銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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何故かここ1週間で閲覧者が増え、目を丸くしている作者です。

感想の返信をするつもりは無かったのですが、少しでも見てくださっている人に何か返すものがあればと思い、返信をすることを決めました。
頂いた感想は全て拝読していますが、返答は平日になると思います。
(返答が返ってこないときは作者が返答を悩んでいるだけです)

土日祝日は更新に専念させてください。
すみませんが、よろしくお願いいたします。


第二種目②

 

 15分の交渉タイムが終了し、全ての騎馬が出揃った。

 スクリーンに全12騎がチームポイント共に表示される。

 

 

 1.峰田チーム  10,000,435P

 2.塩崎チーム      685P

 3.爆豪チーム      645P

 4.轟チーム       600P

 5.心操チーム      570P

 6.物間チーム      305P

 7.葉隠チーム      290P

 8.拳藤チーム      225P

 9.鱗チーム       175P

 10.小大チーム      165P

 11.青山チーム      140P

 12.角取チーム      70P

 

 

 『よぉーし組み終わったな!!? 準備はいいかなんて聞かねえぞ!! いくぜ残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』

 

 プレゼントマイクのアナウンスが会場中に響き渡る。

 犬飼達のチームは、騎手を峰田、騎馬の先頭が障子、右翼を常闇、左翼が犬飼となった。まぁ峰田は障子の複製腕の中にいるので、犬飼と常闇は実質手を繋いでいるだけである。

 

 爆豪と目が合ったのでにこっと笑みを返すと、思いっきり嫌そうな顔をされた。

 試合のカウントダウンが始まる。

 

 『START!!』

 

 試合開始の合図とともに、複数の騎馬が犬飼達に向かって突っ込んできた。

 

 「実質1000万の争奪戦だ!!」

 「はっはっはっ!! 峰田くんいっただくよ——————って峰田くんどこ!?」

 

 障子の複製腕に隠れた峰田に気づけなかった葉隠が大声で叫ぶ。

 

 「いきなりの襲来とは……犬飼の読み通りだな」

 「ネー!」

 「流石にあんな視線向けられたらね……」

 

 目をキラキラと輝かせる黒影に笑ってそう答える。

 

 「追われし物の宿命……いくぞ黒影!!」

 「ハイヨ!」

 

 1000万狙いで突撃してきた葉隠チームと鉄哲チームに、黒影が襲い掛かった。

 その陰に隠れるように拳銃を構えた犬飼は、敵2チームに向けて鉛弾を放つ。

 

 「なにコレ!!」

 「うわッ……!」

 「重い重い……! 急に何!?」

 

 被弾した2チームが、急激な重さの変化に呻き声をあげる。葉隠チームに至っては支えるのがやっという様子だった。

 

 いくら弾速が遅い鉛弾とはいえ、騎馬を組んで動きが制限された状態で躱すことは難しい。それも初見なら尚更だ。

 

 「葉隠重いよ!!」

 「うわー耳郎ちゃん!! 私が重いみたいに言わないで……!」

 「でも重いわ透ちゃん……ッ」

 「私のベイビーが!!」

 

 自重を支えきれなくなった葉隠チームが地面に膝をつく。その隙に黒影が葉隠からハチマキを奪った。

 

 「サンキュー塩崎!! 助かったぜ……!」

 

 B組のチームには塩崎という生徒の髪が蔦のように騎馬全体を包み、身体への直接の着弾を回避していた。髪についた鉛弾が切り離され、地面に落下する。

 

 「!! 下から何か来るぞ!!」

 

 索敵を担っていた障子が、地面下から聞こえてきた異音に気づき声を上げる。

 

 「あの女の蔦だ!」

 

 塩崎を注視していた峰田が、彼女の髪が地面に潜り込んでいるのを見て叫んだ。

 地面から伸びてきた蔦を黒影が引きちぎり、犬飼はアステロイドを塩崎に向けて撃つ。

 

 「塩崎!!」

 「わかっています!」

 

 銃を構えた犬飼を見て、骨抜が警戒の声を上げる。

 塩崎は髪を戻すと防御が間に合わないと判断し、地面に伸ばしていた髪を切り離した。そして再度髪を伸ばし、弾丸から守るように騎馬を覆う。

 

 「この隙に逃げるぞ!」

 「犬飼了解」

 「ダークシャドーリョーカイ!」

 「常闇了解」

 「障子了解」

 

 峰田の指示に犬飼が返事を返すと、それを聞いた黒影が「なにそれかっこいい!」と言いたげな様子で真似をした。常闇や障子まで真似をするとは思わず、驚いて2人を見る。

 

 「一度言ってみたかったんだ」

 「同じく」

 

 どうやら少年の心を擽ってしまっていたらしい。知らなかった。

 

 『さ~~まだ2分も経ってねぇが早くも混戦状態!! 各所でハチマキの奪い合い! 1000万を狙わず2位~4位狙いってのも悪くねぇ!!』

 

 プレゼント・マイクの実況が始まった。

 

 犬飼は拳銃をホルスターに戻し、代わりに出した突撃銃を構え周囲を牽制する。

 

 「右から青山! ビーム警戒!」

 

 障子の言葉が終わらないうちに、青山のレーザービームが犬飼達を襲う。

 

 「ソーリー! 1000万はボク達が頂いちゃうよ!!」

 「っておい! 青山防がれてんぞ!」

 

 青山のレーザービームが真っすぐにしか飛ばないことを知っていた犬飼は、集中シールドで攻撃を防ぐ。

 

 「おらっ!!」

 

 攻撃が止んだ瞬間、峰田が自身のもぎもぎをちぎって砂藤の足元目掛けて投げる。

 

 「キャー!!」(※青山)

 「うおっ、峰田!? ってもぎもぎはズルいだろ!!」

 「アハハハ戦にズルいも卑怯もあるか! 手加減してほしかったら女になって出直してくるんだな!!」

 

 自分たちに有利な戦況に高笑いする峰田。

 だが、笑っていられたのもそれまでだった。迫る敵に気づいた障子が空を見上げる。 

 

 「上から爆豪!!」

 「調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソが!」

 「出たぁぁぁぁぁああ!!」

 

 一人特攻してきた爆豪は犬飼のハウンドを爆破で相殺し、障子の複製腕の中に隠れた峰田に手を伸ばした。

 峰田が半泣きで叫ぶ。

 

 「シールド」

 

 半透明の板が爆豪の攻撃を防ぐ。

 

 「クソっ!!」

 

 体勢を崩した爆豪を同じチームの瀬呂がテープを伸ばして回収した。

 

 『おおおおおお!!? 騎馬から離れたぞ!? 良いのかアレ!!?』

 

 プレゼントマイクの叫びに、ミッドナイトはぐっと親指を立てて答えた。

 

 「テクニカルなのでオッケー!! 地面に足をついてたらダメだったけど!」

 

 『やはり狙われまくる1位と猛追を仕掛けるA組の面々共に実力者揃い! 現在の保持ポイントはどうなってるのか…7分経過した現在のランクを見てみよう!』

 

 会場のあちこちに設置されたモニターに、現在のランキングが一覧で表示される。

 

 「あれ…? なんか……」

 

 ランキングを見た観客達が騒めき出す。

 

 『……あら!!? ちょっと待てよ、コレ! A組峰田意外パッとしてねぇ……ってか爆豪あれ…!?』

 

 モニターに映しだされた途中経過は、大多数の予想を裏切るものだった。

 

 1位 峰田チーム

 2位 物間チーム

 3位 鉄哲チーム

 4位 拳藤チーム

 5位 轟チーム

 6位 鱗チーム

 ※以下0Pの為同位 

 

 物間が爆豪からハチマキを奪う瞬間を目撃していた犬飼達は、その後に続けられた言葉に眉を顰めた。

 

 「単純なんだよA組。ミッドナイトが”第一種目”と言った時点で予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいと思わない? だからおおよその目安を仮定し、その順位以下にならないよう予選を走ってさ、後方からライバルになる者たちの”個性”や性格を観察させてもらった。その場限りの優位に執着したって仕方ないだろう?」

 「組ぐるみか…!」

 「まぁ全員の総意ってわけじゃないけど、いい案だろ? 人参ぶら下げた馬みたいに仮初の頂点を狙うよりさ。……あ、あとついでに君、有名人だよね? 『ヘドロ事件』の被害者! 今度参考に聞かせてよ。年に一度敵に襲われる気持ちってのをさ」

 

 敵に襲われたことを揶揄する言動が、ヒーロー志望として正しいのか問いたいところだが放っておくことにした。

 爆豪の性格から鑑みても、ポイントを取られた挙句あれほど虚仮にされ放置するとは考えにくい。必ずポイントを取り返そうとするだろう。爆豪という強敵を足止めしてくれるならこちらとしては願ったりである。

 

 

 ——————だが、踵を返した犬飼達の前に、立ちふさがる影があった。

 

 

 『さァ残り時間半分を切ったぞ!!』

 

 

 轟は静かに告げる。

 

 「そろそろ奪るぞ」

 

 高校生とは思えないオーラを放つ轟にビビりまくった峰田が複製腕のなかに閉じこもる。

 

 「オイラ、もうここで暮らすわ」

 「それはやめてくれ」

 

 感情を隠さない峰田につられた障子が本音を漏らす。

 

 「峰田、弱い事と役に立たないことはイコールじゃないよ。あと7分弱。出来ることをやろう」

 「ダイジョーブ、ミネタハヨワイカラオレガマモッテヤルヨ!」

 「……来るぞ!」

 

 飯田のスピードを活かした轟達が、騎馬戦とは思えない速さで迫ってくる。

 

 「八百万、ガードと伝導を準備」

 「ええ!」

 「上鳴は…」

 「いいよわかってる!! しっかり防げよ…」

 

 轟達の会話を複製した耳で聞いていた障子は、轟達がやろうとしていることに気づいて反射的に犬飼を呼んだ。

 

 「犬飼! 上鳴の放電が来る!!」

 

 (シールドじゃ防ぎきれないな……なら)

 

 シールド2枚でも上鳴の放電を防ぎきれないと判断した犬飼は、念のためトリガーに入れていた防御用トリガー『エスクード』を起動した。

 消費トリオンが大きいので使用するのは避けたかったが、上鳴の放電でトリオン体が損傷するよりはマシである。

 

 地面から迫り出す様に現れたバリケードが、犬飼達を守るように広がる。

 

 『何だ何だ!! 急に地面からなんか現れたぞ!!』

 

 その堅固な盾は、上鳴の放電を完璧に防ぎ切った。

 

 「何だよアレ!?」

 「まだなんか隠し持ってやがったのか……!」

 

 上鳴だけでなく、まさか完璧に防がれるとは思っていなかった轟も動揺を隠せなかった。

 だがすぐに平静を取り戻し、未だ放電の影響で動けない犬飼達以外のチームの足元を氷結で凍らせる。

 

 『何だ何をした!? 群がる騎馬を轟一蹴!』

 『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた…さすがというか…、障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな』

 『ナイス解説!!』

 

 足元を凍らされ動けない騎馬からハチマキを奪いつつ、轟は峰田達に近づいた。

 突撃銃から拳銃に持ち替えた犬飼を見て、轟達が足を止める。どうやら葉隠たちが動けなくなっていたのを見ていたらしい。

 

 「上鳴の放電に飯田のスピード、それを八百万の創造で完璧に近い形でチームに組み込む……厄介だな」

 

 特に上鳴の放電は犬飼だけでなく、常闇にとっても相性最悪だった。

 黒影は光の強さによって個性の強さが増減する。闇が濃い程攻撃力は上がるが制御が難しくなり、逆に光の中では攻撃力は下がるが制御が可能になる。

 

 「だが流石にあれほどの光……奴の放電が続く限り攻めでは相性最悪だ。黒影が及び腰になっている」

 「ボウリョクハンタイ」

 「……どうする犬飼」

 

 障子の複製腕の一つが犬飼の方を向く。

 

 「常闇はこの話誰かに言ったりした?」

 「いや、試合前にお前たちに話したのが始めてだ」

 「なら牽制にはなるね」

 

 犬飼は複製腕の中で「オイラはもう無理だ……轟こわ」と放心状態になっている峰田を突撃銃で殴った。もぎもぎは避けて。

 

 「痛い!」

 「そりゃ殴ったからね。試合中だよ、ちゃんと敵を見て」

 「怖いんだよ! 轟完全に殺る気じゃん!! オイラ無理! もう1000万渡して他でポイント稼ごうぜ!」

 

 視線は轟達に向けたまま、犬飼はもう一度峰田を殴った。真似するのがブームになっている黒影も犬飼を真似て峰田を殴り、常闇に叱られていた。

 

 「峰田、モテたくてヒーローになったんでしょ」

 「そーだよ! 悪いか!」

 「ここで轟くんに勝ったらめっちゃモテるんじゃない? いいの? ここでみすみす轟くんにポイントを渡したら彼更にモテるよ」

 「……!!」

 

 タイミングよく、モニターに現在のランキングが表示された。

 轟の上に燦然と輝く自身の名前を見て、——————峰田は想像した。轟に勝って本選に勝ち進み、トロフィーを掲げる自身の未来を。

 

 それはとても素晴らしい光景だった。

 

 「よし! やるぜお前ら!! 打倒轟だ!!」

 「それでいいのか……」

 「業を感じるな」

 

 障子と常闇が呆れた声を漏らす。

 

 「だが、任せたぞ峰田。俺達を上手く使ってみろ」

 「轟くんは試合で右の氷結しか使ってない。位置取りが大事だよ」

 「お前の事は必ず守る。頼んだぞ峰田」

 

 峰田の視界を広げる為、障子が複製腕を閉じる。

 

 『これは意外な展開! 俺はてっきり犬飼が指揮を執るのかと思ってたぜ!』

 『……犬飼の位置から全体を把握するのは難しいからな。峰田若しくは障子が指揮を執る方が最適だろう』

 

 マイクたちの不安を余所に、峰田は5分間轟達の猛攻を避け続けた。

 

 これには相澤でさえ驚きの声を漏らし、観客も固唾をのんで攻防を見守る。

 

 『残り時間約1分!! 轟がフィールドをサシ仕様にし……そしてあっちゅー間に1000万奪取!! とか思ってたよ5分前までは!! 峰田なんとこの狭い空間を5分間逃げ切っている!! つか犬飼の個性なら氷壊せるんじゃね?』

 『氷の外に出れば轟からは逃げられるが、他のチームに狙われる。それなら氷の中で轟1チームに集中して逃げる方が勝機があると踏んだんだろ。途中犬飼の個性に当たって、轟達のスピードが落ちて逃げやすくなったってのもあるだろうが』

 『なーる!! 意外と考えてるな峰田!』

 

 狭いフィールドで器用に逃げ回る峰田達に、轟は僅かに顔をしかめる。

 

 ———戦闘において、自分の強さを疑ったことは無かった。

 

 犬飼に負けたあの日までは。

 

 轟のようにプロヒーローの指導を受けたわけでもないのに、犬飼は対人戦闘訓練で轟を圧倒した。

 USJ襲撃の際もそうだ。何もできなかった自分に対し、犬飼は敵と対峙し最後まで戦い抜いた。

 

 今だってそうだ。

 

 峰田がここまで考えられる奴だなんて轟は想像もしていなかった。

 轟の中の峰田は女好きで、気が弱く、自分を相手に一歩も引かず対峙できるような奴じゃなかった。

 

 何が違う。

 

 いつもヘラヘラと笑って苦労ひとつをしたことが無いような顔をした奴に……どうして勝てない。家族と過ごす時間も、友人と遊ぶ時間も全て、ヒーローになる為に費やしてきた。幼少期から続く虐待に近い鍛錬にだって耐えた。火傷や打撲で痛む傷も、眠れない夜も一人でずっと耐えてきた。

 

 何が足りない。

 

 あと何を差し出せば目の前の男に勝てるのだろう。 

 

 飯田の肩を掴む轟の手に力が入る。

 

 そこから轟の葛藤を感じた飯田は、奥の手として残していた技を使うことを決めた。

 

 「皆、残り1分弱……この後俺は使えなくなる。頼んだぞ」

 「飯田?」

 「しっかり掴まっていろ」

 

 ふくらはぎのエンジンが音を立てる。

 

 「奪れよ、轟くん! トルクオーバー・レシプロバースト!」

 

 トルクの回転数を操作して、爆発的な加速を起こした飯田が、凄まじいスピードで犬飼達の横を通り過ぎた。人の反応速度の上を行く速さに、峰田は反応ができない。

 轟はほぼ本能的に手を伸ばした。峰田のハチマキに触れる、その瞬間。透明なシールドがその手を阻んだ。

 

 『な—————!? 何が起きた!? 速っ速——————!! 飯田そんな超加速があるんなら予選で見せろよ!! あれ? でもハチマキ取れてない!? 防いだの? あれを? マジで!!?』

 

 人の反応速度を超える飯田の必殺技。鉛弾による僅かな減速がなければトリオン体の反応速度でも危なかった。

 峰田が額のハチマキを確認し、安堵から涙をこぼした。

 

 「い、犬飼~~!!」

 「よく防いだな……」

 「見えていたのか?」

 「ギリギリね。鉛弾の減速がなかったらほんとヤバかった」

 

 障子の疑問に正直に答えた犬飼は、知らずのうちに止めていた息を吐く。

 

 「飯田悪い……!」

 「君のせいじゃない!」

 

 轟の謝罪を飯田が否定する。

 

 「轟さん! まだ時間はあります。指示を!!」

 「アホになっていいなら放電もできるぜ!」

 

 3人は諦めていなかった。

 

 「お前ら……」

 「勝とうぜ、轟! 俺たち4人で!!」

 

 上鳴の言葉に、轟は視界がサッと開けるような感覚を覚えた。

 自分を支える3人を見る。

 

 「お前ら……そんな顔をしてたんだな」

 「え? 俺もうアホってる??」

 「3人……って私もですか!?」

 「僕もか!?」

 

 天然とアホと生真面目が揃うと化学反応を起こすらしい。

 

 「いや、なんでもねぇ」

 

 轟は頭を振って、チームに漂っていた緩い雰囲気を振り払った。

 

 『さぁさぁ時間ももうわずか!!』

 

 プレゼント・マイクが試合の終わりが近づいていることを告げた。

 

 轟は顔を上げ、真っすぐに峰田達を見据える。

 

 「奪るぞ!」

 

 大規模な氷結が放たれる。

 フィールドを覆うように広がる氷によって、犬飼達の逃げ道が次々と狭まっていく。

 

 「やばいやばい! 逃げるとこがねぇ!! 常闇! 犬飼! 急いで氷を壊せ!!」

 「もうやっている!!」

 「壊した傍から轟くんが塞いでるんだよ。これじゃあ埒があかない」

 「轟接近!!」

 

 試合終了まで10秒を切った。

 上鳴の体がバチバチと音を立てて光る。

 

 それを見た犬飼は障子に飛び乗った。意図を察した常闇も障子に掴まる。

 

 「何を……そうか!?」

 

 障子の足元にグラスホッパーが出現。4人の体を空中へ打ち上げた。

 

 間一髪、それまで犬飼達がいた場所を上鳴の放電が駆け抜ける。

 

 『TIME UP!!』

 

 空中で峰田が犬飼を見る。

 

 「着地は!?」

 「各々でよろしく!」

 「嘘だろオイ!」

 

 落ちたら死ぬぞ! と峰田が叫ぶ。だが慌てたのは峰田だけで、あとの2人は普通に着地の態勢を整えていた。

 

 障子は複製腕を広げて落下速度を低減させ、ゆっくりと地面に降り立った。常闇は黒影に受け止めてもらう形で着地し、犬飼は峰田を抱えたまま、トリオン体であることを活かし普通に着地した。

 峰田を地面に下ろす。

 

 文句を言おうとした峰田だったが、プレゼント・マイクのアナウンスを聞いて口を噤む。

 

 『んじゃ早速上位4チーム見てみよか!! 1位峰田チーム』

 

 信じられないという顔でモニターを見つめる3人に、犬飼は笑って抱き着いた。

 それを見た黒影も真似して抱き着く。

 

 「1位だよ! やったね!」

 「ヤッタネー! ダークシャドーガンバッタ?」

 「頑張ったどころか大活躍だったよ! ありがとう!」

 

 犬飼の言葉に黒影が嬉しそうに体を捻る。

 

 「勝った……のか?」

 「そのようだ」

 

 障子が零した言葉を常闇が拾って肯定する。

 

 「そうか……」

  

 モニターに浮かぶ1位の文字を眩しそうに障子が見つめる。

 それを見た常闇は障子の抱える何かに勘付いたが、尋ねることはしなかった。何時か彼の口から語られる、その時を待つことにした。そしてそれはきっとそう遠い日の話ではない。

 

 「2人とも何大人ぶってんだよ! 喜べよ! 1位だぞ1位!! これで俺も女子にモテモテ……羨ましいか!」

 「「いや別に」」

 「何でだよ!!」

 

 障子と常闇が声を揃えて否定すると、峰田が地団太を踏む。

 その姿を見た障子達が珍しく声をあげて笑った。犬飼も驚いて一瞬目を瞬かせたが、すぐに笑って3人を抱き締める腕に力を込めた。

 

 「4人と組んでよかった。本当にありがとう」

 

 

 

 『2位爆豪チーム!』

 

 「あーもう少しだったのに」

 「まぁ2位なら上々だって。結果オーライ」

 

 悔しがる芦戸を瀬呂が宥めるが、切島は呆れた顔で否定した。

 

 「そんなことを思うかよ…アイツが」

 

 視線の先には、悔しさを隠さず叫び声をあげる爆豪の姿があった。

 

 「だああああ!!」

 

 

 

 『3位轟チーム!』

 

 騎馬から降りた轟に、八百万と飯田が力不足を謝罪した。

 

 「決勝に進めた事には変わりない、気にするな」

 

 轟はそう言ったが、悔しさは隠しきれない。

 左手を見つめる。どうすれば勝てるのか……轟の心はそのことで占められていた。

 

 

 

 『4位鉄て…アレェ!? オイ!! 心操チーム!? いつの間に逆転してたんだよオイオイ!!』

 

 「ご苦労様」

 

 プレゼント・マイクの驚きに満ちた声が、会場に響き渡る。

 嘲るような笑みを浮かべる心操に、緑谷は呆然とし、麗日と尾白は何が起こったかわからないという様子で周囲を見渡していた。

 

 

 『まぁ以上4組が最終種目へ…進出だ——————!!』

 

 

 

 

 

 


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