銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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USJ襲撃事件②

 

 広場に降り立った犬飼は、ハウンドとアステロイドを切り替えながら、銃撃で敵を次々と気絶させていく。

 

 敵の戦闘経験の浅さが戦っていてわかる。個性を過信した戦い方は、路地裏にいる只のチンピラとしか思えないほどだ。

 

 ただ、一体の敵を除いて。

 

 (なんだアイツ……トリオンの弾丸をあれだけ受けて痛みを感じる様子すらない。

  痛覚がない? いやそれだけじゃない、衝撃も受け流してる?)

 

 敵のリーダーだと思われる、人間の手を全身に張り付けた青年。彼を弾丸から守るように立つ脳を剥き出しにした怪物は、犬飼のトリオンキューブから放たれる弾丸をほぼその身で防いでいる。にも関わらず衝撃や痛みで気絶する様子はない。

 

 一番厄介な敵は早々に倒したかったが、そうもいかないらしい。

 犬飼は2人を倒すのは難しいと判断し、倒すのではなくこの場所に拘束することを選択した。

 

 キューブ生成の間は射撃で牽制し、その場に2名を縫い付ける。

 

「なんなんだよアイツ! 本当に学生かよ!?

 死柄木さん、何とかしてくれよ! あれじゃ近づけねぇ!」

「へぇ死柄木って言うんだ、きみたちのリーダー」

 

 ようやく判明した敵の名前。偽名の可能性もあるが、一応覚えておいた方がいいだろう。

 「ヤベッ」という顔をした敵の隙をついて仕留める。

 

 (しがらき……? 信楽? 設楽? いや当て字か? 死?)

 

 個性社会のこの世界では、名前と個性が強く結びついていることが多い。

 犬飼の父方は犬系の個性だし、クラスメイトの大半が個性と名前がほぼ直結している。自身を含め例外はあるが、80%くらいの確率で大体の個性を判別することができる。

 

 そうして考えを巡らせながらも、敵達を一掃していく。

 

 ほぼ一撃で無力化されていく敵達。

 

 先に痺れを切らしたのは、死柄木だった。

 

「脳無……あのガキを殺れ」

 

 犬飼の耳がその言葉を聞き終わるより早く、目の前に突如現れた脳無と呼ばれる化け物によってトリオン体ごと吹っ飛ばされた。

 個性による直接攻撃でなかった為か怪我こそないが、攻撃を見切れなかったことに犬飼の中で僅かな焦りが生まれる。

 

 (やばい全然見えなかった……!)

 

 瓦礫の中で耳を押さえうずくまっていると、近づいてきた脳無が犬飼の体を持ち上げた。犬飼がゼロ距離で銃撃を放つが脳無の体は全く揺らぐことはなかった。

 

「その程度の攻撃脳無には効かないぜ! 

 なんせそいつは”ショック吸収”を持つサンドバック人間だからな! 

 ダメージを与えたいなら……そうだなぁ、ゆうっくりと肉をえぐり取るとかが効果的だね……それをさせてくれるかは別として」

 

 ショック吸収。なるほどトリオンの弾丸で気絶しなかった理由はそれか。

 個性かどうかはわからないが痛覚もなく、身体能力が著しく強化されている、まさしく改造人間というわけだ。

 

 犬飼の頸を掴む脳無の力が強まる。苦し気な息が漏れた。

 

 

「さぁ脳無! 生徒を殺せ!!」

 

 

 

 

 

 犬飼によって強制的に空中に打ち上げられた相澤は、生徒達の前に立ちはだかる敵の姿を捉えた。

 

「ダメだ、どきなさい二人とも!」

 

 敵の個性発動を感知した13号が、爆豪と切島に叫んだ。

 だが13号の心配は懸念に終わる。

 

「個性が発動しない……これはっ!?」

 

 動揺した敵が気づいたときにはもう、遅い。

 空から降ってきた相澤が、敵に容赦なく蹴りを叩きこんだ。同時に捕縛布でその体を拘束する。

 

「相澤先生!!!」

「イレイザーヘッド!? 広場の敵は!?」

 

 派手な登場をした相澤に、生徒達が安堵の声を上げる。13号も早すぎる相澤の帰還に驚き、疑問がそのまま口に出た。

 敵を拘束する相澤の力が強まり、敵が苦しげな声を上げる。

 

「広場の敵はいま犬飼が相手をしている」

「犬飼くんが!? ……ほんとだいない!」

「いつの間に…!」

 

 最後尾にいたはずの犬飼の姿が消えていた。生徒達が耳を澄ますと、広場の方から戦闘音が聞こえ、犬飼が戦っているのが分かった。

 

「13号、俺がコイツを押さえている間に生徒達を連れて早く避難しろ。

 他の施設の敵が集まってくる可能性もある。

 何時までも犬飼を一人戦わせるわけにはいかん」

「わかりました! 皆さん、急いでください!」

 

 13号が出口を指して指示を出すが、生徒達はその場を動こうとしなかった。

 

「犬飼を、一人残していくんですか……?」

 

 尾白が縋る様な眼差しで相澤を見る。いや、尾白だけではなくほとんどの生徒が犬飼だけを残して避難することに躊躇いを覚えているようだった。

 13号が言葉に詰まる。

 

 相澤は視線を敵に固定したまま、厳しい声音で生徒に告げた。

 

「お前らがここに突っ立ている分だけ犬飼が一人で戦うことになる。

 あいつのためにお前らが今できることは、心配することじゃない。ここから早く避難することだ。

 さっさと行け」

「……なぁお前、オールマイトを殺せる策ってなんだ?」

 

 話を聞いていなかったのか、轟がいつも通りの表情で相澤に拘束された敵の眼前に立つ。

 敵は答えない。

 

「轟」

「これだけ無茶な計画を実行できるってことは、オールマイトを確実に殺せる手段があるってことだろ? 

 強い個性を集めて数で圧倒するのかと思ったが、パッと見ただけでもほとんどがただのチンピラ。とてもじゃねぇがNO.1ヒーローを殺せるとは思えねぇ。お前ら何を企んでる?」

 

 相澤の強い制止を振り切り、轟が敵を問い詰める。

 だが、それは相澤も疑問に思っていたことだった。広場にいた敵は正面戦闘が得意ではない相澤でも相手ができるほど戦い慣れていなかった。個性を消されただけで狼狽えるほどだ。オールマイトなら10秒もかからず全員を戦闘不能にできるだろう。

 

 敵は笑った。ゆらゆらと全身を揺らし、溢れる笑みを堪え切れないというように。

 

「なにがおかしい……」

「これは失礼。そう策ですよね、策。ありますよ勿論。

 平和の象徴を殺す為だけに作られた改人”脳無”」

「のうむ?」

「作られた……!?」

 

 処理しきれない情報を、生徒達がオウムのように繰り返す。

 

「ただのヒーロー志望の生徒には、いささか荷が重すぎるように思えますが……せめて、死体が残っているといいですね」

 

 真摯な口調を装いながら、その言葉の節々に悪意が溢れていた。

 

「犬飼はお前ら如きに負けるような男ではない……!!」

 

 耐え切れない、というように障子が叫ぶ。

 敵の口を塞ごうとした相澤だったが、障子の耳につけられた見慣れぬ機械を見て僅かな違和感を覚える。いや、障子だけではなく轟や八百万、尾白も同じような機械を付けていた。

 

 急に話し出した生徒達に違和感を覚えた相澤に対し、敵は動揺する生徒達を楽しそうに眺め全く気付く様子がない。

 

「脳無は複数の個性を掛け合せて作られた改造人間です。

 ”ショック吸収”、”痛覚無効”、”超再生”、そしてオールマイトに匹敵するパワー。……いくら優秀な金の卵とはいえ、所詮卵」

 

 敵の言葉を肯定するように、何かが叩きつけられるような音が広場の方から聞こえてきた。生徒達に動揺が広がる。

 相澤達が何かを言うより早く、耳元に手を当てた障子が言った。

 

「……だそうだ。犬飼、敵の個性聞こえていたか?」

『なんとか。でも助かったよ障子』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、脳無が黒い柱に貫かれ地面に崩れ落ちた。

 

 

「…………は?」

 

 

 想像とは違う光景に、死柄木から気の抜けた声が漏れる。

 脳無が倒れる寸前、その腕を容赦なくスコーピオンで斬り落とした犬飼は危なげなく地面に着地した。手を振って、人の肉を断つ感触を振り払う。

 

「知性がない生き物は考え無しで助かる……あ、脳無のことだよ?」

 

 死柄木を煽りながら、犬飼は追加で何発か鉛弾を脳無に打ち込んだ。起き上がろうとしていた脳無がまた地面に沈む。

 再生した腕で錘を外そうとしていたので、各手足に数発ずつ撃ちこんでおく。

 

 (超再生があるなら鉛弾引っこ抜かれそうだし、手足は封じておいた方がいいよね)

 

 脳無が完全に動けなくなったのを確認して、障子に連絡を送る。

 

「脳無は動きを止めておいたよ。外部との連絡は?」

『八百万が作った通信機を葉隠に持たせて先に外へ向かわせた。……いま花火が上がったな。外部と連絡がついたようだ』

 

 建物のガラス越しに、閃光弾のようなものが打ち上げられたのが犬飼にも見えた。

 

「了解。じゃあ後は敵のリーダーだけだね。引き続きワープの拘束よろしくね」

『相澤先生に伝えておく』

 

 通信が切れる。

 

「さて、と……」

 

 鉛弾専用のハンドガンを左足につけたレッグホルスターにしまい、愛用の突撃銃を構えた。

 死柄木は脳無が倒されたことが信じられないのか、動揺で首を掻きむしっている。

 

「こんなガキに脳無がやられるなんて……。黒霧は何をしてるんだ、役立たずめッ!」

 

 死柄木の動揺が酷くなる。

 

「さっきの光、確実に逃げられてるだろ……。はぁ、救援を呼ばれたら敵わない……ゲームオーバーだ。あーあ…今回はゲームオーバーだ」

 

 (黒霧? あのワープ系の個性の人の名前かな?)

 

 ガリガリと音が聞こえてきそうなほど首を掻いていた死柄木の手が止まる。

 

「帰ろっか」

 

 (この状況で帰る? どうやっ……!!)

 

 死柄木が犬飼に向かって近くにいた敵を投げつける。

 流石に意識のない人間を撃ち落とすのは躊躇われて、犬飼はその場から飛びのくようにして避けた。

 

「脳無、さっさと立て」

 

 ブチリと何かが切れるような音がした。

 振り返ると、脳無が鉛弾が撃ち込まれていない自身の腕の一部を食いちぎって切断していた。既に片腕が再生している。

 

 (いやいやまじか……!!)

 

 流石の犬飼も、目の前で行われる猟奇的な光景に吐き気を覚えずにはいられなかった。

 自由になった片腕で、脳無は自身の体に生えた鉛弾を引っこ抜いては犬飼に投げつけてくる。銃撃で応酬するが全く効いていない。

 

 鉛弾を再度撃ち込みたいところだが、流石に距離がありすぎる。自分の技量では無駄にトリオンを消費するだけだろう。

 

 全身の再生を終えた脳無が犬飼へ向かって突っ込んでくる。

 

 反射で避けるが、態勢を立て直し再度突っ込んできた脳無に左腕を掴まれる。そのまま何度も地面に叩きつけられ、痛みがないが身動きができない。

 

「……これだけやって傷一つないなんて、凄い個性だね」

 

 近づいてきた死柄木が、しげしげと犬飼を見つめる。

 そして、脳無が掴んでいない右腕にそっと触れた。

 

「…………!」

 

 死柄木が触れた場所から、トリオン体が崩壊していく。

 

 (触れたものを『崩壊』させる個性……!)

 

「あ! やっぱり対象に直接作用する個性は効くんだね。脳無は自己改造だからなぁ、なるほど。それにしても普通の体じゃないよね? 血じゃ無くて煙が出てるし……面白い個性だから先生にもっていくか」

「先生……?」

「あれ? もしかして君も痛覚ない感じ? へぇ…………欲しいな」

 

 片腕を崩壊させられても顔色が変わらないどころか普通に話す犬飼を見て、死柄木が目の色を変える。

 

 死柄木が犬飼から手を離したときには、既に右腕の肘から下がなかった。

 

 今世でここまで怪我を負ったのは初めてかもしれない。

 

「う~ん、左腕もあるとまた撃たれそうだし粉々にしとくか」

 

 そう言って死柄木の手が脳無に掴まれた左腕に伸びた時だった。

 

 USJの扉が轟音と共に吹き飛ばされる。

 

 USJにいた全員が入り口を見た。それは脳無や死柄木も例外ではない。

 

 土埃の中から現れたのは平和の象徴 オールマイト。

 階段上の生徒達からあがった安堵の歓声に、犬飼は少しだけ胸を撫で下ろした。

 

 

「もう大丈夫! 私が来た!!」

 

 

 死柄木は真っ直ぐにオールマイトを見つめ、呟いた。

 

「あー……コンティニューだ」

 

 

 

 

 

 

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