銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
オールマイトの姿が見えたと思った時には、犬飼を拘束していた脳無が吹っ飛ばされた。死柄木が脳無の巻き添えを食らって地面に叩きつけられる。
「犬飼少年! 腕が……っ、すまない!!」
「この体の傷は生身に影響しないので大丈夫です」
「! よかった! 敵は私に任せて君は相澤くんたちと合流しなさい、いいね」
片腕がない犬飼の姿を見て顔を真っ青にしたオールマイトに犬飼は慌てて弁解する。犬飼の個性を知っていたオールマイトは、そういう特性もあるのかと少しだけ安心したように声を和らげ、犬飼に避難するよう指示を出した。それに頷き、立ち上がる。
「全身に手を張り付けた奴は触れたモノを崩壊させる個性、脳が剥き出しの方は、怪我の高速再生に物理衝撃の吸収・痛覚無効・あなた並みのパワーを持っています」
少しでも役立てばと敵の個性を伝えると、オールマイトはひどく驚いた様子で犬飼を見た。その反応で、先程の自身の言動が敵に殺されかけた子供にしては冷静過ぎたことに気づく。
オールマイトは戦い慣れし過ぎている犬飼の様子に疑念を抱いたようだったが、今やるべきことを履き違えるような真似はしなかった。
「そうか、ありがとう! だが君は早く避難しなさい。いいね?」
「はい」
犬飼はバッグワームを起動して破壊された腕が少しでも見えないようにする。
「ああああ…だめだ…ごめんなさい…! お父さん……」
謝りながら死柄木が拾い上げたのは、オールマイトに吹っ飛ばされた際に地面に落ちた手をかたどったオブジェの一つだった。それを自身の顔を覆うようにして付けると、安心したように息を吐く。
「救けられるついでに殴られた…ははは、国家公認の暴力だ。さすがに速いや。眼で追えない。けれど思った程じゃない。やはり本当だったのかな…? 弱ってるって話…………」
死柄木の言葉に、保健室で聞いてしまった話が脳裏に蘇った。踏み出そうとしていた足が止まる。
それに気づいたオールマイトは、今日初めての笑みを浮かべ、「大丈夫!」と力強く断言した。
その笑みが、犬飼には恐怖や重圧を誤魔化しているようにしか見えなかった。…………アイツがそうだったように。
オールマイトが脳無に肉薄する。
犬飼は僅かな感傷を振り払って、避難するため駆け出した。
それに気づいた死柄木が脳無に命令する。
「脳無、オールマイトを殺れ。俺はあの子どもを捕まえる」
死柄木の言葉にオールマイトの雰囲気が変わる。
「捕まえてどうするつもりだ?」
「ん? 良い個性は奪いたくなる、当然だろう?」
先ほど言っていた「先生に持っていく」という言葉と併せて考えるとどうやら敵サイドに個性を強奪できる持ち主がいるらしい。捕まった自分の未来を想像してしまった犬飼は、珍しく冷や汗を流して走ることに全力を注いだ。
衝撃波を纏った打撃の応酬が始まる。
凄まじい暴風に押され、犬飼は階段を駆け上がった。
「”無効”ではなく”吸収”ならば!! 限度があるんじゃないか!? 私対策!? 私の100%を耐えるなら!! さらに上からねじふせよう! ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの! 敵よ! こんな言葉を知っているか!!?」
打撃のラッシュで土埃が舞う。
広場にいる皆が、その戦いを注視していた。
オールマイトが叫ぶ。
「Plus Ultra!!」
真正面からオールマイトの拳を受けた脳無は、衝撃を吸収しきれず、USJの天井を突き破ってどこかへ飛んでいった。
「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だっただろうに、300発以上も撃ってしまった。さてと敵。お互い早めに決着をつけたいね」
「チートが…!」
一気に形勢を逆転された死柄木が、忌々しそうにオールマイトを睨みつける。
流石に犬飼の位置から2人の会話は聞こえなかったが、死柄木の表情からどういう会話をしているのかはある程度想像がついた。
「衰えた? 嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を…チートがぁ…! 全然弱ってないじゃないか!! あいつ…俺に嘘教えたのか!?」
「…………どうした? 来ないのかな!? クリアとかなんとか言ってたが、出来るものならしてみろよ!!」
オールマイトの眼光に気圧された死柄木が唸るような声を上げた。
「脳無さえいれば!! 奴なら!! 何も感じず立ち向かえるのに…………! そもそも黒霧は何をやっているんだ!! クソがっ、どいつもこいつも!!」
脳無は倒され計画は失敗、黒霧がヒーローによって拘束されてしまったため逃走もできない。
もうすぐ雄英側の増援が到着することを踏まえても、死柄木達は完全に逃げ場を失っていた。
蹲る死柄木を捕まえようとオールマイトが一歩踏み出した時だった。
「残念だがオールマイト。死柄木弔は僕の大事な生徒でね。ここで捕まえられては困るんだ」
強烈な臭気を放つ液体の中から、死柄木を守るようにその男が現れたのは。
黒いスーツに身を包み、金属製のマスクで顔を隠した男は、穏やかな口調を裏切る重苦しい威圧感を放ち周囲を圧倒した。
「な、何なんだよアイツ……」
オールマイトの勝利に歓声を上げていた峰田が、恐怖で顔を引き攣らせ後ずさる。
「ゴボッ……!」
黒霧の口から黒い液体が飛び出し、その体を包む。反射的に飛びのいた相澤は、生徒達を守るように黒霧に相対し自身の個性を発動させた。
だが液体の流動は止まらない。
13号がブラックホールで吸い込もうとするが、一歩遅かった。
液体が黒霧を包み、パッとその場から消える。
相澤達は慌てて広場を振り返った。
「オール・フォー・ワン……!?」
オールマイトが驚愕の眼差しで敵を見た。
オール・フォー・ワンと呼ばれた男は、オールマイトとは対照的に十年来の友にあったかのように感激を滲ませた口調で再会を喜んでいた。
「久しぶりだね、オールマイト。5年ぶりかな? お互い生徒を持つようになるなんて運命的なものを感じるね」
「ふざけた事を!!」
「まぁ再会を喜ぶのはまたにしよう。僕は迎えに来ただけで戦うつもりは無い」
その言葉と同時に、臭気を放つ液体が宙に出現し、中から相澤に拘束されていたはずの黒霧が飛び出してきた。
「申し訳ありません、オール・フォー・ワン……」
「言い訳は後で聞くよ」
「はい……」
意気消沈している黒霧から靄が広がり、3人を包む。
「待て!!」
敵に向かって駆けだしたオールマイトの足元に一発の銃弾が撃ち込まれる。
「犬飼……!?」
「お前何してんだ!!」
オールマイトに向かって発砲した犬飼を見て、上鳴達が非難の声を上げた。
「オールマイトの邪魔してんじゃねぇよ!!」
その声にハッとしたのは、撃たれたオールマイトだった。
今のオールマイトは只のヒーローではない。教師なのだ。因縁のある敵を前に、自身の後ろに立つ生徒達の存在を忘れていたことに今更気づきドッと冷や汗が出る。
もし激情のまま敵に突っ込み戦いとなれば、あのオール・フォー・ワンの事だ。生徒の命を盾にするなど当たり前にやってのけるだろう。
それに加え、自身から立ち昇る白い煙。活動限界が迫っている。ただでさえ限界ギリギリまで個性を使っていたのに加え、先程の脳無との戦闘。あと数発拳を振るえばマッスルフォームすら維持できなくなる。
先程の犬飼少年の射撃は利き腕を無くしたことによる誤射だろうが……助かった。
冷静さを取り戻したオールマイトは、虚勢がバレないよう厳しい顔つきで敵を睨む。
事前に活動限界について聞かされていた相澤も、オールマイトが生徒の安全を優先した理由を悟り、抹消の個性を取りやめる。
「また会おう、オールマイト」
3人の姿が靄の向こうへ消える。
押しつぶすような威圧感が消え、生徒達は放心したようにその場に座り込んだ。
オール・フォー・ワンがその場にいたのは、僅か1分。
だが、生徒の心に恐怖を植え付けるには十分すぎる時間だった。