竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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金貨と価値

 

街に着く頃にはお天道様は少しだけ傾いていた。

 

「…………………………」

『そんなに睨まないでください 一番近い街がここだったんですから』

「…………また魔物が沢山いる場所通っただろ」

『さあ? たまたまです』

 

ただでさえ7キロ歩いて疲れてんのに魔物と連戦して着いたのが昼の14時って、スパルタにも程があんだろ。

 

『そんな顔しないでください それよりみてくださいよこの市場!』

 

それなりに大きな街ということもあって、たくさんの人で溢れかえっていた。

活気溢れる市場を見てアヴェルアは嬉しそうに進んでいく。

 

『トウコ! あの果物美味しそうですよ! あの魚も! 朝から肉もいいですよねトウコ!』

 

子供のようにはしゃぐ、まるで初めて見る景色のように。

 

『みてください野菜ですよ! トウコは石食べてるんですから栄養取らないとダメです! あぁそうだ肉も食べないといけませんね! トウコは細いですからねこれからのことを考えて魚とかも 』

「ところで金はあるの?」

『…………………………あ』

「ないのかよ」

 

 

 


 

金貨と価値

 


 

 

 

はてさて、どうしたものかと悩むアヴェルア。

金がないんじゃ何も始まらない、働くもの食うべからずということで。

 

『ギルドに向かいましょう! 話はそれからです!』

 

と、興奮気味に言い放った。

 

なんでもこの街には冒険者ギルドというもの存在しており、そこで依頼をこなして報酬をもらいお金を稼ぐというのがこの世界の常識らしい。

 

で、その冒険者ギルドにいるのだが。

 

「登録するためにはお金が必要……」

「はい、ギルドカードの手数料として銀貨4枚支払ってもらいます」

「あ〜……なるほど〜……すいませんお金がない場合は一体?」

「その場合は、申し訳ありませんが……」

 

思わずアヴェルアを見る。

“知らなかった”という文字と背景にびっしりと謝罪の言葉を並べていた。

 

「はぁ……すみませんこちらの調べ不足で。なにぶん遠いとこから来たもので、大きな街は初めてなんです」

「……そうでしたか」

 

マジかこいつという目線を受付嬢から向けられる、完全に都会を知らない田舎娘を馬鹿にしてる目だ。

 

「……ところでここって買取とかしてます?」

「買取?」

「ええ、その、鉱石を売りたくて」

「はぁ、どんなものか拝見してもよろしいですか?」

 

ポケットの中を漁り食べかけの魔法銀(ミスリル)を取り出して、カウンターに置く。

 

「これ、なんです、けど」

 

明らかに受付嬢の表情が変わった、というかギルド全体の空気が一変した。

和気藹々とした雰囲気だったのが張り詰めた空気に変わり、受付嬢はパクパクと口を動かしながら固まっていた。

 

「あの……?」

「へっ!? いえ、少々お待ちを!」

 

慌てた様子で受付嬢は奥へ引っ込んでしまった。

あれ、なんかアタシやったか?

 

「おいあれって」「間違いねえ魔法銀(ミスリル)だ」「あれだけの魔法銀(ミスリル)持ってよく歩き回れるな」「盗賊とかに襲われたらどうすんだ」

 

襲われたら……? えっこの石もしかしてめちゃくちゃ価値あるの?

 

『そりゃあ魔力がこもった石ですからね 高値で取引されてるほど貴重なんです』

「ちなみにおいくらで?」

『今持ち合わせてる5キログラムで金貨500枚ほど』

「オウ…………」

 

この世界の単位がどれくらいなのかはわからないが少なくともめちゃくちゃ高いのはわかる。

そんな高額なものをアタシは食っていたのか。そりゃ美味いわな。

 

「お待たせしました、どうぞこちらへ」

 

受付嬢が出てきて、そのままギルドの奥の部屋に案内された。

 

 

 


 

 

 

談話室のような部屋に案内されてはや10分。

お茶が空っぽになってきて、淹れてもらおうか考えたがやめといた。

 

「………………」

 

ギルドマスターらしき人がじっくりと魔法銀(ミスリル)を興奮気味に鑑定しているのを邪魔したくなかったからだ。

なんだか楽しそうで、見てるこっちも嬉しくなってきた。

 

「……驚いた、これほどまでに高純度な魔法銀(ミスリル)は見たことがありません!」

「そうなんですか」

「はい! これほどまでの高純度な魔法銀(ミスリル)、一体どこで!?」

「あー、えーと、旅先で運良く魔物が持っていたので……」

 

そう聞くとギルドマスターはガタッ、と肩を落としため息をついた。

 

「そうでしたか、いやこれは失礼しました。近年魔物の増殖で鉱山に住み着き採掘が難しくなってしまいまして困っていたところなんです、武器に扱う鉄も取りづらくてどうしたものかと思っていたところでして……」

「……東の森の洞窟とかは?」

「あそこは禁域の森でして、魔物も凶暴で迂闊に近づける場所じゃありませんよ」

「ソウデスヨネ、スミマセンオカシナコトヲキイテ」

 

まさかの目覚めた場所が入ってはいけない森だったとは。

 

「まあ、ですが」

「ん? どうかしましたか?」

「この魔法銀(ミスリル)、少々妙な傷がありまして相場より低くなってしまいますね」

「あー……でしたら別のを持ってきます」

「……べ、別の?」

「はい、一応大きいのは別にありまして」

「ど、ど、どど、どれくらいほどですか!?」

 

机を乗り越えて肩をがっちり掴まれ、揺らされた。

 

「大体、ご、いえ2キロくらいでしたら」

 

その瞬間ギルドマスターが泡を吹いて倒れた。

 

「ギルドマスター!? お気を確かに! うわ意識がねえ……」

 

何事かと駆けつけた受付嬢が悲鳴をあげて説明やら意識が戻るまで色々あって、小1時間ほど。

 

「大丈夫ですか……?」

「すみません、あまりの多さに意識が飛んでしまって……」

 

深呼吸をするギルドマスター、嬉しさと驚きと興奮の感情で心臓発作起きないか心配になってきた。

 

「それで、その、魔法銀(ミスリル)はどこに? 見たところ鞄も持っていないようですが」

「え? あぁ、ちょっとお待ちを」

 

と言って、アヴェルアに目配せをした。

 

 

 『スキル:収納箱(アイテムボックス)』 

 

 

空間が歪む、その中心に手を突っ込み2キロの魔法銀(ミスリル)を取り出す。

 

「よいしょっ、と。こちらが買い取っていただく品物です」

「お、驚きました……空間魔法も扱えるんですね、しかも高レベルの」

「え? あ、まあ、旅先で色々と」

「そうでしたか、なんとも貴方様は恵まれていますね」

「……ははっそうでもないかなと」

 

首を傾げるギルドマスターになんでもないですと呟き、鑑定をしてもらった。

大体15分ほど、さっきよりは落ち着いた様子で口を開く。

 

「鑑定が終わりました、金貨340枚の値段になります」

「フブゥー!!!」

 

口に含んだお茶を盛大に吹き、むせ返る。

 

「さ、ささ、さんびゃくよんじゅう!? えっ金貨340枚!? 銅貨340枚の間違いではなく!?」

「間違いありません、金貨340枚です」

 

金貨500枚でも手に余る量だから半分にしたのになんか普通に高いのだが?

 

「あ、あの、お言葉ですが、本当に、ほーんとうに金貨340枚ですか? びっくりして計算ミスしてるとか」

「いえこれほどまでの高純度で高品質、そしてこの量の魔法銀(ミスリル)、低く見積もっても金貨340枚の価値があります」

「オワー」

 

あまりの高額価格に頭を抱えた。

 

「そ、その、低かったでしょうか?」

「いえ! いえいえいえ! むしろありがたい限りでしたので! ちょっと動揺しまして!」

 

思いも知らないところでの臨時収入だったので気が動転してしまったが、なんとか宿代と食事代は確保できそうで助かった。

 

「それと今晩、泊まる宿がないならぜひここをお使いください、空いてる部屋がいくつかありますし食事も用意します」

「え、いやでも、申し訳ないと言いますか」

「これは私からのお礼でもあります、これほどの価値あるものを買い取らせていただいたせめてものお礼です」

「こんなに金貨もらったのになんかすみません」

「いえいえ」

 

そう言いながらギルドマスターは淡く紫色に輝く魔法銀(ミスリル)を撫でては嬉しそうに微笑んだ。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

とにかく、宿確保できてよかったとアヴェルアの方を見る。

 

『トウコ 何か忘れてません?』

「え?」

『登録』

「あっ」

 

一番大事なこと忘れてた。

 

「あの、ついでになんですけどギルドカードの登録もいいですか」

「もちろんですとも! ではこちらの書類にサインをお願いします」

 

その後は手続きと少しだけ談話した後、一旦ギルドを後にした。

 

『まさか一番重要なことを忘れるなんてびっくりです』

「いやだってあんな大金もらうと思わなかったんだもん」

 

5キロとかだったらもっと値段は上がってたんだよな、そう考えただけで背筋がゾッとする。

 

『金貨はいくらあっても問題ないかと思いますが』

「大金持ってたら狙われるだろ、めんどくさいことにはしたくなかったんだよ」

 

とりあえず、金貨は収納箱(アイテムボックス)に入れるとして。

 

「まだ日も明るいし今のうちに必要なもの揃えちゃお」

『そうですね 服も変えないとですし』

「あー……」

 

一応コートで隠してるけどインナー破けてるんだったな。結構お気に入りだったのに。

 

「まずは服屋、それから雑貨とか買おうかな、念のために武器とかその他諸々」

『武器は必要ないと思いますが』

「念には念をだよ、ついでに図書館とかも行きたいかな」

 

“ふーん”と呟き、そのまま続けた。

 

『ところで後ろについてきてる人達についてはお気づきですか?』

「うん、足音がうるせえなって」

 

コツコツと一定の間隔でついてくる足音、おそらく3人ほど。

どこからか漏れたのか欠陥構造だったのか知らないが、アタシが大金を持っていることが既に知られているようだ。

 

「この街であんま長居はしない方がいいな」

『その方が身のためかと そこの路地丁度人がいないようですし逃げるにはもってこいですよ』

「オーケー」

 

言われるがまま、曲がった瞬間地面を強く蹴り上げて屋根に飛び乗る。

当然アタシを追いかけていた追跡者3人はアタシの姿が見えずに慌てふためいて、明後日の方向に走っていった。

 

「そっちにアタシはいないってのにな」

 

屋根から飛び降りて辺りに人がいないことを確認。

 

「やれやれ、さっさと用事済ませてギルドに戻ろ」

 

静かな路地を進んでいき、丁度良さそうな店を見つけた。

 

中に入るとカランコロンとドアベルが鳴り響く。

人がいないのかはたまた休憩中なのか誰かが来る様子はない。

 

「……いなさそうだな」

『おかしいですね 営業中の看板はあるんですけど』

 

そこまで広い店じゃないので、軽く見てから出ることにした。

服に靴、鞄や武器まで様々なものがそれっている店だ。

 

「ん?」

 

不意にあるものが目に止まった。

 

黒いフレームの丸眼鏡、ただ透明なレンズではなく若干黒みかかったレンズをつけている。

 

こっちにきてから眼鏡は燃やしてしまったので、丁度替えが欲しかった。

 

『あらかわいいデザイン』

「なかなかオシャレじゃん」

「ですよねぇ……」

「ミギャアーッ!?」

 

横から突然話しかけれて、つい驚いてしまった。

さっきまで人の気配なんてなかったのに。

 

「すみません……奥で片付けをしてました……」

「いえこちらこそ、勝手に入ってしまって……」

「いいんですよぉ……お客さんが来るの久々でしたので……」

 

ボサボサッとした藍色の長髪、前髪で両目を隠しにこやかな口だけが見える。どことは言わないがデカい。

ぴっちりとした紺色のワンピースを身に纏い、こちらにお辞儀をしてきた。

 

「初めまして……店長のルシルと申します……」

「どうも、ご丁寧に」

「えへへ……ところでそちらの商品……」

「え? あっもしかして触ったらまずいものでしたか?」

「いえそちら当店自慢の眼鏡でして……魔力を込めた特別なレンズを使っており視力はもちろん近視乱視老眼色盲さらには眼精疲労防止効果を付与してましてこのフレームも老若男女問わずに使っていただきますようシンプルで使いやすい形にしてまして特に若者のトレンドなどに忠実に────」

「つ、つまりおすすめってことですよね?」

「……はぁい」

 

途中から早口だったな、というか異世界の眼鏡すごすぎ。

 

「丹精込めて作ったものですので……つい語りすぎてしまいましたね……」

「自作で!?」

「はい……昔から物作りは得意ですので……」

「じゃあ、ここにあるも全部、ルシルさんが手作りしたんですか?」

「…………えへへへへ…………」

 

顔を伏せ恥ずかしそうに体をくねらせた。

 

「すごい、こんなにたくさん」

「その……まああんまり売れてないですが……」

「えぇ勿体無い、こんなに品質がいいのに」

「お褒めいただき光栄です……でもいいんですよ……こんなとこに店を構えてしまったので……」

 

確かに、静かな場所であまり人が近寄らない路地にあっても客足は届かない。

 

「あの、もっと広いところにお店は構えないんですか?」

「いやぁ……そう考えて移動しようとしたんですが……ボクのような暗い人間が大通りに店を構えたら街のイメージダウンになると言われて仕方なく……」

「うわ民度最低じゃないですか」

「えへへ……でもいいんですよ……お店持つことが夢だったので……」

 

少し寂しそうに呟きその手は強く握りしめていたが、彼女は笑顔を見せる。

後悔はあるが、それでも夢は叶えられて満足、そんな表情だ。

 

「もうすぐお店を畳まないといけないですからね……」

「でしたら、ここでいくつか買い物しても?」

「! もちろんです……!」

 

嬉しそうに笑った。自分のものを評価されるのは誰だって嬉しいからな。

 

「ちなみにこの眼鏡っておいくらですか?」

「金貨15枚です……」

「たっか!?」『たっか!?』

 

あまりの値段の高さにアヴェルアもツッコミを入れた。

 

「え、えっ、何使ってるんですこの眼鏡???」

「何って……フレームの耐久性を上げるため特殊な魔鉄合金に耐久魔法……レンズは高い耐久性と耐熱性に優れており……さらに治癒魔法と魔眼防止の聖魔法をかけて……軽く感じるように風魔法を付与してます……」

「それで売れてねえんじゃねえかな……」

「これでも安くしたつもりですので……」

 

にへらと、口を緩めた。笑ってる場合か。

 

『ですがこれすごいですよ 本当に言ったまんまの効果が付与されてます』

「マジ?」

『マジのマジです スキル:竜の瞳(ドラゴン・アイ)で鑑定してみてください』

 

そう言われてこの眼鏡を鑑定してみると。

 

 

 【ルシルの手作り眼鏡】 

 眼精疲労などの防止効果が付与

 回復効果付与 風魔法の効果上昇 

 非常に硬く熱に強い

 下位程度の魔眼なら防げる 

 

 

「なんかとんでもないくらい強い眼鏡なんだが?」

「んふふふ……それほどでも……」

「でもこの効果、なくてもいいんじゃ?」

「うぎゃあ」

 

ルシルさんは口から血を吹き出し、力が抜けるようにその場に倒れた。

 

「ででで……ですよねぇ……薄々わかっていたんですけど……つい癖で……それで費用が大幅に掛かってしまって……このザマです……」

 

とほほ、と嘆きその場で縮こまってしまった。

“正論は時に人を傷つけますよ”とアヴェルアが小言を呟く。

 

「あ、あの、すみま──」

「だから捨てられてしまったんでしょうね……ボクのお節介が強すぎたあまりに……戦場に出てまでして狩り取った素材でなんとか安くしても……ここには魔法使いがいるから無能と言われて投げ出されてしまった……」

 

涙で床を濡らすルシルさん、蹲るように顔を隠した。

 

「それでも……もう誰かがいなくなる嫌だったんです……だからいつもより……うぅ……」

 

苦しそうに、辛そうに、全てを否定されてしまっても、()()()()と諦めきれなかった言葉。

それもこれも、彼女が世のため人のためと考えた作品。

値段は高いがそれは店を経営するにあっての基準で、彼女の思いは変わらず込めれている。

 

────ただ一人のとびっきりの心配性が作る装備品が、脆いはずなんてない。

 

アタシはルシルさんに近づき、彼女を肩を掴んだ。

 

「よかったらこの眼鏡買い取らせてください」

「え……あっでも……」

「ちょっと訳あって眼鏡無くしてしまって、それに金貨15枚でこれだけの効果が手に入るんですから安い物ですよ」

「き……金貨15枚ですよ……? それでも……?」

「はい、アタシはルシルさんのその手作りの熱意に惹かれたんですよ」

 

ぱぁあ、と表情が明るくなりルシルさんはアタシの手を握った。

 

「で……でしたら服とかも……! そのお洋服かなりボロボロですので……!」

「あ、はい、ぜひ」

「ではまずこちらのドレスとか……! こちらの効果はなんと────」

 

 

そうして、この後の予定がファッションショーで全て潰れたのは言うまでもない。

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