竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
「あーあ、行っちゃったよあの子」
ライラックさんは大きな溜息の後、手首の手錠をいじりながらぶつぶつと何かを呟き始めた。
「……さてと……」
任せると言われてつい答えてしまったが、どうしよう。
やっぱり追いかけて加勢したほうがいいのだろうか、でもここにいる人達も容体も気になる。
これほどの衝撃が起きたのに他の人達が何も反応がないのは流石におかしい。
横たわっていた女性に近づいて容態を確認。
脈や呼吸に問題はなく涎を垂らしていたり痙攣していたりなどを除けば一応正常な様子、と言ってもいいのかな。
鑑定スキルがないのが悔やまれる、“眼”に関するスキルは魔眼のせいで使えないのでこういうところが不便だなと思い女性を床に寝かせた。
「何かわかったかい?」
「いえ……鑑定スキルとか使えたら色々とわかるんでしょうけど……」
「鑑定スキル? 何それ」
「魔法や物質などの質を詳しく分析して情報を瞬時に出力できる便利なスキルなんですよ……」
「あ〜、じゃあ似たようなの持ってるかも」
「本当ですか……!?」
思わずライラックさんの方に振り返ると顎に手を置き、自慢げな顔でこちらを見つめていた。
「こう見えておじさん結構多才なんだよねぇ」
「……でもライラックさんって魔力がないはずじゃ……?」
「魔法解除するくらいならその魔法陣破壊すればできるし、おじさん魔力くらいならなんとなく視認できるんだよね」
「そうなんですか……」
確かに魔法陣を破壊すれば解除できるがそういったものは見当たらなかったけど、盗賊だから目ざとく見つけただろうか。
それに魔力を視認って、どういうことなんだろう。
「それで? この人を鑑定すればいいの?」
「あっ……お願いします……」
「はいよ、こうしてっと」
ライラックさんは寝かせていた女性の頭に手を翳す、途端に女性の周りに淡い水色の小さな
「これが魔力ですか……?」
「そう、この人はなかなか質がいい魔力だね、でも魔力が増幅してるって感じで身体がついてこれてない状態みたい」
「増えているのはいいことなのでは……?」
「人間とか魔物には自分が操れる魔力の量が決まっててね、その数値が超えると魔力回路が焼き切れたり精神がおかしくなっちゃったりと色々と大変なのよ」
「ほあ〜……」
「君は生まれつきなのか鍛えたなのか、はたまた
「えっ……!? は……はい……」
突然そんなことを言われて少し驚いた、今後は魔眼の使用も控えよう。
それにしても魔力を視認できるなんてこの人はすごいな。
「ライラックさんって一体何者なんですか……?」
「ん〜……ちょっと訳ありな盗賊かな」
そんな訳ないでしょう、と突っ込んでもなんだかはぐらかしそうなのでこれ以上は野暮かな。
「まあおじさんがチョイっといじったから魔法回路が焼き切れるのはもうないけど思うけどね」
「焼き切れ……えっ今いじったって……!?」
「うん、イジった」
急激に身体の温度が上がった。
確かに獣人は性欲が強いとは祖母から聞いたことはあるけど、いやそんなわけあるまいかと自分に言い聞かせる。
勝手に変な想像をして恥ずかしい、何を想像しているんだボクは……。
「あ、えっちなこと想像してたでしょ、や〜いえっち〜」
「ちが……そう言ったわけでは……だってその……」
「うそうそ、かわいいね」
思わず子供のように頬を膨らませてしまう、その様子を見てクスリと笑いながら女性から手を離した。
「ざっとこんな感じだけどこれでいいかな?」
「あっ……ありがとうございました……」
「いえいえ〜、お役に立てて何より」
そう言って背伸びをしつつ、入り口の方へと進んでいく。
よく見て見れば彼の手首に掛かっていた手錠がない、自力で外したのだろうか。そういうところは盗賊っぽいな。
「ん〜、今がチャンスかな」
「……? 何がですか……?」
「いや、脱走するにはうってつけのタイミングじゃない?」
「はぁ……はい……!?」
突然そんなことを言って馬車の外に出ようとしたのを腕を掴んで止めた。
「待ってください……! この状況で逃げるなんてどういうことなんですか……!?」
「だって逃げ出すなら絶好のチャンスだし? 逆にこれで逃げ出さないのは間抜けでしょ」
「そうですけど……! この方達は……!?」
「そんなこと言われても、いちいち人助けなんてしてたら命がもったいないじゃん」
「でも助けないと……! 何かが原因で動けないんだったら……」
「それ俺が助ける必要ある?」
遮るように低く冷たい声がした。
「助けたところでそいつらは何かの罪で捕まった罪人、まあもしかしたら冤罪で捕まった善人かもしれないけどさ」
空虚のような瞳でこちらを見据えて呆れた声で続けた。
さっきまでのおちゃらけた雰囲気はなくなり、達観した態度で話し始める。
「それに、あの騎士団の人達から見てみれば死んでもいい人間なんだからどうでも良いでしょ」
「……どうしてそんなことを言うんですか……」
「それがこの世界での
淡々と語り、掴んでいた腕を振り解かれた。
「手が届くから助けようが命が勿体無いだからとか、そんなのこの世界じゃなんの意味もないし価値もない、結局は生きてりゃ死ぬんだしそれが遅いか早いかの違いでしょ」
何一つして彼の主張は間違っていない、この世界はそういう仕組みなのはわかっていることだった。
他人より自分、誰もがそう考えている。
「俺も長いことの生きてきたけどこの世界にとって命ってものは石ころと同じくらいなんだよ、他人を助ける暇があったら自分の身を守るのが普通なの、他人の命なんて俺からしたら意味がないんだよ」
言葉を突き刺すように吐き捨て、胸を締め付けてくるように息が詰まる。
何か言おうと口を動かそうにも、何も言い出せない。
それもそのはず、彼が言った言葉はどれもこれもこの世界にとっては真理で常識だ、それが当たり前なのだから。
「じゃ、そういうことだから」
「まっ……まってくだ────」
去って行こうとするのをなんとか止めようと口を開いた途端、黒い巨体の魔物が入り口前に立っているのが見えた。
禍々しい瞳でこちらを見下ろす魔物、人を死に至らしめる猛毒を持ち人肉を食らう恐ろしい存在、マンティコア。
「お、っとぉ……」
後退りしながら刺激しないようにとライラックさんは懐から何かを取り出そうとするが、それをマンティコアが見逃すはずがない。
すぐさま獲物に噛みつこうと牙を向ける。
「……!」
咄嗟に首根っこを掴み後ろに引っ張り庇うようにして前に出た、マンティコアは一直線にボクの左腕へと噛みついた。
ギチ、と軋む音が鳴る。
苦痛には耐性があるから、だからこれくらいの痛みくらいどうってことない。
「“
弾丸に撃ち抜かれたような穴が空いてマンティコアの顔が右半分が吹き飛ぶ、そしてその場に力無く倒れていく。
噛まれた腕に痛みはあるがちゃんと動かせるので骨は砕かれてないようだ。
安堵の溜息をこぼしてライラックさんの方へと振り返る。
「えっと……お怪我はありま────」
「何してんの馬鹿!」
振り返ると同時にライラックさんが駆け寄って肩を掴んできた。
「馬鹿! ホッントに馬鹿! 大馬鹿者! なんで自分の命とか顧みないんだよ! 他人の心配するくらいなら自分の命優先しろよ! 傷ついて苦しいのに全部我慢して何にもなかったように振る舞って! 怖いなら逃げるとかして痛いなら泣くとかして自分に嘘つくのをやめろって! それで損するのは君だろ!」
震える手で優しく抱き、まるで娘を心配する父のような感じで、言葉を投げかけていた。
「お願いだからこれ以上俺に……あれ腕ついてる!?」
「あ……ついてます……」
ボクの腕と顔を何度も見ながら目をぱちくりし出した。
メデューサの件以来、防御面を強くしているのでAクラス級の魔物の攻撃ならどうにかなる程度には硬いので怪我はない。
「え、だって、人間なら噛まれただけでぽっきんしちゃう威力だよ? なんでピンピンしてんの君?」
「服の下に自作の
「…………はい?」
「耐久魔法を二重にかけてその上に全属性耐性と対アンデット耐性を付与してついでに風魔法で機動性を上げているんです……でも流石にマンティコア相手だとちょっと破けちゃったのでこれはあとで修繕しないとですけど……」
「…………」
天を仰ぎ、数秒ほど黙った後。
「おじさんの心配した心を返してよ! なんだよもう! 心配して損した! あーもう嫌だ嫌だ! 人間嫌い! フンッ!」
なぜか逆ギレしてきた、ここまでくると一層清々しくて笑えてきてしまう。
「心配はしてくれるんですね……」
「…………目の前で死なれると後味悪いし…………」
いじけたようにそっぽを向いた、そういう自覚は持っているんだなぁと思いつつ外を覗く。
血生臭い匂いが鼻につく、何人かの騎士は事切れている状態なのがここからでも見て取れる。
おそらくトウコさんはこの光景を見て飛び出たのだろう、言ってくれれば手伝うのにすぐ自分1人で解決する癖は治してもらいたいなどと、今は余計な思考をかき消して襲われてる人がいないかと周囲を見渡す。
少し離れた林から別のマンティコア、それも飛行個体が現れたかと思えば血の匂いを察知してこちらの方へと向かってくる。
トウコさんの方を見ると
だったらボクが出るしかないと無意識に身体が動き出した、後ろで止める声が聞こえたが気にせず駆け抜ける。
時間をかけすぎると仲間を呼ぶ可能性があるから短期決戦で決めようと、ある程度距離を詰めたあたりで踵を強く踏み込む。
「“
踏み込んだと同時に足元から魔法陣が浮き上がり、身体が上空へと舞い上がる。
おおよそ10メートルくらいまで飛んだあたりで、魔力の質量を調整してもう一つの魔法を発動。
「“
突風が吹き荒れ、周囲の草木が激しく揺れる。
その風を自身の身体に纏うようにして疾風の如く草原を駆け巡り、マンティコアの頭に向かって飛び蹴りを打ち込む。
ドガッ! と鈍い音が共にマンティコアは落下、ボクもそのまま地面へと落下するが
標的へと視線を移すがダメージは低かったのか既に起き上がって走り出してきた。
流石Aクラス級の魔物、生半可な攻撃では装甲で防がれてしまう。
巨体なのにも関わらず素早い攻撃でボクの喉元で迫ってきた、だがそれを悠々と受け流して回し蹴りを入れる。
小さな呻き声を上げて動きが止まった隙に、太もものホルダーにしまっていた剥ぎ取り用ナイフを取り出し無防備の首に向かって斬りかかった。
マンティコアの皮膚は非常に硬く並大抵の刃物は通らないが、風纏うことで切れ味と勢いが増す。
故にただのナイフでも硬い肉を貫通することができるのだ。
「ふん……ッッッ!」
そのまま一直線に肉を斬り裂き鮮血を撒き散らす、斬り落とされた生首が無造作に転がっていく。
「……よし……とりあえずは……」
ひとまずは安心かな、そう思った途端。
背後から大きな足音が近寄ってくるのが聞こえた。
いつの間に? 一体どこから? まさかもう1体いたのか? それにこの距離だと攻撃が当たってしまう。
いや考える暇があるならとナイフを握って振り返る。
既に尻尾の毒棘が目の前まで迫って────
「キャウ!」
突然、この場に似つかわしくない可愛らしい鳴き声がしたのと同時に稲妻が走ったかのような雷鳴が響く。
呆気に取られたが何かが落ちる音でハッとなりそちらへと目を向けると尻尾の先端が地面に落ちており、焼き切れた痛みで苦しむマンティコアの姿が見える。
状況を飲み込めずにいると背後からライラックさんの声が聞こえてきた。
「ったく、年上の言葉に少しは耳を傾けてよね」
「すみません……馬車の人たちを守らなくてはと思ったらいてもたってもいられなくなって……」
「守るんだったら離れちゃダメでしょ」
ぐうの音も出なかった。
さっき怒られたばっかりなのにいつもの癖で戦闘してしまった、反省しなければ……。
「まあ無事なら良いけどね、ほらさっさと片付けるよ」
「……戦ってくれるんですか……?」
「おじさん借りは返すタイプだからさ、それにこんなのがうろついてたら安全に脱走なんてできなさそうだもん」
そう言って彼は何度目かの溜息を吐いた後、懐から白い紙を取り出してそれをボクのおでこに貼り付けてきた。
「はい加護つけた、これでもう大丈夫だよ」
「わ……ありがとうございま……ひゃあ……!?」
お礼を言い切る前に足元を何か毛深い生き物が通ったような感触が伝わり、下を向いてみると鼬のような生き物が擦り寄っている。
鼬と言っても長い尻尾は二股に分かれ、後脚は4本とかなり異形とも言える姿だった。
「その子おじさんの従魔ね、おでこに貼った札で君を守るように指示して終わったら勝手に札ごと消える仕様だから」
「ほあ……そうなんですね……」
札に触ってみると確かに強い魔力の気配を感じる、それもかなり高度な技術で作られた物だ。
このもふもふした生き物も精霊の類かなにかなんだろうなと興味が湧いてきたが、そんな呑気な考えはマンティコアが咆哮でかき消された。
「おっ気が立ってるね〜、まあ尻尾切られてるから仕方ないか」
ヘラヘラと笑うライラックさんの言葉に反応したのかマンティコアが目線がそっちを向いた。
その隙を見逃さないように今度は無詠唱で
瞬時に風を纏い一気に距離を詰めて目玉を斬り裂く。
視界を奪うことで動揺を誘い、足を止めた瞬間に脳天に向かってナイフと突き刺した。
このまま一気に、と言ったところでナイフが電気を帯び始めていることに気がつく。
「そのまま固定してて! からの
バチバチッ! と青白い火花がナイフから放たれてマンティコアの脳天に電撃を喰らわせた。
致死量の電撃を浴びたマンティコアは頭部が黒焦げになり糸が切れたようにその場に倒れる。
「討伐完了、ヨシ!」
「何がヨシですか……! 危ないでしょう……!」
ボクもちょっとその電撃で痺れてしまっていた、元々ボサボサの髪の毛がもっとボサボサになってしまう。
「あ、やっぱビリビリしちゃった?」
「しました……! 雷魔法は周囲に影響及ぼすので扱いには十分気をつけてって知らないんですか……!?」
「ごめ〜ん、おじさん奴隷だからこの世界の義務教育受けてないんだよね……」
「…………〜〜〜〜!」
そんなこと言われたら何も言い返せない、ずるい。
「さてそんなことは置いといて、周囲に他のがいないか確認しよっか」
「……はい」
個人的に気まずい空気を感じながらも周りを確認するが、見たところ怪しい影のようなものは見えない。
おそらくさっきのが最後のだったのだろう、ひとまず安心する。
「こちらは問題なさそうです……ライラックさんの方は……」
「問題はなさそう〜……なんだけど〜……」
彼のバツの悪そうな声に首をかけつつ再度声をかけようとした時、視線の先に馬に乗った騎士が数人こちらに向かって近づいて来ていた。
王都の旗を掲げてるあたり応援がきたのだろうか、よかったと胸を撫で下ろす。
「……余計なことするんじゃなかった……さっさと見捨てて逃げりゃよかったわ……」
恨めしそうに呟くライラックさんを脇腹を軽く小突く、そんな痛くしたつもりはないのだけど睨まれてしまった。
そうこうしているうちに騎士の1人がボク達の目の前で馬を止める。
大柄な体格に重厚感溢れる鉄製の鎧を全身に纏い、背中には赤黒いグレートソードを背負っていた。
胸に携えられた銀色の勲章を見るにかなりえらい立ち位置の人なのだろう。
……それにしてもちょっと匂いが気になる。
なんというか、多忙なのかな。
「ふむ、魔物の襲撃を受けたと聞いたがその姿が見えないあたり貴様らが撃退したのか?」
「あ……えっと……」
「そうですそうです〜! いやあ大変でしたよ〜!」
人が変わったようにライラックさんは猫撫で声でその人に話しかけ始めた。
この人の豹変ぶりには毎回驚かされてばっかりだなぁ。
「そうか、一応は礼を言っておこう」
「いやあこれくらいお手のものですよ〜! そういうことでちょっと刑罰軽くなりません?」
「ならん」
「…………チッ、クソがよ」
そういうとこですよ、とは流石に言えなかった。
でもこの人なら話が通じそう、事情を話せば誤解が解けるかも。
「それにどれほどを善行を積もうが過去の罪が消えることはない、そのことを肝に銘じておけ」
……そう思っていたけどこっちは言動が優しそうなだけでこっちの言い分は聞いてくれなさそうだ、諦めて別の方法で無実を証明するしかないか。
「さあ早く馬車に戻れ、貴様には新たな手錠をつけさせてもらうからな」
「ゲッ、バレてーら」
ライラックさんはようやく観念した様子で別の騎士に手錠をつけられていた。
「……逃げないんですね……」
「誰かさんのせいでね」
嫌味ったらしい会話をしてそのまま馬車へと2人仲良く連行されていく。
……そういえばトウコさんは大丈夫だろうか。
きっとボロボロなんだろうな、早く合流して手当てとかしないと、あの人自分が傷つくことに関しては無頓着だから。
「…………あぁ、この死体は全て研究室に送る、彼女に任せれば全てがわかるだろうさ」
馬車に近づくと例の王女様の声が聞こえてくる。
研究室、と言う単語に興味を惹かれてそちらの方を見た、だから目に入ってしまった。
並べられた死体の中に見覚えのある姿があった、それを見た瞬間居ても立っても居られなくなって走り出す。
止まれという言葉を振り切ってその死体の元へと駆け寄る。
走ったせいか鼓動が異様に早い。
戦闘後なのか変な汗が止まらない。
最悪の結末が、脳裏を横切る。
そんなことはない、大丈夫だと言い聞かせるようにその死体の顔を覗いた。
「──────」
言葉が見つからない、頭が真っ白になっていく、時間が止まったように音が聞こえなくなる。
「その愚か者は、マンティコアの毒で死んだぞ」
無音だった世界が一瞬で現実に戻った。
「全く、己の力量がわからないくせに上位の魔物に手を出すなんて無謀にも程がある。身の程をわきまえなかった罰だな」
嘲笑う彼女の声はどこか震えていた。
「罪人には相応しい末路だ、無様に死に顔を晒して清々する」
いつの間にか、拳を握っていた。
このままだと感情的に手が出てしまう。
「本当に、愚かだ」
言い終わったタイミングと同時に彼女のことを平手打ちするとボク自身がそう思っていた。
でもやらなかった、というかする必要がなかった。
だって。
「……」
「……」
『……へへっ』
トウコさんは
アヴェルアさんに至ってはなぜか笑っていた。
「…………うええええええ!?!?!?」
「うわぁあなんだ!?」
その驚きで思わず大きな声を出してしまう、ついでに王女様もボクの声にびっくりした様子で振り返ってきた。
「き、急に大きい声を出すな! びっくりするだろう!」
「す……すみません……! その……友人の死に気が動転してつい叫んでしまいまして……」
「…………そ、そうか、そうだな、その、すまない」
実際気が動転しているのは間違っていないけどまさかこの人が謝罪してくるなんて思ってもいなかったので余計に困惑した。
「と、とにかく、その、あれだ、色々と調べなければならないから、死体は回収することになっている、そこは大丈夫か?」
「は……はい……そういうことなら……」
「う、うむ」
妙な空気に包まれたまま無言の時間が続いていた、それを最初に破ったのは王女様と話していた騎士の人だった。
「イザベラ様、そろそろ出発なされては」
「そ、そうだな……はっ!? 貴様はいつまでここにいる! 馬車に戻れ!」
返事をする間もなく連れていかれ馬車の中へと放り込まれてしまう。
相変わらず甘い匂いが鼻につく。
ライラックさんはというとさっきの戦闘で疲れたのかいつのま眠っている。
呑気というか、すごいなと感心して、混乱する頭を一回整理しようと隅っこに座った。
『いや〜わりかし早く復活して私もびっくりです』
「ほにゃああああああ……っ!?」
虚空からアヴェルアさんが飛び出したことで再び大きな声を出してしまいすぐさま手で抑える。
ライラックさんの方を見ると起きていない、よかった。
『あっすみません いつもこんな感じなので慣れてください』
「そんな無茶な……」
『慣れれば楽なんで まあそんなことより街中で集めた情報とさっき王女様が話していたことをまとめたやつを見せるので一通り目を通してください』
「いつの間にそんなものを……」
『
そう言って水色の半透明の硝子のような物が現れて、そこにアヴェルアさんが集めたであろう情報が箇条書きで記されていた。
「……これって……」
『以上のことからこの国 かなりやばいです もう真っ黒です もうまっくろくろすけですよ』
最後のはよくわからないけど、ともかくこれが本当ならあの王女様は……。
『そういうことなので一旦トウコのところに戻ります この情報は一応置いていきますね』
「ありがとうございます……そうだトウコさんに言っといてください……お身体を大事にしてくださいと……」
『100回くらい伝えときます』
お願いしますと会釈をすると、アヴェルアさんもお辞儀の動作をして虚空へと姿を消した。
静かになった馬車はいつの間にか動き出している。
王都に着くまでまだ時間はあるだろうし、渡された情報にもう一度目を通す。
疲れているのか視界がぼやける、今日はいろんなことが起きすぎたからなぁ。
一度頭の中整理しないとダメかも……。
そんなことを考えながら襲いかかる眠気に勝てず、そのまま眠りに落ちてしまった。