HIGH SCHOOL DETECTIVE サクラの彼ら   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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第7話 交戦

 2047年7月15日 午前10時14分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 赤先町6 赤先商店街。

 

「そこのかわい子ちゃん、一緒にどう?」

 3人組の青年が、商店街を歩いていた2人の少女に声を掛ける。すると、2人は振り返った。

「私達か?」

「可愛くないだろ、私達なんて」

 黒髪ポニーテールと茶髪ポニーテールの2人は、男勝りな口調で返すが、3人組は首を振る。

「何言ってるのさ。充分可愛いじゃん」

「久々に当たりじゃね?」

「時間、空いてる?」

 そう言われ、2人は視線を交わす。

「まぁ、空いてるが……」

「それで、何処へ行こうと言うんだ?」

 すると、3人組の真ん中にいた男が答える。

「何、ちょっといいもんがあるからさ、ちょっと体験してみない?」

 その言葉に、茶髪ポニーテールは反応した。

「ほう? 『アンパン』か?」

「アンパンなんか、今時流行ってないよ。純トロだよ。ってか、君たち、詳しいね?」

「ま、知識だけはあるからな」

 そう言って、茶髪ポニーテールはジーパンのポケットから身分証を取り出す。紺色の手帳サイズで、表紙には[浜崎市立桜見高等学校]という金色の刺繍が施され、開いたページに入っているプラスチックカードには[新江戸府警察 認定嘱託調査員 浜崎市立桜見高校 生活委員会 鈴川 秀子]と記されていた。

 その隣の黒髪ポニーテールも同じく桜見高校の生徒手帳を取り出すが、開かれたページに入っていたプラスチックカードには[新江戸府警察 認定嘱託調査員 伊奈本プライベートサーチ&セキュリティ 長倉 依月]と記されていた。

 それを見て、3人組は顔を青白くする。

「あ、あんたら、警察の手下だったのかよ!?」

「悪いな。詳しく話を聞かせてもらおうか?」

 鈴川の言葉に、3人組は踵を返して逃走しようとする。が、その背後には羽崎と鈴端が立ちはだかっていた。

「よぉ、何処へ行くつもりだ?」

「良くないなぁ。遊び慣れてなさそうな子に薬物勧めるなんて、僕は関心しないよ?」

 2人の挑発に、3人組は殴りかかろうとする。が、羽崎と鈴端はそれぞれ躱し、取り出した特殊警棒で返り討ちにした。

「ったく、商売も格闘も下手くそじゃ、裏社会じゃ通用しねぇぞ」

「本当だよね。よくこんなので、今までやってこれたのには逆に関心しちゃう」

 2人は軽口を叩きながら、プラスチックカフで3人組を後ろ手に拘束する。

 

 やってきた3台の白黒パトカーに3人組を乗せ、羽崎達4人はそのまま見送る。

「悪いな、協力してもらって」

 鈴川の言葉に、羽崎達は返事をする。

「気にすんな」

「そうそう。僕達、同じ嘱託調査員だしさ」

「その上、同級生の頼みだ。断る理由は無い」

 そこへ、真岳、竹沢、棚里、永合、戸坂の5人が合流する。

「よっすー、秀子ちゃん、そっちも検挙したとこ?」

「あぁ。今3人を豚箱へ送った所だ」

「よしよし、上々。探偵さん達もご苦労さま!」

 真岳の言葉で、集まった高校生達は解散する。

「お疲れさん。じゃ、俺は用事があるから」

「私も用事があるから、ここでさよならね」

 羽崎と竹沢は、連れ立って赤先商店街の北側へ向かって歩き出す。

「なんだよはさみん、デートの予定があったのかよ?」

「はさみん言うな。じゃ、またな」

 羽崎はヒラヒラと左手を振って、鈴端達に背を向ける。そして、竹沢と並んで歩いていく。その後を、長倉と戸坂が続く。

 その4人を見送る鈴端は、首を傾げた。

「長倉ちゃんと戸坂ちゃんも用事かな?」

 すると、永合が言葉を返した。

「デートだろ」

「デート? 誰と?」

「決まってるだろ、羽崎とだろ?」

「ん?」

 鈴端と永合の会話が微妙に噛み合わず、2人は見つめあったまま疑問を浮かべた。

「永合ちゃん、何言ってるのさ。はさみんのお相手は竹沢先輩でしょ?」

「おめーこそ何言ってんだよ。戸坂は羽崎と付き合ってるんだぜ?」

「いやまさか……本当に?」

 疑り深くなった鈴端に、永合は手を腰に当てながら答える。

「ああ。あいつ、前に張り込みしてる最中に羽崎にラブコール送ってたぜ」

「え、じゃあまさか二股?」

「ちょっと待て」

 そこへ、鈴川が口を挟む。

「羽崎は長倉と付き合ってたんじゃないのか?」

「そーだよ。前に放課後腕組みデートしてんだよ、羽崎と長倉ちゃん」

 続け様に出た真岳の言葉に、鈴端と棚里の頭は追いつかない。

「待って、はさみん、二股どころか三股掛けてたの?」

「でも、あれ、浮気という感じでもないですよね?」

 理解に苦しむ棚里に、真岳は口を開いた。

「あれじゃない? 4P関係って奴でしょ?」

「それはそれで酷いな」

 思わず出た鈴川の言葉に、鈴端達は首を傾げた。

 

 

 

 2047年7月15日 午前10時31分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町8-3-1 クロスリゾート関中。

 

 繁華街の中に建つラブホテルの前に、1台の4ドアハードトップセダン・丹生館 ダフィーネクラブSタイプXが路肩で停車していた。

「一体いつまでこうしてるのさ?」

 後部座席で文句を垂れながらサンドイッチを頬張る新山に、助手席でタバコ型駄菓子「カフェボロ」を咥えた古河が答える。

「待つのも仕事の内って、教わらなかったの? 本当、あなたって辛抱が効かないわね」

「アタシゃ、待つのは苦手なんだよ」

「でも、本当なのでしょうか?」

 運転席でハンドルを握りながら、ラブホテルを見上げるタルボットが呟く。

「銀座の宝石強盗が、わざわざ浜崎市になんて逃走するでしょうか?」

 その疑問に、古河が再び答える。

「優秀な警視庁 捜査一課と新江戸府警 捜査一課の調べを疑うの? 浜崎市内へと逃走したのは確実なのよ。現に、岸名町ではその犯人達の指紋が残された車が発見されているんですもの」

「でもさ、浜崎市からもう逃げた可能性だってあるでしょ?」

 割り込んできた新山の言葉に、古河はため息をつく。

「浜崎市から出る道路や鉄道で、検問が敷かれた後にこの関中町の防犯カメラに映ったのよ? どう逃げるっていうのよ」

「そりゃそうだけどさ……あれ?」

「どうしたのよ、メグル?」

 首を傾げる新山に気付いた古河は、その視線の先を辿る。すると、今まさにラブホテルへ見慣れた4人組が入ろうとする所だった。

「ありゃ、羽崎君に竹沢先輩……」

「それに、長倉と戸坂じゃない。何やってるのかしら?」

「何かの捜査、でしょうか?」

 3人が首を傾げる中、羽崎達4人はラブホテルへと入っていった。

「捜査……捜査だよね?」

「私に訊かないでちょうだい」

 

 

 

 2047年7月15日 午前10時32分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室 風紀委員会ブース。

 

 顧問席に広げられた書類にペンを走らせる新条の元へ、道島が近付く。

「あかりちゃん、例の転入生についてのお話なんですけども……」

「後にして」

 話し掛ける道島を、新条は一蹴する。そんな新条の態度に、道島は頬を膨らませる。

「後にしてって、ずっとそうやって先延ばしにしてるじゃないですか」

 すると、新条はペンを置き、道島を見上げる。

「あのねぇ、こっちは忙しいのよ。一昨日、東京都 中央区 銀座の宝石店で強盗があったでしょ?」

「えぇ、何度もニュースになってますものね」

「それの犯人が浜崎市内に逃走したの。故に浜崎署もアンコローレもうちも総力挙げて捜索しているのに、転入生の話なんかする暇は無いの。私達が暇な時に話してちょうだい」

 新条の言葉に、道島はそっぽを向いた。

「あらそうですか。忙しそうで大変ですね。それに比べて生活委員会は『暇委員会』ですもんね」

 それだけ言い残し、道島は生活委員会ブースへと戻っていく。新条はため息をつき、再び書類に向き合う。

 

 

 

 2047年7月15日 午前11時26分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 関中町8-3-1 クロスリゾート関中。

 

 真岳と鈴川の2人は、関中町にあるラブホテルの前に辿り着いた。

「この辺だよね?」

「あぁ。純トロの売人は、このラブホ街を拠点としているらしいからな」

 2人は、先程逮捕したトルエン売人グループからの事情聴取によって割り出したトルエン売買ルートを探っていた。

 

「ん? あれ、香と秀ちゃんじゃない?」

 ダフィーネクラブSタイプXの後席でフルーツオレを飲んでいた新山が、2人に気付く。

「あら、何してるのかしら?」

 同じく助手席でコーヒー入のペットボトルを傾けていた古河も気付いた。一方、運転席のタルボットは首を傾げる。

「捜査でしょうか? それとも、『そういう関係』なのでしょうか?」

「女同士で? いやぁ、無いと思うけどなぁ」

 否定する新山に、古河が反論する。

「分からないわよ。かっちゃんみたいな事例があるじゃない」

「かっちゃんは特殊でしょお」

 そんなやり取りが覆面パトカーの中で繰り広げられる中、真岳と鈴川は通りを歩いていた人々に声を掛ける。

「すいません、桜見高校 生活委員会の者です。ちょっと手荷物拝見しても?」

 

「ありゃ、捜査だねぇ」

 新山が呑気に言う中、古河は思慮する。

「宝石店強盗を追ってる訳じゃないとしたら、厄介よ」

 古河の言葉に、タルボットは質問する。

「どうしてでしょうか?」

「考えてみなよ。全く関係ない捜査だとしても、近辺を警察関係者が彷徨いていたら、心臓がバクバクするでしょ?」

 タルボットの質問に新山が答え、タルボットは合点がいった。

「確かに、そうですわね……」

 

 片っ端から職務質問をしていた真岳と鈴川は、路肩に停車していた丹生館 ダフィーネクラブSタイプXに気付き、近寄る。

「奇遇じゃん、還に來ちゃん、それに麗羅ちゃんまで揃っちゃってさ」

 ダフィーネの助手席に寄った真岳の言葉に、古河は面倒臭そうに返事をする。

「こっちは捜査中よ。気軽に話し掛けないでちょうだい」

「なんだよ、釣れないなぁ」

 お手上げの姿勢をする真岳に、新山が声を掛ける。

「ちょっち離れてくんない? 張り込み中ってバレたらどうすんのさ?」

「いいじゃん、ちょっとくらい」

 食い下がる真岳に、古河は嫌悪感を示す。

「いいから離れて。仕事の邪魔しないでちょうだい」

「全く、突然冷たくならないでよ」

 その時、タルボットはラブホテルから出てきた4人の男性に気付いた。

「先輩、あれですわ!」

「え? 誰?」

 その言葉に、真岳と鈴川は振り返る。そして、4人組と目が合った。

 4人組はそれに気付き、新江戸街道へと逃走し始める。

「だから言わんこっちゃない!」

「麗羅、出して!」

「は、はい! かしこまりましたわ!」

 古河は赤色灯を手に取りながら、タルボットに指示を出す。タルボットはエンジンを始動させて、ダフィーネを発進させた。

 急発進し、新江戸街道との交差点を左折するダフィーネを見送る真岳と鈴川は、途方に暮れた。

「……何なの、一体?」

「あれほど必死な2人は初めて見るな」

 

 交差点を左折したダフィーネに乗る3人は、男達がタクシーに乗り込むのを目撃する。そして、古河はサイレンアンプのマイクを手に取った。

「そこのタクシー、そのまま止まってなさい!」

 しかし、古河の問い掛けを無視してタクシーは走り出した。

「マズイよ、ルカぁ」

 後席から前席の隙間ににょっきりと顔を出す新山の言葉に、古河は頷く。

「分かってるわよ。麗羅、逃がさないでよ」

「承知しましたわ!」

 タルボットはアクセルペダルを踏み込む。一方の古河は無線機のマイクに持ち替え、口を開いた。

「桜見305から浜崎署! 手配中のマル被を発見! 関中8丁目から新江戸街道を西へ逃走! 車種はオレンジ色のタクシー、ナンバー、新江戸500 朝日のあ 48-15! 現在追跡中、応援願います、どうぞ!」

《浜崎署、了解。浜崎署から全移動へ。手配中のマル被が逃走、オレンジ色のタクシー、ナンバー、新江戸500 朝日のあ 48-15で関中8丁目から新江戸街道を西進中。現在、桜見305が追跡中。近い移動はありますか、どうぞ?》

 

 

 

 2047年7月15日 午前11時50分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 桜見町6-9-30 浜崎市立桜見高校 別棟1階 生徒会室 風紀委員会ブース。

 

 新条が道島を呼び出す。

「道島先生、ちょっとお話が」

「ちょうど良かったです。私もお話があります」

 道島は、新条の座る顧問席の前に立つ。そのただならぬ雰囲気に、高校生達は耳を塞ぐ。

「道島先生、あなたの生徒のおかげで犯人に逃げられました」

「新条警部補、それは、私達生活委員会の責任だと言いたいんですか?」

「そりゃそうよ!」

 新条は立ち上がり、激高する。

「張り込み中の305号車に話し掛けていなければ、みすみす犯人達に気付かれずに尾行できたものを、あなたの生徒の所為で台無しになったのよ!?」

「そんなの分かりっこ無いじゃないですか!? 張り込み中だったとして、何を追ってるのか香ちゃん達は知らなかったんですよ!?」

「それでも、捜査中の風紀委員に私語をするなんて言語道断でしょう! そちらは休日でしょうけどね、こっちは府警本部からの要請だったんだから!」

「香ちゃん達がまるで仕事してないように言わないでください! こっちだってトルエン密売ルートを探っていたんです!」

「道島先生! そんな若造のシンナー密売と、凶悪な宝石強盗と、どっちが優先かお分かりですか!?」

「事件に大きいも小さいも無いでしょう!? まるで生活委員会を見下してるようですよ!?」

「見下してる訳じゃないの! ただ、そんな細々とした密売人と、凶悪犯、どちらを先に逮捕すべきかと訊ねてるの!?」

「そんなの決まってるじゃないですか! 密売人でしょう! 私達は、私達の仕事を優先しなくてはならないんです! 風紀委員会の事情なんか、知ったこっちゃありませんよ!」

「ああそう、ああそう! じゃあもう頼みません! ただ、こちらの仕事の邪魔はしないで頂きたい!」

 それだけ言い残し、新条は再び椅子に座る。一方の道島は踵を返し、生活委員会ブースへと戻る。

「生活委員会を馬鹿にして。もう知りません!」

 道島も言葉を吐き捨て、生活委員会ブースの席で耳を塞いでいた真岳の首根っこを掴んで引き連れて生徒会室から出ていった。

 

 

 

 2047年7月15日 午後0時36分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町6。

 

 新江戸府の最西端にある金水町を通る市道26号線を、真っ赤な後輪駆動3ドアハッチバックスポーツカー・丹生館 ラクティ(改RPS13後期型)が走る。

 丹生館自動車が1988年に発表した後輪駆動2ドアノッチバッククーペの丹生館 ラクス(S13型)とはボディ以外を共通とする姉妹車である後輪駆動3ドアハッチバックスポーツカー・丹生館 200SC(RPS13型)は、ラクスとの差別化の為に開閉式(リトラクタブル)ヘッドライトを採用している。しかし、その部品点数の多さから来る故障や重量・空気抵抗増加を嫌い、200SCに敢えてS13型ラクスのヘッドライトやフロントバンパーを移植する改造が成された個体が存在していた。それぞれの車名から2文字ずつ取って「ラクティ」と呼ばれていたその改造車は、後に丹生館自動車から制式仕様として発表され、話題となった。

 道島 ゆうなは、そのデザインに惚れて純正仕様のラクティを購入し、愛車として使っている。だが、そのエンジンは純正の2.0L SR20DE水冷直列4気筒DOHC自然吸気内燃機関ではなく、S14型ラクスK'sに搭載されていた2.0L SR20DET水冷直列4気筒DOHC過給器付内燃機関へと交換され、140馬力から220馬力へとパワーアップしている。他にも、足回りやトランスミッションにも手が入っており、「峠仕様」とも言える状態に仕上がっていた。

 そんなストリートチューンが施されたラクティのハンドルを、道島が握っていた。助手席には、無理矢理連れてこられた真岳が座っている。

「あの、ゆうな先生?」

「何でしょうか?」

 恐る恐る訊ねる真岳の声に、道島が答える。

「大丈夫ですか?」

「何がです?」

「あの……あかりさんと喧嘩した事です」

「大丈夫ですよ。それより、この辺ですよね?」

「あ、はい、そうです」

 2人を乗せたラクティは市道から外れ、路地へと入る。

 

 海岸線に沿って立ち並ぶ金水団地の外れに、1つの船宿が建っている。その眼前に広がる海の向こうには羽田国際空港があり、離着陸をする飛行機が頭上を飛び交う。

 今まさに羽田空港から飛び立ったフランス製の特大型輸送機・エールオトビュス AA300-600ST シーカナリーのターボファンエンジンの轟音が包む中、丹生館 ラクティが停車した。

 2人は車を降り、船宿へと歩み寄る。

 

 

 

 2047年7月15日 午後0時37分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町7。

 

 路肩に停車したオレンジ色のタクシーの周りには、多くのパトカーが集まっていた。

 新山がタクシーの運転席を覗くと、窓やハンドルに血飛沫が舞っていた。

「酷い有様だなぁ」

 ボソッと呟く新山を尻目に、古河は夢川達と話をしていた。

「つまり、生活委員会と話をしていて、ホシに気付かれたと?」

「えぇ」

「その後、ホシはタクシーを乗っ取って金水町まで逃走し、運転手を殺害……どんどん犠牲が増えますね」

 琉田の言葉に、全員が神妙な面持ちを浮かべる。そんな中、無線機が鳴った。古河は防弾チョッキの左肩に取り付けたマイクを持ち上げる。

「こちら桜見305」

《浜崎捜査から浜崎41、桜見305。タクシーに残っていた指紋からマル被の身元が判明した。児玉 亮介 36歳、鈴木 茂雄 32歳、西村 俊 35歳、平尾 芳明 34歳。いずれも陸軍 第1挺進旅団に在籍していたとの事》

 それを聞き、古河達は目を見合わせる。

「第1挺進旅団って、陸軍の精鋭部隊じゃないですか?」

 琉田の発言に、夢川が頷く。

「確か、レンジャー旅団とか言われてたな」

「つまり、戦闘のプロっていう事っスね」

 口を挟む新山に、タルボットは口元を覆った。

「そんなの、わたくし達で逮捕できるのでしょうか……?」

「出来る出来ないの話じゃないわ。するのよ」

 古河の叱咤に、新山は深く頷く。

「ルカの言う通りだよ。麗羅ちゃん、相手は化け物じゃなくて、鍛え抜かれた人間だよ? 警察官たるもの、この程度で怖気付いてどーすんのさ」

 その言葉に、夢川は同意する。

「新山、その通りだ。俺達は警察官で、相手は犯罪者。そこは変わらない。退く事は出来ない」

 そこで、夢川は手を叩いた。

「よし、手分けして探そう。俺達は2丁目の方を探す、そっちは5丁目の方を頼む」

「はい」

 古河達は頷き、それぞれの覆面パトカーへと戻る。そして、浜崎41号車、真っ赤な後輪駆動3ドアハッチバックスポーツカー・富木 イペロコスRZ(JZA80後期型)と桜見305号車、黒い後輪駆動4ドアハードトップセダン・丹生館 ダフィーネクラブSタイプX(HC35後期型)は走り出した。

 

 

 

 2047年7月15日 午後0時38分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町6-10-3 源郎ハウス。

 

 寂れた船宿「源郎ハウス」の中には、5人の男がいた。

 その内4人は、自動小銃や短機関銃を弄り、残る1人、白髪の老人は椅子に座ってそれを眺めていた。

「なぁあんたら。一体いつまでここに居座るつもりだ?」

 老人が訊ねると、スイス製9×19mm口径短機関銃・エクスナー&レッチェ LEC-9の槓杆を引いた男が答える。

「もうすぐこの辺を貨物船が通る。俺達はそれに乗り込むから、それまでだ」

 しかし、その答えに老人は難色を示した。

「勘弁してくれ。俺はもう裏稼業から手を引いたんだ、早く出ていってくれ」

「爺さん、そりゃないだろう」

 男は引き下がるが、老人は携帯電話を手に取る。

「早く出ていかないなら、警察を呼ぶぞ」

 そう脅した瞬間、銃声が轟いた。

 

 その銃声は、建物の外にいた道島と真岳の耳にも届いた。

 道島は素早くショルダーホルスターからドイツ製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ドナウアー&クルト HPP-9を引き抜く。真岳もそれに続いてヒップホルスターからオーストリア製9×19mm口径ポリマーフレーム自動拳銃・ライカン 14を抜いた。

 

 胸を撃ち抜かれた老人は、握っていた携帯電話を落とし、背もたれにダランと寄り掛かる。

 そして、エクスナー&レッチェ LEC-9を持っていた男は振り返り、別の男を見る。3人の内の1人が握るベルギー製9×19mm口径自動拳銃・SFエルスタル ハイキャパシティMk3の銃口からは硝煙が立ち上っていた。

「馬鹿野郎! サプレッサー無しに撃つんじゃない!」

 エクスナー&レッチェ LEC-9を持っていた男・児玉 亮介は叫ぶ。すると、SFエルスタル ハイキャパシティMk3を握りしめていた男・鈴木 茂雄は反論する。

「だって、この爺さん、俺達を脅したんですよ、中尉!」

「階級で呼ぶな! こんな所で発砲すれば、サツにバレちまうだろうが!」

 その時、物音が4人の耳に入った。

 

 建物に忍び込んだ真岳は、床に散乱していたガラクタに足を取られてしまい、物音が発生してしまう。

「誰だ!?」

 男の声が聞こえ、真岳は意を決して声を張り上げた。

「桜見高校 生活委員会だ! 銃を捨てろ!」

 そして、ライカン 14を構える。

 

「香ちゃん、何やってるんですか……!?」

 真岳とは別ルートで建物に侵入した道島は小声で呟く。そして、居間に出た。

「生活委員会です! 手を挙げなさい!」

 道島は叫び、ドナウアー&クルト HPP-9の銃口を3人の男に向ける。

 居間にいた3人の男達は銃を捨て、両手を挙げる。

「生活委員会? あんた、高校生に見えねぇな。教員か?」

 両手を挙げる児玉の言葉に、道島は頷く。

「えぇ、そうです。あなた達ですね、トルエンを浜崎市内で密売していたのは?」

「何の話だ?」

「とぼけないでください!」

 道島は叫ぶ。次の瞬間、真岳が居間に現れた。

 しかし、真岳は後ろ手に拘束されており、そのこめかみには拳銃が向けられていた。

「香ちゃん!」

 道島が叫んだ次の瞬間、無機質な金属音が響く。

 そして、児玉は拳銃を道島に向けていた。

 

 

 

 2047年7月15日 午後0時40分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町6-10-3 源郎ハウス。

 

 船宿の前へ、サイレンを鳴らした丹生館 ダフィーネクラブSタイプXがやってくる。そして、3人は車から降りる。

「あれ、ゆうな先生のラクティじゃん?」

 船宿の前に止まった真っ赤なスポーツカーに気付いた新山が口を開く。

「あら、奇遇じゃないの」

「生活委員会も、ここに用があったのでしょうか?」

 古河とタルボットも口を開く中、船宿から誰かが出てくる。

 それは、真岳を人質にした1人の男だった。

 

 3人は咄嗟に拳銃を抜き、構える。が、男は真岳のこめかみに拳銃を突きつけながら叫んだ。

「こいつを殺されたくなければ、銃を捨てて車を持ってこい!」

 それを聞き、古河はブレナン B2023のサムセーフティレバーを上げて安全装置を作動させて投げ捨てる。それに倣い、新山はベルティーニ 90-4のスライドセーフティレバーを下げて投げ捨て、タルボットもベルティーニ 94Gエレクトのスライドデコッキングレバーを下げて撃鉄を戻して投げ捨てる。そして、新山が手を挙げた。

「はい、はい! アタシが運転します!」

 そう言って、新山は丹生館 ダフィーネクラブSタイプXの運転席に座り、ハンドルを握る。左手でシフトレバーをパーキングレンジからファーストレンジに下げ、アクセルペダルを踏み込む。搭載された2.0L RB20DE水冷直列6気筒DOHC自然吸気内燃機関が唸り、1.4tの車体は加速する。そして、ダフィーネは男と真岳目掛けて突進する。

「きゃああ!」

 思わず真岳は男を突き飛ばし、ダフィーネの進路から逸れようとする。そこで新山は左手でサイドブレーキレバーを引き上げ、ハンドルを回して車体を反時計回りに回転させた。

 横っ飛びでダフィーネを回避した男は、拳銃を構え直して新山を狙う。が、その引き金が引かれる寸前、古河は右手で後ろ腰に装着していたバックサイドホルスターからアメリカ製9×19mm口径回転拳銃・アボット&レイモンド AR938を引き抜き、男の右肩目掛けて発砲した。

 放たれた9×19mm 124グレインフルメタルジャケット弾は、男の右肩を撃ち抜く。走り寄った古河はそのまま男が手にしていた拳銃を蹴り飛ばし、手錠で拘束する。一方の新山はダフィーネから飛び降り、バックサイドホルスターから抜いたベルティーニ 95Dケントゥリオ片手に船宿へと突入する。

 そして、船宿から出た新山は真岳に近寄った。

「香、大丈夫?」

 新山が問い掛けるが、真岳は新山の胸倉を掴んで口を開く。

「危ないじゃないの! あたし諸共轢き殺すつもり!?」

「だって『あぶない風紀委員』だもん」

 新山の答えに、真岳はガクッと肩を落とす。しかし、すぐに顔を上げた。

「それより、ゆうな先生見てない!?」

 真岳の質問に、新山は首を傾げる。

「見てないけど?」

「だって、こん中探したんでしょ!?」

「爺さんの死体だけだったよ」

 それを聞き、古河は思考する。

 

 

 

 2047年7月15日 午後0時49分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 金水町3。

 

 市道31号線を、サイレンを鳴らして屋根の赤色灯を光らせる浜崎41号車の後輪駆動3ドアハッチバックスポーツカー・富木 イペロコスRZ(JZA80後期型)の車内に、古河の声が響く。

《桜見305から各移動、指定116号事件のマル被の内1人を逮捕しました。残りの3人は潜伏していた6丁目の船宿『源郎ハウス』から逃走、桜見高校 生活委員会の道島 ゆうな先生を人質にしている模様。至急手配願います》

 それを聞き、助手席の琉田はマイクを手に取った。

「こちら浜崎41、金水3丁目から6丁目へ向かいます、どうぞ」

 マイクを戻すと、イペロコスは交差点に差し掛かった。夢川は車を減速させ、赤信号の中交差点へ進入する。

「緊急車両、赤信号通過しまーす。道を開けてください。緊急車両、交差点に入ります」

 再びマイクを持った琉田が注意喚起しながら、夢川は慎重に交差点内へと車を進める。その時、左の道路から勢いよく車が突っ込んできた。

 突っ込んできた緑色の前輪駆動4ドアセダン・富木 エクエス2.4セダン(TJG00後期型)はタイヤを軋ませ、左折していく。その運転席にいた女性に、夢川と琉田の視線は釘付けになった。

「あれ、道島先生ですよ!?」

「なんてこった! 琉田ちゃん、掴まれ!」

 夢川はアクセルペダルを踏み込み、3.0L 2JZ-GTE水冷直列6気筒DOHC過給器付内燃機関が唸る。捻り出された320馬力が1.5tの車体を加速させる。

「浜崎41から全移動へ! 指定116号事件のマル被3人を発見! 道島先生を人質に、緑色のセダンで逃走中! ナンバー、新江戸330 保険のほ ·· 21! 現在、金水3丁目交差点から市道31号線を北上して追跡中! 応援願います、どうぞ!」

《浜崎署、了解。浜崎署から各移動、現在浜崎41が指定116号事件のマル被を追跡中。金水町付近の移動は急行せよ、以上浜崎署》

 

 

 

 2047年7月15日 午後0時51分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 岸名町1。

 

 元巻埠頭を起点に、神奈川県 川崎市 川崎区 浮島町へ向かう片道3車線の大通り・貿易道路を、大量の覆面パトカーが走る。

 先頭は、倉田、櫻樹、鎌谷、滝本の乗る桜見301号車の後輪駆動4ドアハードトップセダン・丹生館 フランシス250LV-4(ENY34前期型)。

 2台目は、絵島、根川、霞籘の乗る桜見303号車の後輪駆動2ドアノッチバッククーペ・丹生館 パンテーラ3.0ブレンネロ(UF31AZ2後期型)。

 3台目は、鈴川、愛江の乗る桜見412号車の四輪駆動2ドアノッチバックスポーツカー・丹生館 ホライゾンST-Rニグラ400R(改BCNR33後期型)。

 4台目は、鈴端、羽崎、棚里、竹沢の乗る桜見606号車の四輪駆動4ドアセダン・富木 ラウンデルファイターSi-Four(GRS211前期型)。

 5台目は、永合、戸坂、長倉、田基の乗る桜見608号車の後輪駆動4ドアセダン・富木 ノーブレ200RZ(SXE10後期型)。

 6台目は、荒葉、阿川の乗る桜見609号車の前輪駆動5ドアハッチバックワゴン・富木 ソルプレッサi-S(ACT10後期型)。

 6台の覆面パトカーは、赤色灯や青色灯を光らせ、サイレンを鳴らしながら貿易道路を北上する。

「はさみんも不遇だね。非番でカノジョとニャンニャンしてた最中に呼び出しだなんてさ」

「しょうがないだろ。担任が人質にされちゃあ、教え子として黙ってられないだろ」

 ハンドルを握る鈴端の揶揄いに、助手席の羽崎は眉をひそめた。

「2人とも、相手は陸軍特殊部隊出身なんですよ? 気合い入れてください」

 そんな2人の緊迫感無い会話に、後席の棚里が苦言を呈す。すると、隣の竹沢が宥めた。

「あなたこそ、気合いが入り過ぎよ。相手は怪物じゃなくて人間なんだから」

「竹沢さんも、3年生なら呑気に言わないでください」

「分かってないわね。そう肩に力が入ってたら、当たらないわよ」

《それに、特殊部隊じゃなくて精鋭部隊です。第1挺進旅団は、確かにレンジャー資格を有する軍人の集まりですが、特殊作戦には従事しません。陸軍の特殊部隊は、元1挺の人間が集まる特殊作戦大隊ですよ》

 無線機に戸坂の声が割り込み、鈴端は肩をすくめた。

「さすがミリオタ戸坂ちゃん」

 すると、櫻樹の声が割り込んだ。

《桜見301から各移動、私語は慎め。それと、確かに相手は人間だが、そこらのチンピラとは訳が違う。心しとけ。以上》

 それを聞き、鈴端は口を開いた。

「マコさんって、本当真面目だなぁ」

 

 

 

 2047年7月15日 午後1時06分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 波柄町1-6-7 ラモーヌ波柄。

 

 新江戸府と神奈川県 川崎市を隔てる羽田水道に掛かるトラス橋「羽田大橋」の橋桁を兼ねる商業施設「ラモーヌ波柄」の自走式立体駐車場へ、富木 エクエス2.4セダンが滑り込み、赤色灯を載せた富木 イペロコスRZもそれに続く。

 グルグルと回るループ橋を、エクエス2.4セダンが駆け上がる。ハンドルを握る道島は、アクセルペダルを調整してアンダーステアを打ち消す。一方のイペロコスRZを操る夢川は、その増大なトルクに四苦八苦しながらもエクエス2.4セダンを追い掛ける。

 やがて、2台は屋上スペースへとたどり着いた。

 エクエス2.4セダンは急停車し、その後ろにイペロコスRZも停車する。そして、夢川と琉田はそれぞれ拳銃を構えながら車から降りた。

「警察だ! 銃を捨てろ!」

「人質を離しなさい!」

 2人は叫ぶ。すると、エクエス2.4セダンから2人の男が降りた。2人の手には自動小銃や短機関銃が握られ、その銃口は夢川達を向く。

 

 そして、銃声が轟く。

 

 自動小銃から放たれた5.56×45mm弾が夢川の右肩を撃ち抜き、夢川が放った9×19mm弾はあらぬ方向へと飛んでいく。

「先輩!」

 地面へと倒れる夢川に、琉田が叫ぶ。そして、琉田もまた撃たれた。

 2人は、イペロコスRZを挟んで倒れる。そこへ、2人の男がそれぞれ銃を構えながら近付き、夢川と琉田の頭を狙う。

 その時、エクエス2.4セダンは急発進した。ハンドルを握る道島は、助手席で拳銃を突き付けていた児玉にエルボーを喰らわせ、アクセルペダルを踏み込む。

「何だ!?」

「クソッ、あのアマ!」

 2人の男は走り去るエクエス2.4セダンへ銃を向け、発砲する。

 

 エクエス2.4セダンのリアウインドウが銃撃で割れ、道島は首をすくめる。が、その視線は正面を絶えず向いていた。

 30km/hから更に加速するエクエス2.4セダンは、屋上駐車場の壁を目掛けて突進する。そして、道島はドアを開け放って車から飛び降りた。

「うわぁ!」

 残された児玉を乗せたエクエス2.4セダンは、そのまま車止めを踏み越え、壁に正面衝突した。衝撃でフロント部分は潰れ、シートベルトをしていなかった児玉の頭部はダッシュボードから膨らんだエアバックに埋まり、そのままフロントウインドウへとぶつかる。

 一方、道島は地面を転がっていた。そして、派手に衝突したエクエス2.4セダンを見つめる。

「やった……」

 それだけ呟くと、彼女はすぐに起き上がり、逃げる。彼女の銃は既に取り上げられており、丸腰の状態だった。

 

 

 

 2047年7月15日 午後1時08分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 波柄町1-6-7 ラモーヌ波柄 屋上駐車場。

 

 ループ橋を、赤色灯を載せた丹生館 フランシス250LV-4(ENY34前期型)が駆け上がる。

 丹生館自動車株式会社のフラッグシップモデルとして開発された後輪駆動4ドアハードトップセダンであるフランシスは、キリエとシャシー、ボディを含めてほとんどのパーツを共有している。しかし、フランシスは高級路線、キリエはスポーツ路線でセッティングされ、味付けは少々異なる。桜見301号車として配備されているこの車は、廉価グレードの2.5Lモデルである250LVの四輪駆動仕様であり、250LVの2.5L VQ25DD水冷V型6気筒DOHC自然吸気内燃機関とは異なって2.5L RB25DET水冷直列6気筒DOHC過給器付内燃機関を搭載している。

 そんなフランシス250LV-4はループ橋を上がりきり、屋上スペースへと姿を現す。そして、イペロコスRZのすぐ後ろに停車した。

 4つのドアがすぐに開き、倉田達4人が車から降りる。そして、イペロコスRZの両脇で倒れる夢川と琉田を見つけた。

「夢川さん! 琉田さん!」

 倉田が叫び、4人はそれぞれに駆け寄る。

「倉田ちゃん、櫻樹君……」

 何とか起き上がろうとする夢川を、櫻樹が止めて無線機で連絡を取る。

「夢川さん、そのままじっとしといてください! 桜見301から浜崎署! 浜崎41の2人が被弾、大至急救急車願います!」

「道島先生は、中に逃げて……それを、2人が追っていった……」

「分かりましたから、喋らないで! 桜見301から各移動! ラモーヌ波柄の出入口を全て封鎖しろ!」

 そんな中、鎌谷は壁に頭から突っ込んだエクエス2.4セダンを見つけた。

「あの車、もしかしたら……筋肉、一緒に来て!」

 鎌谷は、防弾チョッキのホルスターからアメリカ製.357口径回転拳銃・アボット&レイモンド AR357R8デューティマグナムを引き抜き、エクエス2.4セダンへと向かう。筋肉と呼ばれた滝本も、ドイツ製.40口径ポリマーフレーム自動拳銃・ドナウアー&クルト UAP-40を片手に鎌谷に続く。

 

 2人は拳銃を構えながら、エクエス2.4セダンに近付く。滝本はエクエス2.4セダンの左リア付近で拳銃を構え、鎌谷が車から少し離れつつ車内へと拳銃を向けながら安全を確認する。

 その助手席では、頭部から出血した児玉が呻いていた。それを見て、鎌谷は左手で左肩の無線機のマイクを手に取った。

「桜見301から浜崎署、児玉を発見。事故車内で怪我をしています。救急車とレスキュー隊を要請します、どうぞ」

《浜崎署、了解。浜崎消防に連絡します》

 

 

 

 2047年7月15日 午後1時09分、日本皇国 新江戸府 浜崎市 波柄町1-6-7 ラモーヌ波柄 正面入口。

 

【お客様に連絡いたします。ただいま、当施設内にて銃乱射事件が発生しています。既に警察が到着していますので、お客様は警察官、または警備員の指示に従って避難してください】

 店内アナウンスが流れる中、大勢の人が我先にと出入口から脱出しようと殺到する。

「押さないでください! 落ち着いて避難してください!」

 警備員の叫びも虚しく、人々はパニックになりながら逃げる。そこへ、自動小銃を手にした高校生達がやってくる。

「桜見風紀の絵島です! 状況は!?」

 ライオットシールドを片手に、警察手帳をかざす絵島が警備員に訊ねる。すると、男性警備員は答えた。

「ただいまお客様の避難誘導中です! 銃を持った2人組が5階にて銃を乱射し、怪我人については不明です!」

「分かりました! 根川、霞籘! あーしから離れんなよ! こちら303、正面入口から突入する!」

 絵島が叫び、人混みを掻き分けて施設内へ突入する。それに、イタリア製5.56×45mm口径自動小銃・ベルティーニ CRx-150A4を手にした根川、イタリア製12番口径ポンプアクション式手動散弾銃・ペアーノ ステラタクティカルを手にした霞籘が続く。

 

 

 

 人気が無くなったラモーヌ波柄の5階通路を、道島は走る。

 銃声が鳴り、彼女の足元のタイルを抉る。だが、道島の足は止まらない。

「あのアマ、ちょこまかと!」

 スウェーデン製5.56×45mm口径自動小銃・ヨナソン Ak86Cを構える男・元陸軍兵士の鈴木 茂雄は、装着していたスウェーデン製筒型光学照準器・サイトポイント SP4のレンズに映し出された赤点を再び道島の背中に合わせ、引き金に右人差し指を重ねる。

 そして、引き金を引いた。

 

 放たれた5.56×45mm 62グレインフルメタルジャケット弾は、道島の左脇腹を抉った。そして、道島は倒れる。

「散々手間掛けさせやがって。ぶっ殺してやる!」

 鈴木はそう叫び、ヨナソン Ak86Cの銃口を道島の頭部に向ける。仰向けになった道島は、死を覚悟する。

 しかし、引き金が引かれても弾が出なかった。慌てた鈴木が小銃の右側面を見ると、ボルトは後退位置で止まっていた。つまり、弾切れを示していた。

 鈴木は舌打ちし、空になったポリマー製30連弾倉を捨て、左腰のマガジンポーチから新たな弾倉を取り出し、挿入口に嵌める。そして、左手で右側面の槓杆を少し引いてボルトストップを解除し、手を離す。バネの力でボルトが前進し、最初の1発が薬室へと送り込まれる。

 そして、再び銃口を道島へと向ける。

 

 銃声が響いた。

 

 

 

 鈴木の右肩から鮮血が舞い、彼は呻きながら床へと倒れた。手から離れたヨナソン Ak86Cが床へと落ちる。

 道島が見ると、鈴木の後方、通路の奥に誰かがいた。

 

 床に左膝をついて日本製5.56×45mm口径自動小銃・富正 FR-16を構えていた古河は、装着されていたアメリカ製4倍率固定ハイブリッドスコープ・クィントン EBS-02の下側接眼レンズから目を離し、硝煙が立ち上る銃口を上げる。

 そして、その左隣にいた新山とタルボットは拳銃を片手に走り、鈴木へと近寄る。床に転がったヨナソン Ak86Cを新山は蹴飛ばし、タルボットが鈴木を手錠で後ろ手に拘束する。

「ゆうな先生! 大丈夫っスか!?」

 ベルティーニ 90-4のスライドセーフティレバーを左手で下げてホルスターに仕舞う新山が道島へと駆け寄る。

「えぇ、大丈夫です……大丈夫ですよ、掠めただけですから」

 そう言いながら、道島は右手で自身の左脇腹を抑える。その白いシャツは、赤く染まっていた。

 

 

 

 3階廊下を捜索していた羽崎達の左耳に装着されたイヤホンに、古河の声が流れる。

《桜見305から各移動。道島先生を保護、マル被1名を逮捕しました。道島先生は左脇腹を被弾、現在止血中。意識はしっかりしてます》

 それを聞き、鈴川と愛江は胸を撫で下ろした。

「良かった、無事なんだな」

「ほんま、心臓に悪いわぁ」

 すると、羽崎がたしなめた。

「まだ終わってない。もう1人を探さないと」

 その言葉に、鈴端、棚里、竹沢、鈴川、愛江は気を引き締める。

 すると、イヤホンから少女の声が流れた。

《こちらコローレ311の月詠です! 各移動、マル被の1人を6階の展望テラスにて発見! 爆発物らしきものを持っています! 大至急向かってください!》

 それを聞き、羽崎は答えた。

「こちら桜見606、了解。3階南側から向かう!」

 そして、6人は走り出した。

「今のは誰なんですか!?」

 ベルギー製5.56×45mm口径自動小銃・SFエルスタル SF-2000を持つ棚里が質問すると、鈴端が答えた。

「私立アンコローレ学園 風紀委員会の月詠 結兎副委員長だよ! 確かに、この辺はアンコローレの管轄だけどね!」

 

 

 

 6階の展望テラスに、スイス製.300口径自動小銃・SAH SHRを手にした男・元陸軍兵士の西村 俊が立っていた。その左手には、リモコン起爆装置がついたプラスチック爆弾が握られている。

 そして、幾つもの足音に気付き、振り返った。

 そこには、様々な銃を手にした高校生達と警察官達が彼を取り囲んでいた。

「観念しな! もう逃げ場は無いぞ!」

 ライオットシールドを構える絵島が叫ぶ。

「それとも、この場で刑を執行しましょうか!?」

 アメリカ製5.56×45mm口径ブルパップ型自動小銃・フィールドテック SERを構える竹沢も叫ぶ。

 それを聞き、西村はSAH SHRを投げ捨てた。

「降参だ。逮捕しな」

 その言葉を聞き、何人かは西村へと近付こうとする。

 しかし、西村は左手のリモコン爆弾のスイッチを入れ、その左手を掲げて叫んだ。

「出来るもんならなぁ!」

 それを見て、その場にいた全員は硬直する。

 

 ただ2人、羽崎と棚里を除いて。

 

 

 

 銃声が響き、西村の左手から鮮血が飛び散る。そして、手から離れたリモコン爆弾は柵を飛び越え、羽田水道へと放物線を描く。

 

 

 

 爆発が起き、高校生達と警察官達はその場にしゃがむ。そして、自身の無事を確認すると、西村目掛けて飛びかかった。

 何人もの高校生達と警察官達に押し潰される西村の手に、手錠が掛けられた。

「確保ぉーっ!」

 根川が叫び、霞籘と共に西村の両腕を抑える。

 

 それを見て、羽崎と棚里はそれぞれの小銃の銃口を下げる。棚里は、深呼吸をする。

 

 

 

 2047年7月15日 午後3時16分、日本皇国 新江戸府 朱夢市 壇摩町2-1-6 新江戸府警察病院。

 

 1人用病室のベッドに、病衣を来た道島が横になっていた。

 すると、引き戸が開く。道島が見ると、そこには桜見高校の生徒達がいた。

「ゆうな先生! 大丈夫ですか!?」

 いち早く真岳が駆け寄るが、道島はニッコリと微笑んだ。

「大丈夫ですよ、香ちゃん。皆さんでお見舞いだなんて、嬉しいです」

 それを聞き、高校生達はほっと一息をつく。

「本当、心配しましたよ」

「わざと車をぶつけて、それでモール内で逃げ回るなんて、無茶しよるわぁ」

 鈴川と愛江の小言に、道島は舌をペロッと出した。

「ごめんなさいね、心配掛けて」

 それを聞き、腕を組んでいた古河が文句を垂れた。

「本当よ、あそこで私が狙撃してなければ、あの世に行ってましたよ、ゆうな先生」

「まぁいいじゃん、終わり良ければ結果良しなんだからさ」

 新山が呑気に言う中、その背後に立っていた倉田とタルボットはある人物の背中を押した。

 それは、新条だった。

 押し出された新条は、頬を赤らめながら咳払いする。

「ゆうな、今朝はごめん。キツイ事言っちゃって」

 そう言って、新条は頭を下げた。すると、道島の顔から笑みが消えた。

「本当ですよ。私達生活委員会にも情報を共有していれば、香ちゃんが危ない目に合う事はありませんでしたし、私だって怪我はしませんでしたよ」

 それを聞き、新条は苦い顔をした。しかし、道島の表情に笑顔が戻る。

「そうですね、今回は奢りで許しましょう。退院したら、一杯引っ掛けましょう?」

「ゆうな……えぇ、奢るわ!」

 

 

 

 その頃、屋上には羽崎達4人がいた。

「いいの? 道島先生にお見舞いしなくても?」

 竹沢が訊ねると、羽崎は左手を振った。

「今行っても大人数過ぎて迷惑だろ。ここでちょっと時間を潰すさ。それにしても」

 そう言って、羽崎は棚里を見る。

「良くあの時、撃てたな」

 話し掛けられた棚里は、首を振った。

「いえ、ただ、勝手に手が動いていただけですよ」

「あそこで俺とお前が撃ってなきゃ、あそこにいた全員がお陀仏だった。成長したじゃねぇか」

「あ、ありがとうございます……?」

 棚里が首を傾げる中、鈴端が口を開く。

「いいないいなぁ。僕、はさみんに一度も褒められた事無いのになぁ」

「おめぇだって充分やってるだろ」

 羽崎がそう言うが、鈴端は首を振る。

「いいや、言葉が足りない。ちゃんと褒めないと社員がグレちゃうぞ?」

「勝手にしろ」

「ねぇ、やっぱはさみん、僕に冷たくない?」

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