竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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なぜそうなったのかの仮説、根拠のない考察

 

ネルヴァは長年、増え続ける魔物との戦闘を繰り返していた。

 

状況は劣勢、増え続ける魔物に兵士が何人も何十人も何百人も殺されて食い荒らされていった。

 

しかし他国と共同し戦闘用の魔動器を幾つも開発して対抗、徐々に戦況をひっくり返していき後一歩で勝利を掴む、はずだった。

 

突如として他国が救助要請を中止、加えて開発した魔動器が他国が購入していき戦力が一気に落ち再び劣勢に逆戻り。

 

日に日に人々は奪われる恐怖に染まっていった。

 

そこから()()()()が出回り始める。

人々は薬を求め、使用して、快楽に溺れ、陶酔し、忘却し、やがて朽ちていく。

 

それはゆっくりとネルヴァを蝕んでいき村から町へ、そして王都にも影響を及ぼすことに。

 

若人も老人も、幼い子供までもが手を伸ばし、役人もその誘惑に負け、民が死んでいくのに耐えきれなくなったイザベラは()()()()()

 

なんせ、この事態を起こしてしまったのは次期国王になるはずだった兄・クランベルトだったから。

 

彼がこの戦争を起こしたのは他国と手を組み()()()()()()()()()

廃国になったネルヴァを高値で売りつけ他国の植民地にしようと計画を企てており、自分はその管理者になる予定だった。

 

そんなちっぽけで傲慢で浅はかな計画にイザベラは怒りを抑えきれず、兄を斬り殺したのだ。

 

だがそれは過ちだったと気づく。

兄・クランベルトの行動を他国が許すはずない、頃合いを見て事故と見せかけて殺しどこかのダンジョンに捨てるつもりだと当時着任したばかりのネリスから聞いた。

 

そうして魔物との長きにわたる戦いは終わり、残ったのは深い深い傷が残った枯れた国だ。

 

 

 

「……これが7年前の戦争、悪魔の囁きが起こした悲劇(デモニクス・ウィスプ)だ」

 

震える拳を握り締め、絞り出すように言葉を吐いた。

 

「私の兄、クランベルトが手を引いていたことに気づけなかった、これは私の落ち度でもある」

 

鼻を啜り、顔を上げて憎悪の顔でこちらを睨む。

 

「だが他国が手を出さなければ、この国は、こんなことにはならなかった! 貴様らはネルヴァから何もかも奪っていき荒らして捨てた! 兄をゴミのように切り捨てたんだぞ! それで許せると思うか!?」

 

剣を引き抜き、刃を向けてきた。

手は震えているも、明確な殺意が伝わってくる。

 

「あっそ、で?」

「……は?」

「んなこと知るかっつうの、大体そんなの他国の偉い人らに聞けば済む話だろ」

「なっ……あっ……」

 

何か言おうとして口を開くがそこから言葉が出されることはない。

 

確かにそれだけ聞けば他国を恨む気持ちもわかる、が。

それで他人に罪をなすりつけるような行為を許されることにはならないし、アタシにその殺意を向けられる道理はないのだから。

 

「ったく、国同士のいざこざは偉い人同士でしてくれ、アタシらを巻き込むんじゃねえよ」

「それは、だけどっ」

「……あの……質問よろしいですか……?」

 

隣で静かに聞いていたルシルさん挙手をして話し始めた。

 

「他国に救助要請はしていたんですよね……?」

「あ、あぁもちろん、なんならその時の記録もあるぞ」

 

イザベラは剣を納めて棚の方へと歩いていき、棚からそこそこ厚めの資料を取り出してルシルさんに渡した。

 

渡されるや否や1ページ1ページ丁寧に素早く読み始めていく。

 

「……救助要請は兵士だけですか……?」

「いや、手を貸してくれるなら冒険者にも要請を出していたが」

「ふむ……だとしたら変です……国からの要請ならギルドにも救助要請の張り紙を出してくれるはずです……! でも7年前にそんなものは一度も……」

「そんなはずない! ちゃんと出したんだ! 何度も何度も確認してちゃんと出した! 応対するように連絡を入れたのに貴様らっ……他国(そっち)の使者達はこちらを無視したんだぞ!」

「本当なんですって……! と言っても7年前はボクまだ冒険者じゃなかったんですけど……

「なっ、そうやってまた嘘をついて!」

 

パンッ! と手を叩いた音が響き渡り静寂が部屋を包んだ後、軽く深呼吸して口を開く。

 

「はい、この話はおしまい! 今やるべきことに集中すべ──」

「黙れ! 誰が貴様の話なんか聞くものか! 大体なぁ!」

 

切り裂くように言葉を遮られ、マシンガンのように繰り出される大音量の罵詈雑言の嵐が頭に響く。

 

流石のアタシでも笑顔を保つのもしんどくなってきた、マジで殴って黙らせた方がいいかなこれ。

 

『お気持ちはわかりますけど逆効果な上極刑になりますのでやめた方がいいです』

「じゃあどうすればいいんだよ」

『ん〜 そういえばルシルさんって聖魔法も使えましたよね?』

「はい……それが何か……?」

『状態異常を解除するやつをかけてあげてください トウコは彼女を抑えてくださいね」

「お、おう?」

「……? わかりました……?」

 

疑問に思うがそれは後。

言われた通りに暴れ回るイザベラを抑えたのちルシルさんがサクッと聖魔法をかけると、糸が切れたようにイザベラが気絶した。

 

そのままアタシの身体に寄りかかった途端。

 

「重ッ!?」

 

鉛のような重たいものがのしかかった感覚に襲われた。

彼女の身体は決して大きいわけではない、むしろ小さく細い。

色々と乏しい体格、極め付けは骨のような腕や足、服で見えなかったけど明らかに病的な何かを感じさせる。

だがそれと反して数十倍の重さがあった。

 

「何こいつ見た目に反してクッソ重たいんだが?」

「筋肉質……なわけないですよね……」

『2人とも失礼ですよ あっそのまま動かさないでくださいね〜』

 

舐め回すようにアヴェルアがイザベラの体を見渡してのち、軽く溜息を吐いた。

 

『やっぱりなぁ〜 道理で話が通じなかったわけです』

「なんかわかったのか?」

『言葉で説明するより見せた方が早いですね えいっ』

 

ゆるい掛け声と共に(ヴォンッ)、と見慣れたステータス画面が現れた。

 

 


 

ステータス

 

[イザベラ・ファヴェルト] [職業:王女] [属性:無]

[HP:39/39] [Lv:14] [状態異常:混乱状態

[攻撃力:13] [防御力:11] [幸運:42]

[素早さ:21] [魔力:限界数値を超えています] [知性:105]

 

 

スキル

[剣術]

 


 

 

こいつがアタシよりも知性高いの納得いかねえッッッ!!!

「今はそこじゃないですトウコさん……」

(ギャハハ) 間違えた ここ見てください』

「何が間違えただクソ導き手(サポーター)

 

邪魔なイザベラ()を捨てて拳を放つもスルリと交わされた挙句、“当たんねえぜばーかばーか”と煽ってきやがる。

 

なおその横でしっかりと受け止めたルシルさんは眠ったままの彼女のステータスと睨めっこしたまま考え込んでいた。

 

「そういえば……王女様って確かどこからか大量の魔力を送られてるって言ってましたね……?」

『あれ言ってませんでしたっけ? 報告したはずですけど』

「実は……あの後疲れて寝ちゃいまして……でもちゃんと覚えてますよ……!」

『ふむ でしたら』

「待て待て待て、ステイ」

 

小首を傾げるルシルさんと“(・△・)(なんです)?”という顔で見てくる2人に質問をぶつけた。

 

「なんか重要そうな話してるけど? アタシなんも知らねえんだけど!?」

『その時トウコ死んでましたからね』

「トウコさんその時亡くなられていたので……」

「そうだったわ」

 

死ぬことに慣れてきて忘れてたわ。

 

『でしたら今ままで集めた情報をパパッと開示しますか』

 

“ちょいとお待ちを〜”と言うといくつかの画面を取り出して目の前に並べ始めた。

 

『まずトウコが気になってるであろう王女の魔力の送り先から』

 

(ヴォンッ)とある画面を見せてきた、一見するとどこかの街の地図のようだ。

その街の中心に目印のように赤い点が点滅している。

 

「ここがその送り先っていうのか?」

『はい ちなみにどこだと思います? あっルシルさんは知っているので答えちゃダメです』

「はっ……はい……!」

 

ルシルさんはむぐっと自分の手で口を抑えた。かわいい。

 

「まあ魔力って言ってるしそういう施設みたいなところ?」

『……つまんねー回答ですねぇ』

「ア゛ァ?」

 

一瞬拳を握るも深呼吸、こいつを殴る瞬間はいくらでもある。

もう一度その画面を見て特徴がないか探し出す。

 

と言っても目印以外に気になるのは、4()()()()()くらいだけど。

 

「…………あ? これ王都(ここ)か!」

 

正解(ピンポーン)!”というSEとルシルさんの拍手が後ろで聞こえてくるもそれをかき消すように思考が回る。

 

────そもそもアタシ達の本来の目的は、王都の地下に眠る始竜バベルの身体の破壊。

 

他人に悪用されてる可能性があるという本人の報告。

加えてイザベラのあの膨大な魔力、そして例の麻薬の効果。

 

これらを組み合わせてみれば、自ずと答えは導き出される。

 

「なるほど、つまりこういうことか」

『いえーい! えっ何がです?』

「今回の麻薬事件と始竜の件、この2つ繋がってたんだよ」

 

膨大な魔力が増えるという麻薬、効果は魔力が増えるというもの。

言い方を変えればまさに魔法の薬そのもの、だがそんなものを作ろうにも魔力を増やすなんて普通の薬ではできない。

 

そこで始竜の身体、竜とは言えど神の器。

既に死体と化した魔力の塊、そしてそれがあるのは王都の地下。

 

「つまり例の麻薬は始竜の死体を使って生成された麻薬! そして生成場所は王都の地下ってことだったんだよ!」

 

眼鏡をクイッとあげてキメる、これ以上完璧な考察ないだろ。

 

「フッ、どうよ」

「……」『……』

 

あれ思ってた反応と違うな。

 

『いや……まあ……可能性としてはあり得ますね……』

「嘘、もしかして的外れだった?」

「ええと……結構突拍子というか……色々と証拠などが足りないと思います……」

「ふええ……」

 

掛け直した眼鏡がずり落ちる、結構頑張って考えてたんだけどな……。

 

『私的には例の麻薬は7年前に被人道的な実験によって作られた結果の産物だと思ってますよ』

「根拠は?」

『根拠も何もそう考えるが普通では? ネルヴァって魔導研究が盛んな国な上昔から人体実験やってる国でしたし』

「だってアタシこの世界の常識知らんもん」

『まあ第一 竜の身体が人間なんかに扱えるわけないじゃないですか』

「トドメさしてくんな」

 

下唇を噛み締めて部屋の隅っこで座り込んだ。

 

『ふっ まあまあまあ想像力豊かなのはいいと思いますよぉ?』

「アヴェルアさん……その褒め方は傷口に塩を塗るような言い方です……」

『知ってますよ』

「せ……性格が悪い……」

 

“ギャハハ〜!”と腹立つ笑い声が耳に突き刺す。

その後ろでルシルさんが近づいてきて、優しく肩に手を置いてくれた。

 

「そ……そんなに落ち込むことはないと思いますよ……! とりあえず麻薬の出処さえ掴めばなんとかなりますし……!」

「そうかな……そうかも……」

「あ〜……あっ! トウコさんのその鑑定スキルで場所まで割り当てることってできないんでしょうか……!?」

『いや流石それは今のトウコじゃ無理……』

できるが?! その気になればできるが!?

 

沈んだ気持ちを引き上げるように立ち上がった。

こうなったらもう何がなんでもアタシの仮説が正しいってことを無理矢理にでも証明してやる。

 

『いやそれは無理ですし無茶しないほうがいいですよ』

「できるっつったらできるの!」

『子供……』

「なんか言った?!」

 

一言余計なアヴェルアを睨むと“なんでもないです”と黙り虚空へと消えていった。

 

「よしやる気戻ってきたぜ!」

「さすがトウコさんです……!」

「やる気が戻ってきたところ申し訳ないのだが、その麻薬はどこで手に入れるつもりなんだ?」

「あぁ、それならイザベラに聞けばいいんじゃねえの?」

「えっでも彼女素直に渡してくれますかね……? また屁理屈言って渡してくれないかもしれませんし……」

「じゃあ()()()()()()()()()()()

「流石にそれはまずいんじゃないルシルさん?」

「うぇえ……!? ボクじゃないです……! 窃盗は犯罪ですよトウコさん……!」

 

そこまで言ってお互い「ん?」と声を出した。

 

「窃盗は犯罪、そうか、そう言えばそうだったな」

 

あたかも子供の疑問かのように声の主は呟く。

アタシとルシルさんは、ゆっくりとその方向へと振り向いた。

 

「そう考えると(オレ)達がやっていることは犯罪か、ふむ、それもそうか」

 

アタシの影から声がした、声が反射するたびに蝋燭の火のように揺れ動く。

 

「じゃあ他の方法を考えるのがいいな」

 

影は形を成す、意識的なのか無意識なのかそれは徐々に人の姿を作り上げた。

 

「やっぱりそこに寝てる王女に言うのがいいのだろうか?」

 

そこに現れたのは小首を傾げて聞いてくる上半身だけのロードの姿だった。

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