竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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ちょっとした雑談

 

「……こいつぁかっこいいね……」

 

鏡に向かってポーズを決める。

 

ルシルさんのお手製の眼鏡に天色(あまいろ)のシャツに黒いベスト、胸にラスピラズリの宝石を埋め込んだのループタイ、脚衣に革製のベルト、靴はくすんだ茶色のショートブーツ。

白を基調としたコート、ゴシック調の厨二感満載お洒落なチョイス。

 

腰まで伸び切っていた髪をルシルさんに梳かしてもらい、ポニーテールにしてもらった。

 

「わああ……とてもお似合いです……!」

『かっこいい〜〜〜です!』

「いいねこれ、特にこのコートがいいわ」

 

えへへ、と照れくさそうに頬を染めルシルさんは口を開く。

 

「そちらのコートはミノタウロスの皮を使用してまして……耐久魔法で防御力を限界まであげているんです……おかげで最上位の魔物の攻撃なんてへっちゃらなんです……」

「ま、魔物の皮も使ってるんですね」

「剥ぎ取りは昔から得意でして……他にもワイシャツとベストにはジャイアントスパイダーの糸を加工して刃などを通らせないように……脚衣の方はコボルトの毛を採用して着心地と機動性を重視……靴とベルトはキマイラの皮を使用しております……」

 

物騒な魔物の名前が出てきたな、しかもこの世界デカい蜘蛛もいるみたいだ。

 

「ってまさか、一人で狩ってるんですか?」

「こんな陰湿そうな人間を誘う冒険者なんでそうそういませんよ……」

 

魔物を狩ってるルシルさんなんて想像つかないですけど、これだけの量の服があるってことは実力があるってことなんだな。尊敬してしまう。

 

『何言ってんですか トウコだって負けずと討伐してるじゃないですか』

「誰かさんのせいでな」

「……?」

「あっ、いえなんでも」

 

忘れがちだけど、アヴェルアはアタシ以外には見えていない。

側から見れば虚空に突然話しかけてる変人だから気をつけないとな……。

 

「ん? あの鎧もルシルさんが?」

「はい……!」

 

ルシルさんは嬉しそうに返事をし、鎧が飾られてる棚に近づき、その一つを手に取った。

 

「こちらの重鎧(ヘビーアーマー)もお勧めです……錬成した魔鉄を使用しており最上位の魔物の攻撃でさえ完全防御……さらには動きやすいように風魔法と自動回復魔法を付与してます……あっでもこちらの軽鎧(ライトアーマー)も素敵ですよ……攻撃力と聖魔法の効果アップ……状態異常無効などの様々な効果がついておりまして……こっちはドレス(アーマー)と言いまして……なんとドレスと(アーマー)を組み合わせた斬新かつ女性向けの防具なんです……しかもこの(アーマー)部分はなんと魔法銀(ミスリル)を使用してましてどんな魔法でも弾き返すことができる耐久性……黒いので夜の活動などにおすすめなんですよぉ……!」

「と、とりあえず一回落ち着こう」

 

ハッとした顔になり、ルシルさんははがっくしと肩を落とした。

 

「すみませぇん……興奮してしまうとつい……」

「いえ、楽しそうに話すルシルさんを見てるとこっちも楽しいですよ、ちょっと圧がすごいけど

「えっへへ……そう言ってくれるの貴方だけですよぉ……」

 

身体をくねらせて全身で喜びを表現する、とはいえ今着ている服は本当に着心地がいいし前の服より動きやすい。

 

「それじゃあ、ついでに武器とか見てもいいですかね」

「勿論です……! 何がいいとかありますか……?」

「うーん、あんま筋力ないしショートソードとかあります? ついでに剥ぎ取りようのナイフとかも」

「それでしたら丁度いいのが……」

 

そう言って棚の下から古びた木箱を取り出して、蓋を開けた。

その瞬間、虹色に輝く光が目に入る。

 

中に入っていたのは、30センチほどの美しく輝く剣、持ち手の部分は銀で装飾されておりシンプルだが見劣りしないデザイン。

その隣には同じような剣を一回り小さくしたようなナイフが仕舞われていた。

 

「当店自慢の……魔法銀(ミスリル)ショートソードとそのナイフです……! ショートソードは魔物の肉だけではなくなんと硬い鱗まで貫く仕様……! その鋭さを利用した特製の剥ぎ取りナイフ……! 鞘も特別固い魔鉄を錬成して作り出したもので────」

「すみませんチェンジで!」

 

そうですか……と落ち込むルシルさん。

すまない、魔法銀(ミスリル)は最悪の場合食べてしまうので却下させてもらいます。

 

「でしたらこちらのショートソードが良いかと……素材は鋼を使用して優れた耐久性を持ち合わせています……ナイフも同じ素材の物を……軽くて切れ味も優秀でいざという時に使える代物です……」

「ならその二つと今着てる服を買わせてください」

 

こくりと頷き、レジの方に進んでいく。

 

「そういえば……先程まで着ていた服はどうなさいますか……?」

「あ、どうしよう、もう着ないしな……」

「その……差し支えなければそちらのコートをいただいてもらっても……?」

「え? いいですけど、ただのコートですよ」

「それがいいんですよ……」

 

よくわからないが、まあ貰ってくれるならいいかな。

 

「それではコート分を差し引いて……金貨125枚になります……」

 

分かってはいたけど高え。

でも素材も全部ルシルさん自身で取ってるし保険に魔法を大量にかけてるからそれくらい掛かってもいても仕方ないけど。

 

アヴェルアに収納箱(アイテムボックス)を発動させてもらって金貨が入った袋をを取り出す。

 

「──────」

「金貨125枚と、ってあれ? ルシルさん?」

「く……くうかんが……ゆがんだ……」

「あれ、空間魔法ってそんなメジャーじゃないんです?」

「当たり前です……! そもそも空間魔法は無属性魔法でもかなり高難易度の魔法で……そう易々とできる物じゃないんですよ……! できても精々歴戦の魔法使いくらいです……!」

「へ、へえそうなんですね」

 

なぜか後ろで自慢げに舞うアヴェルア。お前すごかったんだな。

 

「はっ……! いけない……お会計お会計……」

 

正気に戻ったルシルさんは慌てて会計を始める。

かなりの枚数なので時間がかかるだろうな、と軽く商品を見回る。

と言ってもそれなりに説明は聞いたから、意味はないだろうけど。

 

と、ある絵画が目に入った。

 

白い竜が月に向かって咆哮している姿を人間が崇拝している、その外で無数の竜が人間を捕食してその巨体を血で濡らしていた。

 

どうしてかその絵、いや白い竜に()()()()()()

 

あれは■か、満■の夜■■畑■■■■■─────

 

 

『……トウコ?』

「え? あぁごめん、ぼーっとしてた」

『疲れが溜まっているのかもしれませんね 外も暗くなっていますし早めにギルドに戻った方がいいかと』

 

店の外を見るとアヴェルアが言った通り、すっかり夕暮れ時だ。

そんな長くファッションショーしてたなんて、女の子ってすごいな……。

 

「すみません……お会計終わりました……」

「あはは、お疲れ様です……」

「えへへ……あっ……」

 

ルシルさんは絵画の方を向いて、少しだけ微笑んだ。

 

「素敵な絵でしょう……?」

「えっ、ああ、そうですね」

「ボクの祖母が描いたものなんです……」

「お祖母様が!? すごい神秘的で引き込まれちゃいましたよ」

「ふふっ……昔から祖母の描く絵には魂が宿っていたみたいで……時折絵の中から出てくるんじゃないかって思ってたんです……」

 

子供のようにまた微笑む、よほどこの絵が好きなのだろう。

 

「いつも言っていました……創造竜様は人々のために竜と戦ってしたと……」

「へえ、えっなんて?」

「大昔に存在した最古の竜……多くの竜を葬り去った最強の竜……世界を滅ぼして世界を作り替えた最上位の竜……それが創造竜様です……」

「まってまって、竜ってそんなにすごいの?」

「……? ()()()()なのは常識ですが知らないのですか……?」

「オァアー!?!?」

 

叫びながら思わず後ろに倒れる。

 

「だ……大丈夫です……?」

「だだだ、大丈夫です! あまりの着心地の良さについ跳ねてしまって……」

 

心拍数が一気に上がった気がする、こんな場所で重要そうな情報出さないでよ。

 

「あ、じゃあ、アタシはこれで! 服ありがとうございました! あと剣も!」

「はい……あの……?」

「では! またどこかで!」

 

急足で店を出る、ルシルさんは何か言いかけたようだったが今はそれどころじゃない。

 

日は既に沈み、そこかしこで電灯が灯りをつけ始めていた。

行き交う人の波に逆らいながら、ギルドに足を運ぶ。

 

途中、ガタイのいい男性とぶつかったが持ち前の目付きの悪さでことなきを得た。

 

ギルドに戻るとちょうど夕食時で賑わっている。

受付カウンターの方へ歩くと、ギルドマスターが両手を広げ出迎えてくれた。

 

「おぉ! トウコ様! お待ちしておりましたよ! おやその服」

「へへへ、買い物してたら日が暮れてしまって、あ、お部屋どこです?」

 

こちらです、と案内されてる間、風呂などの簡単な説明を聞かされて奥の部屋に着く。

 

「こちらの鍵をお使いください、それとこちらも」

 

手渡してきたのは鉄製のカードのようなもので何やら魔法陣が刻まれていた。

 

「そちらに血を垂らしてもらうと結界が発動します、垂らした本人しか潜れない物ですので警備の方は申し分ないかと」

「おー……やたらハイテク……」

 

それでは、ゆっくりお休みくださいませ、とギルドマスターはその場を立ち去った。

 

部屋に入り、カードに血を垂らしドアノブの部分に引っ掛けると、魔法陣が淡く光り出す。

 

「これでよし……」

 

部屋の奥に進み、買ったばかりのショートソードとナイフをソファに置いて、ベッドに向かって飛び込む。

 

「はぁ……」

 

深く深呼吸して、起き上がる。

 

どういうことだァ!!!

 

酒場の賑わう音が消し飛ぶくらいに叫んだ。

 

 

 


 

 

 

「どういうことだアヴェルアァ! お前知ってたか!?」

『はい』

「知ってたんかい! だったら言えや!」

『聞かれなかったので』

 

お決まりの言葉を返されて言葉に詰まった。

 

「ちょっと待てアタシ聞いたよな!? どんな世界だって!? 聞いたよな!?」

『聞きましたけどあくまで世界観の話だったので そのままのことを言いました』

「そう……かもしれないが! 竜が神ってなんで言ってくれなかったの!? アタシ属性竜だよ!? やばいんじゃないの!?」

『そう言われても 私にはどうにももうできませんし』

 

がっくしと肩を落としてベッドに座り込む。

 

「ならせめてこの世界について詳しく教えてよ」

 

“かしこまりました“とアヴェルアは説明を始めた。

 

『まずこの世界について この世界は創造竜によって改変されたのは知っていますね?』

「うん、ルシルさんも言ってた」

『創造竜は世界を いえ正確には竜を()()()()()()()()のち()()()()()()()()()()()()()()ということです』

「……暴力で捩じ伏せて、スキルで世界を作り替えた?」

『概ね合っています』

 

……でもなぜ作り変える必要があったのか。

 

「竜がいないんだったら世界を作り変えるなんてことしなくてよかったんじゃない?」

『お忘れですか? まだ一匹、竜がいることを』

「……あ、自分自身」

『はい 自身がいる限り竜が神の座にいることになる ()()()()1()0()0()0()0()()という長い歴史を書き換えるために己の肉体を膨大の魔力に変換して()()で作り替えた それがこの世界です』

 

なるほど、それなら理屈は通る。

 

「だけど、それだとますますルシルさんが()()()と言い出した理由がわからないんだけど」

『確かに世界は作り替えられました 自分含め竜も滅ぼしたはずです たとえ生き残ってもそれは()()()()() ()()()

 

続けるようにアヴェルアは綴る。

 

『創造竜が一瞬で改変した世界を()()2()0()0()0()()()()()()()()()()()()()()() それが──』

 

──混沌竜。魔物の祖にして根源、破壊と呪いの邪竜、災厄の魔王。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『創造竜の力が改変ならば混沌竜は破壊 ()()()()()()()()()()()()()() そこからは以前話した通り魔王が顕現した話につながりますね』

 

つまり、簡潔にまとめると。

 

竜を全滅させた後、己の存在がいる限り竜=神になる。それを無くすために自身のスキルで世界を“竜が神ではない世界“に作り替えた。

 

だが改変を免れた混沌竜が2000年足らずで改変を無かったことにして、“竜が神である世界”に立て直した、ということになる。

 

『どうでしたか?』

「スケールデカくてわかんなかった」

『知性5』

 

アヴェルアに向かってかかと落としをするもあっさりと避けられてしまった。

 

「まあ要は創造竜の努力は無駄だったってことだろ」

『そうですがもう少し言い方があるでしょう』

「事実だろ、それより創造竜ってどんなやつ?」

『どんなのって』

 

少しだけ悩んだ後。

 

『つまらない竜 欲望も夢も友人もなく ただ力に恵まれたなんの取り柄もない竜殺しの竜ですよ』

 

それだけ残しアヴェルアは虚空へと消えた。

 

静かになった部屋の中で、ぽつりと呟く。

 

「……竜殺しの竜、か」

 

何を感じて、創造竜は同族を殺したのだろうか。

何を思って、世界を改変したのだろうか。

 

「……はぁ、人外の心はわからんなぁ」

 

世界の事情を聞いても、気になる程度だけで介入するつもりはない。

覚えといたらいい程度だと、頭の隅っこに置いておく。

 

明日は朝早くから予定がある、そのためには早く寝なければ。

そう考え目を瞑り、意識を闇に落とした。

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