異能力バトルで推しじゃない方の好感度を上げてしまう男の話   作:二本角

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メインで書いてるのがスランプだったので息抜きで書きました。


死神と魔女

 この世界では、常識を超えるような出来事が常に起きている。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・!!」

 

 夕暮れの公園の中。

 不気味なほどに紅い空の下を、少女が駆けていた。

 奇妙な格好をした少女だった。

 膝までを覆う紺色のローブに、つばの広いとがった帽子。

 手には古めかしい木でできた、長い杖を握っている。

 なにより目を引くのはその髪で、腰まで伸びる艶やかな亜麻色の髪は、天然ではあり得ないような紅色を帯びていた。

 もしも彼女を目にした人がいれば、10人中10人がこう言うだろう。

 「あれは『魔女』だ」と。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・!!」

 

 そんなおかしな格好をした少女であったが、彼女は駆けていた。

 いや、駆けていたというには疾走感が足りないだろうか。

 これまでに体力を使いすぎたのか、ヘロヘロとした頼りない足取りで、それでもなんとか素早く移動しようとしていた。

 一体、どうしてそこまで走るのか?

 その答えは、少女の後ろから姿を現した。

 

『オォオオオオオオオッ!!』

「ひゃぁああああっ!?」

 

 少女の悲鳴をかき消すように叫びを上げるのは、宙に浮く椅子に座った女であった。

 ベールに覆われていて顔は見えないが、声からして怒りで歪んでいるのは間違いない。

 その手には、青い光を放つ書物が握られており、少女に近づくにつれてその輝きは強さを増していた。

 

水弾(アクア・バレット)!!』

「ひぃいいいいいんっ!?」

『チィイイイイイっ!!!』

 

 突如、女の持つ書物がひときわ大きく輝くと、大型自動車ほどもある水の塊が打ち出された。

 少女はそれを何とか回避・・・否、走り疲れてコケたことで当たらなかった。

 己の攻撃を躱されたことで苛立ったのか、女は大きく舌打ちすると、書物に手を乗せて何事かを念じる。

 すると、本が再び輝きだし、見る見るうちに、本は先ほどと同等の光を放つ。

 それを目の当たりにした少女は、可愛らしい顔を引きつらせながらも、行動を起こした。

 寝転がった姿勢のまま、体力が底を尽きかけながらも手放さなかった杖を振り、女に狙いを定める。

 

「さ、させませんっ!!・・・イ、『炎弾(イグニス・バレット)』!!」

『水弾ッ!!』

 

 刹那、少女の杖から放たれた炎の矢と、女の撃ち出した水球がぶつかり合った。

 たちまちの内に辺りには霧が立ちこめ、視界がゼロになる。

 そんな中、女はベールの下でニヤリと顔をゆがめた。

 人間にとっては一歩先も見えない濃霧であっても、水を司る己には関係がない。

 現に、女はようやくヨロヨロと立ち上がった少女を捉えていた。

 

『・・・・・!!』

 

 女は本に力を込め、さらに上位の魔法の準備を行う。

 攻撃が飛んでくる位置も、タイミングもわからないとなれば、あのトロい少女に避けられる道理はない。

 

(アクア)・・・』

 女は少女に向けて手をかざし、呪文を唱える。

 その直前だった。

 

「っ!!」

 

 一瞬ビクリと震えた少女は、再び杖を構えた。

 見えていないはずなのに、女のいる場所を真正面に見据えて。

 そして、早口で言葉を紡ぐ。

 

水砲(アクア・ブラスト)!!』

炎壁(イグニス・ウォール)!!』

 

 またも、炎と水がぶつかり合う。

 しかし、今回は結果が違った。

 

「あぐっ!?」

 

 女による攻撃と、急ごしらえの少女の防御では、前者に分があった。

 炎の壁は、少しの間水の砲撃を食い止めたが、すぐに突き破られて消滅する。

 少女は壁を造った直後、背を向けて全力で逃げていたが、すでに限界近くまで走り回って消耗していたために距離を稼ぐことができなかった。

 それでも、少女は歯を食いしばって足を動かし、転ぶように身体を傾ける。

 結果、幾分か威力の減った水球が、少女の身体をかすめるにとどまった。

 しかし、それでも体力のない少女を吹き飛ばすには充分であり、少女はゴロゴロと地面を転がって、公園に生える木にぶつかって止まった。

 

『フフフフフ・・・・・』

 

 女は、椅子の上で不気味に微笑んだ。

 己の一撃で仕留めきることはできなかったが、あれではもう動けまいと。

 後はこのまま、この手で獲物をつかみ取り、喰らうだけだ。

 ひ弱ではあるが、すでに『レベル6』に至った己の魔法と撃ち合えるほどの魔法の使い手だ。

 餌としては最高級なのは間違いない。

 そうして、女は椅子を少女のすぐ近くまで寄せ、生み出した水の手でその身体を掴み上げる。

 そして、手足を引きちぎるべく、力を込めた。

 

「あ、あきらめません・・・!!イ、『炎閃(イグニス・ブレイド)・・・』」

『ギィアアアアアアっ!?』

「くうっ・・・!?」

 

 ぐったりとして、ただ掴まれているだけのはずの少女が小さく口を動かすと、握っていた杖に炎がまとわりつき、斬馬刀のような刃となって女に突き刺さった。

 女は悲鳴を上げ、少女を力任せに放り投げる。

 空中に投げ出された少女は、受け身を取る間もなく地面に落とされたが、そんな少女に、女は憤怒で歪んだ顔を向ける。

 顔を覆っていたベールは炎の刃によって焼かれ、女の顔を隠すようなモノはない。

 

『コノ、メスガキガァァアアアアアっ!!!』

 

 露わになった女の顔は、いびつだった。

 顔のパーツは一つ一つは整っているものの、その配置がおかしい。

 瞳は横ではなく縦に並び、鼻は斜めに曲がり、口は逆さについている。

 まるで子供が面白半分に並べた福笑いのようであるが、炎によって焼けただれていることもあり、ひどく不気味だった。

 女はそのいびつな顔を怒りでさらに歪めながら、少女に手を向けた。

 炎の刃によってダメージはそこそこあるものの、不安定な体勢から放ったために戦闘不能となるには至っていない。

 女には今度こそ少女の息の根を止めるべく、全力の魔法を使うことに決めた。

 肉片を集めるのに多少の労力はかかるだろうが、バラバラにでもしない限りは気が収まらない。

 そんな女を前にしても、少女の眼から光りは消えていなかった。

 地に這いつくばりながらも、己を鼓舞するように、少女はつぶやく。

 

「絶対に、絶対にあきらめません・・・!!絶対に、あの人は、来てくれますっ!!それまで、それまでっ!!」

(アクア)・・・』

「絶対に生き延びますっ!!『炎壁』!!」

大砲(カノン)っ!!』

 

 女が発動した魔法は、これまでのものとは一線を画くものだった。

 少女も炎の壁を再度築いたが、その濁流を前にすれば紙切れのように頼りなかった。

 まるで巨大な滝の水が現れたかのようで、膨大な水が少女を呑み込むべく高速で迫り・・・

 

死閃(デス・ブレイド)

『っ!?』

「あはっ・・・やっぱり」

 

 風のように現れた黒い影が少女をかばうように前に立ち、水の奔流を真っ二つに割った。

 女は、憤怒から驚愕に表情を変える。

 一方で、少女は心の底から安堵したように笑って、小さく呟いた。

 

「やっぱり、来てくれたんですね・・・伊坂くん」

 

 

-----

 

 世の中には、自分の常識なんぞ通じないことがたくさんある。

 子供の頃からそういう風に言われて育ったし、学校でも、『学生の考え方なんぞ社会では通じないぞ』と度々耳にした。

 そういう言葉を聞いた当初は『ふーん』としか思わなかったが、オレこと伊坂誠二(いさかせいじ)がその事実を強くかみしめたのはほんのつい最近のことである。

 そう。ほんの少し前までは想像もしていなかった。

 『願いを叶えるおまじない』のために、化け物と戦うことになるなど。

 

「やっぱり、来てくれた・・・来て、来て・・・う、うわぁぁぁぁあんっ!!」

『遅くなってごめん!!っ!?怪我してるのっ!?クソ、もっと速く来られれば・・・!!』

「う、うう・・・だ、大丈夫です。多分、ほ、骨とかは折れてませんから」

『そ、そう。ならよかった・・・』

 

 緊張の糸が切れたのか、オレが駆けつける前まではキリっとしていたのに、今は大粒の涙を流して泣いている魔女っ子。

 幸いにして、怪我こそしているようだが今すぐ死にそうなほどではないようだが、まあ、彼女こそがオレにとって『二番目』に身近な非常識である。

 

『・・・下がってて。後はオレがやる』

「は、はいっ!!・・・・・あ、あの、ごめんなさい。う、動けません。その、怪我とかじゃなくて、あ、安心して腰が抜けちゃって」

『・・・マジか。いや、怪我で動けなくなってるよりはずっといいけど』

 

 目の前に自分を殺しかねない敵がいるにも関わらず、何て返せばいいのかわからない理由で動けなくなって緊張感のないことを言う魔女っ子に、オレは思わず後ろを振り返る。

 きっと魔女っ子本人は真剣なのだろうが、今のオレはなんとも困った顔をしているに違いない。

 だが、彼女がそれに気づくことはないだろうと、オレは自分の顔を覆う仮面を撫でた。

 思えば、彼女もずいぶん成長したというか、この顔に慣れてくれたものだ。

 出会ってすぐの頃は、この禍々しい髑髏の仮面を前にして泣き出し、お漏ら・・・いや、これは彼女の名誉のために記憶の奥底に封印しよう。

 ともかく、泣かなくなったのは大きな進歩だ。今日はなんか別の理由ですでに泣いてるが。

 

『キサマ・・・ナゼダ!?』

『ん?』

 

 魔女っ子のせいで心なしか弛緩した空気の場を、もう一度締め直すかのように、目の前の椅子に座った女が口を開いた。

 っていうか、なんだコイツ。

 眼とか口とかバラバラについてて、ものすごい不気味だ。福笑いができなくなったらどうするんだ。最近やってる子供がいるか知らないけど。

 

『ナゼ、キサマガ、コノ『女教皇(ハイプリエステス)』ノジャマヲスルっ!?『プレイヤー』ヲタスケルっ!?コタエロっ!!』

『あ~、お前、女教皇なのか。確かにぱっと見は似てるか』

 

 この女教皇は、紛れもない非常識だ。

 しかし、こういうのと出会うことが最近多いせいで、あまり違和感を覚えなくなっている。

 『二番目』の非常識たる魔女っ子としょっちゅう出くわしているのも大きい。

 だが、『一番』の理由は何か?

 最もオレにとってそばにある異物は何か?

 そう思いながら、オレはチラリと自身の姿に目をやる。

 ボロボロの黒いマントと、顔に嵌まった髑髏の仮面。

 全身を覆い尽くすやたらとトゲトゲした漆黒の甲冑。

 そして、手にした大鎌。

 その姿はまさしく・・・

 

『コタエロッ!!『死神』っ!!』

 

 そう、目の前の女教皇に『死神』と呼ばれたこのオレ自身が、最も身近な非日常なのだ。

 けれど、オレだって痛いのや怖いのは嫌だ。

 こんなことになる前には、いつもの日常など鬱陶しくてつまらないと思っていたが、今ではかけがえのないモノであったと確信している。

 だからこそ、さっさと今日の非常識を終わらせよう。

 

『別に。お前に言う必要なんかないね。っていうか、常識的に考えて知ってる子が殺されたりしたら寝覚めが悪いだろ。なんとかできる力があるのにさ』

『フザケルナっ!!『水纏(アクア・ブースト)』っ!!』

『げっ!!『(ブースト)』!?』

 

 女が本に手を当てると、本とともにその身体が青く輝く。

 『(ブースト)』の効果は強化だ。

 どうやら怒っているように見えて、いきなり現れたオレへの警戒はしていたようで、オレが魔女っ子と話している間に魔力をためていたのだろう。

 

『面倒くさいな・・・』

 

 ブーストによる強化では、己の身体能力や魔法の威力を上げることができる。

 しかし、それは本命の効果に比べればおまけのようなものだ。

 オレの見ている前で、女教皇の姿が変貌する。

 

『オァアアアアアアアアアッ!!!』

 

 何もない空中から、突如として氷の杭が現れ、女教皇の手足を椅子に縫い止める。

 そして、浮かんでいた椅子が空中で逆さまとなった。

 杭で縫い止められた女教皇の体は落下せずに留まっているが、そのいびつな顔のついた首はメキメキと音を立ててねじ曲がり、顔だけはさきほどと変わらず正しい向きを保っている。

 しかし、その顔も宙に散らばった本のページに覆われて見えなくなる。

 ほんのわずかの間に、女教皇は逆さまに浮いた椅子に座る、首だけがまともな位置に据わったミイラへと変わり果てた。

 

「ひィッ!?」

 

 その姿を見て、魔女っ子が小さく悲鳴を上げた。

 さきほどまでは顔こそいびつだったものの、まだ人間に近い姿だったのに、今では完全な異形と化してたのだ。

 まともな神経をしていればビビるのも無理はない。

 かくいうオレも、その醜悪な姿に仮面の下で眉をひそめるのを抑えられなかった。

 

『アハハハハハハハッ!!『氷大砲(グラキエス・カノン)!!』

『水じゃなくて氷?権能のせいか?』

 

 女教皇の周囲に氷の塊が現れたかと思えば、それはすぐに膨張し、巨大な砲弾となって飛んでくる。

 しかし、オレの後ろには魔女っ子がいるから、避けることはできない。

 ならば、やるべきはその場に留まっての迎撃。

 

死閃(デス・ブレイド)

 

 オレの持つ鎌が、黒い輝きを纏った。

 そして、そのまま氷の塊に向かって鎌を振りかざす。

 

『ムダダ!!ワレハ、ソノヤイバヲ『ミトメナイ』!!』

『硬っ!?ぐぅっ!?』

「いさ・・・死神さんっ!!」

 

 しかし、いざ氷に鎌が触れた瞬間、鎌の刃は歯が立たなかった。

 氷を真っ二つにすることができず、そのままオレに直撃する。

 

『いってぇ・・・』

『ハハハッ!!』

 

 氷がぶち当たる瞬間、どうにか体に力を込め、オレは氷を受け止めるように体勢を変えていた。

 かなり後ずさりしてしまったが、受けきることはできた。

 しかし、大質量の塊がぶち当たった衝撃で、目に見えるような傷はないが、体が痺れているのを感じる。

 何をされたのかはよくわからないが、後何発も受けたい攻撃ではない。

 そうなると、オレは魔女っ子を庇いつつも、攻撃を回避し続けなければならないということになるが。

 

『ハハハハハっ!!『氷弾(グラキエス・バレット)』!!氷弾!!氷弾!!』

『『死壁(デス・ウォール)』』

『ムダァッ!!!』

『チィっ!!』

 

 オレの現状を理解しているのか、女教皇は嗤いながら攻撃を続ける。

 あえて弱い『(バレット)』を使っているのは、オレをいたぶるためか。

 本来ならば『(ウォール)』で完全に防げるのだが、どういうわけか壁はそのままに弾が素通りとなっている。

 鎧の防御力もあって、弾を喰らっても大きなダメージはないが、それでも衝撃は少しずつ蓄積していく。

 さて、どうしたものか。

 

「し、死神さんっ!!」

『ん?』

 

 そこで、オレのすぐ後ろにいる魔女っ子が話しかけてきた。

 この子は言っちゃ悪いがトロい。しかし、頭は悪くない。

 こんな時に話しかけてきたということは、何か大事なことを伝えたいのだろう。

 

「あの女教皇の『権能』は、多分逆位置にある『潔癖』です。女教皇の魔法は、死神さんの魔法を受け付けなくなってるんだと思います」

『そうなの?それじゃあ、使い手のあいつは無敵ってこと?』

「いえ、あの女教皇はレベル6より強い魔法を使ってないです。なら、できてもほんの少しの間だけ・・・だと思います。それに、本体が攻撃されてる時なら、もっと短くなるかも」

『わかった。なら、遠距離からじゃ埒があかないし、至近距離から一撃叩き込んでやればいいってことだな・・・先に謝っておく。ごめん』

「へ?・・・ひゃあっ!?」

 

 オレは氷の弾丸を受けながら、体勢を一気に低くした。

 そして、素早くバックステップで魔女っ子の隣まで下がり、魔女っ子を小脇に抱えた。

 オレの言葉にきょとんとしていた魔女っ子だったが、抱えられた瞬間に驚きの悲鳴を上げる。

 今は緊急事態なんだ。セクハラで訴えるのは勘弁して欲しい。

 

「しっ!!死神さんっ!!何をっ!?」

『このまま地面に転がしてたら、キミに攻撃が当たっちゃうから。悪いけど、一緒に移動させてもらうよ』

「わ、わかりましたっ!!」

 

 どうやら許してくれたみたいだ。

 その辺に厳しい子じゃなくてよかった。

 

『フザケタマネヲっ!!』

 

 少女を1人抱えたまま戦おうとするオレに、馬鹿にされたと感じたのだろう。

 女教皇の攻撃が激しくなり、氷の砲弾が次々と飛んでくる。

 しかし、怒りのせいで視野が狭くなっているのか、狙いが大分甘い。

 

『んなもん当たるか』

『コノっ!!チョコマカトっ!!』

「ひゃああああああっ!?」

『クソっ!!アタレっ!!アタレっ!!』

 

 さっきまでは魔女っ子を庇っていたから受けていたのであって、受ける必要がないなら避けるだけだ。

 そして、今のこいつの攻撃を避けるのは大して難しくもない。

 しかし、攻撃を乱射しているせいで、やはり魔女っ子を抱えたまま攻撃を当てられる所まで行くのは少し骨が折れそうだ。

 

「イ、『火砲(イグニス・ブラスト)

『ナニっ!?』

 

 ここで、魔女っ子が揺れに耐えながらも魔法を放った。

 炎の砲撃が炸裂したのは、女教皇ではなく、その少し手前の地面。

 濛々と砂煙が立ち上がるが・・・

 

「このまま真っ直ぐです!!」

『ナイスっ!!』

 

 オレは魔女っ子の指示に従って、真っ直ぐに走る。

 元々距離は縮まっていたのだ。

 砂煙に怯んで、一瞬でも攻撃が飛んでこなければ、あっという間だった。

 ここまで来れば、女教皇の魔法で迎撃は間に合わない。

 

死穿(デス・スラスト)

『ガァっ!?』

 

 オレが使用した魔法は、レベル7の『穿(スラスト)』。

 範囲攻撃の大砲の威力を一点に集中させた攻撃で、今の姿ならば、オレが撃てる最大火力だ。

 黒い一条の光線が、女教皇の唯一正しい向きに据わった顔面にぶち当たる。

 しかし、本来ならそのまま首を消し飛ばせる威力なのだが、魔女っ子の言う『潔癖』の権能のためか、ダメージは入っていないようだ。

 

『レベル、7ダトォ・・・!!キサマ、ナゼェ・・・っ!!』

『オレだってよく知らないよ。さっさと消えろよ』

『ク、クソガァアアアアアアっ!?』

 

 魔女っ子の言うとおり、穿を受けていられたのはほんの少しの間だけだった。

 すぐに女教皇の首が消し飛び、残っていた逆さまの胴体はドチャリと音を立てて地面に落ち、地面に溶けるように消えた。

 後に残っていたのは一枚のカードのみ。

 

「女教皇のカード・・・これで、大アルカナのカードは四枚目ですね」

『ああ・・・あ、ごめん。抱えたままだった。降ろすよ』

「えっ?あ、はい・・・・・もう少し、このままでもよかったんだけどな」

『? どうかした?』

「い、いえっ!!なんでもないですっ!!そ、それよりっ!!本当にいいんですか?ワタシがこのカードもらっちゃって」

『いいよいいよ。オレとしてはキミが強くなってくれた方が安心できるし』

 

 魔女っ子が申し訳なさそうに言ってくるが、オレは本当に気にしていない。

 なにせ、この危なっかしい魔女っ子が強くなってくれれば、それだけオレは心置きなく『本当に行きたい子』の所に行けるのだから。

 まあ、そんなことは魔女っ子には言えないけども。

 オレにとっては、この近所の懐いてくれる子供のような魔女っ子だって、放っておけるような間柄じゃない。

 この子が傷つくようなことになって欲しいなんて言うヤツがいたら、半年は病院から出られなくしてやるであろうくらいには。

 だが、それはそれ。これはこれ。

 この見るからに小学生の魔女っ子と、オレと同じ年頃の花の女子高生では、やはりオレとしても色々と見る眼が変わってしまうのは男子高校生のサガだ。

 魔女っ子にカードを渡しながら、オレは『あの子』のことを想う。

 

「・・・っ!!」

『どうしたの?』

「い、いえっ!?なんでもっ!!なんでもないですっ!!」

『本当?さっきからなんかおかしいけど。顔も赤いし、その反応二回目だし』

「大丈夫ですっ!!本当に大丈夫ですからっ!!」

『ならいいけど・・・それじゃあ、オレはもう行くよ。もうすぐ『結界』も解けそうだし』

「あ、そうですね!!ワタシも行かなきゃ。あのっ!!今日も、助けてくれてありがとうございましたっ!!」

『うん。じゃあ、またね。帰り道も気をつけて』

 

 ぺこりとお辞儀をしてオレに礼を言う魔女っ子に手を振ってから、オレはその場を離れるのだった。

 

 

-----

 

 ワタシこと黒葉鶫(くろばつぐみ)は『魔女』だ。

 魔女とは、単に魔法が使える女性という意味ではなく、種族としての魔女。

 詰まるところ、ワタシは人間ではない。

 

「今日も、助けてもらっちゃった」

 

 ワタシが頭を上げると、黒い影が地面を蹴って離れていくところだった。

 その後ろ姿を見ていると、さっき『見えた』熱い想いが蘇ってくるようで、カァァと顔が熱くなるのを感じる。

 

「やっぱり、死神さんは、ううん。伊坂くんは、ワタシのこと」

 

 ワタシは魔女だ。

 とはいっても、すごい魔法なんて使えない。

 さっきまでなんとか戦えていたのは、『儀式』の参加者に与えられるカードのおかげで、ワタシの場合は『魔術師』のカードがそれに当たる。

 ワタシに使えるのは、薬草から魔法の薬を作るための魔法と、後一つ。

 

「ワタシのこと、好き、なのかな?」

 

 『心写しの宝玉』。

 それがワタシの眼に生まれつき備わっている魔法。

 他人の感情を、色として見ることができる瞳。

 その瞳に写ったのだ。

 ワタシに女教皇のカードを渡す時に、ぼんやりとだが、熱い炎のような紅い想いを。

 

「前々から、どうして助けてくれるんだろうって思ってたけど、やっぱりそういうことなのかな・・・そうだったら、すごく、すごく嬉しいけどっ!!あ~、で、でもっ!!学校でのワタシには気づいてないみたいだしっ!!なら、伊坂くんが好きなのは今のワタシで、いつものワタシは好きじゃないってこと・・・でもでもっ!!学校でも助けてくれたしっ!!うぅ~っ!!どうすればいいんだろ~っ!!って、もうすぐ結界が解けちゃう!!」

 

 伊坂くんのことを考えて悶々としていると、さっきまでいた不気味なほど紅い夕焼け空にヒビが入る。

 ガラガラと音を立てて崩れていくと、周りの風景はいつもの夕暮れの公園に戻っていた。

 それと同時に、ワタシも『変身』を解除して、魔術師のローブから、いつもの高校の制服に戻る。

 大アルカナに限らず『怪異』が現れると、さっきのように異能の力に関係のない人は入れない結界ができるのだけれど、主である怪異を倒すと元に戻ってしまうのだ。

 変身している時のワタシの姿は普通の人には見えないけど、まれに見える人もいる。

 もしも見つかったら面倒なことになるから、早めに戻っておいた方がいいのだ。

 

「髪も、戻しておかないと・・・」

 

 変身を解除すると髪の色は元に戻る。

 けれど、ワタシは前髪にポケットから取り出したお手製の魔法薬を塗った。

 すると、前髪が伸びて目元を軽く覆う。

 そこに、持っていた魔法の眼鏡をかける。

 

「うん、これでよし」

 

 心写しの瞳は、さっきの戦いでは役に立った。

 霧の中で攻撃に反応できたのもそうだし、砂煙で視界を塞いだときに伊坂くんに指示を出せたのもそうだ。

 けれど、普段の生活では辛いことの方が多い。

 人の感情なんて、知りすぎていいことなんてない。

 だから、前髪を伸ばして眼鏡をかけて、人の気持ちを見ないようにしている。

 

「い、伊坂くんの心だったら、もうちょっとよく見てみたいんだけど」

 

 伊坂くんが死神の力を取り込んだからなのか。

 あるいは、死神の力を取り込めるような存在だからなのか。

 伊坂くんの感情は、変身していてもしていなくても、とても強いクセがあるのだけれど、よく見えない。

 けれども、それくらいがちょうどいいのかもしれない。

 あんまりはっきり見えてしまったら、ワタシの心臓が破裂してしまうかもしれない。

 それでも、それでもいつか。

 

「いつか、教えて欲しいな。色じゃなくて、言葉で」

 

 今はまだ、ワタシが一方的に見てるだけ。

 ズルをしているようなものだから。

 だから、正々堂々好きだと、ワタシからはあまり言いたくないし、言う資格もないだろう。

 それに、ワタシたちはお互いの正体を探らないようにしている。

 ワタシはともかく、見た目はあんなに恐ろしい死神の力を持ってる伊坂くんからしたら、当然の判断だろう。

 そのせいで、伊坂くんはさっきまでのワタシの名前を知らない。

 だけれども。

 

「いつか、戦ってるときでも、どんなときでも・・・ワタシの名前、呼んで欲しいな」

 

 夕暮れに沈む公園を歩きながら、ワタシはそう思うのだった。

 

 

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 このとき、黒葉鶫は知らなかった。

 伊坂誠二が好きなのは、もう1人の『魔法少女』であることを。

 

 

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TIPS レベルごとの習得魔法

 

レベル1 (バレット)

レベル2 (ウォール)最大習得レベルによって強度UP

レベル3 (ブレイド)最大習得レベルと技量によって威力UP

レベル4 (ブラスト)

レベル5 (ブースト)固有能力たる権能の解放

レベル6 大砲(カノン)

レベル7 穿(スラスト)

 

以降は纏使用中のみ使用可。

 

レベル8  ???

レベル9  ???

レベル10  ???

 

 




続くかも。
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