銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
決勝戦のため、控室で待機していた犬飼は勢いよく開かれたドアに驚いて顔を上げた。
「あ?」
ドアを蹴破った爆豪は、座っている犬飼を見て怪訝そうな顔をする。
「何でてめェがここに……」
「うん、多分だけど控え室間違ってるよ。ここ2だから」
「チッ!! クソが……!!」
爆豪はくるりと背を向けて部屋を出ていく。
ドアを閉める寸前、彼らしくない静かな声が犬飼に向かって投げられた。
「本気でやれよ。手ェ抜きやがったら殺すからな」
犬飼が答える前に、ドアが閉まる。
遠ざかっていく爆豪の足音を聞きながら、犬飼は呟いた。
「……もうトリオンカツカツなんだけどな~」
最悪、換装が解ける前に棄権しようと考えていたのだが、それをやると末代まで祟られそうである。
……どうしよう。
犬飼は結構本気で途方に暮れた。
『さァ雄英体育祭もいよいよラストだ! 雄英1年の頂点がこの一戦決まる!!
決勝戦!! ヒーロー科「犬飼澄晴」 対 同じくヒーロー科「爆豪勝己」!!』
名前を呼ばれステージ登る。
鼓膜が破れそうなほどの歓声が耳を刺した。
爆豪と犬飼は互いに種類の違う笑みを浮かべながら、神経全てを相手に集中させていた。
犬飼のトリガーを握る手に力がこもる。
『START!!』
試合開始の合図とともに走り出した爆豪が、一瞬で距離を詰める。
「トリガーオン」
「死ねぇぇぇぇぇええ!!」
顔面狙いの爆破をシールドで防ぐ。
「甘ぇ!!」
爆豪が爆破の勢いを利用して犬飼の右側に回り込む。
犬飼はシールドを変形させて爆破を防ぐと同時に、体を前傾させ、左足を大きく回して爆豪に蹴りを叩きこんだ。
まさか体術で反撃されると思っていなかった爆豪は、蹴りをもろに食らって吹っ飛んでいく。
「ハウンド」
キューブを細かく分割。
弾丸が爆豪を追撃する。
『犬飼の回し蹴りが爆豪にヒット! だが爆豪、空中で態勢を整え、次いでに跳んできた弾丸を爆破で相殺!』
『遮蔽物のないこのステージで、機動力だけでほぼすべての弾丸を躱してる。ほんとに末恐ろしい才能だな』
ド派手な展開に、観客から盛大な歓声が上がった。
爆豪は全ての弾丸を処理すると、再度こちらへ向かってきた。
爆破を利用した高い機動力を活かし、ハウンドの追尾を振り切る。
そして、掌を犬飼に向けると、最大火力の爆破を叩きこんだ。
凄まじい爆音と爆風が会場を揺らす。
『麗日戦で見せた特大火力が炸裂! あれ人間に向かって打っていいヤツなの……ッうわっ爆豪!?』
粉塵の中から打ち上げられた爆豪を見て、プレゼント・マイクが素で驚いて声をあげる。
その軌道をなぞるように弾丸が爆豪に向かって飛んでいった。
「グラスホッパーか……」
犬飼と対戦して同様に打ち上げられた経験のある轟が、冷静に分析する。
「チッッッ!!」
爆豪は上昇する勢いを利用して体を回転させ、自身に向かってくる弾丸に爆破を飛ばして防いだ。
粉塵が晴れる。
傷一つない犬飼を見て、爆豪は歯噛みした。
(今までの火力じゃ足りねぇ! 考えろ! あのシールドをぶち抜いて、アイツの体に穴を開ける方法!!)
犬飼のトリオン体は、個性による攻撃以外には高い耐性を持つため、破壊するのはとても難しい。
特に爆豪の”爆破”の威力の大半を占める衝撃波や爆風は、犬飼にとっては視界が悪くなる程度の脅威でしかない。
『犬飼無傷かよ! すげぇなオイ!』
『個性の相性が悪いな。爆豪が勝つためにはゼロ距離で爆破を叩きこむしかない』
とまぁ、客観的に見て不利なのは爆豪に見えたが、実際に追い込まれているのは犬飼の方だった。
なんせもうトリオンがない。本当にない。持久戦に持ち込まれたらトリオン切れで負ける。
試合を見ていた麗日は、ふと浮かんだ疑問を口に出した。
「犬飼くん、銃使わんね」
「え……」
「決勝戦なのに、なんでいつもと違う戦闘スタイルなんやろ?」
確かに、と緑谷は思った。
犬飼は奇抜な発想で戦うより、訓練で磨いた技術を実践で活かす堅実な戦い方をするタイプだ。
「……そうか! 使わないんじゃない! 使えないんだよ!」
「使えない?」
「なんでだよ!?」
麗日と、偶々緑谷の後ろにいて話が聞こえていた峰田が声をあげる。
「犬飼くんの個性は生命エネルギーで武器を創る個性だ。銃を作るのにも弾を作るのにもエネルギーを使う!」
「つまり……銃を創ると試合で使えるエネルギーが減るから作らなかったってことか?」
「そう、そうだよ! 個性は身体能力の一部なんだ、必ず限界がある!」
轟の言葉に緑谷は興奮を隠さず頷く。
「持久戦に持ち込めばかっちゃんの勝ち、だけど……」
爆豪の性格的にそんな戦法は取らないだろう。
そして、その通りになった。
落下の勢いに回転を加え、犬飼の弾丸を吹き飛ばしながら接近する。
「
咄嗟に張った集中シールドに、爆豪が触れた面を中心に罅が入る。
「まだだァ!!
爆破を一点に集中し、起爆。
貫通力を極限にまで上げた一撃が、シールドを破壊し、犬飼の体に穴を開けた。
「……お見事」
犬飼は手放しで称賛を送った。
爆風が晴れ、大型モニターに、腹部に穴を開けトリオンを漏らす犬飼の姿が映し出された。
一瞬の空白、そして悲鳴が会場のあちこちからあがった。
そりゃそうなる。
『トリオン供給機関破損』
犬飼の換装体が解ける。
無傷になった犬飼を見て、観客の大多数が状況を飲み込めず呆然とした。
『犬飼、爆豪の攻撃で戦闘用に構築していた体が破損したー!! てか爆風で全く見えなかったが何をしたんだ爆豪!』
『おそらく、爆破を一点集中させて貫通力を上げたんだろ。手がイカれてもおかしくない一撃だが……一応加減はしてたようだな。だが……まだ決着はついていない』
爆豪が犬飼に爆破を叩きこんだ瞬間、地面から発射された弾丸が犬飼もろとも爆豪の体を吹っ飛ばした。
『な、なにが起こったー!? 地面から弾が発射されたように見えたがどういうことだ!?』
『犬飼は弾丸の一部を地面に置いておいて、それを時間差で発射させたんだろう』
『そんなこともできんの!? というかこれは——』
地面に転がった2人にミッドナイトが近づく。
「両者ダウン!! 引き分け!!」
『まさかまさかの引き分け! 決着は2人が目覚めてからお届けするぜ!』
爆豪と犬飼が目覚めたのはそれからすぐの事だった。
「犬飼くん、戦闘継続は可能?」
「いやー無理ですね。トリオン体も破壊されたし、トリオン切れで個性も使えないです」
「ざけんな! 気合で何とかしろや!! こんな勝ちは認めねぇ!!」
「あぶなッ、ってかおれまだ負けてないからね!?」
殴り掛かってきた爆豪を間一髪避ける。
「戦闘が無理なら……決着は腕相撲とします!」
「やっぱ俺の勝ちじゃねぇか!! 戦え!!」
爆豪は決定に異を唱えたが、ミッドナイトが「眠らせて不戦敗にするわよ」と個性をちらつかせると大人しくなった。
セメントスが個性で台座を作り、犬飼と爆豪は互いに左手を出して向かい合った。
「爆豪くん、本当に利き手じゃなくていいの?」
「ハンデにすらならんわ!」
「否定できない……」
勝ちを確信している様子の爆豪と、意気消沈している犬飼に実況のプレゼント・マイクが反応する。
『え、なに? 犬飼ってば腕相撲弱いの?』
相澤は黙って顔を逸らした。
『えーなんかすごく反応が気になるところですが、時間もないので、レディー……GO!!』
「弱い!!」
「うわっ……!」
スタートの合図とほぼ同時に、犬飼の甲が台に叩きつけられた。痛い。
『勝者 爆豪!! というか瞬殺だったな!!』
観客も呆気にとられる程、早い決着だった。
「……加減してくれてもよくない?」
「したわ! テメェが軟弱なんだよ! 鍛えろ見せ筋野郎が!」
「見せ筋はやめて」
『以上で全ての競技が終了!! 今年度の雄英体育祭1年の部、優勝は、A組———爆豪勝己!!』
「まぁ……予想通りっつーかなんというか」
「至極当然の結果だな」
「爆豪がドン引きしてる……」
「まぁ、犬飼って素の身体能力低いからな~」
「個性に頼りすぎるとこうなるのね……」
授業中の体力づくりなどで犬飼の身体能力を知っていたクラスメイトは、納得の様子で頷いていた。
『それではこれより表彰式に移ります!』
雄英スタジアムの上空に、喝采とともに鮮やかな花火が撃ちあがった。
表彰台に立つ4人に皆の視線が集中する。
優勝 A組 爆豪勝己
準優勝 A組 犬飼澄晴
3位 A組 常闇踏陰・轟焦凍
『メダル授与に移ります! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!』
「ハーハッハッハ!!」
その特徴的な笑い声に、皆が瞳を輝かせて彼を見た。
『我らがヒーロー。オールマイトォ!!』「私がメダルを持って来た!」
ミッドナイトとオールマイトのセリフが綺麗に重なり、何とも言えない雰囲気がスタジアムに流れる。
悲しみに体を震わせるオールマイトに、ミッドナイト両手を合わせ謝罪した。
不幸な事故があったものの、気を取り直したオールマイトはミッドナイトから受け取ったメダルを、常闇の頸にそっとかけた。
「常闇少年、おめでとう! 強いな君は!」
「もったいないお言葉」
謙虚な姿勢で受け止める常闇を、オールマイトは優しく抱きしめ、励ますようにその背を叩いた。
「ただ! 相性差を覆すには”個性”に頼りっきりじゃダメだ」
「だとよ見せ筋野郎」
「やめて、おれのライフはもうゼロだから」
オールマイトは爆豪と犬飼を振り返った。
「ちょーっとお口閉じてような2人とも!」
「……」「すみません」
オールマイトの向こうでこちらを威圧する担任の姿を見た2人は、速攻口を閉じた。
「常闇少年、地力を鍛えれば取れる選択が増すだろう。頑張って」
「……御意」
続いて、同率3位の常闇にメダルが授与される。
「轟少年、おめでとう。準決勝で炎を収めてしまったのは何かワケがあるのかな」
メダルを受け取った轟は、オールマイトの穏やかな声に促されるように、思いを吐露した。
「緑谷戦できっかけをもらって……わからなくなってしまいました。あなたがやつを気にかけるのも……少し、わかった気がします」
緑谷との戦いで思い出した、自分の原点。
「あなたのようなヒーローになりたかった。ただ、俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ……ダメだと思った。
清算しなきゃならないものが、まだある」
顔を上げ、そう告げた轟は、体育祭前とはまるで別人のように穏やかな空気を纏っていた。
「うん、顔が以前と全然違う」
安堵した表情で轟を見つめたオールマイトは、小さなその体をグッと抱き締めると、ポンポンと優しくその背中を叩いた。
「深くは聞くまいよ。今の君にならきっと清算できる」
「はい」
次いで、犬飼の番が来た。
「犬飼少年! 準優勝おめでとう!」
首を下げメダルを受け取った犬飼は、苦笑いで礼を言った。
「ありがとうございます。とはいえ負け方が負け方なので、あまり喜べないですね」
「そう憂うことはない。君が雄英に入って体づくりを頑張っているのは知っているよ。大切なのは続けることだ」
「……はい」
コソ練は普通にバレていた。
「さて爆豪少年! 優勝おめでとう!!」
「当然だろうが!」
ん、と首を差し出す爆豪に、野生動物が懐いたときのような感情を感じながら、オールマイトはその首にメダルを掛けた。
「あのヒーロー基礎学からたった1か月で、目を見張る様な成長ぶりだ。本当に驚かされたよ。常にトップを目指すその姿勢が、今日の結果に繋がったのだろうね」
「……来年は」
「ん?」
「来年は見せ筋野郎も負かして、俺が完膚なきまでの1位をとる! 見とけよオールマイト!!」
勝気な笑みを浮かべるそう宣言した爆豪に、オールマイトは嬉しそうな顔で頷いた。
「あぁ見ておくよ。…………でもその口の悪さは早めに改善した方がいい」
「余計なお世話だ!!」
「いやマジで」
見せ筋野郎と連呼されている犬飼は、オールマイトの言葉に深く共感した。
表彰者全員へのメダル授与を終えたオールマイトは、表彰台から降りると、生徒達を指し示した。
「今回の勝者は彼らだった! しかし皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! てな感じで最後に一言! 皆さんご唱和下さい! せーの!」
「「「プルス「おつかれさまでした!」ウル……えっ!?」
「そこはプルスウルトラでしょ、先生」
犬飼は思わずツッコミを入れた。
「いや、あの……みんな疲れただろうなと思って……」
あまり締まらなかった最後だったけれど、雄英体育祭は何事もなく幕を閉じた。
トリガー構成(決勝戦)
●メイントリガー●
グラスホッパー
シールド
●サブトリガー●
ハウンド
犬飼(見せ筋野郎)
「筋肉は見せる派」だったが、大舞台で負けたことで「筋肉は使う派」への改宗を検討している。
本人の知らないところでオールマイト息子疑惑が出ていたが、腕相撲で瞬殺されたことで噂は一掃された。
爆豪(あだ名製造機)
「筋肉は使う派」のA組トップ。今回「筋肉は見せる派」の代表を打倒し、その勢力を拡大させている。
犬飼の生身の身体能力にドン引きしている。弱すぎて。
だが、爆豪自身、犬飼の体に穴を開けてヒーロー達にドン引きされていることを、本人はまだ知らない。