HIGH SCHOOL DETECTIVE サクラの彼ら   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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第13話 亡霊

 2047年8月10日 午前9時32分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町1-4-1 武急関中百貨店5階 玩具売り場。

 

 大量のパトカーがサイレンを鳴らし、赤色灯を光らせる。しかし、それはおもちゃのパトカーであった。

 ショーケースの上に並べられた大量のおもちゃのパトカーの後ろから、新山の首がにょっきりと出て口を動かす。

「犯人に告ぐ! お前はもう包囲されている! 人質を解放しろ! お袋さんも泣いてるゾ!?」

 すると、銃声が鳴り響き、1台のパトカーのおもちゃが吹き飛んだ。新山は咄嗟に首を竦め、ショーケースに身を隠す。そこへ、銃弾が撃ち込まれたパトカーのおもちゃが降ってきた。

「パトカーに弾撃ち込んじゃって……もう許さないゾ!?」

 受け止めた新山は、それを傍らに置く。すると、そこへ古河が近付いた。

「メグル、ホシの状況は?」

 その質問に、新山は答えた。

「男が1人、女性店員を人質にしてる」

「得物は?」

「オートマチック。多分1923系」

「ガバメントね。何発撃ったの?」

「6発」

 その回答に、古河は確信した。

「じゃ、あと1~2発って所ね」

 そして、古河は左手をショーケースの上からゆっくりと出して引っ込めた。直後、2発の銃声が響いた。

「ふへへ」

「ふふふ」

 2人は微笑み合い、ショーケースから飛び出してそれぞれブレナン B2023とベルティーニ 90-4を構えた。

 しかし、レジカウンター内で男が構えていた拳銃を見て古河の目が見開いた。

「メグルっ!」

 古河は新山を押し倒し、再びショーケースへと隠れる。また銃声が鳴り響いた。

「馬鹿、あれはベルギー製のハイキャパシティじゃないの。何が1923系よ、全然違うじゃない」

 古河の文句に、新山は声を荒らげた。

「多分って言ったでしょ!?」

 

 

 

 2047年8月10日 午前9時35分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室。

 

「そこを何とか、お願いしますわ!」

 タルボットは縋るが、鎌谷は首を振った。

「駄目だって。お腹痛いし、明日はせっかくナンパした子とデートする予定なんだから」

 鎌谷はタルボットの手を振り払い、トイレへ向かって一目散に駆け出した。

 落ち込むタルボットへ、事情を知らない櫻樹と滝本が近付く。その足音に気付いたタルボットは振り返り、2人に手を挙げた。

「あ、櫻樹先輩、滝本先輩!」

 すると、何かを察した櫻樹は、滝本を連れて2階の職員室へ向かう階段へと方向転換していった。

 取り残されたタルボットは、風紀委員会ブースの席で書類を読む倉田の元へと駆け寄った。

「倉田先輩、折り入ってお願いがあるのですが……」

「何だ?」

 倉田は書類から目を上げた。タルボットは口を開く。

「明日の当番、変わっていただけませんか?」

「明日? 駄目駄目、明日は咲綾と流美と一緒に動物園へ行く約束してるんだから」

「そこを何とかできませんか?」

「駄目って言ってるでしょ」

 すると、倉田の肩を真岳が叩いた。

「姐さん、嘘言っちゃいけませんよ」

「嘘なんか言ってないだろ」

 倉田が左側に立つ真岳を見上げると、彼女の口角が上がった。

「明日、信田さんと伊奈本ちゃんと一緒に川崎の競馬場へ行くんですよね?」

 真岳の大声に、生徒会室にいた全員が倉田を見る。

「そんな訳ないでしょ!? 私らまだ高校生だぞ!?」

「え、競馬?」

 タルボットが首を傾げると、倉田は首を振って否定する。

「だから、競馬じゃなくて動物園って──」

「まぁ、馬も動物か!」

 真岳が口を挟むと、倉田は全力でそれを否定する。

「だから違うって!」

 すると、顧問席に座っていた新条が口を挟んだ。

「倉田、ちょっといい?」

「いやいや、あかりさん、そんな馬券なんて買った事無いですってば」

 すると、新条は書類から目を上げた。

「そっちじゃなくて、古河と新山はどうしたの?」

 倉田は言い淀む。

「いや……パトロールに出たっきり、連絡はありませんが……」

 その回答に、新条はため息を吐いた。

「全く、あれほど定時連絡を欠かすなと言ったのに……」

 その時、生徒会室にスピーカーの音声が鳴り響いた。

《府警から浜崎市内の各局、府警から浜崎市内の各局、元巻埠頭 Bバースにて、ナイフを持った男に追い掛けられていると110番入電中。近い移動は急行せよ。繰り返す、元巻埠頭 Bバースにて──》

 それを聞き、倉田はすぐに身を翻した。

 

 

 

 2047年8月10日 午前9時36分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町1-4-1 武急関中百貨店裏口。

 

 タンクトップ姿の男が、拳銃片手に女性店員を引き連れて通用口から外へ出た。それを追い掛け、古河も通用口から飛び出す。

 男は路肩に停まっていた白色の後輪駆動4ドアセダン・富木 フレアX250S(GRX120後期型)の助手席に女性店員を座らせ、自身は運転席に回り込んで乗り込む。そして、急発進した。

 逃げるセダン目掛けて、古河はブレナン B2023で2発撃つ。しかし、弾はリアバンパーに当たっただけで車はそのまま逃げていく。

 すると、後方からクラクションが鳴らされた。振り返ると、新山が運転する桜見303号車のゴールドツートンの後輪駆動2ドアノッチバッククーペ・丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロ(UF31AZ2後期型)だった。

 すぐ側に停車した丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロの助手席へと古河は乗り込み、赤色灯を載せた覆面パトカーは発進した。

 

 

 

 2047年8月10日 午前9時38分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6 桜見高校南交差点。

 

 市道38号線と新港通りが交わる交差点で、桜見304号車の黒色の後輪駆動4ドアハードトップセダン・丹生館 キリエグランツーリスモ250SV(MY34中期型)は後輪を滑らせながら左折し、新港通りを東へ向かう。その屋根には着脱式赤色灯が載せられ、サイレンを鳴らしている。

「姐さん、飛ばしすぎですよ」

 助手席に座る鎌谷が鉄扇で仰ぎながら文句を言うと、運転席の倉田は口を開いた。

「悪い悪い」

 すると、車載無線機が鳴った。鎌谷がマイクを持ち上げる。

「はい、桜見304」

《あ、倉田先輩ですか?》

 無線機から聞こえたのは、タルボットの声だった。鎌谷はマイクを倉田へと差し出し、倉田は顔をマイクに寄せた。

「こちら倉田、どうぞ」

《明日の当番、どうしても変わっていただけませんか?》

 タルボットの懇願に、倉田は眉を顰めて答えた。

「ただいまお掛けになってる無線は、現在使用されておりません。どうぞ」

「ピッ」

 鎌谷が小ボケを噛ましてマイクを戻した。

 2人を乗せる覆面パトカーは、元巻埠頭へと疾走する。

 

 

 

 2047年8月10日 午前9時39分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 元巻町5 元巻埠頭 Bバース。

 

 大通りを、富木 フレアX250Sが走る。それを、サイレンを鳴らす丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロが猛追する。

 すると、パンテーラの車載無線機が鳴った。

「こちら桜見303、どうぞ?」

 古河がマイクを持ち上げて答えると、無線機から女性の声が流れた。

《こちら浜崎署。そちらの現在地は元巻埠頭ですか? どうぞ》

「えぇ、そうよ」

《至急、Bバースへ向かってください。どうぞ》

「どうして?」

 古河が訊ねる隣で、新山は苦笑した。

「ってか、アタシらが今走ってるとこがBバースだけどね」

《元巻埠頭 Bバースの公衆電話から110番入電がありました。ナイフを持った男に追い掛けられている、殺されるとの内容でした。至急、Bバースに向かい、調査願います、どうぞ》

「他を回して。こっちも忙しいのよ」

「こっちも殺されそうな人質がいるんだよ!」

 新山が、古河の手にあるマイクに向かって叫ぶと、古河は一方的に通話を切ってマイクを戻した。

 新山は口を開く。

「ルカ、いつもの手で一気に行こうよ、一気に!」

「オッケー!」

 古河はサムズアップで答えた。

 2人は、公衆電話ボックス内で垂れ下がる受話器に気付かず、覆面パトカーは疾走する。

 

 倉庫の前で、丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロは富木 フレアX250Sの鼻先に車体を捩じ込ませて停車する。それに釣られて富木 フレアX250Sも停車した。

 パンテーラの運転席から新山が降り、ベルティーニ 90-4をフレアXに向ける。すると、運転席の男が車から降りて拳銃を向けた。

「コノヤロー、ぶっ殺すぞ!」

 男は叫ぶが、新山はニヤリと笑った。

「それはこっちのセリフだよ、愚かな犯人さん?」

 直後、男のこめかみにブレナン B2023の銃口が突き付けられた。先にパンテーラから降りていた古河が回り込んでいたのだ。

「ここで裁判待たずに刑を執行しましょうか?」

 古河はそう冷たく言い放ち、銃口をグリグリと男のこめかみに押し付ける。

「執行員だけにね」

「メグル、良い事言うじゃない?」

 新山のボケに古河は微笑む。すると、男は観念したように拳銃を捨てて両手を挙げた。

「頼む、殺さないでくれ……」

 男は弱々しく投降する。すると、古河はブレナン B2023の銃把で男の後ろ首を殴りつけた。

「殺す訳無いでしょ。後始末が面倒じゃない」

 男はよろめき、その顔面に新山の右足がクリーンヒットした。

「あんたみたいな血の気の多い奴は献血でもしてろっ!」

 新山の叫びと共に、男は倒れた。

 

 

 

 2047年8月10日 午前9時42分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 元巻町5-2-1 元巻埠頭 Bバース 公衆電話ボックス。

 

 サイレンを鳴らす丹生館 キリエグランツーリスモ250SVは、公衆電話ボックスの前で停車した。

「ほらぁ、居ませんよ?」

 車から降りた鎌谷がそう言うと、運転席側のドアを開けた倉田が言葉を返した。

「かっちゃんがトイレに篭ってるから、遅れたんだろ?」

「しょうがないじゃないですか、ベルトが壊れちゃったんですから」

 2人は言い合いを続けながら、周囲を捜索する。

「全く、タチの悪いイタズラ電話ですよねぇ」

「勘弁してよ。私は今日早く帰りたいんだから」

 すると、倉田は何かを見つけて立ち止まった。倉田の背中に鎌谷がぶつかる。

「姐さん、急に止まらないでくだ──」

「かっちゃん、あれ」

 鎌谷の苦情を遮り、倉田は指を伸ばす。その先、倉庫の陰に、男性が倒れていた。白いブーニーハットに白いロングコート、白の長ズボンという出で立ちだったが、胸部は赤く染まり、太陽光を反射してキラキラと輝いていた。

 2人は駆け寄り、倉田は男性の首に手を当てる。しかし、脈は無かった。

「駄目だ、手遅れだ」

 倉田は首を振り、鎌谷は口を開いた。

「あちゃあ」

 

 

 

 2047年8月10日 午前10時14分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見 別棟1階 生徒会室。

 

 古河と新山の2人は、腕を組んでスキップしながら生徒会室に入った。そのまま風紀委員会ブースへと向かう。

 風紀委員会ブースには、風紀委員はもちろんのこと、浜崎署の刑事やIPSSの調査員も集まっていた。

「出会え出会えぃ、百貨店人質事件を一瞬で解決させたビューティ古河とキューティ新山のお通り──何これ?」

「皆さん、どうしたんですか? こんなに集まっちゃって。まさか、私達を歓迎してるんですか?」

 2人はキョトンした様子で、風紀委員会ブースに集まった人々を見る。そして、新山は小声で古河に囁いた。

「ルカ、歓迎ってムードでも無いよ?」

「サプライズかもしれないでしょ」

 古河が言葉を返すと、タルボットが2人に近寄って言葉を掛けた。

「殺されてたんですのよ」

「殺された? 誰が?」

 新山が訊ねると、羽崎が嫌味を含ませながら答えた。

「例の110番した男だよ。それも、お前ら303号車が途中通った所でな」

 それを聞き、2人は顔を見合わせる。そして、新条に弁明を始めた。

「あかりさん、アタシら別の犯人追ってたんすよ?」

「それも、人質がいたんです」

「そうそう。橋本 環奈もどきの人質っスよ?」

 それを聞き、鈴端が反応した。

「橋本 環奈!?」

 すぐに田基と永合が彼の頭を叩いた。

「そこに反応しない」

「もどきっつってんだろ」

 そんな中、新条は口を開いた。

「別にあんた達を責めてる訳じゃないの」

「別の犯人追い掛けてたんなら、しょうがないよなぁ……」

 倉田が口を挟み、鎌谷は目頭を抑えていた。

「殺されたガイシャが可哀想で可哀想で、ボクはぁ涙が止まりませんよ……」

「でも本当、運が無かったとしか言いようがありませんわ。申し訳ないですけど」

 タルボットの言葉に、棚里が苦言を呈した。

「麗羅、言い方悪いよ?」

 すると、夢川が手を叩いた。

「とにかく、今はこの殺人事件を追わないと。殺されたのは山畑 和也、28歳。オーカ警備 タナカオーカドー 浜崎店勤務」

 夢川はそう言って、写真をホワイトボードに貼った。琉田が説明を続ける。

「スーパーマーケットの警備員ですね。目立った交友関係は無し。まぁせめて言えば、マッチングアプリで何人かの女性と会った事がある程度ですが、どれも1度きりです。両親は既に他界、兄弟も無し、遠い親戚が沖縄にいるだけです。凶器は刃渡り15cmほどのアーミーナイフ、正面から心臓を一突きです。また、刺した後に捻った跡があるので、相当な手練だろうと、鹿取さんの鑑識結果です」

 それを聞き、根川が口を開いた。

「良くある『孤独者』か……」

 そして、新条が口を開いた。

「とにかく、被害者の行動追跡と、身辺調査を手分けして。以上、解散」

 

 

 

 2047年8月10日 午前10時38分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 赤先町7-1-8 Giulia店内。

 

 赤先商店街に軒を連ねるカフェバーの店内で、古河、新山、夢川、琉田の4人は店主に聞き込みをしていた。

「すると、この男性は誰かと揉めてたんですね?」

 夢川は、オーカ警備から提供された山畑 和也の顔写真を見せながら店主に質問する。すると、恰幅の良い体型に立派な口髭を蓄えた店主は頷いた。

「えぇ、そりゃもう凄い剣幕でしてね。山畑さん、すっかり怯えちゃって、代金払わずに出ちゃいましたよ」

「知ってるんですか?」

 今度は琉田が質問すると、店主は再度頷いた。

「えぇ。常連ですからね。この近所で朝から酒を提供しているのはここだけですし、山畑さん、結構夜勤が多いとかで、仕事終わりにここでフラッと立ち寄る事が多いんですよ」

 すると、古河が口を挟んだ。

「じゃあ、その怒鳴ってた男性も常連ですか?」

 しかし、店主は首を振った。

「いえ、初めてのお客さんでしたね。山畑さんが出ていった後、慌てて会計して追い掛けていきましたよ」

「律儀だねぇ。無銭飲食しないなんて」

 新山が感嘆すると、夢川は咳払いして口を開いた。

「2人は何で揉めてたんですか?」

 店主は首を傾げる。

「さぁ……匂いとか煙とか何とか言ってた気がしますけど、内容までは……」

「その男性の特徴って、分かりますか?」

 メモ帳にペンを走らせていた琉田が質問すると、店主は考え込んだ。

「うーん……黒いジャケットを着てて、ヤクザっぽかったかなぁ……あ、あと、口髭がありましたよ、私のように」

 それを聞き、新山はカウンターに突っ伏した。

「口髭のヤクザなんて、この浜崎市にゴマンといるっスよぉ。自己顕示欲が強いから……あ、マスターの事じゃないっスよ?」

 そう言われ、店主は怪訝そうな表情をする。すると、店主は思い出した。

「あ、そういえば、傷がありましたね……左頬に、切り傷みたいなの」

 それを聞き、古河と新山は指パッチンした。

「スカーフェイスに口髭のヤクザ……となると?」

「ナルトだね。マスター、お邪魔したっス。夢川さん達、行くっスよぉ」

 2人は席から立ち上がり、夢川と琉田を連れて店から出た。

 

 

 

 赤先商店街を、1人の男が歩く。すると突然、肩を叩かれた。

 振り返ると、ニンマリと笑った古河と新山が警察手帳を見せていた。それを見て、男は血相を変えて逃げ出した。

「当たりね」

「やっぱりね」

 2人は頷き合い、追い掛ける。

 

 やがて、袋小路へと男は逃げ込んだ。どこを見回しても行き止まり、そして背後には古河達4人。

 男はジャケットの中からアーミーナイフを取り出し、威嚇する。すると、古河と新山は躊躇なく拳銃を取り出して発砲した。

 銃声が鳴り響き、古河の9×19mm 124グレインフルメタルジャケット弾は男の左側へ、新山の.40A&R 165グレインフルメタルジャケット弾は男の右側へと着弾し、男は怯えたようにアーミーナイフを捨てた。

「ちょっと、いきなり発砲しないでよ」

 夢川が文句を言うと、古河は平然と答えた。

「警告射撃ですよ、夢川さん」

 2人は拳銃を構えながら男に近付く。そして、古河は訊ねた。

「どうして殺したの? 回答次第では、その頭に鉛を叩き込むけど」

「古河ちゃん、脅しは良くないよ」

 琉田が口を挟むが、2人は気にせず銃口を男に向け続ける。すると、男は口を開いた。

「た、タバコだよ……」

「タバコぉ?」

 新山が聞き返す。

「あの野郎、俺の前でぷかりと美味そうに吸いやがったんだ。俺ぁ、死ぬ思いで禁煙してんのによぉ」

 男の釈明に、新山は口をパクパクと動かす。それを見た古河が問い掛ける。

「どうしたのよ?」

「……言葉が出ない」

「あらそ。でも、これで向こう10年は確実に禁煙できるわよ。3食風呂付きの別荘でね?」

 古河の言葉に、強面の男は泣き出した。

 

 

 

 2047年8月10日 午前11時28分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町2-3-8 セフィーロ桜見12階 カフェテリアレパード。

 

 新江戸湾を望む展望テラスで、古河と新山はサンドイッチを頬張っていた。

「全くクレイジーだよねぇ……タバコの煙程度で人を殺すなんて」

 カツサンドをむしゃむしゃと食べる新山が言うと、アイスコーヒーをストローで啜る古河が頷いた。

「同感ね。何か、ああいう連中を逮捕するのに飽き飽きしてきたわ」

「まぁアタシら、働き過ぎだもんね」

「言えてる。せっかくの夏休みなんだし、何処かで羽を伸ばしたいわ」

 すると、新山は手を止めた。

「じゃあ、有給取って、どっか旅行に行く?」

「いいわねぇ……南国のリゾートで、優雅に過ごしたいわね」

 2人は微笑み合う。すると、女性店員が新山を呼んだ。

「新山さん、新山 還さん、お電話です」

 それを聞き、新山は手に持っていたカツサンドを皿に戻して首を傾げた。

「電話? スマホがあんのに……」

 新山の呟きに、古河は口を開いた。

「どうせあかりさんからの電話を着信拒否してるんでしょ?」

「そんな訳無いじゃん。電話に出ないだけだよぉ」

「同じじゃない」

 新山は席から立ち上がり、店員の元へ歩く。

「はいはい、出ますよぉ」

 古河は新山の背中を見送り、新江戸湾を眺める。快晴の下、青い海が広がっている。視線をずらし、陸地を見る。

 

 店員から電話を受け取った新山は、それを耳に当てた。

「もしもし、新山っスー……あれ、もしもし? もしもーし?」

 しかし、返答は無い。

「もしもしもしもし? 桜見高校のスーパー風紀委員、キューティ新山はアタシっスけどぉ?」

 

 隣のビルを見つめると、屋上に人陰が見えた。左手を柵に乗せ、その上に何か長い物を載せている。そして、その長い物が太陽光をキラリと反射させた。

 古河はそれに気付き、席から立ち上がった。そして、呑気に電話を続ける新山へと駆ける。

「メグルっ!」

 古河は叫び、新山に飛びつく。そして2人は倒れ込んだ。直後、銃声が轟いた。

 

 突然の銃声に、カフェテリアはパニックになった。そんな中、古河は新山の体を揺さぶる。

「メグル、メグル!? 目を覚ましてよ、メグル!」

 すると、新山の瞼が開いた。そして、自身の左肩を右手で触れる。その掌には、血が付いていた。

「大丈夫だって、ルカ。掠っただけ」

 それを聞き、古河は安堵した。新山は微笑み、言葉を続ける。

「それに、ルカの腕の中じゃ死ねないもん」

「あらそ。頭に当たれば良かったのよ」

 古河は立ち上がり、抱かれていた新山は頭を床にぶつけた。

 

 

 

 2047年8月10日 午前11時42分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町2-3-8 セフィーロ桜見12階 カフェテリアレパード。

 

 カフェテリアには、多くの警察官が集まっていた。鑑識官の鹿取が、壁にめり込んだ弾丸をピンセットで引き抜こうと四苦八苦する中、倉田と鎌谷がカフェテリアに到着した。

「何処からですか?」

 倉田が訊ねると、制服警官が隣のビルを指差した。

「あそこです」

「どうも」

 お辞儀をし、倉田は左肩の無線機のマイクを取った。

「こちら301の倉田。良かったなぁ、掠めただけで済んで」

《ダイエット中で助かりましたよ、姐さん》

 新山の返答に、倉田はため息をつく。そして、再び口を開いた。

「で、遺留品って何?」

 

 

 

 隣のビルの屋上で、新山はマイクに話し掛ける。

「メモ帳です。山畑 和也の物らしくて、氏名、住所だけ書かれてるだけっスよ」

 その隣で、手袋を嵌めた古河が手帳のページをパラパラと捲る。すると、倉田の驚いた声が返ってきた。

《や、山畑 和也!?》

「えぇ、そうっスよ。ま、大方アタシらが見殺しにしたようなもんっスからね、その復讐で狙ったんじゃないっスか?」

《でも、山畑の交友関係はゼロで、親族は沖縄だよ?》

 鎌谷の声に、新山は唸った。

「そこなんだよねぇ……いったい誰なんだろ?」

 すると、古河が訊ねた。

「メグル、傷は大丈夫なの?」

 その質問に、新山は答えた。

「大丈夫だって。笑うと痛いけど」

「じゃ笑わなければいいのよ」

「フフフフフフ」

 浜崎市の青空に、新山の不気味な笑い声が響いた。

 

 

 

 2047年8月10日 午後0時16分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室 風紀委員会ブース。

 

「親族による犯行は不可能?」

 新条の言葉に、羽崎は頷いた。

「えぇ。先程、沖縄の親族に確認の電話をしたんですが、その親族というのが名護市役所の職員でして、電話口で確認取れました。それに、今朝殺されて親族に電話で連絡があったとしても、名護市から那覇空港まで車で1時間半、更に飛行機で羽田空港まで3時間、そこからこの浜崎市まで車で30分かかります。トータル5時間掛かりますから、どう考えても犯行は不可能です」

 その説明に、新条は疑問を投げ掛けた。

「じゃあ、誰が新山を狙撃しようとしたのよ?」

「未遂じゃないっスよ。実際撃たれたんスよ?」

 新山が声を上げるが、高校生達は首を傾げるだけだった。

 そんな中、新条のデスクの電話が鳴った。素早く倉田が受話器を取る。

「はい、桜見高校 風紀委員会です……」

 倉田の表情が沈み、電話をスピーカーモードに切り替えた。すると、男性の声が流れた。

《どうして助けてくれなかったんだ、目の前をパトカーが通ったんだぞ? 俺には、警察しか頼れる所は無かったのに……》

 新山が倉田から受話器を引ったくり、電話に出た。

「もしもし、桜見風紀の新山っスけど」

 すると、電話が切れた。新山は眉を顰め、受話器を戻す。一方の倉田は真っ青な顔をしていた。

「どうしたんスか、姐さん?」

「いったいどうしたのよ、倉田?」

 新山と新条が倉田の顔を覗き込むが、倉田は答えない。代わりに、青い顔をした鎌谷がスマートフォンを差し出した。

「その……山畑さん、以前ネットでライブ配信をしてた事があってですね……その時の映像なんですけど……」

 鎌谷のスマートフォンが新条のデスクに置かれ、高校生達はそれを覗き込んだ。画面には山畑と、赤先商店街のカフェバーの店主が映っていた。

《はぁいどぉも、山和ですっ。今日はね、私の行きつけのバーを紹介したいと思います!》

 画面内で、山畑と店主がピースをする。その声に、高校生達の顔が青くなった。

「似てる……」

 櫻樹の呟きに、新山は冷や汗を掻きながら彼の肩を叩いた。

「や、やだなぁパイセン、それに皆も。偶然っスよ、偶然」

 

 

 

 2047年8月10日 午後1時11分、日本皇国 新江戸府 紫水町1。

 

 細い路地の真ん中を、ひょろっとした男性が歩く。すると、路肩に停車していた車のドアが突然開いてぶつかった。

「痛ってぇな。おい、何処見てんだ、あぁ?」

 男は車を覗き込もうとした時、銃口を向けられた。スイス製10×25mm口径自動拳銃・SAH P75ハンターを手にした鈴端が白色の四輪駆動4ドアセダン・富木 ラウンデルファイターSi-Four(GRS211前期型)の運転席から降り、助手席からは羽崎が降りた。

「兄貴の所へ、連れてってもらおうか?」

 ニヤリと笑った羽崎の問い掛けに、男は震えながら頷いた。

 

 

 

 男に案内されるまま、羽崎と鈴端は拳銃片手に安宿の廊下を進む。

「ここです」

 男はとある部屋の前で止まり、指差した。男の身柄を鈴端に預け、羽崎はチェコ製5.7×28mm口径自動拳銃・MZC MZ57を手に部屋へと突入した。

 室内のベッドでは、左足に包帯を巻いた男性が横たわっていた。

「何だこのザマは?」

 羽崎が問い掛けると、廊下の男が答えた。

「兄貴、先週の息子さんの運動会で張り切りすぎて、左足を折ったんすよぉ」

「それでも浜崎1のスナイパーかよ、ゴルゴ009さんよぉ!」

 羽崎は怒りに任せてベッドの男の左足を叩いた。

 

 

 

 2047年8月10日 午後1時18分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 鷹見町8-1-2 新見解体工場。

 

 新江戸水道に面した解体工場を、黄色いヘルメットを被った新山が走る。

「コラ待て! 工場内ランニングは禁止だゾ!?」

 すると、銃声が響いた。新山は屈み、銃撃を躱す。そして呟いた。

「あぶない職場!」

 再び走り出すが、曲がり角で一旦立ち止まり、左右上下の確認をする。

「安全確認! 待てっつってるでしょ!?」

 

 逃げる男は、ライフル銃を片手に車へと乗り込んだ。全体がボロボロの後輪駆動4ドアセダン・丹生館 フランシスハードトップV20ターボSGL(Y30前期型)のエンジンを掛けようとするが、中々掛からない。すると、そこへショベルカーのアームが振り下ろされた。

「お、おい! やめろ!」

 男の叫びも虚しく、ショベルカーのアームは丹生館 フランシスハードトップV20ターボSGLを掴み、握り潰さんと云わんばかりに力を込める。車体がメキメキと音を立てて潰れていく。

「やめろ! やめ、やめてくださーい!」

 男の叫びが響き、アームが止まる。駆け寄った新山が見上げると、ショベルカーの運転席でヘルメットを被った古河がサムズアップをしていた。

 

 降ろされた丹生館 フランシスハードトップV20ターボSGLの運転席から、新山はライフル銃を取り上げた。

「何これ?」

 新山が首を傾げる。木製の銃床に、鋼鉄製のアッパーレシーバー、そしてバナナ型の弾倉が装着されていた。

 それを見た古河は、その銃の名前を口にした。

「ビードンウェッバー ミニ47……アメリカ製のセミオートライフルよ。使用弾薬は7.62×39mm……あなたを狙ったのは.30-06だったから、まるっきり違うわね」

「何だ、外れか」

 新山はガックリと肩を落とし、ライフルを肩に担いで歩き出した。古河もそれに続いて歩き出す。

「おい! 出してくれよ! ちょっと、置いてかないで!」

 潰れかけの丹生館 フランシスハードトップV20ターボSGLの運転席からの叫びを無視して。

 

 

 

 2047年8月10日 午後1時36分、日本皇国 新江戸府 新江戸府 鷹見町7。

 

 新江戸湾と新江戸水道が交わる場所にある空き地に、覆面パトカーが集合していた。

「結局、どれも外れだったわね……」

 黄昏れる古河は、タバコを片手に紫煙を吐き出す。棚里が怪訝そうに見つめる中、新山も紫煙を吸い込む。

「でも、まだまだ怪しいヤツはいっぱいいるよ?」

 新山の言葉に、富木 ラウンデルファイターSi-Fourの助手席側ドアに寄りかかった羽崎が頷いた。

「警察も探偵も、誰かの恨みを買う仕事だからな。誰もが怪しく見えてくる」

「厄介な商売よね……」

 黄色のミッドシップ2ドアスポーツカー・富木 ウィータ5000GTターボ(EX7)の運転席側ドアに寄りかかって腕を組む竹沢が呟き、長倉が口を開いた。

「下手すれば、今までに関わった人間全員が被疑者という訳か」

「そうねぇ……考えても仕方ないから、一度学校に戻りましょ」

 古河は丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロのボンネットから立ち上がり、助手席側ドアを開けた。新山は頷いた。

「そうだね」

 

 

 

 2047年8月10日 午後2時52分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室 風紀委員会ブース。

 

「いいかい、幽霊を甘く見ちゃいけない。死霊というのはね、この世への思念が強いと実体化することもあるんだよ」

 鎌谷が講釈垂れる中、タルボットと信田は信じられないという顔をする。

「幽霊がライフル撃ったりするの?」

 信田の質問に、鎌谷は深く頷いた。

「もちろんですよ、委員長。中には立ちションしたり、女の子をナンパする幽霊だっているんですよ?」

「それはあなたでしょ、かっちゃん」

 信田のツッコミに、鎌谷は首を振る。

「そんなボクが亡霊みたいに言わないでくださいよぉ──死んでないよね?」

「私に聞かないでくださいまし」

 鎌谷の質問に、タルボットは回答を拒否した。しかし、タルボットは鎌谷の手を握った。

「それでも鎌谷先輩、さっきの話は信じますわ」

「本当!?」

「えぇ。だから、明日の当番、変わってもらえますか?」

 鎌谷はタルボットの手を握り返す。

「もちろん! いやぁ、随分と成長したね、麗羅ちゃん!」

 すると、そこへ伊奈本がやってきた。

「何してんの?」

 その質問で、タルボットと鎌谷は手を離した。

 それを意に介さず、伊奈本は書類を新条に提出した。

「新条さん、先程依頼された音声解析の結果です」

「どうだった?」

 新条の質問に、伊奈本は頷いた。

「例の電話と110番の音声、そしてこのネット配信動画の声、この3つは完全に一致しました」

 そこへ、古河達が帰ってきた。

「ただいま戻りました」

 すると、新条は高校生達を呼び寄せた。

「皆聞いて。音声解析の結果、さっきの電話は山畑 和也の可能性があるわ」

 それを聞いて、高校生達は青白い顔をする。

 

 一方、生徒会ブースでは生徒会役員共が事務作業をしていた。

 キィと扉が開く音がして、副会長の気群は顔を上げた。

 生徒会室 正面入口には、白いブーニーハットに白いロングコート、白い長ズボンの男が立っていた。

「誰ですか?」

 気群は訊ねる。すると、男は手にしていたアメリカ製12番口径自動散弾銃・アッチソン MA-12を腰だめで構えた。それを見た生徒会役員共の目が見開く。

 

 そして、生徒会室に銃声が鳴り響いた。

 

 アッチソン MA-12から、12番バックショット弾がフルオートで放たれる。装着された半透明の20連ドラム弾倉の中で次々と散弾実包が回転し、薬室へと送り込まれる。

「伊奈本!」

「あかりさん!」

 羽崎と古河は、咄嗟に伊奈本と新条を押し倒し、身を呈して庇う。

 アッチソン MA-12の銃口は、生徒会ブース、IPSSブース、生活委員会ブース、風紀委員会ブースと向き、大量の鉛玉をばら撒く。

 

 やがて、アッチソン MA-12は弾切れになった。男はその手の自動散弾銃を投げ捨て、正面入口から逃走を図る。

「待てっ!」

「逃がさないわ!」

 起き上がった羽崎と古河は、拳銃片手に追い掛ける。

 

 

 職員用駐車場で銃声が響き、羽崎と古河は別棟から飛び出した。そこでは、2学年主任の蛇喜多がアスファルトに倒れていた。男は止められていた赤色の後輪駆動3ドアハッチバッククーペ・御裳裾 プラテアイルムシャー(JR130前期型)に乗り込み、逃げる所だった。

 2人は倒れている蛇喜多に駆け寄り、安否を確認する。

「蛇喜多先生、大丈夫ですか!?」

 羽崎が話し掛けると、蛇喜多は自身の右脇腹を抑えながら返事をした。

「大丈夫だ……お前らはアイツを追え!」

 それを聞き、羽崎と古河は頷きあった。そして、職員用駐車場に止められていた緑色の前輪駆動2ドアクーペ・富木 ガーランドブリッツBZ-R(AE111後期型)の傍でうずくまっていた保健医の有畑 加波を退かして車に乗り込んだ。

 羽崎がハンドルを握り、助手席の古河は無線機で連絡を取る。

「こちら桜見303、桜見高校にて銃撃事案発生! 負傷者多数、犯人は赤色のクーペで逃走、ナンバーは新江戸352 桜のさ 69-59!」

 そして、富木 ガーランドブリッツBZ-Rは発進した。

 

 

 

 2047年8月10日 午後2時58分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 根本町6。

 

 桜見町から西へと向かい、御裳裾 プラテアイルムシャーは走る。それを、富木 ガーランドブリッツBZ-Rは追い掛けていた。

「羽崎、ハンドルそのまま! 揺らさないでよ!」

 古河は叫び、助手席側パワーウィンドウを下げて身を乗り出した。その右手にはブレナン B2023が握られている。

 身を乗り出す古河は拳銃を構え、前方を走るクーペを狙う。そして、引き金を引いた。

 古河の銃撃によって、御裳裾 プラテアイルムシャーのリアウィンドウが割れ、車はスピンターンをして停車した。

 羽崎もブレーキペダルを踏み、富木 ガーランドブリッツBZ-Rを停車させる。

 停車した2台は、向かい合って互いにエンジンを吹かす。そして、発進した。

 2台は次第に近付き、古河は更に発砲する。羽崎も右手だけ車から出し、MZC MZ57の引き金を引く。

 2人の銃撃は御裳裾 プラテアイルムシャーのフロントウィンドウを割り、ボンネットやフロントバンパーに弾痕を付ける。そして、2台はすれ違った。

 羽崎は素早くサイドブレーキレバーを引き上げ、富木 ガーランドブリッツBZ-Rをスピンターンさせる。そして、御裳裾 プラテアイルムシャーを再度猛追する。

 

 

 

 やがて、行き止まりの道路へ2台はやってきた。「行き止まり」という看板を前に、御裳裾 プラテアイルムシャーは急停車し、富木 ガーランドブリッツBZ-Rも停車する。そして、2人は車から降りた。

 拳銃を構えながら、御裳裾 プラテアイルムシャーに近付く。そして、車内へと銃口を向けた。

 しかし、既に車はもぬけの殻だった。2人は信じられないという表情をしながら拳銃をホルスターに戻す。

「ねぇ、羽崎」

「消えた……な」

「私、降りるのを見てないわ」

「俺もだ」

 2人は顔を見合わせる。すると、羽崎は気付いた。

「おい、古河。その右頬、どうした?」

 その言葉で、古河は右手で自身の右頬に触れた。すると、血が出ていた。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時01分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町1-1-9 浜崎警察署 桜見駅前交番。

 

 桜見駅南口バスロータリーの端に立つ桜見駅前交番の中では、2人の女性警官が日常勤務をしていた。

 壁沿いのキャビネットの上に置かれた無線機が、浜崎署からの連絡を垂れ流す。

《浜崎署から各移動、浜崎署から各移動、桜見高校にて銃撃事案発生、怪我人が多数いる模様。犯人は白いブーニーハットに白いロングコート、白の長ズボンを着用し、赤色のクーペで根本町方面へ逃走。ナンバー、新江戸352 桜のさ 69-59。近い移動はありますか? どうぞ》

 それを聞いていた稷原は、手を止めた。

「桜見高校で銃撃……?」

 すると、塩岳はうんざりしたようにため息をついた。

「どっかの馬鹿が暴れたか、それともその馬鹿が恨みを買ったんでしょう。稷原、行くわよ」

「あっ、はい!」

 2人は帽子を被り直し、交番から出た。

 

 バスロータリー内、バス専用通路に1台の車が止まっている。その後ろで通せんぼをされている路線バスはクラクションを鳴らしていた。

「迷惑な車ですね」

 稷原の言葉に、塩岳は口を開いた。

「放っておきなさい。交通課の仕事よ」

 すると、停車していた車の助手席側パワーウィンドウが下がった。その車内から銃口が見える。

「稷原!」

 塩岳が叫ぶのも遅く、交番目掛けて無数の弾丸が発射された。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時15分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町1-1-9 浜崎警察署 桜見駅前交番。

 

 交番の周りには規制線が引かれ、多くの警察官が行き来していた。

 バスロータリーへと赤色灯を載せた丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロが滑り込み、停車した。その運転席から新山が、助手席から右頬に絆創膏を張った古河が降りる。そして、規制線を潜って交番へと向かった。

 

 救急車がバスロータリーから出ていき、古河と新山は夢川へと近寄った。

「夢川さん、状況は?」

 古河が問い掛けると、琉田が口を開いた。

「稷原ちゃんが重傷、塩岳さんは銃弾が掠めただけの軽傷だよ。あと、逃走車のナンバーを塩岳さんが見てたんだって」

 それを聞き、新山は安堵する。その隣で、琉田はメモを古河に手渡していた。

「良かったぁ」

 すると、夢川が口を開いた。

「そっちも災難だったね。とにかく、この交番を襲ったのは、白いブーニーハットに白い上着の男だって」

 その説明に、古河と新山は顔を見合わせた。

「ねぇルカ、それって……」

「えぇ、ついさっき私と羽崎が根本町まで追い掛けた男よ……」

 古河の言葉に、夢川の顔が青くなった。

「な、ななな何言ってるの古河さん? 根本町からここまで、車で10分掛かるよ?」

「そうだよ、多分複数犯だよ」

 琉田が言葉を続けると、古河は顎に手を当てた。

「確かに、普通に考えれば複数犯の可能性しかないわね……」

 そこへ、倉田と鎌谷も到着した。

「あれ、犯人追って根本町に行ってたんじゃないのか?」

 倉田の質問に、古河はお手上げの視線をする。

「追ってたんですけど、居なくなったんです」

「見失った? 古河と羽崎が見失うなんて、らしくないな」

 倉田の発言に、古河は頷いた。

「えぇ、『普通の犯人』なら逃がさない自信はあったんですけどね……あ、そうだ姐さん、これ、この交番を襲った車のナンバーですって」

「分かった、そっちを当たってみる。かっちゃん、行くぞ」

 倉田と鎌谷は踵を返して、乗ってきた覆面パトカー・丹生館 フランシス250LV-4へと戻っていった。

 古河と新山も丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロへと戻ると、古河は口を開いた。

「ねぇメグル。今回の犯人、やっぱり山畑の関係者だと思うのよ」

 それを聞いた新山は訊ねる。

「その根拠は?」

「無いわ。でも、私の直感がそう囁くのよ」

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時26分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町4-1-4 浜崎市立金水第二中学校跡地。

 

 廃校となった中学校の敷地内へ、1台の黒色の四輪駆動2ドアスポーツカー・丹生館 ホライゾンST-Rニグラ400R(改BCNR33前期型)はエンジン音を響かせながら入ってきた。

 本校舎前、かつて職員用駐車場だったスペースに止まり、鈴川と真岳は車を降りた。

「ここか、例の半グレ集団の拠点は?」

 鈴川の質問に、真岳は頷いた。

「そうそう。ここで薬物の取り引きをしたりするんだってさ」

 その時、車載無線機が鳴った。真岳は姿勢を屈め、マイクを取った。

「はい、桜見412」

《こちら桜見高校の鈴端だよぉ》

「何だ鈴端君か。どしたの?」

 無線機から聞こえた鈴端の声に、真岳は口を開いた。

《今、2人は何処にいるの?》

「今? 金水町の廃校だけど?」

《そう……とにかく気を付けて。さっき、桜見高校で乱射事件が起きて、桜見交番が蜂の巣にされたんだ》

 鈴端の声に、真岳は眉を顰めた。

「何言ってるの? どーせ還か羽崎君がどっかで恨みを買ったか、頭の狂った野郎の犯行でしょ? あたしらに関係無いじゃん」

《いいから。とにかく、白いブーニーハットに白いロングコート、白の長ズボンの男を見掛けたら連絡して。今、府警本部が最重要事件に指定して、捜査一課の人達がやって来てるから》

「はいはい、見つけたら電話しますよー」

 真岳は呑気にそう言って、マイクを戻した。

 

 

 

 まだ日が高いとはいえ、電気が通っていない校舎内は暗かった。2人は懐中電灯の明かりを頼りに階段を登る。

「……?」

 ふと、鈴川の目が2階廊下で止まった。

「どしたの秀子ちゃん?」

 真岳が訊ねると、鈴川は廊下で跪き、何かを手に取った。それは、9×19mm口径の使用済み薬莢だった。

「薬莢だな。誰かがここでドンパチを繰り広げたんだろうな」

 鈴川の言葉で、真岳は足元を見た。そこには、.40A&Rの薬莢が転がっている。

「.40口径……案外、還の弾だったりして」

 真岳の発言に、鈴川はふっと笑った。

「有り得るな。あいつら、行く先々でドンパチするからな」

 

 

 

 やがて、屋上へと辿り着いた。すると、屋上に人陰が見えた。

 2人は屋上塔屋からこっそりと覗く。白いブーニーハットに白いロングコート、白の長ズボンという出で立ちの男は、屋上に放置されていた椅子に座っていた。幸い、ここから見えるのは背中姿であり、真岳と鈴川の存在には気付いていないようだった。

「ねぇ、秀子ちゃん……」

 小声で囁く真岳が、唾を飲み込む。鈴川は頷いた。

「あぁ、鈴端の言ってた乱射魔だ」

「ど、どどどうしよ」

「落ち着け香。とにかく高校に電話するぞ」

 鈴川の指示で、真岳はスマートフォンを取り出す。しかし、左手が震えていた所為でスマートフォンは滑り落ち、音を立てて床面を跳ねた。

「何やってるんだ香!」

 鈴川は叫ぶ。物音に気付いた全身白ずくめの男は椅子から立ち上がるのを見ると、鈴川はヒップホルスターからドイツ製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ドナウアー&クルト UAP-9を引き抜き、塔屋から飛び出た。

 そして、拳銃を構えて叫ぶ。

「両手を挙げろ! 撃つぞ!」

 しかし、男は警告に逆らって短機関銃を腰だめで構えた。

 

 無数の銃声の中、鈴川は真岳を連れて階段を駆け下りる。そしてスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時32分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 岸名町9 岸名小学校前交差点。

 

 信号待ちをする丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロの車内で、スマートフォンが鳴った。助手席の古河は長ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、電話に出た。

「何よ秀子。どうしたのよ?」

 すると、鈴川の叫び声がスピーカーから流れた。

《古河! 今金水第二中学校で襲われてるんだ!》

 直後、銃声が電話越しに聞こえ、真岳の悲鳴が轟く。

「金水第二中学校ね。香もそこにいるの?」

《そうだ! 全身白ずくめの男が銃を撃ってくる! 早く助けに来てくれ!》

「分かったわ」

 古河は電話を切り、運転席の新山に指示を出しながら赤色灯を手に取った。

「メグル、金水第二中学校へ飛ばして。例の白い男よ」

「オーライ!」

 古河が赤色灯を屋根に載せる中、新山はアクセルペダルを踏み込んだ。3.0L VG30DET水冷V型6気筒DOHC過給器付内燃機関が唸り、丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロはサイレンを鳴らしながら急発進した。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時34分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町4-1-4 浜崎市立金水第二中学校跡地 本校舎2~3階 階段 踊り場。

 

 スマートフォンを仕舞った鈴川は立ち止まり、ドナウアー&クルト UAP-9を構えてしゃがみ、手すり壁に隠れる。真岳もオーストリア製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ライカン 14を取り出し、呼吸を整える。

 やがて、足音が近付いてくる。鈴川は呼吸を抑え、引き金を右人差し指で触れる。

 見えた人陰に、鈴川は躊躇なく引き金を引いた。銃声が轟き、UAP-9のシルバーステンレススライドが後退、硝煙を纏った薬莢が排出される。

 鈴川は何発も撃つ。しかし、全身白ずくめの男は怯む事なく、ドイツ製9×19mm口径短機関銃・ドナウアー&クルト DK15A5を腰だめで構えて乱射した。

 上階からの弾幕に、鈴川は階段を駆け下りる。

「秀子ちゃん!」

 2階の階段折り返し地点の手すり壁に隠れた真岳が叫び、鈴川は2階へと駆け下りる。

 2~3階踊り場へと降りてきた男を狙い、真岳もライカン 14の引き金を引く。鋼鉄製のスライドが激しく前後し、複数の薬莢が床を跳ねる。

 しかし、男は倒れなかった。

「嘘……ちゃんと狙ったのに……」

 真岳は呟く。すると、真岳に隠れて弾倉交換をしていた鈴川が叫んだ。

「ちゃんと射撃訓練をしてないからだろ!?」

「失礼だな秀子ちゃん!」

 真岳も叫び返すが、鈴川は真岳の首根っこを掴んで1階目指して階段を駆け下りる。直後、フルオートの銃声が響いた。

 

 2人は1階に到達し、昇降口目掛けて走る。聞き慣れたサイレン音に安堵しつつ、昇降口から飛び出した。

 昇降口の前には、2台の覆面パトカーが止まっていた。1台はゴールドツートンの丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロ、もう1台は桜見609号車の紺色の前輪駆動5ドアワゴン車・富木 ソルプレッサi-S(ACT10後期型)だった。

 2台の傍に立っていた古河、新山、荒葉、阿川の4人は真岳と鈴川に気付き、駆け寄る。

「香!」

 新山の叫び声で、真岳は新山に抱き着いた。

「還ぅ、怖かったよぉ!」

「おうおう、よしよし。で、白ずくめの男に間違いないんだね?」

 新山が真岳の頭を撫でながら訊ねると、呼吸を整える鈴川が頷いた。

「あぁ、マシンガンをぶっぱなすイカレ野郎だ」

 それを聞き、古河は荒葉と阿川の指示を出す。

「2人はここで見張ってて。私達が内部を掃討するわ。メグル、行くわよ」

「頼まれた」

 荒葉と阿川は頷き、古河と新山は拳銃を片手に本校舎内へ突入した。

 

 2丁の拳銃のアンダーマウントレールに装着されたカラーチェ PLFレーザーサイト付ピストルライトの明かりを頼りに、2人は廊下を進む。

「それにしても、桜見高校でショットガンぶっぱなして根本町まで逃げて、直後に桜見交番を蜂の巣にして、今度は金水第二中学校でマシンガン……尋常じゃないね」

 新山の呟きに、古河は口を開く。

「メグル、気を引き締めなさい。今度の獲物は大物よ」

「だね。にしてもマシンガンなんて……これで半裸だったらジョンじゃないの?」

 上へ上がる階段を警戒する新山が呟くと、古河は訊ねた。

「それってどっちのジョンよ? 特殊部隊の元隊長? それともベトナム帰還兵?」

「……どっちも半裸で機関銃撃ってるや」

 2人は口を閉じ、階段を駆け上がる。

 

 2階の廊下を歩く人陰を見付け、新山がその背中目掛けて発砲する。すると、人陰は教室に隠れ、DK15A5短機関銃だけを出して滅茶苦茶に撃ち返した。

 2人も教室に隠れ、古河はガラス引き戸をぶち破ってバルコニーに出た。そのままバルコニーを走り、人陰が隠れた教室目指して走る。新山もその後を追ってバルコニーを走る。

 かつて1年4組の教室であった場所へ辿り着いた2人は、教室内へと拳銃を撃つ。隠れていた全身白ずくめの男は廊下へ逃げ、DK15A5短機関銃で応射する。

 2人はしゃがみ、教室へと突入する。古河がブレナン B2023で追撃するが、スライドが中途半端な所で停止してしまい、撃てなくなった。見れば、排莢口から薬莢が飛び出している。

 排莢不良に古河は舌打ちする。そこへ、白ずくめの男が廊下と教室を隔てる引き戸に現れた。

「ルカっ!」

 新山はベルティーニ 90-4で援護射撃、古河もブレナン B2023を左手に持ち替え、右手でバックサイドホルスターからアメリカ製9×19mm口径回転拳銃・アボット&レイモンド AR938を取り出し、片手で発砲する。

 最初からバックアップ用途として設計されたアボット&レイモンド AR938は、撃鉄が露出していない。その為ダブルアクションでのみの撃発となるが、バックアップ用途としては最適であった。

 2人の銃撃を前に、男は逃げる。一方、新山はスライドが後退位置で止まったベルティーニ 90-4の空弾倉を捨て、新たな弾倉を挿入してスライドストップレバーを下げる。古河はブレナン B2023を一旦教卓に置き、アボット&レイモンド AR938の回転弾倉を横へ振り出し、排莢槓を左手の掌で叩く。フルムーンクリップによって纏められた5つの薬莢が床へと落ち、左腰のユーリティポーチから新たなフルムーンクリップを取り出し、回転弾倉を挿入する。そして回転弾倉を戻してアボット&レイモンド AR938をバックサイドホルスターに仕舞い、ブレナン B2023を手に取る。スライドを勢いよく引いて詰まっていた薬莢を排出、その後スライドを前身させて後端を叩いて閉鎖不良対策を取る。

「待たせたわね。こんな時にジャムるなんて」

 古河が呟くと、新山はニヤリと笑って返事をした。

「いいって。誰しもトラブルは付き物なんだから」

「そうね。追うわよ」

「オーライ」

 2人は廊下へ飛び出す。

 

 昇降口で銃声が轟き、2人は昇降口へ走る。

 すると、荒葉と阿川の2人が足を抑えて倒れていた。

「どうしたの!?」

 新山が駆け寄ると、富木 ソルプレッサi-Sの陰に隠れていた真岳と鈴川が叫んだ。

「あの白ずくめの変態だよ!」

「奴はハーバーへ逃げた!」

 2人の言葉を聞き、古河と新山は丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロへ走る。

 そして乗り込み、出発した。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時36分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町3-5-1 富木レンタカー 関中店。

 

 レンタカー店の中で、倉田が見せたメモに男性店員は答えた。

「その車は確かにうちのですねぇ……ちょっと待ってください」

 男性店員はパソコンへ向かい、キーボードを叩く。そして、出た表示を読み上げた。

「借りたのは山畑 和也さんですね」

 それを聞き、倉田と鎌谷の顔が真っ青になった。

「山畑……?」

「和也……?」

 2人は顔を見合わせる。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時38分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室 風紀委員会ブース。

 

「犯人はやっぱり山畑 和也? 何言ってるか分かってる?」

 顧問席で受話器を手にした新条の言葉に、タルボットと信田は信じられないという顔をする。

 一方、受話器からすっかり震え上がった鎌谷の声が流れる。

《あ、あああああかりさん、い、如何様にしししましょう?》

「馬鹿言ってないで、真面目に捜査しなさい」

 それだけ言って、新条は受話器を戻した。そして、タルボットを招いた。

「な、何でしょう?」

 タルボットに、新条は耳打ちする。

「浜崎署行って、霊安室を見てきて」

「し、新条さん、わたくし1人で行けと仰るのですか?」

「いいから。お願いよ」

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時49分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町8-1-3 金水ヨットハーバー。

 

 東京湾に面したヨットハーバーの駐車場へ、サイレンを鳴らす丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロが滑り込む。

 その先、海面には1艘のクルーザーが走っていた。その操舵席には、白ずくめの男。

「何てこった、今度はクルーザーかぁ……」

 運転席の新山がボヤくと、古河は防弾チョッキに引っ掛けていたサングラスを手に取り、口を開いた。

「メグル、逮捕は諦めましょ」

「ルカ?」

 新山が古河の方を向くと、彼女はサングラスを掛けて言い放った。

「『退治』するのよ」

 それを聞き、新山はダッシュボードに置いていたサングラスを手に取った。

「おっけー、ルカ」

 そして、シフトレバーをリバースレンジに引き倒し、覆面パトカーを駐車場から出した。

 

 海岸沿いの市道21号線を、覆面パトカーが疾走する。

 その運転席では、新山が右手でベルティーニ 90-4を構え、クルーザー目掛けて出鱈目に発砲する。一方、古河は助手席側パワーウィンドウから身を乗り出し、箱乗り状態でブレナン B2023で発砲していた。

 無数の銃声が轟き、その中を覆面パトカーが走る。

 

 やがて、クルーザーは金水町と根本町を隔てる岸名運河へと入っていった。丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロもそれに続き、金水9丁目交差点を左折し、新江戸街道を東進する。

「はさみん、あれ」

 新江戸街道を西に走っていた富木 ラウンデルファイターSi-Fourの運転席で、鈴端が正面を指差す。助手席の羽崎も釣られて見ると、赤色灯を載せた丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロが反対車線を疾走していた。

「鈴端、Uターンだ。あいつらを追え」

「りょーかい!」

 羽崎の指示に鈴端は同意し、左足でパーキングブレーキペダルを踏み付けてハンドル右へ回す。それによって富木 ラウンデルファイターSi-Fourは急旋回し、すれ違った丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロを追い掛ける。

 

 

 

 2047年8月10日 午後3時58分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 城先町1。

 

 そして、クルーザーは岸名運河から新江戸湾へと抜けた。岸名運河入口を示す灯台の袂に停車した丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロから新山と古河が降り、後続の覆面パトカー達も止まり、続々と高校生や刑事が降りる。

 古河と新山が堤防を走る。そして立ち止まり、拳銃を構える。狙うはクルーザーの操舵席、引き金を引く。

 それに続いて、調査員達も拳銃を撃つ。刑事達もホルスターから拳銃を抜いて、発砲する。

 浜崎市立桜見高校 風紀委員会の古河 來執行員のアメリカ製9×19mm口径自動拳銃・ブレナン B2023、新山 還執行員のイタリア製.40口径自動拳銃・ベルティーニ 90-4、櫻樹 真理執行員のアメリカ製.45口径ポリマーフレーム自動拳銃・ビードンウェッバー パトリオット、滝本 涼一執行員のドイツ製.40口径ポリマーフレーム自動拳銃・ドナウアー&クルト UAP-40、絵島 瑛美執行員のアメリカ製10×25mm口径自動拳銃・ケネット デルタエレクトレール、根川 通執行員のイスラエル製9×19mm口径自動拳銃・IFI イェリコ945、伊奈本プライベートサーチ&セキュリティ株式会社 桜見高校営業所 行動課の羽崎 辰美調査員のチェコ製5.7×28mm口径自動拳銃・MZC MZ57、鈴端 翔矢調査員のスイス製10×25mm口径自動拳銃・SAH P75ハンター、棚里 麻耶調査員のイタリア製.357口径回転拳銃・トゥリーナ リノセロンテ、竹沢 詩織調査員のオーストリア製.45口径ポリマーフレーム自動拳銃・ライカン 27エクステンド、長倉 依月調査員のスイス製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・SAH P82、田基 なつ調査員のベルギー製5.7×28mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・SFエルスタル P5728CRM、戸坂 夕乃調査員のアメリカ製.45口径自動拳銃・フォレット カスタムファイター、永合 涼香調査員のアメリカ製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・アボット&レイモンド DUP-9L、私立アンコローレ学園 風紀委員会の月読 結兎監視員補のイタリア製9×19mm口径自動拳銃・ベルティーニ 94A3、樋川 椛執行員のイタリア製.45口径ポリマーフレーム自動拳銃・ベルティーニ Pe3、そして浜崎警察署 刑事課 強行犯係の夢川 葵巡査部長のイタリア製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ベルティーニ EPx-9、琉田 風令巡査長のイタリア製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ベルティーニ EPx-9、府警本部 刑事部 捜査一課 7係の佐久井 麗美巡査部長のオーストリア製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ライカン 16、仁科 香夜巡査長のイタリア製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ベルティーニ Pe3が一斉に火を吹き、大量の弾丸が放たれる。

 その銃撃によってクルーザーは穴だらけになり、操舵席から白ずくめの男が転落して下甲板へ叩き付けられる。

 しかし、男は再び起き上がった。

「ルカ、撃って!」

 新山は叫び、ベルティーニ 90-4の引き金を再び引く。古河は弾切れのブレナン B2023を左手に持ち替え、アボット&レイモンド AR938をバックサイドホルスターから引き抜く。そして、引き金を引いた。

 そして、白ずくめの男はよろめき、海へ落ちる──はずだった。

 

 海面に叩き付けられる寸前、男の体は──消失し、穏やかな海と波に浮かぶクルーザーだけが彼らの目に映る。何かが落ちた事で発生する不規則な波は無い。

「消えた……?」

「……えぇ、消えたわ」

 新山と古河は、困惑した表情で拳銃をホルスターに収めた。

 

 

 

 2047年8月11日 午前11時26分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室。

 

「全く、被疑者が煙のように消えて居なくなりましたなんて報告書、誰が信用するのよ!?」

 新条の怒鳴り声が響く。顧問席の前に立たされた古河と新山は抗議の目を向ける。

「何よ、その目は? だいたいね、被疑者の死体すら上がらないって何なのよ」

「だから、消えたんですよ……」

 古河の言葉に、新条の眉は釣り上がる。

「あぁ? 何ですって? ここは滅茶苦茶にされるわ、桜見駅前交番は穴だらけになるわ、挙句あなた達があちこちで撃ちまくって、その結果が『被疑者不明』って、大失態じゃないの!?」

「正体なら分かってるっスよ!」

 新条の怒鳴り声に負けじと、新山も叫ぶ。すると、新条は新山に問い掛けた。

「じゃあ言ってごらんなさいよ」

「それは……」

 新山は言い淀み、古河が口を挟む。

「いいのよ、メグル。あかりさん、何かそんな気がしただけですから」

 その言葉に、新条は落胆した。

「ほら、分かってないじゃない。とにかく、ホシの遺体を見つけて、正体を明かす事。分かった?」

 2人は頷き、風紀委員会ブースから出ていく。入れ違いに、櫻樹と絵島が報告書を新条へ提出する。

「こっちも『被疑者が消えました』って……そんな訳無いじゃない!」

 新条の怒鳴り声を背中で聞きながら、古河と新山は生徒会室から外へ出た。

 

 

 

 2047年8月11日 午前11時58分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 城先町1。

 

 あの灯台の下の堤防に、古河と新山は立っていた。2人はタバコを吹かし、紫煙を吐き出す。

「ねぇ、メグル」

 古河の呼び掛けに、新山は相槌を打つ。

「何、ルカ?」

「あなた、この仕事続ける気はあるの?」

 その質問に、新山は笑った。

「辞められる訳無いじゃん、こんな楽しい遊び」

 新山の回答に、古河はふふっと笑う。

「碌な死に方しないわよ、あなた」

「ルカこそね」

 2人の吐き出した紫煙は、夏空へと消えていく。

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