銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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一回戦①

 

 昼休憩が終了し、食事を掻きこむようにして会場に戻った犬飼と尾白は、その光景をみて頭を抱えた。

 

 『最終種目発表の前に、予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……』

 

 プレゼントマイクもソレに気づいて疑問を声を上げる。

 

 『ん? アリャ?』

 『なーにやってんだ…?』

 

 A組にケンカ腰の物間すら、不自然にその光景から目を背け、触れようともしない。

 

 『どーしたA組!?』

 

 チアの格好をして会場入りしたA組女子に会場の視線が集まる。

 その声で、自分たちが騙されたことに気づいたのだろう。八百万が自分達をだました犯人に向かって、声を荒げる。

 

 「峰田さん! 上鳴さん! 騙しましたわね!?」

 

 少し目を離した隙に、何故アイツらはこうも犯行を重ねるのか。

 

 『さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目。進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式! 一対一のガチバトルだ!!』

 

 招集が掛かり、生徒達はミッドナイトが立つ号令台前に集合した。

 ミッドナイトは自身が持つ箱を生徒達に見えるように掲げる。

 

 「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります! レクに関して進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。んじゃ1位チームから順に……」

  

 「あの…! すみません」

 

 そう言って手を挙げたのは、尾白だった。

 

 「俺、辞退します」

 

 その言葉に、周囲がざわつく。

 

 「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分、奴の”個性”で……」

 「!?」

 「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも…! でもさ! 皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな…こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない」

 「気にしすぎだよ! 本選でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

 「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」

 

 葉隠と芦戸が尾白に慰めの声を掛ける。

 だが、尾白の意見は変わらない。

 

 「ありがとう。でも……ゴメン。俺のプライドの話さ……嫌なんだ、こんな気持ちで相対するなんて」

 

 障子達が縋るように犬飼を見る。おそらく尾白の意見を変えられるとしたら自分しかいないと思われているのだろう。

 

 「尾白がそう決めたのならそうすればいいと思うよ」

 「犬飼くんまで!?」

 

 犬飼は審判であるミッドナイトを見た。

 緑谷や麗日が何も言わないという事は、2人は出場するつもりなのだろう。だったら周囲が余計なことを言う前にさっさと審判に決めてもらった方がいい。

 

 「そういう青臭い話はさァ…好み!! 尾白の棄権を認めます!」

 

 何故か今日一嬉しそうな顔だった。

 

 その後、辞退した尾白の代わりにB組の塩崎が繰り上がり、本選に出場する16名が決定した。

 

 「組はこうなりました!」

 

 

 緑谷 — 峰田

 轟  — 瀬呂

 心操 — 犬飼

 上鳴 — 塩崎

 常闇 — 八百万

 切島 — 障子

 芦戸 — 飯田

 爆豪 — 麗日

 

 

 犬飼の初戦の相手は、なんと心操だった。

 面白いことになったなぁと思っていると、後ろから声を掛けられた。

 

 「あんただよな? 犬飼澄晴って」

 「そうだよ。よろしくね、心操くん」

 

 隣でギョッとする尾白が慌てたように尻尾で口を塞いでくる。いや、もう遅いから。

 

 「……俺の個性、聞いてないの?」

 

 呆れた様子の心操に、犬飼は尾白の尻尾と格闘しながら答える。

 

 「聞いて、……」

 

 言い終わる前に、体の動きが止まった。足元から小さく音がする。

 

 「犬飼!」

 「1位っていうからどんだけ凄い奴かと思ったけど……意外とあっけないな」

 

 あっさりと個性に掛かった犬飼を馬鹿にするように笑って、心操は去っていく。

 

 (これが洗脳か……。トリオン体でも関係ないみたいだな、体が動かせない。でも意識はハッキリしてる)

 

 尾白は洗脳されている間、意識がなかったという話だったが、個性を掛けられる側の意志の強さや警戒心によって変わってくるのかもしれない。

 考えを巡らせていると、尾白の尻尾に背中を強く叩かれる。

 

 「おっと……」

 「何やってんだ、忠告しただろ!?」

 

 犬飼の肩を掴んで全力で前後に揺さぶる尾白。

 揺さぶるならさっきの尻尾で叩く必要性はあったのか。

 

 「いやー、洗脳掛けられたことないから出来心でつい……」

 「出来心でつい!?」

 「落ち着け尾白」

 

 ウキーッと荒ぶる尾白を障子と常闇が宥める。

 

 「犬飼にも考えがあるんだろう」

 

 障子の言葉に、尾白の動きが止まる。

 犬飼はニヤリと笑って、「試合前にわざわざ手の内を明かしてくれるなんて、優しいよね」と言った。

 

 「お前……」

 「ああいう奴なんだ」

 「敵ながら哀れ」

 

 その後、緑谷や麗日からも話を聞いた犬飼は、残り時間をトリオン回復のための休息にあてた。

 

 

 

 

 

 保健室で眠っていた犬飼は、スマホの着信音で目を覚ました。

 

 「ん……誰?」

 

 スマホの画面に表示された名前を見て、犬飼は僅かに動きを止めた。

 その間にもコール音が止むことはない。

 顔を出したリカバリガールに何でもないと手を振って、犬飼は通話に出た。

 

 『澄晴か? 体育祭見てるよ。1位なんて凄いな』

 

 ぎこちない父の声。

 犬飼は婉曲な言い回しをする父に僅かな苛立ちを感じながらも、それを表面に出さないよう努めて明るく応答した。

 

 「チームのみんなのお陰だよ。でも父さんがそんなことで連絡してくるなんて珍しいね?」

 『いや、お前が戦うところなんて初めて見たから驚いてな。……強かったんだな』

 「それなりにね」

 

 電話口から父の躊躇うような息遣いが伝わってきた。

 

 『……母さんが、体育祭を観て寝込んでしまってるんだ』

 「……」

 『お前には悪いと思ってる。だが、すまない。体育祭棄権してくれないか?』

 

 本当にどうでもいい電話だった。

 

 『本選に出ればテレビで何度も放映される。母さんの具合がこれ以上悪くならないよう……なぁ、頼むよ』

 

 犬飼はベッドから降り、リカバリガールに頭を下げて保健室を出た。

 

 「……それさぁ、おれに関係ある?」

 『お前の母親だろう……!?』

 「いや、寝込んでるのはその人の自業自得でしょ。ていうか、おれ応援しなくていいって言ったけど、それって邪魔していいって意味じゃないから。内容がそれだけなら切るよ」

 

 わざとらしい泣き声が、電話口の向こうから聞こえる。

 

 『……頼む』 

 「じゃあ切るね、バイバイ」

 

 容赦なく電話を切った犬飼だが、再度父から連絡が掛かってくる。

 面倒なので携帯の電源を落とし、さっさとクラス観客席へ向かう。

 

 『色々やってきましたが!! 結局これだぜ、ガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!! 心・技・体に知恵、知識!総動員して駆け上がれ!!』

 

 通路を抜けると、プレゼントマイクのアナウンスが鼓膜を揺らした。

 スタジアムにはセメントスによって長方形のステージが造られ、四隅から炎が上がる。

 

 (随分手が込んでるなぁ~)

 

 感心しながらクラス席に向かうと、犬飼に気づいた障子が手を挙げた。

 

 「レクリエーション中見かけなかったが、どこかで休んでいたのか?」

 「仮眠取ってた。試合まだだよね?」

 「これから峰田と緑谷だぜ!」

 

 上鳴が上機嫌に答える。

 

 そして、本戦の幕が開けた。

 

 『一回戦!! 騎馬戦で見せた圧巻の活躍! ヒーロー科、峰田実!』

 

 手を振りながら現れた峰田を、A組女子が冷たい視線で見つめる。どうやらチアガール事件がまだ尾を引いているらしい。

 

 『ほぼ個性を使わず本戦まで勝ち上がったとんでもボーイ、ヒーロー科、緑谷出久!』

 

 A組女子の応援が緑谷に殺到する。

 

 『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか、行動不能にする。あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!! ケガ上等! こちとら我らがリカバリガールが待機してっから! 道徳倫理は一旦捨ておけ!! だがまぁもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ! アウト! ヒーローは敵を捕まえる為に拳を振るうのだ!』

 「じゃあ道徳倫理は捨てちゃダメじゃない?」

 「拾っとくか」

 「そうだね」

 

 障子とどうでもいい話をしていると、早速試合が始まった。

 

 『START!』

 

 開始の合図と同時に、峰田が緑谷に大量のもぎもぎを投げつける。最初は紙一重で躱していた緑谷だったが、足元と飛んでくるもぎもぎの両方を避けることが難しくなり、次第に追い込まれていく。

 

 『峰田の怒涛の攻撃!! 緑谷避けるので精一杯か!?』

 

 峰田が地面のもぎもぎの上を跳ねるように移動し、緑谷に飛び掛かった。

 

 「これで終わりだぁぁぁ、ブフッ!?」

 

 叫んだ峰田の顔面に、緑谷が自身の上着を投げつけた。

 もぎもぎは峰田自身にはくっつかないが、服は違う。自分が地面にバラまいたもぎもぎと体操服がくっつき、峰田は身動きができなくなった。

 

 『緑谷逆転の一手! アイツはアレだな……下克上ボーイだな!』

 『最後の最後で油断するからだ、バカが』

 

 辛辣な担任の一言に、A組全員がまるで自分が言われているような錯覚に陥った。

 無様な結果を晒すとこうなるらしい。

 

 峰田はしばらく地面で足掻いていたが、抜け出すことができず「まいった……」と声を上げた。

 

 『峰田くん降参! 緑谷くん二回戦進出!!』

 

 結果を見届け、犬飼は静かに立ち上がった。3戦目に出場する犬飼は、次の試合中に控室で待機していなけらばならないからだ。

 犬飼の離席に気づいたクラスメイトから応援の声が飛ぶ。

 

 「犬飼!」

 

 尾白の声に犬飼は振り返った。

 

 「勝てよ!」

 

 拳を突き出す尾白に、犬飼は笑って、同じように拳を突き出して応えた。

 

 「もちろん」

 

 

 

 

 2戦目が始まったのは、犬飼が控室について暫くしてからだった。

 峰田のもぎもぎ撤去に時間がかかったらしい。

 

 『お待たせしました!! 続きましては~こいつらだ! 優秀! 優秀なのに拭いきれないその地味さは何だ! ヒーロー科、瀬呂範太! 対 圧倒的な強さで上位をキープ! 同じくヒーロー科 轟焦凍!』

 

 試合開始と同時に、瀬呂が轟に先制攻撃を仕掛ける。

 

 『場外狙いの早技! この選択はコレ最善じゃねぇか!? 正直やっちまえ瀬呂——————!!!』

 

 瞬間。

 スタジアムを飛び出すほどの大氷結が、瀬呂を襲った。

 

 会場が静まり返る。

 

 氷で完全に体を拘束された瀬呂は、動くどころが痛みで顔が引きつっていた。

 

 「瀬呂くん行動不能!!」

 

 ミッドナイトの審判が下る。

 轟の圧倒的な強さに、会場からは瀬呂にむけて「どんまいコール」が沸き起こった。 

 

 

 

 

 

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