銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
騎馬戦が終わると、昼休憩の時間となった。
「なー、飯いこーぜ!」
乾杯する動作をしながら峰田が犬飼達を昼食に誘う。
その誘いに頷こうとした犬飼だったが、逃げるように会場を出ていく人物を見て、気が変わった。
「ごめん、おれちょっと用事があって先食べてて」
「女か」
「違う、違うから詰め寄らないで」
男だというと、あからさまに興味をなくした様子の峰田はさっさと昼食に向かってしまった。
少しだけ残念そうな顔をした障子達に謝罪をして、犬飼も先程の人物の後を追う為にその場を離れた。
体育祭の会場となっているホール内には、雄英関係者のみが入れるエリアがある。その廊下に設置されたベンチに、かの人物は世界の終りのような雰囲気で項垂れていた。
犬飼がわざとらしく音を立てて隣に座っても、ピクリとも動かない。
「なんかあったの?」
そう問いかけると、握りしめた両手を額に当てて黙り込んでいた彼の尻尾が僅かに跳ねた。
犬飼はそれに気づかないふりをして返ってこない会話を続ける。
「尾白が緑谷くん達と組むとは意外だったな~。誘おうと思ったらもうチーム組んでるんだもん」
尾白は喋らない。
「しかもあの心操くんと組むなんてね~、まぁ彼の個性なら競技中の逆転も納得だよね」
そこで初めて、尾白が反応を見せた。
「犬飼……、お前、知ってたのか?」
勢いよく顔を上げた尾白が、青白い顔に驚きを滲ませて犬飼を見る。
犬飼は想像以上に追い詰められた顔をしている尾白に、来る途中で買ったお茶を渡した。
「……あ、ありがとう」
「洗脳だよ、心操くんの個性は」
犬飼の言葉に尾白の顔色が目に見えて変化する。思い当たる節があるのだろう。
「せん、のう……」
「そう、洗脳に掛かる条件は彼の問いかけに応える事らしいよ。おれも人から聞いただけで、実際のところはあんまり知らないんだけど」
「……調べたのか」
「戦う相手の事だからね」
自分用に買っていたお茶を開ける。
ペットボトルの半分を一気に飲み干し、また蓋を閉めた。
「……そうか」
そう言った後、尾白は固く握った両手を額に押し当てるようにして、長く息を吐いた。
肺の中身が全て空になるんじゃないかと思うくらい息を吐きだした後、尾白はポツリポツリと騎馬戦での出来事を語り出した。
「……俺、騎馬戦の時の記憶殆どないんだ」
尾白の尻尾が、不安から自身を守るように体に巻き付く。
「チーム決めの時、後ろからアイツに声を掛けられて、返事をしたところまでは覚えてる。多分、犬飼のいう通りそこで個性に掛けられたんだと思う。そっから騎馬戦の途中までは、ほとんど覚えてない」
「途中まで?」
気になった言い回しを指摘すると、尾白が頷いた。
「……試合の途中で緑谷が個性を使って、騎馬が一回崩れたんだ。そこで洗脳が解けたんだと思う。そっからの記憶はハッキリしてるから」
「衝撃で解ける可能性が高い……ってことかな」
「多分だけどね」
そこまで話した尾白は、また大きく深呼吸をした。
「緑谷はさ……」
「うん」
「俺と違って、洗脳にかけられた時も意識があったらしくて」
「うん」
「……騎馬を避ける心操の動きから、衝撃で解ける可能性に気づいて、僅かに動いた指先で個性を発動させたみたいだ」
尾白の言葉が途切れる。
犬飼は黙って友人の言葉の続きを待った。
「悔しい……っ」
絞り出すような声だった。
「何もできなかった……! 油断して操られて……勝ったのだって心操の力だ。俺の力じゃない!」
悲痛な叫びが廊下に木霊する。
「俺は……こんな勝ち方がしたかったわけじゃない!」
——————犬飼にとって、尾白は努力を絵にかいたような人間だった。
「尻尾」という個性は、決してヒーロー向きの恵まれた個性ではなかった。
生まれた時は今のように太い尾ではなく、猿のように細かったのだと個性把握テストの後に尾白が教えてくれた。
「俺みたいに尻尾がある主人公のアニメがあってさ! その主人公が尻尾だけで浮くシーンを見て俺も鍛えたらこれ出来るんじゃないかっていうのが始まりだったみたい」
格闘技を習いだしたのもその時らしい。道着姿の主人公を見て影響されたのだと、尾白は恥ずかしそうに語った。
「家の近くに動物園があってさ。休日はよく入り浸ってたよ」
「今日の尾白の動きは猿みたいだったよね」
「誉め言葉なのか、それは?」
障子が疑問を呈するが、尾白は犬飼の言葉に誇らしげに笑った。どうやら「猿みたい」は尾白にとって誉め言葉らしい。
「尻尾を効率よく使うなら猿をお手本にするのが一番かなって、子どもみたいな理由だけど」
猿の動きと格闘技。それらを組み合わせ自分なりのスタイルに落とし込む。言葉にするのは簡単だが、それを幼少期に考え今日まで実践してきたというのだから驚きである。
——————そんな彼だからこそ、正々堂々、自分の力で勝ちたかっただろう。
「負けた方がマシだ……ッ。こんな風に勝って、俺、お前たちの前にどんな顔で立ったらいいんだ? 犬飼や障子はちゃんと自分の意思で戦って勝ったのに、俺は心操達のおこぼれを貰っただけ……!」
「じゃあ
犬飼のドストレートな言葉に、尾白が目を丸くする。
「お前……遠慮ないな」
涙すら引っ込んだ様子の尾白が、若干引いた顔で犬飼を見る。
「慰めてほしいの? 本選で頑張って結果を出せばいいとか言っても……もう心は決まってるんでしょ?」
尾白は意外と頑固で、プライドが高い。
それは爆豪の高慢さとは違い、彼の努力や積み重ねてきた勝利が誇りとなって彼を支えているからだ。
犬飼の言葉で、尾白は自分がもう結論を出していたことに気づいたらしい。
「なんか、俺より犬飼の方が俺のことわかってる気がする……」
恥ずかしさを隠す様に、尾白が自身の尻尾に顔を埋める。
「年の功だよ」
「同い年だよ!?」
ツッコミの切れが戻りつつある。どうやら大分感情の整理はついたらしい。
「えー、尾白の誕生日は5月28日だからまだ15歳でしょ? おれ5月1日生まれだからもう16歳だよ」
「聞いてないよ!?」
「言ってないからね。ちなみに爆豪くんは4月生まれでクラス最年長だったりするんだけど……意外だよね~」
誕生日プレゼントで「サシで勝負」を要求されたのは前世以来である。爆豪の実家はヤのつく職業だったりしないだろうか。
「さて! 尾白の決心もついた事だし……ご飯いこう!」
勢いよく立ち上がって犬飼は本能のまま叫ぶ。お茶だけではお腹は満たされなかった。
犬飼の言葉に尾白も昼ご飯を食べていなかったことを思い出したらしい。
慌てて立ち上がった尾白と一緒に、走るように食堂へ向かう。
「食いっぱぐれたらごめん!」
「その時は屋台!!」
尾白の謝罪に犬飼が叫ぶと、尾白がなるほどという顔をした。
原作をみると、昼休みの食堂に尾白くんがいなかったので、一人で悩んでいたんだろうなぁという想像で書きました。
※昼食にはちゃんと間に合いました。