HIGH SCHOOL DETECTIVE サクラの彼ら 作:土居内司令官(陸自ヲタ)
2047年4月9日 午後3時51分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 射撃場。
屋内射撃場では幾つもの銃声が鳴り響き、薬莢が床を跳ねる。
イヤーマフを装着した棚里がイタリア製.357口径回転拳銃・トゥリーナ リノセロンテを撃ち、反動で銃が跳ね上がる。
6発撃ち切り、回転弾倉を横に出して銃口を上に上げる。そして右人差し指でエジェクションロッドを押して空薬莢を床へ弾き飛ばす。
それを後ろで腕を組んで眺めていた竹沢が口を開いた。
「かなりいい腕してるじゃない。30m先の10点圏内に6発当てるなんて」
「この為に練習しましたから」
回転弾倉を出したままのトゥリーナ リノセロンテを持つ棚里が答えると、竹沢は首を振った。
「でも、今時リボルバーをメインにしてるなんて時代錯誤じゃないかしら?」
「使う銃は自由でいいんですから、別にとやかく言われる筋合いはありませんよ」
棚里が反論する。
「そうそう。リボルバーだってまだまだ時代遅れじゃないもんね」
棚里の右隣のレンジに立っていた風紀委員の鎌谷が棚里の意見に賛同する。そんな彼女の手にはアメリカ製.357口径回転拳銃・アボット&レイモンド AR357R8デューティマグナムが握られている。
そして、右手でガンスピンをしてから構え、撃った。
「馬鹿野郎! ダブルアクションのリボルバーで弾込めたままガンプレイするんじゃねぇ! それにちっとも当たってねぇじゃねぇか!」
鎌谷の後ろに立っていた櫻樹が叫ぶ。
「まぁまぁパイセン。そうかっかすると寿命縮みますよ?」
新山がそう言うと、鎌谷が頷く。しかし、櫻樹の怒りは止まらない。
「お前ら、それが凶器だって分かってるのか!? 銃を持っている時はふざけるんじゃない!」
そう言われ、鎌谷と新山は顔を見合わせて肩をすくめた。
2047年4月9日 午後5時06分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室。
生活委員会ブースの正面にある休憩スペースでは、棚里とタルボットがそれぞれ緑茶と紅茶を用意していた。
「良いよねぇ、麗羅は風紀委員で」
椅子に座るなり、棚里はそう呟く。テーブルを挟んで向かいに座ったタルボットは、ティーカップの中のティーバッグを揺らしながら返答する。
「あら、どうして?」
「私、風紀委員に憧れててさ、風紀委員登用試験受けたんだよ」
「受からなかったんですの?」
「そう。筆記試験は合格点だったんだけと、面接で落とされちゃって」
「それは災難でしたわね……」
そこへ、鈴川が通り掛かった。
「何だ、棚里は風紀委員志望だったのか」
「あ、鈴川さん」
すると、鈴川は棚里の右肩に右手を置いて頷いた。
「気持ちは分かるぞ。私も同じだったからな、何かあったら気軽に相談してくれ」
棚里とタルボットが呆気に取られていると、生活委員会ブースで書類を整理していた真岳が解説する。
「秀子ちゃんも風紀委員志望だったの。まぁ筆記で落ちたらしいけど」
「香! それに筆記は満点だった筈なんだ! ……ただ解答欄を一つずらして答えていただけで」
それを聞いたタルボットがボソッと呟いた。
「あまり利口とは言えませんわね……」
「何だってタルボット? 風紀委員のお嬢様が言っていい事だと思っているのか、うん?」
鈴川は反対側に回り込み、タルボットにチョークスリーパーを仕掛ける。
「この生意気なお嬢様め!」
「待ってくださいまし! 麻耶さん、見てないで止めてくださいまし!」
そこへ、羽崎がやって来る。
「何してんだ?」
そこには、椅子に座ったタルボットの背後からチョークスリーパーを行う鈴川、そしてそれをテーブルの反対側から見つめる棚里がいた。
「おぉ、羽崎か。ちょっと生意気なお嬢様に『指導』していた所だ」
鈴川はそのまま答える。一方のタルボットは自分の首を絞める鈴川の左腕を叩いていた。
「そっか……殺すなよ?」
「勿論、死なない程度にはするさ」
そんなやり取りに、棚里は呆気に取られていた。
「棚里、パトロールに出るぞ」
突然羽崎に呼び掛けられた棚里は、慌てて緑茶を飲み干して立ち上がった。
「はい、分かりました! 麗羅、またね。死なないでね」
「ちょっと、置いていかないでくださいまし!」
2人は休憩スペースを出る。
職員用駐車場に止められた焦げ茶色のイタリア製前輪駆動4ドアセダン・ビショーネ 951セダン(T939前期型)に2人は近付く。
「棚里、運転できるか?」
羽崎がそう訊ねると、棚里は頷いた。
「ええ、免許取り立てですけど」
「なら問題無い。ほら」
そう言って、羽崎は車の鍵を投げ渡した。棚里はそれを受け取り、車の右側のドアを開けた。
2047年4月9日 午後5時24分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町3。
「鈴川さんに散々『指導』されてしまいましたわ……」
ハンドルを握るタルボットの愚痴に、助手席の新山はケタケタと笑った。
「秀子ちゃん、今も風紀委員への憧れが強いからねぇ」
「笑い事ではありませんわ。風紀委員会の新人で、あなたの後輩がしばかれたんですのよ?」
タルボットがそう抗議するが、新山は気にせずブレザーの外ポケットからタバコ型駄菓子「抹茶ーク」を取り出し、口に加える。
「古河先輩も似た物をよく口にしてますが、美味しいんですの?」
「ん、これ?」
タルボットの質問に、新山は箱を取り出して答える。
「単に抹茶風味のチョークだよ。でも、タバコっぽいからハードボイルドに見えるでしょ?」
「発想が古臭いですわね……」
「何だと、新人の癖に生意気な!」
「わたくし運転中ですわ!」
掴み掛かろうとする新山を、タルボットは左手だけで制止しようとした時、新山は正面に何かを見つけた。
「おやおや?」
「どうしたんですの?」
タルボットが訊くと、新山が正面を指差した。そこには、路肩で停車している赤いコンパクトカーがいた。
「ちょっとあれの後ろに止めてくれる?」
「分かりましたわ」
タルボットは左手をハザードランプに伸ばし、ゆっくりと路肩に止めた。シートベルトを外し、新山は車から降り、赤色の3ドアハッチバックコンパクトカー・スズヤ ラトゥリア1300FS(GA11S前期型)に近付く。そして、運転席側の窓をノックした。
ラトゥリア1300FSの運転席側パワーウィンドウが下がり、新山は咳払いして口を開いた。
「もしもし、ここ駐禁ですよ」
「運転者が居るなら、路駐じゃなくてただの停車よ」
新山の言葉に、ラトゥリア1300FSの運転席に座っていた黒髪ショートヘアの少女が答える。
「そういう屁理屈は聞いてないから。駐禁キップ切ろうか? ん?」
「メグル、あなたいつから交通課に異動になったのよ?」
ラトゥリア1300FSに乗っていたのは、古河だった。
片側1車線ながら幅の広い道路の路肩に、赤色のスズヤ ラトゥリア1300FSと黒色の4ドアハードトップセダン・丹生館 ダフィーネクラブSタイプX(HC35後期型)が停車している。
ラトゥリア1300FSの屋根に左腕を乗せて車内を覗く新山が、運転席に座る古河に訊ねる。
「こんなラブホの真ん前で何やってるのさ。今日非番でしょ?」
新山が右手で指した先には、ホテルが建っている。
「まさかここに知り合いでも入ってるから、脅そうとでもしてんの?」
「半分正解で、半分外れ。入っていった知り合いは、銀狼会の若頭よ」
新山の質問に答えた古河に対して、新山は半分呆れた声を出す。
「はぁぁ、非番の時まで銀狼会の追っ掛けとは、風紀委員の鏡だねぇ」
「それが私の楽しみですもの」
「暴力団の追っ掛けが趣味なんて、どうかしてるよ」
「メグル、どうせだったら手伝ってくれない? 私1人で逮捕できるか分からないから」
「ルカにしては珍しいじゃん、アタシを頼るなんて。でもさ、ルカだったら若頭くらい1人でどうにかできるでしょ?」
「ええ、どうにかできるけどお話が聞けなくなるわ」
「おぉおぉ怖い恐い」
静かにそう言う古河に、新山は肩を竦めた。そして、ダフィーネの運転席にいるタルボットを呼んだ。
「麗羅ちゃーん、出番ですよぉ」
「海苔の佃煮みたいに呼ばないでくださいまし」
タルボットもダフィーネを降り、新山の側に寄った。
「何ですの?」
「あそこから恐〜いお兄さんが出てくるから、3人でとっちめるんだよ」
「それ、警察官としてやっていい行為ですの!?」
すると、ホテルの駐車場から1台の車が出てきた。
「メグル、あれよ」
古河が出てきた黒いセダンを指差す。
「おっけー、尾行だね。麗羅ちゃん、あれを追うよ」
新山とタルボットはダフィーネに戻る。
2台はエンジンを始動させ、発進した。
2047年4月9日 午後5時31分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 城先町4。
片側2車線の道路を走る黒色のドイツ製4ドアセダン・エルザ Fクラス500ハイブリッド(221095前期型)を、ラトゥリア1300FSとダフィーネクラブSタイプXが追走する。
Fクラス500ハイブリッドは交差点を左折、細い路地に入った。2台も後に続く。
やがて、とあるマンションの前でFクラス500ハイブリッドは止まった。2台はそこから交差点を挟んで離れた所に止まった。
3人はそれぞれの車から降り、Fクラス500ハイブリッドに近付く。
「またねー」
「おうよ」
Fクラス500ハイブリッドから降りた女性に、運転席から降りた男性が手を振る。そこへ3人は近付いた。
「何だあんたら?」
「桜見高校 風紀委員会の新山でぇす」
「同じく、タルボットと申します」
新山とタルボットはそれぞれ警察手帳を男性に見せ、古河が話を切り出した。
「銀狼会 若頭の中島 茂ね。浜崎市内に出回ってる覚醒剤の件でお話があります」
「俺は何も知らないぞ」
男性はシラを切るが、古河は詰め寄る。
「知らない筈は無いでしょう? 取引のあった場所の近くであなたを見掛けたんですから」
「見間違いだろ。俺は無実だ」
そんな言葉に新山は欠伸をする。
「『無実だ』なんて、関わってる人間の蒸留酒だよ」
「それを言うなら常套句でしょ」
新山の小ボケに、古河が突っ込む。
その時、突然男性は古河へと倒れ込んだ。古河が咄嗟に受け止める。
「何何、いきなり昼ドラ始まっちゃった?」
新山が揶揄うように言うと、古河は彼の背中に回した右手を見せながら口を開く。
「それもサスペンス系よ」
その右手は、赤く染まっていた。
それを見た新山は、直ぐに防弾チョッキのホルスターからベルティーニ 90-4を引き抜き、Fクラス500ハイブリッドのリア部分に隠れた。
「どうしたんですの?」
姿勢を低くする新山にタルボットが話し掛けると、新山は彼女の首を掴んで引き寄せた。
「何ですの!?」
「鈍い奴だなぁ。狙撃だよ、狙撃」
「えぇ!?」
驚きながらも、タルボットもホルスターからイタリア製9×19mm口径自動拳銃・ベルティーニ 94Gエレクトを抜いた。
「桜見305から浜崎署、城先町4丁目にて狙撃事件発生、男性1人が負傷! 至急救急車を!」
《浜崎署、了解。浜崎署から全移動へ、城先町4丁目にて銃撃事件発生、男性1人が負傷した模様。近い局は急行せよ、以上浜崎署》
新山が無線機で連絡を入れる間、古河が男性を引きずって新山達の所へ隠れる。
「容態は?」
「かなり危ないわ」
新山の質問に、男性の出血を右手で抑える古河が答える。
2047年4月9日 午後5時41分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町6 城先通。
大通りを走行していたビショーネ 951セダンの助手席に座っていた羽崎が、ダッシュボードの無線機のマイクを取る。
「桜見601、了解。急行します、どうぞ」
《浜崎署、了解》
無線機のマイクを戻し、足元に置かれた青色灯を手に取る。
「棚里、城先町へ向かえ」
「分かりました」
羽崎は青色灯を屋根に載せ、サンバイザーを下ろす。サイレン音が鳴り響き、951セダンは加速する。
羽崎はヒップホルスターからMZC MZ-57を抜き、スライドを少し引いて薬室を確認してホルスターに戻した。そして、口を開く。
「そう言えば、リボルバー使ってるんだって?」
訊ねられた棚里は返事をする。
「ええ」
「基本的に俺達はツーマンセルで動くんだ。それでもジャム(動作不良)が怖いのか?」
「良いじゃないですか。私はトゥリーナが好きなんです」
「個人の好みより火力を優先してもらいたいね。リボルバーをメインにせず、サブにしといて自動拳銃を買いな。出来ればチェコ製の」
「考えておきます」
2人を乗せた951セダンは大通りを疾走する。
やがて、城先町4丁目に到着した。既に周囲は多くのパトカーや救急車で囲まれている。
2人は951セダンを降りて、警察官に身分証を見せながら規制線を超える。そこでは、鑑識官達が地面を這いずり回っており、救急車へ担架が担ぎ込まれていた。
「古河、状況は?」
救急車に向かって手を合わせながら「ナーマンダーナーマンダー」と呟く新山の隣で腕を組む古河に羽崎が訊ねる。
「撃たれたのは銀狼会 若頭の中島 茂。心臓に1発、50m先から9mm弾でクリーンヒット。夕闇の中で相当な腕前ね」
「それに、警察署の近くでか。腕前も度胸もあるな」
2人は顔を見合わせる。
2047年4月9日 午後7時10分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 城先町5-3-5 新江戸府警察 浜崎警察署 3階 刑事課室。
「殺害されたのは中島 茂、36歳。浜崎市の指定暴力団・銀狼会の若頭で、市内に出回っている覚醒剤『ファントムウィスパー』の流通を取り仕切っていたようです」
「死因は胸部に銃弾を受けた事による失血死で、凶器は9×19mmのセミジャケットホローポイント、プレストン製の弾丸です。目撃者情報から、サプレッサーが使用された模様です」
夢川と琉田の報告を、目の下に大きな隈がある男性ーー新江戸府警察 浜崎警察署 刑事課 強行犯係 係長の八洲 雉警部補ーーと新条が聞いていた。そして、新条は隣に立っていた古河、新山、タルボットの3人の方を向いて口を開いた。
「で、何であんたらが第1目撃者な訳?」
その質問に、新山は敬礼して答える。
「本官は、タルボット執行員と共に警邏活動を行っていただけであります!」
「官じゃないでしょ、まだ風紀委員なんだから……で、古河はどうして?」
顔を顰める新条が古河に問いただす。一方の古河はキョトンとした顔を浮かべた。
「私ですか?」
「他に誰がいるのよ? ここに古河姓は1人だけでしょ?」
「私は、非番の為ドライブに出ていただけであります」
古河も新山に続いて敬礼をする。
「新山ならまだ分かるわ。けどね、『たまたま非番でドライブしてたら、たまたま銀狼会の若頭に出くわし、そしてたまたまその若頭が狙撃されました』? 『たまたま』のバーゲンセールでもやってんの!?」
新条の口調がヒートアップし、夢川の机を叩く。そんなやり取りに、慌てて八洲係長が割って入った。
「まぁまぁまぁ新条さん。でもね、古河君、この中島を尾行でもしてたんだろう?」
「いえ、私は誓って銀狼会を付け狙ってなどおりません」
八洲の問い掛けに、敬礼したままの古河がシラを切る。
そこへ、羽崎と棚里が入ってきた。
「八洲係長、洗ってもらいたい車両があります」
「何だよ藪から棒に」
八洲が怪訝そうな顔を浮かべるが、羽崎は1枚の紙を差し出した。受け取った八洲がそれを見ると、そこには1枚の写真が添付されている。
「この原チャリがどうかしたのか?」
「現場付近の防犯カメラに写っていたバイクです」
羽崎が説明し、メモ帳を片手に持つ棚里が補足する。
「持ち主は元巻町の弁当屋『笹浦弁当』です。2ヶ月前、品川で発生した拳銃傷害事件でも目撃されていますが、管轄した芝浦警察署は関連性が低いとして見過ごしています」
その説明を聞き、八洲は一瞬考え込み、口を開いた。
「良し、分かった。夢川、琉田、その弁当屋に聞き込みに行ってくれ」
「分かりました」
夢川と琉田は部屋を出る。そして、古河と新山も付いていこうとするが、新条が止めた。
「あんたらまで行かなくていい」
「いやでも……あかりさぁん」
食い下がる新山に、新条は腕を振り払う。
「気色悪いわね。新山とタルボットは、倉田達と合流して現場付近の聞き込み。古河は帰りなさい」
その指示に、古河は納得がいかなかった。
「どうしてですか? 私の目の前で殺人事件が起きたんですよ」
「あなたはそもそも今日は非番でしょ。大人しく家に帰ってなさい」
2047年4月9日 午後7時23分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 元巻町2。
倉庫街の中にひっそりと佇む木造2階建ての住居兼店舗「笹浦弁当」の前に、シルバーのセダン・丹生館 ホライゾン350ST-8と焦げ茶色のセダン・ビショーネ 951セダンが停車した。そして、夢川、琉田、羽崎、棚里、古河がそれぞれ降りる。
「良いのかよ、家に帰らなくて?」
羽崎の質問に、古河は鼻で笑った。
「私、家がこっちだもの」
「嘘つけ、来山町だろ」
「探偵って本当頭が硬いわね。あそこで私が『はいそうですか』と食い下がると思ったの?」
「そんな訳無いと思ってたがな。だからってうちの社用車に勝手に乗り込むなよ」
「だって楽ですもの」
2人の言い合いに、琉田が割り込む。
「まぁまぁ」
そして、夢川がインターホンを押す。
「山原さん、いらっしゃいますか? 浜崎署の者です」
すると、閉じたシャッターの向こうから物音がした。その音を聞いた古河は、素早くショルダーホルスターからブレナン B2023を引き抜き、裏口へ回る。
「おい、古河! 棚里、来い!」
「あっ、はい!」
羽崎もヒップホルスターからMZC MZ-57を抜き、古河の後を追う。棚里もヒップホルスターからトゥリーナ リノセロンテを抜いて続く。
裏口の扉が開き、白い厨房服を来た小太りな男性が出てくる。古河はブレナン B2023の銃口を向け、アンダーマウントレールのピストルライトを点灯させる。
「風紀委員よ、止まりなさい」
ライトで照らされた男性は、慌てて両手を挙げた。
「す、すいません!」
そこへやって来た羽崎は、MZC MZ-57をホルスターに仕舞いつつ、結束バンドのようなプラスチックカフを取り出して男性に近付いた。
「何で逃げたんだ?」
プラスチックカフを見せながら、羽崎が男性に訪ねた。
「拳銃密輸をやってました!」
男性は脅えながら答えた。それを聞いた羽崎は更に問い詰める。
「他には何かやってないのか、どうなんだ?」
「いえ、私がやったのは密輸だけです!」
羽崎はため息をつきながら、男性の両手にプラスチックカフを嵌めた。
そこへ、琉田がやって来る。
「皆、大丈夫?」
琉田の質問に、古河は吹き出しながら答える。
「そんな簡単にやられるほど、あまちゃんじゃないですよ」
「琉田さん、コイツお願いします」
羽崎は拘束した男性を琉田に預け、白手袋を取り出しながら裏口から入る。その後に、古河と棚里も続いた。
照明が点った厨房に、3人は入る。部屋の中心にある調理台の上にはいくつかの弁当箱が並んでいるが、入っているのはどう見ても食べ物では無かった。
「この弁当、食べたら死ぬな」
弁当箱の中に入っていた黒光りする物体を持ち上げた羽崎がそう呟く。それには、古河も賛同した。
「ええ、鉛に当たって」
それは、アメリカ製ポリマーフレーム自動拳銃・ビードンウェッバー パトリオットだった。
2047年4月10日 午後0時56分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室。
「じゃあ、そいつはシロだったって事?」
休憩スペースでおにぎりを食べていた新山がそう訊ねると、羽崎は頷いた。
「あぁ。結局、あの弁当屋は拳銃の密輸だけで、実行犯は別にいる」
「じゃあ、何も分からないとドーギじゃん」
「それを言うなら『同義』でしょう」
新山の言葉に、蕎麦を啜っていた古河が突っ込む。
「まぁ、購入者の方は浜崎署の刑事達が探っているから、見つかるのも時間の問題ね」
弁当箱からウインナーを箸で持ち上げる竹沢がそう呟いた。そんな竹沢の言葉に、ペットボトル入りのお茶を飲み込んだ新山が疑問を持つ。
「でも、わざわざ銀狼会の若頭を射殺するなんて、組の報復を恐れてないのかな?」
「普通なら、それを恐れてやらない筈よ。今回の実行犯は余程の恐れ知らずかーー」
そう言いかけた古河に、羽崎が言葉を重ねる。
「対立する組の鉄砲玉の犯行」
羽崎に言葉を持っていかれた古河は眉を顰めるが、棚里は気にせず口を開いた。
「じゃあ、今回の事件は楽ですね」
「楽な訳無いだろ」
「相手は銃の腕前が高いのよ。逮捕するのは一苦労よ」
「アタシらが担当したヤマで楽なもんは無いもん」
「まだまだあまちゃんね」
4人が揃いも揃って棚里の発言を否定した。
2047年4月10日 午後3時59分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室。
風紀委員会ブースに風紀委員、IPSS調査員、そして浜崎警察署の刑事達が集まっていた。
「結論を言うと、あの弁当屋は全くの無関係だった」
夢川の報告に、高校生達は落胆する。
「何で無関係って言い切れるんスか?」
新山が食い下がるが、琉田が補足する。
「あの弁当屋は.40口径の拳銃が専門だったの。犯行で使われたのは9mmだったし、購入者もぜんぶ洗っても.40口径の拳銃しか押収出来なかった」
「振り出しかぁ」
鈴端が呟き、伸びをする。そんな彼を田基が窘めた。
「そういう事言わないの」
「でも事実じゃん」
そんな中、羽崎は熱心に事件報告書を読み込んでいた。
「辰美、さっきからどうしたのよ?」
竹沢が羽崎に訊ねると、彼は何か思いついた顔を浮かべた。
「夢川巡査部長、狙撃されたのはこの50m離れたビルの非常階段で間違いないんですよね?」
「そうだけど? そこから薬莢が発見されているからね」
疑問を浮かべる夢川に対し、羽崎は確信に満ちた表情を浮かべた。
「何か閃いた顔してんな」
そんな羽崎を見ていた永合の言葉に、羽崎は応えた。
「あぁ。この中で50m先のマンターゲットを拳銃で狙える奴はいるか?」
羽崎の質問に対して、その場にいた全員が互いの顔を見る。
「いや、あたし達はせいぜい20m程度の的しか狙った事無いからな」
倉田の言葉に、風紀委員達は頷く。IPSS調査員達も同様だった。
「ま、無理な話だ。俺だって出来ねぇ」
そう言う羽崎に、タルボットがおずおずと手を挙げた。
「わたくし、何度かありますが……」
「嘘でしょ?」
古河が半信半疑に訊ねると、タルボットはブレザーの内ポケットから銃火器所有許可証を取り出した。
「一応、わたくしは2級短銃射手資格を有しておりまして、その試験で50m射撃をやりましたの」
風紀委員達が次々にタルボットの許可証を覗き込み、仰天した表情を浮かべる。
「……まぁ、1人いたな。だが、これだけ普段から拳銃を撃つ機会が多い人間が寄り集まっても1人だけ。それだけ50m射撃は難度が高い。ライフルとは違って、銃を支えるのは両手だけだからな」
「じゃあ、サブマシンガンでも使ったって言うの? 現場付近にはそれを持ったり、隠し持てるような袋を持った人間はいなかったんだよ?」
琉田の質問に、羽崎は答える。
「確かに、DK15やそれ以降のクローズドボルト方式の短機関銃なら狙撃が可能です。ですが、それらにはサイズが嵩張るという問題がある」
そう言い切った羽崎はスマートフォンを取り出し、インターネットで画像検索をする。
「かと言って、拳銃で狙撃をやる腕前を持つには一昼夜では身につかない。だが、こいつを使えば話は別だ」
そして、羽崎はスマートフォンの画面を皆に見せた。そこには、銃床の生えた自動拳銃が写し出されている。
「スイスのエクスナー&レッチェが開発した、ピストルカービンキットです。ストックが付いている上に光学照準器も装着可能、こいつなら充分な精度を稼げるし、ストックを折り畳めば自動拳銃と対してサイズは対して変わらない」
それを聞いた倉田は感嘆する。
「その手があったか。じゃあ、あたし達はその購入者を当たろう」
「係長に報告してくる」
夢川がスマートフォンを取り出し、電話を掛ける。一方の羽崎はIPSS調査員達を集めた。
「どうしたんだよはさみん」
鈴端の質問に、羽崎は呆れながら答える。
「はさみん言うな。俺達はガイシャの身辺調査をするぞ」
「あら、面白そうじゃない。私もついて行くわ」
突然、古河が会話に割り込んで来た。
「お前はピストルカービンキットの購入者を当たってろよ」
「嫌よ。どうせ正規ルートで購入した訳無いのに、時間の無駄よ。それに、銀狼会は私の方が詳しいわ」
「……怒られても知らないからな」
古河の態度に、羽崎はため息をつきながら了承する。一方で鈴端は独りごちる。
「暴力団に詳しいJKとか怖いなー、戸締りしとこ」
2047年4月10日 午後5時06分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 福原町8-9-3 銀狼興行ビル。
6階建てのビルの前には、黒塗りの高級車が多く停められている。
その正面の道路には2台の車が路上駐車されていた。片方は銀色のフェンダーミラーを装備した濃紺色の4ドアハードトップセダン・丹生館 キリエグランツーリスモ250SV(MY34中期型)、もう片方は白色の4ドアセダン・富木 ラウンデルファイターSi-Four(GRS211前期型)、両方ともハザードランプを点滅させている。
「どうしてわたくしまで連れて来られたんですの?」
キリエグランツーリスモの後席に座ったタルボットが質問すると、助手席からビルを眺める古河が答えた。
「銀狼会に新人のご挨拶をしなきゃいけないでしょ?」
「風紀委員になった以上、何処かでそうなると覚悟していましたが、まさかこんな形になるとは思いませんでしたわ……」
「まぁまぁ、麗羅ちゃん」
運転席に座る新山が、ため息をついたタルボットを慰める。
一方、ラウンデルファイターの車内では、運転席の鈴端がビルを見上げていた。
「なぁはさみん。こんな大勢で来る必要あった?」
鈴端の疑問に、助手席でアメリカ製ブルパップ型5.56×45mm口径自動小銃・プレストン CDRの槓杆を少し引いて薬室を確認する羽崎が口を開く。
「はさみん言うな。そりゃあ、浜崎一の暴力団本部に高校生がカチコミするんだからな、多くいた方がいいだろう」
「カチコミじゃなくて事情聴取でしょう。全く、ホント男ってドンパチ好きねぇ」
羽崎の言葉に、後席左側に座っていた竹沢が呆れていた。しかし、そんな彼女もアメリカ製ブルパップ型5.56×45mm口径自動小銃・フィールドテック SERにポリマー製30連弾倉を挿入し、槓杆を引いていた。
「そう言いながら、竹沢先輩もライフル持ってきてるじゃないですか。僕もだけど」
ルームミラーで後席を見ていた鈴端も、センターコンソールに立て掛けていたアメリカ製5.56×45mm口径自動小銃・ニコルソン NR-15E3を持ち上げ、槓杆を少し引いて薬室を確認、ボルトフォワードアシストノブを叩いて閉鎖不良対策をして排莢口カバーを閉じる。
そんな3人に、後席右側に座っていた棚里は呆気に取られていた。
「何で当然のようにライフル持っているんですか……? 私達って探偵ですよね?」
「確かに、俺達は調査員だ。だけどな、社名にあるように警備会社も兼ねているんだ。棚里、直に戦闘訓練を叩き込むからな」
助手席の羽崎がそう言うと、棚里は開いた口が塞がらなかった。
やがて、ビルの照明が消え、正面口から何人かの黒いスーツで身を包んだ男性達が出てきた。
「こちら304、降車するわ」
ダッシュボードの無線機で指示を出した古河が車から降り、新山とタルボットも続く。後ろに停まっていたラウンデルファイターからも4人降りたが、その内3人が手にしている物を見て古河はため息をついた。
「何で事情聴取にライフルがいるのよ?」
「高校生が暴力団員に素手では敵わないだろ?」
古河の質問に、羽崎は質問で返す。そんなやり取りを見ていた新山はキリエグランツーリスモのトランクへ駆け出す。
「ならアタシも持ってこ」
トランクを開けると、そこにはイタリア製5.56×45mm口径自動小銃・ベルティーニ CRx-150A4とイタリア製散弾銃・ペアーノ ステラタクティカルが2丁ずつガンラックに固定されていた。新山は左腕のスマートウォッチでガンラックの固定を解除し、CRx-150A4を持ち上げ、槓杆を引いた。
「社長、あれ」
ビルの前にいた男性達の1人が、路上駐車された2台の周囲の人影に気付き、報告する。それを受けた中心にいた壮年の男性が周りの男性達にアイコンタクトを取り、男性達はショルダーホルスターから各々自動拳銃を取り出した。
一方の羽崎はCDRを構え、他もライフルや拳銃を構える。
「IPSSだ! 武器を捨てろ!」
「風紀委員よ! 銃を捨てなさい!」
羽崎はCDRを構えたまま叫び、古河もブレナン B2023を構え、警察手帳をかざしながら叫ぶ。
「何でいきなりこうなるんですの!?」
イタリア製9×19mm口径自動拳銃・ベルティーニ 94エレクトのアンダーマウントレールに取り付けたスコープマウントを介して装着された筒型光学照準器で狙いを定めるタルボットが叫ぶと、隣でCRx-150A4を構えていた新山が呟く。
「香港映画も真っ青な展開だねぇ」
「関心してる場合ですの!?」
一方で、イタリア製.357口径回転拳銃・トゥリーナ リノセロンテを構えた棚里は竹沢に質問していた。
「竹沢さん、この場合は?」
「発砲しちゃ駄目よ、相手を刺激するだけだから」
銃を持った人間達が、互いに銃口を向け合う。
そんな中、壮年の男性ーー銀狼興行株式会社 代表取締役社長であり、銀狼会 会長の長岡 怜司ーーが口を開いた。
「これはこれは、風紀委員さんに探偵さんのお集まりで私の帰りの出迎えとは。少し物騒ですが」
「いつお会いしても、余裕綽々ですね、長岡会長?」
警察手帳をブレザーの内ポケットに仕舞いながら、右手のブレナン B2023を長岡に向ける古河が口を開いた。
「うちに何か用ですか? まさか、若い衆を銃刀法違反で引っ張るおつもりでしょうか?」
「そんなの無駄だって分かりきってますよ。今回は別件だ」
プレストン CDRに装着された、レーザーサイト付筒型光学照準器内蔵キャリングハンドルのスイッチを入れて赤いレーザー光を長岡に当てる羽崎も口を開く。
「別件とは?」
「若頭の中島が射殺された件で話を聞きに来ました」
右手だけで拳銃を構える古河が冷たく言う。
「あぁ、それですか。それなら、昨日刑事さん達にお話ししましたよ。改めて話す事はありません」
「それなら、既に報告を受けてるさ。『特に恨まれるような事はしていません』? 冗談も寝言だけにしとけ。余程の恨みを買ってなきゃ狙撃されねぇだろ」
そう言いながら、羽崎は引き金に指を掛ける。
その時、銃声が鳴り響いた。
長岡の隣にいた男性が倒れ、古河達は咄嗟にしゃがむ。そして、羽崎と古河は銃声がした方を見た。
彼らの左手方向、交差点の向こうに停車していたRV車の横で、誰かが彼らを見ている。そして、RV車に乗り込んだ。
「メグル! 車出して!」
「鈴端、あいつだ!」
古河はキリエグランツーリスモの反対側へ回り込み、助手席に座る。新山は運転席に、タルボットは後席へ座り、エンジンが始動する。
羽崎達はそれぞれのライフルを発砲し、RV車を銃撃するが、RV車はそのまま逃げ去った。
「桜見304から浜崎署! 福原町8丁目で銃撃が発生! マル被(被疑者)は黄色のRV車で桜見方面へ逃走、追跡します!」
助手席の古河が無線機に叫び、赤色灯を屋根に載せる。キリエグランツーリスモ250SVに搭載されたVQ25DD水冷V型6気筒自然吸気内燃機関が唸り、1.6tの車体は急加速する。
「野郎、やっぱり銀狼会が狙いだったか」
ハンドルを握る新山が呟く。その隣でサンバイザーを下げて赤色フラットビーム前面補助灯を作動させた古河は頷く。
「えぇ、そのようね。メグル、逃がさないでよ」
「オーライ!」
夜の帳が降り始めた街を、覆面パトカーが疾走する。
2047年4月10日 午後5時19分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町9。
片側3車線の大通り「浜崎街道」は帰宅ラッシュで混んでいた。そんな中、黄色のRV車・穂村 CO-V3ドア(GH1後期型)は対向車線へ飛び出しながら爆走する。
その後を、濃紺色の丹生館 キリエグランツーリスモ250SVと白色の富木 ラウンデルファイターSi-Fourがサイレンを鳴らしながら猛追する。
「マル被は浜崎街道を桜見駅方面へ逃走中! ナンバーは新江戸3H2 手紙のて ·4 58!」
《こちら浜崎14! 桜見6丁目交差点を封鎖、どうぞ!》
それを聞いた古河は、新山に指示を出す。
「メグル、奴をとにかく追い掛けて、桜見6丁目交差点で挟み込むわよ! 桜見304から606、14へ、桜見6丁目交差点、了解!」
「オッケー、ぶっ飛ばすよ!」
新山はオーバードライブスイッチをオフにし、意図的に3速に落として加速する。
桜見6丁目交差点の真ん中に、3台の白黒パトカーが並び、道を塞ぐ。制服警察官達はパトカーを盾にして拳銃を構えていると、そこへCO-V3ドアがやってきた。
CO-V3ドアは急減速、車体を左へスライドさせつつ止まる。その前後をキリエグランツーリスモとラウンデルファイターが塞ぐように止まった。
キリエグランツーリスモから古河、新山、タルボットの3人、ラウンデルファイターから羽崎、鈴端、竹沢、棚里の4人が降り、それぞれ銃をCO-V3ドアに向ける。
「車から降りなさい!」
ブレナン B2023を構える古河が叫ぶ。その隣でベルティーニ CRx-150A4を構えた新山は右親指でショットセレクターをセーフポジションからフルオートポジションへと回す。
「早くしないと蜂の巣にしちゃうぞオラァ!」
新山が叫ぶと、CO-V3ドアの運転席にいた男性が慌てたように左手を挙げながらドアを開けて車から降りた。
「待って、撃たないでくれ!」
「そこへ腹這いになりなさい!」
男性の言葉に畳み掛けるように、古河が叫ぶ。男性はアスファルトに伏せると、背後から近付いた羽崎が男性の身体検査を行う。すると、上着で隠したベルトに小型リボルバー拳銃を見つけた。
羽崎はそれを取り上げ、鈴端に指示を出す。
「鈴端、拘束しろ」
「りょーかい」
2点負い紐でニコルソン NR-15E3から手を離した鈴端がプラスチックカフを取り出し、男性を後ろ手に拘束する。
一方の竹沢はCO-V3ドアの車内を物色し、何かを見つけた。
「凶器はこれね」
そう呟く彼女の手には、スイス製ストック付9×19mm口径自動拳銃・エクスナー&レッチェ MDW-829が握られていた。
2047年4月10日 午後7時26分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 城先町5-2-5 新江戸府警察 浜崎警察署 3階 刑事課室。
「2件の弾丸とライフルマーク(線条痕)が一致しました」
背中に「鑑識」と装飾された紺色のジャンパーを着た赤髪ショートヘアの小柄な女性ーー浜崎警察署 刑事課 鑑識係の鹿取 杏巡査部長ーーが八洲に書類を提出する。
「となると、ホシ(犯人)は決まりだな」
八洲はそう呟き、椅子から立ち上がる。
「塚本 英之、24歳を殺人容疑で緊急逮捕、令状が届き次第通常逮捕する」
その言葉に、強行犯係の刑事達は呼応した。が、古河が口を挟んだ。
「待ってください、八洲係長」
「どうした、古河? ライフルマークは一致しているし、何より2件目はお前らも見ていたんだろう?」
「そうそう、『疑いの余地無し』だよ?」
八洲と琉田がそう言うが、古河と羽崎は納得行かない顔をしていた。
「しかしですね、1件目は50m先から正確な狙撃をしていたのに、2件目は30mで外しているんですよ」
「俺も1件目と2件目は実行犯が違うと思っています」
しかし、八洲はそんな2人の意見に耳を貸さなかった。
「人間、外すこともあるだろう」
「それに、2件目は会長じゃなくてそのボディガードを狙ってた可能性もあるんだし」
琉田がそう言った所で、倉田がやって来た。
「八洲さん、2件目の犯行は認めましたが、1件目は否定しています。今、かっちゃんーーあ、いや、鎌谷が取り調べていますが、態度は変わらずです」
その言葉に、八洲達強行犯係の面々は耳を疑った。
その頃、第1取調室ーー
「だからぁ、俺は若頭なんか狙ってないって言ってんだろ」
椅子に座った男性がそう言うが、向かい合って座っていた鎌谷は手にした鉄扇で自分の顔を扇ぎながら言葉を返す。
「吐けぇ」
「ずっとこれだよ、勘弁してくれ」
男性は天を仰ぐ。部屋の隅で調書に記入していた櫻樹はため息をついた。
2047年4月10日 午後7時41分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 城先町5-2-5 新江戸府警察 浜崎警察署 緊急車両用駐車場。
いくつかのパトカーが停められた駐車場の中、キリエグランツーリスモとラウンデルファイターの傍に集まった古河達7人は会議をしていた。
「やっぱり犯人がもう1人いるだろ」
羽崎の言葉に、古河は頷く。
「えぇ、あなたと意見が被るなんて良い心地しないけど」
そう言う古河を、新山は宥める。
「まぁまぁ、ルカ。かっちゃんが取り調べしてるし、明日には吐くんじゃない?」
「鎌谷の取り調べは時間が掛かるからなぁ」
羽崎はボヤく。
「仮にはさみんと古河さんの言う通りにもう1人いたとして、ライフルマークが一致していたのは何で?」
鈴端が質問すると、腕を組んでいた竹沢が口を開く。
「銃そのものを受け渡したか、バレル(銃身)を使い回したかのどちらかね。2件目の犯行が、あんなお粗末なんて私も信じられないわ」
「えぇ、竹沢先輩の言う通りです。このヤマはまだ解決していない」
古河の言葉に、全員頷いた。
2047年4月11日 午前7時46分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室。
職員用通用口からメガネを掛けた茶髪の男子生徒、生徒会長の深堀が入ってきた。
「おはよう、気群さん」
「おはよう、会長さん」
生徒会ブースの中で、椅子に座りロリポップキャンディを舐めながら雑誌を読んでいた黒髪ショートヘアの女子生徒ーー桜見高校 2年生徒会 副会長の気群 帝子ーーが挨拶を返す。
深堀は生徒会ブースに入り、生徒会長用の机の上に積まれた資料に目を通す。
「また化学部がボヤを起こしたのかい。全く困ったものだな」
そう言いながら深堀はため息をつく。ふと、隣のIPSSブースへ目を向けると、何人かの調査員達が机に突っ伏して寝ていた。更にその奥の風紀委員会ブースも同様だった。
「おや、風紀委員達と探偵達はどうしたんだい?」
そう訊ねる深堀に、気群が答える。
「私も今朝登校したらこれだったからさ、事情は知らないよ」
「ふぅむ、昨日の銃撃事件の捜査かな?」
「だとしたら、私達生徒会には何ら関係無いじゃん。気にするだけ無駄無駄」
そう言い切った気群に、深堀は小言を言う。
「気群さん、彼らだって桜見高校の生徒だよ? 他人面するのは良くないな」
「ほんと会長さんは聖人だよね」
気群が呆れながらそう言った時、何かがぶつかる音がし、甲高いブザー音が鳴り響いた。
2人が慌てて職員用通用口から飛び出し、職員用駐車場へ向かうと、そこでは1台の白い4ドアハードトップセダン・丹生館 キリエ2.0ブロアムJ(Y33後期型)の左後ろが、駐車スペースに止められていた黒い4ドアハードトップセダン・丹生館 ダフィーネクラブSタイプX(HC35後期型)の右前フェンダーにぶつかり、ダフィーネのセキュリティアラームが鳴り響いていた。
「どうしたんだいこれは!?」
深堀が驚いていると、キリエ2.0ブロアムJの運転席から鎌谷が降りて、車の後ろに回って嘆いた。
「あちゃあ」
「何やってんだよ鎌谷ぁ!」
助手席から櫻樹が飛び出し、鎌谷を怒鳴りつける。
「しょうがないじゃないですか、徹夜で取り調べしてたんですから」
「だからと言って事故るなよ! 305号車が相手だからまだ良かったものの、他の車にぶつけたら大問題だぞ!」
櫻樹の怒鳴り声を聞きつけ、生徒会室で仮眠を取っていた風紀委員達と調査員達がやって来る。
「何の騒ぎですか?」
「防犯アラームがピーピー鳴って煩いんだが?」
「何だよ何だよ、気持ち良く寝てたのにさぁ」
棚里、長倉が訪ね、新山は欠伸をする。そして、新山は事態を把握した。
「かっちゃん、事故ったね?」
「それを言わないでよぉ」
そう言いながら、鎌谷は鉄扇で自分の頭をコツンと叩いた。
「今はそれどころじゃないでしょ。麗羅、305号車の鍵取ってきて」
古河はタルボットに指示を出し、タルボットは生徒会室に戻る。
「全く、風紀委員が寝不足で事故を起こしましたなんて洒落にならないわよ」
「いやぁ面目ない」
古河の言葉に、鎌谷は舌をペロッと出した。そんな彼女の頭を櫻樹が叩く。
「とにかく浜崎署に連絡、事故報告をしろ」
「うーっす」
鎌谷は防弾チョッキの左肩に取り付けられた無線機のマイクを持ち上げる。
「桜見302から浜崎署、応答願います、どうぞ」
《こちら浜崎署、どうぞ》
「朝早くに申し訳ないんですが、交通課の人をお願いします、どうぞ」
《何かありましたか? どうぞ》
「あー、それがですね……」
言い渋る鎌谷に、痺れを切らした櫻樹がマイクをひったくる。
「うちの馬鹿が事故りました、どうぞ」
《怪我人はいませんか? どうぞ》
「怪我人は無し。高校内で覆面車相手にぶつかっただけです、どうぞ」
《浜崎署、了解。浜崎署から浜崎26、桜見高校へ向かってください、どうぞ》
そして、鍵を取ってきたタルボットはダフィーネのドアを解錠し、セキュリティアラームを解除した。
「あ、そうそう、古河ちゃん」
鎌谷が何かを思い出し、古河を呼んだ。
「何よ?」
「例の塚本なんだけどね、銃を借りたって言ってたよ」
「借りた?」
「そうそう。SNSの闇バイト募集で、銀狼会 会長を殺したら5000万だってさ。銃も関中町のコインロッカーに預けられてたって」
「なるほど。浜崎署の刑事さん達は?」
「そのSNSを当たってるけど、時間掛かるってさ」
それを聞き、古河は考え込む。
登校中の生徒達を掻き分け、白黒の事故処理車が桜見高校の職員用駐車場へやって来る。
「浜崎署 交通課の水原です」
「桜見高校の蛇喜多です。すみませんね、朝早くに来てもらって」
事故処理車から降りた制服警察官に、右目に眼帯を巻いた中年男性ーー桜見高校 2年学年主任、世界史担当教員の蛇喜多 猿時ーーが案内する。
一方、古河と新山はこっそりパンテーラ3.0ブレンネロに近付き、乗り込む。そして、新山はエンジンを掛けた。
エンジン音を聞いた蛇喜多が目を向けると、パンテーラ3.0ブレンネロが走り出す所だった。
「あ! おい、古河、新山! これからホームルームだぞ!」
蛇喜多の呼び掛けも虚しく、パンテーラ3.0ブレンネロは走り去った。
2047年4月11日 午前8時45分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 本校舎2階 2年C組教室。
教壇に立った道島が、出席を確認する。
「古河さんと新山さんがまだ出席していないようですが、どなたかご存知ありませんか?」
道島の質問に、鈴端は頭を掻く。
「生徒会室で見かけましたけど、その後見てないですね。はさみん、何か知ってる?」
鈴端の左隣の席に座っていた羽崎は、左耳に付けていたイヤホンを外して答えた。
「はさみん言うな。今、あかりさんが無線で呼んでいるが応答無しだ」
そう言って、羽崎は鈴端にイヤホンを差し出す。鈴端がそれを自身の左耳に装着すると、新条の怒鳴り声が聞こえた。
《桜見高校から桜見303! 授業サボって何処行ってるのよ!? 直ちに戻らないと謹慎処分にするわよ!》
「おーおー、かなりプッツン来てるねこれ」
鈴端はイヤホンを返す。
「だろ? どうせ授業ほっぽり出して捜査してんだろうな、あいつら」
「授業中より捜査中の方が生き生きしてるもんね、あの2人」
そこへ、道島が近付いてきた。
「お2人共、ホームルームの途中ですよ?」
その言葉に、鈴端は姿勢を正し、羽崎はイヤホンコードを無線機に巻いて机の中へ仕舞った。
一方その頃、元巻埠頭にパンテーラ3.0ブレンネロが止まっていた。
「良いの? 学校サボってさ」
パンテーラ3.0ブレンネロに寄りかかった新山がそう訊ねると、反対側に立っていた古河が答える。
「良いのよ。浜崎署の電子捜査係に任せていて解決するヤマじゃないわ」
「そーなの?」
「どうせ犯人は海外サーバーを経由して作った捨て垢を使っているだろうし、送金も足が付かない仮想通貨、本当に送金するか分からないけど」
そう言いながら、古河はブレザーの内ポケットから「Fill Boro」と書かれた箱を取り出し、その中身を口に咥えた。そして、マッチに火を着け、咥えた細い物の先端に火を着けた。
「あ、ルカぁ、未成年喫煙で現行犯逮捕しちゃうぞ」
新山の言葉に、古河は右手をヒラヒラと振って答える。
「少しでも悪者に見えなきゃならないのよ」
「犯人が直接来る訳でも無いのに?」
「何処から見られているか分からないのよ。それにあなた、この前不良から没収したタバコ、どうしたのよ?」
「……捨てたに決まってるでしょ」
「じゃあ、そのブレザーの胸ポケットの膨らみは何なのよ?」
その言葉に、新山は思わず自身の胸を触る。
「……成長期。最近大きくなっちゃってさ、もうブラが合わなくて合わなくて」
「嘘おっしゃい。この前の身体測定でBカップって言ってたじゃない」
「Cになったんだよぉ」
「認めないなら、具体的に言いましょうか? 昨日の深夜、来山町のコンビニ前で何吸ってたの?」
その言葉に、新山の動きが止まった。
「見てたの?」
「私が車の中で仮眠を取っていた隙に、こっそり吸いに出てたでしょ?」
「見てたんなら、言い逃れできないなぁ」
新山もブレザーの内ポケットから「Rook」と書かれた箱を取り出し、中から1本取り出して咥える。そしてオイルライターで火を着けた。
「学校サボって、盗んだ車で海へ出て、未成年喫煙。いやぁ、役満だね」
口から紫煙を吐き出しながら、新山は呟く。同じく紫煙を吐き出す古河も頷いた。
「こんなの見られたら、風紀委員辞職どころか退学沙汰よ」
「でもそのスリルが?」
「たまらないわね」
すると、古河のスマートフォンが鳴った。彼女はブレザーの外ポケットから取り出し、画面を確認する。
「何だって?」
新山が訊ねると、古河はスマートフォンの画面を見せた。そこには、SNSアプリ「つぶったー」のダイレクトメッセージが映し出されている。
「『元巻灯台付近に止めた白いバン』ですって」
「オーライ」
2人は吸っていたタバコを投げ捨て、車に乗り込んだ。
2047年4月11日 午前9時06分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 元巻町3-1 元巻灯台。
新江戸府の中心部である新江戸湾の入口に建ち、東京湾を照らす元巻灯台へ、パンテーラ3.0ブレンネロはゆっくりと近付く。
「メグル、あれよ」
古河が指差した先、いくつか停められた車の中に1台の白いワンボックスカー・富木 ハイカーゴバン(KDH200後期型)が停められていた。
2人はパンテーラから降り、ハイカーゴバンに近付く。新山が排気管に手を翳すが、温度を感じない。
「直近で動かしていないよ、これ」
「前から止めていた車の中に荷物を置いただけのようね」
古河はそう言い、手袋をはめた右手でリアハッチを開けた。そこには、1丁のイタリア製短機関銃・トゥリーナ HDW-9と専用の18連弾倉が置かれていた。
「丁寧な置き方しちゃって。犯人はA型だね?」
ハイカーゴバンの車内を覗く新山が呟くと、古河は頷いた。
「大雑把なあなたが言うなら、間違い無いわね。あなた、O型でしょう?」
「失礼だなぁ、アタシゃAB型だよ」
「なら、何の参考にもならないじゃない」
古河はハイカーゴバンの荷台に昇り、HDW-9を持ち上げて薬室を確認する。それを見ていた新山は後ろを向き、天を仰ぐ。
「にしてもさ、SNSで『お金が無い』と呟いただけで、まさか本当に殺しの依頼が来るとはね」
「一か八かで賭けた甲斐があったわね。私もここまですんなり行くとは思わなかったけど」
「それで、まさか本当に殺すの?」
新山の質問に、古河は否定する。
「まさか。長引かせて犯人をイラつかせた所でパクるに決まってるでしょう?」
「だよねー。で、誰を依頼されたのさ?」
「銀狼会の組長よ」
そう返ってきた返事に、新山はため息をついた。
「またかぁ。懲りないねぇ……って、ルカ、まさか本当に殺さないよね?」
「二度も確認しないでちょうだい。私が殺しをやる訳無いでしょう?」
「いやぁ、ルカならわんちゃん組長殺しかねないからさ」
「私を何だと思っているのよ? れっきとした風紀委員よ?」
古河はHDW-9を片手にハイカーゴバンから降りる。
2047年4月11日 午前11時53分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 本校舎2階 2年C組教室。
「本当、還と來ちゃんは何処に行っちゃったんだろう?」
羽崎と鈴端の席に、戸坂、長倉、真岳、鈴川が集まり、真岳が呟いた。
「ケータイに何度か電話してるが、無視されてるしな」
鈴川もスマートフォンを見つめたまま呟く。
「警察無線も音沙汰無しだ」
イヤホンを装着した羽崎の言葉に、長倉は言葉を返す。
「捜査中にしても、何らかの連絡はするだろう? やはり、何か巻き込まれたんじゃーー」
「無い無い。むしろ巻き込まれに行ってるでしょ、あの2人なら」
長倉の発言に、鈴端が否定する。すると、髪を弄っていた戸坂が口を開いた。
「捜査にしても、何の手掛かりも無いんですよね? なら、2人は何を追っているんでしょう?」
「恐らくだがーー」
腕を組んだ羽崎が答える。
「『殺しの依頼』を受けたんだろうな」
その答えに、その場にいた全員が驚く。
「殺しのーー」「依頼!?」
鈴川と真岳が声を出す。すると、羽崎は頷いた。
「あぁ。奴らの事だ、依頼を受けて『当事者』になる事で真犯人に接触しようとしてるんだろう」
「だとしたらヤバくないですか!?」
戸坂が詰め寄るが、羽崎は冷静だった。
「そんな事考えてもいないだろうな。あいつら、ホシを挙げる為なら何でもするからな」
「でもさ、はさみん。いくら2人でも何とか……なるか」
鈴端は勝手に納得して頷く。すると、真岳が彼の頭を叩いた。
「ひっでぇ」
「万が一があるでしょうが。とにかく、何とかしないと」
「何とかって、どうするんだ?」
鈴川の問い掛けに、真岳は答える。
「そりゃあ決まってるでしょ。街中探し回って2人を見つけるんだよ。秀子ちゃん、車出して」
「今からか!? これから4限目だぞ!?」
「クラスメイトをほっとけないでしょ! ほら、あたし達だけでも探さないと」
そう言って、真岳は鈴川を引っ張って教室を出ようとするが、羽崎が止めた。
「まぁ待てよ真岳」
「何よ、止めないでよ」
真岳の真剣な目付きに対し、羽崎の答えは意外なものだった。
「俺らも出るぞ。大勢いた方がいい。戸坂、長倉、手分けして探すがいいか?」
そう訊ねられた戸坂と長倉は頷いた。
「当然です。このまま黙ってられませんよ」
「所長命令なら仕方ないな。4限目の世界史はあまり好きじゃないしな」
鈴端も席から立ち上がる。
「良し、車出すよ、はさみん」
「はさみん言うな」
6人は教室から出る。すると、蛇喜多とすれ違った。
「げ、蛇喜多先生」
鈴端が声を出すと、蛇喜多は6人に声を掛けた。
「『げ』とは何だ? これから授業だぞ、何処に行く?」
「ちょっとお手洗いに」
羽崎はそう言い、6人はそのまま蛇喜多を置いて廊下を進む。そんな6人の背中を見つめる蛇喜多は呼びかけた。
「おい、トイレは反対だぞ。……連れションにしては人数が多いな」
生徒会室に隣接する更衣室で防弾チョッキをまとった6人は各々銃を片手に職員用通用口へ向かう。
すると、新条が立ちはだかった。
「新条警部補、どいてください」
プレストン CDRを片手にした羽崎がそう言うが、新条はどかなかった。
「あかりさん、還と來ちゃんを探しに行くだけなんですよ」
アメリカ製9×19mm口径短機関銃・クローネン マキシマムを手にした真岳も言うが、新条は身動き一つもしない。代わりに口を開いた。
「あんたらも授業サボって捜査に出るのね?」
「えぇ。バカ共を連れ戻しに」
そう言った羽崎の左肩に、新条は右手を乗せた。
「風紀委員会顧問として、あなた達の行動は見過ごせないわ。けど、私の部下が勝手な行動を取ってしまった以上、責める事もできない。だから、お願いがあるの」
その言葉に、6人は顔を見合わせた。
「あのバカ共を無事に連れ戻してきてちょうだい。蛇喜多先生には私から事情を話しておくわ」
そう言って、新条は道を開けた。
「新条警部補……」
「あかりさん、恩に着ます!」
羽崎と鈴端はお辞儀をし、6人は通用口から外へ出た。
桜見高校の正門から、3台のセダンが出ていく。
先頭は鈴端と羽崎の乗るホワイトパールクリスタルの四輪駆動4ドアセダン・富木 ラウンデルファイターSi-Four(GRS211前期型)。
2台目は長倉と戸坂の乗るダークレッドマイカの富木 フレアX350S+アーキテクトスーパーチャージャー(改GRX133前期型)。
最後尾は鈴川と真岳の乗るシルバーメタリックの後輪駆動4ドアセダン・富木 ラウンデル3.5ファイター+アーキテクトスーパーチャージャー(改GRS204前期型)。
3台は連なって福原町方面へ向かう。
「はさみん、何で福原町なのさ?」
ラウンデルファイターSi-Fourのハンドルを握る鈴端が訊ねると、羽崎は答える。
「2件目の銃撃は銀狼会 組長を狙ったものだ。つまり、3件目も同じ可能性がある」
「同じ人物をわざわざ狙うかなぁ」
「あくまで可能性の話だ。俺なら、とっくに新江戸府からずらかるが」
2047年4月11日 午後0時14分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 福原町4-4-4 ヴェルティガ福原ビル 非常階段。
簡素な階段を、2人の少女が昇る。やがて、3階と4階の間にある踊り場で立ち止まった。
トゥリーナ HDW-9を手にした古河は左膝で足場に跪き、銃床を伸ばす。装着された筒型光学照準器の電源を入れ、左手で銃を支えて構える。その左隣に新山が立ち、オペラグラスを覗く。
2人の正面には、銀狼興行ビルが建っていた。
銀狼興行ビルの正面に、3台のセダンがやって来る。先頭のラウンデルファイターSi-Fourが路肩に止まり、後ろの2台はそのまま走り去る。
《610は8丁目を捜索します、どうぞ》
《じゃああたし達412は5丁目へ向かうよ、どうぞ》
連絡を聞いた、助手席の羽崎は無線機のマイクを持ち上げる。
「606了解、各自気を付けろ。通信終わり」
羽崎達2人は車から降りると、銀狼興行ビルから組長の長岡とボディガード達が出て来た。
「狙われてるってのに、大胆だね」
鈴端が呟くと、羽崎が口を開いた。
「そんぐらいのタマじゃないと、組長なんて務まらんだろ」
2人の目線の先で、ボディガードが黒塗りの高級車の後部ドアを開け、長岡が乗り込もうとする。その時、銃声がなった。
ボディガード達は咄嗟に長岡を車に押し込め、素早く拳銃を抜く。
一方の羽崎達も拳銃を抜いた。羽崎は素早く視線を巡らせると、ラウンデルファイターSi-Fourの後方側、少し離れたビルの非常階段で動く人影を見つけた。
「鈴端、2時方向のビルだ!」
羽崎が指差し、鈴端はそこへ向かって走り出す。羽崎も追い掛けるように走り出し、無線機のボタンを押した。
「606から各移動、4丁目のビルから銃撃だ! 610、裏手を封鎖! 412は正面を塞げ、どうぞ!」
《610、了解です!》
《412、了解!》
2人は道路のど真ん中を、拳銃片手に走る。
一方、非常階段を駆け降りた古河と新山は、急いでヴェルティガ福原ビルの裏手に止めていたパンテーラ3.0ブレンネロへ駆け寄り、乗り込む。
「何で羽崎君達がいるのさ!?」
そう叫びながら、新山はエンジンを掛ける。
「知る訳無いでしょう! メグル、ずらかるわよ!」
古河はそう指示を出すが、近付くサイレン音に気付いた。サイドミラーを見れば、後方から青色灯を載せた赤いフレアX350S+アーキテクトスーパーチャージャーが交差点を右折して迫ってくる所だった。
「後ろから610号車が来ているわ! 早く!」
「オーライ!」
サイドブレーキを解除し、新山はシフトレバーをファーストレンジへ下げ、アクセルペダルを踏み込んだ。
急発進して逃げるパンテーラ3.0ブレンネロを、フレアX350S+アーキテクトスーパーチャージャーが猛追する。
「まさか風紀委員会の覆面車を追跡する事になるとはな!」
シフトレバーをドライブレンジの右隣のマニュアルレンジへ入れ、意図的にシフトダウンさせながらアクセルペダルを踏み込む長倉が声を出す。
「確かに滅多に無い体験ですけど、振り切られたら元も子も無いですよ!」
助手席の戸坂からでる催促に、長倉はぐっとハンドルを握り込む。
「分かってるさ! 掴まってろ!」
回転計の針がレッドゾーンを示し、長倉は右手でパドルを操作して2速から3速へシフトアップする。
赤先商店街の裏路地を、パンテーラ3.0ブレンネロが爆走し、それをフレアX350S+アーキテクトスーパーチャージャーとラウンデル3.5ファイター+アーキテクトスーパーチャージャーがサイレンを鳴らしながら猛追する。
「メグル、追い付かれるわよ!」
助手席から後ろを振り返る古河が叫ぶが、新山は声を荒らげる。
「無茶言わないでよ! ターボ付っていってもこいつは250馬力の4速オートマなんだよ!? 300馬力オーバーでマニュアルモード付6速オートマの車に勝てっこないんだからさ!」
裏路地を抜け、パンテーラ3.0ブレンネロは桜見通りに出た。左急旋回、一気にリアタイヤがスライドする。
そこへ、自動運転の無人路線バスがやって来て急停車する。そして、裏路地との交差点を塞いだ。
「依月、ブレーキ、ブレーキ!」
戸坂の声に、長倉はブレーキペダルを踏み込んで急停車させる。1.5tを超える鉄の塊は制動装置によって、無人路線バスの左側面から僅か10cmの所で止まった。そのすぐ後ろにラウンデル3.5ファイター+アーキテクトスーパーチャージャーも停車し、4人はそれぞれ車から降りて桜見通りへ走り出る。
4人の視線の先で、パンテーラ3.0ブレンネロは赤信号を無視して「桜見駅南」交差点へ侵入し、右折していた。
「こちら610、すまない、古河達を見失った。桜見駅南交差点を右折して根本町方面へ向かって行った、どうぞ」
長倉が無線機で連絡を入れる。4人は無人路線バスの前に立ち尽くすしか無かった。
2047年4月11日 午後1時28分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 根本町10-3-1 根本埠頭 第6倉庫。
倉庫街を進むパンテーラ3.0ブレンネロは、第6倉庫前に停車した。
「ここだね」
「まさか、こんなに早く接触できるなんて、ラッキーね」
2人は車から降り、第6倉庫へと入っていく。
「外しても謝礼が出るなんて、随分気前がいいよね?」
倉庫の中を歩く新山が訊ねると、古河は頷く。
「えぇ。顔を出した所でパクるわよ」
2人がそのまま進むと、大型トラックが停められていた。その後ろに回り込むと、そこでは1人の白いスーツを着た男性がタバコを吸っていた。
「言われた通りに来たわ。さ、謝礼をちょうだい」
「ほらほら、ゲンナマを出してくださいな。アタシらお金に困ったJKなんだからさ」
2人が話し掛けると、男性はタバコを投げ捨てて2人の方へ振り返る。そして、口を開いた。
「悪いが、その話は無しになった」
「何だってぇ?」
その言葉を聞いた新山はしかめっ面になる。しかし、その直後、周りから金属音が鳴り響いた。
ただならぬ雰囲気に、2人は辺りを見渡す。すると、周りには銃を構えた男性達が2人を取り囲んでいた。
「アタシらを始末しようっての?」
新山の問い掛けに、白いスーツの男性はニヤリと笑う。
「その通りだ。あんたら、風紀委員なんだってな。わざわざ自分を囮にして捜査なんて、ご苦労だったな」
そう言って、男性は右手をスーツの中へ伸ばし、ショルダーホルスターから自動拳銃を抜いた。
そして、銃声が鳴った。
5.56×45mmの白い薬莢が地面を跳ねる。
白いスーツの男性が手にしていた自動拳銃が宙を舞う。それを見た古河と新山は素早くしゃがみ、それぞれショルダーホルスターから拳銃を抜く。
2047年4月11日 午後1時29分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 根本町10-3-1 根本埠頭 第6倉庫前。
倉庫の前で路上駐車されたパンテーラ3.0ブレンネロの周りに、大勢の覆面パトカーが集まっていた。各々赤色灯や青色灯を載せて点滅させているが、サイレンは鳴らしていない。
「私達は正面から突入する。そっちは周囲から固めてくれ」
ベルティーニ CRx-150A4を手にした倉田が指示を出し、集まった風紀委員や生活委員、そして調査員達は頷く。
「荒葉、阿川、そっちはどうだ、どうぞ?」
羽崎が無線機で連絡すると、返答があった。
《櫻樹先輩と一緒に狙撃ポイントに到達、準備良し。どうぞ》
「良し、出来るだけ静かに入るぞ。詩織、鈴端、棚里は俺と一緒に左側面から、夕乃、依月、永合、田基は右側面から、真岳、鈴川、愛江は裏手から突入しろ」
羽崎の指示に、全員頷く。そして、各々手にした銃の薬室を確認した。
「掛かれ!」
倉田の命令で、散開する。
倉庫へ、銃を手にした高校生達が突入する。
左側面から回り込む羽崎達4人は、羽崎を先頭に静かに進む。プレストン CDRを構え、すり足で進む羽崎は握りこんだ左手を挙げて停止の合図を出す。その正面には、自動小銃を手にした男達に囲まれた古河と新山がいた。
羽崎は左手で「散開」の指示を出し、フィールドテック SERを手にした竹沢は棚里を連れて羽崎達から離れる。
羽崎は積み重ねられたダンボール箱の上にプレストン CDRを置き、装着されたレーザーサイト付筒型光学照準器内蔵キャリングハンドルを覗き込んで白いスーツの男性を狙う。レンズに映し出された緑色の点を、男性の右手に重ね合わせて、引き金に右人差し指を掛ける。
そして、引き金を引いた。
銃声、反動によってプレストン CDRは振動して樹脂製の薬莢が排莢口から飛び出る。
放たれた5.56×45mm 77グレインジャケテッドホローポイント弾は音速を超えて飛翔し、男性の右手にめり込んで変形する。そして、握られていた自動拳銃を弾き飛ばした。
「ぐあっ!?」
男性は右手の出血した所を抑えてしゃがみ込む。周りにいた男達は何事かと辺りを見渡す。
「風紀委員会だ! 全員、銃を捨てろ!」
そこへ倉田達が自動小銃を手にしてやって来る。何丁もの40mm擲弾発射器付自動小銃の銃口を向けられ、男達は銃を捨てて両手を挙げるが、何人かは背中を向けて逃走する。しかし、彼らの足取りは直ぐに止まった。
「逃げんじゃねぇぞ、5.56mmの神様がお前らをぶち犯すからな」
イスラエル製5.56×45mm口径自動小銃・IFI ハツォルを構えた永合達が行く手を阻む。更に生活委員の真岳達も合流し、男達を拘束する。
2047年4月11日 午後1時36分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 根本町10-3-1 根本埠頭 第6倉庫前。
更に多くのパトカーが駆けつけ、拘束された男達をそれぞれ乗せていく。
「古河、無事か?」
2点負い紐でプレストン CDRを提げた羽崎が問い掛けると、古河は微笑んだ。
「えぇ、お陰様で」
「全く、お陰で僕達まで学校サボる羽目になっちゃったよ」
ニコルソン NR-15E3を提げた鈴端がボヤくが、新山が質問する。
「何でここって分かったの?」
その問に、フィールドテック SERを提げた竹沢が答える。
「簡単よ。府警本部に事情を話してNシステムで照会掛けたの、303号車をね。そしたら根本埠頭に向かったと分かったから、こうして全員で迎えに来たのよ」
「いやぁ、助かりましたよ」
そう呑気に言う新山の肩を、真岳は叩く。
「そもそも、授業サボって捜査してなきゃ、こんな騒ぎになってないんだからね」
「すんません」
謝る新山の所へ、倉田がやって来る。
「帰ったら、報告書と始末書な。あかりさん、すんごいブチ切れてたからな」
それを聞いた古河と新山は、顔を見合わせた。