銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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二回戦②

 

 大破してしまったステージをセメントスが補修するまでの間、試合は一時中断となった。

 

 緑谷を保健室に運んだあと、次の試合に出場する犬飼は控室で自分が眠っていた間の試合を見ていた。

 

 暫くして、ステージが修復された旨のアナウンスが流れる。

 選手はステージに向かうよう指示があり、犬飼は立ち上がって控室を後にした。

 

 ステージ入り口で一度換装を解く。

 

 「……ッ」

 

 トリオン体との落差のせいか、眩暈と錯覚しそうな眠気が犬飼を襲った。 

 なんとか気合で意識を保ちながら、ステージ中央に向かう。

 

 『大変お待たせ致しましたー! 二回戦、第二試合!! 一回戦で相手を瞬殺したB組、塩崎茨 対 未だに底が見えないA組、犬飼澄晴!』

 

 反対側のステージ出入口から登場した塩崎は、睡魔に襲われてボーっとしている犬飼を見て、不快そうに眉を寄せた。前の試合の上鳴の態度が尾を引いて、同じクラスである犬飼も塩崎を舐めていると勘違いしたようだった。

 

 そして、試合が始まった。

 

 「トリガー起動(オン)

 

 開始の合図でトリガーを起動。

 クリアになった視界に、犬飼を拘束しようと伸ばされた塩崎の蔦が迫る。

 

 犬飼はバックステップで距離を取りつつ、同時に左手に突撃銃を顕現させた。襲い掛かる大量の蔦を連射で撃ち落としていく。

  

 『塩崎先制!! 犬飼まさかの防戦一方という意外な展開!』

 『まぁ、犬飼は個性上先制攻撃されやすいからな』

 『……といいますと?』

 『今みたいに銃で攻撃する場合、犬飼は最低でも『変身➡銃を創造➡狙う➡撃つ』と、4つの行程が必要だ。先手を取られるのは仕方がない』

 『なるほど!!』

 

 犬飼が不利のように語った相澤だったが、実際、劣勢に立っているのは塩崎の方だと理解していた。

 先制攻撃を防がれてしまった時点で、塩崎の優位性はすでに失われている。

 

 むしろ今は、個性の全貌が明らかになっていない犬飼の方が有利だろう。個性戦闘において、『個性不明』というアドバンテージはそれほどに大きい。

 

 (……犬飼がそれに胡坐をかいて油断するような奴なら、まだ塩崎にも勝機はあったんだがな……)

 

 相澤はため息を吐きたくなる気持ちを我慢して、試合に意識を戻した。

 

 『犬飼! 遂には場外ギリギリまで追いつめられる……! これは勝負あったか!?』

 

 観客がまさかの大逆転に沸く。

 そんな中、塩崎は落胆する気持ちを隠せなかった。

 

 「(先程から防いでばかり……攻める気がないのでしょうか)」

 

 塩崎はクラスメイトの物間とは違い、A組に偏見を持ってはいなかった。むしろ入学早々敵に襲われたA組を心の底から案じていたほどだ。

 

 だが、先の戦いの上鳴の軽薄な言動や、試合前の緊張感のない犬飼の態度。

 

 ——————それらに対する失望が、塩崎の中で僅かな油断となって試合に現れてしまった。

 

 犬飼が攻撃の間に銃を右手に持ち替え、同時に、左手をホルスターに伸ばす。

 

 「……!」

 

 騎馬戦での鉛弾攻撃を思い出した塩崎は、攻撃のため伸ばしていた蔦を切り離し、自身と犬飼の間に蔦の盾を作り出した。

 犬飼に背を向け、祈るように手を組む。

 

 「これって……?」

 

 自分と塩崎の対戦。その最後を彷彿とさせる試合展開に、上鳴が小さく声を上げる。

 

 「勝負あったな」

 

 そう言ったのは、それまで食い入るように前傾で試合を見ていた爆豪だった。

 周囲がその言葉を問いただそうとしたとき、試合が大きく動いた。

 

 犬飼の左手はホルスターに添えられたまま動かず、右手の突撃銃から銃弾が放たれる。

 弾は蔦に接触する直前で、鋭角に曲がった。

 

 目を閉じていた塩崎は、バイパーを躱すどころか視る事すらなく被弾した。

 そのまま眠るように気絶し、地面に崩れ落ちる。

 

 犬飼を拘束する為、塩崎が地底から伸ばしていた蔦が、芯を失ったように地面にバタバタと落ちていった。

 

 静まり返った会場に、ミッドナイトの判定が響き渡る。

 

 「塩崎さんダウン! 犬飼くん、三回戦進出!!」

 

 会場が、爆発したような歓声に包まれた。

 

 『なんだ今の!!? 弾が曲がった!?』

 『犬飼の個性は武器の創造……つまり弾丸も武器の一つってわけだ。鉛弾の時点で他に種類があることを想定して戦うべきだったな』

 『……鉛弾って、犬飼が騎馬戦で使ってた重くなるヤツか!』

 

 興奮を隠せないプレゼントマイクに、相澤が解説する。そこで初めて開示された犬飼の個性に、会場が納得と感嘆でざわついた。

 A組の生徒達も、犬飼の新しい個性のお披露目に興奮を隠せない。

 ここに緑谷がいれば、誰よりも目を輝かせていたことだろう。

 

 「何アレ何アレーー!!」

 「前見た曲がる弾とはなんか違くね? こう曲がり方が鋭いっていうか……」

 「ギュンって曲がったよな!」

 「……もしかして、弾の軌道を操作したのでしょうか?」

 「ようわからんけど個性強すぎやろ、犬飼くん……!!」

 

 声が聞こえたのか、犬飼がA組席を振り返り手を振った。

 

 「……これは惚れるッ。俺の仇を取ってくれるなんて……犬飼、なんていい奴!!」

 「絶対に違うと思う」

 

 感激する上鳴の言葉を一刀両断した耳郎は、先程の爆豪の言葉を忘れていなかった。

 

 「爆豪、あんたなんであの時犬飼が勝つってわかったの?」

 

 初めて目にする犬飼の変化弾への対策に思考を回していた爆豪は、耳郎の質問に珍しく静かな返答を返した。

 

 「戦闘中に敵に背を向けて目を閉じるような、自殺願望丸出しの奴にアイツが負けるかよ」

 

 背を向けたのは塩崎の個性の関係もあるだろうが、戦闘中に油断するような人間を擁護するような爆豪ではない。

 容赦なく「雑魚が……」と吐き捨てる。

 

 「お前、もっとオブラートに包めよ……!」

 

 他学科からの突き刺さる様な視線を思い出した上鳴が顔を青くするが、爆豪はそれに答えず自身の試合の為に立ち上がって控室へ歩いていった。

 対戦相手である飯田が慌ててその後を追いかけて行く。

 

 「……爆豪が他人を認めてるような発言したの初めて聞いた」

 

 耳郎が驚きで声を漏らすと、一連のやり取りを見ていた尾白がその理由を教えてくれた。

 

 「爆豪は犬飼に負け越してるからね」

 「爆豪が!?」

 「ってか負け越しって、そんなに戦ってるの? 何時!?」

 「爆豪が負け越してるって……マジか」

 

 聞き耳を立てていたクラスメイト達が驚きのあまり叫んだ。

 

 「ほら、爆豪って4月誕生日だったから。「誕プレ何がいい?」って犬飼が聞いたら、「俺と戦え」って爆豪が言ったらしくて」

 「わかる」

 「脳内再生余裕だわ」

 「だよね……で、負けた爆豪が再戦を申し込んで何度か戦ってるみたい」

 

 尾白がその事実を知ったのはつい先ほどの事だが、それは黙っておく。

 

 「……でも意外だな」

 「何が?」

 

 瀬呂の言葉に、上鳴が首を傾げる。

 

 「いや……別に悪口じゃねぇんだけど、爆豪とか轟は強者のオーラっつうか「俺とお前たちは違う」みたいな態度とることあっけど、犬飼はねぇじゃん。だから爆豪より強いイメージがないっていうか」 

 「あー……、まぁ一線引いてるとこはあるよな」

 

 騎馬戦で爆豪に「個性知らねぇ!」と言われた面々と、体育祭前に「ザコ」呼びされた経験のある峰田が大きく頷く。

 

 「轟さんは確かにお強いですけど、別に私たちを軽視しているようには感じませんが……?」

 

 騎馬を組んだ経験のある八百万の言葉に、上鳴も頷く。

 

 「轟の場合はこう……なんていうの、主導権を譲らない感じ?」

 

 皆が瀬呂の感覚的なイメージを理解できず、?を浮かべる。

 だが、一人だけその感覚を理解できた人間がいた。峰田だ。

 

 「俺はわかるぜ」

 「嫉妬じゃん」

 「ちげーよ!!」

 

 イケメンに対する嫉妬だと決めつけられた峰田が、大声で否定する。

 

 「騎馬戦でさ、オイラ騎手だっただろ?」

 「あれ意外だった!」

 「俺は絶対犬飼だと思った! あの中で一番点高いの犬飼だし!」

 「それだよ!」

 

 峰田が砂藤を指す。

 

 「オイラはこの身長だから騎手しかできねぇ。でも轟や爆豪じゃオイラが騎手をするからチームを組んでくれなんて言っても、多分一考もしてくれなかったと思うぜ。……今だから言えるけど、オイラ絶対断られると思ってたんだよ」 

 

 だが犬飼は峰田のチーム入りを了承し、騎馬戦では轟相手の指揮を峰田に委ねた。犬飼は勝つためなら、自分を駒にすることさえ厭わない。それが轟・爆豪と犬飼が決定的に違う点だと峰田は指摘する。

 

 上鳴は轟に誘われたときのことを思い出した。

 

 「確かに爆豪とか轟が騎馬してるのは想像できねぇな。ってか轟に誘われたとき、騎手は轟だろうなって何の疑問もなく思ってたわ」

 「……そう、ですわね」

 

 それには八百万も同意するしかなかった。

 おそらく轟は、チーム選びの際に自分が()()である前提で作戦を立て、八百万達を誘った。自身が騎馬になる可能性など最初から除外していたように思う。

 

 「爆豪は……考えるまでもねぇな」

 「ないね」

 「ないな」

 「ねぇな」

  

 瀬呂の言葉に、爆豪チーム一同は考えるそぶりすらなく同意した。

 騎馬をする爆豪……、騎手を置き去りにして点を取りに行く姿しか見えない。

 

 「犬飼は強いけど……普段はなんつーか普通だよな。俺達と馬鹿話もするし、一緒に飯も食うし、ノリも軽いし」

 「言っちゃ悪いけど強そうには見えねぇよな~」

 「ヒョロイし……ウグッ!?」

 「なんでおれの悪口大会になってるのさ」

 

 登場と同時に上鳴にヘッドロックを決めた犬飼は、渋面でクラスメイトを見渡した。

 

 「違う違う! 犬飼は強いけど普段はチャラくて強そうに見えねぇって話をだな!」

 「擁護になってないわよ、上鳴ちゃん」

 「ほんとにね」

 

 喚く上鳴が煩かったので解放してやる。

 そのまま上鳴の後ろの席に座り、ステージを見下ろした。

 

 「あ、常闇出てきた」

 

 皆の視線がステージに集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、2回戦第三試合が始まった。

 

 中距離戦闘を得意とする常闇と、近接戦闘及び索敵などを得意とする障子。

 障子が勝つには常闇に近づく必要があるが、黒影の攻撃の手を掻い潜り近づくのは容易ではない。黒影の怒涛の攻撃を凌ぐのがやっとで、障子は常闇に近づくことすらできなかった。

 

 (黒影……敵に回すとここまで厄介なのか!!)

 

 犬飼がチームに誘うわけだと、障子は納得した。

 騎馬戦でチームを組んだ障子は、常闇の弱点が”光”だと知っている。だが日光以上の光を障子の個性では生み出すことはできない。

 

 黒影ごと投げ飛ばそうとしたが、常闇が黒影を自身に戻したことでそれも失敗。

 その隙に距離を詰めようとした障子を、飛び出した黒影が場外まで弾き飛ばし、常闇の勝利となった。 

 

 

 試合を見届けた犬飼は、クラスメイトに一声かけて控室に向かう。

 

 

 第四試合は、爆豪と飯田。

 

 爆豪相手に長期決戦は不利と悟った飯田が、スタートと同時にレシプロバーストで先制攻撃を仕掛ける。

 ほぼ初見だった爆豪は、その攻撃を躱しきれず腹部に重い一撃を食らった。

 

 咳き込む爆豪を掴んだ飯田は、その体を場外へ投げ飛ばそうと走り出す。

 そして、白線まで数mを切った時、飯田の背中で爆発が起こった。爆風とレシプロバーストにより飯田の体が白線を超える。

 

 「ッ……!」

 「避けれねぇなら利用するだけだ」

 

 第四試合。勝者は爆豪。

 

 準決勝に進む4名が決定した。

 

 

 

 

 

 

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