竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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ピンチは突然に

 

ルシルさんに言われた通り、しばらく休んでいたのだが。

 

「やっぱダメか」

「こちらもダメそうです……」

 

何度挑戦してもアヴェルアは顔を出さないしスキルも使えない。

ルシルさんの方も魔法を発動しようと何度か試していたのだが、結果は同じ。

 

「それになんか蒸し暑くないですか?」

「確かに……意識したら余計に……」

 

ずっと思っていたが、ここ暑すぎ。

我慢できずにコートを脱いだ。

 

「十分に休んだし、そろそろ動こうか」

「ほ……本当に大丈夫ですか……?」

「平気、この通り腕も動くし痛くもない」

「それなら……」

 

心配そうに見つめてくるが、笑顔で返す。

 

「それになんかこういうとこワクワクしません?」

「そうだけど……先ほどまで呪いにかかっていたのに……どうしてそんなに普通にいられるんですかぁ……」

「別(・)に(・)我(・)慢(・)す(・)れ(・)ば(・)よ(・)く(・)な(・)い(・)で(・)す(・)か(・)?」

 

ルシルさんはキョトンとした顔で固まったままで、アタシは何をそんなに驚いているのだろうと困惑した。

 

「ほら行きましょうよ」

「え……えぇー……」

 

彼女の手を引っ張って奥の道へと進んでいく。

 

静かな洞窟内を二人で進む、青く光る結晶のおかげで洞窟の中なのに明るいままだった。

 

「うぅ……何か出てきそうですね……」

「そうなったらぶっ飛ばせばいいじゃないですか、ルシルさんハンマー使えるんですし」

「いい考えですね、私はその考えに同意します」

「考え方が脳筋……! もう少し慎重になれませんか……?」

「いや戦ってると自然とそうなりません?」

「私はそうなることが多いですね」

「自覚あるじゃん」

「ないで……え……?」

 

奇妙な声の方に振り向いた。

 

そこには白色の髪を靡かせ、真っ赤な瞳に褐色の肌をした男がこちらを品定めをするように見つめる。

人間離れした顔立ち、美しいとも恐ろしいとも思える立ち振る舞い。

真っ白な軍服を着こなし、その大きな体によく似合っていた。

 

「────ッッッ!!!」

 

その時、なんでかはわからないけど自然と身体が動いていた。

地面を踏み込み男に向かって拳を突き刺す。

顔面にめり込むはずだった拳は、虚空を切る。

 

──疾い。

 

アタシが動き出した時点こいつは躱わす準備を済(・)ま(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)。

なら躱された勢いをそのまま軸に、と考えた途端。

 

「筋は悪くないですが、遅いですね」

 

ポンッと頭に手を置かれて、

 

「わああああ……!? トウコさん……!?」

 

ルシルさんの声で気がつく、アタシは天井を眺めて倒れていた。

 

何もわからなかった、男が動いたことさえ気づかなかった、触れられたことさえ認識できなかった。

 

こ(・)い(・)つ(・)は(・)強(・)い(・)。

前にアヴェルアが言っていた格上の存在は、おそらくこいつのことを指すのだろうと実感する。

 

「ふむ、機動力に長けている体付きですがまだその体に慣れていないようですね」

「おいそれどういう意味だゴラァッッッ!!!」

 

噛みつこうとしたアタシを男は片手でがっちりと抑えた。

 

「なんだテメェ!? 急にポッと湧いてきやがって!? 新手の魔物かぁ!? 口もよく動くようだなアァ?!」

「ありのままを伝えただけです、もう少し落ち着いて冷静に戦闘するようにしたほうがいいと思いますがね」

「ンッだとこのボケカスッッッッッッ!!!」

「わわわ……落ち着いてくださ〜い……!」

 

ルシルさんが震えた声で割って入る。

男は変わらす無表情でこちらを目視していた。

 

「アァ〜〜〜そのすました顔しやがって気に入らねえ〜〜〜〜!!!! その美形に唾をつけたろうかオォン????」

「嬰児にしてはいい噛みつき具合で、いいことです」

「ア゛ァ゛ン゛!?!?」

「落ち着いて……!」

 

宥められながらようやくして落ち着いた。

 

「とりあえずぶん殴っていい?」

「落ち着いてと言ってるでしょう……!」

「警戒心が強いのはいいことですね」

「貴方はなんなんですか……!?」

 

アヴェルアがいないとツッコミ係がルシルさんになるんだ。早く呼び出せるようにしないとな。

 

「というかほんとに誰だテメェ、明らかに怪しい雰囲気出しやがって」

「そうですよ……急に後ろからついてくるなんて……」

「普通人間が歩いていたらついていくものでしょう」

「迷子の子供か?」

「少なくとも私は貴方より年上ですが?」

「ア?」

 

いちいち噛み付かないで……、と止められたので怒りを抑える。

正直血管がはち切れて死にそう。

 

「それに、名を聞くなら自分からと聞きましたが?」

「その理論でいくとそっちから名乗るのが道理では?」

「どうしてそうなるんですか……」

「確かに、一理あると見ます」

「納得するんですか……?」

 

えぇ、と短く答えた後男は少しだけ黙った後。

 

「私はリジット、以後お見知り置きを」

 

そう名乗って軽く会釈をした。

 

「どーもトウコです、一応記憶喪失です」

「あ……初めまして……ボクはルシル・ヴェルガンドです……一応雑貨屋でした……」

「ヴェルガンド……彼女が……」

 

小さな声で何かを呟き、よろしくと返した。

 

「それで、こんなところで何をしていたのですか?」

「魔法陣踏んだらここに来た」

「ダンジョンを攻略してただけなのになぜか飛ばされました……」

「罠にかかったのですか、災難でしたね」

「ウン」

「そうなんですよ……できれば早く出たいんですけど……」

「でしたらついてきてください」

 

リジットと名乗る男は先導するように歩みを進めた。

 

「……どうする? ついてく?」

「なんだか怖いですけど……でも出口に連れってくれるかも……」

「うーん、どうかなぁ」

「どうしました? 置いて行っちゃいますよ」

 

二人で顔を見合わせ、一旦素直についていくことにした。

 

 

 


 

ピンチは突然に

 


 

 

 

特に会話もなく、青い結晶の洞窟を進んでいく。

 

「リジットさん? 質問してもいい?」

「呼び捨てで構いません、どうぞ」

「ここってどこなの」

「……一般的にはダンジョンと呼ばれてるところですが?」

 

思わず天を仰いだ。

 

「なんだよせっかくダンジョン攻略したのにまたダンジョンかよ」

「ついてないですね……はぁ……」

「どうやらそれなりに苦労して攻略したそうですね」

「当たり前ですよ、呪われたメデューサをぶっ飛ばしたら復活? してそれをルシルさんがパーッンってやったんだから」

「ほう、具体的には?」

「えっ……!? ええと……」

「魔法でゴリ押しした、ね?」

「あ……はい……!」

 

魔眼のことは二人だけの秘密なので黙っておこう。

 

「ふむ、そうか」

 

追及することなくリジットは歩いている。

時折ルシルさんの方を見てるけど、まあ肩怪我してるし心配でもしてんのかな。

 

「そういえばリジットさんはどうしてここに……?」

「仕事です」

 

淡白に返されて会話が弾むことなく歩いていき、開けた場所に出た。

 

「この階層を降りれば私が率いる、調査隊のキャンプ地です」

「え、上ってるんじゃないの? なんか降ってる感じしなかったけど」

「この結晶の効果で感覚がおかしくなっているんですよ、貴方達は方向感覚を狂わされているのでわからなかったんでしょうね」

「はぁ…………リジットさんは大丈夫なんですか……?」

「私は魔(・)法(・)を(・)使(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)た(・)め(・)、心配には及ばないですよ」

 

……魔(・)法(・)が(・)使(・)え(・)る(・)?

もしかしてここならと思い、スキルを発動させてみるが何も起きなかった。

 

「あれ……まだ使えない……」

「貴方達が踏んだ魔法陣の上に重ねがけで、魔法を封じるように工夫していたのでしょう」

「なんのためにさ」

「さあ、でも貴方達は運がいい」

 

一瞬だけ、声が低くなる。

何か後ろめたいことがあるような、そんな風に聞こえた。

 

「じゃあその魔法かけてよ、それでアタシらなんとか脱出するし、てか連れていくなら普通上じゃない?」

「残念だがそうにもいかないんです、このダンジョンは時間が経てば最深部以外の階層が丸ごと更新される、それに私の魔法は自分限定なので」

 

また声のトーンが下がった。

嘘をついているのか、それとも疑いすぎで嘘を言っているように思ってるだけなのか。

どちらにせよ、信用できねえのでルシルさんに小声で話しかけた。

 

「ルシルさぁん、やっぱあの人なんか怪しいよ」

「そうですよね……なんかいい感じに話を進めてるというか……この石もそんな効果はないんですよ……あれただの結晶ですし……」

「え、じゃあこれもうはまってるのでは? どうする? 処す?」

「うーん……それでいいかな……」

 

いいんだ、待っていいの?

一応安全確保からの方がいいんじゃないかと声をかける前には、彼女の行動は始まっていた。

 

「リジットさん……」

「なんでしょう」

「ボク達に嘘ついてませんか……?」

「なぜ? 私はそんなことしようとは、考えていませんが」

「この結晶はただの発光効果があるだけの結晶ですし……階層が変わるなんてダンジョン聞いたことがありません……ボクもそれなりの冒険者ですし……Cランクですけど……」

「どうだろうか、石に関しては耐性があったり、個人差がある、ダンジョンの情報は聞き覚えが、無いのもここが珍しいダンジョンだと、いうこともある」

「そもそも設置型の転送魔法の上に二重で魔法をかけることはできないんです……効果が上書きされてしまうので……」

「上級、者なら行けるのでは」

「一番の理由は……リジットさん嘘つくの辛そうだなって……」

「………………………………」

 

論破されてんじゃねえよ。頑張れよ。

リジットはルシルさんの顔を見つめ、しばらくの間黙っていた。

 

「………………あぁ、やはりこの手に頼るしかないのか」

 

諦めた様子で呟いた。その瞬間この空間の空気が一気に変わる。

背中に突き刺さるような感覚、首を締め付ける圧迫感、何一つ立ち振る舞いは変わってないのに尋常じゃない威圧感。

すぐに戦闘態勢を取る、ルシルさんも背中に背負っていたハンマーを取り出し構えを取った。

 

「すみません、でも」

 

ずるり、と半(・)透(・)明(・)の(・)何(・)か(・)がリジットの後ろから出てくる。

それは彼の身長と同じくらいの大きさの竜(・)の(・)尻(・)尾(・)。

 

「少しの間だけ大人しくしてくださいね」

 

半透明の尻尾をルシルさんに向かって叩きつけてきた。

狙われた本人はタイミングを合わせようと────

 

「────ッッッ!!!」

 

二人の間に割って入る。リジットは驚いた表情でこちらを見て、ルシルさんは一瞬何が起きたかわからない顔でアタシを見た。

 

さっきのは声をかけても間に合わなかった。

この尻尾、おそらく見えているのア(・)タ(・)シ(・)だけだ。

 

「トウコさん……!? なん……? ……えぇ!?」

「なぁんかこいつよくわからねえ魔法使ってきてるぜ! テメェ何もんだよ」

 

距離を空けて再び戦闘態勢を取る。

その言葉を聞いて、リジットは服の乱れを整えてこう答えた。

 

「では改めて名乗りましょう、私はリジット。真(・)竜(・)と呼ばれている物です」

 

全ての時間が止まった。

目の前にいる男が竜だって? 神に等しい存在が、こんな人間じみた姿をしてるだって?

 

「……アッハハハ! そいつは冗談がきちいな」

「……なるほど、たいていは察してくれるものかと思っていたんですが」

「残念そうはいかないんだなこれがッ!」

 

地面を蹴り上げイかれたその顔面に軽くぶち込もうと、足を蹴り上げた途端────アタシは地面に叩きつけられていた。

 

「────カッ……!?」

 

まただ。

こいつは動いた形跡も触れられた感触もないのに攻撃を受けた。

そういう魔法かあるいはスキルなのか。

 

「まあ、今のが視えないのではお話になりませんね」

「あ、んなもん見えるわけねえだろ……ッ! なんかのスキルか魔法つかいやがって! こっちはどっちも使えねえのによぉ!」

 

起きあがろうとした途端、リジットの顔が目の前に来ていた。

 

「一つだけ言っておきましょう、今のはス(・)キ(・)ル(・)で(・)も(・)魔(・)法(・)で(・)も(・)な(・)い(・)で(・)す(・)」

「…………あ?」

「素(・)の(・)性(・)能(・)ですよ」

 

ドシンッ! と大きな衝撃が走る。目にも止まらぬ速さでかかと落としを腹に食らっていた。

未だかつて無いほどの重圧を受けた身体が地面に鎮まり、激痛が走る。

 

「ガ、ッ!?」

 

一瞬だけ意識が飛ぶ、だがそれをすぐ現実に引きずり戻して奴の足を掴む。

 

「……今の攻撃を受けても死なないんですね、感心感心」

「たかだか一発程度でこのアタシが死ぬと思うなよ」

 

などと言ってみるが、実際はかなりキツい。

肋骨は数本折れてるし肺に骨が食い込んで苦しい、内臓も今ので6割くらい損傷してる。

 

視界はぼやけるし、呼吸は荒く、脳に酸素が行き届いていない。

少しでも気を抜けば確実に殺される。

 

「しかし辛そうですね、手(・)を(・)抜(・)い(・)て(・)正(・)解(・)で(・)し(・)た(・)」

「…………、テメッ」

「あぁダメです、本気でやったら──」

 

二つの赤い閃光がリジットの背後に迫る。

 

「………………ッッッッッ!!!」

 

鈍く光るその鉄が真っ赤に燃えて、渾身の力を目標の頭に叩き込まれる。

 

「今すぐトウコさんから退きなさい……!!!」

 

怒りのこもった声で、歯を食いしばり全身の力をハンマーの槌に集中して放った攻撃は、確かにリジットの頭を砕いた────のように見えた。

 

「──あぁすみません、なにぶん彼女は野放しにしておくと攻撃を受けそうだったので、足蹴にしたのは謝罪します」

 

こいつはあろうことか済んでのところで、指(・)一(・)本(・)で槌を止めていた。

 

「嘘……!? そんな……!?」

「それにしてもいい武器ですね、作り人の思いと熱意が込められている、かなりの腕前とみた、本当に良い武器で────」

 

ぱきり、と音を立ててルシルさんのハンマーはガラスのように砕け散って跡形もなく消えてしまった。

 

「────砕くのは勿体無かった気がしますが、私にも痛覚があるのでどうかお許しを」

 

砕け散った自身の武器を見て彼女はリジットを見上げた。

絶望と畏怖の顔でただ呆然と、その場に座り込んだ。

 

「────────」

 

その瞬間、間違いなくアタシの頭の中の何かがキレた。

ふらつく足で無理矢理立たせて、今にも潰れそうな心臓を動かす。

 

まだ動く、まだ耐えれる。

自分に言い聞かせながら、拳に力を込めた。

白銀の炎が一瞬左手に宿る、確かにそれは形を作り竜(・)の(・)爪(・)へと変貌する。

 

その動きは見切っていると言うようにその場に立つクソ野郎に向かって、一気に駆け抜ける。

 

 

──視えた、狙うは心臓、ただ──

 

 

 

 

 

「────────カ、ァ゛」

 

痛い、心臓が痛い、音がしない。

呼吸ができない、肺に穴が開いている。

腕が動かない、脚も動かない、身体の全てが動かない。

 

口から赤い体液が流れ続ける、滝のように止まることなく流れていく。

 

何があった? 確かにアタシはこいつの動きを見切っていたのに。

 

「………………、」

 

違う。見切っていたんじゃない、す(・)で(・)に(・)見(・)切(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

アタシの浅はかな行動、怒りに任せた粗雑な攻撃はこいつの届くことなく、受け止められて心臓を貫かれた。

 

「すみません、でも大丈夫、全ては一瞬の出来事ですから」

 

スッと手で視界を隠される。

その幕は上がることなく、アタシは眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

両親が倒れていた時は、どうして倒れたのか分からなかった。

世界から色が消えた時、どう表現すればいいかわからなかった。

全ての物が破壊できる(殺せる)とわかった途端、ボクはボクが怖かった。

 

祖母にボクは一族の中でも特別だと言われ続けていた、力も強くその分脆い。

だから決して、絶対に、自分の私怨のためには使ってはいけないと言われていた。

 

それで誰かを殺めてしまったら、二度と、世界は見えなくなるから。

 

 

 

 

 

「 [魔眼展開] [標準固定] 」

 

魔眼を動かす。

全ての力を殺意に変換、目標を撃ち抜くのに余計な思考はいらない。

 

「 [穿つはその心臓] [断つはその肉体] 」

 

目標の両腕と両足に光り輝く剣が無数に突き刺さる。

心臓に十字架を突き刺して、完全に固定した。

 

「 [7つの禁忌にて] [虚無を作りしもの] [今ここに宣言せん] 」

 

頭上に魔法陣が4つ展開され、回転し出す。

足りない、この竜(オトコ)を殺すのにそれだけでは足りない、もっと、もっとだ。

 

「 [ただ“破壊”しろ] 」

 

愚直に真っ直ぐに放たれた魔眼は男の身体を射抜く────はずだった。

 

「……………………………………、」

 

いつまで経っても最終展開が起きない。

いや、恐れているからボクには撃つことができないんだと理解した。

 

破壊の魔眼は確かに強力で、簡単に何かを破壊することができる。

 

「…………ぅ…………ああ…………」

 

その分、扱いが難しい。

魔力の一点に集中しなければならない、少しでも標準がズレれば攻撃は当たらずその分自分に返ってくる。

 

「……あぁ……くそぅ……くそぅ……!」

 

目に映すもの全てが破壊できるその力は、自身が望んでない場合でも発動してしまう。

 

「さっきは上手くできたのに……! 絶対に当てない自信があったのに……! なんでなの……!」

 

だから、感情のコントロールが重要となる。

乱れた途端本人が意識していなくても、い(・)や(・)意(・)識(・)を(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、そ(・)れ(・)は(・)起(・)き(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。

 

「せっかく褒めてもらったのに……! かっこいいって言われたのに……! やっと認めてもらえたのに……!」

 

悔しさで地面を叩く、復讐なんて簡単にできるのに。

どうして、いざとなったら撃てないのだろうか。

 

ただ目の前に立っている敵に向かって撃つだけなのに。

 

「どうして……どうしてなんですか……」

 

心臓に突き刺さった十字架を砕いて、竜(オトコ)はこちらに近づいた。

 

「……ボクが狙いなら……トウコさんに手を出さなくてもよかったじゃないですか……」

 

魔眼から涙が溢れる。

流すたびに眼球に焼けるような感覚が襲う。

けどそれ上書きするように、どうしようもない怒りが込み上げる。

 

「答えてください……! どうし────」

「別(・)に(・)殺(・)さ(・)な(・)く(・)と(・)も(・)よ(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)で(・)す(・)が(・)殺(・)し(・)た(・)方(・)が(・)貴(・)方(・)に(・)は(・)効(・)く(・)だ(・)ろ(・)う(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)や(・)り(・)ま(・)し(・)た(・)、結(・)果(・)こ(・)こ(・)ま(・)で(・)泣(・)く(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)で(・)す(・)、謝(・)罪(・)し(・)ま(・)す(・)」

 

 

──理解ができなかった、本気で言っているのかと何度も思った。

 

 

「ふざけないでくれますか………………」

「ふざけてないです、私は本気ですから」

 

その言葉に嘘はない。本気で、本心でこの竜(オトコ)は言っている。

 

「人間は誰かが死ぬと、悲しんで、復讐や自殺そして自暴自棄とさまざまな行動を取る。それは自然の法則(あの方が決めたこと)、変わりのない風景」

 

淡々と当たり前のように語り、動かない彼女の心臓から手を引っこ抜いて、子供を寝かしつけるように、優しく、壊さないように撫でた。

 

「私達が死んだ場合は何も残らない、何も残らないようになっているんですよ、姿形、生きた功績さえも全て、しかしそれは 自然の法則(あの方が決めたこと)で私達にとっては当たり前だ」

 

血まみれの手に触れて大きさを比べるように重ねる。

その間にも男は彼女の頭を撫でながら、まるで人を愛するように大切そうにした。

 

「だからまずは模倣した、人間(彼ら)の見た目を、生活を、感情を、全てを、そして理解したつもりで人間(彼ら)に接触して、望み通りにした」

 

彼女の死体を丁寧にボクの目の前に置く。

その表情に安らぎの言葉なんてなかった。

 

「結果は全て失敗、皆結果は同じ、願ったものをやれば欲が渦巻き、破滅を呼ぶ、意味がなかった」

 

言葉が止まった、少しだけ考えた素振りを見せた後、口を開いた。

 

「いや違いますね、私(・)達(・)には意味がなかった。た(・)だ(・)一(・)人(・)に(・)関(・)し(・)て(・)は(・)す(・)で(・)に(・)完(・)成(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)と言うのが正しいのでしょう」

「…………何が言いたいんですか…………」

 

これ以上の対話はもう無意味だと言い聞かせるように言葉を吐く。

 

「生き返らせたければ言えばいいのに、どうして私達に願わないんですか?」

「──────は?」

 

普通のことでしょう? と顔を覗いて聞いてきた。

 

「……人間に教わらなかったんですか……人は……っ……」

「一度死んだ人間は生き返らない、そう言いたいのはわかります」

 

あぁそうだとも。

どれほど願っても、どれほどの代償を払っても、どれほどの犠牲を作っても叶うことのできない話。

 

「別に不可能な願いは罪ではない、全ての人間が、誰もが思うことなのに、そうだと思いませんか?」

 

そう、なのだろうか。

願うくらいなら、許されるのだろうか。

 

「ですがもし、ほんの少しだけ貴方のお力を貸してくれるなら、その人間を生き返らせてあげます」

 

ぴくりと、身体を震わす。

虫のいい話だ、都合が良すぎる。それは罠だ、裏がある、相手の口ぶりに乗せられるな。

 

頭では理解している、だけど、もし本当にそれができるのであれば。

 

「少しの間でいいんです、私達は必ず約束は守ります」

「…………………………っ」

 

そんなことをしても彼女は喜ばない。

わかっているのに、でももう一度だけ、と考えてしまった。

 

「…………トウコさんを…………生き返らせてください…………」

「もちろん、いいですとも」

 

望んではいけない甘美な願いに、ボクは手を伸ばしてしまった。

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