竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
『ピピピピピピおはようはおはようおはよう起きて起きて起きて起きて起きろーッッッ!!!』
朝からうるさい目覚ましを叩き割って起床。
ルシルさんはまだ寝てるのか寝息を立てていた、今ので起きないのがすごいな。
『叩くのやめてください』
「なら普通に起こせよ」
『早起きは三文の徳ですので』
「どこで覚えたんだその言葉」
“叡智の結晶ですから”とドヤるアヴェルアを無視して気持ちよさそうに寝ているルシルさんを揺らして起こしてみる。
「……………………、」
むくり、と体を起こして目を擦るルシルさんに手を振る。
「おはよう、よく眠れ──」
「…………ァア゛…………?」
掠れた声が漏れたと思った瞬間、赤眼が光った。
背筋に凍り、心臓が止まったように息が止まりアヴェルアはパキンとウィンドウ部分にヒビが入る。
「…………あ…………おはようございまふ…………」
大きな欠伸をして身体を起こし洗面所の方へと歩き去っていった。
「……今度からルシルさんを無理に起こすのはやめるわ」
『私も二度とあの起こし方しません』
普段物静かな人が出すドスの効いた声ってあんなに怖いんだなって実感した瞬間だった。
宿をチェックアウトした後、朝飯を買うために市場をぶらついていた。
「こんな清々しい朝ならトーストにベーコンとか目玉焼きとか乗せたやつが食べたいよなぁ」
「なんですかその夢のような朝食……!?」
子供のように涎に垂らしたルシルさんはハッと我に帰り口元を拭く。
よっぽどお腹空いてんだなと思いながら屋台を見渡す。
『朝食なら街を出る時に買いましょう そうそうこの街のパンなかなか美味しいらしいですよ その上にベーコンと目玉焼きを乗せるなんて贅沢すぎますよ』
「羨ましいのか?」
『羨ましい』
「羨ましいんだ……」
ふふっと笑うルシルさんに向かって“何がおかしいんですか”と不機嫌そうに睨んでいる横で朝食に良さそうな食材をいくつか購入。
「あれ? すみません、なんか違う食材が混ざってしまったんですが」
購入した食材の間にうまく挟まれていた
「捕まえたぞ、麻薬の売人め」
屈強な身体に鈍色に輝く鎧をきた騎士になぜか手錠をかけられていた。
なんとなく理不尽な目に遭うことは慣れているような気がするが流石にこれはないだろ。
「アタシのどこが売人に見えるんだよ」
「その顔が物語っているだろう」
おい人の顔を馬鹿にするんじゃねえって教わらなかったのか。
「そ、その女が急に麻薬を渡してきたんだ!」
店員の女はアタシを指差して売人だ! と叫ぶがその顔は薄く笑みを浮かべていた。最初から嵌めるつもりだったなこの店員。
「何してるんですか……!?」
ようやくルシルさんが異変に気がつきアタシと男を引き剥がそうと割り込んだ。
「確かにトウコさんは顔つきはちょっと怖いですし言動は物騒ですが犯罪を犯すような人ではありません……!」
「フォローをするならちゃんとやってくれルシルさん」
『そうですよ! トウコはゴブリンの頭を切り裂いたり四肢をもぎ取ったり無抵抗のメデューサ相手をボコスカ殴るくらいには乱暴ですよ!』
お前は黙ってろと睨む、アタシら以外には見えないからって言いたい放題するな。
「ならこの葉はなんだ? どうして貴様がこんなものを持っている?」
「知るか、食材に挟まってたから返そうとしただけだっつうの」
「売人なら全員がいう台詞だな、もう聞き飽きたぞ」
「ほんとに違うって言ってんだろ、人の話はちゃんと聞けよ」
「犯罪者の声に耳を貸す必要はありません」
凛とした声が響き渡り、群衆が道を開けた先に誰かが歩いてくる姿があった。
黄金の髪をサイドアップにして人形のような顔立ちに鎧を着こなし剣を携えた美少女。
「貴方が麻薬を渡す瞬間を目撃していたと言う人が多数います、いい加減罪を認めたらどうでしょうか」
無表情で睨んでくる女騎士、なんかこの手の人間話が通じなさそうな雰囲気で嫌なんだけど。
と、横で恐る恐る手を上げながらルシルさんが発言をした。
「あの……どうしてそう思われるのでしょうか……」
「どうしてだと? そんなもの
「えっと……例えばボク達を嵌めようとその方々が嘘をついているとか……」
空気が凍りついたように静まり返り、火がついたように女騎士が口を開く。
「我が国民を愚弄するのか貴様!!!」
「ふぇええ……!? そういう意味で言ったんじゃないんですが……!? そもそももう少し下調べとかして逮捕するものじゃないんですか……?」
「うるさい! この者の仲間なら貴様も売人なのだろう! 今すぐその鞄の中身を調べさせてもらう!」
強引にルシルさんから無理矢理鞄を剥がし中身を調べ始めた、でも中から麻薬が出てくることはないはず。
そう思っていた直後。
「ふむ、これはなんだ?」
「……それは……」
出てきたのは
「やはりな、その女も連行しろ」
なぜルシルさんの鞄から出て来たのだろうか、少なくともアタシが見た時にはそんな葉っぱは見かけていない。
考えられるのは気づかないように隠し持ってあたかも持っていたように見せかけた、と考えるべきだろう。
そうなると
なんて考えているうちルシルさんにも手錠がかけられて2人仲良く連行されることになった。
「やっぱりそうだったんだ」「急にきて怪しいと思った」「叫ぶなんて恥を知らないのかしら」「あの顔は麻薬をやっているに違いない」
ヒソヒソと聞こえる住民達の声に舌打ちをして睨む、好き勝手言いやがって、
「
カチン、と頭に釘が刺されたような感覚が走るのと同時に不協和音が鳴り響く。
……だけどそれだけだった。
なんというか言っているだけで感情とか何もこもっていない発言、呪詛のように唱えているよう思ったが身体に影響はない。
なんだったんだろうかと呆けている隣でルシルさんが俯いていることに気がつく。
「どうした? 腹でも下した?」
ルシルさんをよく見てみれば耳を塞いで怯えた様子で今にも泣きそうな目でこちらを見た。
「……ボクの目って……やっぱりおかしいんでしょうか……?」
「そんなことないぞ、むしろ世界一かっこいい」
「……えへへへ……そうですよね……」
ルシルさんは身体をくねらせて嬉しそうに口を緩ませるがどこか暗い表情を浮かべている。
さっきの陰口の中に彼女のことを言っている発言は聞こえなかったなんだけど普通に聞き流してたのか、見つけたら締め上げねえとな。
「あっ……そういえばどうしましょう……!? このままじゃボク達牢獄行きですよ……!」
「まあ、なんとかなるだろ」
「そんな呑気に言っている場合ですか……!?」
うるさいぞと言われて萎れるルシルさん、とはいえめんどくさいことになった。
始竜の件もそうだが盗賊2人の方もどうにかしなければ、後者はアタシの私怨だけども。
アヴェルアはというと何か思いついたのかこちらに振り向き、
『私ちょっと単独行動してきます すぐ戻りますので』
風のようにどこかへ行ってしまわれた、自由だなあいつ。
「とりあえず今はアヴェルアに任せるとして」
「ボク達は冤罪だと言うことを証明しないとですね……」
「だなぁ」
腹の虫の声を聞きながら天を仰ぐ。
しばらく歩かされて南門に着いた。
アタシ達の他にも麻薬の売人らしい人物達が荷車に乗せられて行くのが見える。
幾人かの罪人らしき他に盗賊などの犯罪者が乗せられていき、アタシ達は一番奥の大きな荷車に乗せられるようだ。
ふと女騎士の方を見ると住民達が彼女を囲って絶賛していた。
「
「
「
「
ノイズのような、不協和音のような、無数に重なっている意味不明な音声がイザベラという女に向けて流れていく。
「なに、皆のおかげだ。それにいつも助かっているのは私の方なんだから」
イザベラは心の底から感謝の言葉と笑顔を住民達に向けているが、その住民達は偽物の笑顔を貼り付けて彼女を中身のない言葉で褒めていた。
もしかしてさっきのは、と思考する頭を騎士の男に止められる。
「おいお前、さっさと乗れ」
「はいはいっと」
言われるがまま荷車に乗ると扉を閉められて鍵が掛かる音がした。
中は薄暗く陰湿な雰囲気で甘い匂いが漂っている。
乗せられている人は虚ろな目をした若い男女ばっかりが多く、その中でも目立つのが黒髪で猫耳を生やした見知った男がこちらに気がついて手を振っていた。
「何捕まえられてんだこのボケ猫耳ジジイー!!!」
周りの目も気にせず怒りのまま飛びかかってライラックの頭に噛み付く、それはもう血が吹き出すんじゃないかってくらいに深く噛みついた。
「“あっ同類だったんだ”みたいな感じで手ェ振ってんじゃねえぞ! 金返せこの泥棒猫!」
「相変わらず元気だねえ、あっお金は昨晩スられちゃったからないよ」
「お前二度と盗賊名乗るなよ」
頭についてるもふもふの耳を引っ張っているとルシルさんが流石に可哀想と言って引き剥がされら、ライラックはというとスーツの襟を正して大変だねと苦笑。
「第一、おじさんを信用してた君達が悪いんじゃないの?」
「……っるっせ! 人に優しくされるの慣れてねえんだよ!」
スン、と真顔になった後、純粋だねえと頭を撫でてきたので噛みついた。
「あの……ライラックさんはどうしてここに……?」
「ん? あぁなんか街を出て他んとこに行こうとしたら麻薬の売人だって言われて捕まっちゃった、おじさん麻薬とかやったことないのにねえ」
麻薬と言われて思わずルシルさんと顔を合わせる、どうやらライラックも同じ容疑で強制的に捕まったようだ。
「なんか手荷物検査とか受けたりした?」
「そうそう! その時騎士の人の懐から麻薬みたいなのが出てきたから密告したら逆に捕まっちゃった」
おかしな話だよね、とライラックは笑っている。
どうやら住民や騎士が意図的にこちらを嵌めている、だがなんのために……?
「ところで君ら、住民達になんか言われた?」
突然、そんなことを聞かれる。
別にやましいことはないが、なぜこの男がそんなどうしてそんなことを聞くのはちょっと疑問ではあった。
「人殺しの顔つきだとかは言われたけど、それが何か?」
「……呪われた目だとか……気味が悪いとか……」
「ふーん、その後の体調とか気分とかはどう?」
「いや、特には」
「今は問題はありませんが……それが何か……?」
「…………やっぱ魔力が多い子には効き目なしか」
顎に手を置き少しだけ黙考した後、ボソリと呟いたのをアタシは聞き逃さなかった。
「なんか知ってるだろ! 全部吐け!」
「はいはい、話すから首絞めないでね」
子犬をあやすように撫でられながら力強く引き剥がされた。
「とはいえ話には色々と情報が足りないんだよね、ロードの奴おっそいなぁ」
「一緒じゃなかったんですか……?」
「ちょいと単独で動いてもらってたんだよ、そろそろ戻ってくるはずなんだけど」
と言ったところで馬車が動き出す。
うっすらと額に汗を浮かべて沈黙した数秒、壊れたラジオのように口を動かした。
「やっばいやっばい単独だとはいえまだ太陽出てる時間だよ最悪影にでも入ってくれればまだなんとかなるし呼び出せるけど待ってやばいどうしようあの馬鹿余計なこととかしでかして活動時間超えてるとかないよねいやありうるあいつならありうるこうなるんだったら別のやつに任せておけばよかったマジでもう〜〜〜」
頭を掻きむしりその場にしゃがみ込んでなおぶつぶつとつぶやくライラックの姿を見て思わず吹き出してしまった。
「こいつがルシルさんの工具箱見抜けなかったのわかってきたな」
「見抜けなかったって何!? あれただの工具箱じゃないの!?」
「実はあれ……底の部分が外せて緊急用の金庫になってるんです……」
「気づくわけないだろそんなのー!」
ルシルさんの肩を掴もうとしたのをすかさず足を引っ掛け倒れた隙にキャメルクラッチを喰らわせる。
「いだだだだ待っておじさんの身体脆いからやめて死んじゃうからやめでええ」
「うるせえ素人盗賊、てかゴーレム召喚できるんだったらワンチャンあの時もお前が犯人説あるよな? そこんとこどうなんだッ!」
「知らない知らない!
「いーやこれ以上のチャンスはないね、悪いが色々吐いてもらうからな、覚悟しとけよ?」
ニタァ、と笑ってみせる。
おじさんはあの時のような小さな悲鳴をあげて白目を剥いて気絶をした。
「やべ、力入れすぎた」
「はわわ何してるんですかもう……!」
意識がなくなったライラックを寝かせて様子見、起きたあたりで尋問すればいいから今はゆっくりするか。
「あれ、なーんか忘れているような」
それなりのことを忘れているような気がしなくもないが朝から色々あって空腹気味で疲れてきたので後で考えることにして、とりあえず腰を下ろしてライラックが起きるのを待つことにした。