おそらく続きます。
「激情は絶対と相反し、可もなく不可もなく、僕を信用する」
「錬金術師さん、いますか?」
国家の資金をあからさまに投入されたモダンな建築。絢爛。紋章や神を纏うように設計、設置され、森厳なオーラを放つ。と思わせる戦略だと、僕は感じる。図々しくて、あまり良い気はしない。億劫。
「出払ってるよ」
高貴なバッチをつけ、顔に注目を当てるダイアモンドのネックレス。シルクとベルベットの素材が、漏れ出した日差しを感じて嫌らしく光沢する。
「電気が足りないんです。この寒さじゃ凍えそうで」
僕は身震いして辛さを伝えた。
「居ないものはどうしようもないだろう? それともなにかい。光源でも買っていくかい?」
ぶっきらぼうに、初めからの不機嫌を重ねて、早く帰って欲しそうに言った。受付を任される貴方は錬金術を扱えるわけでもないのに。
「そんな高価な物があれば豊かになれるはずですけど、僕はやっぱり難しくて、憧れはありますけど」
僕が望むのは取り合ってもらう事だった。一般市民の暮らし方。気に入られること。まず初めに予約へとこじつける。そのチケットを望む市民の一人。
「この時期は流行り風が吹くだろう」
残酷だな。終わりとは一方的だ。
確かに、外ではベージュのポンチョが勝手に膨らむ。風を集めて、感じて、心地良く波打つ。僕は結局、こんな風に意識を飛ばさなければ生活の余裕から最も離れた身分に潰されてしまう。
「そうですね。風邪をひかないように、薬でも買わないといけませんね。それじゃ僕は帰ります。望むなら、また伺いたいと思います。では」
椅子の脚は折れない。天井は崩れない。寒さに凍えない。仕事を選ぶことができる。豪華なお食事を食べられる。個の主張を理解される。気が付けば、そこに僕は居ないのだった。彼女の瞳には写りはしない見窄らしい体躯は、どうやら。ドアが閉まると、見せびらかすような誇示が、ぽうっと光った。妖精の魔法だ。使い勝手の良さそうな光は、足元を照らした。
「寒いなぁ」
手やら脚やら胴体やらをポンチョにくるんで畳む。大体の冬を乗り越えた知識が、僕を少しだけ大人にさせたようだった。そして、幼いときよりも、僕は随分、敬語が上手くなった。
「テイオー、あなた。またサボっていますのね。先生に言いつけますわよ」
人目につかない芝生の上だった。
「今回は勘弁してよ、僕眠くてさぁ」
労働の対価が筋肉を蝕んでいる。おかしな話だけど、僕はブルーカラーとしてお金を貰い、死なないように生きている。生きる喜びよりも、死なないようにだ。おかしな部分とは、マジョリティに属する自分の境遇。僕の通う学校というのはみんな、まるで温泉みたいに財布からお金が湧き出て、それを垂れ流しながら生活する。
「いつも、今回今回って。いつになったら次回が来ますの?」
ジュースやお菓子やランチ、ファトゥーの杖、ブランドの服、スカーフ、髪型、メイク、雑貨、妖精の魔法、錬金術の利便。
「分かんないや〜」
横向きになりマックイーンから、顔を背ける。
「あなた。そのままでは立派な錬金術師にはなれませんことよ」
立派なってどういうことなんだろう。僕はそんなしょうもないと言われる戯言を口に出さない。
「良いんだよ、どうせ僕は"クズレ"なんだから。焦っても仕方ない、仕方ない」
埒が開かない、そんな気がして、僕はマックイーンを見据えた。彼女は刹那に狼狽し、やがて僕の言葉に遮られた。
「またそんなことを言ってーー」
「だってそうじゃないか。マックイーン。君はみたことある? 人間の統計学ってやつ。僕それを齧って真似てみたんだけど、錬金術師の家系って皆錬金術師だし、その家族って皆裕福なんだよ。こんなのってないじゃん。嫌になるよ。出来レースでさ。しかも僕は初めから出馬されてないんだよ」
でもやっぱり。引っかかっていたのは事実なんだ。こうやって君を不快にさせてしまうのだから。
「そんなに語気を荒げないで」
「去年、知ってる? カルガモ先輩が居たでしょ、成績優秀の。今、何をしてるか知ってる? マックイーンはさ。どこまで知ってるの?」
「どこまでも知らないわ。ただ、あなたが落ち着いた方が良いってことくらいは分かるから」
「落ち着けって? 僕は落ち着いているよマックイーン。君みたいに平然と。ねぇ。何してると思う? 分からない? 妖精の点検工。朝から晩まで、国中を這い回ってるんだよ。確かに、知識が必要な分野だよね。だから、彼は成れたのかも。でも、どうかな。僕ら子供は、みんな、錬金術師の学校に通わされるでしょ? 嫌になっちゃうよ。ほんと」
「そう決まっているのだから、仕方ないじゃない」
「そうなんだ、そうなんだよ。仕方ないんだよ。よく分からないよね。どうせ成れないのにさ。こうやって子供達を学校に入れてさ」
「……また、お金に困ってますの?」
取り繕う術はなく、
「大丈夫……お世話にはなれないよ。君が僕に奉仕をしたら、追放されちゃう。そんなこと、僕は望まない」
「……」
マックイーンは流れ星に願うように空を見上げた。それはただ、心を逃す行為に他ならない。意識を飛ばしても意味ないよ。あぁ、彼女の手の内が透けるのが痛い。僕は彼女の何もかもを把握してしまう。敏感に、そして、俊敏に。
「昼でもサステマがよく見えるでしょ。ほら、あそこ見てみて。防衛膜が薄くなってる。少しだけ魔樹の暗唱が漏れてるよ、あはは」
慰安旅行に出掛けてしまったまま戻らなくなる憂鬱と期待。彼女は、その限りではなく、しかし算段を失った哀れさを滲ませる。
僕は立ち上がって、なんとなく衣類を叩いた。シワやら襟やらを直すそぶりをしながら。
「無理しなくても、よろしくってよ……」
「何言ってるのさ、マックイーン。君が言ったんじゃないか。授業に行きなって」