竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
「さて休み終わったところ申し訳ないんですけど、さっきのアレなんです???」
「うふふ……見られたからには生かして返せませんねえ……」
「そういうキャラじゃないでしょ」
「……はい……」
一瞬で撃沈されたルシルさんを見てちょっと可愛いなとか思ってしまった。
「…………誰にも言わないって約束してくれますか…………?」
「言いません」
「本当ですか……?」
「もちろん」
しばらくの間無言なり、決心したかのように口を開く。
「ボク魔眼持ちで……しかも禁忌レベルの……」
「おーっと予想の斜め上の話がきたな?」
『禁忌レベルの魔眼!? よく身体の形保ってられますね』
アヴェルアが真横で恐ろしいこと言い出した。
『そもそも魔眼は極めて貴重なもので保持しても魔力量の多さに耐えきれず死に至るものが多いんですよ 中でも禁忌魔眼って世界で7人しか確認されておらず最悪の場合身体が爆発する代物です』
さらっととんでもない情報が出てきた。
『大昔どこぞの竜が人間の女に惚れたからと言う理由で魔眼を作ってあげた結果 都一つ滅んだっていう話が残るくらいですし? なんならその竜懲りるどころか人間共が力に溺れる瞬間が見たいからって似たようなのを作り上げて適当な人間にあげて戦争起きるの楽しみにしてたくらい頭のおかしい竜だったんですよね まあ最後は自分があげた魔眼の人間に滅ぼされたって言うのは記録に残ってますけど』
後ろで魔眼の歴史を軽く語って満足したように“ざまあみやがれです”と吐き捨てた。
「ボクの魔眼……破壊の魔眼って言うんですけど……」
「名前からして禁忌だね」
「幼い頃に突然力に目覚めて……なんでもボクの先祖が……その……都を滅ぼした魔眼の持ち主だったみたいで……」
アヴェルアは納得したようにため息をついた。
「つまり大昔に都一つ滅ぼしちゃった禁忌魔眼保持者がご先祖様で、その禁忌魔眼が今ルシルさんの目に?」
「はい……」
「オワー」
なんかすごい人と出会ってしまった。
『いわゆる先祖返りってやつですか しかもよりによって破壊の魔眼とか 7つの禁忌魔眼の中では一二を争うくらいの強さですよ 魔法や物質 そして呪いや概念そのものを破壊できるくらいの力なんですから』
「怖」
びくり、と身体を震わせ俯きながらボソボソと話し出した。
「……気味が悪かったですよね……その……目の前で呪いそのものを破壊してしまうから……」
「いやめっちゃかっこいいと思う」
「……え……?」
不思議そうな顔で見てくるルシルさんを見て、自分が無神経なことを口走ったと気づく。
彼女は望まぬ力に悩まされながら生きているのに、苦しんでいるはずなのに、無意識に傷つけてしまった。
「あ、いや、そういう意味で言ったのではなく、その、手も足も出なくて死ぬんじゃないかって思ってた時に颯爽と現れて助けてくれたのがすごく嬉しかったっていうか、あの時ルシルさん、ヒーローとかに見えて、その」
かっこよかった、と静かに溢す。
途中から恥ずかしくなって今度はアタシが俯いてしまった。
「ええと、そんな自分を僻むことはないと思うんですよ……だから……」
「……ふふっ……やっぱりトウコさんはいい人ですね……」
「な、何笑ってるんですか」
「だって……嬉しかったんです……」
心の奥にしまっていた本音を、絞り出すように語り出す。
「ボク昔から目のせいでいじめられてて……気持ち悪いとか化け物って言われ続けてて……誰かの役に立ちたくて服や装備品を作っても魔法があるからいらないって……どれほど頑張っても捨てられてしまって……ずっと怖くて……」
拳を握り涙を浮かべて、顔を上げた。
「だから……ヒーローって言われた時……誰かの役に立てれて本当に嬉しくて……うぅ……」
子供のように大粒の涙をこぼして、抱きついてきた。
「うああああん……ごめんなさい……初めて言われてどう言うのが正解なのかわからなくて……うえぇ……」
「なるほど、褒められ方を知らない子供みたいなものね」
かくいうアタシも記憶がないのでわからんのだが、こういう場合は頭を撫でれば大抵の子供は喜ぶ。
「ずびぃ……」
「汚っ! 鼻かまないで!?」
「ふふっ……さっきのお返しです……」
落ち着きを取り戻したのか、ルシルさんは笑っていた。
「って……わあああああああ……!?」
目が合うや否や、ビンタされた。
「魔眼の効果が発動したらどうするんですか……! 迂闊に目を合わせないでください……!」
「力を制御できてるんじゃないの?」
「たまに暴発しちゃって……」
「怖いんだが!?」
「すみませぇん……!」
また泣きながら謝ってきて、宥めるのにちょっとだけ時間がかかりそうだ。
ようやく落ち着きを取り戻したルシルさんは、
「いっぱい撫でてもらいましたのでもう平気です……!」
承認欲求が満たされてめっちゃ元気になっていた。
「さて、さっさと
「そうですね……あの扉の先にあると思います……」
用心しながら扉の前まで進んでいく。
普通の鉄扉で鍵がかかっており、思いっきり殴ったら開いた。
「前から思ってたんですけど……トウコさんってかなりの怪力ですよね……」
「あ、そういう魔法をかけてるので、それの影響かな?」
「自己強化の魔法ですか……いいなぁ……ボク魔眼のせいで打ち消しちゃうんですよね……」
だから彼女は服などには魔法を付与したりいい素材で装備品を作ってたりしてたのか。
そのおかげで
扉をくぐり中に入ると、部屋の中心に台座があり、紫の四角形の物体が浮かんでそれを包むように魔法陣が展開されていた。
「これが
「多分……」
「多分!? 今多分って言いました!?」
「ええと……今回の規模のダンジョンにもなると魔力の量が多くて……よくわからないんですよね……」
「うーん、ルシルさん処理頼んでもいいですか?」
『おや珍しい いつもなら即破壊するのに』
小言がうるさいアヴェルアを無視してルシルさんの方をみると親指を立てる。
「それは?」
「魔動器です……魔力を込めて使う道具のことですね……こういった危険物を取り扱う時に使うものでして……」
感嘆の声をこぼしながらその作業を見つめて、大体10分ほどで終わった。
「あとは脱出するだけですね……どこかに魔法陣があるはず……」
「あった、これか」
台座に隠れるようにして魔法陣が地面に描かれていた。
「この魔法陣を踏めば無事脱出です……」
「いやぁあ長かったぁ、早く帰って寝てえ」
『報酬どれくらいになるか楽しみですね』
魔法陣を踏んだ瞬間。
眩い光に包まれ、気がつくと青く光る結晶の洞窟にいた。
「ん?」
「あれ……?」
振り返っても行き止まりで、踏んできた魔法陣は見当たらない。
「どこでしょうここ……妙に生暖かい……」
「確かに、ここなんだろう」
アヴェルアの方を見るが当の本人がどこにもいない。
呼び出そうとして手をかざすが、何も起きない。
スキルを発動しようとしてもウィンドウが出てこない
「スキルが、使えない?」
「え……? あ……まさか……」
ルシルさんが両手を差し出してみるが、何も起きない。
「ま……魔法も使えない……!?」
「嘘!? 閉じ込められたってこと!?」
「そう考えるのが妥当かと……」
だがなんのために? と思考を巡らそうとした途端。
ズキリ、と左手が疼く。
「な、なん────」
あの
鼓動と合わさるように脈動して、風船のように弾ける。
黒い水を垂れ流しながら、手から腕へと侵食し出す。
「トウコさん……!? それって……」
「
皮膚が焼ける感覚、肉が腐る匂い、骨を貪られる音。
立っていられないほどの痛みと吐き気して、視界がグラグラと揺れ出す。
頭の中をかき乱されているようなにうまく思考が回らない。
呼吸が乱れる、意識が遠のきそうになったのを舌を噛み現実に引きずり戻す。
「……はぁあ……」
意識が戻ると痛みは治った。
「トウコさん……?」
「大丈夫、なんとか痛みは治った、動かせないけど」
「……あの……ボクが魔眼で……呪いを取り除くというのは……?」
「それはルシルさんが辛くなるからやだ」
キッパリと、言い放った。
なんとか立ち上がって周囲を見渡す。
壁一面に青い結晶、じっとりとした暑さが肌に張り付いて息苦しい。
「とりあえず進もう、奥に道が見えるし、進めば何かあるかも」
「そう……ですけど……」
俯くルシルさんに向けて、アタシは笑顔で答える。
「平気、痛いのは慣れっこだから」
怪我人の彼女に頼り切るのは嫌だが、魔眼で苦しい思いをさせるのはもっと嫌だった。
アタシが不甲斐ないせいで彼女は大怪我をした、使うはずのなかった魔眼を使わせてしまった。
その埋め合わせをしなければならない、呪いにかかったのもアタシが気を抜いていたからだ。
痛みも苦しみも、全て
弱い自分が何より嫌いだった。
抵抗しても反撃しても拒絶しても、弱かったから何も変えられなかった自分が、一番嫌いだった。
「トウコさん……辛いなら休みましょう……」
「………………大丈夫動けるか──」
「だめ」
はっきりと、止められた。
「動かないで、大丈夫ですから」
透き通るような声で、震えた声で、アタシの目を見た。
赤色に輝く瞳の中に淡黄の円と翠色の菱形の魔法陣が浮かび上がっていた。
淡黄の魔法陣が回転し、アタシの左腕に一つの魔法陣がかかる。
翠色の魔法陣が展開され、固定するように突き刺さった。
「 [掛かった“呪い”を“破壊”する] 」
ジュウ、と焼ける音がした。
黒い皮膚が溶け落ち、元の肌色へと変わっていく。
痛みはない、呪いに侵されている感覚もない。
手も十分に動く、先ほどまで石のように動かなかったものが嘘のよう。
「ほんとに、なんでも破壊できちゃうんだな」
「………へへ……すごいでしょ……」
辛そうな表情で、無理矢理笑顔を作る。
考えられないほどの痛みを受けているのにそれをものともしないように、誰かを助けたいというその一心で破壊の魔眼を使った。
「誰かのために使うのは……痛くないんですよ……」
嘘を言わせてまでルシルさんのそんな顔は見たくなかったのに。
なぜか、嬉しいと感じてしまった自分がいた。