銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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第一種目

 

 体育祭—————本番当日。

 

 「群がれマスメディア! 今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!??」

 

 晴れ渡る青空に、プレゼント・マイクの声が高らかに響き渡る。

 

 毎年メインとなるのは3年ステージだが、今年はUSJ襲撃事件により1年ステージに高い注目が集まっていた。

 そんな注目の的である1年A組の生徒達は、登校して体操服に着替えると、1年ステージ用に用意されたホール内にある控室で開会式を待っていた。

 

 飯田が入場を告げるのを聞きながら、障子達と談笑していると轟が立ち上がり緑谷に近づいた。

 

 「緑谷」

 「轟くん……何?」

 

 緊張をほぐすために深呼吸していた緑谷が、呼ばれた理由が分からず困惑した表情で尋ねる。

 犬飼は2人の接点がわからず、とりあえず静観を決め込んだ。

 

 「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

 「へ!? うっうん…」

 「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな」

 

 バレてる。いや、完全にバレてるわけではなさそうだが何かしら接点があると疑われているようだった。

 

 「別にそこ詮索するつもりはねぇが……おまえには勝つぞ」

 

 轟は動揺する緑谷に構わず、真っすぐ勝利を宣言した。授業において、犬飼達と戦った戦闘訓練以外で負けたことが無いクラスでもトップクラスの実力を持つ轟。対して緑谷は個性の制御ができず、未だ目立った成績を残していない。珍しい組み合わせにクラスの注目が集まる。

 

 「急にケンカ腰でどうした!? 直前にやめろって…」

 

 仲裁しようとした切島の腕を、轟が振り払う。

 

 「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だって良いだろ。それに犬飼、尾白、お前らもだ。……次は俺が勝つ」

 「俺!??」

 

 矛先が向くとは思っていなかった尾白が、驚きから叫ぶ。

 犬飼は睨むように自分を見る轟に、いつも通りの笑みを浮かべて答えた。

 

 「俺も負ける気はないよ。お互い頑張ろうね」

 「……ワオ、パーフェクトコミュニケーション」

 

 いつも通り過ぎる犬飼に、上鳴が片言の英語で褒める。尾白は葉隠に「それが普通の反応だよ」と慰められ、逆に落ち込んでいた。

 

 黙っていた緑谷が、ぎゅっと服を握りしめ呟くように言った。

 

 「……轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…はわかんないけど…。そりゃ君の方が上だよ…実力なんて大半の人に敵わないと思う…。客観的に見ても…」

 「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねぇ方が…」

 「でも……!! 皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ」

 

 俯いていた顔を上げた緑谷が、覚悟を決めた顔で告げる。

 

 「僕も本気で獲りに行く!」

 

 

 

 

 

 

 『1年ステージ! 生徒の入場だ!!』

 

 入場のアナウンスが鳴る。

 

 『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』

 

 会場の視線が一点に向けられる。

 

 『ヒーロー科!! 1年A組だろぉぉ!!?』

 

 歓声が轟く。

 

 「わぁぁぁ…人がすんごい……」

 「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか…! これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」

 

 衆目の視線に緑谷が緊張で震えていると、飯田が体育祭の真意が何か真面目に考察していた。

 

 「めっちゃ持ち上げられてんな…。なんか緊張すんな…! なァ爆豪!」

 「しねえよ、ただただアガるわ」

 

 プレゼント・マイクのアナウンスに居た堪れなくなった切島がソワソワする。

 

 『B組に続いて普通科C・D・E組……!! サポート科F・G・H組もきたぞー! そして経営科I・J・K!!』

 

 「ねぇ、流石にA組の贔屓が過ぎない? 他クラスからヘイトが来そうなんだけど……」

 「もうしっかり恨まれてるみたいだよ」

 

 A組贔屓が過ぎるアナウンスに尾白が懸念を口にするが、もう遅い。犬飼が指さす方を見た尾白は、普通科達の睨みつけるような視線に顔を青くした。それに気づいた他のクラスメイトも同じように顔色を悪くして、事の発端であるプレゼント・マイクへの恨みを口にした。

 

 「マジで許さん」

 「デリカシーがないよね!」

 「体育祭おわったらみんなで突撃しよう!」

 「これは焼肉でも奢ってもらわねぇと割に合わねぇよな!!」

 「「「それだ!!!」」」

 

 ゲートから入場した生徒達が、スタジアムの中央に集合する。

 

 「選手宣誓!!」

 

 鞭を振るいながら体育祭の進行を担当するのは、過激すぎるコスチュームで国会すら動かしたといわれるミッドナイトだ。会場の男だけでなく、生徒達の視線が彼女に集中する。

 

 「18禁なのに高校にいてもいいものか」

 「いい」

 「即答じゃん」

 

 常闇の至極当然の疑問に、峰田が食い気味で答える。

 過激な衣装にザワつく生徒達を、ミッドナイトが一喝した。

 

 「選手代表!! 1-A、犬飼澄晴!!」

 

 名前を呼ばれた犬飼は返事をして、ミッドナイトの立つ号令台に上がる。

 

 「え? 選手代表って犬飼なの?」

 「ってことは……入試1位通過ってあいつ!?」

 「ヒーロー科の入試な」

 

 A組の会話を聞いていた普通科の生徒が、ため息とともに訂正を口にした。

 既に喧嘩腰である。

 

 壇上に登った犬飼はチラリと、背後に整列する生徒を見た。敵意を隠そうともしない他の科の生徒に、A組の生徒達はどこか居心地が悪そうだった。

 

 先日の爆豪の発言はともかく、USJの襲撃や体育祭でA組に注目が集まるのも何一つ犬飼達のせいではない。

 襲撃に遭ったクラスを大勢で取り囲み、写真や動画を取るその短絡的な行動。ヒーロー以前に、人としてのモラルが欠けている。雄英に侵入したマスコミと一体何が違うというのか。

 

 犬飼は真っ直ぐに観客を見据え、右手を伸ばす。

 

 「宣誓。私たち選手一同はあらゆる困難や悪意に屈することなく、正々堂々勝負することを誓います」

 

 ミッドナイトが犬飼の宣誓の意図に気づき、苦笑する。

 犬飼が言った『悪意』が敵だけではなく、他クラスから向けられた感情も示唆していることに気づいたのだろう。

 

 意図を正しく読み取った一部の生徒が、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 最後に名前を言って宣誓を締めくくると、犬飼はさっさと壇上を下りクラスの列へ戻った。犬飼の皮肉に気づかなかった芦戸や葉隠が、満面の笑みを浮かべて「いい宣誓だったよ!」と叫ぶ。

 

 犬飼が列に戻ったのを確認したミッドナイトが、競技説明に移った。

 

 「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう。いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!! さて運命の第一種目!! 今年は……コレ」

 

 空中に浮かんだ仮想ディスプレイに表示された第一種目は”障害物競走”。

 

 「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4㎞! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さあさあ位置につきまくりなさい…!」

 

 ミッドナイトの指示に従って、皆がゲート前に集合する。

 犬飼は人混みを縫うように進み、スタートラインの最前列に立った。ゲート上に付けられた3つのランプがカウントのように音を立てて消えていく。

 

 「スターーーーート!!」

 

 生徒達が一斉に駆けだした。

 

 

 

 

 

 『さーて実況していくぜ! 解説アーユーレディ!? イレイザー!!』

 『無理矢理呼んだんだろうが』

 

 どうやら実況つきのようだ。不機嫌さを隠さない担任の姿がありありと想像できて、犬飼は思わず吹き出した。

  

 『早速だがイレイザーヘッド! 序盤の見どころは!?』

 『今だよ』

 

 轟の氷結がゲートごと生徒を凍らせる。

 だが、それを予見していた1年A組のクラスメイト達は全員が轟の攻撃を躱していた。犬飼もトリオン体の身体能力を活かして高く跳びあがり回避する。

 

 『さぁいきなり障害物だ!! まずは手始め…第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

 生徒達の眼前に立ちふさがったのは、入試の時の0P敵だった。しかも一体ではなく、道を塞ぐように大量に配置されている。

 轟が立ち止まり、後続の生徒達も巨大な敵に足を止めた。その横を犬飼はトップスピードのまま駆け抜ける。

 

 「ターゲット確認……!」

 

 犬飼はグラスホッパーを展開し、ロボットの頭上を軽々と飛び越えた。そのままロボットの前で立ちすくむ生徒達を置き去りにして、先を進む。

 

 『流石だな、判断が速い』

 『1-A 犬飼! ロボに動揺することなく一気に駆け抜けた!! 流石入試1位だぜ!!』

 

 第一関門を抜けると、目の前に広がるのは巨大な窪地。その中に足場のような岩が立ち並びロープで繋がれていた。おそらく綱渡りの雄英版と言ったところだろう。

 

 『オイオイ第一関門チョロいってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォール!!!』

 

 ロボットの頭上を越える際に、第二関門である巨大な穴をしっかり目視していた犬飼は、先程と同じようにグラスホッパーを利用して足場を跳ねるようにして渡っていく。

 

 『実に色々な方がチャンスを掴もうと励んでますね、イレイザーヘッドさん』

 『何足止めてんだあのバカ共…』

 『さぁ先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!! っていうかアイツほんと止まらねぇな!!』

 

 第二関門をクリアした犬飼は、僅かに背後を振り返った。轟、爆豪と予想通りのメンバーが自身の後を追うように迫っている。

 

 「一位の奴圧倒的じゃん……!」

 「個性はそんな大したことなさそうだけど、判断力と素の身体能力がズバ抜けてるな」

 

 グラスホッパーだけで突き進む犬飼を見て、ヒーロー達が意見を交わす。

 

 「むしろ個性だけなら2位の奴の方が凄くね? スタートの時とかマジビビったわ……!」

 「そりゃそうだろ。あの子フレイムヒーロー『エンデヴァー』の息子さんだよ」

 「あぁー道理で! オールマイトに次ぐトップ2の血か! じゃあ1位の奴は!?」

 「いや、あいつは知らない」

 「知らねぇーのかよ!? ……いや待てよ? エンデヴァーの息子に圧勝する子供なんて一人だけだろ??」

 「だから知らねーって!」

 「オールマイトの息子だよ!」

 

 犬飼の知らないところで大きな誤解が生まれようとしていた。

 

 「はぁ? 何ってんだお前」

 「だって考えてみろよ!? 急なオールマイトの雄英就任も、息子をヒーローに育てる為なんだよきっと! お互い金髪だし、クリソツじゃん!」

 

 謎に自信満々な男の言葉に、周囲の人間は丁度スクリーンに映し出された犬飼と脳内に浮かべたトップヒーローを比べる。

 

 (似てるか……?)

 (体格違い過ぎねぇ?)

 (でも金髪だし親子かも……)

 

 今のところ共通点が金髪しかないが、日本人からするとそれだけで血のつながりを感じてしまうものらしい。

 

 「たしかにオールマイトは苗字とか個性公表してないし、一概に否定はできねぇな。奥さんの個性を受け継いだ可能性もあるし」

 「敵に狙われないよう影から見守っていた息子がヒーローになる! 今まで何もできなかった分、少しでも力になってやりたい! オールマイト! あんたって人は……! 俺は感動したぜ!」

 

 残念なことに、オールマイトがプロフィールを一切公表していないことで、その場に2人の関係をありえないと断言できる人間がいなかった。

 男の声が大きかったせいか、噂の対象がオールマイトだったせいなのか。その噂は想像以上の勢いで会場中に広がっていった。

 

 まさかそんな噂が広まっているとは露ほども想定していない犬飼は、2位以下を大きく突き放して最終関門に到達していた。

 

 『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態! 上位何名が通過するかは公表してねぇから安心せずにつき進め! そして早くも最終関門!! かくしてその実態は——————……一面地雷原! 怒りのアフガンだ!! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!!』

 

 プレゼント・マイクの言葉通り、よく見れば地面に掘り起こされたような跡があった。

 地雷が個性によるものでなければ避ける必要はないが、用心するに越したことはない。犬飼は真っ直ぐ最短距離を駆け抜け、地雷を踏みそうなときだけグラスホッパーを使用し、爆破を避けた。

 

 『……なんか約1名普通に進んでるんですけど、担任としてどう思いますかイレイザーヘッドさん!』

 『そのわざとらしい言い方をやめろ。……普通なら先頭ほど不利な障害なんだが、まぁ流石だな。油断するかと思って個性由来の爆弾を用意したんだが……無駄だったか』

 『お前…………マジか』

 

 容赦ない担任の仕打ちが明らかになる。

 避ける判断をした過去の自分を、犬飼は心から称賛した。

 

 「はっはぁ、俺は関係ねーー!!」

 

 爆豪の声がして思わず振り返る。30mほど後ろから爆豪と轟が迫ってきていた。轟は後続に道を作ることを厭わず、氷結で地面を凍らせてその上を疾走し、爆豪に至っては爆破を利用して空を飛んでいた。

 

 『トップを走っていた犬飼に爆豪と轟が迫る!! 後続もスパートをかけてきた!!!』

 

 「顔が怖いよ、二人共」

 

 特に爆豪。地上波で流していい顔ではない気がする……。

 

 その時、凄まじい爆音が響き渡った。

 

 『後方で大爆発!!? 何だあの威力!? 偶然か故意か——————A組緑谷、爆風で猛追——————……っつーか!! 抜いたぁぁぁぁあー!!』

 

 集めた地雷を爆破させ、その爆風を利用して飛んだ緑谷が爆豪達を上空から抜き去る。

 

 「デクぁ!!! 俺の前を行くんじゃねえ!!!」

 

 物凄く後ろの状況が気になるが、犬飼は振り返らず地雷を避けて進むことに集中した。

 相澤の言う通り、これが個性で作られた爆弾ならトリオン体を損傷させる可能性があるという事だ。連鎖的な爆発に巻き込まれトリオン体を損傷しトリオン洩れなんてことになったら、目も当てられない。

 

 今度は近くで爆音が響いた。

 

 『緑谷間髪入れず後続妨害!! なんと地雷原即クリア!!』

 

 後方から文字通り吹っ飛んできた緑谷が、転がるようにして犬飼を抜き去っていく。

 

 『ここで先頭が変わった——————! イレイザーヘッド、おまえのクラスすげぇな!! どういう教育してんだ!』

 『俺は何もしてねぇよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』

 

 緑谷の背中が見える。

 泥だらけになり、必死で駆けるその姿に何も思うところがないといえば嘘になる。

 

 だがここで同情して負けてやるほど、犬飼は優しい人間ではない。

 

 (もう地雷はないし、走る方に徹しよう)

 

 『ここで犬飼全力疾走!! すぐさま緑谷を抜いたァァアア!!』

 

 「ック……!」

 

 緑谷が引き留めるように犬飼に手を伸ばす。だが……その手が犬飼に届くことはなかった。

 

 『スタートから2位以下を大きく突き放し、担任の妨害にも屈せず『人聞きの悪い事いうな』、入試1位の実力を如何なく見せつけたその男——————犬飼澄晴!! いま、ゴール!!』

 

 ゴールした犬飼を観客の大歓声が迎える。とりあえず手を振っておくと、歓声がさらに大きくなった。

 

 数秒遅れて、緑谷、轟、爆豪がゴールする。

 「お疲れ」と声を掛けると、爆豪からは舌打ちされ、轟からは無視された。お疲れ様と返してくれたのは緑谷だけである。

 

 『さぁ続々とゴールインだ! 順位等はあとでまとめるからとりあえずお疲れ!!』

 

 体育祭の第一種目が終了した。

 

 

 

 

 




障害物競争で第二関門の足場をメテオラで破壊したり、第三関門の地雷原を爆破させて後続全員始末したかったのですが流石にやっちゃだめだなと思ったので止めました。某ペンチさんならやったかもしれない……。
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