竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
さまざまな盗賊達
翌日、無事街を出てネルヴァ王国へと進んでいたいたが。
「天気ヨシ! 気温ヨシ! 頭痛ヨシ!」
荷台の後ろに寝っ転がりながら二日酔いに苦しんでいた。
なお辛すぎて道中二度吐いたことは内緒。
「馬車を確保できてよかったですね……あっ借り物なので吐かないでくださいよ……?」
「うぅあ……あたまいたい……」
『だから飲み過ぎるなってあれほど』
「だって異世界の酒意外と美味えんだもん……」
2人の苦笑いが頭に響くがこればっかりは自業自得なので仕方なし。
「で、ネルヴァっていう国はどんぐらい着くの」
「ええと……国境が近いので明日の朝頃には国境付近に着きますね……」
「結構かかるなぁ……あ! 対竜礼装展開して空飛んだら楽なんじゃね? そしたら馬車いらんしお得じゃん」
『対竜礼装をそんな雑に展開しないでくれますか? 言っときますけどあれ反動すごいんですからね』
「飛ぶくらいだったら別になんとかなるだろ」
『なんとかなるわけないでしょう それで変に覚醒でもしたらマジで泣き出しますよ』
「しっかりトラウマになってんじゃねえか」
“なってませんし〜!”と顔に押し付けてきたので投げ飛ばした。
「すみません……対竜礼装とは……?」
「擬似的にアタシが創造竜になれる」
「わ°あ°」
ルシルさんが今まで聞いたことのない声を出し始めた。
「竜に……なれるの……???」
「擬似的だし半分だけね」
「見たい……! すごく見たい……!」
「見せていい?」
『ダメに決まってんでしょ なんで今ので許可が降りると思ってんですか』
「お願いしますアヴェルアさん……!!! ちょっとだけ……!!! 数秒だけでいいんです……!!!」
『ダメだっつってんでしょ! トウコも何か言ってやってください! おいこらなに展開しようとしてんですかダメですがやめなさいまって馬が暴れ出したちょっと前を見てちょオイ前!!!』
アヴェルアの叫びで突然茂みの方から男が飛び出たことに気づき、手綱を引っ張った。
「っとと……危ないじゃないですかぁもう……」
『ほら前見なさいって言ったでしょうが』
「オメーがジッとしなかったのが悪い」
『なんだとぅ? 言っときますけどね 気軽に擬似展開しまくればトウコの
「お取り込み中悪いねえ」
アヴェルアの言葉を聞こ割る前に目の前の男が口を開いた。
というかよく見てみてば馬車を中心に10人程度の盗賊に囲まれている。
「見ればわかると思うけど俺ら盗賊なのよ? だから金目のもの全部渡してくれないかな? そしたら命までは取らないからさぁ」
薄汚い笑顔を浮かべロングソードをこちらに向けながらゆっくりと近づいてくる。
『休憩にはもってこいの敵です 2人ともお手柔らかに相手してやってくださいね』
「うわぁ人間相手するの初めてだから加減ミスらないようにしよ」
「ええと確かここに……あった……!」
馬車から飛び降りて男の目の前に出る。
ルシルさんは傷だらけのハンマーを片手に後ろの盗賊達の方へと進んでいった。
「大丈夫その武器? 結構ボロいけど」
「元々この子がボクの相棒でしたから……やっぱりこの子がよく腕に馴染むなぁ……」
「あれぇ? もしかしてこの数で勝てると思ってる?」
「え? うん」「はい……!」
「いいねぇその立場をわかってなさそうな感じ! 俺達に歯向かったこと今ここで後悔させてやるよぉ!」
男が駆け出すと同じタイミングで周りにいた盗賊がヒャッハー! と言いながら一斉に襲いかかってきた。
………………まあ、結果はアタシ達の蹂躙で幕を閉じた。
『立場が分かってなかったのはどっちなんでしょうね』
アヴェルアの無慈悲の質問に答えられる人間は誰1人としておらず地に伏せていた、そもそも見えていないので答えられなくて当然だけど。
「ふう……大したことなくてよかったです……!」
「一振りで軽く地面凹ませる人がなんか言っとるよ」
「トウコさんだって……! 蹴り上げただけで数人吹き飛ばしたじゃないですか……!」
「なんか力をこう、こうすれば、できるから!」
『説明下手か』
アヴェルアを睨むが今は気分がいいので叩き割るのは後にしてやろう。
倒れてる男の前まで歩き、声をかける。
「で? なんかいうことある?」
「ヒッ……! まってくれ! い、命だけはどうか許してくれ!」
「あれあれあれ〜? “俺達に歯向かったこと後悔させてやるぜぇ〜!”って言ったのどこの誰だっけなぁ〜?」
「あ、待て、待ってくれ! 二度とアンタ、貴方達には手を出さない!」
「は? アタシらだけ?」
「いえ! その! 俺達心を入れ替えて盗賊やめるんで! その、勘弁してください! お願いします!」
男が土下座をし出すと周りの男達も頭を地面に擦り付けた。
「反省してるっぽいし、まあ見逃してやらんことも────」
「なぁんていうと思ったかこのアホめぇえ!」
瞬間、男の足元に魔法陣が展開されて緑色の光が全身を包む。
素早い動きで胸ぐらを掴み隠し持っていたナイフをアタシの胸に突き刺して────ナイフの刃が砕け散った。
「……はぇ?」
腑抜けた声を漏らす男には目もくれず、服についたナイフの破片を払いおとす。
「────そっかぁ、そういう行動取っちゃうんだぁ?」
「…………………………」
「ごめんちょっとだけまってね、ルシルさん一回落ち着こう? な?」
真後ろでとんでもない殺意漏らしてるルシルさんを落ち着かせる。
おかげで周りの男達も襲って来なかったのはありがたいけどそれにしたって怖すぎるだろ。背筋ゾッとしたしたわ。
「服のおかげでなんとかなってるから、ほら荷台が無事が確認してきたら? こっちはアタシに任せて?」
「…………本当に大丈夫なんですか…………?」
「大丈夫大丈夫! ほら早くみておいで、ゴー!」
無理やり荷台を確認に行かせ、なんとか男達の命は救った。
「で、だ」
振り返って今一度男達の方を向く。
「さっき、盗賊はやめるって言ったよな?」
「! はい! 言いました! もう二度とこんなことはしません!」
「なら許してやってもいいぜ」
「本当ですか!? なら俺達────」
「けどよぉ? やめるならそれ相応の“ケジメ”を見せるのが道理じゃねえのかなぁ?」
「けじめ、ですかい……?」
子犬のような怯えた顔でこちらを見る、どうやらわかっていなさそうなので教えるしかなさそうだ。
「有金全部置いてとっとと失せな、それで今回のことは水に流してやるよ」
「な、俺達はアンタからなにも奪ってないじゃないですか! どうしてそんな……」
大きく溜息を吐いて、右手を突き出す。
| スキル: |
右手が白銀の炎に燃え出す。
それを見た瞬間、盗賊全員死を覚悟した表情に変わった。
「選べよ、今ここで全員死ぬか、金だけ払って命拾いするか」
有金全部払って男どもは逃げ出した、結構持っててありがたいな。
『盗賊より盗賊染みてますね
「うるせえ、あとその呼び方やめろ」
アヴェルアをはたき落としてスキルを解除。
ルシルさんの所に戻ると大事そうに宝箱を抱えていた。
「大丈夫そうだった?」
「特に盗まれたものはありませんね……あら……? 先ほどの方々は……?」
「あー、金だけ置いて逃げられちゃった」
『
「その呼び方やめろってつったろ、でも武器は全部ルシルさんが回収してたしなんもできんだろ」
「そうですね……でも良かった……質のいい剣ばかりなのでもしかしたら次の街で言い値で売れるかも……」
「思わぬところでの臨時収入だったな」
「はい……!」
『前向きな考えですねぇ』
この空気にも慣れてきたようにアヴェルアは“早く進みましょー”と急かしてきた。
特に異論はないので馬車に乗り込んだ時、
「?」
森の方へと視線を送る、なにもいないが誰かに見られているような感覚があった。
「どうしたんですか……?」
「えっ? いやなんでもないよ、いこっか」
魔物か何かだろうと思って気にせず馬車を走らせる。
「……………………ふむ」
茂みの影から覗くそれに気づくことなく。
馬車に揺られて5時間ほど、日も暮れてきて頃合い。
「今日はここら辺で野宿しましょうか……」
「そうだね、アヴェルア周辺の魔物の気配とかは?」
『ないですね 恐ろしいほどなにも』
「よし、じゃあ早速」
馬車から降りてテントを張ろうとした直後、地響きが鳴る。
『な なんですかこの魔力量!? というかどっから現れたんですかこれ!? しかもなんか真っ直ぐこちらにきてる!?』
アヴェルアが言い終わるタイミングで
大きな巨体に黄金の毛並み、9本の尻尾を携えた狐、有名な妖怪としても知られている。
その名は確か、
『識別名:キュウビ! Sクラスの魔物……でもなんか魔力が不安定! なにこいつ!?』
「魔力が不安定ってなんだよ!」
『なんか揺れているというかズレているというか! とにかくわかんない!』
しっかりしろよ創造竜、とツッコミを入れようとした直後。
「ってウオォア!?」
「トウコさん……!?」『トウコー!?』
キュウビの噛みつきに気付けずそのまま森の奥へと引き摺られる。
だいぶ奥まで引きずられたあたりで投げ捨てられた。
「い、っづ……」
立ち上がってすぐに戦闘態勢を取る。
その間にもキュウビは表情変えることなく一歩一歩近づいてきた。
「しかしキュウビねぇ、どっかの本で読んだことがあるんだけどどこだっけな」
記憶の中を探るように思い出そうとするが頭痛がして思い出せない。
そもそも魔物とか妖怪とかの記憶はなんで消えなかったんだろうなと思考を巡らせた瞬間。
「────!!!」
咆哮をあげ再び噛みつこうとしてきたのを受け止める。
キュウビも止められることを予測してなかったのか、ようやく表情が変わった。
「軽!? だけどすっげえ力! でもなんか違和感!」
実態はあるが中身がないように軽い。
おかげでそんなに力を入れることなく持ち上げて思いっきり投げ飛ばす。
痛覚はあるようで、小さく悲鳴をあげて森の奥へと消えていくのが見えた。
『スキル使うまでもない敵でしたね』
「うおいたんかい!」
『そりゃあトウコの
「そうだけど、うーん」
『どうしました? なんか納得いっていないような顔ですけど』
「いやさっきのキュウビ、なんかふわふわしてたんだよね、なんだろうなぁ」
腕を組んで考えようとした時、背後の茂みから何かが動く音が聞こえた。
「今度はなに!?」
『ええと……なんだこれぇ……? 魔力が揺れてるぅ……』
「おいしっかりしろよ、仮にも創造竜なんだろ」
『いや厳密には創造竜のバックアップですけど』
「初めて聞いたぞそれ……」
“言い忘れてましたからね”と呑気に返してくるアヴェルアをスルーして茂みに近づく。
「オラ出てこい、毛皮だけ剥ぎ取って逃してやるからな」
ガサッ、と飛び出てきたのは、猫のような耳を生やした少年だった。
「なんだよガキかよ、びびらせやがって」
『は??? え??????? 待って???????』
「どうしたー? なんか理解できんって声出して」
『だってさっき魔力が揺れて歪んだんですよ……そしたら今度は一気に収縮した……人間でも魔物でも竜でもこんなことできるやつ見たことない……なにぃ……』
完全に思考停止ようで白い煙を出し始めた、創造竜でも理解できないとってあるんだなと思いながら少年に近づく。
「こんなとこにいちゃあぶねえぞ、つかボウズどっからきたよ? 親、は……」
よく見たらボロボロの衣服に全身傷だらけで顔も右半分が火傷、左手には何かの焼印が刻まれていた。
「おい、大丈夫かよ? 今手当するから待って────」
『トウコ! 後ろ!』
アヴェルアの声に反応するように振り返ればあのキュウビが襲いかかってきた。
ガードは間に合わねえなこれ、と思ったその時。
二つの赤い閃光がキュウビの背後から現れた。
「…………ッッッ!!!!」
鈍色に光るハンマーをキュウビの頭に叩きつけると、ゴキュ、と肉と骨が砕ける音が聞こえたのと同時に白い煙が舞う。
すぐに消えたが、キュウビの姿はそこにはなかった。
なんならさっき見かけた少年もいなくなっている。
「さっきのは……幻覚?」
『幻覚かぁ〜〜〜?』
アヴェルアは納得のいっていない声色でキュウビの死亡現場をくるくる回り出した。
「だ……大丈夫ですかトウコさん……!?」
息を切らしてルシルさんが近寄ってきた、相当走ってきたのだろう。
「大丈夫、一応は」
「よかったぁ〜……もっと早く走れるように頑張ります〜……」
「平気だよ、多分噛まれてもへっちゃらだし」
「またそう言って〜……! でも本当に怪我なくてよかったぁ〜……!」
「はいはい、ほら馬車に戻って飯にしよ」
「うん……」
泣き出す彼女を宥めて頭を撫でる、相変わらず鼻水垂らしてるけど。
『魔物にしては不自然な魔力……召喚獣だとしてもSランクの魔力を込めた魔物を呼び出すのなら一流の召喚士でもないと無理……それにさっきの魔力の収縮もおかしい……第一ルシルさんの一撃で沈んだのも不自然……うーん???』
「アヴェルア、行くよ」
『あ はーい』
悩んでるアヴェルアを呼んでひとまず飯にすることにした。
森の奥に進んだあたりで振り返る、追手はきていない。
あの時咄嗟の判断で飛び出てしまったがバレなきゃ問題ねえんだよと悪戯な笑みを浮かべた。
「そんで? いるなら出てきなさいなって」
ズ、と影が膨れ上がり人の形を作り上げた。
砂色のウルフカットにルビーのように煌めく瞳、人間離れした美形に赤いスーツがよく似合う男、小脇には小さな宝箱を抱えて不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
「いやぁ〜おつかれロード! どうだった?」
「……誰だ、貴様は……」
ロードと呼ばれた男は警戒するように構えた。
「えぇわからないの? ったくめんどくせえなぁ」
まあ
途端、身体が成長を始めた。
12歳程度の身体は大体40代くらいの男の体になり、顎髭も生え出してそれなりいい顔立ちの男に変わる。
相変わらず傷と火傷、焼印は消えてないけどね。
「どうよ? これで誰だかわかるだろ?」
「その姿、ライラックだったか、すまないわからなかった」
「いいのいいの、おじさん天才だからさ」
根元に隠していた服に着替えて身だしなみを整える。
ちょっと伸びた黒髪を結んで眼鏡をかけて、スーツの汚れを払う。
自慢じゃないけど意外とイケメンだと思ってる、猫耳もあるし尻尾もあって顔の火傷さえ無ければモテまくりだったと思うけどそれはそれ。
ロードの方に向き直って話しかける。
「それで?
「取ってきた、これだろう?」
小脇に抱えた宝箱を渡してきた。
様々な宝石が装飾された宝箱でずっしりと重く、振ってみると金属が擦る音が聞こえる。
「そうそうこれこれ〜! 絶対金目のものが入ってると思って目つけてたんだよね〜!」
「そうか、だがこれは」
「はいはい罪悪感罪悪感、いい? 盗賊にそんな感情持ち合わせちゃいけないの」
「そうか、勉強になる」
これだから世間知らずのおぼっちゃまはよぉ、まあ今回は多めに見てあげるか。
宝箱を地面に置き念願の拝見タイム、ワクワクした気持ちで中身を開けると。
「……………………エ?」
レンチにペンチ、トンカチに糸鋸、さらに鍵開け用具も揃った工具箱だった。
「ふむ、やはりか」
「やはりかってなんだよ! わかってたんなら言えよ!」
「
「アァアそうだけどムカつくー! まあ最悪この箱だけでも売れりゃあいいか」
「その箱はあまり価値はないぞ、宝石も魔鉄を使ってそれっぽく見せているだけだ」
「紛らわしいわー!」
地面に叩きつけようとしたのをロードに止められる。
「やめておけ、壊れたら持ち主が悲しむ」
「うるせえな! こちとらようやく金が手に入ると思ったのによう!」
「なら金と交換するように交渉すればいいだろう?」
「盗賊がそんなことするわけねえだろ! 第一そんなことしたら盗賊の名に傷がつくでしょう!?」
「そうなのか、勉強になる」
そう言って大事そうに工具箱を抱えロードは歩き出す。
「おいどこ行くのさ?」
「持ち主に返す、そう遠くにはいないだろうし謝れば許してくれるだろう」
「んなわけねえだろこの馬鹿吸血鬼ー!!!」
静かな森の中に、虚しくおじさんの声がだけが響き渡る。