竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。   作:ニャル太郎

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夜は悲観的になりやすい

 

二度目の談話室。

もうここに来ることはないと思っていたけど、人生って何が起きるかわらんなぁ。

時計の針が響く部屋で、ぼーっと窓の外を眺めた。

 

「ええと……トウコさん……でいいんでしょうか?」

「え? あ、うん、呼び捨てでいいよ」

「あ……え……そんな……恐れ多いです……」

 

なんで、何も怖くないけど。

というかギルドマスター遅いな、大丈夫かな。

 

「アタシなんかしたっけなぁ」

「多分アルラウネの件じゃないでしょうか……?」

「やっぱそれかなぁ」

「Eランクで上位のアルラウネをソロ討伐するなんて前代未聞ですよ……」

「運が良かっただけですって」

 

などと会話してると談話室の扉が開き、ギルドマスターが入ってきた。

 

「お待たせしてすみません」

「全然いいんですけど、何用で?」

「はい、実は……」

 

それは予想してた通り、ダンジョンを探索して欲しいという内容だった。

 

「丁重にお断りさせてもらいます」

「なぜ、でしょうか」

「いや普通Eランクに出来立てのダンジョン探索させます?」

「あぁ、まぁ、そうなりますよね」

 

図星を突かれて完全に黙ってしまった。勝ったな。

 

「でも上位のアルラウネを討伐してますよね……」

「ルシルさんちょっと静かに」

 

お口にチャックというジェスチャーをして、ギルドマスターの方に向き直す。

 

「アルラウネは運が良かったんですよね、なんか、その、相手が、その、あれだったんですよ!」

「嘘苦手なんですね……」

「ルシルさん一回口閉じて?」

 

彼女にもう一度同じジェスチャーをしながら続ける。

 

「仮に上位のアルラウネを倒してたとしても実力不足なんじゃねえかなぁと」

「確かに、トウコ様はEランクでしたね」

「そうでしょうそうでしょう?」

「私も長年ギルドマスターをやっておりますが、アルラウネをひっこ抜くという野蛮な戦い方のEランク冒険者は見たことがありません」

 

思わず手が出そうになったのを必死に抑える。せめて勇敢な戦い方だと言え。

 

「アタシより強い人はたくさんいるでしょうから、まずそちらの方々に頼んでみては?」

「皆首を横に振ってしまって、なんとかルシル様だけでも呼び出せたのが幸いです」

「呼ばれた以上断るのも気が引けますし……それに新しい素材が手に入るとワクワクして……」

 

楽しそうでなにより。

ルシルさんの服は何気にお世話になっているので、また新作が出るのはちょっと楽しみではある。

 

「いやでも、出現場所は禁域の森ですよね? さすがに──」

 

そこで言葉が止まった。

よくよく考えてみれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──アッ」

 

待ってこれ完全にはアタシのせいだ。アタシが魔物をぶっ飛ばしちゃったからそこから魔素が出てダンジョンができちゃったんだ。

 

「あの、さっきの話無かったことにしていいですか?」

「それはつまり、引き受けてくださると?」

「はい、なんか急に責任感じてしまって、その、報酬とかいいんで、処理したいんですよね、あの」

 

自分のせいでダンジョンができて街に迷惑をかける前に証拠隠滅しなければ、アタシのせいだって言われる前にやらなきゃ。

 

『ほら言った通りになったでしょう?』

 

直感が当たって嬉しかったのか、ウィンドウの角で頬を突いてきたアヴェルアをはたき落とす。

 

「トウコ様、どうかしましたか?」

「え? あぁ虫が飛んでたもんで」

 

大人しくしててくれという目線を向けるが、当の本人は“暴力反対!”と訴えてくる。

 

「本当に助かります! ルシル様も急に呼び立てて本当申し訳ないです」

「いいんですよ……ボクも素材欲しかったですし……それに……」

 

こっちを見てにへらと笑う。まずいバレたか?

 

「誰かと一緒に組むなんて初めてで……」

「ごめん」

「えぇ……?」

 

疑ったアタシが悪かった、君はなにも悪くない。

 

「そうと決まれば早速、場所などの情報をお話ししましょう」

 

ギルドマスターが地図を取り出し、大方の場所を教えてくれた。

皮肉にもそこは、アタシが最初に目覚めた湖の近くだ。

 

「というかよく禁域の森にダンジョンが出たって気づきましたよね」

「あぁそれは神父様が教えてくださって」

「神父?」

 

どうやらこの街には教会があるらしく、なんでもその神父の報告によって気づいたそうだ。

 

「神父様は“千里眼“と呼ばれる魔眼の持ち主で……幾度もこの街を救ってくださいました……」

「へえ、すごい人なんですね」

「そうなんですよ、もし時間があれば会いに行ってみたらどうでしょうか?」

「ははは、考えときます」

 

宗教系はよくわからんのだなと考えてるうちにダンジョンに行く手配は進んでいた。

 

 

 


 

夜は悲観的になりやすい

 


 

 

 

禁域の森に入った頃には日も傾きはじめて、うっすらと橙色が木々の間から覗いていた。

もう時期夜になる、そうなれば魔物も活発化する。

 

「今日はここら辺で野宿でもしますか?」

「そうしましょうか……」

 

両手に持っていた大きな鞄を地面に置いた瞬間、ドシンッ! と音を立て地面が凹む。

 

「なにが入ってるんですかそれ」

「え……? なにってキャンプ道具に……魔物避けのお香……料理器具……それと寝巻きなどですが……」

「重くないんですか?」

「……ちょっとだけです……」

 

重たいんだなぁ、顔が辛そうだったもん。

なんとかしてあげられないかと顎に手を置いた途端。

 

ガサガサッ、と前方の茂みの方から何かが飛び出る。

 

「早速魔物のお出ましか」

「森に近くなればなるほど魔物が出てきやすくなりますからねぇ……」

 

飛び出してきたのは1体の魔物。鶏の頭部と蛇の尾、黄色い羽毛を持つ怪鳥、コカトリスが現れた。

 

『識別名:コカトリス Cクラスの魔物ですね 残念なことに通常個体ですが』

 

いいことだろ、と心の中で突っ込みながら戦闘体勢を取る。

こちらの方を見て、突然コカトリスが鳴く。

 

「……!? 下がって……!」

「エッ、ゥエー!?」

 

細い腕からは想像つかないほどに強い力で引っ張られ、そのまま後方に投げ捨てられる。

 

直後。羽ばたく音が空から聞こえ、数十体のコカトリスがルシルさんの前に降り立った。

 

「仲間を呼ぶなんて賢いですね……」

 

そう言いながらルシルさんは背負っていた武器を取り出す。

1.5メートルほどのハンマーで鈍色に輝き槌の部分に魔法陣が刻み込まれており、柄の部分には小さなレバーがあり、先端に紅い宝石が埋め込まれ、ほのかに赤く光っていた。

 

新作のお試し……今かも……

 

静かに呟き柄の部分を握りしめ、地面を蹴り上げた瞬間。

バコンッ! と大きな音と同時に土煙が舞った。

 

敵との距離はおおよそ20メートルあったが、その隙間を一瞬で詰めていく。

反応に出遅れたコカトリスが翼を広げたが、遅い。

 

「……ッ!!!」

 

一撃。たった一振りで3()()()()()()()()()()()()()()()

魔法ではない、スキルでもない。()()()()()()()()()

 

小さな身体ながら自身の身体の軸をうまく使いこなし、どこに重心を置くかで効率的に素早く魔物を狩っている。

 

あれ……5体くらい持っていくつもりだったのに……ちょっと緊張してるんだ……

 

深呼吸をする暇もなく、猛攻が降り注ぐ。

だが一つ一つを丁寧に対処し、全て跳ね返す。

 

ダメダメ……うまく立ち回らなきゃ……! 先輩らしいとこ見せてかっこいいって思ってもらいたい……!

 

バコンッ! と再び土煙が上がる。

それに合わせてコカトリス達も動き出すがやはり遅い。

 

一つ、二つ、三つと首を跳ね飛ばしていき、背後を垂れたら肘で殴りよろめいた所に重い一撃を叩き込む。

囲まれたならすぐに離脱して、外側から押し込み潰す。

視覚外から飛んできても音と反射だけで躱し、持ち方を変えて急所を狙う。

 

その戦闘はまるで、優雅に踊っているようだ。

動きに一切の無駄はなく、入り込む隙もなく、ただ淡々と確実に、獲物の命を刈り取る。

(まさ)しく理想的な戦い方。

数十体いたはずのコカトリスはあっという間に、1体だけになった。

 

「コ、コケー!!!」

 

コカトリスが悲痛の叫びを上げる、そして逃げ出そうと彼女に背を向けた。

 

「逃がさないよ……!」

 

小さなレバーを下ろした瞬間、白い煙が噴いたと同時に()()()()()

鎖で結ばれたいたそれは、モーニングスターのように回転し投げ飛ばされ、コカトリスの首に巻き付いた。

 

「ふんッ……!」

 

鉄と肉が擦り合う音が、ゆっくりと静かに響き、ビチリッと音がなった。

 

「ケ──────」

 

小さく鳴いた瞬間、鮮血の花が咲いた。

 

「…………えへへ……ちょっと手間取っちゃいましたね」

「嘘つき!!! 戦闘苦手なんて嘘じゃん!!!」

「ほ……ほんとですって……ちゃんと戦えてなかったですし……まだこの武器の本領発揮もしてないです……」

「それでCランクは嘘でしょ」

「そんなぁ……ボクなんてまだまだですよ……」

 

恥ずかしそうに身体をくねらせる。

 

「あ……もうこんな時間……今日はここでご飯にしましょうか……」

「この流れでご飯!? 嘘でしょ!?」

「コカトリス美味しいですよ……」

「マジすかなんでもやります」

 

食欲には逆らえない。

 

「ではまずは……」

 

夕食準備のため、野営の準備とコカトリスの遺体処理を始めた。

 

 

 


 

 

 

準備を終え、遺体も必要な物以外は燃やして終わったことには、ちょうど月が顔を出してきた。

 

「ルシルさん、追加の薪集めてきました」

「ありがとうございます……こちらも下準備が終わったんで後焼くだけですね……」

 

小さなランプを頼りに鞄の中を漁り、フライパンを取り出す。

少しだけ油を引き、肉を焼き始める。

 

「しばらくかかるのでちょっと待ってくださいね……」

 

夜の森に肉の音と匂いが漂う。

特に話すことがなく、静かに時間が過ぎる。

 

気まずい。

人と過ごすのは久しぶりのような気がして、何を話せばわからない。

大体いつもはアヴェルアと話してたので余計にわからん。

 

「ええと、ルシルさんのさっきの戦い方、かっこよかったですよ」

「ふぇえ……!? あ……ありがとうございます……」

 

照れくさそうに頬を染めた。

 

「まだまだ調整が必要ですけど……うまくいってよかったなぁ……」

「ちなみにあれどういう原理で?」

「はい……あのハンマーは槌の部分が取り外せることによって攻撃範囲を伸ばすことができるんです……柄をこうやって回すことによって仕込んだ鎖が出てくる仕組みでおおよそ1メートルくらい伸びます……魔物の首に巻きつけてそのまま捩じ切ることができますしこの赤い宝石は炎魔法を発動させることができる特殊な石で発動したりと……」

 

ハッと、気づき口を塞いだ。

 

「すみません……また長々と語ってしまいました……」

「全然いいですよ、聞いてて楽しいですし」

「そうですか……? それはよかった……」

 

ほっとして、焼いた肉を渡してくれた。

 

「熱いのでゆっくりどうぞ……」

「ありがとうございます」

 

口いっぱいに詰め込み、そのまま飲み込む。

やっぱり肉はいい、でもちょっと物足りない感。

 

「すみません、おかわりいいですか」

「いいですよ……いっぱいありますから……」

 

たくさんあったコカトリスの肉は、あっという間になくなっていた。

アヴェルアに“ルシルさんの分も残してください“と怒られたのは秘密。

 

夕食を終え、焚き火の炎を眺めていた。

誰かとご飯を食べるのは久々で、なんだか楽しかった。

 

「………………」

 

前世のアタシって家族とか、

思い出したくない

 

頭痛がして、無意識に手首を掻いていた。

 

「そういえば……トウコさんっていったいどこからきたんですか……?」

「うーん、記憶喪失だからわかんないっすね」

 

木々の揺れる音、遠くで魔物の鳴き声、一瞬全て止まったかと思うと、次に入ってきたのはルシルさんの声だった。

 

「きききき……記憶喪失……!? 大変じゃないですか……!?」

「いや別に、困ったことは特にないんですよ」

「そんな……大事な思い出とか……大切な誰かのこととか……忘れてしまったんですか……?」

「そんなものはなかった、気がする」

 

冷たく突き放すように、言ってしまった。

 

思い出そうとするたび頭が痛くなるし吐き気がしてくる、身体中が震え出して止まらなくなるし手首の周りを掻きむしりたくなる。

 

「──まあ、その、色々と」

 

ギュッと、抱きしめられた。

 

「その……思い出させるようなことをしてしまって……すみません……」

 

また強く抱きしめてきた。

 

「祖母も……ボクが辛そうな時はこうやって頭を撫でてくれたんです……誰かが泣いてる時は……その優しさを分けてあげたら悲しみも少しずつ溶けていくって……」

 

そう言いながらルシルさんは優しく頭を撫でてくれた。

あぁ、この人は本当に優しいな。

 

まるで──────

 

「……その、離してくれませんかね?」

「あ……すみません……!」

 

成人女性が成人女性に抱きしめられて頭撫でられるって意外と恥ずかしいんだな。

 

「すみません……! 大変失礼なことを……!」

「いやこっちこそ、その」

 

また気まずくなってきた。

 

「あー先寝といてください、見張しとくんで」

「ええと……じゃあお先に……時間になったら起こしてください……」

 

おやすみなさい、とルシルさんがテントの中に消えた。

 

焚き火に薪を焚べる。

パチパチと音を立て、火の粉が舞う。

 

「………………………………」

 

あんな風に撫でられるのは、本当に久しぶりな気がした。

 

『トウコ』

「うおびびった、いたのかよアヴェルア」

『……ふふっ よかったですね』

「あ? 何が?」

『なんでもないですよ』

 

なんだこいつ、とまた焚き火に薪を焚べた。

 

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