ速度に向けた攻撃だが速度と固さがあれば威力は狙撃銃となんら変わらない。しかも今回は顔に向けられているので直撃すれば彼女の頭蓋骨を粉砕するだろう。
(どうしてこんな事になったんだろう…)
ただ聖杯戦争の跡地、父が参加したこの場所を見たいという一つの興味からだった。まだ何もなしていない自分、カルデアと言う場所を設立した父、その父の娘と恥じないように時計塔で勉学を励んだ。何とか上位成績を収めある日長期間の休みをもらいふと聖杯戦争の事を思い出した。父が参加した聖杯戦争、その跡地をこの際見るのもありだと思いこの地に来た。
今思えば自信が欲しかったのかもしれない、偉大な父に追いつけるように例え無駄な知識だとしても聖杯戦争と言うものを知っておきたかった。それがこのざま、危機感知も遅くただ目の前の恐怖から逃げる事しかしないただの臆病者…せめて実戦を体験しておくべきだった。
目の前の死が近づいてきた、既に冷めきった頭はそれを受け入れようとした時…その蟲が瓦礫に巻き込まれた。
「……え?」
横から凄まじい轟音とともに砕かれた壁の残骸が蟲を巻き込んだ。その事に思わず手を前に出し瓦礫を防ぐ。
「なにが…」
そう状況が把握できず体を起こす、横にはぽっかりと穴が空いていた。そこには灰色のコートを羽織った人物がこちらを見下ろしていた。
「よお、昨日ぶりだな。大丈夫か?」
優しい声とともに壁を乗り越えてきた、私はまたも彼に救われたようだ。
オルガマリーって意気込みはいいんだけど実際に出ると臆病過ぎる面が出ているような気がします。(けどやる時はやるんだよね)ただ彼女の魔術についてあまり想像ができない、天体科ってどんなの使うんだろう…