竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
「はぁ、うどん食いてぇ」
酒場のテーブル席に置かれたコカトリスの肉を突っつきながら呟く。
ここ最近脂っこいものばっかでいい加減あっさりしたものが食べたくなってきた。
別にこっちの世界のご飯はまずいというわけじゃないがいかんせん食へのこだわりが薄い、魔物の肉は焼けば食えるから食料とかには困らないんだけどそれはそれとしてバリエーションが少なすぎる。
「うどん……ってなんですか……」
「なんかこう、ツルツルしてるやつ」
「美味しいんですかそれ……?」
「弾力あって暖かくても冷たくてもいけるし卵かけたらめっちゃ美味しいからな?」
「……??? 想像できない……」
「よっしゃアヴェルア、創造竜のスキルでうどん作ってくれ」
『そんな雑に使おうとしないでください あとそのスキルの権限私じゃないです』
頼りにならねえ
『そんなことはどうでもよくて 再度状況の確認をしましょうか』
「どうでもよくねえが、まあそうだな」
始竜バベルの依頼、自身の肉体の破壊。
王都ハールに眠っている彼の身体を使って、何者は何かを生み出そうとしている。
目的も黒幕もわからないが、確認できる内容は今のところこれくらいだろう。
「でも古竜の遺体って残らないんだろ?」
『それはダンジョンのみです 遺体に関しては残りますよ 骨だけとかね』
「そもそもどうして王都の地下なんかに始竜の遺体があるんでしょう……?」
「人間との戦いで負けちゃって埋められたとか?」
『それはないですよ』
アタシの記憶を覗いたのか知らないがうどんのメニューの画面を見ていたアヴェルアが話し出した。
『彼は一度も人間と戦争をしたことがありません ああ見えてクソ雑魚でしたから』
「えぇ意外です……あんなすごい迷宮作れるのに……」
『所詮は幻覚の類です 作れたところで攻撃できなきゃ意味がないですからね』
「さすが脳筋竜、脳のリソースが戦闘のことしか考えてないな」
『誰が脳筋竜ですか』
事実だろと言ったら飛んできそうだから心の中で言っとこ。
『でも一番の理由は世界によって生み出された自分が戦場でうっかり死んでその身体が悪用されてしまうのを恐れて出ないようにしてたんですけどね 高みの見物はよくしてたらしいけど……』
「よく同族から狙われなかったな」
『あの迷宮でうまーく逃げてたこともあって同族からも狙われることもありませんでしたよ』
「器用な方だぁ……」
“なお交際相手からは逃げられなかったようで”と鼻で笑った。
『まあぶっちゃければそこで始竜は自然死しました』
「自然死って、まさか老衰するの?」
『はい』
「えぇ……」
死因はともかく、なんでよりにもよってそこで死ぬんだよ。
「竜って老衰するんだ……」
『しますよ? 神とはいっていますがちゃんとした生命体なんですからね』
「10000年生きてた奴に言われても実感わかねえよ」
“そう言われたら何も言い返せないんですけどそこはいいでしょう”とツッコミを入れられた。
『始竜はその場で息を引き取り魂は冥界へ生き 肉体だけが残ったというところでしょうか』
「でも普通死体って何年も経てば肉は土に分解されて骨だけが残るんじゃねえのか?」
『始竜は少し体の構造が変わっておりまして 世界と接続している始竜の肉体は世界の一部と認識されてるため結晶化するように設定されているのです』
そのせいで遺体が今世まで残り続けて、それを悪用しようとしたものが現れたということになるのか。
『ちなみに本人は自身の死体を最愛の人にプレゼントしたらお洒落なんじゃないかと考えていたそうです』
「キッショ」
「愛が物理的に重い……」
悪用されてそうになってのに脳味噌に花でも詰まってんのかってくらいに呑気すぎないか。
「なんかバベルさんわりかし今後のこと考えないタイプの竜だよな」
『38股する竜ですよ その場のノリと勢いでなんとかしてましたから』
「古竜って意外とアグレッシブなのばっかですね……」
『アグレッシブというか知性が低いなのが多かったというか 物は試しでよく間抜けな死ぬ方をする竜が多かったんですよ』
だからお前も脳筋なんだなって言いかけたのをルシルさんに口いっぱいの肉を詰められて黙らされた。
『流石にまずいと一部の竜が感じたのか何体かはバックアップの個体を用意してたようです 万が一自分たちが死んだ時のためにもう一度竜として生きるために』
「じゃあ昼間に会ったバベルさんもバックアップってことですか……?」
『あれは本体の魂です 冥界から現世に不正アクセスしてきたんでしょう』
“死者が生者を長く引き止めることは御法度なんです、バレたらタダじゃ済まないんですよね”
なるほど、だったらあの時の台詞にも納得がいく。
というか冥界からの不正アクセスってすげーな始竜、死んでもなおやりたい放題じゃん。
「そういえばアヴェルアさんはご自身のバックアップの個体とか作らなかったんですか……?」
『私はトウコのスキルになる際についでにバックアップしただけです』
「ついで感覚でバックアップできるもんなのかよ」
『できますよ』
“
「でも聞いてる感じ意外と竜生き残ってそうだよな」
『ウギーッッッ!』
「地雷を踏み抜いた音がする……」
「地雷も何もバックアップまで処理しなかったお前の問題だろ」
『仮に竜が生き残っても竜=神の時代は終わったんだって書き換えましたもん!!!』
「でも結局混沌竜に世界立て直されてんじゃん」
『まさかたった2000年で建て直されると思わなかったんですウギャアーッッッ!!!』
テーブルの上でジタバタと暴れ始めた。
過去のことを振り返ってももう遅いというのは本人が一番わかっているはずなのについ指摘するのは流石に可哀想か。
『さて過去のことを悔やんだって前には進めません それに今の私は竜じゃないのでそこら辺はもう関係ありませんもんね』
落ち着きを戻したアヴェルアはくるくると回りまたうどんの画面を開き始める。
「そういやワイバーンやヒュドラみたいな奴らがいたりするの?」
『もちろん そういったのもいますよ』
新たな画面を開き、アヴェルアは竜についての説明を始めた。
『ワイバーンは眷属的立ち位置です ヒュドラはこの世界では魔物という扱いです』
「そっか、ヒュドラって水蛇とも言われてるんだっけ」
『詳しいですね 知性クリティカルしました?』
「うるせえな、どっかの本かなんかでそんなのがあったなと思い出したんだよ」
頬杖をつき、肉を頬張る。
相変わらず変な記憶の欠落してるけど意外にも役に立つ時はあるんだぞ。
「つーかお前どっちかっていうと脳筋竜って感じだよな」
『誰が脳筋ですって!? 歴とした最上位の竜ですが!?』
「だって神らしいとこないじゃん」
むすっとした顔文字を浮かべたアヴェルアはなぜ
『創造竜は生まれてまだ生後1日で雷や洪水 地震や台風さらには噴火などの自然災害をよく起こしてました その姿を見て人々は神と崇め始めたんですからね』
「立てば災害、座れば惨劇、歩く姿はカタストロフィ」
「これが噂の災厄の魔王かぁ……」
『待ってくださいあんなのと同じ扱いしないでください寝返り打っただけでこうなっただけで私は何一つ問題はないんですよ力加減とかまだうまくできてなかっただけです本当です信じてください
テーブルの上で泣き叫ぶアヴェルアに冷たい視線を送りつつ肉を頬張る。
『まあそれが原因で神だと崇められちゃったんですけど』
「それが原因なんですか……?!」
『いや創造竜もそれで神判定くらうと思わなかったんですからびっくりしたんですよ』
「いや、割とそういうのはよくある」
残りの肉を丸呑みしながらとある話を2人にしてみた。
「アタシの世界では自然災害、っていうか自然現象かな。大昔の人はそういった知識がなかったからそれら全てを神からの怒りだとして記録や神話にして残してたらしいし」
2人は目を丸くしてアタシの方を向いていたけど、なんかおかしなことでも言ったかな。
『トウコって時々知性クリティカル出しますよね』
「どういう意味だゴラ」
「いえ……そういう風に考えたことがなかったというか……竜がいたので自然災害が起きるのは当たり前だったというか……」
「なんつーか、理不尽な現象を説明つけるのに竜がちょうどよかったんだろ。だから人間達は寝返りで災害を起こしてたアヴェルアを神として崇めたんじゃねえのか?」
納得したような表情でルシルさんは手を叩き、アヴェルアは不満げながらも“理屈は通っていますね”と溢した。
「にしてもお前寝返りするだけで雷とか落とすってやべーな」
『生まれたばかりの赤子に加減しろって言われてできるわけないでしょう なのでしばらくは始竜の元で力加減の練習をさせられた結果スキルや魔法なしで災害を起こせるように成長しました』
「よくそんなことができますね……?」
『魔力を操るだけなので誰だってできますよ 流石にそれ専用のスキルや魔法には敵いませんがね』
魔力を操るとはいっているが誰もそんな器用なことができるはずがない、そう考えたら創造竜ゆえの
『そもそも魔力っていうのは万物全てに宿る力のことでそれが大きければ大きいほど扱える魔法やスキルが強くなり精神系魔法の耐性上昇 さらには防御力が上昇するんです』
「防御力まで?」
『防御魔法でも防げない攻撃が飛んできた場合は魔力回路を肉体張り巡らせて防御を上昇 要は魔力を防御力に変換するってことです』
「魔力が多ければ多いほどいいってわけか」
『そういうことです また一つ賢くなりましたね』
馬鹿にするのもいい加減にしろよ、アタシの拳が火を吹くぞ。
と、思いつつだいぶ話逸らしてしまったので話を戻そう。
「あのさ、一番気になってたことあるんだけどさ」
『なんでしょう』
「竜って氷とか妖精に弱いの?」
『何言ってるんですか? 竜が氷や妖精にに弱いわけないでしょう』
どうやらこの世界の竜は氷と妖精に強いらしい。
その後、世間話をしつつ夕食を食べたアタシ達は宿に行きひとまず明日の出発に備えて休むことにした。