転生王女と天才令嬢の淫蕩生活   作:はまちや

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吸血侍女の媚薬研究:下

 

「と、意気込んだはいいものの……」

 

 目の前にあるのは、アニス様の魔力が入った精霊石。

もちろん、石と名前がつくからにはカチカチに硬いので、このまま食材にできるわけもなく。

 

「うーん、溶かす……ふやかす……? それで食べられるものになるかしら……?」

 

 最初の一歩目から早速つまづく私であった。

なにせ、元が石だと参考になるレシピも有るわけがない。思いつくのは、石を煮ながらスープを作っているふりをしたら、興味を持った人が次々と具材を分けてくれるジョークくらい。

 

「イメージ的には粉にしたい所だけど、これを粉にするのは器具が無いと大変だよね……」

 

 こんな時にアニス様が居ればいい方法を知っているかもしれないけれど、アニス様がいないからこんな事をしているわけで。

なんとか良い知恵が無いかと考えていると、ふと頭によぎる。

 

「そうだ、アニス様! あの時、ユフィリア様の魔力を溶かした墨で紋様を描いてたはず」

 

 精霊紋を描く実験は、結局アニス様のお身体に異変があり、ユフィリア様が非常につやつやした様子でお風呂から戻ってきて以降行われていないけれど。

あの実験の時に使っていた墨は、魔力を完全に溶いていたもののはず。

もちろん、あの墨がそのまま食べられるとは思わないけれど、魔力をどうやって溶かすかの参考にはなるかもしれない。

 

「そういえば、ティルティ様にアニス様がいらっしゃらない事を伝えてないや……うう、ちょうど今日検診に来るけれど、すごい怒りそう……」

 

 喜び半分、恐ろしさ半分。ちょうどいいタイミングといえばそうだけれど、実際に話を聞けるかはティルティ様の機嫌次第になりそうだった。

 

 

 

「なに、あいつ居ないの? どうせまた変な地雷踏んだんでしょ。よくあることだわ」

 

 ティルティ様にアニス様ご不在の理由と状況をご説明申し上げたところ、帰ってきたのは呆れと笑い混じりの反応だった。

 

「キテレツキチガイ不真面目王女様だもの。あんがい臆病なくせに龍の首に手をかけてポールダンスしてる女よ、災難に首突っ込むにしろ引き寄せるにしろ、トラブル続きだわ」

「そ、そんな言い方……不敬ですよ」

「構わないわよ、予定すっぽかしてるのは向こうなんだから」

 

 邪悪に笑いながら頬杖をつくティルティ様。

お二人の関係性は、正直なところ私にはよく分からない。ご友人であるのは確かだと思うんだけど、そう言うと二人とも強く否定する。

 

「んで、精霊紋の試験に使った墨の作り方? ああ、あの傑作だったやつね」

「そのものじゃなくて良いんです。精霊石に注いだ魔力を取り出すのに、素人の私でもできる方法があれば……」

「吸血鬼なんだから直接吸えば良い、って訳じゃなさそうね? 何に使うのよ?」

「ええと、その……調味料などに……」

 

 ユフィリア様のためのお菓子作り、と言うとなんだか苦い顔をしそうだから濁してしまったけれど、呆れた表情を見るにあまり変わらなかった気もする。

とにかく、精霊石から魔力を抽出する方法を知れれば、レシピを思いつくこともできるはずだ。

 

「一番確実なのは血を媒体にすることね」

「血……ですか」

「貴方だって血を吸ってるでしょ? 血液には魔力が宿るわ。それは体に魔力を行き渡らせるためではない。魔力が漲る体を巡っている内に、()()()()()()()()()のよ」

 

 それは、感覚として良くわかる話だ。

血には魔力がふんだんに含まれているが、別に魔力が無くても血は血であるというか……私の語彙では説明が難しいけれど、吸血鬼の魔石もわざわざ心臓近くにある以上、血と魔力には繋がりがあるのだろう。

血液に魔力を浸透させることができる。これは大きなヒントだ。

一つ、問題があるとすれば……。

 

「私が言うのもなんですが、血を食べ物にするのは、ちょっと……」

「あら、ブラッド・ソーセージとか私は嫌いではないけど。まぁユフィリア女王様には刺激が強いかもね。……うーん、だったら乳とか?」

「ち、乳ですか……!?」

「何を考えているのか知らないけれど、乳は血を濾したものよ。ならば、似たような性質を持つかもしれないじゃない? 母乳が溢れる呪いが必要ならかけてあげるけれど?」

「け、結構です!」

 

 ティルティ様がニヤニヤと私の胸元を見る。

確かに人より大きいことを自覚はしているが、母乳が出るような行為はしてないつもりだ。

目線から隠れるように身を捩ると、冗談よ、とティルティ様は意地悪く笑いながら背もたれにより掛かる。セクハラだ。

 

「乳……牛乳でも大丈夫なんでしょうか」

「さあ? 試したことがないから分からないわ。だから試してみるんだよ、ってアニス様なら言うでしょうけどね」

「……なるほど。私も、試してみますね」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 というわけで、試作するのは精霊石の牛乳漬けである。

 

「はたから聞くと、頭のおかしいレシピにしか思えませんね」

「自覚してるので、突っ込まないでください……」

 

 気合を入れる私の隣で、お手伝いをしてくれるイリア様が無情に告げた。

とにかく、アニス様から頂いた精霊石を少しだけ砕き、小瓶に入れて牛乳を注ぐ。

10分ほどそのまま置いたあと中の精霊石を取り出し、牛乳の味見をする。

 

「魔力の味ばかりは私にはわかりませんから。いかがですか?」

「うーん……多少はアニス様の味がするような? あとちょっと石臭い?」

「ならば香り付けに花を足しましょうか。甘めの物がよさそうですね」

 

 精霊石と花の牛乳漬け。見た目だけなら少しおしゃれになった。

 

「うっ……微かな青臭さが交じると、いっそう土の味って感じがします」

「ふむ、ならばいっそ辛味のあるリキュールにしましょうか。匂いは甘いのですが」

「あっ、これ良いですね。なんだかアニス様の風味がより鮮烈になるような」

 

 そんな風にしてしばらく。

配合が決まった牛乳漬けのレシピを元に、壺に漬け込んで冷暗所に一晩置く。

ゴミを丁寧に濾しとりながら他の器に移したら、次はこれを粉にしなければならない。

これを海の製塩のようにやるなら、膨大な熱量が必要な所なんだけど。

 

「脱水魔法かぁ……本当にすごいですよね、お二人とも」

 

 アニス様の提案を元に、精霊契約者であるユフィリア様が作り上げた新しい魔法だ。

コップ一杯に対して数十分魔力を維持する必要があるとか、そもそも液体の中から『水分』を意識するのにコツが必要で、まだユフィリア様本人と私しか使えていないとかで新魔法としての発表は見合わせているそうだけども。

 

「開発者であるユフィリア様しか使えない魔法を、他に唯一使いこなせているレイニも十分すごいと思いますが」

「うう、そこはその、吸血鬼だから"奪う"ことに適性があるような気がして……」

 

 正直、嬉しいかと言われると微妙なところだ。

ただ、実際に使ってみると、今みたいに便利に使える場面がちょくちょくあるので助かってはいる。……そのうち、ティルティ様にこき使われそうな気はしないでもない。

 

「ふむ、だいぶ粉になってきましたね」

 

 そうこう言っている内に、魔力を浸した牛乳が水分を失くして粉乳になっていた。

指にひとすくいだけして少し舐めてみる。狙い通り、アニス様の魔力と牛乳の甘さ、そしてお酒を入れた分だろうか、舌先がほのかに熱くなるのを感じる。

 

「よし、後はこれでガムを味付けすればいけそうです! ありがとうございます!」

「構いませんよ。レイニが楽しそうに何かを作っている所を見ると、なんだか安心します」

「イリア様……」

 

 確かに、こうして自発的に何かをするようになったのは何年ぶりだろうか。

昔はお母さんに連れられて、花の冠とか草笛みたいな他愛も無いものを作っていた。

けれどそのうち、孤児院で私が作ったものの取り合いが起きるようになって。そうしてどんどん、私は自分から何かをしなくなっていった。

今はもう、そんな事を気にしなくてもいい。それは嬉しいことだけれど。

 

「……お母さんに、もっと色んな物の作り方を教わればよかったなあ」

 

 物知りだった母のこと。きっと、請えばもっと沢山教えて貰えたんだと思う。

けれどもう、母から何かを教わることはできない。恐らく吸血鬼だったというのなら、死んだ後はどこに魂が還るのだろう? 私もそこに行けるのだろうか?

 

「母親に甘えることはもう出来ないかもしれませんが、何かを知るのに遅いことはありませんよ。あなたの周りにはシアン男爵も、アニス様も、ユフィリア様も居ます。微力ながら私も」

「……そうですね。その恩返しをするためにも、早く完成させないと」

 

 うつむいてばかりでは勿体ない環境に私は居る。

それは、とても有り難いことなんだと改めて思う。

お母さんのことを知るのも、今からでも遅くないのかもしれない。

 

「うん、()()()()()()()()()――」

 

 そんな思いを胸に秘めて、私はガム作りの最終工程に入っていった。

 




「くっ……マズい、これでは火災が止まらない!」
「こうなったらアレをやるしかないか……行くよ、ガッくん!」
「えっ俺!? 何も聞いてないんですけど!?」
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