銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
そして第三戦。
『ステージを乾かして次の対決!!』
犬飼と心操は互いから目を逸らさず、ステージで向かい合った。
『三回戦! ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科、心操人使! 対 見た目チャラいけどその実力は圧巻の1位! ヒーロー科、犬飼澄晴!』
プレゼントマイクのアナウンスに被せる様にして、心操が話しかけてきた。
「わかるかい、犬飼澄晴。これは心の強さを問われる戦い。強く想う”将来”があるならなり振り構ってちゃダメなんだ…」
質問というよりは、挑発に近い心操の言葉。
犬飼の笑みは変わらない。
心操は僅かな焦りを隠す様に、言葉を重ねた。
「あの猿はプライドがどうとか言ってたけど」
プレゼントマイクの合図と同時に、手に持っていたトリガーを掲げ「トリガーオン」と小さく呟き換装する。
「チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」
友人を貶せば怒りで口を開くだろうという心操の予想は、あっさりと裏切られた。
それどころか犬飼の表情には僅かな怒りの色も見られない。
「なんとか言えよ……!」
「……」
犬飼は突撃銃を出すと、無言でその銃口を心操に向けた。
あまりにもあっけない勝負に、観客からため息が漏れる。
心操も自身の負けを悟った。どう足掻いても目の前の男に勝てる気がしない。対面してようやく、心操は犬飼という男が全く自分を侮っていなかった事を知った。油断していたのは自分の方。
(こんな簡単に負けたらダメだ……! ここで負けたら意味がない!!)
心操の目的はこの体育祭で結果を残し、ヒーロー科へ編入する事だった。本選には出られたが、こんなにあっさり負けてしまってはその夢が遠のいてしまう。
犬飼が引き金に指を掛けた時、心操が両手を挙げた。
「ミッドナイト!! 俺の……負けです」
『え……?』
まさかの敗北宣言に、プレゼントマイクの呆気にとられた声がマイクを通して会場に響く。
ミッドナイトは驚きながらも、ルール通り犬飼の勝利を告げようと声を上げ、固まった。洗脳されたのだ。
それに気づいた犬飼は、即座に心操を撃つが、僅かに遅かった。
「ステージ全体に個性を使ってください!」
そう叫んだ直後、犬飼の銃撃によって心操が気絶する。
だが、心操が意識を失ってもミッドナイトの洗脳は解けず、彼女の個性『眠り香』がステージ全体に急速に広がっていった。
会場から悲鳴が上がる。
『まさかの審判が個性に掛けられる意外な展開!? っていうかコレいいの!? アリなの!?』
『……微妙なラインだが、まぁどちらにしろ結果は同じだ』
相澤の言葉は正しかった。
心操を撃ち落とした犬飼は、眠り香を気にすることなくミッドナイトに近づきその額を指で弾いた。
トリオン体による容赦ないデコピンがミッドナイトの脳を揺らし、洗脳を解く。
「……ッ、心操くんダウン! 犬飼くん二回戦進出!!」
一瞬で状況を把握したミッドナイトが、眠り香の放出を止め犬飼の勝利を宣言する。
『犬飼! 会場の度肝を抜いた心操の作戦を冷静に対処! っていうか本当に大丈夫か!? ミッドナイトの個性普通に吸ってただろ??』
問題ない事を伝えるように手を振る。
『……大丈夫そうだな』
『マジですげぇなアイツ!? とりあえず二回戦進出! 犬飼澄晴!!』
心配して身を乗り出していたA組の生徒達も、いつも通りな犬飼の姿を見てほっと胸をなでおろす。
セメントスが地面に手を付けると、ステージの床が開き、下から噴出した大量の空気が眠り香を一気に吹き飛ばした。
それを確認したミッドナイトが、慌てて犬飼に駆け寄る。
「ごめんなさい犬飼くん!! 大丈夫? 眠かったりしない!?」
「だ、大丈夫です。ミッドナイトさんこそ、額、大丈夫ですか?」
必死の形相のミッドナイトを宥め、デコピンした事を謝罪する。
その後、ミッドナイトは次の試合の為セメントスに回収されていった。それを見送って、犬飼も心操を抱えてステージから退場する。
保健室のドアをノックすると、犬飼達の試合を見ていたリカバリーガールが既にベッドを整えてくれていた。
「お疲れ様。まさかミッドナイトが洗脳されるとはね……あ、彼はこっちに寝かせてくれるかい?」
「ありがとうございます。流石にアレは予見できなかったので、驚きました」
心操をベッドに寝かせる。
リカバリーガールはあまりにもカラッとした犬飼の返事に、「本当に大人びた子だねぇ」と感心した声を漏らした。
それに苦笑を返した犬飼は、心操を運ぶためにそのままにしていたトリオン体を解除する。
「トリガー
トリオン体を解除した瞬間、凄まじい眠気が犬飼を襲った。一瞬意識が遠のき、床に体が叩きつけられる。
慌ててトリオン体に戻ろうとしたが、意識が拡散しトリガーを起動することができなかった。先程トリオン体では何ら問題なかった眠り香も、生身にはしっかり影響が出ていたらしい。
「犬飼!?」
驚いたようなリカバリガールの声を最後に、犬飼の意識は急激に落ちていった。