銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
宣戦布告
雄英高校ヒーロー科が敵に襲われたというニュースは、オールマイトの雄英就任以上の衝撃を世間に与えた。
襲撃から2日が経ち、臨時休校明けで登校した生徒達も、自分たちが世間の話題の渦中にいるという事実に浮足立っていた。
「ねーねー! 昨日のニュース見た!? クラスのみんなが一瞬映ったでしょ? なんか私全然目立ってなかったね……」
「確かにな」
葉隠の自虐的な言葉にあっさり同意した障子をぎょっとした顔で見つめた尾白が、慌ててフォローを入れる。
「あの格好じゃ目立ちようがないもんね」
『透明化』の個性を持つ葉隠がカメラに映されたとしても、見えるのは宙に浮く服や手袋だけだ。目立ちようがない。
「しっかし、どのチャンネルも結構でっかく扱ってたよなー」
「びっくりしたぜ」
「無理ないよ、プロヒーローを輩出するヒーロー科が襲われたんだから」
顔を見合わせる上鳴と切島に、耳郎がズバッと切り込む。
「あの時オールマイトが来なかったらどうなってたことか……」
「やめろよ瀬呂! 考えただけでもチビッちまうだろ!」
「うっせぇぞォ!! 黙れカス!」
爆豪に怒鳴られた峰田が号泣する。
敵の強さもさることながら、それを倒したオールマイトに生徒達の話題が移った。
「けど流石オールマイトだよな! あのクソ強い敵を撃退したんだから!」
「ああ、驚愕に値する強さだ」
「おれも褒めてよー」
犬飼が砂藤と常闇に茶々を入れる。
盛り上がっている間にホームルームまで1分を切った。
見かねた飯田が、壇上に立つ。
「皆ーー! 朝のHRが始まる! 私語を謹んで席に着けー!」
「ついてるよ、ついてねーのおめーだけだ」
クラスメイトの冷静な指摘に飯田が慌てて席に座る。
自責の念にかられる飯田に、犬飼は「ドンマイ」と軽い励ましの言葉を掛けた。
教室のドアが開く。
「おはよう」
合理主義の体現者ともいえる担任が、HRの時間ぴったりに教室に入ってくる。
「教室の外まで声が聞こえたぞ。お前ら、気を抜きすぎだ。……戦いはまだ終わってない」
朝から不穏な相澤の言葉に、皆が身構える。
「雄英体育祭が迫ってる」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
想像とは違う戦いに、皆が安堵から叫んだ。
「待って待って! 敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より、雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねえ」
「いやそこは中止しよう? 体育の祭りだよ……」
峰田が珍しく正論を言った。だが、体育祭を開催したいという学校側の意見もわかる。
雄英体育祭は、公的に個性の使用が認められている。オリンピックを始めとしたスポーツの大会が個性の発現により小規模化したことにより、日本でスポーツの祭典と言えば大半の人間が『雄英体育祭』を挙げるだろう。
地上波で中継されることも相まって世間の注目度はかなり高い。
当然、全国のプロヒーローもスカウト目的で観戦している。
「資格取得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」
上鳴の言葉に相澤が微かに頷く。
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ」
相澤は生徒達に目を合わせた。
「年に1回…計3回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな!」
「「「はい!」」」
「HRは以上だ」
4限のセメントスの現代文を終えた、昼休み。
生徒達の話題は体育祭一色だった。いつもは冷静な障子も僅かに浮足立っており、友人の年相応の姿に犬飼の頬も緩む。
「いいよなぁ障子は……そのガタイだけで目立つもんな~」
「自分の有用性を知ってもらわねば意味がない」
羨ましがる上鳴の言葉に、グッと拳を握りこんだ障子が意気込む。
「犬飼もスーツなら目立つんじゃない?」
耳郎が笑みを含んだ顔で犬飼を揶揄う。
「いやいや、流石におれも体操服着るよ? 流石にあの大舞台で一人スーツを着る勇気はおれにはない……!」
「てかなんでスーツなの?」
「戦闘服だからじゃないの?」
上鳴の疑問に、聞き耳を立てていた尾白が答えた。そういえば戦闘訓練の時、同じ質問をされテキトーにそんな感じの答えを返した気がする。
「そうなんですか?」
話を聞いていた八百万がきょとんとした顔で犬飼を見た。
「違うよー」
「違うのかよ!?」
思わず上鳴がツッコむ。
「おれの尊敬する人が戦闘服はスーツにするっていうからさー」
「犬飼にもそういう純情なとこあるんだ……意外」
麗日といい、何故このクラスの女子は思ったことをそのまま口に出すのだろう。めっちゃ心に刺さった。
泣き真似をしていると、珍しく声を張り上げた麗日の声が聞こえた。
「皆!! 私!! 頑張る!」
「「「お、おー!!」」」
拳を突き上げ、体育祭への意気込みを叫ぶ麗日に、緑谷が動揺しながらも同意の声を上げた。
くるりと90度回転した麗日が、砂藤達に向けて叫ぶ。
「私!! 頑張る!!」
迫力に押されたのか、珍しく常闇まで麗日につられて拳を突き上げている。面白かったので、とりあえず一連の流れを動画に収める。いつかクラス会とかで流してやろう。
「……犬飼」
愉しそうに動画を撮る犬飼を、周囲は呆れた顔で見ていた。
放課後、1年A組の教室前には大勢の生徒が集まっていた。
「うおおお…何ごとだあ!!!?」
ドアを開けた瞬間、たくさんの生徒に囲まれた麗日が動揺から声を荒げる。
「君達! A組に何か用が……」
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ!」
「敵情視察だろ、ザコ」
爆豪にザコ呼ばわりされて傷ついた峰田を、緑谷が「かっちゃんはあれがニュートラルなの」と慰めと言うより諦めて慣れろ、というかんじで励ましていた。
「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてぇんだろ。意味ねェからどけ、モブ共」
「知らない人の事、とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
早々にケンカを売る爆豪を、飯田達が慌てて止める。まぁそれで止まる様な爆豪ではないが。
「噂のA組……どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍するやつは皆こんななのかい?」
「ああ!?」
そう言って人込みの中から現れたのは、紫の髪に深い隈を拵えた男子生徒だった。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったってやつ結構いるんだ。知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」
その言葉に、犬飼はなるほどなと思った。入試の対ロボット戦では、相澤のような対人戦闘向けの個性はほぼ効果を発揮しない。だが、何千人という受験生を相手に対人戦闘試験を行うわけにもいかず、その救済措置として編入という制度を学校が用意しているのだろう。
「敵情視察? 少なくとも普通科は、調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」
爆豪に負けず劣らず、この男子生徒も大胆不敵である。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!」
新手が来た。
「敵と戦ったっつぅから話聞こうと思ってたんだがよぅ!! エラく調子づいちゃってんな、オイ!!! 本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
「…………」
非難の目が爆豪に集中する。
人混みを蹴散らし無言で帰ろうとする爆豪に、事態をこのまま放置する気かと慌てた切島がその背中を呼び止める。
「待てコラ、どうしてくれんだ! おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」
「関係ねぇよ……」
「はあーーー!?」
「上に上がりゃ、関係ねぇ」
静かにそう告げた爆豪に、犬飼ですら驚いた。今までの爆豪だったらあり得ない台詞。仮に告げたとしても嘲笑を浮かべ、周囲を見下していたはずだ。
強い意志が込められた言葉に、単純な男たちの一部が感化される。
それを苦笑いで見ていた犬飼だったが、人混みの中、自分たちに向けられるカメラに気づいて僅かに眉を寄せた。
目ざとくそれに気づいた障子が、犬飼を隠すように立つ。犬飼が敵に狙われていることは、襲撃事件の日に生徒達に告げられていた。特に普段一緒にいることが多い障子と尾白、真面目な委員長コンビはかなり心配してくれていたので今回も気を使ってくれたのだろう。
「ありがとう、障子」
「気にするな……マナーがなっていないな」
「ほんとにね」
事態に気づいた教師が駆け付けるまで、爆豪や轟以外の生徒は帰ることができなかった。
一騒動あったものの、参加種目の決定、それに伴う個々人の準備で体育祭までの2週間はあっという間に過ぎ去った。