異能力バトルで推しじゃない方の好感度を上げてしまう男の話   作:二本角

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中々話が進まない・・・


掛け持ち

「いや、急に呼びつけてしまってすまないね!!だが、君ほどの才能の原石を見てしまったらいてもたってもいられなかったんだ。舞札祭も立場上あまり動けなかったし、二日目は別件で来れなくてね」

「は、はぁ・・・」

「『・・・・・』」

 

 オカ研でのギスギスとした話合いから逃れることができるなら、ちょっとくらいのお説教程度なら全然OK!!のつもりで応接室まで来たオレ・・・と、なぜか黒葉さんとツキコ。

 部屋の中にはD組の担任と、やけにガタイのいい知らないおじさんがいたのだが、対面のソファに座るなりマシンガントークをされて、予想とはまったく違う展開に困惑中だ。

 ちなみに、オレたちはソファに座っているが、並び順は右からツキコ、オレ、黒葉さんである。

 当初はオレだけが呼ばれていたこともあり、担任が黒葉さんとツキコには外で待っているように言ったのだが、『おや?君は白上さんじゃないか!!ちょうどいい、君も聞いていきなさい!!そっちの子は・・・一緒に来たのなら2人の友人かな?ならば追い出す理由もないな』と、おじさんに言われてオレの両隣に座る形となった。

 なんとなく両側から威圧感のようなモノを感じて、オカ研を出てきたというのに未だにちょっとピリピリした空気があるような気がしなくもない。

 というか。

 

「おいツキ・・・し、白上さん。この人は知り合いなの?」

『うん。この人は道上さん。この学校のOBで、県の体育連盟の偉い人。陸上部の練習をたまに見に来るの。ちなみにうちの担任とは先輩後輩なんだって』

「・・・うわぁ」

 

 ツキコ、もとい白上さんと面識があるようだったので聞いてみたが、いつもの癖で『ツキコ』と呼びそうになって少しどもってしまった。

 ツキコはそんなオレを見て、一瞬だけ小馬鹿にしたように『フフン』と眼だけで笑うと、いっそ気持ちが悪いくらい自然に白上さんの口調を再現して説明した。

 その様子を眼にして、その猫被り具合に黒葉さんが不気味なモノを見たような眼で若干引いている。

 

「ああ、名乗るのが遅れてしまってすまないね!!私は道上駆(どうじょう・かける)。白上君が説明してくれたように、この県の体育連盟に勤めているんだが、陸上部OBとしてこの学校には愛着があってね。土日の練習のときには時たま顔を出すんだよ。あと、君たちの担任の先輩でもある」

「今それはいいでしょう、先輩・・・あ~、いきなり呼んで悪いな伊坂。今日は先輩がどうしてもお前に会いたいってうるさかったもんだから。まあ、後は先輩と話してやってくれ」

「は、はい、わかりました・・・あ、オレ・・・じゃなくてぼ、ボクは伊坂誠二って言います!!」

 

 おじさん改め道上さんが名乗ってくれたので、オレも名乗り返す。

 当たり前だが、明らかに目上の人なのでオレも敬語だ。

 ちょっと普段通りの口調が出そうになったが。

 

(誠二くんがボクって言ってるの、すごい違和感・・・)

(ちょっとキモイな。ボクって顔面じゃないだろうお前)

 

 両隣からなにか言いたげな雰囲気を感じるが、今は無視だ。

 

「ああ、よろしく頼むよ伊坂君。ところで、そちらの君は?陸上部ではないのかな?」

「す、すみません、申し遅れました。ワタシは黒葉鶫って言います。押しかけてしまってごめんなさい。誠二くんが呼ばれたのが、ワタシにも関係のあることかと思ったので来てしまいました・・・全然予想と違ってましたし、ワタシのことはどうぞお構いなく」

「そうかい?ならばそうさせてもらうが、関係のない話ばかりでつまらないかもしれないよ?出たくなったら、いつでも出て構わないからね」

「はい、ありがとうございます。でも、誠二くんに関わる話ならワタシも興味があるので、大丈夫ですよ」

「ふむ?まあ、いいか・・・」

 

 陸上部OBの道上さんにとって、黒葉さんはまったく関わりのない相手になるが、追い出すつもりもないようだ。

 オレの横で泰然と微笑む黒葉さんに少しばかり困惑したような顔をしているが、黒葉さんの言うとおり気にしないことにしたらしい。

 改めて、オレと目を合わせるように向かい合った。

 

「さて、それでは早速本題に入ろう。さきほども言ったが、私はここの陸上部のOBでね。陸上部にはぜひとも活躍して欲しいと考えているんだが、そこで伊坂君。君に陸上部に入ってもらいたいんだ」

「ええ!?」

「・・・・・!!」

『・・・ほう?』

 

 陸上部へのスカウト。

 それが、道上さんがオレを呼んだ理由だったみたいだ。

 しかし。

 

「えっと、ボクはもう他の部活に入ってて・・・というより、なんでボクをスカウトするんですか?」

「いやいや伊坂君!!それはとても残酷な言葉だよ!!君ほどの才能の持ち主が言っていいことじゃない!!」

「は、はぁ・・・?」

 

 オレをスカウトする理由がよく分からなかったのだが、それを聞いた道上さんが顔をずいっと近づけて捲し立てる。

 

『せい・・・伊坂君、運動神経がいいからね。自覚がないと思うけど、伊坂君と走りで張り合えるの、この学校どころか県でも私くらいじゃない?』

「そうなのか?」

「そうだとも!!一昨日、体育祭で走る君を見たが、心底驚いたよ!!野獣のように荒々しくも熟練の軍人が如く洗練されたフォームに、地面を介して伝わってくる力強さ!!なによりもブレーキがいかれた暴走特級のようなあの速さ!!あれほどの才能の持ち主が今まで無名だったことが信じられなかったよ。なにかスポーツとかしてなかったのかい?すごくがっちりしてるけど」

「特にはやってないんですけど・・・トレーニングはやってますね」

「ほう!!」

 

 道上さんは、一昨日のオレの走りを見ていたらしい。

 開会式と並んで全校生徒をヒエッヒエにした、オレとしては割と黒歴史なのだが、道上さん的に評価が高いようだ。

 なんか例え方がやけに物騒だけど。

 あとちなみにだが、オレがトレーニングをしていたのは本当である。主に襲いかかってくる不良を重傷を負わせることなく撃退するために。

 

「でもボク、今まで運動部に勧誘されたことなんてないんですが・・・あ、舞札祭のときに剣道部とかには誘われたけど、それもつい昨日だしなぁ」

『それは伊坂君の顔面が凶悪だからだよ』

「ああ、なるほど。まあ、そりゃそうか」

(誠二くん、そこはすんなり受け入れるんだ・・・ワタシもそう思うけど)

(白上ってあんなキツイ言い方する奴だったか?伊坂も普段と白上への態度がだいぶ違うような?)

 

 オレは学業はそんなに得意ではないが、運動にはかなりの自信がある。

 実際、小中高と体育測定のたびに全国記録を塗り替えることもしょっちゅうだった。

 だが、食堂で割り箸がうまく割れずにちょっとイラッときただけで視線すら向けていないのに近くの女子を泣かせてしまうようなオレだ。

 当然の如く、オレに運動部が声をかけてくることはなかった。

 だから、自分の運動神経の良さに自覚があっても道上さんのスカウトが意外だったのである。

 なおこのとき、うちの担任がオレと白上さんに扮するツキコを見て怪訝な顔をしていたことには気が付かなかった。

 

「あの、道上さんはオレの顔のこと、気にしないんですか?」

「確かに君の顔は怖い。まだ高校生のはずなのに、すでに修羅場をくぐったような顔をしているし、夜道でいきなり現われたら心停止の可能性もあり得ると思っている」

(((ものすごいストレートに言ってくるなこの人)))

 

 下手な誤魔化しをしないのがいっそ清々しい。

 ソファに座る3人の思考が一致しているのが顔を合わせなくてもわかった。

 

「しかしだ。陸上は顔を競う競技ではない。足の速さを競う競技だ。そこに顔の美醜はまったく関係ない。犯罪歴があるならともかく、君の担任に聞く限りではその凶悪な顔に反して素行も至ってまじめなそうじゃないか。ならば、君をスカウトするにあたって何の障害もありはしないさ」

「『・・・・・』」

「・・・ものすごく誠意が伝わってくるね、誠二くん」

 

 ツキコと2人でつい黒葉さんの方を見てしまったが、黒葉さんはとくに否定するようなことはなかった。

 オレの顔を怖いと思いつつも、それでもオレの運動能力を買っているのは本当のことみたいだ。

 

(誠二は人外だが、なぜか瘴気の量は少ない。すなわち、『人外だから』という理由では黒葉の魔女ほど嫌われることはないが・・・)

(それでも、誠二くんにただの人間がプラスの印象を持つのはかなり強い執着がいるんだけどな・・・この人、普通の人みたいだし、変な魔法がかかってるようにも見えないのに、言ってることに嘘がないよ・・・)

 

 黒葉さんもツキコも困惑しているように見えるが、オレも正直落ち着かない。

 なにせ、黒葉さんのようにイジメから助けたわけでもなく、純粋にオレの能力を買って好印象を持ってくる人など初めてだからだ。

 はっきり言うと、かなり嬉しい。

 これがどう見ても本心ではないお世辞なら腹が立つだけだが、運動神経の良さには自信があるから、信じやすいというのもあるだろう。

 だが。

 

「ごめんなさい、道上さん。さっきも言いかけたんですが、ボク、もう別の部活に入ってるんです。なので、誘ってくれるのは嬉しいんですが、陸上部に入るのはちょっと・・・」

 

 そうだ。

 オレの顔面にビビりつつも、オレの能力を色眼鏡なしで評価して誘ってくれたことはとても嬉しい。

 しかし、オレはもうオカ研に所属しているのである。

 そう簡単に抜けるわけにはいかないのだ。

 それに、儀式のことだってある。

 今の黒葉さんがそこいらの人間にちょっかいをかけられても余裕であしらえるだろうが、怪異が相手なら話は別。朝に送ったときに話したように、プレイヤーはプレイヤーどうしで固まっていた方がいい。

 オレと黒葉さんはとくに狙われやすい魔法使いのプレイヤーであることだし、放課後は今まで怪異が襲ってきた時間帯なのだからもっとも警戒を強めるべきである。

 

(それに・・・儀式のことがなくても)

 

 なにより、ここでオレだけが抜けてしまえば、黒葉さんがひとりぼっちになってしまう。

 黒葉さんが心配とかそういうこと以前に、黒葉さんに寂しい思いをさせるのは嫌だった。

 

「・・・っ!!」

『・・・ふん』

 

 左からは嬉しそうな気配。

 右からはつまらなそうに鼻を鳴らす声が聞こえた。

 

「むむ、そうか・・・う~む」

 

 オレの答えを聞いた道上さんが困ったようにうなり声をあげる。

 ・・・正直言って心苦しいが、こればかりはどうしようもない。

 

「いや伊坂。掛け持ちはできないのか?」

「え?掛け持ち?」

 

 そこで、今まで黙ってことの推移を見ていた担任が話しに入ってきた。

 

「ああ。部活の掛け持ちは別に禁止されていないぞ。まあ、あまりやってるヤツはいないが」

「マジすか・・・でも、オレは」

 

 交友関係が乏しいのもあって、それは知らなかった。

 先生の言うとおり、掛け持ちしている人が少ないのもあるだろうが。

 しかし、オレが陸上部に入らないのは別に部活のルールだからというだけではないのだ。

 掛け持ちができるからと言ってもやる理由は・・・

 

「ふむ、伊坂君。君は、進路は決まっているのかい?もしも決まっていないのなら、部活で結果を出すことでスポーツ系の推薦を狙うこともできるが」

「っ!!進路、推薦・・・」

(くっ!!余計なことを!!)

(ほう?誠二め、迷っているな?ほうほう?)

 

 今度は左からピリピリした空気、右からは興味深そうな雰囲気を感じたが、それよりも道上さんの言ったことが気になった。

 

「推薦、ですか」

「ああ。君ならば確実に実績を出せるだろう。そうなれば、私からも口添えができる。これでも仕事柄、いろいろと顔は利くのでね」

「あ~、白上やよそのクラスの子がいる前で言うのもアレだが、お前の成績だとこの話はだいぶ美味しいと思うぞ?あと、俺は陸上部の顧問だし、俺の方でもいろいろ融通できるとは言っておく」

「う゛・・・」

 

 そうなのだ。

 オレももう高校二年生。

 まだ初夏とはいえ、そろそろ進路について真剣に考えなければならない時期である。

 そして、この学校は進学校であるが、オレの成績はあまりよろしくない。

 前に黒葉さんに勉強を教えてもらってテストの点数は上がったが、それでも平均くらいだった。

 とくに進路も決まっていないオレとしては、先行きが大変不安だったのである。

 そこにこの話だ。

 黒葉さんのことや儀式のことがあっても、少々心が揺らぐのは拒めなかった。

 

(くっ、ツキコさえいなければこの人たちに魔法薬が使えるのに・・・誠二くん!!将来はワタシが養うから!!誘惑に負けちゃだめ!!)

(誠二をオカ研から引き剥がすチャンスか・・・よし)

 

 両側から感じる圧が増えたり減ったりとめまぐるしく動いているが、それも気にならない程度にはオレの中に迷いが生じていた。

 そのときだ。

 

『私も、誠二くんはこの話受けた方がいいと思うけどなぁ~・・・そもそも、舞札祭は終わったんだし、オカ研ってしばらくは暇なんじゃない?ねぇオカルト研究部部長の黒葉さん?』

「っ!!」

(うわ、またギスギスに・・・何考えてんだツキコのヤツ。)

 

 ツキコがオレの迷いを後押しするように割って入ってきた。

 しかし、ツキコの言うとおり、オカ研に限らずだいたいの文化部の晴れ舞台は舞札祭であり、校外でコンクールがある吹奏楽部や演劇部などの大きな部活を除くと来年の舞札祭まで大きなイベントはない。

 儀式のこともあるからオレがオカ研を離れるつもりはないが、この場で表向きの言い訳ができないと話を断るのが難しくなりそうだ。

 チラリと横目で見てみると、黒葉さんも焦ったような顔をしている。

 対照的に、ツキコは顔こそ白上さんのように穏やかだが、眼の中にネズミをいたぶる猫のような嗜虐的な光が見えた。

 

「オカルト研究部・・・?ずいぶんと、その、意外な部活に入っているのだね。それに、黒葉君が部長とは・・・あ~、私がいた頃と変わらないのなら、確かほとんどの文化部は舞札祭が終わればしばらく時間が取れたと思ったが、今は違うのかい?伊坂君に入ってもらうにしても、最悪インターハイに出るだけで十分だから、秋や冬はその、オカ研?を優先してもらっても構わないが」

「うちの学校でこれからも忙しい文化部って言うと、吹奏楽部や演劇部、科学部や百人一首部ですからね。オカルト研究部にコンクールみたいのは聞いたことないですなぁ」

 

 道上さんと陸上部の顧問兼担任も、これを説得の好機とみたのか、連携するようにたたみかけてきた。

 道上さんに至っては時期の譲歩までしてくれている。

 こうなると、よほどの理由がないと断れないだろう。

 

(黒葉さん・・・どうする?)

 

 儀式のことを話せない以上、オレの頭ではこの場をどうにかできる方法など思いつけるはずもない。

 オレは早々に勝負を諦め、黒葉さんにすべてを委ねていた。

 その黒葉さんは少しの間だけ、何かを躊躇うような素振りを見せていたが・・・

 

「その、あまり言いふらして欲しくないお話があるのですが、他言無用でお願いできますか?」

「言いふらされたくない話?それは、伊坂君がオカルト研究部から離れない理由に関係があるのかい?」

「はい。ワタシがこの部屋に来たのも、そのことが関係しているからと思ったんです」

「黒葉さん、まさか」

『・・・・・?』

 

 ややあって、実に言いにくそうに話を切り出した。

 そして、オレは黒葉さんの話す内容に予想が付いていた。

 思えば、最初にこの部屋に来たときはそれが理由だと思ったのだし。

 

(あのときはあまりことを大きくしないように黙っていたが、この状況では話すしかないか)

 

「ふむ・・・まあ、聞くだけ聞こう。他言しないことは内容次第だが」

「いえ、無理を言っているのはこちらなので、それでも大丈夫です。その、実はなんですが・・・ワタシ、イジメを受けていたんです」

「何?」

「あ~・・・」

『・・・・・』

 

 怪訝そうな顔をする道上さんと、なんとなく予想できていたのか顔をしかめる担任。

 ツキコはとくに感情の読めない表情でじっと黒葉さんを見つめている。

 そんな中、黒葉さんは事情を説明した。

 オカルト研究部の部室でカツアゲされたこと、それをオレが脅かすようなやり方で撃退したこと。

 以降、オレが睨みをきかせることで守っていること。

 ただし、そのやり方ではオレの悪評が広まるかもしれないと、心配していたこと・・・まあ、これはこの場かここに来る前に考えていたことだと思うが。

 そして。

 

「なるほど、放課後や下校のときも伊坂君が常に近くにいることで、ボディーガードをしていたということか」

「あ~、G組の担任あの人か~・・・気付いてるのかどうかは知らないけど、深入りはしなそうだな。っていうか、伊坂。お前顔に似合わずいいことしてるじゃないか。でも白上がいるのに・・・あ~、いや、すまん」

 

 話を聞き終えた2人は渋い顔をしていたが、納得はしたようだった。

 担任の方は何かを言いかけようとしてツキコを見てから止めたみたいだけど。

 

『・・・ふん。予想通りか。つまらん』

 

 ツキコはツキコで、どういうわけか冷めた様子をしている。

 まるでチープな映画のストーリーがすべて予想通りだったときの観客のようだ。

 

「しかし、そういうことならクラス担任に言って厳重に注意してもらえばいいのではなないかね?」

「いや~、それも難しいですよ。G組の担任は、同僚のことを悪く言いたくありませんがその辺りが杜撰ですし。そもそも、注意してもその場だけ聞くフリをしてイジメを続けるかもって話にもなる。親も絡んでくれば、下手をすればかなりの大事です。学年主任や教頭なんかはいい顔をしないでしょう。今のやり方でうまく行ってるのなら尚更。まあ、胸くそ悪い話ですけど」

「ううむ・・・」

 

 黒葉さんがこのことを話さなかったのは、あまりに大事になって黒葉さんをいじめた2人が退部することで部の規定人数を満たせなくなり、部室がなくなることを回避するためだった。

 しかし、担任を見ていると話していても大して変わらなかったような気もする。これが全国的に問題になっているという、学校の隠蔽体質ということか。

 うちの担任に関しては苦虫をかみつぶしたような顔をしているので、そのことへの不満はあるみたいだけど。

 

(よし!!2人とも困ってる!!ちょっと申し訳ないけど、このまま諦めてもらおう!!)

(・・・この毒虫め。自分自身を人質にしたな。犯人を追い詰めるのが難しい以上、誠二が護衛を止めればまたイジメが起きるかもしれない。それを建前にされれば無理に誠二を勧誘することはできなくなった・・・今のコイツなら人間なんぞいくらでも証拠を残さずあしらえるだろうに。まったく、開会式のときからずいぶんと役者の腕を上げたモノだな)

 

 少し前とは逆に、今度は左側が喜んでいて、右側が冷たい空気を醸し出している。

 温度差で風邪を引きそうだ。

 

(けど、これで放課後もオレたちがバラけないで済むな)

 

 だが、今のオレたちにとって一番重要なのは儀式のことだ。

 下手をすれば本当に命を落しかねないのだし、オレと黒葉さんが離ればなれになるのは絶対に避けるべきである。

 最低でも現状維持ができそうなのだし、推薦の話は惜しいが、ここはオレからも一言言って諦めてもらおう。

 そう思って、道上さんに改めてスカウトに応じることはできないと言おうとして。

 

「う~む、黒葉君。ここからの時期は、オカルト研究部の活動はそこまで頻度が高くないのだね?」

「え?それは、はい・・・」

「うむ、それならば・・・」

 

 しばらくの間、唸りながらも何か考えていたのか、道上さんが何か思いついたようだった。

 黒葉さんも後ろめたいところがあるのか、念を押すかのような確認に正直に答えている。

 それを聞いて、道上さんは満足そうに頷いた。

 

「ならば黒葉君。君も陸上部に来たらどうだろう?」

「「『え?』」」

 

 3人の声がハモった。

 

「私は古い人間だから、反感を覚えるとは思うが言わせてもらおう。健全な精神は健全な肉体に宿る。身体を鍛え、自信を持てばくだらないイジメなどはね除けられるようになるさ」

「は、はぁ・・・」

「ま、まあ、それは一理あるとは思うけど」

『・・・・・』

 

 オレもパワーこそ正義と思ってる人間なので、道上さんの言っていることは感覚的に納得できる。

それに・・・

 

「まあ、それは冗談として置いておくにしても、伊坂君の目の届くところにいればこれまでと同じように過ごせるだろう?オカルト研究部の活動がないというのなら、それもできないわけじゃないはずだと思うが、どうだい?」

「え、えっと、ワタシ・・・」

「・・・それ、オレはいいと思うよ黒葉さん」

「誠二くん?」

 

 オレは、口ごもる黒葉さんの後押しをすることにした。

 道上さんの提案には驚いたが、中々悪くないように思えたのだ。

 単に、オレの進路だけの問題ではない。

 いろいろな側面でメリットがありそうだと思ったのである。

 

「『これから』のことを考えたら、今まで通り黒葉さんも鍛えた方がいいと思う。体育祭だと、黒葉さんも頑張った成果が出てたしね」

 

 まずは、黒葉さんのステータスアップのこと。

 オレと出会ったばかりの頃の黒葉さんは、言い方は悪いが虚弱体質であった。

 しかし、儀式との戦いにそれではマズいと、オレと一緒に舞札神社の境内で走って鍛えることで、舞札神社の石段も最近ではそんなに息切れせず登れるようにまでなっている。

 一昨日の体育祭だって、目立った活躍こそなかったが、しっかりと走ってリレーを繋ぐことはできていたのだ。

 儀式がまだ続くことを考えたら、せっかく鍛えた足腰をより良い環境で伸ばすのは大いにアリだろう。

 次に儀式のことだが、道上さんの言うようにオレの目の届く範囲に黒葉さんがいるのなら、儀式の怪異が襲ってきたときにも対応できる。

 黒葉さんと仲は悪いがツキコだっているのだし、ツキコは自前で怪異に見つかりにくくなる魔法を使えるとはいえ、3人で固まっていれば全員の安全が高まるのは間違いない。

 オレとしても、ツキコはともかく白上さんの身の安全も守れるのは安心できることだし。

 そしてなにより、黒葉さんの高校デビューその二だ。

 今、オカ研での活躍で黒葉さんの人気がめちゃくちゃ高まっているのは朝見たとおり。

 陸上部というオカ研よりも人目に付く花形の部活に入れば、オカ研にいるときよりも黒葉さんの味方になってくる人は増えるだろう。

 少し前だったら黒葉さんの人間不信が大きな壁となっていただろうが、舞札祭を乗り越えた今の黒葉さんならば、オレがボディーガードをするのが前提ではあるが、いけるはずだ。

 黒葉さんの身体を鍛えつつ、味方を増やせる。それでいて儀式への対応も人手が増えることでやりやすくなる。

 ついでに、オレの進路にも役立つ。

 考えれば考えるほどアリな気がしてきた。

 

「ほう?黒葉君も鍛えているのかい?」

「は、はい。ほぼ毎日、誠二くんと走ったりしてます」

「おお、いいじゃないか!!感心感心!!」

 

 狙ったワケではないが、道上さんの受けも良さそうだ。

 

『・・・チッ。猫かぶりが』

 

 対照的に、ツキコの機嫌が益々悪くなっているような気がするが。

 オレはともかく、やはり犬猿の仲の黒葉さんが陸上部に来るのは嫌なのだろうか。

 

「・・・そうですね」

 

 ツキコのことを気にしている間に、黒葉さんもなにがしか考えをまとめていたらしい。

 さっきまでは少し慌てていたが、今は落ち着いた雰囲気で口を開いた。

 

「ワタシがもっと鍛えられるようになるのはいいかもしれません。でも、それと並行して陸上部のマネージャーになることはできますか?」

「マネージャーに?それはできると思うが・・・どうだい?」

「ああ、陸上部はマネージャーも募集してますから、いけると思いますよ」

「そうなんですか!!なら、ワタシも陸上部のお世話になろうと思います!」

(黒葉さんがマネージャーか。なんかすごいあってる気がするな・・・)

 

 黒葉さん、なんとマネージャーになることを考えていたようだ。

 しかし、黒葉さんにマネージャーというのはかなり似合っているような気がする。

 お手製の軟膏も作れるくらいだし、料理も上手いし、怪我をしたときの対処やドリンクの用意なんかも手際が良さそうだ。

 まあ、黒葉さんがマネージャーになるとなれば、昨日のオカ研でやってきた男共のようなバカな連中が来そうだし、黒葉さん1人でもあしらえそうだがオレも気をつける必要はあるだろう。

 だが、どうして部員というだけではなくマネージャーも選んだのだろうか?

 

(マネージャーなら、ドリンクとかの用意をするのは当然だよね。誠二くんにだけじゃなくて、ツキコにも。もちろん、契約を破らないようにしなきゃいけないけど・・・でも、いろいろとできそうだよね)

(こいつ、まさか・・・私に盛る気か?いや、そこまで単純な手は考えていないだろう。何が目的だ?)

 

 ニコニコと微笑む黒葉さんと、表面上は笑みを浮かべているが冷たい光の宿った眼をするツキコ。

 どこまで行っても、2人は対照的だった。

 

「それでは、これから陸上部でもお世話になりますね!誠二くんも、一緒に」

「あ、うん。オレ・・・じゃない、ボクもお世話になります」

「ははは!!いや、こちらこそよろしく頼むよ!!間違いなく君と白上君がいれば全国を獲れる!!それに、黒葉君の自分を鍛えようという向上心もとても好ましい。本当に周りのことで困ったらいつでも相談しなさい」

「それを言うのは俺たち以外にもいるとは思いますけどね・・・まあ、お前たちが入ってくれるのは嬉しい。伊坂はとんでもない即戦力だし、マネージャーは人手不足だったしな・・・白上も嬉しいだろ?」

『・・・はい、そうですね』

 

 正式に陸上部に入ることとなり、道上さんとうちの担任にオレと黒葉さんの2人で改めて挨拶をすると、道上さんは笑顔で喜び、担任も色々と言いたいことはありそうだったが喜んでいるようだった。

 そして、白上さんにも話を振る。

 担任の受け持つ生徒であり、オレのクラスメイトにして、陸上部の先輩なのだからここで話すのを促すのはなにもおかしいことではない。

 だが。

 

「白上さんも、これからよろしくお願いしますね?・・・『いろいろと』」

『うん。黒葉さんもいきなりマネージャーなんて大変そうだから、私もいつも気にかけるようにするよ。『なにかあったら』、すぐに動くから安心してね?』

(怖っ!?なんかすごい怖いんだけど!?)

 

 笑顔で言葉を交わす2人を見て、どういうわけか、オレは背筋が寒くなるのだった。

 

 

-----

 

おまけ

 

 

 

 話し込んでいた時間は案外短かったが、もうそこそこ昼休みは過ぎてしまっており、オレたちは教室に向かって歩いていた。

 応接室を出て、生徒があまり歩かない職員室付近の廊下を歩く。

 

「「『・・・・・』」」

 

 無言で。

 

(き、キツイ・・・ギスギス言い合ってるのも嫌だけど、こういう重たい雰囲気も嫌だ・・・!!)

 

 朝の教室やオカ研ではバチバチとやり合っていた2人だが、今はお互いが視界に入っていないかのように前だけしか見ていない。

 なのに、敵意だけはオレを挟んで戦場の銃弾のごとく飛び交っているような気がする。

 生まれて初めて胃が痛くなりそうだった。

 

(ん?あれは?)

 

 そのとき、オレの眼に自動販売機が入ってきた。

 喉も渇いているし、この空気をどうにかするのにちょうどいいかもしれない。

 

「ね、ねぇ2人とも、自販機あるけどなんか買ってく?オレ推薦もらえるかもって話だし、出世前祝いってことで奢るよ」

 

 そう思ったオレは、2人にジュースを奢ることにした。

 ・・・別に、飲み物を飲んでいる間は喋らなくていいと考えた訳ではない。

 ともかく、そんなオレに応える声は、さきほどのように正反対であった。

 

「え?いつも奢ってもらっているのに、悪いよ。ここはワタシが・・・」

『む。そうだな。今日はまだあのジュースをもらっていないし、ちょうどいい・・・』

「『・・・・・』」

「ふ、2人とも?」

 

 舞札神社でのトレーニングの後にジュースを奢っている黒葉さんと、魔力操作を教えてくれたお礼としてジュースを渡しているツキコ。

 片や、いつも奢ってもらっているから悪いと言い、片や、いつも奢っているのだから今日も寄越せと言う。

 しかし、言っていることは正反対なのに、口を閉ざすのは同時だった。

 

「・・・どういうこと?いつも誠二くんに何か奢ってもらってるんですか?」

『それはこっちの台詞だ。誠二に守ってもらってばかりだった癖に飲み物までたかるのか。さすがは黒葉の魔女。品性が卑しいな』

「そのまま返しますよ。奢られてるのを当たり前に思って返そうともしないとか、見ているこっちが恥ずかしいです」

『これは正当な報酬だ。お前が教えられなかった魔力操作を教えた対価としてな・・・そう考えれば、誠二が(ブースト)を制御できるようになったのは私のおかげと言えるな?つまり、塔と戦ってお前が生き残れたのは私のおかげとも言える。むしろ、お前が誠二の代わりに金を払う立場じゃないか?』

「本当にお里が知れますね・・・でも別にいいですよ?それくらい奢るのは。なにせ、私が命を拾ったのはその通りですし、なにより、誠二くんが魔力操作を覚えてくれたおかげで開会式は大盛り上がりでしたから。ふふ、あのときワタシの手を取ってくれた誠二くん、とってもかっこよかったなぁ」

「『・・・・・』」

(や、ヤバい・・・!!早くなんとかしなくちゃ!!)

 

 初夏だというのに、今年一番の寒波が来たかのように空気が冷え込んでいた。

 オレは、急いで財布を取り出してジュースを二本買うと、2人の間に割って入ってジュースを手渡した。

 

「ほ、ほら、これ!!2人とも好きだよね?」

「『・・・・・』」

 

 オレが買ったのは、ツキコにいつも奢っているジュースであり、黒葉さんもいつしか気に入っていた銘柄だ。

 人間、共通した好きなモノがあると仲がよくなりやすいと聞いたことがある。

 ワンチャン、これでなんとかならないかとオレは本気で願った。

 

「『・・・・・』」

(え?なんだこれ?これはどういう意味の沈黙なんだ?)

 

 オレの思惑通りと言うべきか、2人は一瞬静かになった。

 だが、どうにも予想以上というか、お互いに喋るのを止め、お互いが持つジュースをジッと見ている。

 そして。

 

「誠二くん、奢ってくれてありがとう。でも、これは後で飲ませてもらうね?」

『ふん・・・これは受け取っておくが、今は気分じゃない。後で飲む』

「う、うん・・・」

 

 またも2人揃って、今度はまったく同じ反応を返すのだった。

 それが気に食わなかったのか、お互いにまたにらみ合いになったが、それも一瞬であり、すぐに元のようにオレの両隣に戻る。

 

「「『・・・・・』」」

 

 そうして、オレたちはまたも無言で歩き始めた。

 

(・・・前に誠二くんが言ってたこのジュースが好きな人って、ツキコのことだったんだ。ふぅん)

(チッ、気に食わん。誠二からの贈り物に泥をかけるような真似をしおって)

(え?え?え?なんかミスった?オレ、何をミスったんだ!?)

 

 結局、教室に戻るまでに黒葉さんとツキコが喋ることはなく、校内放送のこともあってD組の連中は朝に続いてまたも騒いでいたが、己が一体何をやらかしたのか皆目見当つかなかったオレはそれどころではなかったのであった。




執筆中に久しぶりに評価が入って嬉しかったです!!

もしもIFルートを書くなら

  • 黒葉さん幼なじみルート(早期に激重化)
  • 伊坂誠二の初期カードが月(ツキコ相棒化)
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