竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
ブチギレたアタシは感情のままに拳を放つ。
拳は確かに男の顔面に吸い込まれるように着弾した、はずだったがだけど片手で静止させられていた。
妙な違和感、リジットの時とは違う。
確実なまでの力量の差を感じて手を降ろす。
「…………」
「反撃はしなくていいの?」
男が笑う。
馬鹿にしているとかではなく、憐れむような目でこちらを見る。
反撃しても攻撃が当たらないので無理に叩き込む必要はない、それとは別に
自分の気持ちを押し殺すように舌打ちをする。
今回に関してはアタシが幼稚だった、それだけなのだが口にするのがどうしても恥ずかしい。
「ちょっと、ゴーレムの素材取ってくる」
気を紛らわすように呟いて草原の方に走り出す。
ルシルさんは何か言いたげな顔で見てきたが何も言えずにただ見送ってくれた。
少し離れたところに
頭だった部分を砕いて口に運んだ。
林檎ような甘味で自然と喉を通る、やっぱり美味しい。
「はぁ……………………」
なんというか、いざ面と向かって言われると結構心に来る。
戦うことが下手なのはわかっていた。
前世ではそういったこととは無縁だったのだろう、身体が慣れていないのが証拠だ。
だけど認めたくなかった。
せっかく誰を守れる力を手に入れたのに、それが全て無意味になってしまうような気がして怖かった。
アタシは弱い、それは誰よりもわかっていたことなのに。
すぐに感情的になるし、相手からした読みやすいっていうこともわかっている。
良く言えば勇敢、悪く言えば愚直なのだ。
それはリジットの時で思い知らされた、事実それで一回死んでいるからあの男がそういうのも仕方ないとは思っている。
「はぁ………………アタシ戦闘下手なのかな」
『えっっっどうしました???
「うるせえな、こっちは真剣に悩んでんだぞ」
“そうですか”と淡白な返事を返してアヴェルアは言葉を綴る。
『得意不得意は人それぞれ トウコはトウコなりに頑張っているので私は気にしてませんよ』
「そっか、そうだよな」
人は人、自分は自分。
当たり前のことだ。
そう言われたら、少しだけ気が楽になった。
『それはそれとしてもう少し自分を大事にしてほしいとは思いますがね』
「善処しまーす」
難しいものは難しいのだ。
「それにしたってちょっとストレートに言葉を言い過ぎない?」
『その言葉そっくりそのままお返ししますね』
うるせえ、と返してまた新しい
「ところでこの
『落ちたもの拾って食ってるようなものですからね まあ魔力がちょっと増えるくらいですし問題ないかと』
「へえ、そうなん────」
目線の先にルシルさんが口を開けた状態で立っていた。
片手には齧りかけの
なんなら今口の中にもあるんだが。
「んっく、いえーい」
「何がいえーいなんですか……!? なんで
「あー、いやぁ、美味しそうだったからつい」
「美味しそうって……! 石を食べないでください……!?」
『ごもっともです』
「あっオメー! 裏切りやがったな!」
『裏切るも何も私は
「なら止めてください……」
『はい』
言い返されてんじゃねえぞこのボケウィンドウ。
「止めれるなら止めてください……! 仮にもトウコさんのスキルなんでしょう……!?」
『止めたくても止められないんですよねこれが』
「いやでも!
「食べたことないので分からないんですよ……! いや食べたいとは思いませんが……!」
なら見たほうが早い、と手をかざしてと大きな画面を出した。
[竜坂トウコ] [職業:転生者] [属性:
[HP:47/56] [Lv:35]
[攻撃力:146] [防御力:95] [幸運:9]
[素早さ:47] [魔力:204(+10)] [知性:5]
[
「しれっとレベル上がって、おい知性」
『ギャハハ 失礼』
知性と幸運はともかく、他ステータスが一気に上がっている。
もしかして真竜を倒したからなのか?
「すごい……他人のステータスが見れるなんて……これってアヴェルアさんが出力したんですか……?」
『はい もしよろしければルシルさんも出しましょうか?』
「み……見れるんですか……?」
「おー見たい見たーい」
「ええと……じゃあお願いします……!」
『でしたらちょっとお待ちを』
数秒の沈黙の後、新たに大きな画面が出てきた。
[ルシル・ヴェルガンド] [職業:冒険者] [属性:無・風・聖]
[HP:54/54] [Lv:35]
[攻撃力:97] [防御力:38] [幸運:40]
[素早さ:11] [魔力:195] [知性:120]
[風魔法] [回復魔法] [防御魔法] [聖魔法] [魔眼:【破壊】]
「なんッッッでだッッッ!!!」
『ギャーハッハッハ!!!』
アヴェルアを投げ飛ばした後、何事もなかったかのように自分のステータスを引っ張り出して魔力の部分を指差した。
「見て見てルシルさん、ここ」
「え……あ……もしかしてこれが一時的に上がっている数値……?」
「そういうこと」
すごいでしょ? と
「………………だからと言って
流石に彼女のツッコミからは逃げられなかった。
「クソッ、流れでしれっと誤魔化せると思ったのに」
「状況的に無理だよ……!」
『普通人間が鉱石食べてたら誰だって怖いでしょう』
「そうかな?」
「そうですよ……!」
話してる際にもお菓子感覚で齧って、新たな
「これもアヴェルアさんのおかげ……? いやせいなのか……?」
『失礼な トウコがこんなに頑丈なのはトウコ自身……いや本体との
「? なんか言ったか?」
『いえ別に でもさして問題はないですよ 魔力が増えたところで雀の涙程度ですし』
「そうですけど……食べすぎるとお腹壊しませんか……?」
「甘いから平気」
「そういうことじゃあない……!」
肩を掴まれて揺らされる、心配してくれてる証拠だ。
「さあ皆さんが待っているので戻りましょう……!」
「あ、だったらちょっとだけ待って? せめてこいつだけでも回収したい」
アヴェルアの方を見て“仕方ないなトウコはぁ”と
「アヴェルア、そろそろ
『そうですね 5キロじゃ色々と足りないですし』
「拡……張……???」
「うん、現にこのスキルはアヴェルアのだし、こいつが
「ふぉおう……」
ルシルさんは宇宙のことについて考えるハムスターみたいな顔をした。
『とはいえ私魔力ないのでトウコからもらうしかないんですよね』
「え……? 湧水みたいに魔力出せなんですか……?」
『創造竜にどういうイメージ持てるんですか? 確かに水とか出せましたけど真水創るの難しいんですからね 精神とか研ぎ澄まさないとなんか不純物まみれの水とかになるし あと私バックアップですからそんな器用なことできませんし』
「ほぇえ勉強に待って初めて聞きましたがそれ……!?」
“言い忘れてたんですよね〜アハハ〜”と笑って話す。
歳だから許してやれと言ったら思いっきり引っ叩かれた。
『とりあえず15キロだったら入るようになりました』
「おーしじゃあ早速集めて入れてようぜ!」
「あっボクも手伝います……!」
大体10キロの
ルシルさんが個人用の3キロの
「よししばらく金兼おやつには困らんな」
「そうでえっ今なんて……?」
「うーっしさっさと戻るぞー!」
「今なんて言いました……!? ちょっと目を合わせなさい……!」
ルシルさんからの質問を全無視して馬車まで戻ってきたと同時に、護衛達も動けるようになったらしくそろそろ街に行かないかと話しかけられたので了承した。
「あらおかえり〜」
男はにこやかに手を振っていた。
正直ぶん殴りたいけど、ここは感情的にならずにまずは深呼吸。
「さっきは、ごめんなさい」
深く頭を下げた。
またなんか嫌味なことを言われるんじゃないかと覚悟していたが、なにも来ない。
恐る恐る、顔をあげてみると。
「…………偉いじゃ〜ん!」
ガッチリと頭を撫でられた。
「や、やめろ! 子供扱いするんじゃねえ!」
「おじさんからしたら子供みたいなもんだから平気だよ」
「そういうことしてると若い子に嫌われんぞ」
「ふふっ、おじさんの心は意外と傷つきやすいからやめてね」
ふん、と鼻を鳴らして馬車の方へと歩く。
「それで? 乗るの?」
乗せてもらえると思っていなかったのか、また陽気に笑って。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
そう答えた。
黒い馬車に先導されながら草原を進んでいく。
魔物も盗賊も現れることはく馬車に揺られて目的地まで進んでいた。
のどかな草原の風景が心地いい。
このまま街に着くまで荷台で寝てようかな、運転はルシルさんが担当してるから安全だし。
猫耳男も景色見てるだけで怪しい雰囲気なさそう。
『ところで2人とも あの男については何も聞かなくていいんですか?』
「あっ……」「あっ」
完全に忘れてた、なに和解ムードで流してんだアタシィ!
というかこの人の名前さえ知らないことに気づく。
「今更なんですけど、名前言ってなかったですよね」
「あぁそんな堅苦しくなくていいよ、もっとフランクに行こう」
「じゃあ、改めて」
咳払いをして猫耳男の目を見て口を開く。
「アタシはトウコ、最近冒険者になったばかりの新人」
「ボクはルシル・ヴェルガルド……しがないしょ……冒険者やってます……!」
品定めするような視線でボクとトウコさんを見返した後、猫耳男は笑顔で自己紹介を始めた。
「初めまして、おじさんはライラック・イディエル、獣人族で旅人ってところかな、呼び捨てでもおじさん呼びでも構わないからね」
「旅人? にしてそれには荷物少なくない? それにさっきのゴーレムなんだよ? なに
「……ほら、その、色々とあるんだよ」
明らかに目が泳ぎ出して声色が若干変わった、何か後ろめたいことがある反応だなこれ。
その様子にアヴェルアさんも訝しむように彼の顔を覗いた。
『おうおうおう吐くなら一気に吐いちまいな旦那ぁ アンタが旅人じゃないことはさっきの戦闘で目に見えてんだよォ』
どこで覚えたんだそんな言葉、とツッコミを入れようとした途端。
「ん? なに、お前も話したいわけ? 珍しいね」
影に向かって話し出したかと思いきや、自分の影に触れると中から赤い瞳の男性が上半身だけ出てきた。
「紹介するよ、こいつは……」
「ロード・グレイルス、吸血鬼で従魔でこいつの主だ」
「まって……!?」「まてや」
突然の情報投下はやめろ、衝撃に備えてねえんだよ。
アヴェルアに関してはゲラゲラ笑い出してぶっ倒れたんだけど。
「な、え、吸血鬼って日光ダメなんじゃ?」
「ここは影になっているから問題はない、それに直接当たっても数分の間なら出ても問題はないからな」
するりと影から抜け出してさりげなくルシルさんの鞄の隣を陣取った、確かにそこなら日光は当たらないけどなんでそこなんだ。
「吸血鬼を従魔になんて……初めて聞きましたよ……」
「まあこんなやつ従魔にしてるなんておじさんくらいだしねえ」
「そもそも吸血鬼って従魔にできるんだ」
「できるぞ、現に
なぜか真顔でドヤってきた、それって自慢することなのか?
「あれ? でも主でもあるって言ってたけど」
「あぁそれ? 実はおじさん奴隷なんだよねぇ」
当たり前のことのように話してきた。
これなんて反応するのが正解なんだ、ルシルさんも完全に固まってるよ。
「というかこの世界奴隷って存在するんだな」
「ん? なにトウコちゃん、獣人族って意外と奴隷としてはメジャーなの知らないの?」
知りたくもねえ情報なんだよなぁ、反応に困るんだよ。
「おかげで顔とか火傷まみれでさぁ、もうほんと嫌になっちゃう」
左手で頬を掻く、その甲には焼き印が刻まれていた。
…………焼印?
ふと昨日の出会った少年のことを思い出す。
あの少年も左手の甲に焼印があって、顔の右半分は火傷で……────
「………………………………」
頭が、ぼーっとしてきた。
「お、やっと効いてきた感じ?」
「やはり魔力が高い人間にはそれなりに時間がかかるな」
「ほんとほんと、でもうまく引っかかってくれたから結果オーライ」
咄嗟に構えを取るが体がふらつくせいでバランスを崩して、ロードにもたれかかるように倒れてしまった。
躱されるかと思っていたが、案外優しく受け止められてそのまま寝かされた。
「安心しろ、お前達に危害を加えるわけではない、ただちょっと、その、あれだ」
「盗賊みたく君らのお金を盗むってわけ、というかお前はいい加減慣れろって言っただろ?」
「すまない、まだ抵抗が」
「これだから世間知らずのおぼっちゃまはよぉ」
何か言っているのにうまく聞き取れない、意識が朦朧とし出す。
「……ルシ……ルさん……」
「あ、ちなみにルシルちゃんにも掛けてるから助けは無意味だぞ、でも街に入ったらすぐ解けるようにしてるからそこは安心してね?」
抜け目が、ないな。
アヴェルアも反応がないから、睡眠系の魔法なのだろうか。
「まだ抵抗する力があるのか、よほど魔力があるようだな」
「2人して幻獣並み、いやそれ以上の魔力持ってて流石のおじさんでも苦労しちゃった」
まずい、このままだと意識が……。
「そろそろ街が見えきたし、金だけ奪っておじさん達はドロンでもしようかね」
力を振り絞ってライラックの胸ぐらを掴む。
振り払ってこないのは抵抗できないとわかってのことなのだろう。
「元気だねえ、いいね、おじさんそういう子は────」
「次会ったらそのイカれた耳と尻尾剥ぎ取ってやるから首洗って待っとけよクソッタレ」
ライラックの小さな悲鳴を最後にアタシは意識を落とす。
「……コさん……! トウコさん……!」
「ウベラドンガラウラッシャアェイッッッ!!!」
「なんて……???」
飛び上がるように身体を起こして周りを見渡す、どうやらこの街のギルドの一部屋らしい。
アタシがなかなか起きないから馬車などの手続きを終えて、部屋を借りてる状態ようだ。
「ライラックとロードは!?」
『既に逃げられてますね』
「クッソ、あいつらぁ……」
「こればっかりは信頼したボクらが悪かったということで……」
「……そりゃあ、そうだな」
『なんで2人とも信用しちゃったんですか? 怪しかったでしょ普通に』
「だって人に優しくされると嬉しくて……」
「人の温もりに触れたくて」
『ほんとにごめん』
珍しくアヴェルアが謝った。
いやそんなことよりとルシルさんの鞄を探す。
「どうしました……?」
「あいつら金だけ奪って逃げたんでしょ? だったらルシルさんの鞄が危ないんじゃ」
「……見事にお金の貯めた袋だけ抜かれてましたね……」
という割にはそんなに落ち込んでいないように見えるけど。
「ええと、盗まれたんですよね?」
「はい……まあこういうこともあるだろうと半分は別個で隠してまして……」
鞄から小さな宝箱が出てきた。
宝石が散りばめられたものだが、逆になんでこれを持っていかなかったのだろう。
「それは?」
「あ……なぜか戻ってきていたボクの工具箱です……ほらすごいでしょアヴェルアさん……?」
『名指しやめてください 地味に傷つくので』
アヴェルアもあのことをまだ引き摺っていたのかすっごいへたれ込んでる。
「で……実は……」
工具箱を開けると、まあ中身はお察しの工具用具ばかりなのだが。
二段階仕様になっているのか底の部分をズラすと、きんきらに輝く硬貨が並べられていた。
「ボクお手製の自作工具箱……! 工具箱としてはもちろん……緊急の金庫としても使えますし魔鉄の一つ一つに耐久・耐熱の魔法をかけてさらに風魔法で軽くしてトドメに聖魔法を付与してアンデッド特攻武器として使えるようにしているんです……! しかも工具全てをオーダーメイドで作ってもらったので合わせてかかった費用は金貨100枚……!」
自慢げに胸を張った、確かにこれは大事なものだな。
「まあ半分取られちゃったのはボクの不注意なので……」
「そう落ち込まないでよルシルさん」
「……トウコさん……!」
肩に手を置いて、彼女の目を見る。
「取られたならその倍取り返せばいいんですよ、なんならライラックの耳と尻尾剥ぎ取って売ってやろうぜ」
「そんな……勿体無いですからせめて手袋とかマフラーとか作って返しましょう……!」
「いいねそれ採用」
『悪魔かなこの子らは』
復讐はなにも生まないっていうけど、やらないわけにはいかねえよなぁ?
こうして小さな復讐のためにアタシ達はライラックとロードの二人組を探すことにしたのだった。