銃手のヒーローアカデミア 作:自堕落者
USJ襲撃事件①
水曜日の午後。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」
(なった……? マスコミの騒動が関係してるのかな?)
相澤の言葉に含みを感じた数名が、疑問符を浮かべる。
「ハーイ! なにするんですか!?」
瀬呂が挙手をする。
相澤は『RESCUE』と書かれたプレートを掲げた。
「災害水難なんでもござれ。人命救助訓練だ」
レスキューという言葉にわいわいと騒ぐ生徒達だったが、相澤の一声でスッと静かになる。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。
中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。
訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上。準備開始」
バスの座席が想定していたタイプと違ったため、飯田の指揮で出席番号順に並んでいた生徒達は、自由に席に座り始めた。犬飼も障子の隣に座る。
道中、緑谷の個性とオールマイトの個性が似ているという蛙吹の言葉をさりげなく否定したり、弄られてキレる爆豪を宥めていると目的地へ到着した。
ドーム型の巨大な建物の前でバスが停車する。
宇宙服のようなコスチュームを着たヒーローに案内され中へ入ると、そこにはテーマパークのような空間が広がっていた。
「水難事故、土砂災害、火事、etc.……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
ただのパクリである。
略称とはいえ、訴えられないのか心配になった犬飼だったが、周囲はUSJの紹介をしたプロヒーローの方に意識がいっていた。
「スペースヒーロー「13号」だ!
災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー、私好きなの13号!」
緑谷と、珍しく麗日が歓声を上げる。
13号と相澤が小声で何か話をした後、13号が生徒達に向き直った。
「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ…四つ…」
13号は生徒達に個性の”危険性”を説いた。
自身の個性が災害救助で人を救える力であると同時に、簡単に人を殺すことができる力でもあること。
この授業では人命救助のためにどう個性を活用するか、それを学んでほしい。
君たちの力は人を傷つける為ではなく、救ける為にあるのだと心得て帰って下さい……そう真摯に生徒に語り掛けた。
「―――以上! ご静聴ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる13号に、皆が拍手を送る。
「そんじゃあ、まずは……」
相澤が授業の開始を告げようとした時だった。犬飼達がいる場所から長い階段を下った先にある広場に、黒い渦が出現した。
「……?」
一番初めにそれに気づいたのは、相澤だった。肩越しに振り返る。一瞬で渦は広がり、中からゆっくりと悪意に満ちた瞳が顔を覗かせた。
「ひとかたまりになって動くな!!」
聞いた事のない相澤の怒声に、状況を把握できない生徒達が「え?」と呆けたような声を出す。
「13号!! 生徒を守れ!!」
相澤の声に呼応するように、一気に拡大した渦から大勢に人間が現れた。
犬飼は即座に戦闘体に換装する。それを見た障子、尾白、爆豪、八百万、蛙吹が戦闘態勢に入る。
「なんだアリャ!? また入試ン時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな! あれは敵だ!!!!」
切島と同じように情報を把握出来ず身を乗り出して敵を見ようとしていた生徒達が、相澤の言葉でようやく目の前に現れた存在の正体を理解した。
「13号に…イレイザーヘッドですか…。
先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが……」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
黒い渦が人型を取り、わざとらしい口調でオールマイトの不在を嘆く。
その言葉を拾った相澤は、先日のマスコミ騒動が仕組まれたものであったことを確信した。
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…。
オールマイト…平和の象徴…いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」
敵たちの中央にいる全身に人の手を貼り付けた若い青年が苛立たし気にまくし立てる。
吐き気を催すような悪意。生徒達はようやく目の前にいるのが敵だと心の底から理解した。
犬飼はレーダーの精度を上げ、敵の数、位置を確認した。おびただしい赤い点に、レーダーを覗き込んでいた周囲が息を飲む。
「USJの各施設に個性反応を多数確認」
「なに?」
「ワープゲートで俺たちを分断して襲撃するつもりでしょうか?」
「……その可能性が高いな。13号、生徒達の避難を開始! 学校に連絡を試せ。
侵入用センサーが反応していないってことは電波系の”個性”が妨害している可能性もある。
上鳴、おまえも”個性”で連絡を試せ」
「っス!」
名前を呼ばれた上鳴が反射的に返事を返す。
犬飼は上鳴に近づいて、身を強張らせているその背中をそっと叩いた。
「頼りにしてるよ、ヒーロー」
「! おう!」
上鳴が落ち着いたのを確認し、犬飼は敵を観察する。
ゴーグルを駆け戦闘態勢になった相澤に、緑谷達が心配の声を上げた。
「先生は!? 一人で戦うんですか!?」
「あの数じゃいくら”個性”を消すっていっても!!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」
その言葉には犬飼も同意だった。正面戦闘がというより、敵の数が多すぎるのだ。
だが、ここで無駄な問答をしている時間はない。
相澤が一人で立ち向かうのは犬飼達が逃げる時間を稼ぐためだ。一刻も早くここから逃げ、外部に救援を要請すること。それが生徒である犬飼達にできる最大限の援護である。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号! 任せたぞ」
そう言って相澤は階段から一気に下の広場まで飛び降りた。
相澤の抹消によって個性が発動せず、動揺している敵を次々となぎ倒していく。
数の差をものともしない相澤の立ち回りに、避難の足を止めた緑谷を犬飼は軽く叱責して後を追わせた。
「させませんよ」
避難していた生徒達の前に、ワープの個性を持つ敵が立ちふさがった。
左手に出していた銃を構えた犬飼だったが、前世の記憶で同じようにワープの能力を持つ敵が攻撃を転移させていたという話を思い出して、歯噛みする。迂闊な攻撃は味方を巻き込みかねない。
(おれたちが分断されるのが一番最悪。できればこの敵は相澤先生に押さえておいてほしかったな……)
「初めまして。我々は敵連合。
僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。
本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…、ですが何か変更があったのでしょうか?
まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」
靄が生徒を包む。
敵の攻撃が発動する前に、爆豪と切島が殴り掛かった。
(今……!)
犬飼は敵に気づかれないよう『カメレオン』を発動。爆音と爆風を利用して、透明化したまま全速力で広場へ逆走した。スピードを維持したまま階段を飛び降りた。
空中で『カメレオン』を解除。射撃で相澤の周囲にいた敵を一掃する。
振り返った相澤と視線が合った。相澤の足元にグラスホッパーが出現する。
「ワープの個性を消してください!!」
「……馬鹿がっ!!」
跳びあがった相澤が怒鳴った。犬飼の意図を察したためだ。
相澤は生徒一人を敵の中に置き去りにすることを良しとする人間ではない。だから犬飼は、問答無用でグラスホッパーを踏ませた。今は、相澤のその一瞬の躊躇いすら惜しかった。
グラスホッパーが消え、片方のトリガーが空く。
犬飼はトリオンキューブを発動させ、無差別に周囲を攻撃した。弾丸を避けた敵を銃撃で仕留めていく。
「悪いけど先には進ませないよ」