竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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突き詰めれば証明できる

 

 

「────………………寒っ!」

 

あまりの寒さに飛び跳ねるように起きたと同時にバランスを崩してそのまま床に落ちる。

痛みに耐えつつ立ちあがろうとするが足元がふらつく。

 

さっきまで寝ていたところに腰をかけ直して、朧げな頭を再起動しつつもう一度部屋を見渡す。

 

薄暗くカビ臭い部屋、石レンガが積み上がって通気性は最悪。

妙に鼻につく異臭、アタシ以外にも寝ている人間はいるらしく皆静かに寝息も立てずに寝ている。

 

「よくこんなところで寝れるな……」

 

なんてことを呟き隣を見ると布の隙間から目が合った。

 

黒、常闇、大穴のような生気のない目が真っ直ぐとアタシの方を見ている。

 

そこで気がつく、彼らは寝てるんじゃない、()()()()()のだと。

 

途端、込み上げる胃酸が喉まで迫り上がってくるのを感じて口元を抑えるが耐えきれずその場で吐いた。

薄々感じてはいた、だが実際に認識するとやはり恐ろしい。

 

ひとしきり吐き終え、先程の死体に目を向ける。

布が被されて表情はわからない、だけどきっと苦しかったんだろうと勝手に想像して悔しさと自身の無力さに怒りが湧いて拳を握った。

 

──あぁ、もしあの時──

 

『そんなに思い詰めても死人は蘇りませんよ』

 

達観した機械音声が流れ始めた。

 

『もっと早く気づいてあげればとかもう少しまともに立ち回っていればとか思っていそうですが貴方は十分頑張っていました 結果的に騎士1名と王女様を助けられたのでそれで十分です あと数秒遅れていれば2人とも死んでいた可能性がありましたから』

 

でも、と何か言う前に半透明の存在は続けた。

 

『全ての人間を救おうだなんて結局無理な話なんですよ』

 

諦めたような、後悔が詰まった声で続けた。

 

『全部を拾おうとするといつか自分が壊れてしまいます 溢れたものを拾い上げようとして結果全てを失うことになる そうなったら誰が貴方を助けるんです?』

「それは、自分でなんとか……」

()()がいますでしょう? 貴方はもっと他人を信用するべきです トウコはもう1人じゃないんですから』

 

無機質な声で、優しい音で語りかけてくれた。

 

『だから自分を大切にしてください 辛くなったらいつでも私やルシルさんを頼ってくださいね』

 

だけど、と出かかった言葉を飲み込んで大きく深呼吸をした。

 

「わかった、今度からはそうする」

『そういう人ってだいたい言わないこと多いですよね “明日やればいいから今日はいいや”で流しませんかね?』

「うるせえな、ちゃんと言うってつってんだろ」

『信用ないなぁ』

 

などと抜かすアヴェルアを横目に先程目が合った死体に向けて手を合わせる。

正直気休め程度だが、やらないよりマシだろ。

 

『うんうん バイタルも問題なし 仮死状態(スリープモード)に入った時はちょっと冷や汗出ましたけどね』

 

今さらっと恐ろしいこと言ってきたなこいつ。

 

『傷跡は完治 それに毒状態も解除されてますね 普通は体内に残るんですけどなんか綺麗さっぱりなくなってちょっと驚いてます』

「へえ、いいことじゃん」

『普通はありえないんですけど おやこれは……?』

「どうした?」

 

首を傾げているとアヴェルアが目の前にスキル欄を出してきた、よく見ると竜の鱗(ドラゴン・アーマー)の横小さくに“New!”と書かれた文字がありその項目を押してみる。

 

 

スキル:竜の鱗(ドラゴン・アーマー)

 防御力を大幅に上昇 

 常時再生機能が発動 

 毒無効状態を付与 

 薄く鱗を纏い、稀にツノが生えてくる 

 

 

『あ〜毒無効が追加されたんですね 納得です』

「マンティコアの毒を食らいまくった結果、耐性がついたってことか……」

『そういうことになりますね でも懐かしいなぁ 私も最初に覚えたスキル毒無効なんですよね』

「えっお前、最初からついてるわけじゃなかったの?」

『はい まあ私の場合は毒を盛られた料理とか毒系のスキルとか使われて気がついたら耐性がついちゃったので』

「よく死ななかったな」

『無駄に耐久力はあったので』

 

アヴェルアは子供っぽく笑った後に呆れた溜息を吐いた。

まあ防御系のスキルはいくつあってもいいからな、むしろ戦闘力皆無のアタシからしたらありがたいスキルだ。

 

『にしても今回もまたさらっと生き返りましたね? どういう原理です?』

「えっあれアヴェルアのスキルじゃないの?」

『私のはあくまで再生機能だけなんで蘇生機能は搭載してないですね』

「じゃあなんなのこれ」

『んー わかんない』

 

まあ今はさして重要じゃないだろうし置いとくとして。

 

「ルシルさんは?」

『牢獄の方にいます 今の所は大丈夫そうですけど』

「ならよかった、いやよくねえんだけど」

 

無事ならそれでいいかと安堵する、何か忘れているような気がしなくもないが大したことじゃないだろう。

 

『一応例の盗賊モドキさんもいるようですよ?』

「それはどうでもいい」

『さいですか』

 

金盗まれたこと忘れるとこだった、次会ったらシバこ。

 

「ところでここって死体安置所でいいんだよな?」

『そうですけど それがどうかしました?』

「脱走したらまずいか?」

『あー……いいんじゃないですかね? 守衛とかいないですしここ』

「じゃあいいか」

 

そうと決まれば善は急げ、立ち上がって扉の方に振り返る。

同時に、扉が開く音がした。

 

「ええと運ばれてきた人間は全部で37人、うち兵士が……って」

 

入ってきたのは白衣の女性。

 

すらりと引き締まった体型に豊満な胸、薄紫色の髪が蝶のように靡く度にふんわりと甘い匂いが周囲に漂う。

 

ワイシャツにタイトスカート、パンプスに研究員らしい姿をしているのになぜか艶っぽく見えて、思わず生唾を飲み込んだ。

 

極め付けは釘付けになる程の美しい顔立ち、薄暗い部屋の中でも色褪せることのない白い肌、淡黄色の瞳に艶やかな唇。

 

これらをまとめてると、すげー美人と腑抜けた感想しか出ない。

 

「ん〜? おかしいわねぇ、聞いてる限りじゃ生存者は王女様と兵士1名って聞いてるんだけど……」

 

カルテのようなものを睨んで数秒、顔を上げてこちらの表情を睨んだ後に白衣の女は首を傾げた後に呟いた。

 

「…………ゾンビ?」

 

そんな訳ねえだろ、とツッコミを入れようとしたが下手に生き返ったことがバレるのもあれだしここはゾンビのフリしてみるか。

 

「まあ、はい、ゾンビですね」

『いや そんな簡単に騙されるわけ……』

 

アヴェルアを言葉を遮るように白衣の女が嬉しそうに跳ねた。

 

「そうよねそうよね! 絶対そうだと思ったのよ〜!」

『ウッッッソでしょ』

 

どうやらマジでゾンビと間違われてるらしい、嘘だろアタシってそんなに顔色悪い?

 

「私ネリス・セフィルハート! この国で魔導研究をしているの者で専門は死霊魔法なの! 蘇生魔法もなしに生き返ってたから十中八九ゾンビだと思ったのよね〜! 私自然発生するゾンビ初めて見るから嬉しいわぁ〜! これからよろしくね〜!」

 

……なるほど、確かにそう考えればゾンビに間違えられてもおかしくはないけど。

 

それにしたってベラベラ話すし距離感どうなってんだ、一応アタシゾンビなんだよな?

 

「貴方みたいにゾンビなる個体は結構見てきたけど、ここまで高品質かつ上位個体の自然なゾンビ初めてみるの!」

「はぁ、それはよかったな」

「ほんとほんと! よかったこれで新しい研究材料が増えるわぁ〜」

 

研究材料っつったかこの女? まあ研究職だからそうなんだろうけど倫理はどこいった。

 

「そうと決まれば早速研究室へ行くわよ!」

 

有無を言わせずネリスはアタシの手を握って部屋から連れ出した。

 

『案外いけるものですね……正直びっくりですけど……』

「驚くのも無理ねえよ……アタシが一番びっくりしてんだから……」

「ん? 何か言ったかしら?」

「いやなーんも」

 

これ以上めんどくさい状況にはしたくないし、しばらくはゾンビのフリでもするか。

なんて考えながらカビ臭い石レンガの階段を上がっていくと、だだっ広い城の廊下に出た。

 

何十メートルにも続く長い廊下に華やかな赤を基調とした絨毯が敷き詰められており壁にはいくつもの古い絵画や肖像画、キャンドルホルダーなどが掲げられている。

 

そして大きな窓からは差し込む太陽の光が廊下全体を照らして明るい印象を受け、外の方へと視線を向けると幾つもの高い塔が聳え立つ中、街の中心に佇む巨大な塔が目に入った。

 

王都ハールのシンボルなのだろうか、そう考えてると白衣の女が大きな扉の前で止まった。

 

「着いたわ、ここが研究室よ」

 

扉を勢いよく開けて中に入ると、既に先客がいた。

机に置かれた、というより乱雑に乗っけられた書類を読み漁っているようでこちらにはまだ気が付いていない様子。

 

「遅かったな、今こっちは例の麻薬の成分について調べている最中だ」

「何かわかりそうです?」

「ダメだ、連中は薬に溺れているせいでまともに質問に答えん、他の連中に聞いてもやっていないの一点張りで話にならん」

「ふ〜ん……大変そうですね〜」

「そっちは何、か…………」

 

そいつが振り返ってこちらを視認すると、目があった。

持っていた資料が手から滑り落ちて足元に散らばり、まるで幽霊でもみたかのような顔で見つめて数秒。

 

部屋を覆い尽くすような悲鳴が響き渡った。

 

「うわああああああああああああッッッ!?」

 

爆音のような悲鳴が炸裂した後、イザベラは後ろの方へと飛ぶように倒れた、その勢いで机にぶつかり資料をさらに床にぶち撒けた。

こいつは相変わらず王女としての振る舞いがないな、耳がいてぇ。

 

「ななな、なんでき、貴様がいぃい生きているんだ!?」

「あ〜……ゾンビになって復活した」

「ヒィアッ……」

 

そんなに怖がらなくてもいいだろ、その目やめろ。

 

「まあまあ、こちらを襲う気がないので問題はないと思いますよ?」

「そういう問題じゃない! この者は一応罪人だぞ! 麻薬を所持していたんだぞ!」

「確かにそうですけどぉ、話が通じるなら麻薬をどこから密輸入しているのかわかるかもしれないじゃないですか?」

「……ハッ!」

 

コホンッ、と咳払いをして立ち上がりさっきの間抜けな顔とは打って変わって王女らしい真剣な表情になり白衣の女の方を向いた。

 

「なるほど、それなら解決の糸口も掴めそうだ」

「そうでしょ〜? 全く王女様ったら頭がお堅いんですからぁ〜」

 

お堅いというより単純に馬鹿だろこの王女。

 

「じゃあ早速その場所を教えてもらおうじゃないか」

「いや知らねえよ」

「……ほう? やはりシラを切るつもりか」

 

イザベラは大きな溜息を吐いた後、腰に携えていた剣を抜きこちらに向けてきた。

 

「もう一度言うぞ、場所を、教えろ、出なければここで殺す」

 

威圧的に、人の話を聞こうともしない傲慢なその態度にいい加減、堪忍袋の尾が切れたアタシは。

 

「……チッ、知らねえよ……」

「なるほ────」

「だから知らねえっつってんだろ! 何度もそう言ってんのにそっちが聞く耳持ちやしねぇだろうがいい加減しろこっちはやることがあるんだよ! こんなところでモタモタしてる暇はねえんだテメェの国のことくらいテメェでなんとかしろやボケカス脳みそ引き摺り出して大好きなお国の地面に叩きつけんぞア゛ァ゛!!?」

 

流石にキレた、アヴェルアが“(・・;)(言い過ぎでは?)”という顔をしているので少し落ち着かせて口を開く。

 

「大ッ体あの店の人間が握らせてきたんだからまずはそっから調べろ、国民を大事にするのはいいけど少しは疑え、全員が善人な訳じゃねえんだぞ、テメェの頭の中は花畑で形成されてんのかァア?」

 

溜まっていた鬱憤を吐き出すように言葉が出てくる、ちょっと言いすぎたかもしれない、すっきりしたけど。

 

「んで? ここまで言ったけどなんか反論ある?」

「……えっ、あっ」

「あるかって聞いてンだよ! その舌引っこ抜くぞ!」

 

睨みつけてに吠えるように言うと、イザベラは肩を震わせて俯き出した。

しばらくの沈黙の後、何も言い出さないイザベラに腹が立ち顔を覗き込んで見ると。

 

「うぅう……ヒック……」

 

なぜか、子供のように大粒の涙を流して泣いていた。

 

「えっちょちょちょちょちょ、なんで泣くの!? アタシ何かした!?」

『あーあーあー トウコが泣かせたー いけないんだー』

「流石に言い過ぎだと思う」

「えっこれアタシが悪い!? なんで!? アタシ悪くなくない!?」

「怒鳴り声にびっくりしちゃったんじゃないかしらね」

「ガキかよ! いい歳した王女がこんなことで泣くな!」

 

泣き崩れるイザベラを慰める気持ちが沸くはずもなくどうしたもんかと頭を抱えた。

 

「なら協力すると言ってみたらどうだ」

 

ふと聞こえた方へと振り向くが、いやそれは後。

提案するだけならタダだとイザベラに向かって話を切り出す。

 

「おい泣き虫王女」

「…………なんだ」

「麻薬の密輸入については何も知らねえが、それを探すことくらいはできる」

「……? つ、つまり罪を認めるのか……?」

「何をどうしたらそう解釈するんだよ……要は手伝うってわけ、人が多い方がその分探しやすいだろうしアタシはそういうの得意分野だからな」

 

これだけ言っても首を傾げるイザベラを殴りたい気持ちを抑えて、同じ視線までしゃがみ子供に言い聞かせるように語りかける。

 

「だから、無実を証明するためにアンタにこき使われてやるってわけ、これでどうよ?」

「……なる、ほど」

 

ようやく言葉を理解したのか、少し考え込んだ後イザベラは立ち上がり涙を拭いた。

 

「しかし貴様が裏切る保証がない」

「いやここまで言ってもダメなのかよ」

「無論、罪人に手を貸すほど私は……」

「え〜? 私はいいと思いますよ? 一刻も早く麻薬の密輸入は止めたいですし? 先の戦闘で兵士が何人か死んじゃいましたし?」

「そ、れはそうだが、だが……」

「第一、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……は?」「……えっ?」

 

ネリスは誇らしげに胸を張りイザベラに向かって話し出した。

 

「安置所で見かけた時点で鑑定は済ませましたよ、確かに死因は毒物による死亡ですが麻薬の成分とは全くの別の毒で死んでいるので彼女は無実でーす」

「そうだったのか……なら話は早い」

「うわ一瞬で信じやがった」

「当たり前だ、ネリスは最も信頼における研究者で貴様なんぞと比べてもらっては困る」

 

ガキみたいに怒鳴られて泣いてた奴がよく言うぜ、とはいえこの流れでルシルさんの無実も証明したいんだが、どうすっかな……。

 

「そういえば貴様、もう1人連れがいたな?」

「あぁ、いるけど」

「そいつの鞄からからできた麻薬についてはどう説明する?」

 

やっぱそこに触れてくるか、正直お前んとこの騎士が入れたんだろ言いたいんだけど逆上してきそうだから言えないんだよなぁ……。

 

「なら、今その鞄はどこにあるんだ?」

「? それなら、確か保管庫に置いてあるぞ」

「なんなら持ってきましょうか?」

「あぁ頼んだ」

「……ん? あぁお願い」

 

なんかこっちが作戦考えてるうちに話が進んでいた、せめて一声かけろよと心の中でツッコミを入れる。

 

ネリスが部屋を出て行って、気まずい空気が流れていた。

まあ一応アタシからみたら殺してきた犯人なんだけど、本人は自覚ないだろうし追求しても意味ないだろうから言わないけど。

 

「……あのさぁ」

「……なんだ?」

「書類見てもいい? 熱心に読んでたし」

「別に構わんが、貴様なんか読めるのか?」

「読むくらいなら誰だってできるだろ、いちいち人を煽るな」

『知力5のレスバ雑魚なんか言ってますね』

 

パァンッ! とアヴェルアをはたき落として散らかっている書類を読み始める。

 

 

 【名前:デモニクスウィスプ】 

 7年前に王都を中心に急激的に広まり出した。

 何かの植物の葉っぱらしいが、生息地は不明。

 使用者は永続的に魔力が増幅する代わりにその代償で寿命・精神・生命力が大幅に削られてしまう。

 強い中毒性に加えて重度の催眠状態に陥る、精神魔法などの干渉を一切受けなくなる。

 現在中毒者のそのほとんどが死亡。

 年齢は老若男女問わず、幼い子供までもが中毒に陥っているのを確認。

 使用者の死亡後、半日もしないうち腐敗し始めるため早急に回収が必要。

 

 

その他にもどこで、誰が、どれくらいの量を使ったのかを正確に事細かく書き留めた書類に目を通す。

 

「…………読みやすいな」

「へっ!? な、当たり前だろう! 私だけじゃなくて他の者も読むように書いているんだからな」

「えっ!? お前が書いてるの!?」

「そうだが? なんだ、その言いたげな目は!」

「いや、意外だなって」

「何がだ」

「ガキみたいに泣く癖に人の話は聞かないのに、こういう書類系統は重要な部分を簡潔まとめれるんだって」

「キッ……サマ……」

 

額に青筋を浮かべているのを気にせず書類をまとめてイザベラに返した。

 

「助かる、どういう効果かわかれば探しやすいからな」

「……貴様、鑑定スキルを持っているのか」

「え? 持ってるけど」

「……ふん、いいご身分だな」

 

急に不機嫌になるなよ、鑑定スキルくらい誰でも使えそうな気がするのに。

 

『鑑定スキルは実は上級スキルで誰でも使えるわけじゃないんですよ 他人のステータスを覗けるなんてチートにも程がありません?』

「あぁ、なるほど、確かにそう考えればチートだな」

「……? 誰と話しているんだ?」

「あ、あぁ、ゾンビの幻聴」

「……気持ち悪いな」

 

しばくぞ小娘、いやそう言いたい気持ちはわかるが。

言わないことも優しさなんだぞと目で訴えるが、どうせわかんねえだろうし。

 

と、他の書類も覗こうとしたところでネリスが戻ってきた。

 

「ただいま戻りました、これが例の鞄ですねぇ」

 

かなり重たい鞄なんだけど、ネリスは軽々と持ち上げていた。

あのルシルさんでも結構きつそうにしてたんだけど、人は見かけによらんなぁ。

 

「中身を全部出せ、おそらく袋か何かが入っているだろう」

「わかりました、いいですよね?」

「うん、大丈夫だけど、つーか入ってねえと思うぞ」

「そんなわけない、あの時もしっかりと鞄がから出てくるのを私はこの目で見た、きっとどこかに麻薬の袋が入ってるはず、だっ!」

 

勢いよく鞄の中身をぶちまけるも出てくるのは工具箱やお香や料理器具や寝巻きくらいで怪しいものは一つも出て来ない。

 

外ポケットの中身は小瓶や調味料などの小物がぎゅうぎゅうに詰められており、あの葉っぱ一枚が入りそうな隙間なんてどこにもない。

 

アヴェルアに目配せをして鞄全体を鑑定してみるもそれらしいものは()()()()()()

なんか葉っぱだから匂いとかそういうのはついてるかと思ったんだがそういったものは一切なかった。

 

「……ないじゃん」

「……ない、な」

「ない!? 嘘そんなはずは……!」

 

声を荒げるネリスの方を見ると、何度も鞄の中を覗いては外ポケットを中身を出したりを繰り返していた。

 

「嘘、本当にない? ()()()?」

「なんで……って? ないからに決まってんだろ」

「……そっ、か、そうよね〜! 私てっきりあるかと思ったからつい! ごめんなさいね」

 

こいつぶち殺したろうか、ルシルさんのことをなんだと思ってんだ。

怒りに満ちた拳を解いて落ち着かせる、殴って状況悪化は馬鹿がやることだと言い聞かせた。

 

「とりあえずこれでアタシらが無実だってことにならない?」

「そうだな、いいだろう」

 

その言葉を聞いて安堵の溜息を漏らす、とりあえず無実は証明できたからよしとしよう。

 

「ただ、貴様のさっき言った発言は守ってもらうからな」

「あぁ麻薬の密輸入のこと? それくらい全然やるよ」

「……さて無罪の者を牢獄に入れる意味はないので、すぐに解放するように伝えてくる」

 

そのままイザベラは部屋を出て行った、よくわかんねえなあいつ。

 

『意外と早く無実証明できちゃいましたね』

「問題はどうやって密輸入ルートを探るかだけど、そこはルシルさんと合流してかな」

『その方がいいかと でも奇妙ですね あの葉っぱ忽然と消えるなんて ぶっちゃけここのことだから一袋分入っていてもおかしくないと思っていたんですけど』

「それは思った、まあ」

 

そこで口を閉じて、ネリスの方を見る。

何か考え事しているようでぶつぶつと言葉を発していた。

 

その彼女の足元の影がわずかに揺らめく。

 

「運が良かったんだろ」

 

けろっと笑い、今はルシルさんとの合流を待つことにした。

 

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