かと言って純粋なうたた寝のような冒険   作:カーテンと手袋

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まぶたの世界

「僕等の国は、いつも内側に向いている気がする」

 

起きた?

薄く、解像度が低い。

テレビ、ブラウン管、地上波。

電波又は繋がるコード。

扇風機が微かに回転している。

もう一度、目を瞑り、もう一度開く。

天井だ。

僕は一度空気を吐き、吸う。

ピントは自動で補正されていくようだ。

夕陽が天井を三角にしていく。

散弾を放たれたような、まだらな、

あれはカーテンの模様か。

天井に穴が空いたら危ないもんね。

「元気そう?」

覗かれると、光が遮断されて暗闇が右目を覆った。囁きと少しばかりの空気。オレンジ色が赤い髪に当たっている。距離が近くなった分、僕のピントは再度調節される。

「授業は間に合わないから、明日とか、それか今日に職員室で出せば良いから」

さっと状態を戻すと、カチャカチャと鉄の弾かれる音をさせて、今度はカチャカチャとボールペンを鳴らした。欠席証明書を見繕ってくれているんだ。僕は上を向いたまま、そう、一度も身体を動かさないまま脳みそで理解した。こんな事は一度や二度じゃない。興奮すると、昂揚して昂って体内の自制が効かなくなる。

「ナイスネイチャ先生、僕、後どれくらいで動けそうですか?」

見つめる先の陰影が微動した錯覚に、これまた不可解な後悔が押し寄せる。

「自分で自分の事が分からないんじゃ、まだかもね。でも、先生的にはもう大丈夫かな〜」

眩しくなり始めた名前も知らない光。僕はようやく黒目を動かした。そして首も。迷惑極まりないと言いたげな印を基準に。

「僕。なんだか夢を見ていたような気がします」

先生は半身になって、そう、妖精が業務を行う時のせせらぎに似ている。僅かに傾聴をしていると主張しながらも、他人から見ればよそよそしい様。

「童話に出て来るような、茶色く、耳や尻尾以外にも、ううん。全身に毛並みがある四足歩行の生き物になった夢」

夢に視点を合わせた僕は景色を少しずつ忘れていく。さっきまで先生は綺麗な相槌で話を聞いてくれていた。瞼を閉じれば世界は誰もが同じように暗さを知る。

「そこで僕は、眩しい世界を知るんだ。誰にも見つからないような、誰にも捕まらないような広大な世界を。でも僕は、そこよりももっと大きな場所があるのを知っている。信じてるんだ。行ったことはないし見た事はないのにだよ。面白いよね。世界の広さに感動しながら、その果てがないような気分がしてるんだから。こういうのって夢って言うんだろうね。僕不思議になっちゃってさぁ」

先生は折り紙を折りながら僕の話に耳を傾けている。先生はこんなふうに、さりげなく聞くのが上手い方だ。スラスラと僕は言葉を滑らせる。

「先生はこの国から出たことある? この場所から遠くの、旅行で郊外とかじゃなくて。めっきり、圧倒的に遠く。ここにはないような、そう、建物がない。同じようなさ。見たことない建物とかがバンバン立ってる場所」

「私はないかなぁ」

そう言って二つ目の折り紙に手を伸ばした。一つ目は鶴という羽の生えた生き物。童話で人と話す姿を読んだ。

「この国の中だけが世界なのかなぁ。僕だってこの国の全てを知っているわけじゃないけど、こんなに小さいもんかなぁ」

「どうだろうねぇ〜」

「先生、考えたら眠くなって来ちゃった。もう一回寝ていい?」

「いいよ」

体調の悪い生徒を診ているという主旨は、都合の良い休暇みたいなものらしく、先生はそれを理解していて受け入れる。多くの先生は落ちこぼれである僕を煙たがるけど、ナイスネイチャ先生とはそういった利害関係のアーチを結ぶ為、お互いに信頼を置いている。

 

次に起きるとメモ書きが蜜柑の横に添えられていた。さらに完成した折り紙も。僕はそれを読んでベットから立ち上がった。大地の感覚が微かな音と共にやってくる。明日、また頑張ろう。制服のシワを軽く伸ばして、鞄を肩にかけ、さっきまで話をしていた夢を忘れていたことさえも忘れて、昨日の続きを進むみたいに歩き出した。

校門から先に、左手側は森に囲まれていて進んで行くとグラウンドや裏山や住宅地など、多種多様な場所へと繋がる。それはこの森が広大である証明になるが、遭難する程の茂りを示すわけではない。

「君ってここの人? 随分、困ってしまって。ここに入る事はできないかな」

僕が颯爽と駆け出そうかなと前傾姿勢になった直後、その森から歩いて来たと思われる何者かに話しかけられた。

「ここの人ですけど。なにか」

「この建物に入りたいんだ。だけど、変な小さい生き物に邪魔されてしまって」

僕は警戒した。この建物に、つまり錬金術師の育成学校に入りたいと話すそれに、ここに入りたいと言う人なんて、きっと僕とは馴染みのない高貴な人種に違いない。それに、妖精に阻まれるなんて、でも、おかしいな、そのような人達はフリーパスで通れるはずなのに。

「入るのは……難しい気がします。何か、そうだ。呼んできましょうか」

「いやぁ、そのお偉いさん達と話し合いをと思ったんだけど、さっき阻害された時に、彼らの顰蹙を買ってしまって。その線は薄くなってしまったみたい」

高貴な人ではないにしても、明らかに変な人物である確証が漠然と漂っていた。何か、僕の根本から湧き上がる恐怖のような、白々しい空虚。未知の存在が、僕を攻撃し始める。

「困ったな。これでは帰れない。この塀もなぁ」

確実性のある確固たる証拠、つまり僕がこの人は変な人だと証明するのが容易な要因は、耳や尻尾がないということだった。僕の知らない生命体。この世界に、まるで削ぎ落とされたかのような姿があるなんて。ツルツルで、なんでないのだろう。

「じゃあ、僕これで帰ります」

「悪いね。引き止めてしまって。親切をありがとう。君に幸運が舞い込むように」

そう言うと、その人は奇妙なハンドサインをした。僕には意味が分からなくて少し戸惑ったけど、少しずつ離れて、その人が見えなくなった辺りから駆け出した。戸惑いとか疑心とか、その他諸々も払い除けるみたいに。

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