銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
体育祭後、表彰台へ上がった犬飼達4人は、インタビューを終えHRのため教室へと戻った。
教室の中に空席を見つけた犬飼は、僅かに目を見開く。
(そういえば、表彰式の時も飯田くんの姿見てないな……)
思わず足を止めると、教壇に立っている相澤に目で急かされ、犬飼は慌てて席に着いた。
「じゃあ、お疲れっつうことで、明日、明後日は休校だ」
「!!」
担任の言葉に生徒達の顔が輝く。
「プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」
しっかり休めと言いながら、指名という言葉で生徒達にプレッシャーを掛ける担任に、犬飼は何とも言えない表情を浮かべた。
「じゃあ解散」
「「「お疲れ様でした!!」」」
HRが終わり相澤が教室を出ていくと、生徒達は一斉に話し出した。体育祭の興奮が冷めないのだろう。
「犬飼、準優勝おめでとう!」
「轟、爆豪と連戦してあそこまで戦えるなんてすげぇよ!」
砂藤、切島の言葉に犬飼が答えるより早く、爆豪が反論した。
「たかが体育祭の数試合でへばってんじゃねぇよ! いいか! 1年の今のトップはこの俺だ! クソデクでも半分野郎でも、そこの見せ筋野郎でもねぇ! デカい顔してんじゃねぇぞ!!」
安定の爆豪であった。
「か、かっちゃん! その言い方はよくないよ!」
「うるせぇ! 個性の制御もできてねぇ奴は黙ってろ!」
見慣れた幼馴染のやり取りを前に、上鳴達は遠い眼をした。
「これが俺たちのトップかぁ……」
「天罰でも落ちねぇかな」
「……瀬呂って、たまに怖い事いうよな」
「犬飼! 常闇! お前らが負けたせいでA組の恥が世間に晒されんぞ!」
上鳴がブラック瀬呂の発言に震えている中、峰田は実際に爆豪と戦った犬飼と常闇に責任を問いかけた。名指しされた犬飼と常闇は顔を見合わせ、表彰式後の爆豪のインタビューを思い出した。
『体育祭優勝おめでとうございます! 今のお気持ちはいかがですか?』
『あぁ!? なんでんなことをてめぇに言わなきゃなんねぇんだよ!!』
『爆豪! インタビュー! インタビューだから!』
『これも勝者の定めだ、爆豪』
『うるせぇ! 俺が負けるはずねぇだろうが! 予定調和に嬉しいもクソもあるか!』
『……オールマイトに褒められた時は嬉しそうに笑ってたじゃねぇか』
『ぁあ゛!? 目ェ腐ってんのか半分野郎!!』
『腐ってるわけないだろう? お前こそ目大丈夫か? 眼科行くか?』
『はいはい喧嘩しない! 爆豪、プロになったらインタビュー受ける場面なんて沢山あるんだよ。その練習だと思ってさ、答えてあげなよ。ね?』
『……本当に彼はヒーロー科の生徒ですか?』
『それ以外の何に見えるんだよ雑魚が!!』
『『敵』』
『殺す!!』
『
『すみません! 爆豪は優勝して嬉しさのあまり情緒不安定になっているんです。(いつもだけど) 今回は爆豪が優勝、俺が準優勝という結果でしたが、勝ちを確信した試合は一つもありませんでした。来年の体育祭では今より成長した姿を皆さんに見せられるよう、より一層頑張っていきたいと思います』
『何勝手に答えてんだてめぇ!!』
上記はインタビューの冒頭一部だが、常闇と犬飼の大変さはよくわかっていただけただろう。インタビュー後、「ちょっと休憩しない?」と自販機を指さした犬飼と「是」と答えた常闇を誰が責められるだろう。
犬飼と常闇は声を揃えていった。
「「もう遅い……」」
「ナニがあった!?」
どんよりとした空気を纏う2人に、切島がツッコむ。
「大丈夫? 尻尾触る?」
「なんかおっぱい揉むみたいでエ「サイテーよ峰田ちゃん」ゴフッ!!」
尾白の気遣いを一瞬で無に帰した峰田に、蛙吹の一撃が炸裂する。
女子の追撃が峰田を襲う中、常闇と犬飼はふらふらと尾白に近づくとその尻尾に触れた。
「ふわふわだ……」
「あぁ、ふわふわだな」
「語彙が溶けてる……!」
「クソ! 2人をこんな姿にするなんて最低だぞ爆豪! ってもういねぇ!!」
「爆豪さんなら、こんな茶番付き合いきれない、と先程帰って行かれましたわ」
わいわい騒いでいると、突然教室のドアが勢いよく開かれた。
「お前ら何時まで残っている気だ。他の奴らはとっくに帰ってるぞ」
「相澤先生……!」
クラスを見渡した相澤は、尾白の尻尾を触っている常闇と犬飼を見て僅かに首を傾げた。
「……お前ら、何してるんだ?」
「これがアニマルセラピー」
「まさに極上」
「……そうか。疲れてんならさっさと帰れよ」
相澤の可哀そうなものを見る目に正気に返った犬飼達は、慌てて帰り支度をして校舎を出た。
「また……明々後日!」
「おう! またな~」
「またね~」
未だに雄英職員寮の一角を借りて寝泊まりしている犬飼は、校門で皆を見送った。
クラスメイト達が完全に背を向けたのを確認して、自分も寮への帰途につく。
寮へ帰った犬飼は、まず自室でシャワーを浴び汗を流すと、リビングへ下りた。外は薄暗いが、教師陣の姿は見えない。体育祭の片付けなどで忙しいのだろう。
犬飼はタオルで髪を拭きながら、リビングに壁掛けされた大型テレビの電源を入れた。
予想通り、どのチャンネルでも雄英体育祭の様子が流れている。
『両者ダウン! 引き分け!』
『まさかまさかの引き分け! 決着は——』
繰り返し流される決勝の最後。
犬飼は思わずテレビの電源を切った。
「………………悔しいなぁ」
口に出すとより現実を突きつけられた気がして、犬飼は口元を押さえた。
まさか悔しくて吐きそう、なんて経験を自分がすることになろうとは思わなかった。
(決して勝てない勝負じゃなかった……っていうのは言い訳だよね。俺の実力が足りなかった)
プロヒーローには一人であらゆる状況に対応する力が求められる。今回、犬飼はその対応力に欠けていた。
狙撃手ほどではないが、弾丸にトリオンを使用する銃手は長時間の戦闘継続は難しい。いくら前と比べトリオン量が増えたとしても、1日撃ち続けられるかと言われれば、答えは「否」だ。
(おれ、銃手としてのレベルはそこそこ鍛えてるけど、攻撃手とか狙撃手としての腕は全然だからなぁ。換装解けると一般人と変わらないし。生身での運動能力強化は継続の課題としても、トリオン消費を抑えた戦い方は必要だよね)
となると……。
「弧月かスコーピオン、レイガスト……かな」
犬飼は電話の横にあるメモ帳から1枚拝借し、ついでにペンも借りてリビングの机の傍に腰を下ろした。そこそこ大きなメモ用紙に、攻撃用トリガーの特徴をまとめていく。
①弧月
重量があり、形状も自由に変えられないが、攻撃力と耐久力に優れている。
オプショントリガーである旋空を利用して攻撃を拡張したり、幻踊で刃先の形を自在に変えることが可能。
②スコーピオン
体のどこからでも自由に出し入れでき、トリオンを調節すれば形状も変えられる。
刃を長くすればするほど、強度は落ちる。
③レイガスト
ブレードを変形させて盾にする「シールドモード」を持つ。
オプショントリガーであるスラスターを使用すれば、ブレードを瞬時に加速させることができる。
犬飼の脳裏に、それぞれのトリガーを使用した戦闘の映像が次々と浮かんで消えていく。
(やっぱレイガストは初心者には厳しいよね……。というか使用者が少なすぎて、あんまりよくわからないし)
レイガスト、という文字を射線で消す。
残るは弧月とスコーピオンである。
耐久力なら弧月、汎用性ならスコーピオンに軍配が上がるだろう。以前の犬飼は、鳩原が抜けた穴を補うため、チーム戦術を考慮してスコーピオンを選択した。
(——中途半端に手を出すよりは、極めてから次に行った方がいいよね。結局スコピでマスター行けなかったし。あとトリガー創造方法も考えないと。今はトリガーを思い浮かべて創造してるからか、日によって性能にムラがあるんだよね。これをコンピューターを通して前と同じように一律にできれば、安定した戦い方ができる。これは俺の力だけじゃ難しいから、パワーローダー先生に要相談、かな?)
メモ帳の空いているスペースに、体育祭を通して見つけた課題を書き込んでいく。
それをさらに要約する。
「ざっとこんな感じかな~。あとは追々ってことで!」
①スコーピオンをメインとした戦闘スタイルの確立
②個性に頼らないトリガー技術の実用化
③生身の運動能力の強化
「よしッ」
時計を見ると19時を指していた。
タイミングよく携帯が鳴る。どうやら先生たちはまだ帰れないらしい。
(教職ってブラックだよな……)
それに加えてヒーロー活動まで行っているというのだから、雄英教師は本当に凄い。労基に引っかからないところが。
「ご飯食べたら寝よっと」
冷蔵庫に山積みされたランチラッシュが作り置きしてくれた総菜を温めると、サッと食事を済ませる。
歯を磨いて、ベッドに横になったまま友人達へメッセージの返信をしている間に犬飼は何時の間にか眠っていた。