転生王女と天才令嬢の淫蕩生活   作:はまちや

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転生王女の淫具開発:下

 

「はー……朝から散々だぁ……」

 

 マナブレイドの利点? 敵の手に渡ってもすぐには使いこなせない所ですなワハハと笑っていたベテラン騎士団員の気持ちが魂で理解できた気がする。

武器を奪われるとはそれだけ恐ろしいことだ。だって戦力が相手にそのまま行くんだもの。

 

「別に、そのままウチに来るのは良いけど、体拭くくらいしたんでしょうね?」

「あ、当たり前でしょ! そっちこそ、ちゃんとお風呂入ってんの!?」

 

 このままだと一日活動できなくなりそうだったので慌てて出かけて来たけど、来る先を間違えたかもしれない。

歓迎する気もなさそうなティルティに邪険にされつつ、こっそりと服を嗅いでみる。

……大丈夫だよね?

 

「それで、こないだお願いした奴はできた?」

「マンドレイクの汁を精製した奴? ほら、そこ」

「おーさすが、仕事早いね。試してみても?」

「別にいいけど、散らかさないでよ」

 

 マンドレイクというのは、森に棲む巨大な花の魔物。

前々からこいつが吐き出す毒液には目をつけていたんだけど、このたび本格的に研究に乗り出すので、薬の素材としてティルティに預けていた分を取り出しにきたわけだ。

 

「臭いで分かるとはいえ、まだ結構な毒性があるわよ、それ。何に使うわけ?」

「ん? 知りたい? これにねー、怪しい粉を加えてねー……」

 

 使うのはこの透明になった液体と粉と水。

ちょっとドロっとした液体にささっと粉を振りかけた後、水を入れて飛びちらかさないように気をつけながら全体をかき混ぜる。

するとあら不思議、さっきまでドロっとしていた液体が、ビーズ状にまとまっていく。

 

「うんうん、思ったより反応があるね。一応、もう触っても大丈夫のはずだよ」

 

 取り出したビーズを今度は蒸し器に入れて、水蒸気を当てる。

すると固まった時に取り込んだ発泡剤が作用して、ビーズが5倍くらいの大きさに膨れ上がった。

 

「なにこれ。面白いっちゃ面白いけど、またよく分かんないもの作ったわね……あんまり使い道ないとはいえ一応魔物素材なんだから、そんなに多くは手に入らないんだけど?」

「あー、まあ、これですぐに何かしようって訳じゃないから良いんだ」

 

 私の考えが正しければ、後は型に入れて焼けばパンのように膨らんで固まるはずだ。

とりあえず今は、その性質が確かめられれば一旦OKかなと思っている。膨らみきったビーズは空気をたっぷり含んでいるから軽くて脆いけど、そのぶん物理的に熱を閉じ込める機能を持つ。

 

 つまりはスチロール。……に、近いものになっていれば良いんだけど。

 

「えーっと、後はエタノールからブタジエンだっけ? うーん……そもそも普通に蒸留したくらいでアルコール濃度足りるのかな? 水分を奪う魔法とかユフィに聞いてみようかな……」

 

 指折りロードマップをぶつぶつ呟いていると、なんとなく冷めた視線が刺さる。

 

「ふぅん……何考えてるのか知らないけれど、キテレツ王女にしちゃずいぶんとつまらなさそうな顔で作ってるわね」

「あー……そう見えた? ちょっと私の目指す魔法からは遠いからねえ……」

 

 最終的には色々軽量化できるから、効率化を目指すなら必要になるかもだけど。

今のレベルだと、エアドラみたいに出力上げてドカンで間に合ってるんだよねえ……。

 

「いえ、つまらなさそうというか……貴方、怖いの?」

「……そんな、まさか。数々の事故を積み上げてきた城壁ブレイカーたるこの私が、今更どんな実験で怖がるって?」

「あ、そう。やっぱ良いわ、聞かないから。そろそろ帰れば?」

「えー? 何よいきなりー」

 

 顔をしかめたティルティが犬でも追い払うかのように手を振るので、私は慌てて荷物を纏めて部屋を後にする。

扉が閉まる直前、魔女が不吉な予言をささやくように、薄暗い通路に声が響いた。

 

「せいぜい女王様にこってり絞られときなさい」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「それで、何を隠してるんですか?」

「あのね? ユフィ。別にやましいことがあるわけじゃ……」

「はぁー……いつ言うべきかずっと迷っていましたが、そろそろアニスには残酷な真実を告げる時が来たのかも知れません」

 

 夕食を終え、団らんの最中。

急に話を切り出されたと思ったら、次はユフィにビシィと指を突きつけられた。

 

「アニス、貴方は嘘が下手です!」

「えー? まっさかー」

「貴方は仮面をかぶって周囲を誤魔化すのには慣れてると思っているかも知れませんが、はっきり言ってかなり多くの人にバレバレです。『声で演技が分かる』演技をしている役者に感心するくらい下手です」

「そ、そこまで言う……?」

「アルガルドも『今だから言えるが、姉上の下手くそな道化かたにはさんざん苛々させられた』と言うほど下手です」

「…………」

 

 アルくんに言われるほどかぁ……。

それはもう、さぁ……ふざけて流すのもできないじゃん……。

 

「なので懸念している事があるなら、早めに相談してください。私人としても、国王としても、貴方が煩っているものを知らない方が問題になるのですから」

「うぅん……いやでも、本当に取り越し苦労かもしれないし……」

「わかりました。では体に聞きますね」

 

 そしてユフィの手元でヴィンヴィンと自己主張を始める例のモノ。

いやそれどっから出したの。あまりにも早い判断に私もあんぐりだよ。

 

「ユフィさん? ここ食卓」

「メインディッシュはアニスですよ」

「そうだけどさぁ!? わかった、言う! 言うから! ごめんイリア、ちょっと出てって!」

 

 イリアはともかく、レイニがまだ見てるんだよ!?

私からイリアに目配せすると、そっと頷いたイリアがレイニを伴って退室する。

うん、人払いは頼んだけど、なんか一瞬手付きがいやらしかったのは気のせいにしておこう。

 

「……えっとね? 私が冒険者ギルドと深い付き合いだったのはユフィも知ってると思うんだけど、その時、もし見つけたら絶対に知らせてね、ってお願いしてたものがいくつか有るの。

 

 ――それが『燃える黒い泥溜り』、または『異常に油臭い猪の魔物』」

 

「前世の知識絡み、ということですか? そして、それが見つかったと?」

「猪の方、それも痕跡だけね。泥溜まりも魔物も、誰もまだ直接は見てないみたい。……見つかったって連絡がきたら私も見に行こうと思うんだけど、最近は気がはやっちゃって」

 

 別に、本気で見つけたいと思っていた訳じゃなかった。

でも、()()がこの世界のどこかにあるのなら……少なくとも、その存在を知って放っておくことは私にはできない。

 

「しかし、油……新しい燃料ということですか? 確かに魅力的ですが、アニスがそこまで慄く様なものとは思いませんが」

「ううん。ただエネルギーになるってだけじゃない。私の前世……魔法を使わない世界で、それは世界のあり方を変えたの。かつての世界では、それから何でも、把握できないほど沢山の種類の物を作ってた」

 

 私が抱えている焦燥感を、ユフィはいまいち正しく理解できないのだろう。

仕方のないことだと思う。私だって正確には、それが持つ可能性の全てを把握してはいないのだから。

 

「私がそれを本気で使えば、ひょっとしたら魔法の時代を終わらせるかも知れない。……でも、私はそんな事望んでないんだ」

「だから、怖いのですか? その物体は、アニスの夢を壊すほどの力があるから?」

「……違うかな。もしそれを手に入れたら、私はそれをコントロールしたいんだ。私が正しく……違う、正しさなんて誰にも決められないのに。でも私はそれを魔法のために使いたい。……そうしない方が、より多くの人が助かるかもしれないのに」

 

 だって、私はその上に成り立つ世界を()()()()()

()()がどれだけの物を、人を、世界を動かしていたかの実感がある。

……そうしない、ということは、そういった世界になる可能性を捨てるということだ。

そうなる事で助かる人が居るかもしれないのに、私は、私が望む方向にコントロールしたいと思っている。

 

 夢で見た、冷たいレバーの感触を思い出す。

どちらに不幸を与えるか。それを決めるための、冷え切った鉄の棒。

 

「――これは……私のエゴなんだよ」

 

 口に出して整理がついた。

私が焦っているのは、別の道を選ぶならそれに見合うだけの成果が必要だと思っているからだ。

『それ』に……『()()()()』に見合うだけの成果。

いったい私が、どれだけ身を粉にすれば釣り合うのだろう。

 

「……貴方のエゴは、素晴らしいものですよ」

「そうかなあ」

「だって、私はそれに救われたんですから。ふふ、本当に、アニスは急にわがままを言うのに臆病になる時がありますね」

 

 ユフィリアの琥珀の瞳が、私の目をまっすぐに縫い留める。

私の仄暗い不安を抱きとめるように、柔らかく微笑んで、暖かい手を握る。

 

「それに、私にも手伝わせてくれるんでしょう?」

 

 そこまで言われて、私はやっと、自分が当然のことも忘れていたことに気がついた。

 

「……うん、ユフィは私の助手だもんね」

「もしもこの先長く生きて、貴方を失ってからも生き続けることを考えると身が凍えるようですが……そのくらいの荷物があれば、私もすぐには生きる意味を見失わずに済むでしょう」

「そっか。……そうかもね、天才のユフィにはちょうどいい宿題かも」

 

 私のエゴを……私の夢を背負ってくれるのは私一人じゃない。

ユフィが一緒に背負ってくれるなら、きっと私が()()()()()よりも素晴らしい未来にだってたどり着けるはずだ。

だって彼女は、本当に素晴らしい天才令嬢なんだから。

 

「うん、なんだか一気に気が楽になった! えへへ、ユフィの言う通りだね、こんなの早く相談すれば良かったんだ」

「まったくです。アニスは焦らし上手なんですから」

「そんなつもりは無いんだけど……あ、そうだ、ちょっと待ってて」

 

 私は急いで自分の机に閉まってある紙の束を取り出し、ユフィの元に戻る。

 

「これは……? 『魔力導線に付随した新型街道網整備計画書』……」

「一応、計画書というか、夢物語というか……ここ数日、何ができるかなあってのをずっと考えてたんだ。その書き付けだよ」

 

 ここ数日、不安と期待に焦がれた私がちょこまか作業していたものの正体。

 

 振動魔具を用いて舗装したアスファルトの道路。

 その下に埋め込む、ゴムやプラスチックを用いたエネルギー伝達用の管。

 ナフサから精製するプラスチックや発泡スチロールでの輸送や梱包。

 それを乗せた、魔力と石油のハイブリッド駆動の自動馬車。

 

 どれか一つでも魔学の輝かしい功績になるだろう計画の、期待される相乗効果を頭の奥底から引っ張り出して描いた()()のお伽噺。

 

「なるほど、確かに……ここに書いてある概算が本当なら……いえ、この半分ほどの効率でも、文字通り世界が変わりますね」

「ま、取らぬ狸の皮算用だけどね。そもそも思った通りに使える物かもまだ分からないし。私も大人しくユフィを置いていくつもりは無いけど、もし何かあったらそれを参考にしてよ」

「ええ、確かに。……世に出すには早すぎるというアニスの気持ちも、少しわかりました。これだけの事ができるなら、これは国がコントロールしないと危険ですね」

「民衆が気軽に移動できるようになると、それはそれで弊害があった気がするしね……うーん、そっちの方の知識は本当に概要しか記憶に無いのよねえ」

 

 心理学とか社会学とか、単語だけはなんとなく脳裏にあるけれど。

まあ、その辺についてもっと詳しければ、アルくんと拗れることもなく無難に過ごせていたんじゃないかな?

政治の分野だよね、どう考えてもさ。

 

「アニス」

 

 考え込んでいると、ポン、とユフィの手のひらが頭の上に乗せられた。

 

「貴方は本当に凄いですね、この小さな頭から、こんなにも多くのアイデアが浮かんでくる」

「小さなは余計だー! まだ育つかもしれないじゃん!」

「……私より二つ年上でしたよね? それですと、さすがに……」

「諦めるな! 諦めたらそこで試合終了だよ!?」

 

 最近地味に気になってるんだからね、ユフィより背が小さいの!?

やっぱりこう、年の差の割に威厳が出ないのは背丈の差が原因だと思うんだよ。

同じ話をレイニにした時は、凄く微妙な顔で「そう……かも……知れないですね……?」って曖昧に答えられたけども。

そう思っていると、いきなりユフィと唇が合った。いきなり。

 

「うふふ、今の差が私は好きですよ。キスしやすくて」

「んにゃっ……そ、そんなので誤魔化されないからね!? これは由々しき問題なの」

「はいはい、それじゃあ問題を忘れるまで口付けしましょうね」

「だから空っぽになるまで吸うな! せめて歯を磨いてから! あーもうイリア、話は終わったから戻ってきてー!!」

 

 結局、どこかにしけ込んだメイドたちが戻ってくることはなく。

哀れお姫様は、女王の晩餐のメインディッシュになってしまうのでした。ちゃんちゃん。

 




「あらアニス。貴方が作ったこのマッサージャーなるもの、なかなかいい具合ですね」
「えっあっハイ、恐縮です(どの経路で母上に……? ちゃんと洗われているのか……?)」
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