銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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ヒーロー基礎学①

 

 入学初日の試練を乗り越えた、翌日。

 

 早々に授業が始まり、午前中は必修科目の授業が行われた。教師はもちろんプロヒーローで、意外と普通に授業をしていた。むしろ普通過ぎて期待していた生徒達は少しがっかりしていたようだ。

 

 昼休みは大食堂でクックヒーロー”ランチラッシュ”による一流の料理が、学生価格で楽しめる。

 これだけで雄英に来た甲斐がある、そう零すと一緒に食事していた障子達も同意していた。

 

 そして、午後の授業。

 ヒーロー基礎学の担当はあのNO.1ヒーロー”オールマイト”。

 授業開始前からソワソワしていた生徒達は、勢いよく登場した彼に歓声を上げた。

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 昔のコスチュームを着て登場したオールマイト。その威風堂々とした姿に、生徒達は憧れの眼差しを向けた。

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!!!」

 

 オールマイトは『BATTLE』と書かれたプレートを見せる。

 戦闘という言葉に、午前中はつまらなさそうに授業を受けていた爆豪が急に生き生きし始めた。

 

「そしてそいつに伴って…こちら!!!」

 

 オールマイトが手元の機械を操作すると、教室の壁が一部迫り出し、棚が飛び出してきた。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!」

「おおお!!!」

 

 出席番号の記載されたアタッシュケースがそれぞれ手渡される。

 被服控除を申請していない犬飼の分も用意されており、戸惑いながらとりあえず受け取る。

 

「犬飼少年はコスチュームなしということだったが、一人だけないのもどうかという意見が出てね。個性届と入試の実技試験を参考にこちらでコスチューム依頼しておいた。

  プロになれば生身で戦うこともあるだろうから、持っておいて損はないと思うよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 穏やかな声でオールマイトがコスチューム制作の経緯を話す。

 犬飼は教師たちの優しさをギュッと抱き締め、珍しく含みのない笑顔でお礼を言った。障子と目が合う。よかったなと言外に語る障子に犬飼も笑みを返した。

 

 

 皆がコスチュームを受け取ったのを確認して、オールマイトが学内の見取り図を黒板に表示する。

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」

「はーい!!!」

 

 

 

 

 

 

 男子更衣室。

 アタッシュケースに同封されていた説明書を参考に、皆着替え始める。

 

 犬飼のコスチュームは案の定スーツだった。耐火性・防水性・防弾性など、シンプルな分素材にこだわりました、と説明書には書かれている。

 ネクタイは無地で、犬飼は後で二宮隊のマークを入れてもらおうと脳内にメモする。

 

 装飾が少ない犬飼は着替えに戸惑う事もなくさっさと着替え終わる。

 先に着替えていた障子がスーツ姿の犬飼を見て「入試の時の衝撃を思い出すな」と言った。

 

「どう? カッコいい?」

「あぁ、良く似合っている」

 

 真顔で頷く障子。

 

「障子もカッコいいよ。というか同じ男として羨ましい体格だよね」

 

 平時と同じように口元を覆うマスクには触れず、純粋に羨ましいと思った部分のみを口にする。

 犬飼の言葉に障子は何処かホッとしたように「鍛えているからな」と返した。

 

 

 

 

 

 

 着替え終わった生徒達がグラウンド・βに集合する。

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?!?」

 

 某ライダーのように顔が全く見えないロボット風のコスチュームに身を包んだ飯田が、手を上げて質問する。

 

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!!

 敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ」

 

 そう言ってオールマイトは今日の戦闘訓練の内容を発表した。

 

 二人一組でペアを組み、「敵組」と「ヒーロー組」に分かれ屋内戦を行う。

 「ヒーロー」の勝利条件は、制限時間内に敵全員を捕縛するか敵が屋内に隠した核兵器を回収する事。

 「敵」の勝利条件は、制限時間まで核兵器を守るかヒーローを全員捕まえる事。

 

 設定が突拍子もなさ過ぎて現実感が湧かないが、とりあえず条件は皆が理解した。

 

「コンビ及び対戦相手は、くじだ!」

 

 適当ではないか?と言った飯田を緑谷がやんわり説得して、早速くじ引きが始まる。

 出席番号順にくじを引いていき、犬飼は尾白とIチームになった。

 

「よろしくね尾白くん」

「呼び捨てでいいよ。俺も犬飼ってよんでいい?」

「全然いいよ。じゃあ早速だけどお互いの個性把握しとかない?」

 

 一回戦はヒーロー側が緑谷と麗日、敵側が飯田と爆豪だった。

 

「敵チームは先に入ってセッティングを!

 5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。

 他のみんなはモニターで観察するぞ!」

 

 対戦する4人以外は、戦闘訓練が行われるビルの地下にあるモニタールームで訓練を様子を観戦するらしい。

 地下室へ移動しながら犬飼は尾白と互いの個性を説明し合った。

 

「俺は見た通りだけどこの尻尾。猿みたいに移動したり、昔から習ってる武術を活かした接近戦が得意、かな?」

 

 尾白の尻尾は太く、振り回せば人一人くらい軽く吹っ飛ばせそうだ。

 断りを入れて触ると、かなり頑丈でどっしりとしている。尻尾の先はふわふわとしていて、触り心地がいい。しばらく触っていると尾白がだんだん顔を赤くしたので、そっと手放す。

 

「俺の個性は『武装生成』。名前だけじゃわかりづらいけど、今この体も生身じゃなくて個性で作られた戦闘用の体なんだよね」

「……なんでスーツなの?」

 

 やっと言いたいことが言えたみたいな顔をして尾白が問う。

 前世の名残なんです……なんて言えないので、犬飼は「戦闘服ならスーツだよね」と適当に答えた。

 地下室に着く。

 

「昨日50m走で使った瞬間移動とか、走り幅跳びで使った跳ねる板『グラスホッパー』って俺は呼んでるけどそういうのを造ったりもできる。後はシールドとか銃とか剣とかかな」

「凄い……応用が利く個性だね」

「でも俺、剣使えないから近接戦苦手なんだよね。どっちかっていうと、銃乱射して中距離から相手を落とすほうが得意」

「……それ死なない?」

「弾丸が当たっても痛みと衝撃で気絶はしたけど怪我はなかったから大丈夫」

 

 念のため犬飼も自身で検証したので間違いない。

 

「全然大丈夫じゃないと思うけど……」

 

 僅かに青い顔をして尾白がツッコんだ。

 その時、一回戦開始の合図が鳴り響いた。口を噤んでモニターに目を向ける。

 

 

 

 ——はっきり言えば、一回戦は悲惨の一言に尽きた。

 まぁ爆豪と緑谷に因縁があることは皆薄々気づいていたので、何かしらあるだろうとは思っていた。だがここまで酷い結果になるとは流石の犬飼も予想外である。

 

 爆豪は私怨で独断専行、個性の爆破による大規模な攻撃でビルを破壊。

 

 緑谷は爆豪に応戦するためとはいえ、扱いきれない個性の使用で重傷を負い保健室行き。

 

 麗日は戦闘訓練中に気を緩め爆笑したり、ハリボテとはいえ核に向けて瓦礫を飛ばしたりといった、実践を想定した行いに欠けた行動の連発。

 

 麗日から逃れるため、核を抱えて走った飯田が可愛く見えた。

 

 試合に勝ったのはヒーローチームだが、戦闘訓練の意味を考え動こうとしていた飯田が一番マシだった。

 

 オールマイトも訓練中何度も危険行為があったにもかかわらず、殆ど最後まで中止の合図を出そうとしなかった。生徒達が中止すべきであると訴えたにも関わらずだ。

 

 もし彼が教師の義務を果たしていたならば、緑谷はあそこまで重傷を負うことはなかっただろう。

 

 オールマイトが新任教師だということを改めて実感した試合でもあった。

 

 訓練後の講評でも同様の事が八百万の口からわかりやすく説明された。

 

 訓練では負けたものの、飯田はベストな動きだったと評価されことに感動し、爆豪は結果を受け止めきれないのか反論もせず、呆然としている。

 

 麗日は講評を聞いて反省するように俯いていた。

 

 

 

 爆豪と緑谷によってビルがボロボロにされたので、場所を移動することになった。

 

 そして第二回戦。

 

「ヒーロチームBコンビ、敵チームIコンビ! 犬飼少年と尾白少年は先にビルに入って準備をするように!」

 

 そう言って「ビルの見取り図」と「小型無線機」、敵チームに巻き付けることでとらえた証明となる「確保テープ」が手渡された。

 セッティング時間は5分。犬飼は尾白と共に地下室を出て、ビルの階段を上がった。換装すると、後ろにいた尾白から小さく驚きの声が上がる。

 

 核兵器のある4階へ向かった犬飼は、尾白に「核は動かさない」と告げた。

 

「障子の個性は触手の先端に目とか耳を複製できるから、居場所は早々にバレる。

 なら核兵器の位置で時間を使うより、情報共有と作戦に時間を割いた方が効率的だと思うんだよね」

「そういうことなら異論はないよ。障子は腕を生やす個性かと思ってたけど、目とかも作れるんだ、知らなかった。轟の個性は多分氷と炎だよな? 昨日のテストのとき使ってたし」

「だね。あと多分だけど氷は右、炎は左でしか使えないんじゃない? 氷の方が得意なのか、テストでは炎は氷を解かす以外では使ってなかったし。警戒するなら氷結の方かな」

 

 話しながら、ビルの見取りを頭に入れる。

 

「出来れば障子を先に捕らえたい。

 最初に俺たちの位置が把握されるのは仕方がないとしても、動きを全部把握されてたらやりにくいからね」

「そうだね。テープを巻くのは俺?」

「尾白が適任だと思うよ。俺の戦闘スタイルって基本片手銃で塞がってるから」

 

 左手に出した銃を見せると、尾白の瞳が輝く。男は銃好きだよね。わかる。

 

 そうして作戦を詰めているとあっという間に5分が経過した。

 

「それでは屋内対人戦闘訓練第二戦、スタート!!」

 

 

 

 

 

 ビル入り口。

 障子は触手の先に生やした複数の耳で、ビル内の様子を探索した。

 

「4階の北側の広間に二人共いるな。おそらく核もそこだろう」

 

 その言葉を聞くと、轟は障子の横を抜けてビル内を進む。

 

「外出てろ、危ねぇから。

 向こうは防衛戦のつもりだろうが……俺には関係ない」

 

 障子が何か言うより、轟の右手が壁につく方が速い。障子は巻き込まれないよう慌ててビルを飛び出した。

 

 

 

 

 

「ビルを出た? ……尾白!」

 

 レーダーでヒーローチームの動きを監視していた犬飼が、急にビルから飛び出した反応を見てこれから来る攻撃を予測し声を上げる。

 

「犬飼!?」

 

 尾白を抱え上げ、銃で窓を割り尾白と共に窓から飛び降りる。

 同時に轟による氷結攻撃で、ビルが音を立てて凍り付いた。  

 

 落下する犬飼達に気づいた障子が、顔を上げる。

 

「反応が遅いよ」

 

 尾白を空中に放り投げる。

 左手の銃から乱射された追尾弾(ハウンド)が障子に向かって飛んでいく。弾丸を避けるため障子は意図せずビルから大きく遠ざかった。

 

「障子!」

 

 外の様子に気づいた轟が慌ててビル内から出てくる。

 だが、遅い。

 

 被弾した障子が気絶する。

 犬飼は着地と同時に、弾を通常弾(アステロイド)に切り替え轟に向けて銃弾を放った。轟は即座に氷を張って射撃を防ぐ。

 

 その間に着地した尾白が、気絶した障子にテープを巻き、「障子確保!」と叫んだ。

 

 犬飼はバックステップで障子の方へ下がり、跳ねるようにして立ち上がった尾白が轟に向けて走る。

 向かってくる尾白を凍らせようとした轟の前で、その姿が一瞬で掻き消える。

 

 犬飼は、視界から消えた尾白に動揺する轟にグラスホッパーを踏ませ、空へ打ち上げた。

 

 瞬時に状況を把握した轟が空中で態勢を整えようとしたとき、腹部に凄まじい衝撃が走る。

 

「……ッ!!」

 

 犬飼に撃たれたのだと理解するより早く、さらなる追撃が轟を襲う。

 

 轟と同じようにグラスホッパーを踏んで跳びあがっていた尾白が、自身に向かって跳んでくる轟に尻尾を旋回させて叩きつけたのだ。

 

 まともに尾白の攻撃を食らった轟は受け身もとれず地面に打ち付けられた。

 ほんのわずか、衝撃で意識が途切れる。

 

 それを犬飼は見逃さない。

 

 トリオンキューブを出し、銃撃と同時に轟に向けて射出した。

 朦朧とした意識の中、氷を出して射撃を防ごうとした轟だったが、先程より格段に増えた攻撃に氷を削られ——————被弾。

 

 氷の生成が止まり、轟が気絶したことを確認した尾白が確保テープを巻く。

 

『敵チーム、WIN!!』

 

 試合開始から僅か2分。

 オールマイトが試合終了を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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