竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
馬車に揺られて大体3時間ほど、特に何もなく天井を眺めていた。
手をかざしても反応がないことからアヴェルアは戻ってきていない、というよりまたスキル封印されてんじゃねーかこれ。
そう考えつつ横で死人のように眠るライラックを見て頬をつねったりしてみるが全く起きる気配はない、ちなみにちゃんと脈はあるので死んでないはず。
「叩き起こしちゃダメかなこのおじさん」
「かわいそうなのでやめてあげてください……」
「は〜い」
返事をして壁に寄りかかる。
その横でルシルさんは数名の男女の様子を観察しては時々突っついたり脈を測ったりをしており、ようやく見終わったようでこちらを振り向くが何やら考え込むように俯いた。
「ルシルさん、どうかした?」
「あっ……ええと先ほどからうるさくしてしまっているのに皆さんこっちに関心がないのが不思議で……最初は関わらないようにしていたのかなと思っていたのですがどうもそういう感じではなさそうなんです……」
そう言って一人の男性を指差す。
どこにでもいる成人男性なのだが虚な目で天井を見つめ口からは涎を垂らし、時折痙攣のような仕草をしてはぴたりと止まってまた痙攣を繰り返して明らかにおかしい状態だった。
「鑑定などのスキルがあれば何かわかるかもしれませんが……ボクはそういうスキルは持ち合わせていなくて……」
「スキル封印されてなかったら鑑定できんだけどなぁ」
「鑑定スキルまで使えるんですか……!?」
「他にも暗視とか未来予知とか色々できたはず」
「ひえ〜……」
使うタイミングが少なくてほぼ使ってないのは黙っておこう。
「そういうや王都までどんくらい掛かるんだ?」
「もうそろそろじゃないかな」
声の方を見るとライラックが首をさすりながら身体を起こしていた。
「おはようございます……ええとお体の方は大丈夫そうですか……?」
「あんな技食らって大丈夫なわけないでしょ、おじさんもう歳なんだから優しくしてよ」
「わかった、今度からは加減するわ」
「最近の若い子は怖いねぇ」
なんてことを言ってるうちに馬車が止まった、ようやく着いたみたいだ。
と、思った瞬間馬車が大きく揺れ動き転倒した。
「イッ、だぁ……ルシルさん怪我は!?」
「ボクは平気です……それより他の皆さんは……?」
「おじさんは平気……首から変な音がしたけど……」
ライラックのことは無視して他の人間の身を確認してみると、全員虚な目をしたまま動いてる様子はなかった。
「これ、生きてるのか?」
「脈はあるっぽいね、多分達催眠状態になっているんだよね」
「ライラックさんそういうのわかるんですか……?」
「君達に似たようなやつ掛けたからね」
ハッと言っちゃいけないことを言った顔してわざとらしく咳払いをした。
「前から思ってたけどライラックって本業なんなの」
「盗賊だけど?」
「それは副業だろ」
「はぁあっ〜〜〜? 聞き捨てならないなぁ〜〜〜?」
「スられてるくせに何地雷踏み抜かれた感じに言ってんだクソ猫ジジイ」
「ライラックさんあんまり盗賊の才能ないんですから……そんなムキにならなくても……」
「やめて、年頃の女の子の正論ほど傷つくものはないんだから」
顔を手で覆い隠し泣き出した、メンタル弱すぎるだろこのおじさん。
ルシルさんが頭を撫でて慰めてる間、扉を壊して外の様子を確認。
既に交戦が始まっており数十体の魔物が人間の血肉を貪る光景が広がっている。
その魔物は人間みたいな顔にライオンのような胴体は赤い体毛に包まれて蠍の尾を持つ姿で中には蝙蝠のような翼を持ち空を飛ぶ個体もいた。
「あれは、マンティコアだっけな」
意味は人食い。獰猛な性格でもあり一国の軍隊をも全滅させるほどの強さを持つ、そんな怪物と騎士団が交戦しているが圧倒的に人間が押されている。
血肉が飛び交い、悲鳴が奏でる光景を見て、いてもたってもいられなくなって飛び出した。
「悪い、ルシルさんそっちは任せる!」
「うぇああ……!? わかりました……!」
「ちょっと!? 何飛び出してんの!?」
ライラックの声が耳に入ることはなく戦場を駆け巡る。
「ひ、ひぃ! 助け────」
1人の騎士にマンティコアの鋭い牙が刺さる寸前に割り込み、マンティコアの顔面をぶん殴った。
「ぼさっとしてねえでさっさと逃げろ! 邪魔だボケ!」
「わ、わかった!」
情けない声をあげてどこかに行くを見届けた直後、マンティコアが咆哮をあげて突進してきたのを軽くいなして腹に向かって力一杯蹴りを打ち込む。
鈍い音がした瞬間、吐血してそのまま動かなくなった。
「えっ脆、もう少し耐久あってもいいだろお前」
まあ聞こえていないだろうけど、とアタシの周りを囲んできた数体のマンティコアを見渡す。
『わーお 識別名:マンティコア Aクラスの魔物ですか って戻ってきたらなんか大変なことになっていたんですけど』
「あぁおかえり、なんか襲われた」
『はあ それでルシルさん達は?』
「ライラックとか他の人達と一緒、そっちは?」
『ちゃーんと情報集めてましたよ まさか忘れてたとかないですよね?』
「え、あ、うん、覚えてる覚えてる」
『ふーん まあ今はこの魔物達を討伐しましょうか』
「任せとけ」
頬を叩き気合いを入れ直して数体のマンティコアの頭を踏み潰しながら駆けていき、確実に数を減らしていく。
噛みつこうとしてきたなら頭突きを喰らわせて怯んだ隙に踵を落とし、尾で薙ぎ払ってくるなら受け流し顔面めがけて回し蹴りを喰らわせた。
『とはいえマンティコアは厄介ですね 飛行個体が数体いるのでかなり苦戦を強いられます』
「ならこうすりゃいいじゃん」
転がっていた両手で持てるくらいの石をボールのように蹴り放つ。
大砲のごとく飛んでいった石は見事空中のマンティコアの頭に命中、脳髄を撒き散らして呆気なく絶命した。
「うわ当たると思わなかった、やってみるもんだな」
『というか手で投げた方が安定するのでは? それくらいの拘束ならトウコなら引きちぎれるでしょうに』
「あぁそっか、シンプルに忘れてた」
ブチッ、と手錠を壊して両手を解放し次の獲物に目を向けようと途端、弾丸のような速さで何かが飛んできたのを素手で掴んで見た。
それは棘だった、ナイフのような鋭い形で紫色の液体がべったりとと付いていた蠍の棘。
そして数秒後。
「ッッッッッテェ!? ウオァアイッタイッッッ!!! すっげえピリピリするッ!!!」
『バカ! あれほどなんでも掴むなと言ったじゃないですか!』
完全に忘れていたがマンティコアの尻尾には猛毒があり、触れただけで
焼けるような痛みと神経を抉るような感覚が同時に襲い思わず棘を投げ捨てた。
「
『たとえ頑丈な鎧でも隙間から刺されたら毒は防げないですよ』
「うわ正論!」
ほんの一瞬気を取られた隙に、背後にいたマンティコアがアタシの首に噛みつこうとして牙を剥いてきた。
躱しきれない、ならもう受けるしかないと目を瞑る。
「…………何も起きない?」
恐る恐る目を開いてみるとマンティコアの動きが止まっていた。
必死に身体を動かそうとしているが全身に黒い何かが巻きついていて動けない様子だったが突然、黒い斬撃がギロチンのようにその首を切り落として糸が切れたように倒れ込んだ。
何が起きたか分からず、呆気に取られていると聞き覚えのある声が下から聞こえた。
「間に合ったようだな」
「その声、お前ロードか!」
「ロードだ」
足元を見ると影が揺れ動き人の形を作り出して、ロードが姿を現した。
「助かった、ルシルさんやライラックは?」
「2人なら馬車の方で怪我人の治療などをしている、今動けるのは
「おいおいあの騎士団はどうしてるんだ……」
「騎士団?
「え? じゃあ先に逃げたのか? 薄情な────」
突然、視界が歪んで咳き込み口いっぱいに鉄の味がした。多分毒が回ってきたのだろう。
肺が腐るような感覚で立っていられなくなり膝をつく。
思考が回らない、呼吸が乱れる、鼓動の音が小さくなっていくのが聞こえた。
────やばい、死ぬ。
「少し休め、あとは
左手を骨を砕く勢いで思いっきり噛んだ、痛みが脳に届いたおかげでなんとか持ち堪えた。
まあ毒なんてあとで如何とでもなると言い聞かせて立ち上がりロードに話しかける。
「数は?」
「……ぱっと見数十体だけだが、無理に戦おうとしなくてもいいと思うが」
「ちょっとふらついただけだって言ってんだろ、ニンニク塗りたくった銀の十字架を心臓にぶつけんぞ」
「…………わかった、
「任せな、
ニッと笑みを見せるがロードは無表情のまま走り出した、無愛想なやつだなと続くように駆け抜ける。
同時にマンティコアが大きな咆哮をあげてこちらに襲いかかってきた。
真正面から飛びかかる2体をロードが静止、動かなくなったマンティコアの背中を台にして空中の2体を蹴り落として落下した奴ごとまとめてロードが4体の首を刎ね飛ばす。
こいつの力がどういうモノかは分からないけど助かってるからいいか、と考えてたら背中から押して地面に激突するがすぐに重たい身体を起こして一旦深呼吸をした。
神経が蝕まれるような感触が巡り呼吸するたびに全身が悲鳴を上げる、だけどこんなことで泣き言言ってる場合じゃないと抉れた部分の皮膚を剥がして意識を保ち即座に
「…………お前、本当に大丈夫か」
「受け身取り忘れてただけだっつうの、心配すんな。マジでやばかったら言うから」
「なら、いいが」
相変わらず無表情だがその声色はどこか不安げで心配の色に染まっている、こいつ吸血鬼のくせして人間臭いやつだな。
「さて、あとは……っ……」
突然ロードがアタシの身体にもたれこむようにして倒れてきたのをすぐに抱き止めて一旦地面に座らせた。
「どうした!? うわ顔色悪っ!」
「…………問題ない、それと顔色は元からだ」
『日光の浴びすぎですね 吸血鬼にとって太陽の光は天敵ですので』
「うおっいたのかお前」
『出るタイミングがなかっただけでずっといましたよ それにしてもナイスコンビネーションでしたね 戦い方にも慣れてきていて私も鼻が高いです』
「言ってる場合かポンコツ
“は〜い”とどこかに飛んでいくアヴェルアを見送ってロードの容態を確認、呼吸を荒げてるだけで完全に灰になったりはしていない。
「とりあえずお前影の中に入れるんだろ? だったらアタシの影に入ってろ」
「助かる……悪い……」
「ったく、吸血鬼のくせに何無理してんだっての」
「……お前には……言われたく……ない……」
「んだとオメー、無理矢理日光浴させた後に川に流すぞゴラ」
潜るように影に入るロードを見送り、周囲を見渡すとポンとアヴェルアが顔を出してきた。
『トウコ それらしい反応を見つけましたよ』
「でかしたアヴェルア!」
“こっちです”と言われた通りにアヴェルアの後をついていくと壊れた馬車が見えてきた。
「誰かいるな、あれは……」
目的地に近づくにつれ血の匂いが鼻につくのと同時に誰かの叫び声が聞こえる。
「こんなところで、こんなところで死ぬわけにはいかない!」
声の方を見ると、傷だらけのイザベラがおり肩で息をしている状態で足元には兵士だった人達の肉塊が散らばっていた。
彼女は踏まないように、周囲のマンティコアの様子を伺いながら構えを取る。
「私はこの国の、ネルヴァの王女である! 止まることはもう許されない!」
自身に言い聞かせるように叫び、1体のマンティコアに向かって剣を振り翳した瞬間、パキンッと虚しく剣が折れる音が草原に響き渡る。
「あ……」
決意に満ちた表情は消え失せ、王女は膝から崩れ落ちた。
その絶望の表情を舐め回すようにマンティコア達は彼女に牙を向ける。
「何してんだあの馬鹿王女!」
ロードは動けないしこの距離だと全力で走っても間に合わない、
仮にあの状況から助けても人一人抱えて逃げ切るのは難しい。
最悪アタシが囮になればと考えたがルシルさんの泣き顔が脳裏に浮かぶのでこれは最終手段として残す。
「他にいい方法は……ってうおっ!?」
身体に何かが巻き付いてきたかと思えば、ふわりと身体が浮いた。
周囲に気をつけていなかったせいでいつの間にか背後を取られてそのまま上空に連れ去られた。
空中だとロードは手出しができないと判断したのだろう、無駄に賢い奴らだ。
「はな、ゥグ、ァ」
逃げ出そうとするが蠍のような尻尾で全身を締め上げられ、内部で骨や肉が砕ける音が聞こえてきた。すかさず先端の棘を首に突き刺してきて毒を注入。
致死量を超える毒が身体中を巡り意識が遠のく。
抵抗しようとした瞬間、視界が霞んで激しい痛みが全身を蝕んでいきやがて痛みが消える。
そしてトドメと言わんばかりに2体のマンティコアの尻尾が心臓と腹部を貫いた。
大量の血を吐き出して、だらりと項垂れる。
毒を受けすぎて痛覚が完全に麻痺したのが幸い、と言っていいのだろうか。
もう既に身体は限界を超えていて不意に重たい瞼を閉じてアタシは眠ってしまった。
「……あ゛ぁもう……」
目の前で誰かが死ぬのは、もう見飽きた。
突き刺さった棘を引っこ抜いて、肺を破裂させるほど息を吸い込む。
| スキル: |
「
放たれた咆哮によって上空にいる3体のマンティコアの身体が爆散し、肉塊と共に20メートル程の高さを落下していく。
受け身を取れば多少の衝撃は軽減できる、頑丈な身体で助かったと思い衝突に備えた直後、何かが羽ばたく音がしたと同時に落下していた身体が減速して緩やかに着地。
何が起きたかと背中を見たら、真っ黒でボロボロの蝙蝠のような翼が生えて、影の中へと吸い込まれていき影の中から声がした。
「言っただろ、無理をするなと」
「いやお前も大概だからな?」
黙るロードに再び話しかける。
「一応聞いておきたいんだけど、その状態でもあいつらの動きって止められるのか?」
「……できるが数秒程度くらいしかできん」
「十分、それだけやったらもうお前は休んでろ」
「それはこっちの────」
言葉を遮るように地面を蹴り上げる。
その轟音に気づいた複数のマンティコアが振り向いたのと同時にロードが動きを止めてくれた。
「助かる、ごめんな」
ロードに感謝と謝罪の言葉をかけて、イザベラの元まで駆け寄った。
茫然としていた彼女の表情は最初に出会った時のような強気な王女の顔に変わったのを見て少し安心した。
「き、さま、その傷は……」
「はいお話は後、ちょいと失礼」
「まて、何を、うあぁあ!?」
イザベラを抱きかかえて走り去る、それと同時に拘束が解けて追いかけてきた。
とりあえず走りながら残りの奴らを片付けるかを捻り出す。
爪だと1体ずつしか片付けられないし咆哮や
というか首刺されたから喉痛すぎてこの2つ使いたくないのが本音、できるだけ他の方法でなんとかしたい。
「降ろせ! あれくらいの魔物なら私1人で! 私はこの国の王女なんだ! おーろーせー!」
「だーもうるせえなボケが! 邪魔、だッッッ!」
騒がしかったイザベラを空中に放り投げた。
王女らしからぬ可愛らしくも情けない叫び声をしながら華奢な体質の彼女の身体は軽く10メートル程飛んでいく。
その隙に何か方法は、と考えることもできずに追いかけてきた奴らの1体に背中を切り裂かれる。
倒れそうになる身体をボロボロの足で立て直す、同時に頭の中で何かがブチリと切れた。
「人の思考の邪魔してんじゃねえぞボケカス共が」
拳を握った途端、目の前に出てきたウィンドウを思わず怒りのままぶっ叩いた。
| スキル: |
放たれた拳は白銀の炎を纏い、そのままの勢いで地面を叩きつける。
瞬間、爆音を鳴り響かせて爆裂。
大地がひび割れその隙間から白銀の炎の波が流れ出し喰らい尽くすかの如くマンティコア達を囲み、彼らはなす術なく骨ごと燃やし尽くされて灰燼に成り果てた。
一瞬のことに呆気に取られたがイザベラの叫び声でハッと気づいて彼女を受け止める。
「お、っと、大丈夫か?」
「そんなわけないだろう!」
熱気を払うように気持ちのいい平手打ちの音が焦土に鳴り響く。
叩かれた勢いでそのまま倒れて、背中がくっついたかのように起きれなくなった。
頭がぼやけて、視界が灰色に、呼吸が完全に止まる。
『あ、これは』
何かを悟ったようなアヴェルアの声の後に、イザベラの怒号が聞こえてきた。
「この私を投げるとはどういう神経をしているんだ! だからよそ者は嫌いなんだ! これだけの魔力を持っているからって私達を馬鹿にして! 貴様なんかにはわからないだろうけどのこの国は…………って、なぜ動かないんだ?」
毒の蓄積ダメージが重なりトドメにイザベラのビンタが炸裂、どうやらそれが