銃手のヒーローアカデミア   作:自堕落者

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マスコミと委員長決め

 

 戦闘訓練、翌日。

 

 オールマイトが雄英の教師に着任したというニュースは日本全国を驚かせ、連日マスコミが学校に押し寄せる騒ぎとなっていた。

 

 登校する生徒達マイクとカメラを向け、執拗にインタビューをせがむ報道陣。

 

 犬飼はインタビューされている生徒の脇を縫うようにして進み、声を掛けられる前に校舎へ入った。

 

 雄英高校の教師になるだけでこれほど注目されるのだ。もしオールマイトに弟子がいるなんて知られたら、これ以上の騒ぎになる事間違いなしである。

 昨日聞いた事はこっそり胸に秘めておこうと改めて決意した犬飼だった。

 

 

 

 

 

「昨日の戦闘訓練、お疲れ。Vと成績見させてもらった。

 爆豪。おまえもうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」

「……わかってる」

 

(あらら……昨日何かあったのかな?)

 

 素直に相澤の言葉を受け入れる爆豪を、犬飼は少しの驚きを持って眺めた。

 

「で、緑谷はまだ腕ブッ壊して一件落着か」

 

 名指しされた緑谷の肩が跳ね上がる。

 

「”個性”の制御…いつまでも「出来ないから仕方ない」じゃ通させねぇぞ。

 俺は同じ事言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い、焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

 相澤の助言に緑谷は元気よく返事をした。

 

「さてHRの本題だ…、急で悪いが今日は君らに……」

 

 変に言葉を区切る相澤に、また無茶難題を吹っ掛けられるのではと生徒達に緊張が走る。

 犬飼も思わず身構えた。

 

「―――学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来たーー!!!」

 

 何故間を開けたのか。

 無駄に緊張した……と犬飼は机に突っ伏した。

 

「委員長!! やりたいです、ソレ俺!!」

「俺も!」

「ウチもやりたいス」

「ボクの為にあるヤツ☆」

「リーダー!! やるやるー!!」

 

 生徒達が一斉に手を挙げ主張し始める。

 

 ヒーロー科では集団を導く素地を形成することができると、クラス委員に立候補する生徒が多い。

 

 犬飼は、この我が強いクラスをまとめるのは面倒だから絶対嫌だ、頼まれてもやりたくないと思っていたので、皆のやる気は凄く有難かった。

 

 このまま立候補者でジャンケンでもしてパパッと決めてくれないかなぁと思っていると、飯田が勢いよく声を上げた。

 

「静粛にしたまえ!!”多”をけん引する責任重大な仕事だぞ……!

 「やりたい者」がやれるモノではないだろう!!

 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!

 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!!」

 

 右手を真っすぐ上に伸ばしそう述べた飯田に、切島がツッコむ。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

「梅雨ちゃん、女の子がクソはダメだよ」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

  

 蛙吹と切島の反論に、飯田は「だからこそ」と言った。

 

「ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間という事にならないか!?

 どうでしょうか先生!!!」

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

 寝袋を取り出し寝る態勢に入った相澤が、テキトーな返事を返す。

 投票が始まり、犬飼は少し悩んだ後「蛙水梅雨」と記載した。

 

 

 

 

 

 結果、緑谷に3票、犬飼と八百万と蛙吹に2票、他1票と0票という結果になった。

 

 尾白と障子を見ると、二人が犬飼に向けてサムズアップする。だよね、きみたちだろうと思ったよ。

 

「僕3票ーー!!!?」

「なんでデクに……! 誰が…!!」

「まーおめぇに入れるよかわかるけどな!」

 

 瀬呂が爆豪の地雷でタップダンスを踊るのを合掌して見送る。

 

「0票…わかってはいた!! さすがに聖職といったところか…!!」

「他に入れたんですのね……」

「おまえもやりたがっていたのに…何がしたいんだ飯田…」

 

 落ち込む飯田を呆れた顔で見る八百万と砂藤。

 相澤は黒板に書かれた結果を見ると、複数票を確認した4人を手招きした。

 

「委員長は緑谷。副委員長は3人で話し合って誰にするか決めろ。時間は3分な」

「えーーーー!」

「そんな……!」

「先生、無茶言うわね」

「だよねぇ……」

 

 委員長に抜擢されカチンコチンになっている緑谷を置いて、犬飼達3人は話し合いの為廊下へ出される。

 

 他の2人が何かを言う前に、犬飼は「俺は辞退するよ」と言った。

 人生2周目の犬飼が、やる気がある人間を押しのけてまでクラス委員をするのは少し気が引けたからだ。

 

「緑谷くんが委員長なら、副委員長は女子の方がいいと思うんだよね。

 相澤先生も男だからね、女子たちの悩みとかケアしにくいだろうから」

「それは……あるかもしれませんね」

 

 犬飼の言葉に普段の相澤先生の姿を思い浮かべた2人が、同意する。

 

「わかったわ、犬飼ちゃんがそれでいいなら」

「じゃあ後は2人で決めてよ、あと2分だから」

 

 ひらひらと手を振って教室に戻る。

 至極がっかりした表情の峰田と視線が合ったので、「クラス委員はおれじゃないよ」というと「ヒーヤッホゥ!!」と奇声を上げて喜んでいた。

 

 1分程して、話し合いを終えた蛙吹達が教室のドアを開けた。

 相澤が問う。

 

「どっちだ?」

「私です」

「ケロ」

「そうか、じゃあ委員長緑谷、副委員長八百万だ」

 

 名前を呼ばれた2人が黒板の前に立つ。

 犬飼が拍手を送ると、釣られた皆も拍手を送った。

 

 

 

 

 

「犬飼に入れたのは迷惑だったか……?」

  

 昼休みの食堂で障子と尾白と3人で食事を摂っていた犬飼は、ご馳走様と手を合わせたタイミングで障子から発せられた言葉に目を瞬かせた。

 

「急にどうしたの?」

「……さっきの委員長決めの時、犬飼は自分に入れていなかっただろう? やりたくなかったのかと思ってな」

「やりたくないっていうか、向いてないって感じ? 俺誰かを引っ張っていくタイプじゃなくない?」

「そう? なんか犬飼って人の輪の中心にいるイメージあるんだけど」

「わかる」

 

 尾白の言葉に障子が重々しく同意した。

 

「ていうか犬飼は誰に入れたの? 2票は俺と障子だよね?」

 

 障子、犬飼から少し遅れて食べ終わった尾白が食後の挨拶を終えて、そう尋ねた。

 

「ん? 梅雨ちゃんだよ。自分のやるべきことを弁えてて、且つ協調性が高くて真面目過ぎないところが委員長っぽいなって思って」

「……なるほど。たしかに言われてみれば適任な気がするな」

 

 とその時だった。

 

 突然警報が鳴り、続くように校内放送が響き渡った。

 生徒達が一斉に立ち上がる。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい。繰り返します―――』

 

「セキュリティ3?」

「校舎内に誰かが許可なく侵入したってことだったはずだよ。

 一先ず情報を知ってそうな人に確認してみよう」

 

 食堂にいた生徒達が避難しようと入り口に殺到、一気に混乱が広がった。

 反射的に立ち上がった障子達も、普段通りの犬飼の態度に僅かに緊張が解ける。

 

 (こういうところなんだけどな……)

 

 電話を掛ける犬飼を見て、尾白は口には出さずそう思った。

 

 5コール後に通話が繋がる。

 

『犬飼か。今手が離せない、用事なら後で———』

「校舎内で警報とセキュリティ3の放送が鳴りました。原因をご存じですか?」

『……報道陣が校門を破壊して侵入した。俺とマイクで校舎への侵入を阻止している』

「警察へ通報は?」

『した』

「屋外の避難はやめた方がいいですね。誰か校内放送できる人はいますか?」

『今どこいる?』

「食堂です」

『食堂ならキッチンに校内放送用のマイクがある筈だ。ランチラッシュがいるなら対応を依頼してほしい』

「わかりました」

 

 電話が切れる。

 

「朝のマスコミが校門を破壊して侵入したのが原因だってさ。いま相澤先生たちが校舎内に入らないよう止めてるって」

「マスコミって、朝の?」

「うん。ランチラッシュに屋外への避難を取りやめるよう校内放送入れてもらうよ」

 

 周囲を見渡していると、飯田が勢いよく出入口に跳んでいくのが見えた。

 非常口のピクトさんみたいな恰好で壁に張り付く。

 

「皆さん…大丈ー夫!!

 ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません。大丈ー夫!!

 ここは雄英!!

 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

 飯田の体を張った言葉で、食堂にいる生徒達の動揺が少しずつ沈静化する。

 

 犬飼は生徒達が落ち着いたのを見計らって、厨房から生徒達に呼びかけていたランチラッシュに近づいた。

 

「1年A組犬飼です。

 相澤先生からの伝言をお伝えします。

 マスコミにより校門が破壊されましたが、相澤先生たちが校内への侵入を阻止しています。

 生徒の皆さんに、屋外への避難ではなく、各自教室に待機するよう校内放送をお願いします」

「……わかりました!」

 

 状況を把握したランチラッシュが、キッチンの奥に入っていく。

 数拍後、校内放送のベルが鳴った。

 

『生徒皆さんにご連絡致します。

 現在、雄英敷地内へ報道関係者が無断で侵入し、教師陣で対応を行っています。

 生徒の皆さんは、屋外ではなく各自の教室へ移動するようにして下さい。

 繰り返します———……』

 

 こうして事態は収束した。

 犬飼の心に僅かな疑問を残して。

 

 (雄英のセキュリティをただのマスコミが突破できるのかな……?)

 

 

 

 

 そして午後。

 クラス委員以外の委員決めが行われた。

 

「じゃあ委員長どうぞ」

「でっでは、他の委員決めを執り行って参ります!

 …………けどその前に、いいですか!」

 

 緊張で震えながら、緑谷が叫ぶ。

 

「委員長はやっぱり飯田くんが良いと…思います!

 あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は…飯田くんがやるのが正しいと思うよ」

 

 (いや、それはダメでしょ……)

 

 犬飼は緑谷の言葉に思わず困惑した。八百万と蛙吹を見ると、2人とも何も聞かされていなかったらしく驚いた顔で緑谷を見つめていた。

 だが、昼の食堂での飯田の頑張りを見ていた面々が賛同の声を上げる。

 

「あ! 良いんじゃね!! 飯田、食堂で超活躍してたし!! 緑谷でも良いけどさ!」

「非常口みてぇになってたよな」

 

 賛同する周囲の雰囲気に、犬飼は全く怯むことなく反対の声を上げた。

 

「俺は反対です」

 

 緑谷達が驚いた顔で犬飼を見る。相澤がどうしてお前は火種をバラ撒くんだという顔をしたが知らないふりをする。

 犬飼は笑みを浮かべたままもう一度「俺は緑谷くんの意見に賛成できません」と繰り返した。

 

「は、反対の理由を聞いてもいいかな?」

 

 緑谷は言葉に詰まりながらも、真っすぐに犬飼を見つめてそう質問した。前の席に座る飯田から強い視線を感じ、犬飼は彼らとはもう以前のように親しく話すことはできないかもしれないなと少し残念に思った。思っただけだが。

 

「最初に投票で決めようっていったのは飯田くんだよ。

 自分で言ったことなのに推薦されて委員長になるのは違うでしょ。

 仮に緑谷くんの1票を入れたとしても八百万さんや蛙吹さん、俺の方が2票で得票数は上。

 しかも副委員長の八百万さんの了承を得ずに、委員長権限を振りかざすのはどう考えたって越権行為だと思うけど」

 

 犬飼の言葉に八百万が泣きそうに顔を歪め、蛙吹が小さく鳴く。八百万の一票も蛙吹の一票も、誰かが期待して入れたくれた大切なものだ。

 

 犬飼が声をあげなければ2人は場の雰囲気を壊さないよう黙って受けいれだろう。

 

 だからこそ、声をあげてくれた犬飼の行動が堪らなく嬉しかった。

 

「まぁ昼の飯田くんを見て委員長に相応しいっておもった緑谷くんの気持ちはわかるよ。

 でもだったらこんな方法じゃなくて、もう一度投票をする方向にもっていくべきだったって俺は思うね」

 

 犬飼の言葉に緑谷は横に立っていた八百万を振り返った。

 その瞳にうっすら浮かぶ涙に、自分が意図せず誰かを傷つけていたことを知り、顔を真っ青にした。蛙吹もどこかホッとした顔をしている。

 

 (そうだ……麗日さん達が僕に期待して入れてくれたように、八百万さん達の1票も誰かからの信頼の証なんだ……!)

 

 緑谷は飯田がふさわしいと思うあまり、周囲への配慮に欠けていた自分に気づいた。犬飼に指摘されなければ、きっと気づきもしなかっただろう。

 

 教室中に漂う重苦しい空気を換えたのは、八百万だった。小さな深呼吸で自身を落ち着かせると、俯く緑谷の背をそっと叩いた。

 

「ではもう一度投票しましょう」

「……え?」

「蛙吹さん、いかがですか?」

「私も構わないわ」

 

 あっけらかんとしている2人に、周囲の方が動揺していた。それまで静観していた相澤が尋ねる。

 

「いいのか?」

「ええ構いません! 飯田さんのお昼の行動については私も聞き及んでおります。

 クラス委員でありながら率先して行動に移せなかった私より、飯田さんの方がふさわしいという声が上がるのも当然です」

 

 自虐する八百万だが、その姿は堂々としており、やる気に満ちていた。真っすぐ飯田を見つめ称賛するその姿に、褒められた本人が一番「な、なんて立派なんだ……!」と感涙していた。

 

「ですからここは遺恨なく投票で決めましょう。皆さん、よろしいでしょうか?」

  

 クラスメイト全員の同意により、クラス委員の再投票が行われた。

 

 結果。

 

「じゃあ委員長は飯田、副委員長は八百万な」

 

 相澤の声に、八百万と飯田が壇上でお辞儀をする。皆が拍手でそれを受け入れた。

 

「皆さんの期待にこたえられるよう、誠心誠意臨ませていただきます」

「俺を推薦してくれた友の期待を裏切らないよう、この飯田天哉! 精一杯努めさせていただきます!」

 

 ちらちらとこちらを見てくる周囲の為に、率先して拍手を送る。それを見てほっとしたのか、いつものにぎやかさを取り戻した周囲が「頑張ってー!」「頼んだぜ!!と声を掛けていた。

 チラリと時計を確認した相澤が、生徒を見渡すと調教済の生徒達が一気に静かになる。

 

「決まったならとっとと進めろ。時間がもったいない」

 

 その言葉に、クラス委員がハッとしたように動き出した。

 

「では委員決めを始めまず。まず————」

 

 

 

 

 

 

 

 




原作で「私の立場は…!?」と言っている八百万の事が気になったので少し深堀しました。
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