竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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怪しさ満点

 

イザベラが出ていって数分、いまだに戻って来る気配はなく時計の針の音だけが鳴り響く。

適当に気になった本を読み漁ったり机の上の資料に目を通して時間を潰そうとした時。

 

「と・こ・ろ・で」

 

急にネリスが話しかけてきたので振り返ってそちらを見ると、いつの間にか目の前に立っていた。

 

「……何」

「貴方の名前聞き忘れてたことを思い出してね」

「あぁ、トウコでいいよ、一応元冒険者ってことになるかな」

「冒険者ねえ〜ふ〜ん?」

「んだよ」

「なんか短い人生だったのね、貴方」

 

ふふっ、と彼女が笑う。

淡黄のトパーズのような瞳、だがそこに光はなく見えたのは()()()()()

徐々に体温が上がる感覚、額から一筋の汗が流れていく。

なんだろう、こいつの目を見ているとすごく、すごく変な気持ちになってくる。

 

「可哀想に、だ〜れも貴方のことなんて助けてくれなかったんでしょうね〜」

 

そっと、頬に触れて血管を辿るように撫でてくる。

ぞくりと反射的に身体が反応する度にネリスは嬉しそうに微笑む。

 

避けようと身体を動かすが、不思議と身体は動かなくなっていた。

 

「でも、私だったら貴方のことを助けてあげられたのにね」

 

ゆっくりと、ゆっくりとその手は心臓の方へと行く。

鼓動が早くなると同時に身体が(ほて)る。

 

おかしい、なんだこの感覚は、まるで。

 

「今なら、まだ遅くないわね」

 

ネリスの顔が近付いてくる、キスができてしまうほどの距離だ。

いやまて落ち着け、アタシは何を考えてるんだ? 相手は女だぞ? 冷静になれアタシ!

 

「悪いようにはしないから、さあ肩の力を抜いて」

 

目が逸らせない、硬直が解けない。

何かまずい予感がする、多分ゾンビに効くの魔法とかだこれ、だとしたまずいアタシがゾンビじゃないってバレちまう!

 

「や、め」

「うふふ、最初は誰だって怖いものね、安心して? 何も怖くないから」

 

優しく包むようにネリスの手がアタシの顔を抑えた。

力を入れてないのに、簡単に振り解けそうなのに、動けない。

 

アヴェルアに止めてもらおうにもあいつ他人には見えねえから使えねえしな、とりあえず何事も対話からだ。

 

「まて、やめ、ろ、話せば」

「……うるさいわね、大人しくしろって言ってるのよ」

 

ダメかもしんない、終わりだごめんルシルさん。

 

 

 

────と、心の中で弱音を唱えてた直後、扉が開く音が聞こえた。

 

その瞬間にネリスは手を離してくれた、助かったと思ったのも束の間。

 

長い前髪の隙間から見える赤く煌めく星のような瞳と目が合ったその刹那、()()が砕ける音と同時にアタシの身体はトラックに轢かれたような衝撃が走った。

 

しかし痛みはなくむしろ柔らかい感触に全身を包まれそのまま後ろに倒れ込む。

 

一瞬何が起きたかわからずそのまま数秒の時が過ぎた後、子供のように鼻水を垂らしてしゃくり声をあげながらアタシを優しく抱きしめてくる彼女の言葉が聞こえた。

 

「トウコしゃぁああん……! よがっだ無事でぇ……」

 

抱きしめる力がより一層強くなり、ちょっと今腕から鳴っちゃいけない音が聞こえたんだけど大丈夫かこれ。

 

「ちょ、ルシルさん、人いるから、ちょっと、痛いって」

「ぐしゅ……はっ……! すすすみません……! その……」

 

我に帰ったルシルさんはすみませんと何度も頭を下げては嬉しそうに笑みをこぼしてまた謝るを繰り返していた。

 

そんな異常な光景を真後ろで見ていたイザベラとネリスとは言うと。

 

「……ゾンビに抱きついていたぞ……」

「あらあら〜大胆ねぇ〜」

 

明らかに異常者を見る目でこちらを見ていた。

そうだ、忘れちゃいけないが今のアタシはゾンビだ、いや違うんだけど。

 

「あの……会って早々悪いんですけど今どういう状況なんでしょうか……? それにゾンビって……?」

「えっ、あー、えーと」

『トウコが生き返ったはいいんですけどなんかゾンビに間違われてるんですよね そんでトウコが勝手に話を進めて王女様の麻薬の密輸入を止めることを手伝うことになってるんですよ』

「はぁ……なるほど……じゃあ合わせときます……」

 

流石ルシルさん、理解が早くて助かる。ちょっと肋骨が痛いけど許しちゃお。

 

「では改めまして……」

 

そう言ってルシルさんは2人の方に向き直り礼儀正しく頭を下げたのち、凛とした表情で口を開いた。

 

「ボクはルシル・ヴェルガンド……しがない冒険者です……」

「……一応聞くがそいつがゾンビになっていることに抵抗はないのか?」

「ないわけではないですが……仮に人を噛むようなことがあればボクが止めるので安心してください……!」

「……逆に信用できないな」

「えぇえ……!? なぜです……!?」

「会ってすぐにゾンビに抱きつく人を信用するなんて無理な話じゃない?」

「確かに……」

 

論破されるな、もう少し頑張ろうよルシルさん。

 

「でも万が一ことってのがあるだろうし、そうねぇ」

 

ネリスはふらりと棚の方へ歩き始め、その中から一つ首輪のようなものを取り出した。

紫色の光沢を放つ魔鉄、各四箇所に濁った緑の宝石が埋め込まれており妖しい雰囲気を漂わせている。

 

なんかやばそうなのが出てきちゃったし一応鑑定でもしとくか。

 

 

 【対ゾンビ抑制魔導首輪】 

 装着者がゾンビの場合のみ有効

 対象が暴走した場合、強制的に活動を停止 

 活動停止後は作成者によって操作されるよう設定 

 

 

『はえ〜 要は変な動きしたらこれ起動するぞゴラってことですね』

「物騒」

「あら失礼ね、これでもデザインには自信があるのよ?」

「そうだ、ネリスが作るモノは常に最高傑作なものばかりだからな」

 

偉そうにしやがって、と言いたかったけどアタシもルシルさんの作る物に助けられてるから気持ちはわかるんだよな。

 

「そういうことだから、つけてくれるかしら?」

「……一応聞くんだけど、それつけたら信用してもらえるってことでいいんだよな?」

「もちろんよ、まあこの状況で貴方に否定権なんてないと思うけどねぇ」

 

そう言って有無を言わさずにネリスはアタシの首にその首輪をつける。

ガチャリと重々しい音を立てた後、首輪が緑色に光り出したかと思えばすぐに消えてしまった。

 

「これでよし、ちょっと襲ってみてくれない?」

「えっ、すみません自分そう言うのはちょっと」

「あら貴方そういう趣味があるの?」

「いやないっすけど」

「そう、とりあえず王女様に攻撃でも仕掛けてくれないかしら?」

 

いいのかそれで、仮にもこいつ一国の王女だぞ。

そう思いながらイザベラの方を向くと、なぜか誇らしげに仁王立ちをしていた。

 

「じゃあ行くぞー」

 

軽く息を整えて、イザベラの顔面向けて拳を突き出す。

無論、直前で止める────する暇もなくアタシの首から全身にかけて電撃が走った。

 

「うおっ!?」

 

拳はイザベラの横を通りすぎて、アタシはそのまま勢いに任せて倒れ込んだ。

 

()ぇ……」

「トウコさん……!? 大丈夫ですか……!?」

「平気、ちょっとビリッて来ただけ」

 

なるほど、これが首輪の効果って訳か。

ゾンビが生きてる人間に攻撃を行った場合、この首輪から電流的なものが走る仕組みだろう。

こういうのデスゲームでしか見たことねえぞ。

 

「……ちょっと威力弱すぎたかしら? まあいいわ、後で調整すればいいものね」

 

なんか今怖いこと言ってなかったかこいつ、と出掛かった言葉を飲み込んで立ち上がる。

チラリとイザベラの方を見ると相変わらず仁王立ちしたまま微動だにしない。

 

「ちゃんと動いてるし問題なさそう、苦しくないかしら?」

「大丈夫っぽい」

「そう、よかったですね王女様、これで襲われる心配は……王女様?」

 

声をかけられたイザベラは微動だにせず、ただ茫然と目の前の虚空を見つめているだけ。

 

「お〜い、王女様〜? お〜い?」

「────────ぴ」

 

イザベラがやっと声を出したかと思えばぱたっと尻餅をつき床に座り込んだ、その顔には涙を浮かべている。

 

「し、しぬかとおもった」

「そんなに? まだ本気出してねえけど」

「ほ、本気を出されてもこわ、困るだけだろう馬鹿者!」

「わわわ……すみません……! トウコさん加減とか下手で……!」

「フォローになってないよルシルさん」

 

ちょっと傷ついちゃうって、と言うのはさておき。

もう一度自身の動作を確認して異常がない事を確認する。

 

雷魔法はメデューサ戦の時食べてたから耐性がついたかと思ったんだけどそうでもなさそうだな。

 

『う〜ん これ雷魔法とはちょっと違う仕組みっぽいですよこれ』

「えっじゃあなんなのこれ」

『え〜と? ちょっと解析しないとわからないです』

「お前って痒いところには手が届かない性能(スペック)してんな」

 

(ー"ー)(ムッ)”とした表情を見せるも“まあ事実ですからね”と言って虚空へと姿を消した。

 

「また幻聴か? 気持ちが悪いな」

「……お前、友達とかいなさそうな性格だよな」

「…………貴様ッ!!!」

 

(ドッ)とイザベラの顔が赤くなった、どうやら地雷を踏み抜いたらしい。

 

彼女は感情のまま拳を突き出してアタシの顔面を殴る前に────虚空を切った。

 

そしてそのまま派手に転んだ。

書類を撒き散らして、それはもう派手に無様に転んでしまった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………っふ、ふふ、あははっ」

 

真っ赤になったイザベラの瞳に怒りの文字はなく再び虚空を見つめ出し、ルシルさんはいけないものを見るかのように手で顔を隠して、その場の空気に耐えかねたネリスが笑い出す。

 

アタシはと言うと、倒れ込んだお転婆王女様に手を伸ばした。

 

「何してんのさ、ほら」

「……! うるさいっ!!!」

 

その手が握られることはなくはたき落とされてしまったけど。

 

「あ〜はははっ、たは〜っ、あー失礼、ちょっと流石に今回は、へははっ」

「わ、笑い過ぎだぞネリス」

「ごめんなさいね、なにぶんここ最近は麻薬だのなんだので忙しくって、まともに笑ったのは久々だわぁ」

「……そうか、なら、まあ」

 

ゆるいなぁ、と思ったのも束の間。

やっと真面目な顔になったイザベラが咳き込んでこちらに振り返る。

 

「さて本題に入ろうか」

「よく今の流れで本題に入ろうとしたなお前」

「何か問題でも?」

「いや、続けてくれ」

 

切り替えが早いってレベルじゃねえよって突っ込みたいけど、ルシルさんから我慢してくださいの視線をもらってしまったので黙ることにした。

 

「それじゃあネリス、今回の────」

「あっそうだ、私この後別件があるので後のことよろしくお願いします〜」

 

イザベラの言葉を遮るようにネリスが口を挟み、扉の方へと歩き出した。

 

「じゃあ、あとはよろしくお願いしま〜す」

 

手を振りながら満面の笑みを浮かべて部屋を出ていき残されたイザベラはというと、なぜか無表情で固まっていた。

 

「あれどうしたんだ、こいつ急に動かなかくなったぞ」

「ええと……王女様……? どうかなさいましたか……?」

「────…………あ、だだい、大丈、大丈夫だ、もん、問題はない」

 

額から汗を流して声は裏返り、挙動がおかしくなり目は物凄いスピードで動き回っている。

 

「……あの王女様……怒らないので正直に答えて欲しいんですけど……もしかして全部ネリスさんに任せて自分は後ろで仁王立ちするだけだったつもりじゃありませんよね……?」

「……………………ええと」

「どうなんです……?」

「…………………………そのつもり、だった」

「嘘だろお前……」

 

これにはルシルさんも一際大きな溜息を吐き出した、アタシも呆れを通り越してもはや関心するレベルだ。

 

「し、仕方ないだろう! 売人が情報も吐かないのもそうだが、麻薬関連の情報は全部ネリスに任せてしまって……私自身そんな知らなくて……資料もあとでまとめてみようと自分用にまとめてたものだから……その……

 

膝を抱え込んでしゃくり声を上げ始めた、また子供みたいに泣き出すのかと思うと頭が痛くなってくるんだが。

 

「うぅう……だって王都の防壁結界を貼り直したり魔法塔の改築予算を出したり他国との連絡だったり疲弊した兵士のメンタルケアや治療だったり魔物に襲われた街や村の復興だったり忙しかったんだぞ……」

「えっ!? その仕事量をお前1人でやってんのか!? そういうのって普通管理職とかに任せるもんじゃないのかよ」

「だって、今は私しかできるのがいないんだ……」

「……それってどういうことなんですか……?」

 

その言葉を聞いた途端、イザベラは涙を拭きながら真っ赤に腫れた目で、恨みを籠った目でルシルさんを睨みつけた。

 

「そうか、そうだろうな。貴様達が知るはずがないだろう」

 

立ち上がって汚れを払った後、見下すように口を開いた。

 

「貴様らが、貴様らの国はネルヴァを裏切ったことを片時も忘れたことはないぞ」

 

憎悪が籠った声色で、心底嫌悪した目線をこちらに向けてきた。

なるほど、やたら国外(そと)からの人間を異常なまでに目の敵にしてるのはそういうわけだったのか。通りで街の人に優しいわけだ。

 

「え……ええと……」

「ふん、別にしらばっくれても構わんさ、だがこの憎しみは消えることはないからな」

「ごめんなさいカッコつけて言われてもその原因がボク達にはわからなくって……」

「…………カッコつけてるわけではなぁあい!」

「あわわすみませんすみません……!」

 

ルシルさん、多分本人も自覚してないけどそこそこ棘のある発言するよな。

おかげで敵意マシマシだったイザベラもいつもの調子に戻ったところで声をかけた。

 

「ところでその、憎しみがどうのこうのって言ってたけど過去に何があったんだよ」

「な、知らないのか!? あの出来事を!?」

「お前が知っててもアタシ達は何にも知らねえんだよ、いちいちお前の主観で物事進めんな」

「それは! いやいい、貴様らのような冒険者風情が知ることもないな……少し考えればわかることだったな……」

 

とことん人を馬鹿にしてんなこいつ、殴りそうになるのをルシルさんが抑えてくれた。

 

「……7年前のことだ、あの日から全てがおかしくなっていった」

 

静かに、淡々と昔話を始めた。

 

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