竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
誰かに言われた。
でも何も感じなかった。
誰かに頭を撫でられた。
でも何も感じなかった。
誰かに抱きしめられた。
でも何も感じたくなかった。
「それでもわたしはおかあさんのこだよ」
そう言い返した。
誰かは泣いた。次の瞬間死体が転がっていた。
「お父さんと居ても何もいい事なんてない」
そう手を払った。
誰かに殴られた。次の瞬間死体が転がっていた。
「ワタシは君のことが大嫌い」
そう別れを告げた
誰かは手を握り返した。次の瞬間目の前に死体が転がっていた。
────全部ワタシのせいだ。だから、
飛び跳ねるように起きた。
頭がぐらぐらする、胸が息詰まるような感覚で、胃酸が喉元まで出かかって吐きそうになったのを抑える。
気がついたら寝落ちしていたみたいだった。
お香のおかげで魔物は近づいて来なかったのが幸いか。
「……う」
嫌な夢、だった。
胸の奥を掻きむしられるような、じっとりと背中に張り付くような、気持ち悪いような、そんな夢。
「トウコさん……?」
不意に背後からルシルさんが声をかけてきた。
「大丈夫ですか……? ずっとうなされてたみたいで……」
テントの外でルシルさんは膝を伸ばした状態で座っていた。
「あぁ、ちょっと、ね」
ようやくして今が朝だと気づいた。
夏のような暑さはないが、コートを脱いだ。
「少しだけ走ってきますね」
「本当に……大丈夫ですか……?」
「うん、大丈夫。走ってきたらすぐ戻りますから」
笑顔でその場を去った。
嘘は、ついていないつもりだ。
少し走ったら頭は冷えるだろうし、大丈夫。
そう何度も頭の中で復唱する。
あの夢は、知らない。覚えてるはずがない。
目の前の死体は知らない死体、耳元で囁いてた声は知らない声。
全部アタシの妄想だ、昨日は疲れてたから余計に。
「アヴェルア、
目の前の空間が歪む、手を突っ込み
3キロあった塊は全部、腹の中へと消えていった。
『トウコ』
「……何」
『戻りましょう ルシルさんが待ってますよ』
「わかってる」
アタシの頭は、いつもの思考に戻っていた。
朝飯を済ませ、目的地の場所まで特に会話もなく進んでいた。
「朝ご飯……美味しくなかったですか……?」
「ん!? そんなことないですよ、ちょっとまだ、眠くて」
「そうですか……」
言えねえ、
朝食の時も無言で気まずかった。
いまだに距離感が分からなくて何を話せばいいかわからない。
「ルシルさん」
「はい……なんでしょう……?」
「なんか話して」
「そんな無茶振り振られても……」
腕を組んで空を見上げた。
「
「初耳、それ聞かせて」
『もっと聞くことあるでしょ……』
ツッコミはさておき。
ルシルさんが言った通り、ダンジョンにも2種類がある。
魔素によってできるダンジョンと竜の遺体から作られたダンジョン。
今回行くところは魔素によってできるダンジョン。EからSまでの冒険者が自由に入れる。
レベルが低いダンジョンなどは、冒険者の鍛錬用にと残すこともあるとかないとか。
竜の遺体で作られたダンジョンは特定ダンジョンとされAからSランクしか入れない、場合によっては国の騎士団が調査に当たることも。
そもそも数自体が少なく、一生に一度入れたらラッキーレベル。その上、一度入ったら覚悟を決めて進まなければならない。
多くの冒険家が挑んで帰ったものは片手で数える程度、しかも帰ったところで全員不審死を遂げてしまい結局謎のまま。
まあ、なんもわからんまま現在に残り続けているそうだ。
「それと……ダンジョンの最深部に
「じゃあ無理に魔物と戦わなくていいんだ」
「そうです……危なくなったら逃げましょう……」
それがいいと頷く。後ろのウィンドウはブーイングの嵐だが無視して歩いていく。
ようやくして目的地の場所に着くと、それらしきものが見えてきた。
「ダンジョンって洞窟みたいなのを想像してたんだけど、なんか扉付いてんな」
洞窟の入り口らしき場所に鉄製の扉がついて、隙間から黒い霧のようなものが漏れ出し、中からは何かの鳴き声が聞こえてくる。
「魔素の質によって発生するダンジョンの形が変わるんです……質がよけれが良いほど攻略難易度の高いダンジョンが出現します……今回のは……」
ルシルさんは扉に近づき、少しだけ中を覗いてすぐ閉じた。
「なに? どうしたの?」
「今回の……ちょっとやばいかも……」
「よし帰る」
「まってまってまって……帰らないで……」
ガッチリと腕を掴まれ引っ張られる、腕が引きちぎれそうだったので抵抗はやめた。
「冗談ですよ〜、一応アタシの責任だし……」
「……?」
「なんでもないですよ、ところでこのダンジョンなにがやばいんです?」
「あー……どこから説明するのがいいのかな……うーん……」
腕を組みながら数秒ほど悩み、口を開いた。
「このダンジョン……あちらこちらに呪いが充満してるんですよね……」
『早急に破壊しましょう』
横で聞いていたアヴェルアが割り込むように口を挟む。
『呪いは低脳のカスの雑魚が扱う下劣な術です自分の実力じゃ勝てないからって他人を呪うことしかできない無能のやり口ですもう万死です殺しましょう』
「落ち着け」
「……?」
「ごめん違うのルシルさん、貴方はそのままでいて」
「……???」
人に見えてないってクッソめんどくせえな。
なんとかアヴェルアを落ち着かせながら再度説明を聞いた。
どうやらこのダンジョンは魔素の量が他に比べて多く、アタシが倒した分を含めても
何者かが一箇所に数百の死体をかき集めて無理やりダンジョンを発生、さらにダンジョン自体に弱体化の魔法がかかっていると。
「どうしましょう……一度戻って応援を呼びますか……?」
「いやこのまま入る」
「え………………?」
取ってに手をかけ、重たい扉をこじ開ける。
「要は中にある
「そ……そんな簡単じゃないんですって……! あぁまってトウコさぁーん……!」
黒い霧が渦巻くダンジョンに、アタシ達は足を踏み入れた。
石畳の廊下を警戒しながら進んでいく。
相変わらず黒い霧が立ち込めて視界は悪く、10メートル先はなにも見えない。
『かなり出力を抑えられてます この魔法考えたやつ絶対ろくな奴じゃないですよ 見つけたらぶん殴ってやりたいです』
アヴェルアも弱体化をくらってるのか相当苛立っている。
「まあ罠がないのが救いか」
「この呪い自体罠のようなものなんですが……」
「そうだけども、と」
数十体のゴブリン達が道を塞いでいる、だが様子がいつもと違う。
目は虚ろで口から涎を垂らし、全身に黒い痣が浮き出て、生きているというよりは無理やり歩かされているような印象。
『うーわ』
心底嫌そうな声でアヴェルアが話し出す。
『無理です超無理 絶対無理』
「どうした急に」
『呪われたゴブリンとか私絶対嫌ですあいつら爆発しますもん』
「爆発!?」
びくりっ、と少し後ろにいたルシルさんが肩を震わす。
「あ……あのゴブリン爆発するんです……?」
「なんか、するっぽい」
「えぇ……」
今にも泣き出しそうな顔で見つめてきた。そんな目で見るな。
「とりあえずアタシが先行してぶん殴ってきます」
「やめた方がいいですって……! 爆発するんでしょう……!? 死んじゃいますよぉ……!」
「平気平気、実際には殴らないので」
「……?」
少し離れといてと伝え、位置につく。
| スキル: |
白銀の炎が廊下一面に放たれ、ゴブリン達は跡形もなく灰も残さず消え去った。
「ほらゲホッッ、オエ……」
喉が焼けてむせ返る。
たまに使いすぎるとむせること忘れてた。
「これで進めますね、ケホッ」
「あわわ……大丈夫ですか……? 相当威力が強い炎魔法でしたけど……」
「え? うん、喉が焼けてちょっと痛いだけ」
「ひぇえ……!?」
慌てた様子で鞄からポーションを取り出し渡してきた。
「早く飲んで下さい……! 飲み終わったら回復魔法で重点的に喉を……!」
「ポーションだけで十分ですよ」
「だだだダメです……! とりあえず飲んで……」
「ケケケ!」
20メートル先に不気味な笑い声がする。
音の方へと目を向けると黒い炎が飛んでいた。
「ニンゲン!」「キャハハ!」「アソボ!」「モエチャエ!」「コロセ!」
子供のように笑いながら分裂し、ゆっくりと近づいてくる。
「火の玉?」
『識別名:ミノヒ Dクラスの魔物ですが呪いによって炎が強化されています 主に温度は1000度を超えてます』
「うへぇ」
「わわ……一旦ここは下がりま──」
直後。ビュンッ、と一体のミノヒが弾丸のようにルシルさんに向かって突進し出す。
| スキル: |
反射的にスキルを発動させ、ルシルさんを抱き寄せる。
飛んできた炎は頭に直撃。ドッ! と笑い声がダンジョン内に響き渡る。
「──へ……?」
何が起きたかわからない様子で、アタシの顔を見て頬を染めた。
「トウコさん……今当たっ……」
「ちょっと後ろに下がってて、あいつらぶっ殺してくる」
「え……はい……」
彼女を後ろに行かせ、頭をかきながらミノヒに向かって歩き出す。
「ナンダコイツ」「モエテナイ」「コワイ」「ヤダ」「チカヨルナ」
地面を蹴って空間を切り裂くように疾走する。
一つを捕まえて潰す。
「コイツオカ────」
一つ、また一つと、丁寧に、念入りに、目の前で消していく。
「アァ、アアア!」
最後の一体に手を伸ばすが、あっさり躱され逃げ出していく。
「!」
逃げ出したミノヒはルシルさんの元まで飛んでいく。
「オマエ! クウ! モヤス! ソシテシネ!」
──この距離だと、走っても間に合わない。
| スキル: “ |
スキルの内容を少しだけ変える。
大声だけでは使い勝手が悪い、だから便利なように変えるだけ。
「
炎が膨れ上がり苦痛の表情を浮かべ、言葉の通りミノヒが燃え尽きた。
「……あ、ルシルさん大丈夫か!?」
茫然とその光景を眺めてた彼女に近づいた途端。
どふっ、とその豊満な胸で出迎えられた。
「ばかばかばかばか……! 何してるんですか危ないじゃないですかぁ……!」
「待って、窒息死する」
ハッと気づきすぐに離れてくれた。
「死ぬところだった……」
「こっちの台詞です……! ミノヒに向かって飛び込むなんてばかなんですか……! うわあぁあん……!」
「泣かないでって、悪かったよ」
『知性が低い戦い方で毎回ヒヤヒヤします』
アヴェルアを叩き落とすと“アギャ!”と鳴いて地面に伏せた。
「とりあえずポーションを飲んでください……! 重ねがけで回復魔法もするのでそこに座って……!」
『その意気ですルシルさん やっちゃってください』
ルシルさんの背後に張り付くように騒ぐアヴェルアをうっとしく思いながら、過剰に回復したおかげで体の疲れが吹っ飛んだ。
「もうこれ以上危ないことしないでください……! ボクの寿命が保ちませんから……!」
「わ、わかりましたので、そんな」
「何もわかってないです……! アルラウネの時もそうやって戦ってんたんですか……!」
「はははっ」
「何笑ってるんですかぁ〜……!」
ポカポカと殴られ、優しく抱きしめられた。
「うぅう……」
「以後気をつけるんで、ほら泣かないでくださいよ」
「うぎゅうぅぅ…………」
「うお汚っ」
鼻水でベトベトになった顔を拭いて、落ち着かせるまで二人で休んだ。
休んだ後もダンジョン内を進んでいったのだが、
「ふんッッッ…………!!!」
なんか昨日の三倍くらいの力で敵をぶっ飛ばしてて怖いんだけど。
「ルシルさん? まだ怒ってます?」
「……怒ってません」
怒ってる。言葉にキレがあるもん。
「汚いって言ったのは、その、すみません」
「そこに関して怒ってるわけではないんです……!」
頬を膨らませながらハンマーを持ち直し、次なる獲物に向けて振りかざす。
「トウコさんはもう少し自分の身体を大事にしてください……!」
『そうだそうだ』
見えていないからってアヴェルアがルシルさんの周りをぐるぐるし出す、鬱陶しいからやめろと睨むがお構いなしに続けた。
「ただでさえ呪いで弱体化食らっているのになんでそんな……に……」
突然歩みを止め、ハンマーを持ち上げる。
「……おかしい……さっきまでうまく動けなかったのに外にいるような感じで動ける……」
前方から襲いかかってきたゴブリンに向かってフルスイング。
血肉が飛び散り、壁は振った衝撃によってヒビが入る。
「弱体化の効果が薄れてる……?」
「え? なんで?」
「なぜ……でしょう……?」
『スキル:
「えっそうなんだ」
「なにがです……?」
「なんか黒い霧が晴れたから弱体化が薄れたっぽいです」
「へえ……じゃあ安心なのかな……」
「安心ですね」
『よかったですね』
……よかったのか? と時間が経ってから思ったがルシルさんも納得してるのでこれ以上ことを大きくしないように、そういうことにした。
その後も立ち塞がる魔物全て二人で葬り去っていき、魔法陣が描かれた扉に辿り着く。
「ここが最深部?」
「おそらくは……」
扉のとってに手を伸ばすが、びくともしない。
「開かねえ、壊すか」
「……ちょっといいですか……」
そう言って彼女は扉に近づき、魔法陣に触れる。
「──────」
数秒だけ魔法陣を見つめ続けると、バキッと魔法陣が割れ、ゆっくりと扉が開いた。
「すげー!? なん……」
ルシルさんを見ると、肩で息をし、呼吸を荒げ、心臓を抑えていた。
唾を飲み、頭を押さえて必死に何かを呟いている。
「大丈夫……まだ使える……まだ見えてる……まだボクは壊れてない……」
呪詛のように唱え、無理やり自分を立たせた。
「…………封印の魔法がかかっていたので…………それを解いた…………だけですので…………いきましょう」
「辛そうだけど、大丈夫? 一回休んでから──」
「魔法陣の解除にちょっと手間取っちゃっただけなので……大丈夫です……」
「──そっか」
彼女がそういうのなら、きっとそうなのだろう。
「最深部です……何があるかわかりませんので気を引き締めていきますよ……」
「オーケー、前線は任せろ」
「無茶言わないでください……ボクが出ます……」
「辛かったらいつでも言ってくださいよ?」
「それはこっちの台詞です……」
重い扉を開けて、最深部へと進んだ。