異能力バトルで推しじゃない方の好感度を上げてしまう男の話   作:二本角

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イレギュラープレイヤー

『う~ん』

「あの、死神さん。さっきからなにをしてるんですか?」

 

 いつものごとく、夕方の舞札神社の境内。

 オレが唸っていると、隣に座っていた魔女っ子が声を掛けてきた。

 

『ああいや、ちょっと魔力操作の練習。けど、中々難しくてさ』

「魔力操作?」

『そう。ほら、オレって前に纏が危なすぎて使えないって言ったことあるよね?この先儀式が難しくなってくなら、やっぱり纏が使えないのはマズいよなって思ってさ』

「はぁ・・・?」

 

 オレが答えるも、魔女っ子は怪訝な顔のままだ。

 

「あの、どうして死神さんはいきなり魔力操作の練習をしようって思ったんですか?昨日までは全然そんなこと言ってませんでしたよね?というよりも、どこで魔力操作のことを知ったんですか?」

『へ?』

 

 魔女っ子の質問に、オレはすぐには答えられなかった。

 魔力操作の練習をしようと思ったのは、纏を使いこなせるようにするため。纏を使いこなせるようにしたいのは、魔女っ子や白上さんを守りたいから。そこまではすんなりと分かるのだが・・・

 

(あれ?そういやオレってどこで魔力操作のことを知ったんだっけ?)

 

 今も体内に感じる魔力をどうにかそのまま外に流そうと四苦八苦しているが、そもそもそんなやり方をオレはどこで知ったのか。

 

『う~ん、キミが前に言ってなかったっけ?』

「いえ。それはないです。ワタシ、魔力操作に関して人に教えることは多分できないので」

『え?それってどういう・・・?』

「ワタシは、生まれつき魔力操作ができてたんです。本来、魔法使いの子どもは親や親戚に魔力操作の方法を習うらしいんですが、その、ワタシの両親は『普通の人』だったので。おばあちゃんの家に引き取られてから教わることがあったんですけど、そのときにはもう習得していたんです」

『え~と、当たり前すぎて教えられないとか、そんな感じ?』

「なんか嫌味になってしまいそうですが、はい。そんな感じです」

 

 魔女っ子は生まれつき魔力操作ができた。

 本来、魔法使いの子どもは暴走を防ぐために親が魔力を制御し、魔力操作を教える。

 しかし、魔女っ子は最初からそれができており、誰かに教わったわけではないからやり方を教えられないといったところか。

 例えば『呼吸の仕方や二本足での歩き方を教えろ』と言われたところで、オレには無理だ。

 

(ん?どうしてオレ、魔法使いの子どものことなんて知ってるんだ?)

 

 またしても、違和感が顔をもたげた。

 魔女っ子がそういう事情なら、その辺りのこともオレに言うはずがない。

 だが・・・

 

(・・・まあ、いいか。どうせなんかそういう設定の漫画でも読んだんだろ。いや、読んだか、そういえば)

 

 『そんなことはどうでもいい』という感情が湧き上がり、あまり考えてみる気にならない。

 そうしている内に、そうした設定の漫画があったことを『思い出した』。

 

『そうだ、確かそういう修行方法が載ってる漫画があったんだよ。バトルモノで。それで、参考になるかなって思ってさ』

「ええ・・・?ま、まあ確かに効果はあるでしょうけど・・・でも、嘘はついてないみたいだし。う~ん」

 

 魔女っ子はなんだか納得がいっていない様子。

 だが、オレとしてはそれが『事実』なのだからそうとしか言い様がない。

 魔女っ子がどう思おうと、オレはこの練習を止めるつもりは・・・そうだ。

 

『ねぇ、オレに魔力を流してみてよ。生まれつき制御ができるんなら、魔力操作はうまいんだよね?他の人に魔力を流してもらえれば、感覚がわかるかも』

「死神さんに、魔力を流す・・・?」

『うん。手を繋いで、そこから魔力を・・・って、そうか、手を繋がなきゃいけないか。ごめん、デリカシーのないことを・・・』

「やります!!」

『言って・・・ええ?いいの?』

 

 『自分でやるのはよくわからないから、魔女っ子に魔力を流してもらおう』という斬新なアイデアを思いついたオレだったが、魔力を流すには手で触れなければならない。

 女の子相手に配慮が足りないと反省するも、魔女っ子は嫌がっていないようだ。

 

『じゃ、じゃあ、頼むよ』

「はい!!」

 

 そうして、魔女っ子はずいぶんとやる気に満ちあふれた様子で、オレの手を握る。

 まあ、オレの手は小手に包まれているから、感触なんてわからないけど。

 そして・・・

 

『おおっ!!魔力が来た・・・って、あれ?』

「どうしましたっ!?」

 

 繋いだ手から、温かいような、スルッとしたような、フワフワしたような、固いような、ビリビリするような、冷たいような、複雑な感触が入ってきたのがわかった。

 しかし、すぐにオレの身体の中で消えてしまったのだ。

 

『いや、魔力が入ってきたのはわかったんだけど、すぐに消えちゃったんだ。もう一回やってみてもらってもいい?』

「は、はい!!全然大丈夫です!!」

 

 もう一度魔女っ子と手を繋ぎ、魔力を流してもらう。

 だが、やはりすぐにオレの身体の中で消えてしまった。まるで、オレが吸い込んでしまったように。

 

『う~ん、なんでだろう?』

「・・・もしかしたら、闇属性の魔力だからかもしれません」

『闇属性の魔力のせい?』

「はい。闇属性の魔力は、光属性以外の魔力を吸収する性質があるんです。ワタシの魔力の属性は火なので、死神さんの闇属性の魔力に吸収されてしまったのかなって」

『なるほど。言われてみればそんな感じだ』

 

 手から流れ込んできて、すぐに消えてしまう魔力。

 オレが吸い込んでいるというなら納得である。

 しかしこれでは・・・

 

「うう、お役に立てず申し訳ないです・・・」

『いやいや!!気にしないでよ!!元々1人で練習してたんだから、プラマイ0だよ!!』

 

 元々魔力操作ができていたせいで感覚的に魔力を扱っている上に、闇属性に吸収されてしまう属性の魔力しか使えない魔女っ子。

 そうなると、オレの魔力操作の練習で協力してもらえることはなさそうであった。

 

『う~ん、やっぱりわからないなぁ』

「ワ、ワタシもおばあちゃんの持ってた本を探してみます!!魔力操作のことを書いた本があるかもしれませんから!!」

 

 その日、日が落ちるまで魔力操作の練習をしたが、怪異は現れず、魔力操作のコツもわからなかったのであった。

 

 

-----

 

 

『だから制御が粗いと言っているだろう。力任せにやればいいというモノではないと何度言ったらわかる』

「んなこと言ってもわかんねーもんはわかんねーよ」

 

 朝のHR前のひととき。

 オレが黒葉さんを送り、白上さんが朝練を終えて教室に帰ってきてから、HRまでにはそれなりに時間がある。

 放課後や昼休みといった長めの休み時間を利用できないオレからすると、こうした時間も貴重だ。

 故に、今もツキコに結界を張ってもらってから魔力操作の練習をしているのだが、やはりうまくいかない。

 ツキコがオレから離れたタイミングで、オレは聞いてみることにした。

 

「なんかコツとかないのかよ、なんか」

『力押しでやらないことだ。自分の手や指が伸びるイメージを持つこと。机の上にコップがあっても、普通全力で腕を伸ばしたりはしないだろう?今のお前はまさにそれだ』

「イメージって言ってもな・・・あ!!おい、こんな感じか?『死閃(デス・ブレイド)』」

『うおおおっ!?お、お前!!いきなり魔法を使うな!!びっくりするだろうが!!』

「あ、悪い」

 

 指を伸ばすイメージと言われ、舞札祭の出し物用に今でも練習している魔法を出してみる。

 すると、ツキコがゴキブリが飛んできたようなリアクションをして後ずさる。

 

『まったく。魔法を使うなら先に言え。お前の魔法は、弱くても私とは相性が悪いんだからな・・・しかし、お前人間の姿のままでカードの魔法を使えるのか』

「ああ、なんか使えると思ったら使えたんだ。んで、ほら。こうやって爪が伸びた感じで動かせるんだぜ。お前の言うイメージってやつもこんな感じだろ?」

『キモい』

「・・・・・」

 

 オレが使える魔法の中で一番得意なのは何かと言われれば、まっさきに考えるのはこの『(ブレイド)』の魔法だ。

 それもあって、今もオレの思うようにグネグネと動かしてみたのだが、ばっさりと酷評されてオレは押し黙ってしまった。

 

『昨日、白上羽衣がなんかデカいタコが出てくるホラーを見てたが、動きがそっくりだぞ。触手を使って女に妙な真似をする魔法使いの男はどの時代でもチラホラいたが、お前もその口か?そんなモンを見せてくるということは、私で触手プレイでもしたいのか?このド変態が』

「そこまで言うことなくね!?」

『・・・クフフ』

(こ、この野郎、愉しんでやがる・・・!!)

 

 ツキコが侮蔑の視線でオレを見つめてくる。

 ツキコ相手に白上さんのようなときめきは一切感じないが、白上さんの顔で冷たい視線を向けられるのは普通に嫌だ・・・と思っていたら、コイツ目が微妙に笑っている。

 最近になってわかってきたが、どうもコイツはオレが慌てふためいたり必死に頼み込んでくる格好の悪い姿を見るのが好きらしい。悪趣味なヤツだ。

 しかもコイツのそんな悪癖のせいで、練習が脱線することもしばしばある。

 しかし、何もオレにメリットがないわけではない。

 

(けど、それならそれでそこを利用してやるだけだ!!)

 

「へ、変態でも何でもいいから、オレにコツを教えてください!!お願いしますツキコ様!!」

『っ!?・・・ふ、ふん!!お前ほどの強さを持つ男がなんとも情けない限りだな!!女に向かってみっともなく頭を下げるとは!!まあ私は寛大だ!!その無様さに免じてしっかり指導をしてやろう!!』

「は、ははー!!ありがたき幸せ!!」

『うむうむっ!!存分に感謝するがいい!!』

 

(ほら、かかった)

 

 内心でほくそ笑むオレ。

 ツキコは、その皮肉屋な口調や態度とは裏腹に、煽てられたり下手に出られるのに結構弱い。

 さっきのように趣味に興じ始めた時も、さっさとプライドを捨てて懇願するとあっさり元に戻ったりする。

 特に・・・

 

(コイツ、名前を呼んで頼んだときはテンション高いんだよな・・・)

 

 『ツキコ』という名前を出して頼むと、その後はあまりオレをからかってこなくなる。

 そして、機嫌が悪い時でも名前を呼ぶと絶対に無視をしない。

 何気にチョロイヤツである。

 

『しかし、人間の姿でこの魔法を使えるとはな・・・どれだけ適性が高いのか。しかも、この魔法の制御は完璧だ。さっきの動きはキモかったが、それほどまでに器用に動かせたというワケでもある。ふむ・・・』

 

 さっきまでのオレをからかって愉しんでいた時と違い、今は真剣な眼差しでオレの魔法を見つめるツキコ。

 そして、オレの魔法を指で突いたり光る魔力を浴びせたりとひとしきり何ごとかを試すと、オレを見た。

 

『着眼点はいい。今のお前がやっている魔力の制御を、そのまま魔力操作に落とし込めば・・・いや、そうだな。これがいいか』

「おわっ!?お、おい!!くっつくなら先に言えよ!!」

『うるさい。お前の大好きな白上羽衣にくっつかれるのだから文句を言うな。それより集中しろ』

「まったく・・・」

 

 いきなり席を立ったかと思えば、オレの後ろに回り込み、オレにしな垂れかかりながら腕に手を這わせる。

 憧れの人たる白上さんの身体でそんなことをされれば大いに緊張するオレであるが、さすがにある程度回数をこなしたためか、落ち着くのも早くなってきた。

 ツキコの言うとおり、自分の内側に意識を向ける。

 すると、いつも通りツキコの魔力が流れ込んでくる。

 その流れは、オレの腕を伝って指先にまで届いた。

 

『よし。動かすぞ』

「おお?」

 

 ツキコがそう言った瞬間、指がオレの意志と関係なく動いた。

 だが、オレの意志でないにも関わらず、オレにはその動きが予想できていた。

 ツキコの魔力の流れが同じ動きをしようとしているのが分かったからだ。

 

『次に、『(ブレイド)』だ』

 

 そして、指先にあった魔力が、そこから伸びる魔法の刃に伝っていく。

 その動きは、普段オレが何気なくやっている魔力の流れよりずっと丁寧だったが、同じことをしていた。

 

「おお、なんか今までで一番はっきりわかったぞ」

『よし。それなら、今度はそのまま『(ブレイド)』を伸ばせ。ただし、太さはシャーペンの芯くらいに』

「やってみる」

 

 魔力で魔法の刃の先端を尖らせるのは、これまで何度もやったことがある。

 これまではなんとなくでやっていたが、今度はまだ指に残るツキコの魔力の跡を追うように。

 そして。

 

『む!』

「できた!!」

 

 オレの人差し指の先から、針のように細い刃が伸びていた。

 これまでかぎ爪のように尖らせたり、枝分かれをさせたことはあったが、ここまで細くしたのは初めてだ。

 

『魔力操作よりも先にカードの魔法を覚えたから魔力操作ができない・・・それなら、使える魔法の構築フローをスロー再生してわからせる。それも、『弾《バレット》』のように身体から離れる魔法ではなく、魔力の流れを維持したまま己の身体の延長戦として扱える『閃《ブレイド》』の魔法で。うむ、合理的だ』

「おお!!前進じゃんか!!こんな風にやればいいなら!!」

『のわっ!?』

 

 これまで進展がなかった魔力操作の練習で初めて目にした成果だ。

 オレはテンションが任せるままツキコの手を握り、魔力を流す。

 

「あれ?流せない?」

『・・・さっき成功したのは、お前の魂に刻まれた魔法を鋳型にしたからだ。いきなり補助輪なしで自転車を走れんのと同じだ。まずはお前の魔法を元に練習するのだな。それにしても、レディの手をいきなり握るな野蛮人め』

「あ、悪い・・・ん?お前って始まりの魔女の残滓なんだよな?ならレディって歳じゃ」

『フンっ!!』

「のがぁっ!?」

 

 いきなり手を握ったのは確かに礼儀を欠いた行いだったとは思うが、レディという単語には引っかかりを覚えたので突っ込んだら、光を纏った手で思いっきりオレの手を握りつぶしてきた。

 白い光がトゲのようにチクチクして、地味に痛い。

 

『・・・レディの年齢のことを口に出すな。はい、復唱』

「わ、悪かったよ。でも・・・」

『復唱』

「・・・・・」

『復しょ・・・』

「れ、レディの年齢について口に出しません!!」

『・・・まあ、よかろう。というか、今の私はこれまでの私からだいぶ削っている部分があるし、なにより名前も違う。故に、私は新しく生まれ変わったと言っていいし、年齢はお前に名前を付けられた時から数えるから0歳だ。いいな?』

「え、それはなんか・・・」

『い・い・な?』

「・・・はい」

 

 年齢のことを言い出してからオレ並に目つきの悪くなったツキコ。

 『普段オレにビビってる人はこんな気持ちなのか』と思いつつ、オレはツキコの言うとおりに返事をする。

 すると、ツキコの手から光が消え、手を握る力も緩くなった。

 

『前々から思っていたが、お前本当にデリカシーがないというか、レディの扱いがなってないな。お前、これだと私が白上羽衣の嫌悪を消したところで別の方向から嫌われるだけだぞ』

「・・・改善に向けて鋭意努力いたします」

『フン、そうだな。なんなら、そっちの方でも稽古を付けてやろうか?授業料は追加でもらうが』

「え・・・」

 

 呆れたような目を向けつつも、オレの様子を伺うツキコ。

 魔女っ子にも言われたことがあるが、オレには色々とデリカシーというものが欠けているらしい。

 このままだと、ツキコの言うとおり儀式が終わって白上さんと人並みに接することができたとしても長続きしないかもしれないとなると、その提案は正直魅力的だ。

 しかし。

 

「正直かなり迷うけど、今は遠慮しとく。お前は『白上さんじゃなくてツキコだけど』、白上さんの顔でそういうこと教わるとなると、ちょっとな」

 

 ツキコが表に出ているときに白上さんの意識は眠っているようなのだが、それでもそういう恋愛関係だとか女性へのマナー云々を白上さんがすぐ近くにいる状況で習うのはかなり抵抗がある。

 

『フン、そうか。まあ、気が変わったら言うがいい』

(あれ?珍しく不機嫌にならないな、コイツ)

 

 いつも、オレが提案を断ると不機嫌になるのだが、今はそんなでもない。

 まあ、コイツが不機嫌になるとろくなことにならないからいいが。

 

『これでも私は相応の経験を読み込んでいるからな。私の教えに従えば、白上羽衣との恋路も万全だぞ?』

(いや、さっき0歳って言ってたじゃん。早速矛盾してんぞ)

 

 何やら鼻高々にマウントを取ってくるツキコ。

 こうなるとコイツは面倒くさい。

 下手に遮ると機嫌を悪くするし、煽ててもそっち方向の自慢を続けるからだ。

 そうなると、時間切れを待つか、さっさとうまく話題を変えるかだが・・・

 

(まだHRまで少しあるな。どうすっかなこの自称0歳児。0歳が過去の経験でマウント取ってくるんじゃねぇっての・・・ん?過去の経験?)

 

 そこで、オレはふと気になることができた。

 

『あれは今から二百年ほど前だったか。そのとき私が取り憑いた魔女は同性愛者で、儀式の最中にもかかわらず同じ趣味の魔女と熱烈な日々を過ごすのだが、実は相手はノンケで魔法の知識と財産目当てで近づかれてただけでなぁ。その女は他にも似たような手口を使って、最終的には24股かけていたところをつるし上げられて・・・』

「なあ。聞きたいことがあるんだが」

『なんだ?釣られていた時にどんな台詞で落されたか知りたいのか?それなら、『キミの下の花園はまるでメデューサ・・・』』

「いや、それはかなり気になるけどそこじゃなくて。『前回』の儀式ってどんな風に終わったんだ?」

『・・・なに?』

 

 それまで饒舌に語っていたツキコだったが、オレが質問すると眉をひそめ、視線が鋭くなった。

 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 

「い、いや、気になってさ。オレ、この儀式のことよく知らないし!!長く続いてるのに成功してないなら、どんな終わり方したのかって・・・そ、その、悪い。話したくないなら別にいいぜ」

『・・・いや、一応話しておく。今回も起きるとは思わないが、万が一ということもあるしな』

「お、おう。あ、ありがとうございます」

『・・・・・』

 

 オレは下手に出て礼を言うも、ツキコはむっつりとした表情を崩さない。

 よほど不愉快なことがあったのだろうか。

 ややあって、ツキコは口を開いた。

 

『・・・前回は、今から100年かそこら前。場所もこの街ではない。私はその時も魔法使いのプレイヤーに取り憑いていた・・・ああ、念のため言っておくが、私が取り憑く前からソイツは儀式に参加する心づもりだったぞ?誉れだとな』

「・・・そうか」

 

 ツキコとは憎まれ口を叩きつつもそれなりに打ち解けてきたとは思うが、それでも他人に取り憑くということへの嫌悪は中々拭えない。

 一応、前回の儀式のプレイヤーはツキコに関係なく乗り気だったようだが。

 

『前回は、今回のように序盤から強力な怪異がでることはなかった。怪異の数を半分に削るまで、レベル4が最高だったくらいにはな』

「そりゃ、ずいぶん楽そうだな」

『まあ、お前から見ればそうだろうな。実際、私としてもそこまでは大して苦労はなかった。中盤戦になっても、すぐに高レベルの怪異は出てこないし、それまで手にしていた大アルカナのカードもあった。だから、儀式の怪異そのものは問題ではなかった。しかし、それで得をしたのは私だけではなかった』

「もしかして、人間のプレイヤーも怪異を倒しまくったのか?」

『それもある。怪異が弱ければ、人間のプレイヤーでも十分に勝機があるからな。そのときの人間のプレイヤーもまた怪異を倒して力を付けていた。だが、問題はそこではない。弱い怪異を倒し、プレイヤーの資格を得た魔法使いがいたのだ。いわば、イレギュラープレイヤーだな』

「イレギュラープレイヤー・・・」

 

 オレは思わず呟いた。

 白上さんが倒し損ねた死神に殺され、その結果逆に死神を取り込んで儀式への参加資格たる大アルカナのカードを手にしたオレ。

 オレもまた、イレギュラープレイヤーだ。

 

『そのプレイヤーは、私が取り憑いた魔法使いの友人であり、人間のプレイヤーとも付き合いがあった。面倒な魔臓・・・いや、能力を持っていてな。私の幻術が効かず、あげく私の正体に気付いた。そして、人間のプレイヤーと協力し、私を倒そうとしたが・・・そこに別の怪異が、『悪魔』が来て、ソイツにやられた。そこで私は参加資格を失ったのだ』

「そうだったのか・・・いや待て。お前が抜けても2人のプレイヤーが残ったんだろ?なら儀式は続いたんじゃないのか?あ、でも負けたのならお前にその先はわかんないだろうし、今もこうやって続いてるならその2人もお前を倒したヤツに負けたのか」

『・・・私が負けた後は、『この私』が直に見たわけではないが記録は残っている。それによると、私が負けたすぐ後に、2人で悪魔と戦って倒している。それから、改めてプレイヤーどうしで戦い合い、人間のプレイヤーが負けて脱落。そしてイレギュラープレイヤーはサレンダー、己で参加資格を手放した。それによってプレイヤーがいなくなり、儀式は中断されたのだ』

 

 苦々しい表情で語るツキコ。

 過去の失敗の記憶を話すのは誰だって嫌だろうから、仕方ない・・・ん?待て。

 

「なあ、今サレンダーって言ったか?儀式を抜ける方法って三つしかないって言ってなかったか?」

 

 前にツキコから聞いた儀式をペナルティーなしで抜ける三つの方法は、

 

① 代わりのプレイヤーを用意する

 

② プレイヤーどうしの真剣勝負で敗北する

 

③ 11枚以上のカードを集めて他のプレイヤーに譲渡する

 

 この三つだ。

 そして、ペナルティー有りの方法を四つ目としても、それは11枚未満のカードを他プレイヤーに譲渡する、であり、③とほぼ変わらない。

 というか、すべての方法に他のプレイヤーが必要であり、最後に残ったプレイヤーが抜ける方法があるなど聞いていない。

 オレがそういうと、ツキコはフイっとそっぽを向いた。

 

『・・・他の方法もあるにはある。ペナルティーはあるが、他のプレイヤーに頼ることなく抜ける方法がな。お前に言う必要がないと思ったから言わなかっただけだ。なにせ、私とお前は契約を結んでいるのだからな。まさか、お前だけ儀式を抜けるつもりなどあるまい?』

「そりゃ、オレだけ抜ける気はないけどよ・・・まあ、元々オレ『が』やる気はないし、ペナルティーもあるなら聞いても意味ないか」

『フン。お前にしては賢明な判断だ・・・ともかく、前回はイレギュラープレイヤーが出てきたせいで攪乱され、その隙を突かれて負けたというわけだ。まあ、今回のえげつないレベルの儀式でそんなことが起きる可能性など皆無だろうがな』

「お、おう。そうだな」

 

 オレがそのイレギュラープレイヤーだということは黙っておこう。

 というか、やっぱりコイツに魔女っ子の存在がバレるとろくなことにならない気がするし。

 儀式に執念を持っているコイツのことだ。オレに魔女っ子を倒すように言うか、それか自分で襲いに行きかねない。魔女っ子の運動能力を見るに、白上さんの身体に入って隠密までできるツキコにはまず勝てないだろう。

 そんなことを思っていると。

 

 

--キーンコーンカンコーン

 

 

「あ、チャイム鳴った」

『時間切れか』

 

 今のは予鈴だが、すぐにHRが始まる。

 ツキコの結界でオレたちがサボっていようがバレないだろうが、一応品行方正を心がけているオレとしては授業はしっかり受けておきたい。

 

『・・・おい誠二』

「あん?」

 

 オレの席はツキコの前だから、座るのはすぐだ。

 席について先生を待っていると、結界を解こうとしていたツキコがオレの名前を呼んだ。

 

『まだ先の話になるが・・・もしお前が『悪魔』と戦うなら』

 

 振り向いて目に入ったツキコの顔は、どこまでも真剣で。

 

『私は味方だ。お前が私のことをどう思っていようが、何があろうと、この契約があるのなら私だけは裏切らない。それを覚えておけ』

 

 いつもの調子なら、『まだお前のことを完全に信じたわけじゃねーよ』と返しただろうが・・・

 

「あ、ああ」

 

 その雰囲気に呑まれてしまったオレは、頷くことしかできなかったのだった。

 

 

-----

 

 TIPS1 The Hermit 隠者

 

 

 大アルカナの9番目。

 

 

 ローブを着てカンテラを持った老人の姿が描かれている。

 

 

 正位置では 『秘匿』、『慎重』、『探求』、『孤独な環境』、『高尚な助言』など。

 

 逆位置では、『消極的』、『陰湿』、『閉鎖的』、『偏屈』、『単独行動』など。

 

 

 どちらの意味でも、『孤独であること』、『自身の内側に意識を向けること』を示す。

 良い意味ならば、自分を深く見つめ直すことで悟りを開き、他人に左右されない環境で物事の本質を見極めて得られた知識や経験を次の世代に教え伝える様子を象徴する。

 悪い意味ならば、他者との関わりを拒絶し、己の意見を曲げない偏屈な様を指す。

 

 

 作中では、光属性の魔法を使用・・・していたのだが白上羽衣によって倒されている。

 恋人同様に直接的な戦闘能力は高くないので、運動能力の高い白上羽衣に攪乱されたところをバッサリとやられてしまった。

 

 レベルは4のため権能は使えなかった。

 もしレベル5以上ならば、逆位置の権能が発動し、属性は闇に変化。

 幻術によって己の姿を隠し、瞑想によって魔力を高めた必殺の一撃による暗殺を狙って来る。

 

 ツキコが使用することで一部の権能が発現しており、隠者の『秘匿』、『閉鎖的』な一面がツキコの幻術や結界と相性が良く、ツキコは内部の存在を秘匿する『月光天蓋(ルナ・コルティナ)』の効果と強度をさらに強化した『月光灯火(ルナ・ルクス)』を編み出している。

 

 なお、隠者は黒葉鶫とも相性がいいが、その場合は『閉鎖的』なのは同じでも、『他者の拒絶』をメインにした権能が発現する。当然のごとく伊坂誠二には無効。

 

 

 

TIPS2 黒葉鶫の好感度

 

伊坂くんに送り迎えしてもらえるなんて!!

しかも、ワタシとの約束は忘れないって、はっきり言ってくるなんて・・・+5%(キャップ到達のため無効)

 

嘘つき・・・-?%

 

伊坂くんのこと、悪く言いたくないよっ!!・・・±?%

 

あくまで、ワタシのために頑張りたいから・・・なら、いいです・・・+?%

 

むぅ。なんだか最近なあなあで伊坂くんの色んな所を許してしまってるような。

伊坂くん、ズルいです。でも伊坂くんだから許してあげます!!・・・±5

 

 

現在99%(キャップ到達)

 

 

伊坂誠二のことなら、大抵のことは許せる域にいる。

ただし、伊坂誠二が自分以外の何かを優先した時は伊坂誠二に対して悪感情を持ってしまう。

そしてそれ以上に強い自己嫌悪を抱く。

作者的には、『伊坂誠二が自分よりも優先したモノ』に悪感情のベクトルが向いておらず、その排除にも動かないだけ、現状はまだまだヤンデレベルが低い。

 

 

 

TIPS3 ツキコの好感度

 

白上羽衣よりも優先する女がいる、だと?だが、契約さえあれば。いや、ワタシこそが・・・±5%

 

そうだ!!お前は私に従っていればいい!!・・・+5%

 

オカ研だと?そんなに楽しいのか?・・・-15%

 

も、物で釣られると思うなよ!!だが、礼と詫びは受け取ってやる・・・+5%

 

なんだこれ!?うまいぞ!!こんなものが120円とはいい時代になったな!!褒めてつかわす・・・+5%

 

レディに年齢のことを聞くなたわけが。何?反省した?・・・分かればよろしい・・・±5%

 

今日はやけに素直じゃないか。それに、私の名前をたくさん呼んでる。

そうだ。私は白上羽衣ではなくツキコだ。私はツキコなのだからな・・・+5%

 

 

現在50%(キャップ到達)

 

ツキコは己の名前に強い執着を持っている。名付け親である伊坂誠二でもその名前を奪うことは許さないし、それ以外に馬鹿にされるようなことがあれば殺害を前提に排除を試みる。

伊坂誠二に名前を呼ばれると、本人に自覚はないが機嫌が良くなる。他、伊坂誠二が自分の言うことを素直によく聞く=自分の管理下に入ることに喜びと支配欲を感じている。特に、伊坂誠二がなりふり構わず自分に懇願する状況を好む。逆にそこから外れる状況になると機嫌が著しく悪くなる。

なお、伊坂誠二以外が下心を持って下手に出たところで無駄に苛立たせるだけである。

 

ただし、未だに彼女は始まりの魔女の願いに囚われている。

そこに囚われている限り、『ソレ』はツキコではあっても始まりの魔女の残滓から抜け出すことはできない。




もうちょっとで大きく話が動く・・・予定です。
高評価、ここすき、推薦、イラストとかくれたらめっちゃ頑張るんでお願いします。
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