竜使い《ドラゴントレーナー》は静かに暮らしたい。 作:ニャル太郎
神殿のような広い場所に出た。
20本もある柱、いくつか壊れた石像が捨てられており、その奥に大きな扉が佇んでいる。
「なんもいない?」
「今回は運がいいのかも……! やったぁ……!」
「ヤッタァ!」
『やった! こうやって気を抜いてる時に上から降って来そうですね』
やめろ縁起でもないこというの、怖いだろ。
「一応警戒しながら奥の扉に進みますか」
「そうですね……」
アタシが殿、アヴェルアが真ん中、ルシルさんが前を担当して進むことにした。
入ってきた扉と奥の扉の距離はおおよそ50メートル。
遮蔽物は積み上がった瓦礫の山くらい、透視で裏を確認したが誰もいない。
「案外楽勝でしたね」
「気を抜かないでください……こういう瞬間が一番──」
ピタッ、とルシルさんの肩に水滴が落ちる。
多少なり湿った空気は流れているが、天井に穴は空いていないはず。
じゃあ、一体何が?
彼女はゆっくりと首を上げて、
「──あ」
「逃げます……!!!」
「えっ、うぇえ!?」
腕を掴まれ、瓦礫の山まで突っ走る。
状況は読み込めない、だけどルシルさんが叫ぶほどの魔物が潜んでいたのだろう。
瓦礫の裏に隠れたのと同時に、何かが降りてきた。
長いものを引きずるような音がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「な、何が」
「みちゃだめ……!」
「うわ!? 待ってルシルさん眼鏡が食い──」
──直後、吹っ飛んだ。
瓦礫と共に投げ出される。
その衝撃で、眼鏡が投げ出された。
爆発のように思えたが熱は感じなかった、となると遮蔽物に向かって何かを叩きつけてきたと考える。
「いっ、一体、何が」
「開けないで……! 開けたら死んじゃう……!」
言われた通り目を伏せながら、立ち上がる
今対峙してるものはおそらく目が合ったら死ぬタイプの敵。
頭の中でその情報と一致する敵は一人だけだ。
『識別名:メデューサ! Sクラスの魔物です! 全長8メートル! しかも呪いで魔眼が強化されてさらに雷魔法を扱ってきます!』
なんかアタシが知ってるメデューサと違う、君もっと小さくなかった?
「ルシルさん逃げましょう! 今回は無理です! アタシ死にたくないッ!」
「ボクもそう思います……! 戻ったらギルドマスターに文句言ってやるぅ……!」
泣き言をこぼしながら二人で逃げる。
「……! 危ない……っ!」
「ウオォアア!?」
突然ルシルさんに押され、柱のところまでに吹っ飛んだ。
その直後、爆発音が響き渡る。
「いった、何急に──」
顔を上げると、倒れてるルシルさんがいた。
左肩に傷を負い、皮膚は焦げており、赤黒い血が絶えず流れている。
──ルシルさんが死んだ。
アタシのせいで死んだ。アタシなんかを庇って死んだ。
頭の中が真っ白になる。
胃酸が込み上げてきた、頭痛がする、目眩が襲う。
ノイズが走った。砂嵐が脳裏を包む。
部屋で女性が倒れてる。目は空でアタシを睨んでいた
横断歩道で男性が轢かれた。死ぬ直前に絶対に逃さないと言われた気がする。
学校裏で逆さの誰かと目が合う。また会おうねと言っていた。
誰が目の前で死ぬ、いつもの光景だ、だから何を怖がるのだろうか。
慣れて仕舞えば全ては同じ、死んだら同じ、だから、
『まだ死んでません』
静かにアヴェルアは告げた。
「────どういうこと」
『よく見てください 左肩を損傷していますが防御魔法のおかげで致命傷は免れてます 意識はありませんが呼吸も鼓動もしてます だからまだ』
「なら話は早い」
目の前の障害をぶち殺すだけだ、と思考を切り替える。
半分人間の姿、半分蛇の姿。
青銅の腕に黄金の翼、髪の毛一本一本全てが蛇。
それと目が合ったは全て、石に変えられてしまう。
それがメデューサ。
何かの
目さえ合わなければいい、というわけにもいかない。
メデューサの方を見るとルシルさんを掴もうと手を伸ばしていた。
「って、考えながら行動しろバカ!」
自分に言い聞かせながら地面を蹴り上げる。
| スキル: |
左手に力を込めて一気に切り裂く。
斬られた部位から鮮血がながら、痛みに耐えきれずメデューサは悲痛の叫びを上げた。
「っるせえぞボケカス、ルシルさん起きるだろうが」
彼女を抱いて柱の近くまで一気に走る。
怒り狂ったメデューサはこちらに向かって雷を飛ばしてくるが、全て爪で弾き返す。
「!」
一瞬だけ目が合いそうになったのを無理矢理首を動かして視線をずらすが、反動でバランスを崩して倒れ込む。
その隙を待っていたかのように青銅の腕を伸ばしてきた。
| スキル: |
「
メデューサの動きが止まった。
しかし完全に止まったわけではなく、わずかに指先を動かしこちらの目を覗こうと首を少しずつ動かしている。
「クソ、格上になってくると効きづらくなってんのか」
だがルシルさんを安全な場所に運べた。
柱の裏に彼女を寝かせ、メデューサを見る。
ちょうど拘束が解けたタイミングで、こちらに目を向ける。
目を瞑って、軽く深呼吸をした。
「案内よろしく
『言われなくとも』
轟ッッッ!!! と走り出して目標に向かって突っ込む。
それを合図にバチバチッ、と音が聞こえてきた。
『雷を二本飛ばしてきます 感覚で避けてください』
軽く舌打ちをしながらも、地面を蹴り上げ体を回転しながら躱す。
肩と背中を通り抜け、後ろの壁が爆発した。
『そのまままっすぐ 距離にして15メートルです』
素早く風を切るように雷の雨を躱し、弾いて食って、手が届く距離まで詰めた。
『尻尾で叩いてきます!』
丸太のように太い尻尾を叩きつけてくるが、片手で受け止めてみせる。
全力の叩きつけを止められた顔が見れないのがちと残念。
『驚いてますよ! こいつ人間かって!』
「ははっ! そいつぁ面白え!」
尻尾を引っ張り、力任せに振り回し、地面に思いっきり叩きつける。
地面に埋まった身体に乗り、手探りで顔を探す。
瞑っているのでわからないが美人なのだろう、骨格がそう物語っている。
「さてアタシは人の顔を殴ったことがないので加減とか知らないけど、大丈夫だよな?」
ゆっくりと首を掴まれるが抵抗虚しく振り解き、その腕を折った。
小さく悲鳴をあげる口を塞ぎ、拳を突き上げる。
「テメェはルシルさんを傷つけたんだ、それ相当の対価は払ってもらうぜ」
頭上でバチバチッと響き、落雷。
一本の雷がアタシの背中に降り注ぐのを感じ、背中を反らし口で掴んだ。
「んー、甘いぜこれ」
『そりゃSランクですもん 質がいいんですよ』
「はえー」
ごくん、と飲み干し、ご馳走様と両手を合わせる。
「それじゃ、来世はいい人生歩めよ」
拳を強く握り、メデューサの顔面向けて渾身の
『お疲れ様です Sランクのメデューサを討伐しました!』
「ふう、やっと目が開けられうわ穴空いてる怖」
『自分で開けたのになんか自分でビビってる怖』
巨体から降りて、汚れなどをはたき落とす。
「あーせっかくの白コートがぁ」
『いーけないんだいけないんだールーシルさんに言ってやろー』
「お前人に見えねえだろうが」
『その気になれば他人の視界に干渉して見せることもできるんですよ』
「何それ怖い」
『虚構に話しかけてる方がよっぽど怖いでしょうが』
小言を言い合うほどの元気はあるが、どっと疲れが降って来る。
「さっさとルシルさん手当てして、依頼達成といき──」
メデューサの方を見ると、糸で吊るされたように立っていた。
心臓の部分が膨れ上がり、黒い膿が顔を出す。
風船のように割れ、黒い液体が全身を覆う。
苦痛、絶望、恐怖、負の感情が全てこもった叫びを上げて暴れ出したかと思うと、何事もなかったかのようにその場に佇んでいた。
切り落としたはずの右手は四つに増え、折ったはずの左手は異形の頭に成り果てる。
顔の穴は埋まったはずなのに、ずっと真っ暗で目もないのにこちらの顔を窺って、笑ったような気がした。
「な、なにあ──」
『下がってトウコ! あれは■■■』
アヴェルアが言い終わる前に、アタシは捕まっていた。
「────」
見えなかった、速いなんてレベルじゃない。
そもそもこいつは動いてもいないように見えていた。
当たり前にそこにいて、当たり前にアタシの首を掴み、当たり前にアタシの頭を撫でている。
不気味なのは
「ア──」
口を開いた瞬間、グニグニとした感触の黒い触手が口の中に入る。
無臭で何も味がしない、ただ不快感だけはあった。
両手はガッチリと握られ、指同士を重ねてくる。
「みつけた」
黒水を吐き出しながら、濁った声で話し出す。
「さがしていた──ようやくみつけた──」
何を言っているかわからないが何かやばい、頭に直接語りかけてきてる。
「うつわ──あのひとの──うつわ──」
もがいても、暴れても、攻撃しても、びくともしない。
「かえろう──かえろう──もといたばしょに──」
スキルが使えない、アヴェルアを呼んでも出てこない。
「だいじょぶ──こわいのはすこしだけ──」
腹が開く、大きな口に見立ててゆっくりと開く。
暗く、冷たい、夜のような穴がずっと続いている。
招くように無数の黒い手が伸びて、品定めするように身体を触ってくる。
逃げろと本能が叫んでいるのに、身体が動かない。
「さあおいで──」
腕を掴まれ引き摺り込まれる、その瞬間。
黒いメデューサから少し離れた位置に見覚えのある人物が立っていた。
「 [魔眼展開] [標準固定] 」
赤く光るその瞳は獲物を殺す眼光。
彼女の周りに黄色と緑の菱形の魔法陣が重なるように展開。
「 [穿つは因果] [断つは繋がり] 」
ザク、と黒いメデューサの全身に光り輝く剣が突き刺さった。
それでもアタシの拘束を解かずに、腹の中へ入れようする。
「 [7つの禁忌にて] [虚無を作りしもの] [今ここに宣言せん] 」
頭上に4つの赤い魔法陣が現れ、囲むように配置。
魔法陣が回転し出し、時計のようにルーンが動く。
「 [我が目の前に立ち塞がる“呪い”を“破壊“しろ] 」
展開、一点に集中された力は目の前の敵を中心を貫き、そこから崩壊が始まる。
悲鳴を上げることなく砕けていき、最後の最後までアタシを掴んだまま離さず跡形もなく消えていった。
「……」
『トウコ!!!』
「ひでびゃ」
突然現れたアヴェルアを顔面で受け止め後ろに倒れる。
「いってェだろうが! お前なんで呼んだのにこないだよ!」
『仕方ないじゃないですか私この状態だと呪い耐性0なんですから!』
「知るかこのポンコツウィンドウが! お前のせいでめちゃめちゃ怖い思いしたんだぞ!」
『私だって頑張りましたもん! 外部から干渉できるように次元構築してハッキングしたんですけどあいつ何重にも呪い抱えていたんですから!』
「うるせえバーカバーカ!」
『バーカはそっちですバーカ!』
「…………………………元気ですね」
死にかけの声で、ルシルさんが口を開いた。
「ルシルさん!? あのこれ、は」
左の肩の手当ては終わっていたが、ひどく疲労して安心した顔で見つめていた。
「えへ……へ……元気なのは……いい……こ……」
力尽きるように倒れるのを済んでの所で抱き寄せた。
「ルシルさん!?」
「へへ……久々に……詠唱しちゃった……」
「何を?! 怖いからそう言うことするのやめて!」
「すみま……せん……」
疲労困憊のルシルさんを休ませながら、アタシたちは見事メデューサと謎の黒いメデューサを撃破したのだ。